どこまでもまっすぐに情熱をもってぶつかるせつ菜ちゃんは本当に素敵で可愛い!
今回はそんなせつ菜ちゃんの特別編です!
是非お楽しみください!
なお、ここでの展開は本編には影響を与えませんので悪しからず!
それではどうぞ!
「うーん、何にしようかなぁ……」
授業が終わり、音楽室へ向かった俺はとある日に向けて密かに準備を始めようとしていた。
それは俺が同好会に入るきっかけを与えてくれた人に対するものだ。
退屈だった日々を変えてくれた彼女に恩返しをしたく、やる気に満ち溢れていた。
だが、やる気にあるのは良い事でも、いい発想が浮かんでこないのは世の常だ。
気持ちが空回りして逆に失敗しないようにと少し慎重になってしまう。
「でも……やることは一つしかないか」
色々と俺なりに彼女に対するプレゼントなりを考えたが、俺自身彼女のどんな顔を見たいかを想像したらやりたい事は明白だった。
俺が一番見たい顔、それは無邪気に笑う姿だ。
ありきたりに思える事だが、実はそのありきたりが非常に重要なのだ。
俺はどんなに挫けそうになっても、辛く泣きそうになっても、その人の笑顔を見るだけで全てが上手くいくのではないか、と自信が漲る。
どんな時でも彼女の笑顔を思い出すだけでそれは勇気となり力になる。
あっ、今さりげなくダジャレになっていた。
愛さんと侑さんに聞かせたらさぞ面白がるだろう。
「……まっ、こんな台詞、笑う場面で言う内容じゃないけど」
心の中で思いついた洒落に悪態をつくと思考を本題へと切り替える。
そもそも何故音楽室にいるのかという事になるだろうが、ここならば誰かが来ても作曲中という事で部活を偽装出来るのだ。
無論、こんなサボり方は今回が最初で最後のつもりだ。
「あの人ならアニメ関係で通ずるし、カラオケとかもありかな……」
彼女の趣味と連想させながら遊びに行く候補場所を思い浮かべ、メモに書いていく。
そんな時、思いがけない訪問者がやってくる。
「失礼します。輝弥さん、いらっしゃいますか?」
「へっ? あっ……せつ菜さん!?」
今一番独り言を聞かれたくない人が目の前に現れたので思わず声が上ずってしまう。
「そんなに驚かれてどうしたんですか?」
「いや、別に何でもないです! それよりもどうされたんですか?」
俺の計画をせつ菜さんに悟られまいと話題を無理矢理変える。
「はい、次のライブで披露する新曲の状況を確認したいなと思いまして」
「うーん、せつ菜さんが話してたみんなの大好きを応援する曲ですけど今のところこれっていうイメージが降りてないんですよね」
とは言うものの実は7割ほどは完成している。
今回の事を念入りに検討できるようにと事前に曲作りは始めていた。
それに新曲についてはせつ菜さんが歌いたい内容ややりたい事を事細かく示してくれたのでその甲斐もあって非常に作曲は捗っていたのだ。
だが、そんな裏事情を知らないせつ菜さんは自分に責任を感じていた。
「そうですか……? それは……すみません、私の要求が細かくて輝弥さんには負担を掛けてしまっていますね……」
「そんな事ないですよ。むしろ作曲の流れは今までで掴めているのにそれをモノに出来ていない僕自身の地力の無さもありますから気にしないで下さい」
「いえっ、輝弥さんはそんなに自分を卑下しないで下さい。貴方は今の時点でも私達の事を支えてくれるキーパーソンなんですから。そんなに自分の事を下に見られたら貴方を信じてる私たちが惨めに思えてしまいます」
自分の実力の無さを認めた上で発言をしたがせつ菜さんからお咎めを貰ってしまった。
この人は信頼が厚い人には遺憾なく尊敬の念を抱くので卑下しているのを聞いたら、自分のことも否定されていると聞こえてしまう人なのだろう。
「ありがとうございます。ですが、自惚れて失敗するよりかは良いと思いませんか?」
「それは時と場合によります! 輝弥さんは自分の事を過小評価しがちなのでそれで自信を無くされないように私もしっかりと頼りにしているところを見せないと!」
せつ菜さんからそんな告白紛いな事を言われ胸が熱くなるのを感じた。
「ふふっ、ならその期待に応えないといけないですね」
