虹の袂   作:M-SYA

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お待たせしました。

本編84話です。

それではどうぞ!




奇妙な宿敵

 

 TMS当日。会場に入るとそこには観客とスクールアイドルが入り混じっていた。会場内は女性のファンが多く溢れており各アイドルを囲う形でサインを求めたり歓声を上げていた。

 

「こういったスクールアイドルの大会は初めてだけど、男性のものでもこれだけの規模なんだ……」

 

「ほんと、スクールアイドルってどこまでも世界が広いな」

 

 周囲で団子状態となってる人らを見て俺と慎はスクールアイドルの世界の広さを実感する。男性のアイドルはマイノリティだけれども、この人気ぶりを見るととても狭い世界とは思えなかった。

 

「確かに周囲のレベルは高いですが、心配することはありませんよ! 今の慎さんは他の人に負けていないレベルのパフォーマンスができます! 自分の力を信じましょう!」

 

「そうね。気持ちで負けていたら勝てるものも勝てないわ。それに貴方も動画で顔は見せてるんだし、応援してくれる子はいるはずよ?」

 

「そう思いたいですけどねぇ……」

 

 せつ菜さんと果林さんに尻を叩かれ、慎も渋々返事をするが自分と他のアイドル達とのオーラの違いに言葉が見つからない様子だ。

 

 慎としてはこれが初めてのスクールアイドルのイベント。ましてやステージに立つことも今回が初となるのだ。練習は積めど本番は積んでいない。本番に挑んだ回数としては明らかに負けているからこそ他のアイドル達に気圧されてしまうのだ。

 

「……なぁ、あれってニジガクじゃね!?」

 

 慎へのフォローの言葉を考えていると、遠くからうちの学校の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。

 

 声のする方へ顔を向けると、そこには紫髪の青年と青髪の青年がこちらを見てひそひそ話をしていた。

 

「あれは……さっき外にいた……」

 

「Drawing Storyの今上 月未さんと山本 照哉さんですね」

 

 顔を見覚えがあったので記憶を掘り起こそうとしたらせつ菜さんが答えを教えてくれた。

 

「なあ月未さん。一緒に行ってサイン貰ってこないか?」

 

「いいねぇ~、俺もあの子らのファンだからぜひ貰いたいね」

 

「月未さんに照哉さん、二人してなに抜け駆けしようとしてるんですか。俺も混ぜてくださいよ!」

 

 月未さんと照哉さんに突っかかる金髪の男性。確か、京雅と呼ばれていたはずだ。付いてくることに賛成の京雅さんを見て、月未さんが大きく声を上げる。

 

「よっしゃ、じゃあ時間もまだあるしさっさと貰いに行こうぜ!」

 

「何してるんですか、三人とも?」

 

 こちらへ駆けだそうとした三人を引き留めたのは白髪をまとった甘いルックスの青年、龍元 大和さんだった。大和さんに呼び止められた照哉さんが代表して言葉を返した。

 

「何って、サインをもらいに行くんだよ。ほら、最近巷で話題の虹ヶ咲学園のスクールアイドルがここに集まってるんだぜ? ここで貰わずしていつ貰うんだよ?」

 

「ですが、僕たちは遊びに来ているわけではありませんよ? 刄さんも言ってたじゃないですか、今日はライブをしに来たんですから緊張感は持たないと」

 

 大和さんはリーダーである刄さんの事を第一に考えているようで彼の言葉を優先に行動するようだ。だが、そんな彼の忠告にも照哉さん達は噛みつこうとする。

 

「でもよ、大和。そうは言っても変に緊張感を持ちすぎても良くないだろ? 程よく気も抜かないと疲れちまうぜ?」

 

「刃くんの言うことも分かるし、すぐに戻るからちょっとだけだし、いいでしょ。それに……」

 

 大和さんの耳元で何かを囁く月未さん。それを聞いて大和さんは顔を赤くしたじろぐ様子を見せる。

 

「べ、別に僕はそんな……!!」

 

「だって目の前に歩夢ちゃんがいるわけだし……?」

 

「大和くん、一緒に沼へ落ちようぜ?」

 

 照れる様子を見せる大和さんの肩を持つように固める月未さんと京雅さん。どうやら大和さんは歩夢さんのファンなようで一緒にサインをもらいに行こうと唆されている様だ。

 

