お休みと気力をください(切実)
魔術競技祭に向けて
いつもの学院、いつもの2年2組の教室にて。
「だあああーッ!? また負けたーっ!?」
悲痛な叫びをあげた俺は手に持っていたトランプ(ジョーカー)を放り投げてそのまま机に轟沈した。
「ふふっ、シラヌイさんは表情に出過ぎですわ。もう少しポーカーフェイスを鍛えた方がよろしくてよ?」
「まあ、俺ですら丸わかりだからなー。逆に才能だと思うぞ師匠」
「そうだねぇ、シラヌイはこういうゲームには向いてないと思うよ」
俺の対面にいるウェンディ=ナーブレス、その右にいるカッシュ=ウィンガー、そして左にいるセシル=クレイトンから容赦ない言葉のナイフが放たれる。
「ぐっ…! 俺がわりと気にしていることをこうも容赦なく言いやがって…! お前らは鬼か!? それとも悪魔なのかっ!?」
グサグサと言葉のナイフが心に突き刺さり、俺は血の涙を流しながら(※あくまで本人のイメージです)三人に訴える。
ババ抜き最弱王だと自覚してても傷つくんだぞっ!
俺のそんな思いをよそに、三人は呆れた表情、なんともいえない表情、苦笑したりとそれぞれの反応を示す。
ちなみにカッシュからは師匠と呼ばれている。
一年の頃、友人作りのために俺は前世のエロ知識とその人間の業の深さを話したら尊敬されるようになった。エロ師匠として……(泣)
まあ師匠と呼ばれるようになったのはつい最近なんだけど。
「ええいッ! もっかいだ! 俺は勝つまで終わる気はないぞー!」
「そんなの永遠に終わりませんわ」
再び立ち上がる俺にウェンディの毒舌ッ!!
↓
効果はばつぐんだ!
↓
シラヌイは 目の前が 真っ暗になった。
おお、シラヌイよ! 死んでしまうとは情けないっ!
「もういい、おうち帰る……」
「あ、あはは……」
どんよりと暗い雰囲気を醸し出す俺を少し離れた席から見ていたルミアは苦笑した。
ちなみに今この教室にシスティーナはいない。彼女は魔術競技祭のことでグレン先生に相談しに行っているからだ。まぁどうせグレン先生のことだからお前らの好きにしろって言うんだろうけど。
「それより、そろそろ魔術競技祭があるってのに全然出場メンバー決まらねーよな……」
話題を変えるためにカッシュがもうじき開催される学院の一大イベント、魔術競技祭のことを口にした。
魔術競技祭とは、アルザーノ帝国魔術学院で年に三度に分けて開催される、学院生同士による魔術の技の競い合いをする祭りのことだ。それぞれの学年次ごとに、各クラスの選手が様々な魔術競技で技比べを行い、総合的に最も優秀な成績を収めたクラスの担当講師には、恒例として特別賞与が出ることになっていたりする。
「いつもの事ですわ」
ウェンディが特に気にしてなさそうに呟いた。実際、ここ2年2組は魔術競技祭で優勝したことがなく、成績もあまりよろしくなかったので、彼女は本当に気にしていないのだろう。
いつも通りそこそこの成績で終わると思っているようだ。
「まあ、今回は女王陛下が直々に来られるから余計にね……」
あまり乗り気じゃなさそうにセシルが言う。
「気持ちはわかるぞセシル。女王陛下の前で競技やるとか、親と一緒にギャルゲーやるくらいのレベルで恥ずかしいもんな」
「ごめん、ちょっと僕には理解できないかな」
「え、そうか?」
「なんだよ、ぎゃるげーって……」
「なんだか理解したくもありませんわ……」
えぇ……なんだろこの疎外感は。世界が違うとセンスや感覚も違ってくるのだろうか。
あ、そもそもこの世界にギャルゲーなんて無かったか。そもそもテレビとかないしな。そりゃゲームなんてあるわけないか。
「でもよ、今年は女王陛下に続いて歌姫も来るらしいぜ?」
「あー、たしかにそんな情報があったね」
「最新の情報では、魔術競技祭の昼休みにライブを行うようスケジュールが組み立てられていると聞きましたわ」