「はい! あっ、それと輝弥さん、部活とは関係ない事ですが少し良いですか?」
「ほう? いいですよ、どうかしましたか?」
次のライブに向けてお互いの信頼を確かめ合ったのち、せつ菜さんは思い出したかのように話題を変える。
「今度の日曜日、少しお付き合い頂けませんか……?」
「今度の……日曜……日……?」
せつ菜さんからお誘いの日に運命を感じずにはいられなかった。
「……もしかして……何か予定がおありでしたか……?」
「あぁっいえっ! そういうわけじゃないんです! それよりも今度の日曜日というと……」
「……自分で言うのもあれなんですが、私の誕生日なんです」
せつ菜さんは気恥ずかしそうにする。
まあ自分から誕生日なんて言うと、自分の誕生日を祝せと言っている感じであまり気乗りしないのは同感だ。
「そうですね、もしかして何か欲しいものでも?」
「いえっ、そこまで烏滸がましい真似を出来ません! その……お出掛けに行きたいなと思いまして……」
「うーん、どこか行きたい所とかは決まってるんですか?」
「はい。この時期ですし海に行きたいなと思いまして」
「おぉー、海ですか。良いですね。でもそれなら他のメンバーも一緒の方が良くないですか?」
そう口にした時、せつ菜さんは目を反らしてしまう。
どうしたんだろう。自分の水着姿を見られるのが恥ずかしいのだろうか。
「海なんですけど……泳ぎに行くわけではないんです……」
「ほう? では何をしに?」
せつ菜さんの意図が読めず、つい圧力をかけるように問い詰めてしまっていた。
だが、せつ菜さんも腹を括ったように正面から俺の顔を見据える。
「あの……聖地巡礼に……!」
一瞬せつ菜さんの言う事に理解が追い付かず瞬きの回数が増えてしまっていたが、瞬きをする毎に状況を整理していく。
「聖地巡礼……ですか?」
「はい、実は静岡県のとあるスクールアイドルグループが活動した場所に巡礼に行きたいんです。もちろんただ巡礼をするだけではなく夏ですので自然の空気を味わうのも良いですし!」
聖地巡礼に関して特筆した知識を持っているわけではないが、アニメの元ネタになった場所に赴いてそのキャラ達が過ごした時間を体感しに行くことだというのは分かる。
そもそも、そういった活動はしたことがないので聖地巡礼というものに興味が湧いた。
「なるほど……ならそれも有りか……」
「輝弥さん?」
先ほどまで考えていたプレゼントプランとは違い非常に良い案だと思い、乗っかることにした。
「分かりました。凄く楽しそうですし僕でよければご一緒させて下さい」
「ふふっ、ありがとうございます! 輝弥さんならそう言ってくれると信じてました! では予定についてはまたご連絡させて下さい!」
俺の返事に満足したせつ菜さんは曇りっ気のない笑顔を向けてくる。
やはりこの笑顔はいつ見ても元気になれる。
「はい、またお願いしますね」
そう言う中で俺はとある決意を固めようとしていた。
それから当日。
向こうへは一緒に行きたいというせつ菜さんの要望で駅に集合することにした。
俺はいつもの如く15分前には到着してせつ菜さんが着くのを待っていた。
(果たして、言うタイミングが見つかるかな……)
お出かけの約束をしてから今日までの間、何も調べずにいた俺ではない。
俺がやろうとしていたことを成そうとそれらしい場所を探していた。
おあつらえ向きの場所は見つけたので、あとはそれを切り出せる勇気があるかどうかだった。
「輝弥さーん! おはようございます!」
そんなことを考えていると俺の思考を遮るように明るい声で挨拶をしてくるせつ菜さんの姿があった。
「おはようございます、せつ菜さん。朝から元気ですね」
「えへへっ、これが私の性分なので!」
こんなことを言っているが今日が楽しみで眠れなかったと言われたらどうしよう。
「ふふっ、そうですね。それとお誕生日おめでとうございます。今日はせつ菜さんにとって素敵な一日になるようにしますので」
「ありがとうございます。こちらこそ輝弥さんを退屈させないようにプランを考えていますので一緒に楽しみましょう!」
こうして、俺達の誕生日お出かけが幕を開けるのだった。
