虹の袂   作:M-SYA

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今日は私の最推しであるしずくちゃんの誕生日でございます!

特別編として全力を注ぎましたので是非楽しんでいって下さい!




[特別編]桜坂しずく生誕祭

 4月上旬のとある日、俺は登校して校庭に咲いている桜を見つめていた。

 

 この桜たちも今日は気合が入っているのかいつもよりも大きく花を開かせており華やかさが一層増していた。

 

 俺としてはこの時期にここで見る桜は二回目だが、一回目とは立場が大きく変わっている。

 

 一年前は新入生として不安な気持ちを抱き学園の門を叩いたが今日は上級生として新入生に向けた準備を行うのだ。

 

 新入生にはこの学園で自分の夢を見つけてほしい。

 

 夢への一歩をここで踏み出すのだからこの学園へのファーストインプレッションは大切にしなければいけないので無意識のうちに身が引き締まる。

 

 だが、その準備まで少し時間があるので俺はとある人と待ち合わせをしていた。

 

 俺にとってはこの学園で初めて出来た友達であり、初めて出来た想い人。

 

 スクールアイドル同好会廃部問題がきっかけで関わることとなった彼女。

 

 

 

 その後、同好会に入部する形で一緒になり自分は支える立場ではあるが切磋琢磨しあい、お互いを知る事でその人間性に触れ、次第に惹かれていった。

 

 その後、部活動の事で悩んでいる彼女と音楽の進み方について悩んでいる俺でいざこざがあり、一時期疎遠になることもあったが周囲の支えもあり復縁するまでに至った。

 

 あの時は同好会メンバーにも気を使わせてしまって慎たち同級生組から珍しいくらいの剣幕で怒られたのでだいぶ心労を与えてしまったなと深く反省している。

 

 でも彼らがいなければこうしてしずくと交際を始めることはなかったので、本当に慎たちには頭が上がらない。

 

 

 

 今日はその人にとっての記念日だからこそ最初に言葉を掛けてあげたかったのだ。

 

 彼女への想いに気持ちが昂りつつもそれを抑えるために桜を見つめていると遠くからコンクリートを叩くローファーの音が俺の耳に入ってきた。

 

「お待たせ、輝弥くん」

 

 桜から目を離し振り返るとそこには普段と同じ姿でしずくが立っていた。

 

 満開の桜の木から舞い散る花びらが、しずくの可愛らしい微笑みとお淑やかな佇まいをより一層際立たせていた。

 

 さすが、苗字に桜が付いているだけの事はある。

 

「おはよう、しずく」

 

 俺は真っ先に伝えたいことがあるが今はぐっとこらえて、朝の挨拶から入る。

 

「おはよう、輝弥くん」

 

 しずくもそんな俺の調子に合わせて返事をしてくれる。

 

 喋らずとも互いの意思を汲み取れるのは俺たちの波長が絶妙にあっている証拠だろう。

 

「ここにある桜の木もいつの間にかこんなに立派に花を咲かせてたんだね」

 

「先月までは咲きはしても満開ではなかったからね。改めて見るとだいぶ違うね」

 

 しずくが桜の満開に感動を覚えていると俺もしずくに倣うように桜へと目を向ける。

 

 三月は期末テストの勉強や部活動であまり校庭の桜に目を向けることが無かったのでいつの間にか満開の桜が顔を覗かせていたことに驚きを隠せなかった。

 

「新入生の輝かしい学生生活の前祝かな?」

 

「本祝いは当日ってこと?」

 

「そういうこと」

 

「それじゃあ、結局は前祝を新入生は誰も拝めないじゃん」

 

「私たちがそれを伝えればいいんだよ」

 

「せっかくなら見てもらいたいけどね……」

 

 しずくとこうして他愛無い会話をしているといつも通りの毎日がまた始まるんだなと内心わくわくしている自分がいる。

 

 昨日までは春休みもあり、部活動が無い日は学校に来ることが無かったため桜の咲くタイミングなど知る由もなかった。

 

 勿論、春休みはしずくと一緒にいることが多かったが、それでも家でゆったりくつろぐことが多く、時折舞台を見に外へ出る程度だった。

 

