虹の袂   作:M-SYA

73 / 96

お待たせしました。

本編73話です。

それではどうぞ!



慎の秘密

 

「慎のすけが電車に乗っていった! ほら、かすみん達も行くよ!」

 

「う、うん!」

 

 私用で先に帰ろうとする慎を見守ると称した追跡を開始して、学校から最寄りの駅で慎は電車に乗って帰路に着こうとしていた。俺達は乗る号車をずらして慎に悟られないように同じ電車へと乗り込んだ。急いで電車へ駆け込んだからか息を荒げ身体が熱くなっていた。

 

「さてと、ここから慎のすけを見逃さないようにしっかりと見張るよ!」

 

「それはやるんだけどさ……」

 

 かすみは当たり前のことを話しているが、他の三人はとある一点が気になって仕方なかった。

 

「このマスクとサングラスはなんだ?」

 

「さすがに暑苦しい……」

 

 璃奈はそう言いながらマスクを顎まで下げて新鮮な空気を吸う。俺達は四人そろってマスクとサングラスで顔を見られないように変装していた。だが、全員が同じ格好をしているからか周囲からの視線が地味に突き刺さって心が痛くなってくる。

 

「当たり前でしょ! 慎のすけにバレないようにするのが目的なんだからこれくらいは当然だよ! それにいずれはかすみん達も人気者になるんだから周囲に気付かれないようにする練習にもつながるんだよ!」

 

「確かにいずれは使えるようになるかもだけど、みんなでこんな格好してたら絶対気付かれるよ……」

 

 しずくさんも表情は見えないが項垂れているように見える様子からきっと俺や璃奈と同じ感情を抱いているのだろう。かすみの言う有名税も分からなくもないが今の俺達にとっては無用の長物だ。まだライブを全員がやれてるわけではないし、知名度が上がったとは言ってもそれは世間一般で見れば雀の涙と言っても過言ではないと思う。無論、応援してくれるファンを増やすために邁進中ではあるが、まだまだ道のりは遠い。

 

「そういえば、TMSってどんなイベントなのかな?」

 

 璃奈が慎の出場する予定のトップ・オブ・ザ・メンズ・スクールアイドル、通称TMSのイベント概要について聞いてきた。俺も詳細については何も知らないのでイベントのホームページを調べて概要を確認してみる。

 

「えーと……出場する人は男性のスクールアイドルのみで、抽選で選ばれた順番にパフォーマンスして全出場者のそれが終わったら参加した観客の投票によって優勝者を決めるものだね」

 

「披露するものはダンス、歌唱のジャンルは問わず。そして既存曲か新曲かも制限はないんだね」

 

 公式サイトを閲覧しながら、イベント概要を読み上げる。しずくさんも俺に続いて出場条件を読み上げてくれた。だが、彼女が読み上げた一文にかすみは意見を被せてきた。

 

「曲の制限は問わないとは言ってるけど、やっぱり新曲が一番インパクトは強いよね? 慎のすけのデビューライブだしここで観客の心を掴み取って自信に繋げなくちゃいけないし!」

 

「そうだね。新曲を作ることになるから慎にもかなり負担を掛けることになるけど悠長なことも言ってられないし明日から頑張らないと」

 

「輝弥くんも無理しないようにね? 璃奈さんのライブからスパンが短いし、輝弥くんにも相当な負担が掛かると思うから」

 

 新曲作りが立て続けに行われている関係上、しずくさんは作曲担当である俺の心配もしてくれる。しずくさんの優しさを感じつつ俺は笑ってみせた。

 

「ありがとう、しずくさん。でも、俺は大丈夫。無理強いはしないつもりだから、そこは安心して?」

 

「そんなこと言うけどぉ、かぐ男はすぐ一人でやろうとするから嫌でもかすみん達が近くで見るからね?」

 

「うん。初ライブをする慎くんも大事だけど、その基盤を作る輝弥くんのこともすごく大事。だから、私たちに手伝えることはなんでも言ってね? 璃奈ちゃんボード『むん』」

 

