虹の袂   作:M-SYA

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お待たせしました。

本編69話です。

よろしくお願いします!


奇怪な家族

 

 璃奈が再起を決意し、スクールアイドル同好会一同は明日に迫っている璃奈のライブに向けて緊急ミーティングを開いた。

 

「それでは璃奈さんのライブを成功させるために今一度、準備が必要な内容について整理しましょう。時間は残されていません。やれる限りを尽くして、明日のライブにぶつけていきましょう!」

 

 せつ菜さんがいつにも増して力強い言葉で檄を飛ばしてくる。だが、実際問題その通りなのだ。時間はあまり残されていないので、残っている課題について確実にこなしていかなければ明日のライブには間に合わない。

 

 璃奈の家のリビングを借りて最後の追い込みを仕掛ける為に俺もいつもより気合を入れる必要がある。

 

「まずは璃奈さんのライブの準備についてどこまで進んでいるかを確認したいと思います。まずは輝弥さん、楽曲制作の方はどこまで進んでいますか?」

 

 せつ菜さんから曲作りの進捗を問われ、今の状況を素直に告白する。

 

「……状況についてですが、まだ完成には至ってません。璃奈のお陰で歌詞とメロディーラインについては出来上がってますが、編曲が出来上がっていないのでそれをこれから突き詰めていくことになります」

 

「わかりました。璃奈さんがライブで披露する大事なものです。無理を言いますが、今日中にそれを完成させるように努めていきましょう。でなければ次に進むことは出来ません」

 

「……はい!」

 

 せつ菜さんから楽曲完成のタイムリミットを指定される。正直、今日で編曲から楽曲の完成までを完遂させるというのはかなりの無理難題に思える。だが、悠長なことも言ってられないし俺もせつ菜さんがそう言わずとも今日中での完成を目標に動くつもりだったので覚悟は決まっていた。

 

「次にダンスについてです。これは私から説明します。こちらも現時点で楽曲が出来上がっていない点もあり、詳細の振り付けについて何も出来ていません。ですが、今の璃奈さんは筋力、持久力、柔軟性ともに過去の璃奈さんとは比にならないほどに高い水準まで上がっています。ですので、今日中に楽曲が完成すれば少なくとも明日の朝までには相応のクオリティで出せるようになるかと思います」

 

 ダンスの状況についてはせつ菜さんが自ら説明してくれる。振り付けは楽曲とシンクロすることでその良さを発揮する。つまり、その大元となる楽曲が出来ていなければ先に進むことはできない。これを進めるためには楽曲の完成がなにより最優先事項なのだ。

 

 だが、それでも明日の朝まで振り付けの練習がお預けになるのは問題だ。

 

「せつ菜さん、今は並行して振り付けも着手していかないと璃奈への負担が大きくなります。ひとまずはピアノで作ったものをお渡しするのでそちらで構想を練りましょう。僕も全力を尽くして曲は完成させますので」

 

 ステージに上がるのは璃奈だ。璃奈の成長速度が著しいとはいえども明日のライブ前までに振り付けを完璧にするというのは流石に無茶が過ぎる。であれば、現時点で出来ている楽曲をベースにダンスを考えるのも案としては最良だろう。

 

「……そうですね。私も少し悠長に考えてしまっていました。では輝弥さん、後で楽曲のデータを送ってください。慎さん、かすみさん、お二人の力も貸して下さい」

 

「全体のバランスを見るのは任せて下さい。細かい所作についてはかすみの方が強いんでそこは手分けしてやっていきます」

 

「ふふ~ん任せてください! りな子に似合うかわいい振り付けをたくさん考えてきてますから! このかすみんに出来ないことはありません!」

 

 せつ菜さんからの依頼に慎とかすみは二人揃って笑顔で返事をする。いつもはハチャメチャコンビではあるが、こういった土壇場で見せる二人の息の良さは阿吽の呼吸だ。この二人ならば絶対に良いものを作ってくれるとそう思い込ませてくれた。

 

「心強い限りです。次はステージ演出についてです。愛さん、こちらは如何ですか?」

 

「うん、こっちはりなりーが事前に沢山提案してくれたおかげもあってジョイポリの方とは順調に進んでるよ! 後は曲と当てはめて合わせていくのみだから、これは明日のリハーサルで最終調整する形で問題ないと思う!」

 

 ステージ演出の構想案について報告する愛さんの表情は心底明るいもので懸念事項はない様子だった。思ったよりも順調に進んでいることにせつ菜さんは安堵の表情を見せる。

 

「それはよかったです。それでは愛さんはジョイポリスのスタッフと明日の動きについて最終打ち合わせをお願いしていいですか? 侑さん、歩夢さん、しずくさんは本日限りで別のグループのサポートに入って下さい」

 

「では、私はかすみさん達のダンス振付について一緒に参加しますね!」

 

「じゃあ私は愛ちゃんの打ち合わせに一緒に行くよ! 歩夢はどうする?」

 

