お待たせしました。
本編80話です。
それではどうぞ。
俺は幼い頃から身体を動かすことが大好きだった。運動神経は元から優れていたのもあり、サッカーやバスケ、野球など球技に関してはどれもすぐにコツを掴んで相応の成績を収めていた。
そして、そんな俺には一人の妹がいた。
名前は
真結は俺と違い、運動はあまり得意ではなかったがそれでも外で遊ぶことは好きでよく友達と公園で遊んでいた。
そんな妹も家でハマっていることがあった。それはアイドルを応援すること。妹は世間の女の子と同じように可愛いものが好きだ。テレビで見るアイドルのパフォーマンスにはいつも釘付けになっていた。録画も欠かさずやってもらって、時間がある時はそのパフォーマンスを見て、練習するくらいだ。
「真結、またそのアイドル見てるのか?」
「あっ、お兄ちゃん! だって、この人たちを見てると元気をもらえるんだもん! 何回でも見てられるよ!」
「それでも、これで10回目くらいじゃねえか?」
「それくらい飽きずに見るほどかわいいってことなの!」
その日も真結はリビングでアイドルが出演するテレビ番組を見ていた。録画していたものを何回も見ているため、次にどんな曲が披露されるのか俺も自然と理解してしまうほどに彼女は熱中していた。だが、今日は普段と違いステージが終わると真結は脱力感を味わいながら静かに何かを呟いた。
「……いいなぁ……」
「真結?」
妹の発言をもう一度聞こうと俺は問いかける。
「わたしもこの人たちみたいにキラキラな衣装を着て、歌を歌ってみたいな……。だってすごくまぶしいんだもん」
真結はテレビに映るアイドルを羨望の眼差しで見つめる。カメラの前だからこそ笑顔やウィンクでのファンサービスも送ってくれているが、そんな可愛らしい姿が真結には羨ましく見えるようだ。
「この人たちみたいな可愛いアイドルに……わたしもなれるかな……」
真結はアイドルへ密かに憧れを抱いているようだった。たくさんの人の前でキラキラした姿を見せる彼女たちの姿がまぶしく見えるようだ。
「そんなの今はわからないだろ」
「えっ?」
真結が抱いている不安に俺はそんなものはわからないと言う。俺の言ってることを理解できず真結は疑問を浮かべる。
「これから先のことなんて今考えても分かるわけがない。でも、その未来のために今から始めることはできると思うぜ」
真結は当時、まだ小学生。その願望を抱いたからといって頭ごなしに否定しようとする人間はいない。むしろ、子どもの頃からそういった夢を持つというのは良いことだと思う。俺も当時は中学生になったばかりだったが、将来のことなんてまだ考えるつもりもなく、ただ漫然と自分の好きなことに明け暮れていた。
「真結は可愛いし、もしアイドルをやるっていうなら俺は全力で応援するぜ」
「もうお兄ちゃん、なんだか恥ずかしくなるからやめてよ〜」
可愛いと褒めてやったら真結は顔を赤くして照れ笑いを浮かべる。そういった仕草も男の目線で見るとすごく応援したくなるから、彼女にはアイドルの適正が備わってるんじゃないかと思う。
「……でも、ありがとう。お兄ちゃんがそう言ってくれるなら、わたし、がんばって目指してみようかな……」
「あぁ。その時は俺が真結のファン第一号だな?」
「もう〜本当に気が早いってば〜!」
そう言って俺と真結は笑い合う。
これが、真結がアイドルを目指すことになったきっかけ。元々アイドルに憧れは抱いてはいたが目指すことなど夢のまた夢だと思っていた。むしろ普通ならば他人に話したところで冗談として揶揄われていたかもしれない。
だが、俺は真結の想いを理解している。彼女がどのような目でテレビに映るアイドルを見ていたか、その始終を目撃しているからこそ応援してあげたかったのだ。
それから彼女は中学校に入ってからあることを進言してきた。
