お待たせ致しました!
最近はTwitterの日常垢の方で描いてるお絵描きに時間を割いてしまって小説の更新がますます遅れてますね……
それでは本編をどうぞ!
「かぐ男、お待たせー!」
部室棟の扉前で突っ立っていると、制服に着替えたかすみが姿を現した。
俺を待たせていることを気にしていたのか、少し息が上がってるように見える。
だが、そんな中でも服装や髪型が乱れた様子はないので、そこは流石アイドル意識を強く持っていることが伺える。
「パパッと着替えたつもりなんだけど、待った?」
「いや、そんなことないよ? じゃあ行こっか」
かすみは待たせたのではないかと少しだけ不安にしていたが、余計な心配をさせないように返事をする。
そして、帰るように促すとかすみも「おぉー♪」と快活に返事をするのだった。
「いやぁ、にしても今日の練習も疲れたなぁ〜。かすみん、もうお腹ぺこぺこだよぉ」
部室棟を出発し、かすみは疲れた身体をほぐすように両手を空へと向ける。
そして、うーんと身体を伸ばした後、お腹を落ち着かせるようにさする。
そんなかすみを横目に俺は彼女に話そうと思っていた事を切り出した。
「そういえば侑さんから聞いたんだけど、かすみって以前にあの人の前で歌を披露したって本当?」
俺は以前に侑さんが言ってた事を確認する。
『かすみちゃん達の歌を完成させてほしい』
その言葉をきっかけに始めた作曲だが、今では歩夢さんの曲はひとまず形になりつつある。
彼女の人となりに触れた結果、自分でも納得のいくメロディーが浮かんできたので、歩夢さんに曲を渡せる日はそう遠くない。
しかし、かすみの曲はまだ一切手をつけられていなかった。
その理由も至極単純なもので俺自身が中須かすみという人物のことを何も知らなかったが故に手を付けられずにいた。
今までは猫かぶりキャラという印象が強かったために俺が意図せず彼女と距離を開けてしまっていた節があった。
だが、今日のストイックな姿勢とスクールアイドルに対しての考え方はその凝り固まった印象を変えるのには十分だった。
「えっ? まぁ確かに侑先輩には聞かせてたけど、もしかしてあの人が言ってたの?」
「うん、かすみが内に抱えてるものを腐らせるのは勿体ないってあの人がね」
「そっか~! やっぱり侑先輩は見る目があるねぇ~♪ かすみんの事を可愛いって一番言ってくれる人も侑先輩だし、やはりあの時声を掛けたかすみんの目に狂いはなかった……!」
侑さんが話してたことをかすみに聞かせると照れ隠すように身体をくねらせて満更でもない表情をしていた。
上機嫌なかすみの横で俺はふと足を止める。
不思議に思ったかすみは同じように足を止めて、こちらを見つめる。
「かぐ男、どしたの?」
「俺、かすみに謝らなくちゃいけない」
「えっ。なんなのさ、いきなり!?」
唐突な告白にかすみは驚きの声を上げる。
「かすみの事を今までは自分の可愛いを押し付けるわがままな人だと思ってた。でも……今日のかすみを見たら、それは真っ赤な嘘だって思い知らされて……俺はかすみの本質を知らずに勝手にわがままな人ってレッテルを貼って……勝手な価値観でモノを判断してた事が凄く恥ずかしい」
俺は彼女に抱いてたことを正直に口にする。
自分の中でしか考えていないことを誰かの前で、ましてや本人に話すなど俺も随分と質が悪い事をしていると自覚はしている。
だが、一度言葉にすることで自分の気持ちを整理したかったのだ。
「だから……本当にごめん……!」
俺は深々とかすみに対して頭を下げる。
かすみが俺の言葉を聞いてどう返すのかは皆目見当がつかない。
許すか否か、または叱ってくるかそうじゃないか。
彼女の言葉を待っているとかすみが口を開いた。
「かぐ男、そんな事を思ってたんだね」
「あぁ……」
かすみの声色からだと彼女の表情が掴めないため、俺はただ相槌を打つしか出来なかった。
だが、かすみはそんな俺の顔を両手で掴み、自分と目を合わせさせる。
「むっ!!」
「ひぃっ!?」
顔を上げた瞬間に映っていたのはかすみの怒り顔だった。
「かぐ男って全然デリカシー無いね!!」
「……へっ?」
いきなり説教から始まり、俺は状況に追いつけずにいた。
「それってかぐ男が自分の中で思ってた事なんでしょ? それをかすみんに言うってどういうセンスしてるのさ!? そんなの『反省してる自分かっこいい』とか思ってるキザな奴のやることだよ!!」
「えっ……でも、俺は本当に……」
矢継ぎ早に喋るかすみに弁解を挟もうとしたが、その隙すらも与えずかすみは続けていく。