先程までとは一転、今度は楽しそうに談笑する三人。
その様子が気になったのか、ルミアは席を立つとこちらへと歩いてきた。
「ねぇシラヌイ君、歌姫さんって誰なの?」
不思議そうにするルミアに、俺はトランプを片付けながら答える。
「んー、歌姫っていうのはめっちゃ歌が上手い人のことかな。システィーナがその人の曲を聞いてたりするからてっきりルミアも知ってるのかと思ってたんだけど……」
少し意外だ。システィーナに聞けばきっとメルガリウスの天空城並みに語ってくれると思うぞ……いや、だから聞かなかったのかな。長々と語られるその雰囲気を察して。
「お、なんだなんだ。歌姫のことを知りたいのか?」
「ええと、システィもその歌姫さんの曲を聴いてたからそんなに有名な人なのかなーって気になっちゃって……」
得意気に聞いてくるカッシュに苦笑しながら答えるルミア。
「おーっし! ならいっちょ歌姫について語ってやるか!」
「歌姫様は貴方が語れるような方ではありませんわ」
「なにをー!?」
「ちょっと二人とも。喧嘩はそれくらいにしなよ…?」
「えーっと……」
いつものようなやり取りをする二人にルミアは困ったような顔をする。それをいち早く察したウェンディが片手で髪をファサッと振り払い、歌姫について語った。
「歌姫様は今から約一年前に突如表舞台に現れた歌の天才ですわ。あの方の歌う曲の種類はまさに千差万別っ! 機械的な声でありながら歌を聴く人々の心を掴んで放さない不思議な魅力がありますのっ!」
「へぇ~、なんだか凄い人なんだね……」
ウェンディが興奮気味に語る歌姫の情報に、ルミアは興味深そうに呟く。そしてその続きは隣にいたカッシュが語ってくれた。案外、この二人は仲がいいのかもしれない。
「凄いなんてレベルじゃないんだけどな。あ、ちなみに歌姫の本名はミク=ファーストサウンド。推定年齢は15~17歳で水色の髪をツインテールにしてる美少女だな。最初は南地区の倉庫街で路上ライブをやってたらしいんだけど、かなり人気が出て今ではこうして式典やイベントで歌って欲しいって勧誘が来るくらいなんだと」
「ま、それくらい有名ってことだな。伊達に歌姫なんて呼ばれてないし」
「なんで師匠が偉そうにしてるんだよ……」
得意気にする俺に、カッシュがジト目で言った。まあ俺は漠然とした説明しかできなかったし、言いたいことはわかるけどスルーしておく。
「うーん……そこまで言われてるくらいだし私も歌姫さんの曲を聴いてみようかな……」
「お、それなら定番の【千本桜】がオススメだな。テンポがかなりいいし、聴いてるだけで盛り上がるからな!」
「お待ちなさい。たしかに【千本桜】も悪くはないですが、
普段よりも押しが強いウェンディにルミアは微笑む。普段は気の強そうな印象があるが、こういう一面もあるのだとクラスメートの知らなかった姿を見れたのだ。少し嬉しくもあると同時にそれだけ歌姫の歌は人の心に影響しているのだとルミアは理解した。
「うん、今度両方聴いてみるね」
「絶対ですわよ。あと、聴いたら感想聞かせて欲しいですわ」
「あまり推しすぎると逆に引かれるぞーウェンディ」
「常に周囲から引かれている貴方に言われると説得力でがありますわね」
「えっ? 俺皆から引かれてんの? マジで?」
ちょっと言ってやろうかなと軽い気持ちで言ったらとんでもない毒が返ってきた。
初耳なんですけど……そんな情報。
というか知りたくなかった。わりと皆と仲良くしてる方だと思ってたけど引かれてただけなのか? やべ、ちょっと目から塩水が……
「大丈夫だよシラヌイ君。ウェンディは冗談で言ってるだけだから」
笑顔で励ましてくれるルミアが天使に見える。さすが、ルミア=エンジェルと呼ばれるほどの性格の良さ。その優しさが心にしみる。