「お兄ちゃん。私、ダンススクールに通おうと思うの」
「ダンススクールに?」
家で普段通りの日常を過ごしていた時、ふと真結が俺を訪ね開口一番にそう言った。
真結はアイドルになるための第一ステップとしてまずはダンスを踊れるようにしたいと考えたようだった。身体を動かすことは好きな真結だが、スポーツをやっているわけではないので体力があるとはあまり言えない。だからこそ、専門のコーチに教わることで効率が良いと踏んだのだろう。
「そうか。いいんじゃねえか? 身体作りもアイドルを目指す上で大事なことだ。ダンスは詳しくねえからあまり力にはなれねぇと思うけど、でも応援してるぜ」
「ありがとう。お兄ちゃんならそう言ってくれると思ったよ。それと……この件でお兄ちゃんに相談があるんだ」
真結が口を篭らせながら俺に相談をするなんて今まで見たことがなかった。
「なんだ? 俺にできることならなんでもやってやるよ」
「……ダンススクールがない時、私のダンスを見てもらえないかな……?」
「ダンスを見る?」
頼みごとの内容に疑問を浮かべていると真結は詳しく補足してくれる。
「学校がない時は先生から教わったことを家で自主練しようと思ってるんだけど、私一人だと上手く出来るかわからないし筋トレとかも自信ないんだ……。だから、お兄ちゃんに隣で見てほしいの」
真結の頼み、それは運動をあまりやらなかった彼女からしたら当然の相談だった。自分一人で闇雲に挑戦するよりかはその分野に精通している人間に教えてもらった方が無駄にならない。
だが、それを聞いて即座に了承することが出来ないことも事実だ。俺は中学3年生になり、部活動でバスケをやっていた俺は放課後も部活に明け暮れており、彼女の練習に時間を割くことができるかわからなかった。
「……お兄ちゃんに無理を言ってることはわかってるんだ。部活でも良い成績を取ってるし、プレーヤーとして優秀だって話はよく耳にするから。毎日じゃなくても、お兄ちゃんの手が空いてる時でいいの」
真結は表情を暗くしながら自分の手を握る。無茶な要求を出しているようで罪悪感を抱いているようだ。
「……だめ……かな……?」
不安気な表情で俺を見つめる真結。その目は心なしか諦めを宿しているようにも見える。
彼女がこうして真剣に悩みを打ち明けるのは初めてだ。普段であれば何気ない様子で相談してくることがお決まりだったが、今の彼女は普段のそれとは程遠い様子。これまで以上に自分の将来を考えているし、俺の生活を案じてくれているようだ。俺のことまで気遣ってくれる真結を見て、良い妹を持ったもんだと俺は密かに思う。
「わかった。お前がそう言うならやってやるよ」
「えっ、ほんとう!?」
了承をもらえると思わず顔を近づけながら確認してくる。
「あぁ。ただ、体力作りっていうのは毎日続けないと意味がない。それにダンスをやるための体幹も必要になってくるからな。だから、ダンススクールの有無に関わらず、これは毎日やるぞ。そのために俺も付き合ってやる」
「ま、毎日!? それにお兄ちゃんも付き合うって……」
「お前がそれだけ自分の夢に向き合おうとしてんだ。真結がやりたいことに本気で取り組もうとしてるから俺もそれに応えてやりたい」
真結の願いは俺の願い。ずっと俺の後ろを付いてきていた妹が自分の意志で将来を決めたのだ。その抱いた願いは絶対に壊しちゃいけない。そして、俺が原因でその道を諦めてしまうなんて、もってのほかだ。
「大丈夫だ。本当にキツそうであればまた言うし、真結は気にしなくていいさ。その代わり、やるなら自分のやれるところまでしっかりと貫けよ?」
「……うん、わかった! お兄ちゃんが協力してくれるなら、私もやれることは全部やってみる!」
真結は決意を固めるようにそう言うと俺に頭を下げてくる。
「お兄ちゃん、ありがとう。ふつつか者ですが、よろしくお願いします!」
