虹の袂   作:M-SYA

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お待たせしました。

本編71話です。

今回からアニガサキの内容と逸れてオリジナルストーリーとなります。

それではどうぞ!




本編『君だから出来ることを』
新しい挑戦


 

「さてとっ、慎、お待たせ」

 

 璃奈のライブが終わってから1週間が経った。彼女の斬新かつ新鮮な試みのおかげで虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の知名度は飛躍的に上がり、SNS上でも話題が沸騰していた。

 

 この勢いを止めるわけにはいかないとメンバー全員の熱が更に増しており、やる気に満ち溢れていた。俺も御多分に洩れず次のライブの為に楽曲の構想を練りたくて仕方なかったくらいだ。

 

 普段と変わらないペースで授業が終了し、いつも通り教科書類を鞄へしまっていると既に片付けが完了している慎は隣の席の机に座って俺の準備を待っていた。いつも待たせているのは申し訳ないと思うが、一応他の生徒のものだから机の上に座るのは気にした方がいいんじゃないかと思うのはここだけの話。

 

「よっしゃ、じゃあ行くか」

 

 慎が俺の合図に待ってましたと言わんばかりに机から腰を上げ、さっそく出発しようと歩き出す。

 

「そういえば、次のライブは誰がやるのかな?」

 

「この前の璃奈がでかい事をやったもんなぁ~。おかげで次にライブをやる人のプレッシャーは相当だぜ?」

 

 部室へ向かう途中、次にライブを行う人の予想を立てていた。だが、その回答として慎はうーんと考え込みながら明確な人物の名を出そうとはしない。

 

 それもそのはずだ。璃奈の出した成果は凄まじいものでこの同好会のファンをかなりの数、獲得する結果につながった。それから次のライブを決行するとなれば、璃奈のライブの時か、はたまたそれ以上のクオリティを大衆は求めるだろう。そのためか、いつもライブをやることに乗り気だった慎は今回ばかりは委縮している様子だった。

 

「こういう時は勢いに乗るべき、って慎が我先に声を上げるかと思ったけど、意外とそうでもないんだね?」

 

「あれと比べる必要はねえことは分かってるけど、それでもなぁ……」

 

 慎が苦悶の表情を見せていると俺達と同じように部室へ向かう道中だったのか菜々さんと偶然鉢合わせた。

 

「おや、輝弥さんに慎さん。お疲れ様です」

 

「菜々さん、お疲れ様です。菜々さんもこれから部活に行きますか?」

 

「そうです。それに慎さんにお話があったのでそれもあってちょうど良いタイミングでした」

 

「へっ、俺に……ですか?」

 

 慎の問いに菜々さんは頷いてみせる。菜々さんが珍しく慎に用事があるようでそれもスクールアイドルの事に関してだろうか。

 

「ここでお話しするのもなんですので練習着に着替えて部室へ来てください」

 

「はい、わかりました」

 

 慎の返事に満足したのか菜々さんは部室へと歩き始めた。彼女の後ろを追うように俺と慎も付いていくが、俺の横で慎は少し考え事をしている様子だった。

 

「……何か気になる?」

 

「…………もしかして……次のライブの事か?」

 

「それは分からない。だけど、可能性はあるかもね」

 

「……そうか」

 

 慎は自分にはまだ早いと思っているのか、彼には珍しく固い面持ちをしていた。菜々さんは慎のみを指名し、俺もいる中でそんな相談を彼女がするという事は慎のプライベートな事情に関するそれではないことは分かる。

 

 慎がどんな相談をされるのか、俺も内心やきもきしながら部室へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 練習着に着替えてから部室へ向かうと、既にメンバー達は全員揃っており、各々の談笑を楽しんでいた。先ほどまで一生徒だった菜々さんもここでは既にせつ菜さんの姿に変わっている。

 

 俺達が入ってくるのいち早く気付いたのはしずくさんだった。

 

「あっ、輝弥くん。お疲れさま!」

 

「お疲れさま、しずくさん。もう全員揃ってるんだね?」

 

「はいっ! あとはお二人が来るのを待つだけでした!」

 

 せつ菜さんは俺の問いに元気に返事をしてくれる。先ほどまで知的な雰囲気を漂わせていた菜々さんからあっという間に性格がガラッと変わってしまうのは今では慣れたものだがそれにしても不思議な感覚に陥る。

 

「じゃあ、慎くん達も来てくれたから話してくれるんだよね? せつ菜ちゃん」

 

「はい、そのつもりです」

 

 練習前のミーティングとして侑さん達も集められたようで詳細の話について何も聞かされていないようだった。しずくさんと彼方さんの間に用意されている各々の椅子へ俺と慎は腰を下ろすとせつ菜さんは軽く咳ばらいをして、集まってもらった趣旨について話しはじめた。

 

「今回お集まり頂いたのは他でもありません。次のライブについてです。先週、実施した璃奈さんのライブにより私たちの知名度はより大きいものになりました」

 

「うん、璃奈ちゃんの手伝いをすることでライブに向けてやらなくちゃいけないことをしっかりと理解できて凄く良い経験になったよね!」

 

 侑さんの意見に全員が頷いて同感の意を示す。俺は曲作りを集中的にやっていたのでその他の動きをあまり把握していない。だけれども短い時間の中であそこまで完成度の高いライブを行うことができたのはみんなが意見を出し合って効率的に準備を進められた事に他ならない。

 

「はい。ですが、同好会としてはまだライブを一回しか実施していません。更に沢山の人に見てもらうために外で開催されるスクールアイドルのライブイベントにも参加するべきだと思うんです」

 