 頑張る程度については以前に侑さんや歩夢さんからも釘を刺されているので理解しているつもりだ。しかし、俺の性格もあるのかかすみは曲作りに参加する意思を示す。璃奈も参加とまでは言わないが協力する旨をボードを使いながら伝えてくれた。

 

「……分かった。俺も言わずに抱えちゃう可能性があるから、その時は是非近くで見張っててほしいな」

 

「むっふっふ、当たり前じゃん! かぐ男はしず子に似て変な意固地になる所があるからそこはかすみんたちが見てあげないと〜!」

 

「ちょっと、かすみさん! 私に似てってどういうこと!?」

 

 突然自分を引き合いに出されたことにしずくさんは驚きつつも、褒められたそれではじゃないことを一瞬で理解しぷんぷんと憤慨する。

 

「べっつに〜? ただ似てるって言っただけなのにそんなに怒ることないんじゃ〜ん? お似合いって言ってるわけじゃないし〜?」

 

「むぅ……かすみさんなんか知らない」

 

 かわいい反応を見せるしずくさんを面白がるようにかすみは煽る様子を見せる。だがすぐにしずくさんは拗ねるようにぷいっと顔を背けてしまった。

 

「あ〜ん、しず子〜ごめんってば〜!」

 

 そんなしずくさんを見て、かすみは彼女に泣きついて許しを乞うた。しずくさんに嫌われたくなければそんなことしなければいいのに、こんな所もなんだかかすみらしい。

 

「輝弥くん、顔が赤いけどどうしたの?」

 

「へっ? べ、別になんでもないよ。ずっとマスクを付けてたからか顔の周りが熱くなってたのかな、あっはは」

 

 かすみにしずくさんと似ていると言われて嬉しさと恥ずかしさが込み上げていたが、その気持ちが表情に出てしまっていたみたいで璃奈に見つかってしまった。咄嗟にそれっぽい嘘を吐いて誤魔化そうと思ったが璃奈には無意味だったようだ。

 

「でも、マスク外してからそれなりに時間は経ってるよ?」

 

「うっ……」

 

 簡単に矛盾を指摘され苦虫を噛んだ顔をする。彼女のことを変に意識してるわけではないことを弁解しなくてはいけないが、口下手な俺では次に言うべき言葉が見つからず固まってしまった。

 

 だが、そんな俺に璃奈は何を思ったのか自分の手を俺の手に重ねたのだった。

 

「……抱え込みすぎないでね?」

 

「璃奈……」

 

 まっすぐに見据えられながらただ一言、彼女はそう呟いた。それがどういう意図を持ってした発言なのかはわからない。俺の心の中までは流石に察することはできていないだろうから、彼女なりの励まし方を考えた結果、こうなったのだろう。

 

「うん、ありがとね」

 

「って、慎のすけ、ここで降りてるじゃん! 早くかすみん達も続くよ!」

 

「あっ、待ってよかすみさん!」

 

 璃奈と2人で話していたらかすみが大きな声を上げて慎が下車していたことに気づいた。彼女に続く形でしずくさん、俺、璃奈の順番に電車から降りていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんで慎は海浜公園駅で降りたんだろう……?」

 

 建物の影に隠れながら慎の後ろをついているが、ふと俺はそんな疑問を呟いた。俺達は慎がてっきり誰かと遊ぶものとばかり思っていた。おまけに場所も学園からはそれほど遠くないところだから、それも含めてここで降りた意味が分からず不思議に思ったのだ。

 

「海浜公園で誰かと待ち合わせしてるのかなぁ?」

 

「でも、行き先は公園から外れてるよ?」

 

 しずくさんの言う通り、慎は海浜公園の方へは向かわずにアパートが立ち並んでいる方向へと歩みを進めている。人と待ち合わせをするなら公園が最適なのだが、その選択を取らないのが妙に腑に落ちないのだ。

 

「もしかして家に帰ろうとしてるだけなのかな?」

 

「それなら野暮用なんて言わないんじゃない? でも、慎が仮病を使うようには思えないし……」

 

 璃奈の予想も一理あるが、それでは早く帰る理由が見つからない。

 

 正解が見つからないまま彼の後をついていくと、レインボー公園の管理事務所や台場アパートの横を通り過ぎて一段と開けた場所へ出ていった。

 