「それは少し意味合いが違うけど……まぁいいか。真結を誰もが好きになってしまうようなそんなアイドル目指して頑張るぞ!」
「おぉ〜〜!!」
こうして、俺と真結によるアイドルを目指す二人三脚の旅が始まる。
それからというもの、真結は非力ながらに俺の指導へ必死に食らいついていった。
筋トレをやり方やダンススクールを終えた後の走り込み、正直体育会系の練習と遜色ない扱きとはなったが、真結は決して弱音を吐かなかった。疲労で身体が動かなくなったり、筋肉痛に苛まれたりと今まで体験したことがないような辛さが身体に押し寄せてきた。
だが、彼女は負けじと立ち向かっていた。アイドルを目指したいという真結の心が真結自身を奮い立たせていたのだ。
そして、ダンスに関してもダンススクールに通ったことでめきめきと頭角を現していった。自主練で身体を鍛えているから、というのもあるが体幹の良さは同期生と比べても目を見張るものらしく、それは俺と同様に運動に対してのポテンシャルを秘めていた証拠だろう。
それと合わせて、彼女と同じように俺にも大きく変化があった。
当時、俺自身も真結がどのようなダンスをやっているのかを理解するために彼女が習得したダンスを真似していた。俺もダンスに関しての知識を習得しておくことで彼女が行き詰まった時に、具体的な助言を与えやすくするためだ。
正直、バスケをこなしながらダンスのことも覚えるというのはとんでもなく大変なことだが、今まで経験したことがない内容をたくさん知ることができたため、新鮮な気持ちだった。その結果、ダンスで身体の使い方についてバスケにも活かすことができて、真結だけでなく俺の成長にも貢献することになったのだ。
「お兄ちゃん、誕生日おめでとう〜!」
真結がアイドルを目指す決意を固めてから半年。真結は見た目こそ大きな変化はないが、運動能力に関してはめざましい成長を遂げている。毎日のランニングについてもいつも5kmほど走っているが途中で息を切らすことも無くなった。
そして、ダンスに関しても様々なテクニックを身につけていた。より魅力的に見せる手の振り方やステージ上での動き方など講師も感嘆の声をあげていたと真結から話を聞いていた。
そんな練習に明け暮れていた日々の最中、その日は俺の誕生日だった。学校が終わって家族での誕生日パーティを催しており、真結は祝福するためのクラッカーを俺の頭上に向かって祝砲をあげる。
「あぁ、ありがと。なんだかんだでもう15歳になっちまったな」
「でも、まだ伸び盛りじゃん! 部活だってお兄ちゃんの活躍で成果を上げられてるんだし、妹として私も鼻が高いよ〜!」
そう言って真結はふふんと鼻息を立てる。彼女の言う通り、真結と毎日欠かさず練習を重ねたおかげで、俺も運動能力が向上していた。部活動の大会でも常にレギュラーとしてチームを引っ張り、他の選手にも追随を許さなかったのだ。知らぬ間にそこまで高いレベルに登っている事実に俺自身が驚きを隠せなかったまである。
「だけど、それはお前の練習に付き合ってるおかげさ。真結があの時アイドルを目指すなんて言わなかったら、俺も部活での練習に満足してて今の状態には辿り着けてなかっただろうさ」
もし、真結が今までの彼女と同じようにただ夢見る少女のままでいたならば、俺も変わっていなかっただろう。彼女のために付き合ったことが奇しくも俺自身の成長にも関わっているからこそ、真結には感謝の念しか抱かなかった。
「真結が勇気を出さなかったら、今の俺はここにはいない。だから、ありがとうな」
「お兄ちゃん……」
頭を撫でながら真結にお礼を言うと真結はダンマリとしながら俺を見つめる。自分の勇気が誰かの手助けにつながっていた事実に驚いているのだろう。
「わたしも、お兄ちゃんがいなかったらここまでやれなかった。どんなに辛くてもお兄ちゃんが側で応援してくれたからわたしもここまで続けることができてる。そして、これからもアイドルを目指すために頑張っていこうと思うの」
