虹の袂   作:M-SYA

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お待たせいたしました!

一方の作品に注力し過ぎてて1ヶ月開けてしまいましたね。
申し訳ございません。


それでは本編をどうぞ!


今までの弱い自分とは

 璃奈が練習を突然ボイコットしてしまってから翌日、練習の場に彼女が姿を見せる事は無かった。

 

 急遽、校舎屋上へ璃奈を除く全員を集合させ、ミーティングを開くこととしたが全員の顔色は良くない。

 

 そうなるのも無理はない。

 

 ライブは翌日に迫っており、それに対して準備が万全と言える状態ではないのだ。

 

 ましてや、ライブの主役である璃奈が不在となると今日の練習も意味を為さないものとなってしまう。

 

 今、同好会は由々しき状態へと陥っている。

 

 場の空気が重くなっている中、侑さんが口を開く。

 

「璃奈ちゃん、来ないね……」

 

「俺も電話やチャットで連絡していますけど、何一つ返ってきません」

 

 慎も璃奈のスマホへ連絡を送っていたが、首を横に振りそれからの進展がないことを示す。

 

「なんで……りな子のライブ、明日ですよね!? それがどうして……!」

 

「そんなの私たちにも分からないわ。璃奈ちゃんが何も言わずに欠席してるんだから」

 

 何も手立てが無いことに腹が立っているのかかすみが声を荒げていた。

 

 だが、そんな彼女を果林さんが諫める。

 

 声色からしてかなりご立腹のように聞こえるが、それほど果林さんも璃奈のライブを楽しみにしていたからそれを裏切られた事への気持ちの裏返しだろうか。

 

「どなたか、璃奈さんがこうなってしまった原因を知っている方はいますか?」

 

「彼方ちゃんにはさっぱり……」

 

「私もこれと言っては……」

 

 せつ菜さんからの問いに彼方さんと歩夢さんは何も情報なしと首を横に振り返事をする。

 

 何も状況の進展が見られず、無言の時間が続くとしずくさんが突如口を開いた。

 

「……輝弥くん、この前話してた璃奈さんの事……あれって関係してないのかな?」

 

「……っ」

 

「しずくちゃん、それってどういうこと?」

 

 しずくさんが言っていた『あれ』、それがどういった内容を指しているのか想像するのはそう難くなかった。

 

 侑さんからの催促にしずくさんはこちらを見つめる。

 

 その視線に自分が答えると言うように頷いてみせ、説明しようと口を開いた。

 

「そこは僕が話します。これは璃奈から直接聞いたわけではないですが……」

 

 俺は決して彼女から聞いた情報ではない為、内容が確定的なものではないことを念頭に置いてもらい話を進める事にした。

 

「しずくさんと以前に『璃奈はステージ上での感情表現をどうするのかな』という話になったんです。璃奈は感情を出すのが苦手というのが自他共に認めている認識かと思います」

 

 俺の発言に愛さんを始め、全員が肯定の意を示す。

 

「おそらく璃奈は、感情表現が苦手だけれども今の自分ならばそれを克服できているのではないか、みんなとの練習のお陰で苦手を払拭出来たと考えてるのかと思います。ですが……璃奈は昨日、ガラス越しに見てしまったんです。()()()()()()()()()()()()

 

 俺は昨日璃奈がショックを受ける羽目になった原因を調べた結果、それをメンバーらに伝える。

 

 今までの同好会での練習を経て、璃奈は自分への自信が付き始めており今度のライブでも絶対やり切ろうという確固たる意志があったはずだ。

 

 自分の心の内ではみんなの為に頑張ろうと気張っていたのだが、それが表情に出ておらずそのギャップにショックを受けてしまったのだ。

 

 ガラス越しに自分の顔を見て、笑顔でも不安気でもない無表情の自分を見て、過去のトラウマがフラッシュバックしてしまった。

 

 俺が掲げた問題について状況が理解し切れていない慎は疑問を口にする。

 

「でも、それが璃奈のやろうとしてたみんなと繋がりたいってのと何か問題でもあんのか?」

 

「つまり私たちが璃奈さんの事を認めていても、ファンの方達は璃奈さんを見てどう捉えるのか……それが分からないという事ですね」

 

 せつ菜さんの回答に俺は無言で頷き肯定の意を示す。

 

「それってどんなに璃奈ちゃんが頑張ってパフォーマンスをしても、表情一つでファンの人達には気持ちが届いていないんじゃないかって捉えられるってことだよね~?」

 

「いくらファンの皆さんでもそんな事……!!」

 

「確かに、それは無いとは言い切れないわね」

 

 彼方さんも璃奈が直面している問題について理解したみたいだった。

 

 かすみは応援してくれる人たちが璃奈を裏切っているように聞こえたのか必死に反論しようとするが、確実に否定できるものではないと果林さんに一蹴されてしまう。

 

 そんな中、歩夢さんは璃奈がここに来ない事について不安を覚える。

 

「璃奈ちゃん、このままライブやらないで終わるのかな……?」

 