「……なんなんでしょう、このやり取り」

 

「妙に気になっちゃって動こうにも動けないね……」

 

 四人のやり取りを見て頭が痛くなる感覚を覚えていると、侑さんも苦笑しながらどうしようか頭を悩ませる。スクールアイドルとしてサインなどのファンサービスを欠かしたくないが、彼らのそれが本気か冗談か読み取れない以上、そのまま立ち去ってもいいものなのか憚られてしまう。

 

「おい、お前ら!」

 

 全員で困り果てていると茶髪のミディアムな男性が橙髪の男性と一緒に四人を咎めに来た。その男性は言わずもがなDrawing Storyのリーダー、賀射 刄さんだ。

 

「初対面の人らを困らせるんじゃねぇよ。彼女らもお前らが邪魔で動けねえじゃねぇか」

 

「刄くん、でも……」

 

「でも、じゃねえんだよ。月未さん、いつもは嗜める側のあんたがまさか悪ノリ組に参加するなんてな」

 

「だって、俺がスクールアイドルを始めるきっかけになった虹ヶ咲学園の子たちがいるんだよ? それこそ彼方ちゃんが東雲学園にいたころから応援してたんだから、せっかくなら挨拶でもさせてよ!?」

 

「お~? なんだか彼方ちゃんがお呼ばれされちゃったぞ~?」

 

 月未さんの推しが唐突に暴露され、彼方さんも驚きの声を上げる。だが、そんなことよりも俺は月未さんが発した言動の方に気が行ってしまった。

 

「……彼方さんって東雲学園にいたんですか?」

 

「そうだよ~。元々はそっちでスクールアイドルをやってたけど、家の事もあってこっちに転校してきたんだよ~」

 

 確かに、虹ヶ咲学園には特待生制度というものがあり、相応の成績を有していれば学費支援が受けられる。彼方さんがまさかそこまでの優等生だったとは露知らず、なんとも失礼なことを考えてしまっていた。

 

「そろそろライブ抽選が始まるって言ってるだろ。時間に遅れることはしたくねえんだ」

 

「いつも思うけど、刄くんって堅すぎるよね?」

 

「確かに堅い。それはまさしくイチモ────」

 

「照哉、しばくぞ?」

 

 俺たちをそっちのけで、先ほど会場の外でやっていたようなやり取りを繰り広げるドロストのメンバーたち。一瞬、爆弾発言が飛びかけたが刄さんがいち早く察知し事なきを得ていた。

 

 メンバーの珍事にため息を漏らす刄さんは思い出したかのようにこちらへ振り向き、挨拶を交わしてくれる。

 

「虹ヶ咲学園の皆さん。こんな下らないやり取りを見せてしまい申し訳ない」

 

「いえっ、気にしないでください。むしろ動画で見ているいつもの皆さんで安心しました!」

 

(……あの会話が日常的に交わされてるの……??)

 

 非礼を詫びる刄さんにせつ菜さんは代表して気にしていない旨を伝える。だが、これまでのやり取りが日常茶飯事で行われていることに俺は内心驚きを隠せなかった。

 

 そんなことを思っていると刄さんはせつ菜さんの言葉を聞いて安堵の表情を浮かべる。

 

「そう言ってもらえるなら安心だ。改めて、俺たちは吹笛(すいてき)学園のスクールアイドル、Drawing Story。そして、俺はリーダーの賀射 刄だ」

 

「は、初めまして……!」

 

 メンバーを冷たくあしらっていた態度から一変し、急に温和な雰囲気を醸し出す刄さんに俺は緊張が走ってしまう。手慣れている人ならば即座に空気を変えることを造作もないのだろうか。

 

「優木せつ菜さんに俺たちを知ってもらえてるなんて光栄な限りだ。うちのメンバーは皆さんの一ファンなので、喜びを隠せなかった。どうか許してやってほしい」

 

「そりゃあ、あのせつ菜ちゃんに認知してもらえてるのならそれに勝る喜びはないですよ? なんなら今死んでも悔いはないですわ」

 

「じゃあ、後で安らかに眠らせてやるから今は黙ってろな?」

 

 後ろで照哉さんが冗談を交えつつ嬉しさを露わにするが、刄さんは彼の方を振り向きもせず、先ほどの言動を許していないのか命に関わる発言をぶつける。

 