「でも、最初にここで一緒に桜を見れたのがしずくでよかったよ。素敵な誕生日になりそうな予感がするし」

 

「ふふっ、そうだね」

 

 俺は徐に小さくともしなやかなしずくの手を握り、そっと両手で包み込む。

 

 しずくはその行動に驚きの声を上げず、ただただ俺の目を見つめるのみだった。

 

「改めて誕生日おめでとう、しずく。これからが素敵な一年になりますように」

 

「うん、ありがとうね、輝弥くん。この一年も輝弥くんと一緒に歩いていきたいな」

 

 俺たちはこの桜の木の下でこれからのしずくの道が、これからの俺たちの道が今よりももっと輝かしいものになりますようにと心の底から願うのだった。

 

 今の俺たちを遠目に見た人たちは永遠の愛を誓いあう二人に見えるかもしれない。

 

 そう自惚れてしまうくらいに俺の心は満たされていた。

 

 

 

 しずくと一緒に桜を見た後、新入生に向けたイベントの為に部室へ向かっていた。

 

 部室の扉を開けると既に俺達以外の七人は練習着に着替え準備万端だった。

 

「もぉ~遅いよかぐ男にしず子!! 一体どこで何してたのさ!」

 

 かすみは俺たちを見るや顔を丸く膨らませて、早速ご立腹だった。

 

「大方輝弥がしずくに愛の告白をしてたと愛さんは予想するよ? 愛だけに!」

 

「べ、別にそんなんじゃないですから!!」

 

 愛さんのダジャレを入れた予想がまさかの当たりを射抜いていたため俺は咄嗟にごまかすがそれとは相反するように顔の温度が上昇するのだった。

 

「輝弥の嘘の下手さは折り紙付きだな~。璃奈の方がもう少し上手くごまかせるんじゃないか?」

 

「その自信は……ある」

 

 慎はいつもの如く茶々を入れてくるが、璃奈は慎からの問いに表情を変えることなく淡々と答える。

 

 正直、表情で璃奈に勝てるメンバーは居ないと思うがな。

 

 ただこうやって言うと璃奈が普段から嘘つきであるという印象を与えてしまうのでそれだけは断じて否定するけど。

 

「皆さん、輝弥さんをからかうのはそこまでにして今週末に迫ってるイベントに向けて準備を進めますよ!」

 

「っとその前にしずくちゃんとかーくんに一つ提案があるんだけど……」

 

 せつ菜さんは手を叩き周囲の気を自分に向けさせるが、それを侑さんが割り込んでくる。

 

「えっ? 俺にもですか?」

 

 俺の問いに侑さんはウィンクで返事をする。

 

 何やら嫌な予感がするのは気のせいだといいが。

 

 

 

「えぇーーー!? 俺がステージにーー!?」

 

 唐突な宣告に俺は動揺が隠せなかった。

 

「うん。次のイベント、しずくちゃんがメインで出るでしょ? それにここで披露する曲もいつもはしずくちゃん一人でのパフォーマンスだったけど、今回は折角だしアレンジを加えたバージョンって事でやれないかなって話してたんだ」

 

 侑さんの返答に対して納得する自分がいるけれどもどこか納得してない自分がいる。

 

「にしてもどうして俺が? それなら歩夢さんとかせつ菜さんが良いんじゃあ……?」

 

「それも考えたけど、やっぱりしずくちゃんの動きを一番分かって尚且つそれを十二分に活かせる人物って言われたらかーくんしか浮かばなくてね」

 

「私も侑ちゃんからこの話を聞いた時は真っ先に輝弥くんが適任だなって思ったよ?」

 

「私もです。お付き合いしている点もありますが、それ無しでもお二人の息の合ったコンビネーションには私たちは叶いません」

 

 侑さんは手で後頭部に掻く動作をしながら答えるが、それに被せるように歩夢さんとせつ菜さんもフォローを入れてくる。

 

「ちなみにお前ら二人以外はこの話を聞いて、既に納得してるぜ」

 

「うん、しずくちゃんの相手は輝弥くん以外じゃ務まらないから」

 

「愛さんも二人の間を割って入るのは流石に無理だから今回は輝弥に任せるよ!」

 