「本気で言われたら泣く自信があるな」
「7割冗談ですわ」
「3割は本気って事じゃないか!」
思わず椅子から立ち上がって叫んだ。
酷い。せっかく大天使に励ましてもらったのにちょっとダメージ負ったぞ。
豆腐メンタルのクソ雑魚ナメクジなこの俺に容赦なく毒を吐くとは……今夜は枕を涙で濡らしてやる。
◇◆◇
「はーい、『飛行競技』の種目に出たい人、いませんかー?」
今日の放課後、我ら2年2組の教室はびっくりするほど盛り下がっていた。
壇上に立ったシスティーナがクラス中に呼び掛けるが、当然の如く返事はない。
クラスメート達は一様に
「じゃあ、『変身』の種目に出たい人ー?」
やはり、無反応。教室は静まり返ったままだった。
「はぁ、困ったなぁ……来週には競技祭だっていうのに全然、決まらないなぁ……」
システィーナは頭を掻きながら、黒板の前で書記を務めるルミアに目配せする。
ルミアはシスティーナの意図をすぐに読み取り、穏やかながら意外によく通る声でクラスの生徒達に呼び掛けた。
「ねぇ、皆。せっかくグレン先生が今回の競技祭は『お前達の好きにしろ』って言ってくれたんだし、思い切って皆で頑張ってみない? ほら、去年、競技祭に参加できなかった人には絶好の機会だよ?」
それでも、誰も何も言わない。皆、気まずそうに視線を合わせようとしない。
かくいう俺も、この状況を改善させず、机の上に突っ伏して堂々と寝た振りを決め込んでいるが、正直気まず過ぎて落ち着かないし寝れもしない。
(あぁー、早く来てくれグレン先生……この状況を打破できるのは教師である貴方だけなんだー)
心の中でそんな事をぼやいていると、この
「……無駄だよ、二人とも」
呆れた声とその態度にシスティーナは眉をひそめる。
「皆、気後れしてるんだよ。そりゃそうさ。他のクラスは
例年通り、クラスの成績上位陣が出場してくるに決まってるんだ最初から負けるとわかっている戦いは誰だってしたくない……そうだろ?」
「でも……せっかくの機会なんだし」
むっとしながら反論しようとするシスティーナを無視し、ギイブルが続ける。
「おまけに今回、僕達二年次生の魔術競技祭には女王陛下が
言い方に少し問題があるが、反論できない的確な指摘だ。
「それより、システィーナ。そろそろ真面目に決めないかい?」
「私は今でも真面目に決めようとしてるんだけど?」
「ははっ、冗談上手いね。足手まとい達にお情けで出番を与えようとしているのに?」
ギイブルは皮肉げな薄笑いを口の端に浮かべ、クラスの生徒達を
「見なよ。君の突拍子もない提案のおかげで、元々、競技祭に出場する資格があった優秀な連中も気まずくなっちゃって萎縮している……もういいだろう?」
「わ、私はそんなつもりじゃ!? それに皆のことを足手まといだなんて……ッ!」
「綺麗事はいいよ。そんなことより、さっさと全競技を僕や君のような成績上位陣で固めるべきだ。そうしなければ他のクラスに……特にハーレイ先生率いる一組に勝てる訳がない」
「勝つことだけが競技祭の目的じゃないでしょう? それに、それ去年もやったけど……なんか凄くつまらなかったし」
「勝つことだけが目的じゃない? つまらない? 何を言っているんだ、君は。魔術競技祭はつまるつまらないの問題じゃないだろう?」
ギイブルはシスティーナの言い分を鼻で笑った。
どんどんと悪化していく状況に、クラス内の空気は最悪だ。誰かなんとかしてくれ。
(あ、そういや、この状況なんとかできるかも)
他力本願で頭を悩ませていたが、とある事を思い出してすぐに解決できる方法を思い付いた。
ならば早速実行して場の雰囲気を和らげるか……確実にそうなるとは言えないけどマシにはなるはず。
「ちょっといいか?」
寝た振りを急遽、取り止めて席を立つ。