「慎のすけって本当に誰かと待ち合わせしてるんじゃないの? じゃないとこんなへんぴな所には来ないと思うんだけど?」

 

「うーん、それも否定できないところがまたなぁ……」

 

 アパートの陰に隠れながら彼の後を追う俺達4人。かすみも少し疲れてしまったのか先ほどの憶測を掘り返す。確かにここならば誰にも気づかれないし誰かと密会するには最適な場所なので、その可能性も十二分にあるのだ。

 

「あっ、慎くんが立ち止まったよ!」

 

 すると慎は開けた先にある台地に設けられた石段を登り切るとそこで立ち止まった。彼が今立っている場所は俺達がいる所よりも少し高いところにあり遠くからでも彼の姿を容易に認識できる。

 

「なんであそこで止まったんだ? ここは特にパワースポットとかではないはずだけど……」

 

「……ねえ。慎くん、何か言ってない?」

 

 台地で静止した目的を考えていると璃奈は慎の言動に耳を傾けるように促す。しかし、アパートの陰からでは彼の声がちゃんと聞き取れないので台地の下にある草むらにかすみと璃奈、俺としずくさんの二手に分かれて身を潜める。そして、慎の言葉にそっと耳を傾けた。

 

「……待たせたな、真結(まゆり)。同好会のミーティングが長引いて来るのが遅れちまった」

 

 慎は女の子の名前を出し、この場所への来訪が遅れてしまった事を詫びる様子を見せていた。だが、そんな彼には少しおかしな点があった。

 

「真結……。女の子の名前だから、やっぱりかすみさんの言う通り……?」

 

「でも、しずくさん。ちょっと待って、その真結って子……()()()()()()()()?」

 

 そう、俺達にはその女の子らしき姿がどこにも見えないのだ。慎の後ろ姿で隠れている可能性もあるが、服装や髪型など面影が何一つ見えなかった。彼が霊感を持っている話を聞いたことはないが、いきなり慎が何もない所に話しかけており不審に思えてしまった。

 

「ははっ、別にお前の事を忘れたわけじゃないぞ? っていうか、お前の事を忘れる事なんて絶対に出来るはずがないさ。……俺の大事な……妹なんだからよ……」

 

「妹……。まさか……?」

 

 慎が語りかけたその言葉に俺はこれまでの慎の行動を振り返る。俺がスクールアイドル同好会に入る際に言ってくれた身内からのエールについて。そして、妹の話になりそうになった瞬間に話題を切ろうとしていたところ。これらを組み合わせて俺の中である一説が浮上した。

 

 だが、それを口に出す前に慎は突然跪いた。しかし、慎が屈んでくれたおかげで彼の姿で隠れていた物が俺達の目に映る事となった。

 

「あれは……墓石……?」

 

「……やっぱり……」

 

 しずくさんは姿を見せた大理石のお墓に口と目を開けて呆気に取られていた。しかし、慎は俺達に気付くこともなく墓石に向かって語り始めた。

 

「今日さ、次のライブの話になったんだよ。この前に話した俺の同級生の璃奈がライブを成功させて、この勢いのまま次へ走ろうって事で誰が次にライブをやるかって話になったんだ」

 

「…………」

 

「そうしたら、今度は俺に白羽の矢が立ったんだよ。トップ・オブ・ザ・メンズ・スクールアイドルって言って男のスクールアイドルのみで行われるイベントなんだってさ。2週間後に開催されるそれに俺が出場することになったんだ!」

 

 墓石へ話しかける慎の声は段々大きくなっていき、嬉しさも込み上げているようだった。

 

「今までは誰かのサポートに回ることが多かったけど、今度は俺の番。お前が観たかった景色を俺が見せてやるから、お前が叶えられなかった夢を……俺が叶えてみせる。だから……応援してくれよな?」

 

「真結ちゃんが観たかった景色……」

 

 憂いを帯びながらもどこか優しげな雰囲気で語り掛ける慎。真結ちゃんはスクールアイドルを目指していたのだろう。初めてかすみから同好会への勧誘を受けた際に、その当時から慎は既にスクールアイドルの事を知っていた。それは真結ちゃんの存在もあって知り得たことなのだろう。