「だったら尚更自分の中だけで整理するか、かすみんのいない所でやりなよ! それを聞いてかすみんが『かぐ男、わざわざ言ってくれるなんて優しいねぇ~♪』とか言うと思った!? そんなのありえないしむしろ聞かされる身からしたら溜まったもんじゃないよ! かぐ男自身が気持ち良くなってるだけでかすみんは全く良い気分にならないからね!?」
彼女の言っていることは正しい。
俺はかすみとの距離を縮めるための口実として、彼女を貶していたことを暴露という横暴に出てしまっていた。
本人としては対等に接してくれていたのに俺は無意識のうちに見下すような形で彼女を見ていたのだ。
そんな扱いをされていたことを知って憤慨しない人間はいない。
そこで『しっかりと反省している輝弥、素敵♪』なんて思う人は相当なバカか自己陶酔が強い人間だろう。
かすみの真っ正直で、尚且つ真っ当な意見に俺は何も言えなかった。
「……そうだね……俺も考えなしだった……」
「全く、かぐ男からそうやって扱われてたなんて本当に心外だよ! しず子とかだったら二度と口を聞かなくなるんじゃない?」
「うっ……そ、そうかも……」
先ほどの失言をしずくさんにしていたら、と思うと同時にかすみからの叱責を彼女からされたらと想像すると俺は悪寒が止まらなかった。
「俺……最低な事をしたな……」
自己嫌悪に陥りうなだれているとかすみが声を掛けてきた。
「……まあ、かぐ男がそう思う気持ちも分かるよ。かすみんもそうやって言われた事あるし」
「えっ?」
かすみの発言を驚いて顔を上げるとかすみは達観したような表情でこちらを見つめ微笑んでいた。
それはこちらへの同情から向けられたものではなく、感傷に浸るような雰囲気を醸し出していた。
「私もね、スクールアイドルを目指すと決めてからこのスタイルを貫いてたんだけど、やっぱり批判されることも少なくなかったの。『自分の事を可愛いって言うなんて、随分と欲しがりだね』なんてことも言われたし」
「そう……だったんだ……」
かすみの過去を聞いて俺はトラウマを呼び起こさせてしまったようで罪悪感が湧いてくる。
だが、かすみは空気を変えるように声色を一段と明るくする。
「でも、そんな言葉は気にしないようにした。だって、欲しいものは欲しがらないと絶対手に入らないから! 自分の心の中だけで留めておくなんてしたら誰の心にも届かないし、しっかりと自分の声で発信することが相手に要求する上で一番の近道だから!」
かすみは目をキラキラと輝かせながら訴えてくる。
前進の仕方を学んだ彼女だからこそ、この言葉はより説得力を増している
目の前ではきはきと語るかすみの姿に俺は心を奪われていた。
「……強いんだね、かすみって」
「えへっ、それも過去があるからこそだよ。昔言われたからこそ今のかすみんのやり方を決定づける事も出来たし、あの言葉らのお陰で挫折することもなくなったんだから!」
かすみは胸を張りながら言い切る。
彼女が俺の想像している以上に苦しい道を歩いていたことを知り、ますます彼女の力になりたいと強く思うことが出来た。
「ありがと、話してくれて」
「ま、まぁ、かぐ男があんな発言をしたからしょうがなくというか……かすみんのこんな話、滅多に聞けないんだから聞いた以上は誰よりも可愛い曲を作ってよね!?」
俺の素直なお礼にかすみは恥ずかしくなったのか、途端に口を篭らせてしまう。
だが、それも束の間恥ずかしさをひた隠すように、ピシッと指を俺に突きつけて一番の曲を作るように釘を刺す。
いつも以上に素直じゃないかすみの姿に俺は貴重な一面を見ることが出来て、つい笑顔がこぼれる。
「……あぁ、かすみの可愛いを全力で引き出してみせるから任せてよ」
「ふん、それなら良し! もうかすみんは帰るからね! じゃあ、また明日!」
かすみはその場にいるのが恥ずかしくなったからか、逃げるように走り去ってしまった。
「誰よりも可愛いを追求するのは、自分の可愛いを否定された経験があるが故……か……」
アニメの一幕に在りそうなセリフを吐きながら、俺はかすみがいなくなった方向を見据えていた。
「……俺も素直にならないと、ちゃんと見てもらえないのかな……」
俺は素を曝け出すのが苦手で、相手から変な風に思われないかを想像してしまいそういった行動が出来ずに萎縮してしまう。
だが、かすみのように自分から行動しなければいつまで経っても弱い自分のままで終わってしまうのもまた事実。
内気な自分を変えるためには、自ら茨の道を進むしかないが今の俺にはその道を歩くための度胸がない。
「ひとまずは、今の俺に出来ることから始めていくしかないか……」
ここで考えても仕方ないと思い、俺は自分の悩みについて区切りをつける。
そして、無性に姉さんのご飯が恋しくなり、急ぎ足で家に帰るのだった。
翌日、放課後になり慎と一緒に部室へ向かった。