真結は自身の想いをそう語ると、懐からとある小箱を取り出す。
「だから、お兄ちゃんへのこれまでの感謝とこれからもお世話になりますという思いを込めて……」
真結からの誕生日プレゼントだと悟った俺は笑顔でそれを受け取る。そして、徐に蓋を開けて箱の中身を確認すると、そこにはペンダントが入っており、先端には蒼玉が埋め込まれていた。
「なんだこれ? ペンダント?」
「うん、お兄ちゃんがこれからも勝てますようにっていうおまじないも込めたわたしからのプレゼント! 未来のアイドル、鈴川真結のファン第一号に向けた贈り物、なんてね♪」
未来のアイドルと呼称し真結は元気に笑って見せる。きっと今までの感謝の品として渡すとなると重く受け取られてしまうため、未来のアイドルから贈り物と称してプレゼントを用意してくれたのだろう。
「先に付いてるのはサファイアでね、お兄ちゃんの誕生石。『揺るぎない心の象徴』って意味があってすごくお兄ちゃんにぴったりだなって思ったの」
「揺るぎない心の象徴……」
まさか真結が誕生石や石言葉を調べた上で選んでくれたと思わず、嬉しさのあまり言葉が出てこなくなってしまった。自分のためだけでなく妹のためにも自分にできることを誠実に取り組むその姿が真結にとっては眩しく、かっこよく見えていたのかもしれない。
「……ありがとう。すごく嬉しいよ」
「えへへっ、喜んでもらえたならよかった……!」
俺が嬉しそうにしている様子を見て安心した真結はほっとした顔でそう語る。そして、「それとね……」と次の話題に話を切り替える。
「わたし、アイドルを目指す上でスクールアイドルを始めてみようと思うの」
「スクールアイドル……?」
スクールアイドルという聞きなれない単語に俺は首を傾げる。俺がこういった反応を示すことをわかっていた真結はすぐにスクールアイドルについて説明してくれる。
「学校でやるアイドルなんだけどね、高校ではすごく人気のコンテンツなんだって! 普通の高校生が自分たちで本物のアイドルと同じようにライブをやったりイベントを行ったりするんだって!」
「へぇ〜、今はそんな文化もあるのか……」
アイドルと同じようにイベントやライブを開催する。一般的な大人でもやらないであろう催しを高校生の時点で行うというのだ。俺にとってはまったくの未知の話だったのでどういったことをやるのか皆目検討がつかなかった。
「今だとラブライブっていうスクールアイドルの大会もあるみたいでね? アイドルを目指す上でこれに挑むのもいいなって思ったの」
「なるほどなぁ……」
プロのアイドルを目指すために、アマチュアのアイドルとしてラブライブへ参加して将来のために経験を積む。真結の目指すアイドルプランとしてはまさに最良の案といえる内容だろう。
「スクールアイドルは高校生からじゃないとなれないから、今はまだ無理だけど……。でも高校生になったら、わたし絶対にスクールアイドルになる!」
きっぱりと言い切った真結の様子に俺は静かに笑みを浮かべる。自分の道をしっかりと決めているその姿に俺が申し入れる内容など何もなかった。
「……分かった。真結がそう言うなら俺は応援するのみだ。まずはスクールアイドルを目指して頑張っていこうぜ!」
「おぉ~!」
真結のアイドルへの道は順調に構築されていった。彼女の目指す最終目標、そこにたどり着くための道のり、その歩き方、全ては順風満帆に完成されており、あとは真結の心の赴くままに走るのみだった。
しかし、そんな彼女と彼女のためのレールをあまりにも唐突な嵐が破壊の限りを尽くすのだった。
「お兄ちゃんの最後の試合、楽しみだなぁ~。絶対誰よりも声を張って応援するからね!」
