虹の袂   作:M-SYA

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お待たせしました!

今回もよろしくお願いします!


変わるために

「ぐっぬぬぬ……」

 

 璃奈の単独ライブ開催が決まり、早速その日の練習から同好会一同の熱は最高潮に達していた。

 

 俺は璃奈と一緒に屋上で柔軟をやっていたが俺の背中を押す人間のせいでもはや恒例となっている俺の扱きが始まっていた。

 

「おらっ、輝弥! もっともっと気合い入れろよ! そんなんじゃ璃奈にすぐ追いつかれるぞ!」

 

「そ、そんなことわかってるけど……慎、お前はいつもだけど加減というのをさぁっ……」

 

「言い訳は無用! 一気に行くぜっ!」

 

「ちょっ、だからそんな事すんなって……あぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 慎が熱血教師の如く燃え滾っており、背中に乗られてる俺にはなす術がなく一気に背中への負荷が重りとなって襲いかかってきた。

 

「慎くん、そこまで。からかうのは良いけど、やり過ぎると輝弥くんの身体が壊れるわよ?」

 

 璃奈の柔軟を手伝っている果林さんが呆れるようにこちらを見ながら慎を静止する。

 

「あっ。は、はーい」

 

 慎も果林さんの忠告を聴き素直に背中から降りて身体を解放してくれた。

 

「あぁ……今日も今日とで腰が痛い……」

 

「あー……悪いな。つい輝弥相手にするともっと鍛えてやりたいって思っちまって……」

 

 腰を押さえながら立ち上がると慎は悪びれる様子を見せながら謝罪してくる。

 

 そんな慎へ笑顔を作って気にしてない様子を見せる。

 

「いや、実際あんまり身体は鍛えてるわけじゃないから、そうやって感じちゃうのは仕方ないよ。だけど……次からはもうちょっと優しくやってくれな?」

 

「おう、同じことはしないように俺も気を付ける。果林さんありがとうございます」

 

 慎と軽く和解が済んだところで彼は止めに入ってくれた果林さんに礼を述べた。

 

「ふふっ、別に良いわよ。二人が仲良くやるのは見てて楽しいけど、過度なそれは互いの関係を破壊しかねないから気を付けなさいね?」

 

「はっ、はいっ!」

 

 慎は果林さんの言葉を噛み締めた後、大きな声で返事をする。

 

 そこまでしっかりとした返事をする必要があるのかと思うところはあるが、そこは慎なりのポリシーがあるのかもしれない。

 

「にしても璃奈、随分と身体が曲がるようになったね?」

 

 と慎から視線を外して璃奈の柔軟に目を向ける。

 

 今まで身体がガチガチに硬かったがために押されても微動だにしなかった彼女とは違い、あと少しで床にお腹がつきそうというレベルまで成果が出ていた。

 

 璃奈の上達ぶりに驚嘆の声を上げると、慎も璃奈を見ながら感心していた。

 

「本当だよな? いつの間にかここまでできるようになってて俺もびっくりだわ」

 

「部活の間だけじゃなくて、家に帰ってからも最近は毎日欠かさずやってるからその効果も出てるのかも」

 

「これならだいぶ良いライブが出来そうね、璃奈ちゃん」

 

「うん! 璃奈ちゃんのこの気合いに私たちも負けてられないね♪」

 

 璃奈の弛まぬ努力を聞いて果林さんは期待に胸を膨らませていた。

 

 そして、エマさんも負けじと両手を胸の前でぐっと握り、意気込んでいる様子が伺えた。

 

「輝弥くん、次は走り込みに行きたい。一緒に行こ?」

 

 柔軟が終わり、俺をランニングへと誘う璃奈。

 

 普段は見せない積極性が新鮮で俺もやる気になってくる。

 

「うん、いいよ。じゃあこのままグラウンドまで行こっか!」

 

「よっしゃ、俺も付いていくぜー!」

 

 璃奈の提案を承諾すると慎は我先にと屋上を出発する。

 

 そして、それに付いていくように俺と璃奈も屋上を後にする。

 

「……もう、元気が良いんだから」

 

「ふふっ、でも賑やかで楽しいでしょ?」

 

「……それもそうね」

 

 屋上に取り残された果林さんとエマさんも出遅れた分を取り返すように屋上を駆け出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっほぉー! 皆さーん、可愛いかすみんですよー!」

