お待たせいたしました!
新章第2話です!
よろしくお願いします!
「あぁ……まだ顔が熱い……」
璃奈のクラスメイト達と遭遇し、俺達男子の存在が同じ学校の女子らの話題の種になっていることを知った俺は先ほどまで受けていた弄りを乗り越えてやっと平常に戻ってきた。
「ごめんね、巴君とこうしてお話しするのには初めてなのに、いきなり失礼な事ばかり言っちゃって」
「……まあ悪口を言われてるわけじゃなくて安心しましたよ……」
色葉さんと言う眼鏡少女は苦笑いを浮かべながら謝罪を入れてくる。
だが、今までこういった経験をしたことが無かったのでそんなに悪い気はしなかった。
むしろ今冷静に考えてみると、恥ずかしかったけれどもこうして自分の事も認知されていることは嬉しい事なのかもしれない。
「そういえば皆さんはどうしてここに来てたんですか?」
「あっ、もしかして次のライブの視察とかですか!?」
サイドテールの少女、今日子さんは話題を俺達が来ていた目的に切り替える。
それを聞いて黄土色の髪の少女、浅希さんは食い気味にライブの準備なのかと予想する。
「いや、私たちはここに遊びに来てただけだよ」
「あっ、そうですか……。他のスクールアイドルの子たちもここでライブをやってたので、てっきり皆さんもそうかと……ごめんなさい、つい早とちりしてしまって、あははっ……」
侑さんが手を振りながら浅希さんの予想を否定する。
早とちりしてしまった事を浅希さんは謝罪するが、心なしか寂しそうな笑顔を向けてくる。
だが、彼女の言葉を聞いて愛さんは後頭部へ両手を持っていきながらあっけらかんと返事をする。
「でも、愛さん達ってまだこういう所でライブしたことないからいっそやっちゃう?」
「えぇー? そ、そんなすぐには出来ないんじゃないかなぁ……?」
歩夢さんが困り顔になりながら指摘するが彼女の言うことは正論だ。
この同好会は未だ全員がライブを出来るようになっていない。
体力的な面は成長しているので身体を動かすという事に関しては心配無用なのだが、問題は楽曲だ。
俺が作曲担当となっている面もあり、全員分の曲をおいそれと用意できないし各メンバーと曲のコンセプトについても打ち合わせが出来ているわけではない。
だが、そういった事情だからこそライブが行えないだけで時が満ちればここでも出来るようになる。
彼女らが早く日の目を浴びれるように俺も精進しなければいけないと思ったその時、隣で璃奈が俯きながら何かを呟いていた。
「……やる……」
「璃奈?」
璃奈が呟いた言葉が聞き取れず、聞き返すと顔を浅希さん達へと向け堂々と宣言した。
「私……ここでライブやりたい!」
なんとジョイポリスでライブをやることを宣言してしまった。
「へっ、璃奈!?」
「天王寺さん、本当!?」
璃奈の唐突な発言に俺達同好会メンバーが驚いている中、色葉さん達はその発言に目を輝かせていた。
「うん。まだ決まってるわけじゃないけど絶対ここでやる」
「わぁー! 決まったら教えて! わたし絶対見に行くから!」
「うん、その時はまた連絡するから待ってて」
「分かった、楽しみにしてるよ! じゃあ私達、VRゲームの予約があるからこの辺で。じゃあね、天王寺さん、巴君!」
今日子さんらは俺達が先ほどまでプレイしていたVRアトラクションの予約時間が迫っていたみたいで軽く頭を下げると入り口の方へ掛けていった。
さらっととんでもないことを言った璃奈に俺はなんと声を掛けようか迷っていた。
すると無表情のままこちらを振り向いた。
「り、璃奈……?」
璃奈の反応を確かめようと名前を呼ぶが、彼女から出てきた言葉は先ほどの威勢の良さからかけ離れた言葉だった。
「……ど、どうしよう」
「えっ、璃奈ちゃん!? いきなり弱気!?」
璃奈の意外な一言に侑さんもつい心配になる。
「つ、つい勢いで言っちゃった……」
「まあ、待ってくれるって言ってくれてたもんねぇ……。応援してくれてる人から言われたら愛さんもつい言っちゃうかも」
「ですが、今からやっぱりやめますなんて事は……」
勢いで答えてしまった事を反省している璃奈に愛さんが優しくフォローをする。
だが、フォローした所で口に出してしまった事はそうそう曲げる事は出来ない。