 せつ菜さんの言う事ももっともだ。まだこの同好会は立ち上げて2ヶ月足らずであり、ライブの経験数も1回のみ。ましてや、生で観客に見てもらっているのは旧同好会でライブを行ったせつ菜さん、お台場のレインボー公園でゲリラライブをした愛さん、そして新同好会で最初にライブを行った璃奈のみだ。その他のメンバーはMVという形で発表しているが、それでも全員分がアップされているわけではない。残りのメンバーについても同じようにステージへ出て、アイドルとして売らなければいけないのだ。

 

「そこで次のライブを探していた時に、こんなイベントを見つけたんです。 その名も、『(さきがけ)! Top of the Men's School IDOL!』、略してTMSです!」

 

「トップ オブ ザ……メンズスクールアイドル……?」

 

 俺が思わずイベント名を復唱するとせつ菜さんが続けてイベント概要について解説をいれてくれる。

 

「こちらは世間では母数が少ない男性のスクールアイドルのみを対象にしたものになります! 男性スクールアイドルがシノギを削り、その頂点を争うものです!」

 

「男性のスクールアイドル……ということはうちの同好会だとシンシンが対象だよね?」

 

 愛さんに倣う形でメンバー全員が慎の方を見つめる。慎はそのタイトルが語られた段階から察しがついていたのだろうか真剣な表情で話を聞いていた。

 

「そうです。開催は今から2週間後で、大会の規模としてはそこまで大きいものではなく都内のスクールアイドルに限定するものになります。慎さんのデビューステージにはおあつらえ向きではないかと思いまして、今回はその提案となります」

 

「おぉー! ついに慎くんもステージに立てるんだー! 今から楽しみ~~!」

 

「もう侑ちゃん、まだ慎くんの意向を聞いていないのに気が早いよ? 慎くんはこの話を聞いてどう思うかな?」

 

 横でテンションが上がっている侑さんを諫めながら歩夢さんは慎に問いかける。イベントに出る出ないを決めるのは参加対象者である慎のみだ。部室に来るまでに話していた璃奈の勢いに続かなければいけないプレッシャー、それも相まって先ほどまでの慎は乗り気ではなかったのだが、この提案を聞いて彼は乗るのだろうか。

 

 そんな事を考えていると慎は徐に口を開いた。

 

「……正直、自分がどういうライブをやりたいか、どんな姿を見せたいか、そんな構想はまだ固まってないんです。そんな中でイベントへ参加しても大丈夫でしょうか?」

 

「それは今後の慎さんの気持ち次第です。貴方が答えを見つけられるように私たちも全力でサポートします」

 

「そうね。みんながみんな、既にやりたい事が固まっているかと言われたらそうじゃないと思うし、練習しながら見つけていけばいいと思うわ」

 

「私も助けてもらった分、今度は慎くんのお手伝いをする。璃奈ちゃんボード『むん』」

 

 時間はまだあるからこそ、その道中で答えを見つければいい。慎の不安にせつ菜さんと果林さんがそうアドバイスを出してくれる。そして、璃奈も自分のことを支えてくれた恩返しとして全力でサポートすると自信の似顔絵を描いたスケッチブック、通称璃奈ちゃんボードを当てながらそう言ってくれた。

 

 まだ、迷いの色が残っている慎にかすみが胸を張りながら悪戯顔で慎へ意見を出す。

 

「まぁ、慎のすけがやるっていうならかすみんもちょ~~っとだけなら手伝ってあげなくもないよ?」

 

「んな意地の悪い奴はこっちから願い下げだな?」

 

「なぁ?! 人が折角サポートしてあげようって言ってるのにぃ!!」

 

「はいはい、かすみさん。どうどう。慎くんがやってみたいなら、挑戦してみていいと思うよ?」

 

 自分の気持ちを一蹴されて憤慨するかすみを宥めながらしずくさんも慎をフォローする。その場にいる全員から賛成の意見が貰えたことに安心感を覚えたのか慎の固かった表情に笑顔が戻った。

 

「そっか……みんながそう言ってくれるなら、挑戦してみようかな……」

 

「大丈夫~、慎くんが活躍できるように彼方ちゃん達もたくさんがんばるから~♪」

 

「そう言ってくれるのは嬉しいですけど、彼方さんは頭を撫でるのをやめてくださいよ……!!」

 

 慎が挑戦する意欲を見せると彼方さんは慎の頭を撫で始める。突然の行動に慎もびくっとしながらも心地が良いのか抵抗する意欲を見せない。

 

「ふふっ、初ライブ、絶対に成功させようね♪」

 

 一種の姉弟のようなやり取りを見ながらエマさんは楽しそうに笑う。俺達も彼女らと想いは同じだ。慎がやると言ったからには最高のライブとなるように全力で邁進するのみだ。

 

「では、決まりですね?」

 

「はい。俺、TMSに出て絶対に結果を残してみせます!」

 

 せつ菜さんの最終確認に慎は力強く頷いてみせ参加を表明する。

 

「わかりました。それでは早速私はイベントに参加するために運営とコンタクトを取ります。慎さんの初ライブに向けて虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会一同で力を合わせてがんばりましょう!」

 

「「「おぉーーーー!!」」」

 

 世間的には少数派である男性スクールアイドル。それがどのような大会になるのか予想ができない。それでも慎はスクールアイドルとして結果を出したいと意気込んでいる。いつになく奮起している慎を見て、絶対に勝たせたいと心の内で強く誓うのだった。

 

 

 






読んで頂きありがとうございました。

ここからは慎くんをメインとした展開となります。

是非楽しみにしていてください。

それでは次回もお楽しみに!
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