お出かけという事で十分な張り切り具合を見せた早々、電車内で途中からせつ菜さんの頭が小舟を漕いでいた。
「せつ菜さん? 大丈夫ですか?」
「あっ……すみません、実は今日の事を考えたら昨日はあまり寝付けなくて……あまり寝れてないんです……えへへっ……」
まさかせつ菜さんと会った早々に脳裏に過ったことが的中してしまうとは。
どうやら俺の中にも予知能力を芽生え始めてしまったようだ。
「そ、そうなんですか……? なら無理されず寝てていいですよ? 近くなったら僕が起こしますから」
「い、いえっ、お気になさらず……! このくらいならどうってこと……!」
「それで日中に倒れられたらこちらが困ります。僕に対しては無理をするなって言うのに自分が無理をしようとしないで下さい」
幸い電車内は指で数えるほどしか人がいないため、そこまで視線を気にする必要もない。
「うぅー、ですが……」
「巡礼中に頭が空っぽになって折角の旅が楽しめなくなりますよ? そんなのせつ菜さんだって嫌じゃないですか? 無理はなさらないでゆっくりお休みください」
「か、輝弥さんがそう言うなら失礼します……」
そう言うとせつ菜さんは俺に身を預けるようにもたれ掛かり、暫しの仮眠に着くのだった。
ここまで遠足を楽しみにしていた子供のようなリアクションをされると学校内での印象と違い過ぎてどちらが本当の彼女か分からなくなってしまう。
だが、それが彼女の魅力なのだろう。
電車に乗ってから数時間後、俺達は目的の場所へと着いた。
「いやぁー、着きましたねー!
沼津に!!」
そう、俺達は静岡県の沼津に来ていた。
ここには一躍時の人ならぬ時のグループとなった人たちがいるのだという。
せつ菜さんはかの地に降り立った喜びからテンションが最大限に高まっていた。
「そ、そうですね……」
「おや? 輝弥さん、どうしたんですか? 行きでもうお疲れになったんですか?」
疲労感に苛まれているとせつ菜さんが首を傾げている。
(一体……誰のせいでこうなってるのか……)
そう、俺がこうなっているのは他でもない彼女のせいなのだ。
せつ菜さんが眠りについたのはあれから数十秒後だった。
すぐに寝息が聞こえてきたので余程寝れなかったことが伺えたがせつ菜さんが安らかに寝ているのを他所に俺は内心緊張が高まっていた。
異性とここまで近い距離にいることなど姉さん以外に無かったと言っても過言ではない俺の隣で、学園内でも人気の高いスクールアイドルが身を委ねて寝ているのだ。
周囲に人が少ないのは良いもののそれでも乗り合わせてる人とふと目が合うと途端に恥ずかしさが増してくる。
別にこちらを妬んで見ているわけではないのだがそれでも気になるものは気になる。
片や可愛らしい寝顔、片や刺されるような視線と逃げ場がなく板挟み状態だったのだ。
ドギマギしていると電車が少し揺れ、身を委ねていたせつ菜さんが反対側へ倒れこもうとしていた。
「あっ……」
思わず左手を伸ばし、左肩を優しく抱えるように押さえた。
咄嗟に手を出したおかげでせつ菜さんは倒れずに済んだものの心拍数はさらに高まる一方だった。
(押さえれたはいいもののなんでこんな抱きしめる形になっちゃったんだよぉぉぉ…………)
せつ菜さんは変わらず寝息を立てているので起こさなかっただけ良しとしよう。
刺激しないように優しく先ほどと同じように自分の左肩にもたれ掛けさせる。
(本当に……この人はいつも俺の心をかき乱すな……)
ほっと一息吐いたものの、この一連の流れのせいで全く落ち着かなくなってしまったのだった。
だが、目の前で楽しそうにはしゃいでいる彼女を見ると疲れていた俺の心も次第に和らいでいった。
今日は折角のせつ菜さんとのお出かけ。
お互いに悔いの残らないものにしたいので先ほどまでの暗かった自分とはここでお別れをしよう。
「それよりも夏真っ盛りなのもあって暑いですね……」
今日は曇り気が全くない日本晴れ。
お出かけをするには絶好の日だが身が灼けるような暑さが逆にお出かけをする気力を削いでくる。
「これが夏というものです。ボヤいていても仕方ありませんよ! むしろ雨にならなかったことを感謝しましょう!」
だが、目の前の少女はそんな太陽に負けない熱気で俺を奮い立たせる。
