虹の袂   作:M-SYA

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歩夢ちゃん、誕生日おめでとう!
どんなことにもまっすぐに取り組む努力家な歩夢ちゃんが大好きです!

そんな歩夢ちゃんとの特別編です!
今回は他のメンバーとはだいぶ趣向が変わってますので、ぜひお楽しみください!


[特別編]上原歩夢生誕祭

 学校の校庭に咲き誇る桜、それは学生にとっては始まりと終わりのいずれかを連想させるものだと思う。

 

 今の俺にとっては後者にあたる。

 

 今日は俺の大切な人にとって学校行事の中で最も重要な式が執り行われるのだ。

 

 正直今までの人生の中で一番この日を迎えたくなかったと自負できる自信がある。

 

 そう思えるほどの素敵な出会いを俺はこの学校ですることが出来たのだ。

 

 この人に出会えたことが俺の人生の起点だった。

 

 俺の人生に大輪の花を咲かせてくれたのだ。

 

 

 

 

 

「あれっ……まだ来てないのかな……?」

 

 行事が始まるまで時間があるので部室に集合しようと約束したのだが、どうやら俺の方が早かったようだ。

 

 多分、あの人は侑さんと一緒に来ているのだろう。

 

 今日が最後の学校生活となるのだから途中までは幼馴染と一緒にいたいと思うのがあの人の素敵なところだ。

 

 それを考えるたびにふとあの人との馴れ初めを思い出す。

 

 

 

 

 

 あの人と初めて出会った時、正直何を目指そうとしているのか分からなかった。

 

 幼馴染と一緒にスクールアイドルをやろうとする、それは部活動を始めるにはいいきっかけではあるけど、長続きするかと言われたらそれは必ずしもイエスとは言えないだろう。

 

 友達とどんな時にも一緒に居たいという事はそれが壊れた時の反動は大きいということ。

 

 一方がどんどん上達すれば周囲の人から注目を浴び、更に成長していく。

 

 その一方、友達と一緒の部活で、という動機の場合は成長することに意味を見出せず自分の存在が霞んで見えてしまうというのが現実なのだ。

 

 この人も最初はそれと同じだと思っていた。

 

 侑さんと一緒の部活で青春を謳歌したいという軽い気持ちから同好会に来たのではと少し不信感を抱いていた。

 

 でも、この人と同じ時間を過ごすことでそれは根底から覆るのだった。

 

 この人の自己紹介PVを見たときに俺はただ見惚れていた。

 

 スクールアイドルについて何も知らないけれど、それでも自分にできることを一生懸命に、カメラ越しのあなたと共に探したいというこの人にしか出来ない動画になっていたのだ。

 

 その純粋且つ真っ直ぐでひたむきな笑顔に俺は一目惚れしたのだ。

 

 あの人のどんなことにも真面目に取り組む姿に惚れ、それを目で追いかけてしまう事も度々あった。

 

 あの人の笑顔を思い浮かべ作曲が捗らない時もあった。

 

 それでもあの人の事を想いながら過ごす日々は儚くも充実していた。

 

 だが、あの人を想う度に頭にちらつくのが侑さんの姿。

 

 

 

 

 

 

「歩夢さん、こんな感じでどうかな?」

 

 歩夢さんの為に新曲を作ることとなり叩き台となった曲を歩夢さんに聞かせていたある時、ピアノに向き合う俺と歩夢さんの二人だけの時間が流れていた。

 

「うん! すごくいいよ輝弥くん! こんな曲が作れるなんて輝弥くんって凄いね!」

 

 歩夢さんはこうやってありきたりな事でも凄く褒めてくれる。

 

 そんな歩夢さんは珠緒姉さんとは違った温かな雰囲気を出していて、一緒にいて心が落ち着くのだ。

 

「そ、そんなことないです……。歩夢さんの事を考えたらこういったフレーズが思い浮かんだまでです」

 

「それでも私にとっては凄いことだよ。私には作曲なんて出来ないし、ピアノも出来て歌も上手い輝弥くんが羨ましいよ!」

 

「…………っ」

 

 俺が謙虚な対応をしても、歩夢さんはお構いなしにどんどん褒めてくる。

 

 言ってくれるのは嬉しいんだけど、そんな風に言葉を掛けられたことが少ないので俺としては恥ずかしくなり何とも言えない気持ちになる。

 

