虹の袂   作:M-SYA

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お待たせしました。

本編74話です。

それではどうぞ!



それが君の……?

 

「じゃあ、今日は作曲を始めていこうか?」

 

「おうよ、よろしく頼むぜ」

 

 慎の秘密を知った次の日。今日はライブをやるための要でもある楽曲作りを行う事としていた。あの後、慎は俺達の存在に気付いた様子もなかったので、今日もいつもと変わらぬ装いで音楽室へやってきた。

 

「今回、慎が歌いたいテーマに沿って楽曲を作っていくことになるけど、慎はどういう歌を歌いたいとかイメージはある?」

 

 曲作りを行うにあたり、俺は鉄板の質問をする。制作を始める際に一番必要なものは本人の意思に沿っているかである。だが、俺の質問に慎は腕を組んで渋い顔を作っていた。

 

「うーん、悪いけどまだ明確なイメージは出来てないんだ。俺なりに考えてるんだけどイマイチピンとこなくてな……」

 

「そっか、でも自分がいざやるってなると中々実感が湧きにくいよね。じゃあ、俺も慎に歌ってほしいイメージを出すからそこから広げてみようよ」

 

 俺も素案作りに関して慎に任せっきりにはしたくなかったので慎が以前に語ってくれたことも含めて密かに構想を練っていたのだ。

 

「本当か? いつも頼りっきりにしてて悪いな……」

 

「別に気にしないでよ。慎はいつも俺の事を助けてくれてるんだもん。これくらいはできるようにしないと慎に申し訳が立たないから」

 

 手を合わせて申し訳ない様子を見せる慎にふっと微笑んで気にしていない様子を見せる。これまでは曲作りに根詰めていた所を慎に見張っててもらっていたから無理強いすることなく作業を進めることができていた。だからこそ、今回はこれまでの恩を返す意も込めて慎のライブへこの上なく気合が入っているのだ。

 

「……ありがとうな。なら輝弥が思うイメージを教えてくれよ」

 

「うん、任せてよ!」

 

 慎の催促を聞き、俺は鞄にしまっているノートを取り出す。これに慎の曲について思い描いていた物を箇条書きで書き連ねているのだ。

 

「まず、慎って以前にかすみからスクールアイドルのあるべき姿は何かって聞かれた時に、見ている人を熱くさせるパフォーマンスをするって言ってたでしょ?」

 

「あぁー……そんな事も言ってたな?」

 

 かすみによるスクールアイドル講座が開かれた時に慎が言っていたことを掘り返す。慎は自分の言ったことが朧気になっているのか曖昧な返事をしていた。

 

「もう、自分で言ったのに忘れたの? まあいいんだけど……それで、もしかすると慎はそういうパフォーマンスをしたいのかなって思って、まだ乱雑だけど合いそうなイメージを書いてみたんだ」

 

 そう言いながら俺はノートを閉じ、ピアノを弾き始める。最初はスローペースで曲が始まっていくが中盤に進むにつれてテンポが上がってくる。黙々と弾いている横で慎は口を噤んだまま俺が奏でるピアノの旋律に耳を傾けていた。

 

 

 

 暫し無言のまま時間が流れていき、俺がデモを弾き終えると慎は無表情のまま拍手を送ってくれた。

 

「なるほどな……、熱くなるとは言ってもアップテンポで乗るわけではなくミディアムテンポでじっくりと燃え滾らせるって事か」

 

「うん。激しく燃えるようなイメージでも良いんだけど、それだとせつ菜さんと被る気がするからそこの棲み分けも兼ねてね。慎だったらこういうのでもこなせそうな気がするから」

 

 普段、慎と接してる印象として、やらないと何も始まらないという信念をモットーに何事にも常に挑戦する気概で彼は挑んでいるように思える。そして、周りがどのように進めばいいか分からなくなった時にも彼なりの励まし方で前に進む勇気を与えてくれる。寂しさや不安で冷えた心を(かがり)火の如くやさしく温めてくれるのだ。

 

 俺の考えに慎は顎に手を添えながら噛み締めるように頷く。

 

「ふーん、今の俺って周囲からはそうやって見られてるのか……」

 

「全員からかどうかは分からないけど、少なくとも俺はそう見てるよ」

 

「……なんか、はっきりとそうやって言われると恥ずかしくなってくるな」

 

 慎はそう言いながら顔を赤くする。普段は自分のことを客観的な意見を聞く機会が少ないから、自分の知らないことが分かって余計に恥ずかしくなってくるのだろう。

 

「ふふっ、慎がそうやって照れるのも珍しいね。慎は俺のイメージを聞いてどう思った? 慎自身が思ってる事と認識が似てたら嬉しいんだけど……」

 

「そうだな……。俺は、どちらかというとキラキラした姿を見せて……観客たちに夢を見せてあげたいなって……思ってるかな……?」

 

「……キラキラした……姿……?」

 

 俺の問いに慎は少し考え込む素振りを見せながら彼自身が思い描いている姿とのギャップについて答えてくれる。篝火のようなやさしい雰囲気という先ほどの俺の意見と食い違っていたのでつい奇異なものを見る表情をしてしまった。

 

「あっ、俺、変な事言っちまったか?」

 

「えっ? いや、そうじゃないんだけど、さっきまでの俺の意見を肯定的に聴いてくれてたと思ったからまさか方向性が違う意見が出ると思わなくて」

 

「確かにそうかもしれないけど、世間一般のスクールアイドルはどちらかというと後者の方が多いだろ? アイドルを見に来る人達は純粋にイベントを楽しむ人もいれば、悩みを抱えていて元気をもらうために足を運んでる人だっている。俺は、過去にひどく落ち込んで物事が何も手に付かない時期があった。だから、そんな人たちにも俺なりのやり方でエールを送りたいんだ」

 

 慎の言い分もわかる。彼が言いたい事はおそらく妹を亡くしてからの生活の事を意味しているのだろう。そこで何かしらの縁からこうして立ち直ることができたからこそ、自分と同じ境遇の人間を救ってあげたい、そう考えているのだろう。

 

(ということは静かに燃えるというよりかは明るい元気の出る曲の方が良いって事かな……?)