「お疲れ様でーす」
「あっ、かーくんに慎くん! お疲れ様!」
「侑さん、お早いですね。お疲れ様です」
今日は侑さんと歩夢さんが一番最初に来ており既に練習着に着替えており準備は万端だった。
「まだ二人だけなんですね?」
「そうだったんだけど……」
慎の発言に歩夢さんは急にこちらをチラチラ見ながら口を籠らせる。
だが、その目はこちらを見ているようには見えなかった。
「ふぅ〜……」
「うわぁぁ!? な、何ですか!?」
「ふふっ、慎くん可愛い声を出すじゃない♪」
慎は耳に寒気を感じたようで耳を塞ぎながら風が吹いてきた方向を振り向いた。
そこには果林さん、エマさん、彼方さんの三年生組が来ていた。
同好会のメンバーではないと思っている慎は果林さんが来ていることに驚きを隠せなかった。
「へっ、なんで果林さんがここにいるんですか?」
「果林さんお疲れ様です」
「輝弥くん、お疲れ様。改めて今日からよろしくね?」
驚いている慎を他所に俺は果林さんと挨拶を交わす。
何も驚く様子を見せずに至っていつも通りの挨拶をする俺を見て、慎は怪訝な眼差しを向ける。
「なんで輝弥はそんなに冷静なんだよ?」
「それは……」
「やっほぉー! 皆さんお疲れ様ですぅー♪」
疑問を抱いている慎に事情を説明しようした矢先、その声を遮るようにかすみが大きな声で挨拶して入室してきた。
そこにはしずくさんと璃奈も居合わせていた。
「あらっ、お疲れ様」
「えっ! なんで果林先輩がいるんですか!?」
かすみの姿を見て果林さんは挨拶を返すが、かすみも先程の慎と同じようなリアクションを取りながら普段はいないであろう人物の姿に驚愕していた。
「まぁ、当然その反応になるわよね。私、スクールアイドル同好会に入部することにしたから」
「えぇぇぇぇ!?」
「ま、マジですか!?」
果林さんの告白に慎とかすみはこれまた息ぴったりと言わんばかりに驚嘆していた。
「一体どういう経緯からそうなったんですか!?」
「ま、色々あったの。ね、エマ?」
「えへへ、そうだね♪」
果林さんはエマさんに目配せをしてエマさんもそれに呼応するように笑顔で返す。
「俺も昨日、急に声を掛けられたからびっくりしたんだよ。ここに来たってことはもう入部届は提出されたんですね?」
「はい、果林さんの入部届は生徒会で受理しましたのでご安心下さい!」
慎に驚かなかった事情を説明した後、果林さんの方へ視線を向け同好会の部員になったことを確認すると返事をしたのは扉の奥から顔を覗かせるせつ菜さんの姿があった。
「にしても、スクールアイドルとモデルさんのお仕事を両立なんて大丈夫ですかぁ〜? 中途半端になったりしたら大変なことになりますよぉ〜?」
ひとまず状況を理解したかすみは目を細めながら果林さんを挑発するように煽る。
仮にも一年生が上級生に対して取っていい態度じゃないだろう、と内心肝を冷やしたが当の果林さんは笑顔で返した。
「ふふっ♪ えぇ、どちらも生半可な気持ちで挑むつもりはないわ? 私のことを一番に見てもらえるように頑張るから指導よろしくね、かすみちゃん?」
「うぐっ、と、当然です! 一番可愛いかすみんがどうしたら果林先輩をもっと可愛くできるか伝授してあげましょう!」
まさかの煽り返しに遭い、一瞬臆するかすみだったがそれに動揺する姿を見せず、すぐに闘志をぶつけてきた。
「ますます強力なライバルが増えてきたなぁ……。負けてられないね、慎?」
「おうさ! こういうのは相手が多い方が燃えるってもんだし賑やかなのもいいじゃねえか!」
新たなライバルの出現に慎は燃え滾っていた。
だが、そんな慎を見て、果林さんは獲物を引っ捕らえるように視線を泳がせた。
「じゃあ、まずは慎くんとかすみちゃんを倒すために……輝弥くん、私のための曲作り、お願いね♪」
満面の笑みで俺に声を掛ける果林さん。
「えぇー!? ちょ、ちょっと抜け駆けはずるいですからね!! かぐ男はまずかすみんの曲から作ってもらうんですから!!」
若輩者に先手を取られて、かすみは焦りの表情を見せる。
だがかすみの曲から、という発言に一番に牙を向けたのは慎だった。
「はぁっ!? 先に俺からだろうが! かすかすは後から作ってもらえよ!」
「うるさいなぁ! 自分から曲のことを喋ってない慎のすけの癖にー!!」
「んだと、お前ぇぇ!!」
「……はぁっ……、相変わらず元気だなぁ……」
果林さんが焚きつけ役として加わってしまい二人の口論が更に加速する様を見て、俺は嫌な予感しかしないな、とただ頭痛を堪えることしか出来なかった。
読んで頂きありがとうございました!
次回からアニガサキ6話、即ち璃奈ちゃんの回に入っていきます!
それでは次回もお楽しみに!