ロクでなし魔術講師と最後の精霊   作:空白部屋

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最後らへん、三人称視点の文脈になってしまいました。すみません…



ほんの少しのやる気

 

 ダメ講師グレン、覚醒。

 その(しら)せは学院を震撼させた。噂が噂を呼び、他所(よそ)のクラスの生徒達も空いている時間に、グレン先生の授業に潜り込むようになったり、そして皆、その授業の質の高さに驚嘆した。

 俺もその驚嘆した一人であり、彼の(おこな)う授業はとても分かりやすくて助かっている。おかげで個人的な研究がスムーズに進みそうだ。

 そしてこの日、その他の教師達にとってはまさに悪夢の日と言えるだろう。何故なら魔術師としての位階の高さこそが講師の格であり、権威であり、生徒の支持を集める(にしき)(はた)なのだ。

 学院に蔓延する権威主義に硬直した空気なんて一発で粉砕されたに違いない。ふははっ、ザマーミロッ!(歓喜)

 

 ----------おほん。さて、何故学院がこのような状況になっているのかというと、それは数日前まで(さかのぼ)る。

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 「じゃ、これからいよいよ基礎的な文法と公式を解説すんぞ。ま、興味ない奴は寝てな。正直マジで退屈な話だから」

 

 

 システィーナとひと悶着あった翌日、授業開始前に珍しく(というか初めて)教室に来たグレン先生は、いきなりシスティーナに頭を下げて謝罪した。

 そして俺たち生徒に魔術の基礎の大切さを説き、ニヤリと笑いながら言ったのが先ほどの台詞である。

 かなり略したけど、まぁ言ってしまえば真面目に授業をしてくれたということだ。それもかなり質の高い授業を。

 人はこれを神授業というのだろう。前世も含め、人生で初めて実感したわ。

 

 

「なんてこと……やられたわ」

 

 

 そんなグレン先生の授業が終わった後、システィーナが顔を手で覆って深くため息をついた。

 

 

「まさか、あいつにこんな授業ができるなんて……」

「そうだね……私も驚いちゃった」

 

 

 システィーナの隣に座るルミアも目を丸くして驚いている。

 

 

「悔しいけど……認めたくないけど……あいつは人間としては最悪だけど、魔術講師としては本当に凄い奴だわ……人間としては最悪だけど」

「あ、あはは、二回も言わなくったって……」

「ツンデレさんめ」

「誰がツンデレよッ!?」

 

 

 少しからかったらすぐに噛みつかれた。もちろん、物理的にではなく、比喩(ひゆ)表現に過ぎないが。

 もし本当に噛みついてきたら某高校のGJ部の部長である。いや、一度システィーナのそういう場面を見てみたいとは思うけど。絶対萌えると思う。

 

 

「それにしても、グレン先生の授業は今まで受けてきたどの講師よりも分かりやすかったな」

 

 

 正直に言うと、数週間前に講師を勤めていたヒューイ先生より分かりやすい。あの先生も分かりやすい授業をしていたけど、グレン先生のは徹底的に基礎の根本を教えるような感じで、ヒューイ先生の授業とは少し違う。

 何より魔術の根本的なことを教えてくれるので、そこから何かしら霊力と繋げられるヒントになっている。

 これでいくつか行き詰まって放置してた研究を進められるだろう。

 

 

「それはまぁ、そうだけれど。でも一番はアルフォネア教授ね。彼女の授業はあいつやヒューイ先生より高度な魔術を取り扱った授業だもの」

「それはまぁ、そうなんだけどさ……俺にはからきし理解できないからなぁ…」

 

 