ましてやライブという同好会にとっての重大なイベントを軽々とやる、と宣言してしまったので彼女たちも本気で受け止めているだろう。
その期待を壊して同好会の信頼を落とすことは避けたい。
「でも、ライブをやるにしてもこの施設が空いてる日を聞いてみてそこに向けて今から準備するのでも間に合うんじゃないかな?」
どうやら侑さんも気持ちは一緒だったようで、すぐにライブ開催に向けて提案を出してくれる。
「そうだね! 愛さん、ここのスタッフに聞いてみるよ! りなりー、一緒に行こ?」
「う、うん」
愛さんも乗り気なようでスタッフへ直談判しに行こうと璃奈の手を引いてエントランスへと向かっていく。
「でも、本当にライブなんてやれるのかな……」
愛さん達が抜けていった場所を見ながら、隣で歩夢さんが呟いた。
「まあ、璃奈ちゃんがあーやって自分から言うのも珍しいし、さっきの子たちに感化されちゃったんじゃない?」
侑さんは笑顔であっけらかんと返事をするが、俺は事情が事情なこともあり気が気ではなかった。
「で、ですが、まだ璃奈の曲を一ミリも手を付けていないんですよ? それで今からライブの準備……」
そう、まだ璃奈の曲は一切手を付けられていない。
曲の方向性すらも決めていないので、全くの無の状態だ。
どのように進めようか悩んでいると侑さんが肩に手を置く。
「とりあえず、日程が決まってからでも遅くはないと思うよ? それにかーくんが一人で取り組むわけじゃないんだし、そこは私達も出来る範囲で手伝うから」
「そうだよ、輝弥くんってば一人で抱え込んじゃうだろうから何かあればすぐに言うんだよ? 私達も力になるから!」
「侑さん、歩夢さん……。ありがとうございます」
二人からの優しい言葉に俺は胸が温かくなる。
璃奈のライブがいつになるかは分からないが、それでもなるようにしかならないのが世の常。
今の自分に出来る事を精一杯やるしかない、そう腹を括った時、愛さん達が戻ってきて直談判した結果を報告してくれた。
しかし、その内容を聞いて、俺の不安はより助長されるのだった。
「えぇー!? りな子がライブをやるんですかー!?」
次の日、璃奈がライブを行う事を同好会で報告した。
一番に驚きの声を上げたのはかすみで前のめりになりながら璃奈へ詰め寄った。
「にしても随分と急だね~?」
彼方さんもゆったりとした口調ながらも驚きの感情を露わにしている。
「クラスメイトの子達を見てたら、つい口走っちゃった……」
「でも、ライブをやることに関しては良い事だと思いますよ! 璃奈さんはまだライブをやったことがないですし、こうして一から準備に携われるのも凄く良い経験です!」
璃奈は小声で弁解するが、せつ菜さんは今回の思い切った行動を評価していた。
確かに璃奈は自分の口で『これをやりたい』なんてことは言ってる事を今まで聞いたことが無かった。
だからこそ彼女の真っすぐな気持ちが伝わってくるのが分かる。
そう、応援したくなるのだが、それよりも俺が心配していることが別にあるのだ。
「輝弥くん、どうしたの?」
怪訝な表情をしている俺を気にしてか、しずくさんが隣で声を掛けてくる。
「いやー……ライブをやることになるのは良いんだけど……良いんだけどさ……」
「?」
肝心な所を言わずに勿体ぶる俺を見てしずくさんは首を傾げる。
だが、そんなしずくさんを尻目に俺は昨日発表された情報を思い出し、お腹が痛くなってくるのを感じる。
痛みを抑えるようにお腹をさすっている俺を他所に慎が璃奈に質問する。
「それで、ライブはいつやるんだ?」
その質問を聞いて璃奈は一瞬びくっとして俯く。
「たまたま空きが出た関係もあって……来週の土曜日」
「えぇー!? そ、それもめっちゃ急じゃん!!」
そう、璃奈がライブをやるのが来週の土曜日とかなりの短期間なのだ。
「あぁ……輝弥くん、それで……」
「……そうなんだよ……」
ただでさえ曲作りが何もできていなかったというのにライブが2週間を切っているというこの状態。
今すぐにでも取り掛からなければ璃奈に大きな迷惑が掛かることは分かっているが、それでも流石に昨日と今日はずっとこれで頭を悩ませていた。
「でもやると決まったからには今更無理とは言えないのでしょ?」