「そうですね。こういう時に見る海は非常に良いものですし、今だからこそ出来る事を楽しみましょう」
沼津駅から出ている運行バスに乗り向かった先はとある和洋菓子店だった。
「ここも聖地なんですか?」
「はい、そのスクールアイドルはここでよく練習終わりに茶菓子を頂いていたそうなんです」
店内に入ってみると席数は少ないが木造のテーブル席が風情を感じる素敵なお店だった。
「なるほど、素敵なお店ですね」
ショーケースに並んだ和菓子、洋菓子を見て早速腹の虫が鳴っていた。
「あははっ、お腹も空いているようですし一休みしましょう♪」
「はむっ。……うぅーん、美味しいです! みかんの酸味がタルトやクリームと程よく絡み合って……絶品です!」
各々食べたいものを注文してテーブル席で待つこと数分。
せつ菜さんはみかんタルトを注文して早速頬張っていた。
「はむっ。……うん、こちらも美味しいです。プリンの優しい食感とクリームの甘さで口の中が幸せになっていく感覚がします……」
俺は半熟プリンを注文したが、こちらも透明の容器から覗けるプリンが綺麗な乳白色をしていて食欲をそそられていた。
また少しカップを揺らすだけでプリンがぷるぷるっと震えるのでそれもまたプリンとしての完成度の高さが伺えるものだった。
すると、せつ菜さんは物欲しそうにプリンを見つめていた。
「輝弥さんのプリンも美味しそうですね……」
「一口食べます?」
「えっ、よ、よろしいんですか!?」
「そんなリアクションされて食べさせないほど、僕も鬼じゃありませんよ」
どうやら食べさせてもらえると思ってなかったようで驚きがだいぶ大きかった。
「はい、どうぞ」
せつ菜さんへプリンとスプーンを差し出して食べるように促す。
「そ、それでは頂きます……! はむっ」
俺からスプーンを受け取り、これでもかと言わんばかりにプリンへクリームをよそおい、口の中へ放り込む。
口に入れた数秒後、すぐに笑顔がはじけた。
「うぅ~ん、美味しいです!! プリンのこの柔らかな食感が口いっぱいに広がって……クリームも合わさりこちらも最高に美味しいです!」
「お気に召したようでよかったです」
自分で作ったわけではないが、思わずシェフ側の気持ちに立って返事をしてしまう。
「あっ、私だけが食べさせてもらっていては駄目ですよね! 私のタルトも一口どうぞ!」
そう言うとせつ菜さんは自分のフォークにそこそこの大きさはあるみかんとタルトを刺して、俺に食べさせようとする。
「はい、あーん」
まさか食べさせようとするとは思わなかったが、せつ菜さんの好意を無下にはしたくないので素直に受け取る。
「あっ、あーむ……」
少し顔が熱くなりつつもみかんタルトの味を噛み締める。
「うん、美味しいです……」
「そうですよね! どちらも私達だけで食べるのが勿体ないです!」
俺からの味の感想に満足したせつ菜さんは太陽のような笑顔を向けてくる。
室内にいるのに日に照らされているような暑さが襲ってくるようだった。
(この人は本当に無自覚でやるんだから……)
先ほどの行為といい、天然たらしの素質を持ってるせつ菜さんにただただ苦笑いしか出なかったのだった。
松月でお腹を満たしたのち、俺たちはとある旅館の前に来ていた。
「せつ菜さん、ここは?」
「ここはスクールアイドルグループのリーダーが住んでるお家なんです」
「へっ……? 旅館が……家!?」
旅館が家とは随分と裕福そうな印象を受ける。
「そうですよね。ですが、その人はそこら辺にいる普通の高校生と同じだったんですよ」
せつ菜さんはそう言うとリーダーさんの事を話し始めた。
「彼女は、自分は何も取り柄が無い、つまらない人間だとして今まで心の底から充実した生活というものを送れてなかったそうなんです。幼馴染は運動神経抜群でよく大会で受賞しているところを近くで見ていたんだとか」
「それは……心までは満たされなかった……という事ですか」
「はい、そんな中でスクールアイドルに出会って、普通の高校生が自分たちの力で輝こうとする姿に心を打たれたそうなんです。そして、彼女もまたスクールアイドルを始めました」
「その高校はどこにあるんですか?」