「うーん……私は衣装作りの方に参加しようかな。そちらはどこまで進んでるんですか?」

 

 せつ菜さんより愛さんは明日のリハーサルからライブ本番までの打ち合わせに行ってもらうように指示を貰う。また、ステージ演出に関して今日中にマストでやることがないため、しずくさんはかすみ達のグループに、侑さんは愛さんと一緒に打ち合わせへ、歩夢さんは衣装作りチームに参加することになった。

 

 歩夢さんからの衣装作りに関しての質問に果林さんが答える。

 

「こっちも順調に進んでいるわ。璃奈ちゃんが作ったPVの衣装を元に原案は考えてるわ」

 

「これからその案を用いて衣装作りをやっていくから歩夢ちゃんも協力してくれるなら今日中には大方は完成すると思うね~」

 

「だから、今日の空いた時間に璃奈ちゃんには試着してもらうことになると思うから、また声掛けさせてね?」

 

 衣装担当組である果林さん、彼方さん、エマさんも滞りなく作業は進んでいるようだ。さすがライフデザイン学科の二人がいることで衣装案に様々な着想が得られているようだった。そこに裁縫を得意とするエマさんと歩夢さんが加入してくれたらまさに鬼に金棒だ。

 

「みんな……ありがとう。私のためにここまで手伝ってくれて……」

 

「これも璃奈が頑張ってるからだよ。璃奈が積極的に動いたからこそみんなもその気持ちに応えてくれてるんだよ」

 

 最悪の事態を想定していた璃奈はこのどんでん返しに驚きを隠せないようだった。だが、これも璃奈の努力の賜物なのだ。璃奈のライブを楽しみにしているのに加えて率先してライブの準備を進めてきていた璃奈の姿に同好会一同は感心している。だからこそ彼女には報われてほしいのだ。

 

「皆さん、本当にありがとうございます。思っていたよりも状況は好転しているようですので、この勢いを止めることなく全員で突き進んでいきましょう!」

 

「「おぉーーーー!!」」

 

 せつ菜さんの言葉に同好会全員で声が合わさり皆の想いが一つになっている事を実感した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同好会の勢いに拍車が掛かったところで俺は自分の作業場所としてとある場所に連れてもらっていた。

 

「輝弥くんはこの部屋を使って」

 

「えっ、ここって璃奈の部屋だよね?」

 

 そう、そこは先ほど璃奈が鳴りを潜めていた部屋だった。

 

「うん、ここなら電子ピアノとそれに接続するヘッドホンもあるから外に音を漏らさずに楽曲作りに集中できる。それにパソコンには作曲ソフトも入ってるからこれを使って編曲も出来る。輝弥くんが作曲をするには十分だと思う」

 

「なるほどね。確かにここまで充実したものを用意してくれてるなら少しは良いものができそう」

 

 部屋の中を見渡すと璃奈が話していた電子ピアノやヘッドホンの他に最新ハードのゲーム機も揃っている。璃奈が一人でも退屈しないようにと両親が気を利かせてくれていたのだろうか。

 

 そんな事を考えていると璃奈はパソコンの電源を入れて扉の前に移動する。

 

「私は他の人達の作業場所を案内してくるから先に作業してて? すぐに戻ってくるから」

 

「わかった。ありがとうね」

 

 璃奈は他の人達もそれなりの環境で作業できるように準備してくれたみたいでそちらの案内の為に一時的に席を外す。璃奈が扉を閉めると彼女の部屋に一人取り残される状態となり、パソコンの電源音だけが空間の中に響き渡っていた。

 

「……にしても、璃奈の家って本当になんでも揃ってるなぁ……」

 

 この場で一人佇みながら、俺はふとそんなことを呟く。

 

 俺の今の家はお世辞にも大きいとはいえないアパートであり、そこで姉さんと二人暮らししている。部屋分けについても俺に不自由をさせたくないからと俺に個部屋を用意し、姉さんはリビングで勉強や演劇の練習に勤しんでいるのだ。

 

 こうして家の裕福さを璃奈の家で突きつけられてしまうが、それでも幸せじゃなかったかと言われればそうではない。家で姉さんと一緒に居る時間は俺にとってとても楽しかったし、姉さんと話をすることで孤独感も無くなって充実感に満ち溢れていた。その為、ここを羨ましいとは思いつつも璃奈と同じように過ごせるかと言われたら、俺は首を縦に振れない気がする。

 

「って、ぼーっとしてる場合じゃない。今は一刻も早く曲を完成させないといけないんだ」

 

 思わずノスタルジーに浸ってしまい、俺は首を横にぶんぶんと振って意識を現実へと引き戻す。そして、璃奈が用意してくれたパソコンの前に座り作曲ソフトを立ち上げる。

 

「まずはせつ菜さん達が振付を考えられるように楽曲を送らないと……」

 