「輝弥くん、どうしたの? 顔が赤いよ?」

 

「べ、別に何でもないです……!」

 

 歩夢さんは突然黙った俺を見て顔を近づけながら首を傾げる。

 

 その仕草でさえも俺にとっては効果は抜群だから勘弁してほしい。

 

「もう、変な輝弥くん」

 

 一体誰のせいでそうなったのだか。

 

「あっ、歩夢。ここにいたんだ」

 

 歩夢さんとの時間を楽しんでいた時、音楽室へ侑さんが入ってきた。

 

 言葉を聞く限り、歩夢さんを探していたようだ。

 

 侑さんの姿を見て、歩夢さんはより元気そうになる。

 

「あっ、侑ちゃん! どうしたの?」

 

「特にどうってことじゃないけど、新曲、順調かなって」

 

 どうやら侑さんは歩夢さんの新曲を早く聞きたくて仕方なかったようだ。

 

「うん、輝弥くんのおかげでいい曲が出来上がる気がするよ」

 

「さすが、かーくんだね。歩夢がどんどんときめいちゃうよ~」

 

「もう侑ちゃんやめてよ~」

 

 俺の能力を褒めつつ侑さんは歩夢さんをからかう。

 

 歩夢さんは侑さんの手に拳を可愛くポンポンと突き出しながらいやいや言っているがなんだか嬉しそうにしている。

 

 

 

 

 

 

 歩夢さんはこういった人だ。

 

 幼馴染である侑さんの事をすごく大事にしている。

 

 また侑さんも歩夢さんの事を大切に想っている。

 

 歩夢さんの原動力は侑さんであり、侑さんの行動力は歩夢さんが起因している。

 

 そんな以心伝心な二人だからこそあの間に俺が入る隙間はない。

 

 あの人を好きになってしまったことが俺にとっては天使からのプレゼントであり、悪魔からのプレゼントでもあった。

 

 

 

 

 

 

「あっ、輝弥くんお待たせ! ごめんね。待ったかな?」

 

 物思いに更けていると歩夢さんが部室へ入ってきた。

 

 今日はいつものお団子ではなくおさげの三つ編みでまとめていて普段とは違う大人な印象を与えるものに仕上がっていた。

 

「歩夢さん、全然待ってないですよ。それより……その髪型、素敵ですね」

 

「そ、そうかな? ふふっ、輝弥くんにそう言ってもらえるなら頑張った甲斐があったよ」

 

 歩夢さんは照れながらも嬉しそうに微笑む。

 

 この人の笑顔を見るたびに俺はやっぱりこの人が好きなんだと自覚できる。

 

「それでどうしたの? いきなり部室に集まろうって?」

 

 歩夢さんは部室に呼んだ理由を聞く。

 

 まあ歩夢さんとしては気にならないはずがないだろう。

 

 侑さんや他のメンバーも呼ばずに俺との二人きりなのだから。

 

「……最後に……歩夢さんと話がしたくて……」

 

「そっか……。私でよければ時間まで良いよ?」

 

 俺は途端に緊張が走り頭の引き出しから言葉を上手く取り出せなくなっていた。

 

 そんな俺を見ても歩夢さんは気にせずに話に乗ってくれる。

 

「……今日で……歩夢さん達ともお別れになるんですね……」

 

「そうだね。果林さん達が卒業して寂しい思いをしてたはずなのに今度は気付けば私たちが卒業するんだもんね」

 

 去年の今頃、果林さん彼方さんエマさんが卒業してみんなで寂しいと言いながら泣き合ったのが良い思い出だが、それからこの一年があっという間に経ち次に歩夢さん達が卒業するのだ。

 

 辛いときや退屈な時は時間が長く感じるのに楽しいときに限って短く感じる。

 

 光陰矢の如し、俺は歩夢さんへの淡い想いを秘めたまま今日までを過ごしていた。

 

 今この時間が俺に残された最後の時間だ。

 

「……俺、歩夢さん達に出会えてよかったです。スクールアイドル同好会に入って本当に良かったなって心から思えました」

 

「ふふっ、それを言うなら私も輝弥くん達に会えてよかったよ。自分一人で出来ることは限られてるけど、みんなで力を合わせればどんなことでも叶えることが出来るんだなって強く思えたもん」

 

 そう言いながら、二人で同好会での思い出を振り返る。

 