「ひ、ひどい……」

 

「まぁ、これが照哉だから仕方ないね」

 

 照哉さんが体操座りで咽び泣いているが、月未さんは投げやりでありそれに加えて誰一人として彼を心配する様子を見せない。彼らは本当にこのようなやり取りをずっと繰り返しているのか。

 

「それよりも、今日貴女方がここに来たのは……彼らの応援、ですか?」

 

 そう言って刄さんは俺と慎を見つめる。温和な雰囲気だけれども妙に視線が品定めしているように見えてしまうのは俺が警戒しすぎなのだろうか。

 

「いや、僕は違います。あくまで皆さんのマネージャーですので、この大会では慎が参加します」

 

「そうだったんだ。君もアイドル向きな雰囲気があったから、勘違いして悪かったね」

 

 この人、自分の非はしっかり自覚するし他人を持ち上げるのがすごく上手だ。きっと実力のみでなくこういった気配りも出来るからこそリーダーとしては勿論、チームとしてもレベルが高いのだと改めて分かる。

 

「鈴川くんは以前に動画で拝見したけど、今回が初ステージだよね? 君がどんなパフォーマンスをするのか楽しみにしてるよ」

 

 刄さんはそう言って少し目を細める。やはり慎のことも自己紹介PVで知っているようだ。実力者からこのように目を付けられるのは妙な圧力を掛けられていると錯覚し精神面に影響を与える恐れがある。

 

「へっ、そうやって余裕垂れているのも今のうちですよ? 俺は負けるつもりなんか一切ないので?」

 

 だが、そんなプレッシャーにも近い応援の言葉を掛けられる慎は臆するどころか好戦的に笑みを浮かべた。刄さんを挑発するような口ぶりに、彼の隣で無言を貫いていた遊牙 愛羅さんが怒りの感情を露わにしながら口を開いた。

 

「……てめぇ、刄さんに向かってどの口を────」

 

「よせっ、愛羅」

 

 慎へ突っかかろうとする愛羅さんを制止する刄さん。微笑みながら語るその顔には慎の煽りなど一切気に留めていないようだった。彼の制止で愛羅さんが我を抑えたのを確認すると刄さんは慎へ向き直る。

 

「その威勢や良し。勝負である以上、我々も本気でぶつからせてもらう。お互いにベストを尽くそう」

 

 慎の表情につられるように刄さんも好戦的な表情になる。そして、互いの健闘を祈ると180度振り返り、大会本部が設置されているステージへ歩きはじめる。

 

「月未さん、照哉、愛羅、京雅、大和。まもなく俺たちの抽選の時間だ。行くぞ」

 

 大会本部ではライブを行う順番を決める抽選が行われている。ドロストはまもなく時間が迫っているようで、そちらへ向かうようだった。

 

「はぁっ、まあサインは後で貰うかぁ~……」

 

「それではまた後でね、虹ヶ咲学園の皆さん」

 

「………………」

 

 刄さんの呼びかけにより次々と彼の後ろをついていくメンバーたち。照哉さんは後頭部に手を置きながら小言を呟く一方、月未さんはこちらへ手を振りながら別れの挨拶を述べる。愛羅さんは自身のリーダーである刄さんを挑発した慎に蛇をも殺すような目つきで睨みつけた後、すぐにメンバーの後ろをそそくさと追いかける。

 

「……行っちゃった」

 

「なんだか嵐のような人たちだったね?」

 

 途端に静寂が訪れる中で侑さんと歩夢さんが口を開く。この場をかき乱せるだけかき乱し、ドロストの個性の強さを見せつけられたような感覚だった。

 

「ふむ、確かに男性スクールアイドルの中でトップクラスの人気を誇るだけはありますねぇ~?」

 

「あの刄って人、メンバーの扱いは冷たかったけど、それでもあの人の周りは温かな雰囲気があった」

 

「そうだね。他の皆さんの雰囲気を見ると、あの人にはチームを引っ張る適正が備わってるんだなってすごく伝わってくるもんね」

 

 かすみ、璃奈、しずくさんも初めて見るであろうドロストに抱いた感想を吐露する。特に、メンバー一人一人の個性は強いけれどもそれらを纏め、主格として立っている刄さんはただならぬオーラをまとっていた。