「かすみんもそういう事ならって思って声を出そうとしたけど、やっぱりしず子の前じゃかぐ男には勝てないから今回は仕方なく譲ることにする!」

 

 慎たちも頷きながら侑さんの案に賛成している。

 

 かすみも仕方なくとは言ってるけど、諦めたような笑みを残しながら言ってるのがよくわかる。

 

「し、しずくはどうなのさ? 一番は本人がどうしたいかだけど……!」

 

 俺はそう言いながら彼女に目を向けると目線を下に落としており返答に困っているようだった。

 

 と思ったのも束の間、すぐに決心がついたように口を開いた。

 

「私は……輝弥くんがやってくれるなら一緒にやってみたいな。こんなこと……今まで無かったことだし。新しい挑戦として……一緒にどうかな……?」

 

 しずくは胸の前で握り拳を作り、俺に訴えてくる。

 

 俺の意思を気にしてからか、いつものしずくらしからぬ少し弱気な口回しだが、彼女がこう言うからには俺も女々しくはしていられない。

 

「はぁ……そうやって言われたらやらないわけにはいかないでしょ? ただ、練習はさせてよ?」

 

「ふふっ、大丈夫。私がエスコートするから♪」

 

「その立場は本来俺なんだけどな……」

 

 しずくは俺の賛同の声に思わず強気な口調に戻る。

 

 まあ、そうやってしてる方がしずくらしくて好きなんだけどね。

 

 こうしてスペシャルライブに向けた俺たちの猛特訓が幕を開けるのだった。

 

 

 

 

「輝弥さん、少し早いです! ちゃんとしずくさんの動きを見て合わせて下さい!」

 

「は、はい! すみません!」

 

 練習が始まってからは苦難の連続だった。

 

 披露する曲はスローテンポであるが為に一つ一つの動作がしずくと中々かみ合わない。

 

 また、ここまでゆったりとした動作というのは生涯を通して数回くらいしかやったことがない分、その動きに慣れなければいけないと課題は山積みだった。

 

「一回休憩にしよっか? だいぶ時間も経ってるし」

 

 歩夢さんが小休止を入れる。

 

 俺はそこまで疲労が押し寄せてくるわけではなかったが普段使わない筋肉を使ってる感じがして、違った疲労感に襲われていた。

 

「輝弥くん、大丈夫? だいぶ無理してるように見えたけど……」

 

 建物の壁にもたれながら座り込む俺に璃奈が声を掛けてくれる。

 

「俺は平気。だけど、こういったダンスはやったことないから余計に気苦労もあるというかね……」

 

「もぉ、かぐ男に譲ったんだからしっかりやってよね?」

 

「かすみさん、そこまで? あんまり言わないであげて?」

 

 かすみが茶々を入れてくるがそれをしずくが止めに入る。

 

 それを聞き、一旦引くかすみだったが何か思うことがあるのかしずくの方を見つめていた。

 

 そして、会話に入ろうとしないが慎も同じようにしずくの方を見つめていた。

 

「輝弥くん、あんまり無理しないでね? 私も頑張って合わせていくから」

 

「うん、ありがとう。頑張るよ」

 

 その後も成長があまり見られず、本番に向けての課題だけが嵩張っていくばかりの一日となった。

 

 

 

 

 その日の練習が終わり、俺はひとりダイバーシティのベンチで腰掛けていた。

 

「はぁ……これじゃあ本番までには到底……」

 

 本番まで時間がないことに焦りを覚えつつ対抗策も浮かんでこないので踏んだり蹴ったりな状態だった。

 

(今日はあいつの誕生日も祝えて、良い一日に出来ると思ったのに……。俺のせいで台無しにしちゃったな……)

 

 しずくの誕生日という事であいつにとって最高の一日に出来ればと思っていたが、そう人生は上手くはいかないものみたいだ。

 

「輝弥くん?」

 

 自分に対して悲観的になっているとしずくの声を聞こえてきた。

 

 目の前には優しい目で微笑みながら見つめるしずくの姿があった。

 

「しずく……」

 

「ちょっと……一緒に出掛けよ?」

 

 しずくはそう言うと徐に俺の手を握りベンチから立たせ引っ張っていく。

 