「あちらにありました」
せつ菜さんはそう言うと、旅館の右側を指差した。
「ですが……その学校は……もう残っていません」
「えっ……?」
衝撃の事実に思わず目が点になってしまった。
「その学校は生徒数が伸び悩んでいた関係もあり、次の一年生が規定の人数まで募集が無ければ廃校にするということだったんです」
せつ菜さんは振り返り、近くにある砂浜へ歩き出し波打ち際の目前で足を止めた。
「ですが、彼女たちは廃校という壁にぶつかってもその学校が存在していた証を残そうと奮闘したんです。そして、ラブライブで優勝を果たし、その悲願を叶えた」
「優勝した母校は知名度を上げつつも惜しまれつつ廃校となった……。だから伝説になっているんですね」
「はい、ここに来て彼女たちが刻んだ時を感じたかったんです。そうしたら今後の同好会の活動にもまた新しい風を吹かせられると思いまして」
「なるほど……。凄く……素敵なことだと思います」
俺はただただ彼女たちの偉業に感嘆の声しか出なかった。
「今日は付いて来て下さってありがとうございます。おかげで良い時間を経験出来ました」
「もう目的の場所は回った感じですか?」
「はい、あとは個人的に気になっていた箇所を巡るのでも良いかと思ったんですが……」
その言葉を聞いて、動くなら今しかないと俺は意を決した。
「なら、行きたい場所があるんです。良ければ付いて来てもらってもいいですか?」
「はい、良いですよ。時間はまだまだありますから!」
せつ菜さんから了承を貰うと早速目的の場所へと足を運ぶのだった。
着いた先はロープウェイ乗り場だった。
「これからロープウェイに乗るんですか?」
「はい、ここら一帯を一望できるスポットがあると聞いて行ってみたかったんですよ」
「わぁー……それは楽しみですね!」
期待に胸を膨らませつつロープウェイに乗り込むせつ菜さん。
そして、刻一刻と俺にとっての戦いの時間が迫ってくる事も感じながらロープウェイに乗り込んでいく。
「わぁ──!! 凄く綺麗ですね!!」
ロープウェイを登り切ったのちに見えてきたのは目線いっぱいに広がる山と海の壮大な景色だった。
「こんな所もあったなんて……輝弥さんも今回のお出かけを随分楽しみにしてたんですね」
「まあ……そうですね。それよりもう少し先に行けるみたいなので進みましょうか」
そう促すとせつ菜さんと一緒に歩きだしていった。
山道を超え、木の板で作られた橋を越えると辿り着いた先には展望台があった。
そこからの景色は乗り場で見えたものとはまた違うもので先ほどまでいた和洋菓子店や旅館、それから近くにある島々も一望できるところだった。
「こちらもいい景色ですね!」
せつ菜さんは一通り見渡すととあるスポットが目に入った。
「あれは何でしょうか? 行ってみましょう!」
「あぁ、せつ菜さん……! 先に行っちゃうか……」
見られたくないスポットを先に見られたため、少し焦りが出てきたが今更どうこう言っても仕方ないと思い、せつ菜さんに着いていく。
あるスポットに到着したら、せつ菜さんは先に一本の木柱を凝視していた。
「これは……」
「ここは恋人の聖地と呼ばれているんです。その象徴として挙げられるのがその"幸せの鐘"です」
木柱に吊るされている鐘を見ながら、解説をしていく。
「恋人の聖地……ですか?」
「はい、その鐘を二人で鳴らすと幸せになれるんだとして有名なんですよ」
俺の言葉を聞き、せつ菜さんは鐘の先に伸びている紐に触れる。
「この鐘を……二人で……」
鐘を見据えた先にせつ菜さんが何を思っているのかは読めなかったが言うなら今しかないと思い、腹を括る。
「せつ菜さん」
俺はせつ菜さんを呼び、こちらへ振り向かせる。
そんな俺の声に触っていた紐を放し、こちらへ身体を向けてくるせつ菜さん。
「輝弥さん?」
「僕は……虹ヶ咲学園に来るまで、何の取り柄もないつまらない男でした。思い出したくもない日々の中、趣味である音楽と姉さんの存在だけが僕に生きる価値を与えていました」
「…………」
せつ菜さんは一言も発することなくこちらの言葉に耳を傾けてくれる。