 

「おいおい、みんなが弱気になってどうするんだよ? 俺はああいう奴の出鼻を挫きたくなるから、この状況は俄然燃えるってもんだ」

 

「慎……」

 

 彼らの雰囲気に呑まれ空気が重くなるのをいち早く察した慎はすぐに明るい声色でメンバー全員へ呼びかける。ドロストを倒す、と息巻いている慎が本心で語っているのか虚勢を張っているのか読み取ることが出来なかったが彼の言い分は尤もだ。

 

 ステージに立つのは慎一人だけだ。俺たちが不安な様子を見せていれば、それは少なからず慎へ影響をもたらす。ならばここでやることは彼らへの畏怖ではなく慎やみんなを鼓舞することだ。

 

「慎の言う通りです。俺たちがあの人らに呑まれていては仕方ありません。慎が彼らに勝てるように最終調整を行っていきましょう!」

 

 俺の言葉にメンバーらも笑顔を取り戻し頷く姿を見せる。そして、会場内で行われる抽選や最終リハーサルに向けて全員で準備に取り掛かるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひとまず、本番に向けての最終調整は大丈夫だね」

 

 本部での手続きやライブ前のリハーサルを終えた俺たちは専用で用意されていた楽屋で休憩を取っていた。パフォーマンスや演出は熟考を重ねていたおかげもあって相当な完成度になっていると自負している。

 

「あぁ、ここからは他のアイドルのライブを見させてもらうさ」

 

 慎も過度な練習を行うつもりはなく、一観客としてこの大会を楽しむつもりでいるようだ。だが、この大会は初っ端からその楽しむ心を忘れさせてしまいそうな状況を作っていた。

 

「慎くんの出番は一番最後……。そして、まさかDrawing Storyがスタートを担当することになるとはね……」

 

 侑さんがライブ抽選の結果について口にする。そう、この抽選でドロストはハナを担当することになったのだ。この大会の優勝候補と言われており絶大な人気を有する彼らがハナを務めるということはお客さん達は彼らのパフォーマンスを基準にその後に続くグループを見ていくことになる。

 

 彼らが人気なのもそのライブの完成度の高さ故もあるだろう。まだ彼らを知らない人たちにも相応のインパクトを与えることになるはずだ。その状態でドロストに続くグループが彼らを超えるには彼ら以上のパフォーマンスを見せなければいけない。

 

 慎はその反対で大トリを務めることになっている。彼らのパフォーマンスから時間が経ち、ライブの最後ということもあってお客さんの気持ちも「次が最後か」とそれまでに登壇したグループよりは脚光を浴びることになるはずだ。しかし、より注目を浴びることになるからこそ慎に降りかかるプレッシャーも大きくなるということだ。

 

「そうですけど、沢山の人に見てもらえるせっかくの機会です。これは逆にチャンスとして捉えないと」

 

 不安な様子の侑さんに慎は笑みを浮かべながら強気な発言をする。それを聞いて果林さんが発破をかける。

 

「そうね。確かに他のグループよりも大変ではあるけど、これを乗り切れないようなら今後に活かしていくことは難しくなるわ」

 

「慎さんは初めてのライブとなりますが、一番最初からこのような大役で出られることはまたとない機会です。是非ここを乗り切って、今後の糧としましょう!」

 

 せつ菜さんの言う通り、スクールアイドル生活を送る中で大トリを飾れることはそう頻度の高いことではない。恐らくこのような対バンイベントで一番緊張が増す立ち位置は大トリだろう。それをアイドル始めたての頃から担当させてもらえるのは有り難いことだ。

 

「慎くんの番まではまだ時間もあるしひとまず会場に行って他の人たちのライブを見に行こうよ!」

 

「そろそろDrawing Storyの皆さんのライブも始まりますからね」

 

 エマさんがライブを見に行くことに意欲を示す。しずくさんも一人の観客としてこのライブを楽しみにしているようだった。

 

「そうだね。とりあえず今はあの人たちのライブを見ていきましょう。慎もいいよね?」

 

「あぁ、準備はバッチリだ。早く会場に行って敵情視察と行こうぜ」

 

 こうして、俺たちは楽屋での休憩を終え会場内の観客席へと足を運ぶのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「す、すごい人の数だ……!」