 

 ランニングが終わり次に向かったのは部室だった。

 

 そこではかすみ、愛さん、侑さん、歩夢さんがステージを想定した練習を行なっていた。

 

 かすみがさながらステージに立っているようにポーズを取りながら観客役である俺たちにアピールをする。

 

 自分の可愛いポイントがどこかを勉強しているからか、さりげない目配せや満面の笑顔でこっちを見られると慣れてるとは言えどもやはりドキドキしてしまうのはかすみの努力の賜物だ。

 

「いえーい、可愛いよかすみちゃーん!!」

 

 侑さんもそんなかすみにトキメキを感じているようだ。

 

「こっち向いてー、かすかすー!」

 

「可愛いぞー、かすかすー」

 

「愛先輩、かすかすじゃないです! それに慎のすけ、あんたはもうちょっと観客になりきってよ!! ふん!」

 

 愛さんの元気な煽りと慎の野次馬めいたトーンでかすみは頬を膨らませて拗ねてしまった。

 

「流石、かすみちゃん。見てると凄く元気が貰える」

 

「私もかすみちゃんと目が合うとちょっと嬉しくなっちゃうな♪」

 

「むっふっふっふー、りな子と歩夢先輩は分かってますねぇー? そんな二人にかすみんからプレゼントをあげちゃいます♪」

 

 璃奈達の賛辞にご満悦なかすみはお返しにと口元に手を当てた。

 

「んーっま♡」

 

 なんと、渾身の投げキッスを飛ばしてくれた。

 

 こんな事を好きな子からされたら嬉しさのあまり、言葉も出ないだろう。

 

 俺たちはそんなかすみからの愛の贈り物に対して、

 

「………………」

 

 苦笑いや無表情が広がっていた。

 

「ちょちょっと皆さん、なんでそんなに微妙な反応なんですか!? 流石にかすみんも泣きますよ!?」

 

 かすみが眉間にこれ以上ないほどのしわを寄せて、放送禁止レベルの怒りの表情を見せると俺は気を鎮めようとフォローする。

 

「いや、本来なら凄くドキドキするし嬉しいだろうけど……」

 

「お前の場合、なんかあざとさが勝ってて逆に冷めてしまうというかな〜」

 

 だが、俺が作り上げようとした土台を慎が全力でぶち壊しやがった。

 

 慎の言葉を聞いて、かすみはますます立腹している。

 

「はぁ〜〜!? そんなの慎のすけが勝手に言ってるだけじゃん! そんな事ないですよね、侑先輩!?」

 

 もうアイドルの姿を投棄したかすみは自分の味方になってくれる人を探すように侑先輩へ懇願する。

 

 目を潤ませながら訴えるかすみを見て、侑さんは苦笑いしながら返事をした。

 

「あっはは……今のも良いとは思うけど、私としてはもう少しフランクな感じでやれば、もっとかすみちゃんの可愛いところがみんなに伝わると思うな!」

 

「へっ……? うぅ~~、侑せんぱぁ~い~! やっぱり侑先輩だけがかすみんの味方ですぅ~!!」

 

 かすみは侑さんのフォローに感激して侑さんの胸に飛び込むのだった。

 

「……あいつ、侑さんの前だとチョロすぎるよな?」

 

「慎、思ってもそんなこと言っちゃだめ」

 

「……お前も思ってんじゃねえか」

 

「……何のことかな……?」

 

「男子二人!! 聞こえてるよ!!」

 

 慎と小声で失礼極まりないやり取りをしているとかすみの地獄耳が俺たちの言葉を捉えていた。

 

「ステージでの立ち振る舞いに慣れてるかすみちゃんでも出来ないことがある……。私にも出来るかな……」

 

 みんなから見られることに慣れてるかすみが投げキッスで微妙な反応だったことを受けて、璃奈は自分はもっとひどい始末になってしまうのではないかと想像してしまったようで、少し不安げな様子だった。

 

「璃奈、別に出来ないことを無理にやる必要はないんだよ? かすみは自分には出来ると思ったからやってるのであって、嫌々やってるわけじゃないから」

 

「そうだよ璃奈ちゃん。私もああいうことは多分出来ないからいつも通りの私でみんなに話しかける気がするな?」

 