「えっ、ちょっとどこへさ……!?」

 

「行ってからのお楽しみ♪」

 

 しずくはウィンクしながら返事をして、俺を連れ出すのだった。

 

 

 

 しずくに連れられてきた場所はダイバーシティから少し歩いたところにある大観覧車だった。

 

 大観覧車へ乗車し、しばらくの間二人だけの世界に入るのであった。

 

「ここなら私たちだけで話せるね」

 

「しずく……。その……ごめんね……? 今日の練習、全然調子を合わせられなくて……」

 

 俺は今日の出来の悪かった練習について謝るとしずくは笑顔から一切表情を変えずに俺に身体を向ける。

 

「それは輝弥くんだけじゃないよ? 今日の練習は私も駄目だったから」

 

「えっ……?」

 

 俺はしずくの言っていることが理解できなかった。

 

 現に今日の練習は俺がせつ菜さんから指摘されるばかりだったのに、どうしてそう言っているのか分からず思考が固まっていた。

 

「私もね、動きが今までよりも縮こまってて輝弥くんの動作が私に合ってないように見えただけだよ」

 

「しずくが悪かったなんてそんなこと……!」

 

「あるよ? だって現に今日の練習終わりにかすみさんと慎くんに怒られたもん。輝弥くんのあれは普段の私だったら受け止められてたって」

 

「ほ、本当なの……?」

 

「うん。かすみさんは、せつ菜さんはしず子の事を全然見てないー! って言ってたから。私もかすみさんに言われるまでは全然気づかなかったんだけどね……あはは……」

 

 しずくはかすみに言われたことをかすみの真似をしながら復唱した。

 

 だが、俺の事をちゃんと見れていなかった非を感じてからか、しずくは乾いた笑いをする。

 

 その声は観覧車内で静かに響いた。

 

「なら、しずくは自分がどうしてそうなってたか分かったの?」

 

「うん。それはね、私も輝弥くんと同じ気持ちだったから」

 

「同じ……気持ち……?」

 

「うん、この曲のダンスは今まで私一人で演じていたけど今回輝弥くんとの共演っていうのもあって、私も緊張してたんだ。輝弥くんに無理させないようにって無意識な意識が働いて気づいたら普段よりも小さな演技になってた」

 

「しずくも……そうだったんだ……」

 

「私たち、やっぱり似た者同士なんだね」

 

 しずくはそう言い、俺に潤った微笑みを向けてくる。

 

 それを見て、俺も思わず笑みがこぼれる。

 

「ははっ、そうだね。俺達って人一倍他人の目を気にするから、それが足枷になってたんだな」

 

「うん。でもこうして私たちの悪かったところが見つかったんだから絶対大丈夫。ありのままの私たちを一緒に見せよ?」

 

 しずくは鞄を座席に置いたまま席を立ち、俺の前に立って手を差し出す。

 

 その仕草は本番のステージ衣装を身に纏って見えるほどに美しく煌びやかだった。

 

「大好きな貴方と最高の舞台を作りたい」

 

 本番でこんな演出は用意していないがこういった余興もありだなと内心思いながら俺も彼女に合わせる。

 

 俺もその場で跪きしずくの手の上に自分の手を乗せ、それを反対に返す。

 

 その姿は絵画で描かれるような一国の王子様とお姫様のようだった。

 

「なら、エスコートは任せて下さいよ? お姫様」

 

「はい♪ 今宵は二人で踊り明かしましょう?」

 

「貴女の為なら……どこまでも……」

 

 そうして、本番で披露する予定のダンスを即興で始めるのだった。

 

 昼間にあったような歯噛みの悪さは解消されお互いの距離感を完全に理解している二人はまさに以心伝心であり非の打ちどころのない完成度を誇っていた。

 

 

 

 その後に開催された新入生歓迎会でのライブではこのアレンジが絶大に評価され、二人の絆をより強固なものにするのであった。

 

 




如何でしたでしょうか?
最推しの誕生日という事で今までで一番気合が入った力作となっています!

しずくちゃんの真面目な姿勢は本当に尊敬に値するもので私も見習っていきたいところでございます。

しずくちゃん、誕生日おめでとう!!
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