 思わず愚痴がこぼれる。

 システィーナの言う通り、アルフォネア教授の授業はかなり高度な魔術を取り扱ったものなのだが、俺には全く理解できる気がしない。

 彼女(いわ)く、これでもかなり簡単に解説しているらしいが、さすがに邪神を殺した魔術など彼女にしか分からない魔術を解説するのは勘弁して欲しい。

 参加した生徒全員が「???」と、頭にクエスチョンマークを浮かべてたから。

 ちなみにアルフォネア教授の授業は物凄く人気で、抽選で参加者を決めている。

 学院に入ってから3度しか当たったことがない事からその人気の凄まじさは伝わると思う。

 そして1度目の授業で分からない事が分かったので、2度目と3度目の抽選券は密売した。売った俺が言うのもなんだが、チケット1枚が10万なのはおかしいと思う。

 まぁこのおかげで魔術媒体などの必要な物が買えたからいいけどさ……なんかこう、すっきりしない。まるで詐欺でもした気分だ。

 

 

「それは貴方が勉強不足なだけでしょ……」

 

 

 システィーナが呆れたように言う。

 だがしかし、彼女は入学2年目にしてやっと抽選券を手にしてアルフォネア教授の授業に参加できたのだ。

 そしてその頃にはもう、アルフォネア教授もかなり順応してきたようで、普通に生徒が理解できるような授業となっていたのだ。最初の頃なんて彼女が知るよしもない。

 

 

「いや、一番最初の授業はかなり酷かったんだぞ。最初はまともそうな授業だったのに途中から邪神を殺した魔術とか解説し始めたんだからな?」

 

 

 『誰でもできる邪神殺しの魔術』とか言って、俺達には到底理解できない解説を始めたのは今でも鮮明に覚えている。なんで黒魔【ゲイル・ブロウ】があんなおぞましいものになるのか理解したくもない。

 システィーナの得意魔術だから、もし彼女が覚えてしまったら俺は冗談抜きで死ぬ。いやマジで。

 

 

「…………勉強不足よ」

「無理があるわっ!」

 

 

 彼女が意地っ張りなのは理解しているが、流石にツッコミを入れざるを得なかった。

 『誰でもできる邪神殺しの魔術』という題名なのにあれってほぼ固有魔術(オリジナル)みたいな魔術だったから!

 とても勉強不足という言葉だけでは片付けられない規模のものだったから!(必死)

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 そして午前の授業を寝ることなく無事に受け終わり、昼休みを迎えた今日この頃。俺達は揃って魔術学院の食堂へ足を運んでいた。

 

 

「うへぇ、やっぱいつ来ても混んでるなー」

 

 

 午前の授業を終えて昼食をとりにきた生徒達で混雑している食堂内を見ながら俺は気怠(けだる)げな表情で愚痴を漏らす。

 長大なテーブルにクロスが掛けられ、その上にかなり凝った装飾の燭台(しょくだい)など、見渡せば見渡すほど金のかかってそうな高級感溢れる物がある。

 そして貴族が使いそうな食堂を学生が遠慮なく使っているところを見ると、前世の価値観も含めてかなり違和感がある。

 まぁ、そんな生徒の中にはシスティーナのような名門貴族やその他大勢の貴族の子息子女がいるから間違ってはいないんだろうが……金を使い過ぎなんじゃないかと思わなくもない。

 

 

「食堂が一つしかないから仕方ないでしょ。つべこべ文句言わないの」

「はいはい」

「はいは一回」

「はーい」

「伸ばすのもやめなさいよ」

「はい…」

 

 

 小声で言ったのだが、どうやらシスティーナには聞こえていたらしい。いつものように彼女の小言を聞き流しながら奥の厨房カウンターで料理を注文し、代金を支払って料理を受け取る。

 この魔術学院に現代の高校にある購買があったら迷わずそっちを使っていただろうなー、と感想を抱きながら俺達は丁度食堂の隅っこに空いていた席に着いた。

 

 

「それにしても、毎回思うんだけどそんだけで足りてるのか?」

 

 

 システィーナが注文したスコーン(レッドベリージャム付き)2つを見ながら言う。

 それに対し、彼女は眉をひそめると不機嫌そうに呟いた。

 

 

「あいつと同じ事言わないでよ……せっかくの昼食が台無しになるじゃない」

「いや、何もそこまで言ってやらなくとも…」

 