 俺は先ほどのミーティングの話を思い出して、自分のスマホに落とし込んでいたピアノのみの楽曲データをパソコンへと送信する。そして、必要な時にすぐにデータを授受できるようにと常備していたCDをパソコンへ挿入し、パソコンからCDへとデータを書き込む。ここら辺の作業も璃奈に教えてもらったおかげで以前よりもスムーズに操作できていた。

 

「よし、CDはこれでオッケーだからあとはせつ菜さんの所に届けに……」

 

 行くだけ。慣れた手つきでCDの書き込みを終え、そう言いながら外に出ようと扉を開けた時、俺の足に何かが掴まる感触を覚えた。

 

「ひゃっ!? な、なに!?」

 

 突然足に絡みつかれ、思わずすぐに振り払おうとしたがその正体を見た時、すぐにその考えをやめた。

 

『ニャ~』

 

 そこにいたのは猫の姿をしたロボットだった。

 

「こ、これは……猫なのか……?」

 

「あっ、アラン」

 

 俺が猫型ロボットにたじろいでいると璃奈が戻ってきた。そしてアランと呼ぶとそれに反応して猫ロボが璃奈の元へと駆け寄っていく。

 

「璃奈、この子は一体?」

 

「この子は猫型ロボットのアランちゃん。この家で買ってるペットで私の家族」

 

『にゃ~ん♪』

 

 璃奈がアランちゃんを抱えると嬉しそうな声を上げながらアランちゃんは璃奈に頬ずりをする。璃奈はアランちゃんが急に求愛行動を取ってきたことに驚く様子も見せず平然としていた。

 

「アランちゃん、嬉しそうだね」

 

「うん、アランは私の事をとても気に入ってくれてる。だけど、輝弥くんのことも気になってると思う」

 

「えっ、そうなの?」

 

「うん、初対面で足に絡むのはすごく稀なこと。撫でてあげたらすぐに懐くと思う」

 

 璃奈はそう言いながら、抱きかかえたアランをこちらへ差し出す。アランの表情は変えることがなくこちらを青い瞳のようなガラス玉がただただ見つめていた。

 

 無機質なガラス玉の目に少し畏怖しながらも璃奈からアランを受け取る。触り心地はロボットのそれだが、重みは実際の猫と同じようだった。

 

 息を飲み込みながらアランの後頭部を撫でると嬉しそうな鳴き声を上げる。そして、俺の胸に顔をうずめてきた。

 

『にゃお~ん♪』

 

 ロボットなので表情が変わることはないが、それでも無表情なアランが俺の撫で回しに喜んでいるのが伝わってくる。

 

「アランちゃん、凄く嬉しそうだね」

 

「輝弥くんの撫で方が上手。それにアランは輝弥くんをやさしい人って理解してる」

 

「そ、それも分かるものなの?」

 

「少し撫でられただけで顔をうずめるなんてそうそうしないから、アランは輝弥くんの事が大好き」

 

 璃奈も心なしか目が見開いているように見える。アランちゃんが見せるこの動作はそれほどに珍しいもののようだ。

 

 アランちゃんがそこまで気を許していることがわかって、俺もふと緊張の糸が解ける。先ほどまで身構えてしまっていたことが少し恥ずかしい。

 

「そっか……ならよかった」

 

 頭をもう一度優しく撫でてあげるとより甘えた声を出しながら身を預けてくるアランちゃん。この様子を見た時に俺はとあることに気が付いた。

 

「そういえばアランちゃんを見て思ったけど、この子って璃奈に似てるね」

 

「えっ、私に……?」

 

「うん。表情は変わらないんだけども、行動で感情を表すところはとても似てる。それにすごく人懐っこい所も璃奈にそっくり。やっぱりペットも飼い主に似るんだね」

 

「そうなんだ……あまり意識したことなかった」

 

 俺の気付きに璃奈は目を丸くする。アランと親しみ過ぎているが故にこういった事に気付かなかったのかもしれない。

 

「でも、せっかくならアランちゃんも感情表現できればいいのにね? 嬉しそうな時は口角を上げたり、怒る時は眉間を寄せるような表情になったり、それで()()()()()()()、今のままでもかわいいけどもっと愛でてあげたくなるかも」

 

「表情を……作る……」

 

 俺が何気なく発した言葉に璃奈はオウム返しで口に出す。突然何かを考え込むように目線を落とし口を噤んでしまう。

 

「璃奈?」

 

「……これだ」

 

「えっ?」

 

 いきなり納得したように声音が良くなる璃奈。彼女が何を考えてその発言に至ったかが分からず困惑の色が隠せなかった。

 

 そんな俺を他所に璃奈は俺が抱えていたアランを手繰り寄せ、アランの顔を俺の眼前に突きつける。

 

「私のライブ……これでいく!」

 

「……どういうこと?」

 

 アランの顔を目の前にチラつかせながら言われ、俺は彼女の伝えたい意図が分からずネジが飛んだロボットみたいに思考が働かなくなるのだった。

 

 





読んで頂きありがとうございました。

次回あたりで璃奈編は最後になります。

引き続きお楽しみに!
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