「あの子が来ないのであれば私たちだけで練習しようとしても無駄でしょ? 今日は解散にしない?」

 

「むぅー……! 果林先輩、先ほどからりな子に対して冷たくないですか!? 大事な同好会の仲間でしょう!?」

 

 練習に来ない璃奈に対して冷酷な様子を見せる果林さんにかすみは堪忍袋の緒が切れる。

 

 今までも悩むメンバーらに対してストレートな物言いをしてきた果林さんがここまで冷たく当たっている事は少し不思議だ。

 

 果林さんの様子に頭を悩ませているとエマさんが果林さんの顔を覗いてきた。

 

「果林ちゃん……もしかして拗ねてる?」

 

「はぁ!? な、なんでよ?」

 

「だって果林ちゃん、ライブ当日はモデルのお仕事を入れないようにしてたもんね♪」

 

「えっ、そうなんですかぁ!?」

 

 果林さんはエマさんの発言が図星だったようで声を荒げていた。

 

 誰よりもクールに構えていた果林さんが実は誰よりも璃奈のライブを楽しみにしていることにかすみも驚きを隠せない様子だ。

 

 エマさんに言い当てられて果林さんはぷくっと頬を膨らませながら反論する様子を見せる。

 

「べ、別に、私はせっかくここまで準備したのに何も披露されないのが勿体ないと思っただけよ!」

 

「へぇ~、果林さんにしては可愛い所もあるじゃないですか~?」

 

「慎くん、お黙りなさい」

 

「むにゅっ!? は、はなしてくらさいよー!」

 

 果林さんが拗ねていると慎が物珍しそうに彼女を見ておちょくる。

 

 だが、後輩に舐められたくないのか果林さんは反撃と言わんばかりに慎の頬を引っ張って諫める。

 

 そんな二人を他所に彼方さんは璃奈の話へと戻す。

 

「でもやっぱり、このまま終わらせちゃうのは勿体ないよね~?」

 

「そうですよ! まずは璃奈ちゃんと話をしよう!」

 

 侑さんも彼方さんの意見に乗り璃奈の元へ行くことを提案する。

 

 しかし、その横で愛さんはずっと真剣な表情で璃奈の事を考えていた。

 

「愛さん?」

 

「…………愛さん、ちょっと行ってくる!!」

 

「えぇー!? ちょっと愛さん!?」

 

 愛さんはふと思い至ったようで校舎内へと戻ってしまった。

 

「えー! 行くってどこへ!?」

 

「はっ! そんなの、璃奈の所以外にねえだろ!」

 

 愛さんが走り去るのを眺めながらかすみは声を上げるが、慎は愛さんの行先についてすぐに理解したようで疑問を持つかすみへ回答すると我先にと先に駆け出してしまった。

 

「で、でもいきなり過ぎませんかぁー!!」

 

「……やっぱり、ほっとけないよね~」

 

 考え無しに行動してるように見えていたかすみは文句を言いつつも慎に続くように屋上を出ていってしまった。

 

 彼方さんも一歩距離を置いた発言をしているが、気持ちはみんなと同じようで笑顔を浮かべながら走り出す。

 

 先に行く彼方さん達を見て、一緒に続くようにとしずくさんは俺に声を掛ける。

 

「輝弥くん、行こっ?」

 

 だが俺は足が重くて動けなかった。

 

「どうしたの、輝弥くん?」

 

 しずくさんへ返事をしない俺を心配してか歩夢さんが詰め寄ってきて声を掛けてくる。

 

「えっ? あっ……すみません。少し……自分が情けなくて……」

 

「えっ、輝弥くんが気にすることでもあるの?」

 

 俺の発言の意図が読めず侑さんは聞き返す。

 

「……今まで作曲とかも二人で一緒にやって、璃奈が抱えている問題を俺が一番理解しているはずだったのに、こういう時に自分から動かずにあまつさえ事態が悪化してから行動しようとする自分が卑怯に思えてきまして……そんな僕が……彼女の元へ行っていいのやら……」

 

 俺は苦虫を嚙み潰したような表情をしながら足が重い理由を告白する。

 

 本来であれば自分も一緒に行きたい。

 

 同好会の仲間として、一人の友人として璃奈の悩みを聞いてあげたい。

 

 だがこうなる可能性について、以前に脳裏を過っていたのだ。

 

 その時は璃奈ならば出来るかも、なんて勝手に彼女に期待して自分は高みの見物をしていたのだ。

 

 一種の裏切り行為をやっている自分に嫌気が差して彼女の元へ行く資格がないからこそこうして足が地に根を張っているように動くことが出来なかった。

 

 璃奈への罪悪感に苛まれているとせつ菜さんがゆっくりと俺の前に歩み寄ってきた。

 

「輝弥さん。それでは貴方は卑怯者の輝弥さんのままでいますか?」

 

「えっ……?」

 

 卑怯者、とせつ菜さんらしからぬ言葉が聞こえ思わず顔を上げる。

 

 そこには心なしか不機嫌になっているせつ菜さんが立っていた。

 