 

 今食堂にいないであろう本人に同情する。仲直り(かどうかは微妙だが…)をしたものの、やはりグレン先生がシスティーナの魔術に対する考え方や夢を否定した事実はなくならない。

 更に言えば、彼と彼女の性格は水と油のようなもの。根本的に合わないし、仲良くなるのは難しいか。

 

 

「シラヌイ君、システィはこう見えてシラヌイ君に心配されてるのが嬉しくて照れてるだけだから気にしないであげてね?」

「ちょ、ちょっとルミア!? 違うわよっ! なんで私がこいつの心配しなくちゃならないのよ!?」

 

 

 ニコニコと上機嫌に話すルミアに、テーブルを叩いて抗議するシスティーナ。気のせいか、彼女の頬が少し朱色に染まっている。

 

 

「なるほど。やっぱりツンデレじゃないか」

「違うわよッ!!」

 

 

 思い切り否定してくる辺り、残念ながら本当にそういう風に見える。まぁ、ツンデレって言っても俺に対してツンはあれどデレた事なんて一度もないんだけどね。自分で言ってて悲しくなってきた……。

 

 

「ツンデレと言えば、グレン先生もそれに近いんじゃないかな?」

 

 

 ふと、今思ったことを口にするルミア。

 たしかに、たまにではあるがそういう感じの場面を原作で見たことあるような気がするが……

 

 

「いや、違うぞルミア。たしかにあれはツンデレに似てるけどツンデレとは似て非なるものだ」

「そうなの……?」

「ああ、あれは言うなれば捻デレというものだ」

 

 

 真面目に話す俺にルミアは真剣な表情で聞いている。一方、ルミアの隣に座っているシスティーナは、馬鹿じゃないの? とでも言いたげな視線を寄越してくる。

 

 

「ひねでれ…?」

 

 

 意味がわからなかったのか、ルミアが小首を傾げる。ちなみにお隣さんのシスティーナはまったく興味なさそうに黙々と食事している。

 

 

「そう、捻デレだ。普段は捻くれてるけど、稀に捻ったデレを見せる。これが捻デレだ」

「へぇー、そうなんだね……」

 

 

 感心したように呟くルミア。

 

 

「だーれが捻デレだって?」

「あ、先生」

 

 

 俺の後ろからグレン先生が声を掛けてきた。

 彼も昼食をとりにきたのだろう。両手のトレイには様々な種類の料理が乗せられている。

 

 

「おや、グレン先生じゃないっすか。生きてたんですか?」

「おま、俺をなんだと思ってんだよ……」

 

 

 呆れたような視線を送ってくるグレン先生。

 

 

「年中金欠のロクでなし非常勤講師」

「ほぼ事実だから否定出来ねぇっ!?」

 

 

 いや、できればそこは否定して欲しかったんですが……

 

 

「先生もここでお食事ですか?」

「見りゃ分かんだろ」

 

 

 ルミアの質問に素っ気なく答えるグレン先生。そんな彼の袖をちょいちょいと軽く引っ張りながら小声で言う。

 

 

「グレン先生、ルミアは遠回しに"よくそれだけの料理の代金を払えましたね"って言ってるんですよ」

「ねぇ酷くない? 2人して酷くない???」

「えぇっ!? あ、あの! 先生!? 私そんなつもりじゃなくて…!」

 

 

 わりと本気でしょげてるグレン先生に対してルミアはあたふたと慌てて否定している。

 そんな中、俺は我関せずを貫いてちゃっちゃと料理を(はし)で食べる。

 うん、地鶏の香草焼きうめぇ。サラダと一緒に食うと更に美味しく感じる。

 

 

「ほら、先生。いつまでもそこに立たずにシラヌイ君の隣に座りましょう? ね?」

 

 

 なんとか(なだ)めることに成功したルミアはグレン先生を席へと座らせる。

 ちなみに俺とグレン先生、そしてテーブルを挟んで向こう側にいるのがシスティーナ、ルミアである。

 