 初めて同好会で出逢った時の事、スクールアイドル活動の方針を決めた時の事、スクールアイドルフェスティバルの事、スクールアイドル同好会で単独ライブをやった時の事。

 

 何よりも輝いていた時間が俺たちの胸の中に深く刻まれているのだ。

 

「そんな楽しかった日々の中でも、歩夢さんの事が俺の中で強く印象に残ってます」

 

「えっ?」

 

 唐突な告白に歩夢さんは思わずきょとんとする。

 

「スクールアイドルの事を何も知らなかった貴女が自分に何が出来るのかを一生懸命見つける姿、他のメンバーは才能で壁を乗り越えるのに対して歩夢さんは努力でそれを超えてみせる。そんな貴女が俺にとって途轍もない勇気や力をくれました」

 

 道端で咲いているような小さな花だった彼女が少しずつ成長して、今では幸せや勇気をくれる頼もしい人に変わっている。

 

 歩夢さん自身は気付かないかもしれないが、傍から見ればそれは凄いことなのだ。

 

「えへへ、そう言ってもらえると頑張った甲斐があったよ♪」

 

「歩夢さん」

 

 俺は徐に歩夢さんへ近づき、歩夢さんの右手を両手で包む。

 

 その仕草に思わず歩夢さんは顔を赤らめる。

 

「か、輝弥くん?」

 

「これからもそんな風に純粋でまっすぐに道を走り続けてください。貴女のその凛とした姿はより沢山の人を幸せにすることが出来ます」

 

 歩夢さんの目を見つめながら心の底からの言葉を歩夢さんにぶつける。

 

「輝弥くん……うん! ありがとう! 輝弥くんの言葉、しっかりと胸に刻むね!」 

 

 歩夢さんは俺の言葉を真摯に受け止めてくれる。

 

「……今日は突然呼び出してすみません、最後にこれを渡したくて……」

 

 俺はそう言い、ポケットから一つの髪飾りを出した。

 

 薄青色の花が装飾されたシュシュだ。

 

「えっ! かわいい! これって何のお花なの?」

 

「勿忘草《わすれなぐさ》って言うんです。歩夢さんはピンク以外にもこういった優しい青色の髪飾りとかも似合うと思いまして……」

 

「へぇ~、そんなお花もあるんだね! 早速つけてもいい?」

 

「どうぞ、付けてください」

 

 俺の許可を貰い歩夢さんは元々していたゴムヘアを外し早速シュシュを付けてくれた。

 

 ピンクが似合う歩夢さんだが、赤髪と制服の紺色と素敵なコントラストとなってよく似合っていた。

 

「どうかな?」

 

「すごく似合ってますよ」

 

「ありがとう。今日は素敵な卒業式になりそうな予感がするよ」

 

「そろそろ時間です。三年生は最後の登校日ですからクラスの皆さんの所に行ってください」

 

 ずっとここにいたいと願っていたが、それは叶わないこと。

 

 卒業式の開始まで時間はあるがそれでも最後の思い出を作ろうと三年生は気合が入っているはずだ。

 

 その時間をこのために奪いたくはない。

 

「うん、今日は改めてありがとうね! 輝弥くん」

 

「いえ、改めて……卒業おめでとうございます。歩夢先輩」

 

 俺の祝いの言葉を聞き、歩夢さんは部室を去る。

 

 部室の扉が閉まる音が響かなくなり俺は窓から外を眺める。

 

 外は曇りようのないほどに青空が広がり、その一点ではこの日を盛大に祝すように眩しく太陽が輝いていた。

 

 

 

 

 そう、俺はこれでいいんだ。

 

 この人の隣には俺は立てない。

 

 この人の目には俺は映らない。

 

 この人の耳には俺の言葉は届かない。

 

 人を想う気持ちは人一倍強い歩夢さんだが、自分に向けられた想いには気付かない鈍感な人。

 

 だからこそ俺はこういう形で密かに想いを伝える。

 

 歩夢さんは次への一歩を進むというのに俺はその一歩を出すことが出来ない。

 

 俺はまだ涙にさようならは出来ないようだ。

 

 




如何でしたでしょうか?
推しナンバー2である歩夢の誕生日だから気合が入りすぎました…!

ちなみに勿忘草の花言葉は…?
気になった方は是非調べてみて下さい!

ありがとうございました!
改めて歩夢ちゃん、誕生日おめでとう!
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