険悪な空気の中、突然割り込んできた俺にクラスの生徒達は困惑顔だ。
「何かと思えば呑気に寝ていたシラヌイか。一体、何の用だい?」
不機嫌そうにちょっと言葉に刺を混ぜて言うギイブル。
ふっ……俺はお前の秘密を知っているんだぜ? その不機嫌そうな顔を今すぐご機嫌な顔に変えてやるぜっ!(悪い顔)
「ちょっとギイブルと交渉でもしようと思ってな」
「成績下位の君が交渉なんてできるのかい?」
「ちょっと、それどういうことよ?」
嘲りを含めたその声と表情に、俺ではなくシスティーナがキレる。普段は俺に毒吐いたりしてるけど、こういう時に限って何故味方になってくれるんだろうか。
「あー、いやまぁシスティーナ取り敢えず落ち着いて。俺は別に気にしてないし」
「……そう」
渋々といった感じで頷く彼女に、俺は内心で安堵した。
「んで、俺はギイブルと交渉しようと思うんだけど、その前にいくつか言っておきたいことがあるんだ」
「言っておきたいこと? どうせ大したものじゃ------------」
「約一週間前のフェジテの中央区。裏路地。フードを被った人物。その手に持つものは------------」
「---------ッ!? もういいッ! それ以上は不愉快だ…ッ!」
ギイブルの必死な形相に仕方なく押し黙る。そんなに言われたくない秘密だろうか?
「取り敢えず、俺と交渉する気はあるか?」
「そうさせるように仕向けたのは君だろうに」
笑顔の俺とは対照的に更に不機嫌になるギイブル。
俺は彼に近づくと周囲に聞こえない程度の音量でとある提案をした。
「------------」
「---------っ! それは……だが、しかし……」
瞳を揺らし、あからさまに動揺しているのが見て取れる。そんな滅多に見ないギイブルの姿に、クラスの生徒達は俺が何を言ったのか推測して小声で語り合っている。
そしてしばらくすると。
「……ふんっ、君達の好きにすればいいさ。結果がどうなろうと僕は知らないからな」
「交渉成立だな」
「どこがよ……」
システィーナに呆れた視線を向けられるが気にはしない。いつもの事だし。
「なあ師匠、さっきはギイブルになんて言ったんだ?」
本人に聞こえないよう小声で尋ねてくるカッシュ。
「悪いが企業秘密ということで」
「えー」
俺の返答に明らかに不満な声を挙げるカッシュ。笑みを浮かべて誤魔化すがさすがにこれは本人の承諾なしに教える訳にはいかない。
俺としては別に教えても問題なさそうだと思うほどの内容だが、彼からしてみれば重大な事なんだろうな。
(ギイブルがミク=ファーストサウンドのファンだって自分で言ったら友達増えそうなのにね……)
隠れオタクならぬ隠れファンのギイブルに、俺はなんとも言えない笑みを浮かべた。
その後、一分もしない内にグレン先生が教室に飛び込んできてだいたい原作と同じ通りに進んだのは言うまでもない。
【おまけ】
シラヌイ「そういや、魔術競技祭の俺の役割って…」
グレン「……補欠じゃね?」
シラヌイ「えぇ……別にその方が都合いいけどさ」
グレン「…ん? そりゃどういう---------」
シラヌイ「ネタバレになるので黙秘権を行使します」
グレン「アッ、ハイ……」
システィーナを微ヤンデレにしたいですか?
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はい
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いいえ
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どっちでもOK
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いいぞもっとやれ(ヤンヤンさせたい)