 

 観客席に到着し、会場内を埋め尽くすペンライトの数に思わず圧倒される。

 

 観客席と言ったものの余計な混乱を避けるためにスクールアイドルとその関係者らは、関係者席という観客席とは違う場所から観覧することになっている。

 

 大きな体育館の観客席全てが埋まっているように見え、それだけでも動員数はざっと千人近くはいるだろう。

 

「そ、想像よりもスケールがでかい……」

 

「こ、こんな大勢の中で歌えるなんて、シンシンすごいよ〜!」

 

 予想よりも人がごった返している様子に目を見開いて驚きの表情を示す璃奈。愛さんも大きすぎる規模に圧倒されていたが、すぐに慎を励ます様子を見せる。

 

 だが、今の慎には彼女の言葉は届いていなかった。

 

「…………っ」

 

 観客席を見て唾を飲み込む慎。初めてアイドルとして立つステージに畏怖の念が過ったのかもしれない。その顔からは笑顔は消えており、怯えるようにも見えるその表情からは先ほどの威勢が無くなっていた。

 

「……慎?」

 

「へっ? あっ、悪い輝弥。何か言ったか?」

 

「いや、慎が堅くなってたから大丈夫かなって思って」

 

「まぁ、思ったよりはでかい場所だったけど、別になんともないさ! ビビるのも、今だけだ……。ステージに立つ頃には……」

 

 俺の問いかけに息巻いて答えて見せたが、すぐにその覇気は無くなる。心なしか構えたガッツポーズも震えている様に見える。

 

「慎……あの──」

 

 慎を励まそうと思った時、会場の照明が一斉に落ちた。それと同時に会場内のボルテージが上がる。ライブ幕開けの合図だ。

 

 ステージの中央に歩いてくる影が6つ。その正体が誰かは言わずもがなわかっている。

 

 アイドル達の姿にますます黄色い声援が上がる観客たち。そして、その声を静止するように刄さんの声が響いた。

 

「どうもー!! 俺たち……」

 

『夢を描き』

 

『物語を紡ぐ』

 

「6人の未来を引き寄せる」

 

『We Are Drawing Story!!』

 

 決め台詞を言い放つと観客の歓声が大きくなる。各々が推しであるメンバーの名前を喉が枯れるほどに叫んでいる。その様を見るだけでドロストの人気の高さがそんじょそこらのグループとは一線を画すレベルだとよくわかる。

 

「今日は待ちに待ったトップ・オブ・ザ・メンズ・スクールアイドルだ!」

 

「この日のために僕たちはたくさん準備をしてきました!」

 

「応援してくれるみんなのために最高のパフォーマンスをお届けするよ!」

 

 照哉さんを皮切りに大和さん、月未さんが続く。

 

「俺たちが口火を切るわけだが……遅れる奴はいねえよなぁ!?」

 

「最初からぶちかましていきましょー!」

 

 愛羅さんと京雅さんの煽りでお客さん達は大声で返事をする。そして、ステージ上のメンバーたちの視線が刄さんへ集まる。刄さんは目を閉じながらマイクを持って口を開く。

 

「俺たちの夢はこんなところで終わらない。みんながいる限り、俺たちの夢は続く」

 

 淡々と語る刄さんは大きく開眼し口元を緩める。

 

「お前ら、最高の物語をここに刻むぞ!!!!」

 

 そう言って刄さんはメンバーらを見渡す。全員が頷くと一斉に顔を下げる。

 

「──人生山あり谷ありだけど──」

 

「──その中で見つけた愛を──」

 

「──一つ一つ君と育みたい──」

 

「──今日が忘れられないように──」

 

「──俺たちがあんたたちを照る光になる──」

 

「──皆がいることで俺たちがいる──」

 

 一人一人が顔を上げながら自分の名前を織り込んだフレーズをつなげていく。刄さんが最後を担当すると全員が天井を指さしながら大きく声を張り上げた。

 

『Drawing Story、ライブスタート!!』

 

 掛け声と同時に舞台装置のクラッカーが大きく音を上げる。鳴りやむことを知らなかった観客のボルテージは最高潮に達する。

 

 こうして彼らのライブ開始の合図と共にTMSの火蓋が切られるのだった。

 

 






それぞれの物語、紡ぐのは己の意志。


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