 俺が璃奈へ気にしないように説得すると歩夢さんもそれに続いて、自分も同じようには出来ないと共感の意を示してくれる。

 

 こうやって誰よりも傍でその人の不安に向き合って、悩みを払拭してくれるのは歩夢さんの凄いところだ。

 

 と、歩夢さんの真心に感心していると侑さんが歩夢さんにとある要求をした。

 

「ねえねえ、折角なら歩夢もやってすれば? 中々やれない機会だしいい練習になると思うよ?」

 

「えぇ!? い、いいよぉ……私は……!」

 

「えー、歩夢いつもそう言ってやらないじゃーん。璃奈ちゃんの為もあるけど、歩夢自身が今後ステージに立った時に困るでしょ?」

 

「そ、それはそうだけど……」

 

 歩夢さんはそう言うと両指を合わせながら口をもごもごさせる。

 

 大勢の人の前で喋るなんてことは今までの歩夢さんでは考えられなかっただろうから勇気が出ないのは無理もない。

 

 しかし、歩夢さんのそんな気持ちに負けじと侑さんが手をぐいっと引っ張って皆の前に立たせる。

 

「ほらほら、私たちも歩夢の事を精一杯応援するからやってみようよ!」

 

「あぁ、ちょっと、侑ちゃん!」

 

「僕も歩夢さんがステージに立つ姿がどんなものなのか見てみたいです。歩夢さんが優しく観客に話しかける姿を見たいんですが……駄目ですか……?」

 

「うぅ、そんな目で訴えるのはずるいよぉ、輝弥くん……!」

 

 壇上に立っても抵抗を試みようとする歩夢さんに俺は懇願するような声を出して歩夢さんへ訴えかける。

 

 歩夢さんには効果抜群だったようでムスッとしながらも諦めたように真ん中に立つのだった。

 

「……お前、姑息な手を使うな?」

 

「べ、別にそういうつもりではなかったけど……俺は本当に歩夢さんのそれが見たかっただけで……」

 

「はいはい、天然たらしの素質があるということだな」

 

「ど、どういう意味だよっ!?」

 

「そういう意味だ」

 

 俺はただ本音を話しただけなのに慎に横から狡いやり口だとこそこそと揶揄され、しまいには呆れさせてしまった。

 

 そんな態度を取られるならどうやって言えば歩夢さんは首を縦に振ってくれるのかを教えてほしい。

 

「ふぅ……」

 

 そんな俺達を他所に歩夢さんは一息ついて集中していた。

 

 その後、すぐに普段の歩夢さんらしい穏やかな笑顔が映った。

 

「皆さん、今日は私のライブに来てくれて本当にありがとうございます♪ 楽しんでもらえてますかー?」

 

「いぇーい! 楽しんでまーす!!」

 

「慎のすけ、かすみんの時とリアクションがまるで違うじゃん!!」

 

 歩夢さんの煽りに慎が全力で応えている。

 

 かすみとは天と地ほどの反応の差があるので、本人も流石に不服なようだ。

 

 そんな中、侑さんも慎に負けじと大きな声で返事をする。

 

「歩夢ー! 今日もーかわいいよー!!」

 

「へっ!? か、かわいいって……そんなぁ……!」

 

「そういう所も凄く可愛いよぉー!!」

 

「うぅー、ゆ、侑ちゃーん!!」

 

 可愛いと真っ直ぐに褒められ歩夢さんは照れを隠すように身体の前で両手を握る。

 

 顔をほんのり紅潮させながら行われたその仕草は男二人には耐えられなかった。

 

「ぽむ先輩のあれはお前のやつよりやばい……」

 

「……俺のがっていうところは置いといてその意見には賛成……」

 

「さすが歩夢さん、輝弥くん達を夢中にさせてる……。私も、見習いたい」

 

「も、もう! 輝弥くん達もそういう事を言うのはやめてぇぇ──!!」

 

 歩夢さんの照れ隠しの姿を見て彼女へのトキメキが止まらない俺達、そしてそれを見て奮起する璃奈。

 

 一年生組の受けが予想外に良かったために歩夢さんもただただ恥じらいを消すためにそう叫ぶしかなかった。

 

 

 




読んで頂きありがとうございました!

次回もお楽しみに!
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