「確かに輝弥さんが璃奈さんの問題について一番分かっていたと思います。ですが、今の貴方は璃奈さんの為に動けなかった弱い自分を、『そんなことない』と私たちに否定してほしいように聞こえます。卑怯者の自分を誰かに否定してもらう前にそんな自分を輝弥さん自身が肯定しなければ、貴方は変われないと思います」

 

「…………」

 

 誰かに否定してもらう前に自分で自分を肯定する。

 

 意図せず皆の優しさに甘えていた自分にはそれは重い一言だった。

 

「そうね。変わりたい意志があるのであれば自分の力で変えないと何も意味が無いわよ」

 

 果林さんはそう言いながらその場を離れようとする。

 

「……先に行ってるわね。これは強制しているわけじゃないから、輝弥くんは自分の好きに動けばいいと思うわ」

 

 微笑を浮かべながら歩いて屋上を去る果林さんを見てエマさんはふと小言を呟いた。

 

「もう果林ちゃんもあんなに文句言ってたのに……」

 

 小言を言っているエマさんは果林さんが璃奈の為に動いている事が分かって嬉しそうだった。

 

「かーくん。自分に責任を感じたならその責任は自分で負わないと、だよ!」

 

 エマさんはこちらへ振り向きアドバイスを送るとすぐに果林さんの後を追って屋上から姿を消す。

 

「……歩夢、私たちも行こう?」

 

「……うん」

 

 侑さんは歩夢さんに声を掛け一緒に璃奈の元へ向かおうと提案する。

 

 歩夢さんも少し不安気ではあるが侑さんの言葉に賛同する。

 

 だが、二人が歩き出したところでふと侑さんが足を止めた。

 

「……かーくん!」

 

「……は、はい!」

 

 突然名前を呼ばれ、不意に姿勢を正してしまう。

 

 その刹那、侑さんはこちらへ振り向きやんちゃな少年のような表情をしながら力強く俺を指差した。

 

「君の悪い癖、出てるよ!」

 

「…………っ!」

 

 侑さんの言う悪い癖、それがどういったものかを想像するのはそう難い事ではなかった。

 

「しっかり反省してね!」

 

「……輝弥くん、待ってるから!」

 

 侑さんは表情を変えずに反省するよう伝えると璃奈の元へと出発した。

 

 歩夢さんは侑さんとは対照的に俺が来てくれることを信じて、待ってる、と一言だけ告げると侑さんと一緒に屋上から出ていく。

 

「輝弥さん、貴方が璃奈さんの元へ来ることについて無理強いはしません。ですが、来るにしても自分が受け持ってしまった贖罪は自分で清算してくださいね?」

 

 せつ菜さんは言葉の最後に笑顔を見せながらそう言い残し屋上を出て、この場には俺としずくさんの二人だけが残ってしまった。

 

 メンバーらからの言葉に茫然自失としているとしずくさんは静かに隣へ歩み寄ってくる。

 

 どうやって声を掛けようか分からずしずくさんはただ不安そうに名前を呼ぶだけだった。

 

「輝弥くん……」

 

「……俺、本当に自分が情けないって思う」

 

 俺は俯きながら自虐に走る。

 

「しずくさんと前に璃奈の事で話をしておきながら何もやらずに口だけの人間になって……今ここでもみんなに慰めてもらおうと被害者面して……ずるいよね、あはは……」

 

「そんなに自分を責めないであげて? 私たちも輝弥くんに任せているばかりにこうなることに気付かなかったんだから……」

 

 悲痛な表情をしながら胸の前で手を合わせるしずくさんにはにかみながら笑顔を見せる。

 

「そう。歩夢さんにも言われたのにな……『一人で抱え込まないで』って……」

 

 侑さんが先ほど言ってた反省。

 

 それは以前に歩夢さんと話してた自分一人で悩みを抱えるな、という事だ。

 

「本当、俺の悪い癖だね」

 

 はにかむ俺にしずくさんも微笑を浮かべる。

 

「……そうだよ。皆さんに甘えることと皆さんに頼ることは似ているようで違うこと。何かあればもっとお互いに声を掛け合お?」

 

「うん! その時は是非頼らせてね?」

 

「もちろん♪」

 

 自分の気持ちにケリをつけるように両頬をパチンと一回叩く。

 

 優しめに叩きはしたつもりだが思いの外、力が強かったようで少し痛覚があった。

 

「俺も行く。せつ菜さん達が変えてくれたように、今度は俺が璃奈を変える。もう……俺は自分から逃げない……」

 

 改めて決意を口にして胸の前で拳を作る。

 

 自分の中でけじめをつける事が出来たからか、握る力も強さを増していた。

 

「……行こう! しずくさん!」

 

「……っ! うん!」

 

 こうして、俺としずくさんは璃奈の元へと向かう為に走り出した。

 

 今一人で自分の悩みを抱え込んでる璃奈を救うために。

 

 





読んで頂きありがとうございました!

璃奈編も終わりが近づいてきました。

次回も是非お楽しみに!
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