「うん、そこでスケジュールは押さえてくれてて、ライブのステージも向こうがこっちの要望に合わせて準備してくれるって言ってました」
果林さんの質問に侑さんが答える。
ステージは店側が準備を担ってくれるという事なので、凄くありがたいことだ。
だが、それでもライブまでにやることは沢山ある。
いきなり大きな課題がぶつけられ、部室内の空気が重くなる中、璃奈が口を開いた。
「……この前の自己紹介もキャラクターに頼っていたし、自分の姿を見せての活動をやるのが怖かった。……そんな私でも応援してくれる人がいることが嬉しくて、喜んでもらいたかった」
璃奈の想いを聞いて、全員が一言も発することなく彼女の言葉に耳を傾けている。
「……色々と足りないことが多いのは分かってる。だけど、私にやれる精一杯をみんなに見てもらいたい」
璃奈はそう言うと席を立ちあがる。
「同好会のみんなにはたくさんの迷惑をかけると思う。特に輝弥くんには曲作りのことで一番大変な想いをさせちゃう。いきなりこんなわがままを言ってごめんなさい」
璃奈は全体を見渡したのちに俺をじっと見つめる。
俺も神妙な顔で璃奈を見つめ返し、璃奈は自分の言った事の重大さを感じたのか謝罪を述べる。
「だけど、このチャンスを不意にしたくない。だから……みんなの力を私に貸してほしい。……お願いします」
みんなからの視線を受けても臆する様子を見せない璃奈。
そして、堂々と自分の意思を示し、頭を下げてくる。
璃奈がここまで真剣に考えて、みんなに対して訴えてくるのは璃奈にとってクラスメイトからの言葉が本当に嬉しかったからだろう。
彼女の言葉を聞いて思い出したことがある。
それは璃奈が同好会に入って間もなかった時の事だ。
『今までの弱かった自分とさよならをする意味を込めて入学した。……でも、ここに来ても最初は何も変わらなかった』
璃奈が昔、感情を出すことが苦手だったことを逆手に取った同級生からの弄り。
その影響もあって、前に踏み出す勇気を持てなかった璃奈。
だが、そんな彼女が今ここでなけなしの勇気を持って過去の自分が出来なかったことに挑もうとしているのだ。
それに対して否定の意見を出す理由がどこにも見当たらなかった。
璃奈の意志に返事をするために俺は席から立ち上がる。
「……璃奈」
「……輝弥くん」
突然、俺から呼ばれ璃奈はこちらを振り向く。
「今、璃奈が立っている状況は凄く厳しい所だよ。楽曲は出来てない、振り付けも出来ない。ステージ衣装もないし、どんなステージを作りたいかという構想も出来上がってない。全くの更地の状態なんだ」
「……うん」
俺は璃奈に自分が今いる立ち位置について事細かく説明する。
皮肉に聞こえるだろうが、これが事実なのだ。
しかし、璃奈はそれを聞いても、表情を変える事はない。
「この二週間余りは璃奈にとってかなり大変な時間になる。どんなに辛い道でも走り切らなくちゃいけない。その覚悟があるかな?」
これは引き返すなら今だ、という最後の忠告でもある。
現在の状況を突きつけた上で、璃奈に決断を促す。
璃奈はそれに対して力強く首を縦に振る。
心なしか顔にも覚悟が決まったようなオーラが出ている。
「……やる。自分で言ったことだから、決して自分で捻じ曲げたくない」
迷いのない璃奈の言葉に俺は安心して笑顔になる。
「……分かった。璃奈がそこまで言うなら、俺も覚悟を決める。大変だけど一緒に乗り切って行こ?」
「……うん……!! ありがとう、輝弥くん」
「どうするかは決まったみたいだね。二人の為に私達も頑張って支えるから絶対、ライブ成功させようね!」
「りなりーがこんなに頼もしいことを言ってくれるから、愛さんも負けないくらい応援するぞー!!」
侑さん達の言葉に呼応するように他のメンバー達も頷いて肯定の意を示してくれる。
それを見て、璃奈は目を見開いて驚いた表情をしていた。
「侑さん……愛さん……ありがとう」
「それでは、早速璃奈さんのライブに向けて、同好会一同で力を合わせて頑張っていきましょう!!」
せつ菜さんの掛け声と共に部室内には全員の大きな歓声が響き渡った。
こうしてスクールアイドル同好会にとっての初の大仕事が幕を開けた。
読んで頂きありがとうございました!
続きもお楽しみに!
それではまた次回で!