 

「明日から本格的に練習が始まる。しばらくはちゃんと顔を出せないと思うから寂しがるんじゃねえぞ?」

 

 慎はそう言うと徐に立ち上がりこちらへと踵を返した。突然彼が戻ってきたので、思わずしずくさんと肩身を寄せながら息を潜ませる。しずくさんとの近い距離感や慎にバレないかで心臓が激しく鼓動しているが、慎は俺達に気付く様子もなく駅の方面へと歩いていった。

 

「……ふぅ……なんとか気付かれずに済んだね」

 

「そうだね。こっちに戻ってきたときはドキッとしたけど」

 

 慎の姿が見えなくなり、俺はしずくさんから離れて一息つく。かすみ達も草木から抜けてこちらへと駆け寄ってきた。

 

「ねえねえ! さっき慎のすけが話してたのって……!」

 

「その答えが、この先にあるよ」

 

 かすみの問いに俺は墓石を見据えながら言葉を被せる。そして、その答えを確認するために俺達は石段を登り、墓石へと近づく。

 

「……鈴川(すずかわ) 真結(まゆり)。昨年亡くなり享年 13歳。ということは、やっぱり慎の妹は……」

 

 墓石に刻印されていた名前と生が失われた年齢を読み上げる。まだ中学生にも関わらず早すぎる死を迎えている慎の妹に同情せざるを得なかった。

 

「……前から慎くんが妹さんの事を話したがらなかったのはこういうことだったんだね」

 

 しずくさんの言葉に俺は頷いて肯定する。慎の立場としては既にこの世からいなくなっている妹の話をして、暗い雰囲気にしたり余計な気を遣わせなくなかったのだろう。俺達の事を気に掛けてくれる慎の配慮に頭が上がらなかった。

 

「妹さんもスクールアイドルに憧れてたんだね。だからその想いを慎くんが受け継いだ」

 

「ふん、それがどうだっていうのさ!」

 

 慎と彼の妹の想いに触れた璃奈はより一層ライブを成功させたいと声音が大きくなった感覚があった。しかし、それと反対にかすみは何か思うところがあるのか不服げに腕を組んでいた。

 

「かすみさん? どうしてそんなことを──」

 

「慎のすけにどんな理由があっても練習のやり方を変えるつもりはないからね! かすみん達がやろうとしていることは今ここでスクールアイドルをやってる慎のすけを誰よりも輝かせることなんだから!」

 

 大事なことを隠していたことに怒っているのかと思ったが、どうやらかすみはそうではないようだ。大きな声で語るそれは墓石に眠っている真結ちゃんへも伝えているようだった。

 

 にこっと微笑むかすみを見て、俺達三人もつられて笑顔になる。

 

「そうだね、慎にどんな事情があっても俺達の目的は変わらない。慎がやると決めた以上、悔いのないように全力でサポートをするのみだよ」

 

「みんなで慎くんの力になろう!」

 

「私もがんばる。璃奈ちゃんボード『おぉー』」

 

 璃奈が声を一緒に腕を突き上げる。それに合わせて他の三人も一緒に声を合わせながら天へと突きあげた。そして、俺は真結ちゃんの眠る墓石へと振り向き眼前で正座を組んだ。

 

「真結ちゃん、慎の夢を俺達が支えます。今回のイベントに参加する誰よりも、彼を輝かせてみせるから。だから、どうか慎の事を……俺達の事を……見守っていてください」

 

 そう言いながら俺は手を合わせて祈りを捧げる。後ろからしずくさん達の声が全く聞こえないことから恐らく俺の後に続く形で彼女たちも弔意を表しているのだろう。

 

 祈りを捧げる俺達の元へ静かに風が吹き出した。そっと頬を撫でる優しい清風はまるで真結ちゃんの想いが俺達に中へ吹きこまれるような不思議な感覚だった。

 

 






読んで頂きありがとうございました。

ついに慎くんの秘密が明かされました。
彼のルーツに触れた輝弥くん達の行動は如何に?

それでは次回もお楽しみに!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。