「そんな中でこの学園に入学して、荒んでいた俺の心をとある少女が救ってくださいました。その人は自分の大好きをありのままに体現して、俺の大好きもその人は肯定して後押ししてくれたんです」
言いたい言葉が止まらなくなり少しずつ饒舌になっていく。
「彼女のお陰で今の俺がいます。そこから俺が抱いたもの。それは俺の心を救ってくれたその人の事をもっと知りたい……誰よりも近い所に立ちたい。そんな欲望でした」
少しずつ顔の温度が上がりつつも決して逸らないように気持ちを落ち着ける。
そして、優しくせつ菜さんの右手を握る。
「優木せつ菜さん。俺は貴女の事が誰よりも好きです。せつ菜さんが溢した悩みも全部受け止めて誰よりも貴女を幸せにしたいと思っています。もし……貴女がこれから先を俺と一緒に歩いて下さるというのならば……この鐘を一緒に鳴らしてくれませんか?」
せつ菜さんに対しての告白をして、俺は決して目を反らさずせつ菜さんの事を見つめていた。
ここで目線を外せば彼女への想いが嘘になってしまうように捉えられてしまうからだ。
彼女からの返事がどうであろうとそれは真摯に受け止める。
ただただ、彼女の一言を待っていた。
せつ菜さんは目線を下に落とし答えに悩んでいるようだった。
それは良い意味とも悪い意味とも取れる動きなので俺は内心落ち着けずにいた。
「あ、あの……」
口を開いて、せつ菜さんが顔を上げた時には彼女も顔が赤く染まっていた。
「か、輝弥さんからそう言ってもらえて、す、すごく嬉しいです。輝弥さんも……私と……同じ気持ちを持ってて良かったなと……心からそう思いました……」
その発言に一瞬理解が追い付かなかったが、状況を飲み込んでいきその後に続く言葉を想像するのはそう難い事ではなかった。
「私も同じように貴方に救われました。自分の大好きに殺されていた私を輝弥さんは優しく受け止めてくれた。それが私にとって一番の幸せです」
せつ菜さんは握られた右手に乗せるように左手を被せる。
「巴輝弥さん。私も貴方が大好きです。これからの人生を私と一緒に歩いて下さい」
せつ菜さんの返事を聞いて思わずにやけてしまう自分がいた。
「ほ、本当ですか……? ゆ、夢ではないんですよね……?」
やばい。今の俺、最高に気持ち悪い顔をしている自信がある。
そんな俺を見て、せつ菜さんも少し悪い顔をしていた。
「夢ではないですよ。試しにほっぺをつねってみましょうか?」
「いったたたた……! そう言いながらつねらないで下さい……!」
頬の痛みを実感したことでまやかしではなく現実に起こったことだと改めて自覚することが出来た。
「でも、本当に良かった……せつ菜さん。本当にありがとうございます」
「こちらこそ素敵な誕生日をありがとうございます♪」
お互いの想いに感謝を述べた後、二人で静かに幸せの鐘の紐を握る。
「僕たちの未来に……」
「素敵な景色があらんことを」
アニメに出てきそうな台詞を二人で述べた後、大きく鐘の音を鳴らす。
大きな鐘の音で近くにいた鳥たちも驚きのせいか飛び出してしまったが、今の俺達には新たな門出を祝して演出しているかのように見えた。
「ふふっ。鳴らしてしまいましたね」
「はい、やっちゃいましたね」
鐘の音が無くなりあたりに静寂が訪れる。
その空気に思わず笑いが込み上げてしまう二人。
「さぁ、下に降りて駅の方へ戻りましょう。まだお出かけは続きますからね!」
「望むところです。どこまでもついていきますよ!」
「ふふっ。ありがとうございます。輝弥
突然の呼び名の変化に驚きが隠せなかった。
だけど、こんなせつ菜さんも有りだなと思うと笑みが浮かんできた。
「こちらこそです。せつ菜さん」
そう言いながらロープウェイ乗り場に向かおうと歩き出す。
手を繋ぎながら山を下っていく二人の姿はどこまでも太陽のように眩しく、彼らの進む道が明るいものであることを暗示しているようだった。
読んで頂きありがとうございました!
せつ菜ちゃんとの特別回という事で色々考えた結果、この展開も有りかと思いお話を紡がせてもらいました!
※この話を書いてた時、無性に沼津へ聖地巡礼に行きたくなったのはここだけの話
改めてせつ菜ちゃん、誕生日おめでとう!
素敵な一日・一年になりますように!