 

「お疲れ様、ルミア」

 

 

 笑顔で労ったら頬をプクッと膨らませたルミアに軽く(にら)まれた。……ごめんなさい。

 

 

「もぅ、さっきみたいに意地悪な事をするなら今度から勉強教えてあげないよ?」

「すみませんそれだけはマジで勘弁してください」

「ふふっ、どうしよっかな?」

 

 

 早口&低姿勢で頭を下げる俺に、ルミアは小悪魔的な笑みを浮かべる。

 小悪魔ルミア……これは一部のファンから絶対需要があるな。

 

 

「今、変なこと考えた?」

「いえ! なにも!」

 

 

 ルミアの勘の鋭さに思わず敬礼しながら答えた。ちなみに敬礼は公に心臓を捧げるためのやつだ。捧げるつもりはないけど。

 これが女の勘ってやつなのか。まったくもって恐ろしいな。

 

 

「貴方達、いい加減さっさと食べたらどうなの? ほら、ルミアも二人に構っていたら昼休みが終わってしまうわよ?」

 

 

 システィーナが呆れたように言った。

 

 

「おっといけね。次は錬金術の授業だから媒体とか準備しなくちゃいけねーのか……はぁ、めんどくせー」

 

 

 そう愚痴りながらカチャカチャと食器の音を立てて料理をかきこんでいくグレン先生。

 

 

「なら早く準備出来るように手伝ってあげますよ」

 

 

 そう言って俺はグレン先生の取ってきたハンバーグにフォークを素早く刺して口の中に放り込んだ。

 その間、わずか0.97秒。自己新記録達成である。

 

 

「ん? そりゃどういうこ----------ってああっ!? ってめ! 俺のメインディッシュ盗りやがったなッ!」

「全然手を着けてなかったからてっきりいらないのかと」

「嘘つけ! 絶対わかっててやっただろ!?」

「はて? なんのことやら」

 

 

 肩をわざとらしくすくめる俺に、グレン先生の額に青筋が浮かぶ。

 

 

「なるほどな、そっちがその気ならこっちにだってやる事はあるんだよ----------こういう風になぁッ!」

 

 

 悪人面のグレンが一瞬のうちにフォークで残りの地鶏の香草焼きを刺し、ペロリと一口で食べた。

 

 

「ああーっ!? 俺のお気に入りの地鶏の香草焼きが-------ッ!? よ、よくも食いやがったな! このロクでなし講師っ!」

「あ、ごっめーん♪ ボク、てっきり食べ残しかと思っちゃった☆ てへぺろっ♪」

 

 

 俺の額にもピキピキと青筋が浮かぶ。まだかろうじて表情は笑顔のままだが、口の端はピクピクと痙攣(けいれん)しており、どう見ても怒りを無理やり抑えている事が分かる。

 システィーナはこれから起こる事が容易に想像できたので、さっさと昼食をすませて席を立つ。

 

 

「ルミア、そろそろ行きましょ」

「し、システィっ。あれってほっといていいの……かな?」

 

 

 心配そうに見つめる視線の先には、システィーナが席を立つ原因となった二人が口論しながらチャンバラごっこみたいな事をしていた。

 周囲から冷たい視線を浴びせられているのだが気づいていないのだろう。

 

 

「……別にいいでしょ。どうせ止めても無駄よ」

「あ、あはは……」

 

 

 システィーナの容赦のない評価に、ルミアは苦笑することしかできない。

 このあと二人は教師陣から厳重注意されるのだが、食堂を後にしたルミアは、可能な限り大事に至らないようにと密かに願うのであった。

 

 

 




【システィーナ=フィーベルの秘密 その1】

・毎月、親から貰うお小遣い以上の金額を使っているシラヌイに、密かに疑問を抱いている。決定的な証拠がなく、証拠不十分なため言い出せないでいる。

《一言コメント》
「どう考えても毎月購入している魔術媒体や実験道具の総額がお小遣いを超えてるのよねぇ…」
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