誕生日を迎えてから数週間、俺は中学3年生ということもあり部活も引退を控えていた。その日はバスケ部として挑む最後の大会。これが終わった時、俺は部活動を引退することになる。
「おう、コートで聞いててやるぜ。それにしても、こんな朝早くからついてこなくてもよかったのに、お前は物好きだよな」
「だって、お兄ちゃんの最後の大会なんだもん。今日は最初から最後までずっと一緒に見ていたいから!」
俺は会場での最後の練習や開会式などがあるため一般の観客よりも早めに出なくてはいけない。真結は一般の観客なので俺と時間を合わせる必要はないのだが、彼女は「ついていく」と言って聞かなかったのだ。しかし、俺としても最後の大会ということで緊張してしまう節はあっただろうから真結がついて来てくれたのは精神的にも助かる。
「まぁ、俺も気がまぎれるってもんだからそれは感謝してる。今日は絶対優勝を掴み取ってみせるさ」
「おっ! 慎選手、気合はばっちりですね~!」
握り拳を作りながら、そう意気込む様子を見せると真結もマイクを持ってる風を装ってアナウンサーのような口調を取る。朝から二人して元気だなと我ながら思う。
すると、真結は俺の首元に何かが掛けられていることに気が付いた。
「あっ、お兄ちゃん、首に何か掛けてる?」
「おっ、気付いたか。実はこれだ」
そう言って、俺は首に掛けているものを取り出す。その正体を知り、真結は大きな声を上げる。
「……それ、この前の誕生日プレゼントの!?」
俺が掛けていたのは誕生日に真結からもらったサファイアが装飾されているペンダントだ。
「これをつけてると不思議と力が湧いてくるんだ。今まで真結と練習してきたことが自信となって俺に力をくれる。だから、今日の大会でも絶対に勇気を与えてくれると思ってな」
このペンダントをつけてからというもの、部活の成績も非常によくなっていた。彼女との体力作りのお陰もさることながら、まるでおまじないが掛けられているような気分になり、相手に臆することがなくなり、より限界へ挑戦する勇気をもらえたのだ。
「そうなんだ~! ……えへへっ、私のプレゼントがこうしてお兄ちゃんの力になってるって思うと嬉しいな……!」
真結は何気ない自分のプレゼントが兄の活力になっていることを知ってはにかむ様子を見せる。
「今日もこれがあることでどんな試合にも勝てる気がするんだ。だから絶対見ててくれよな」
「……うん! 私、絶対応援するからね!」
真結と話していると会場が目前に見えてきた。会場に向かうための交差点で俺たちは赤信号で立ち止まる。
「よーし、今日は私ものどを嗄らす勢いで声を出すからしっかり聞いててね!」
「あぁ、当たり前だ!」
そして、横断歩道の信号が青に切り替わる。真結は切り替わったことを確認して我先にと走り出した。
「さぁ、お兄ちゃん! 早くはや──」
真結がそう声を上げたとき、世界が著しく遅くなって見えた。突然の超能力で時間が遅くなってしまったのか、真実は誰にもわからない。だが、世界が遅くなっている一方で目の前で訪れる事象には何も抵抗ができなかった。
大きくクラクションを鳴らして走る自動車。ゆっくりと音の発信される方向を見つめる真結。逃げることもできずに、1トンを超える金属の凶器が真結に襲い掛かる。鈍い音を発しながら真結は声を上げることもなく大きく吹き飛ばされた。
「……真結…………?」
真結を撥ねた反動で交差点のガードレールに衝突し停車する自動車。突然の騒音を聞いて周囲に人が集まりはじめ喧騒が大きくなる。
そして、路上で這う姿勢のままピクリとも動かない真結を見て、俺は今の状況を一瞬で理解した。
「…………まゆりぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
交差点周囲の騒めきが大きくなる中、俺の悲鳴にも近い叫びが辺りに響き渡るのだった。
それは突然やってきた。