 

 慎の意見を聞いて、俺は彼の言葉を反芻しながら楽曲の方向性について考え直す。慎が求めているものと俺が提示したものはかみ合っていない。そうなれば彼が要求するものは愛さんと似たものになる可能性が高いが、彼がその方向性を望むのであれば応えてやるのが作曲者の役目だ。

 

「……分かった。慎がそう言うならもう少し俺も曲の構成を考え直してみるよ。また相談させて?」

 

「あぁ。だけど、せっかく作ってくれたのに悪いな」

 

「別にいいって。これは俺が感じたことを形にしただけで慎の希望が何も入っていないから。一番は歌い手である慎が気持ちよく歌えるようにすることだから、今の意見はすごく助かるよ」

 

 俺がせっかく考えてきた案を否定したことに頭を下げる慎だが、気にしてほしくない俺はフォローの言葉を掛ける。むしろここで俺の意志を貫いてしまったらこれは『慎のための曲』ではなく『俺のための曲』となってしまう。それは慎を見に来た観客の楽しみを奪ってしまうことと同義だ。

 

 すると、音楽室の扉がガラガラと音を立てながら開いた。

 

「やっほぉ~二人とも! しっかりやってるか見に来たよ~!」

 

 そこにはかすみがいて、どうやら俺達の進捗を確認しに来たようだった。

 

「やあかすみ、練習は順調?」

 

「まあね~♪ ダンスや筋力トレーニングもばっちりこなしてきて今は休憩中なんだ~」

 

 練習を楽しくやれてる証拠か、かすみはルンルンとスキップしながら俺達の横へやってきた。

 

「ってそれよりも、慎のすけの曲作りは順調なの?」

 

「えーと、案は考えてきてたんだけど、慎のお眼鏡にかなうものじゃなかったから再考することにしたよ」

 

 あははっと笑いながら進捗を説明しているとかすみは気の抜けた返事をしてきた。

 

「へっ? 初めの案って慎のすけが考えてきてたわけじゃないの?」

 

「うん、まだ慎もどういうのが自分に合うのかが分からなくてイメージが掴めてないって言ってたから、まずは俺が慎で描いたイメージを聞かせてたんだ」

 

「……ふぅ~ん。そうなんだ」

 

 かすみは口ではそう言いつつも何か物申したげな表情をしていた。だが、俺はそれを気に留めずに話を続ける。

 

「最初は静かに燃えるイメージで考えてたんだけど、慎はどちらかというとキラキラした曲を歌いたいって言ってたから、そっちの方向で曲を考え直すことにしたんだよ」

 

「えっ……慎のすけがキラキラ……?」

 

「なんだよ、何か文句でもあんのか?」

 

 慎が語った曲のイメージについて教えるとかすみは眉をぴくっと動かして怪訝な顔をする。そんな彼女の態度に慎も眉をしかめながら噛みつこうとする。

 

「……いーや。慎のすけにそんなイメージが合うのか考えたけど、慎のすけがそうしたいと思うならとやかく言ってもだめだよね」

 

 だが、かすみはそのいがみ合いに乗ろうとはせず、すぐに困り眉を作りながら笑顔を見せる。いつもと違うその所作に俺は違和感を覚える。

 

「かすみ? 一体何を──」

 

「って、かすみん、もう休憩時間が終わっちゃうから戻らないとー!」

 

 問いかけようとした矢先にかすみは思い出したかのように声を上げながら席を立ち、音楽室の扉へと駆け寄る。そして、音楽室を去る直前にこちらへ振り返り、ビシッと指を差してくる。

 

「それじゃあ二人とも次もサボらずにね!」

 

「あっ、かすみ!」

 

 呼び止めようと声を掛けるもかすみは耳を貸さずに扉をバタリと閉めてしまった。

 

「……俺達も曲作りを一旦止めてそっちに合流しようと思ったのに……」

 

「ったく、あいつの早とちりも変わんねぇな」

 

 今から作り直すとなると時間が更にかかってしまう。そうなると慎のライブに向けたその他の準備も疎かになってしまうため、今回は俺の宿題として切り上げようとしていたのだ。

 

 慎もかすみが居なくなった方向を見つめながら苦笑する。そして、徐に立ち上がるとずっとまともに動かしていなかった両腕を天井へ思いっきり伸ばした。

 

「俺達も外へ行こうぜ。今回の事、俺ももう少し考えてみるから」

 

「うん、わかった」

 

 楽曲作りは振出しに戻ってしまったが、それでも慎の本音を聞き出せたことが収穫ではあるのでこれが次につながることに期待をしつつ俺達は音楽室から退室し、部室へと足を運ぶのだった。

 

 





読んで頂きありがとうございました!

本編と話は逸れますが、本小説に表紙をつけました。
既に気付いた方もおられるかと思いますが、本小説のイメージ絵として申し分ないものとなっております。

これをつけようと思ったのもいつも読んで下さる皆さんのお陰です。
いつもありがとうございます。

これからも本小説をよろしくお願いいたします。


長くなりましたが、それではまた次回もお楽しみに!
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