ロクでなし魔術講師と最後の精霊   作:空白部屋

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システィーナ=フィーベルは、究極の美である。(錯乱中)


願わくば  

 

 

 

 茜色(あかねいろ)が空を支配する夕暮れ時、俺は帰り道でシスティーナ達と別れて単独行動を取っていた。

 別れる際、システィーナにはかなり怪しまれたが、どうしても外せない用事があると言ってなんとか誤魔化せたと思うので大丈夫だろう。

 単独行動に移行してから1時間が過ぎ、現在は街の露店が並ぶ街道にいる。

 もうすぐ夜になる時間帯ではあるが、街道に並ぶ露店は昼間より喧騒(けんそう)に包まれていた。

 

 

(いやー、今日も平和だなぁ…)

 

 

 当たり前の日常に感謝しながらフラフラとぶらつく。

 そして道中、屋台の料理を片手に歩き食いしつつ目的地へと向かう。

 今回、目的地となる場所は俺がよく使用する魔術媒体や道具が販売されている店だ。俺の来店頻度も多く、もはや常連客と言っても過言ではないだろう。

 そこで『魔力を少量回復させる媒体』や『永続不呪(エンチャント)された小道具』などを購入しなければならない。特に魔力を回復させるものは、なるべく上質なものを多数購入し、常に所持しておきたい。

 原作通りなら天の知慧研究会が襲撃してくるのは3日後だ。それまでにできるだけ対抗策の準備を進め、今やってる研究の一つを終わらせたい。

 それに、あのテロリスト共とやり合うには必ず精霊の力を使うことになる。可能な限り魔術に見せ掛けて使用するつもりだが、それもどこまで通用するかは不明だ。霊力を隠すために魔力回復アイテムも必須。

 

 

「……はぁ」

 

 

 かさばる出費に思わずため息が出た。いくら裏技的な感じで金銭を稼いでいるとはいえ、あまりに出費が多いとシスティーナやルミアに怪しまれかねない。

 義理の両親に貰ったお小遣いは使わずに秘密裏に貯金しながら、どれくらい購入しても不自然に思われないかを計算して怪しまれないよう工夫している。

 一人きりの時は誰の目もないためそんな事はしないが、誰かと一緒にいる時はかなり気を遣っている。

 

 

(おっと、ここだな……)

 

 

 考え事をしながら歩いていたので、危うく目的の店を素通りしてしまう所だった。

 店はどこにでもありそうな、至って普通の外見をしており、商品の品揃えもかなりいい。

 しかし、街道の大通りから少し離れた日陰の多い路地にあるため来客数はあまりよろしくないらしい。

 俺は薄暗い裏路地付近を通って木製の扉を開けてさっさと入店する。

 チリン、チリンと誰かが入店した事を知らせる鈴の音が店内に響く。

 

 

「いらっしゃい」

 

 

 店のカウンターの奥に座る店長の老婆が声をかけてくる。

 

 

(ん、今日はお婆さんだったか。丁度良かった……)

 

 

 この店で働いている人は店長とその孫娘の2人だけしかいない。店番は交代制でやっており、3回に1回くらいの確率で可愛らしい孫娘さんが店番をしている。

 どうもこのお店は、先祖代々受け継がれてきたもので、宮廷魔導士団特務分室所属の人が来た事もあると孫娘さんが自慢気に語っていた。

 ……とまぁ、お店語りもこの辺にして目的の物を探すとしよう。

 

 

「お婆さん、魔力を回復させる媒体っていくつ置いてますか? できるだけ上質なものをお願いします」

 

 

 俺の質問に、新聞を読んでいた店長はゆっくりと顔を上げてこちらに向く。なにやら物事を考えているようだ。

 

 

「…………………おや、よく見たらシラヌイの坊っちゃんじゃないか。元気にしとったかい?」

 

 

 盛大にずっこけそうになった。

 

 

「お婆さん……なんだか最近視力落ちてきてませんか?」

「ん~? 新聞はよぉ見えとるよ?」

「いやそれ老眼鏡掛けてるからじゃないですか……」

 

 

 もう店長はいい歳だ。常連客の俺としてはいつボケてしまうのか気が気でない。

 そんな俺の心配を知ってか知らずか、店長は呑気に笑った。

 

 

「かっかっか……心配せんでもちゃあんと見えとるよ。さっきのはただの冗談じゃよ」

「冗談に聞こえないのでやめてくださいよ……」

 

 

 思わず呆れた視線を送る。

 ボケたら孫娘さんが店を引き継いでくれるとはいえ、いくらか融通を効かせてくれた店長が退職するのは俺の懐事情に少なからずダメージがくる。

 ちょいちょい稼いでいるためしばらくは大丈夫だが、あまり買い物ばかりしているとシスティーナとルミアに疑われかねない。

 まぁその時はその時に考えるとして今は頭の片隅に置いておこう。

 道具を揃えるのに必要な金額と数量を脳内で計算しながら財布の中を確認する。

 

 

「んで、上質な媒体なら奥の倉庫にあるからちょいと待ってな。数量は20……いや、30ほどあるがいくつ欲しいんだい?」

「そうですね……なら20ほどお願いします」

「はいよ」

 

 

 そう言って店長は奥の倉庫へ姿を消した。

 帰ってくるまでに俺は財布から料金と5%割引のクーポンを取り出し、ぼーっとしながらカウンターで待つ。

 すると入り口の方から入店を知らせる鈴の音が鳴った。

 

 

「…おや、もしかしてスズヤナ君ですか?」

 

 

 普通の客かと思ったが、なにやら知ってる声が聞こえてきた。

 声のした方へ顔を向けるとそこには魔術講師を退職したヒューイ=ルイセン---------もとい、ヒューイ先生がにこやかな笑みを浮かべて立っていた。

 

 

「あ、ヒューイ先生。久しぶりっすね。感動の再会に思わず涙腺(るいせん)が崩壊しそうです。ルイセンだけに」

「ええ、お久し振りです。スズヤナ君も元気そうでなによりです。相も変わらずギャグが滑ってますよ」

「指摘されるのが一番つらいっ!?」

 

 

 ルイセンに再会して涙腺が崩壊する……うん、笑えないね。

 いい先生なんだけどなんでか俺にだけ、たまに毒吐いてくるんだよね……いい先生なんだけども。

 

 

「ところで、急に退職したって聞いたんですけど退職後は何をしてるんすか?」

「金銭的余裕もあるので趣味に時間を使ったりして過ごしてますよ」

「趣味…? 賭け事ですか?」

「……純粋無垢(むく)な表情をしながら何故その発想が出てきたのか先生気になります」

 

 

 仕方ないよね、グレン先生のせいでそういう発想が出てくるんだから。

 せっかくなのでヒューイ先生が学院を去った後の話をしながら待ち時間を潰そう。

 新たに入ったグレン先生の性格ややらかし案件の数々、そしてそれに影響され振り回される生徒達。その光景を脳裏に思い浮かべながら俺はヒューイ先生にこれまでの事を伝える。

 するとヒューイ先生は、苦笑いしながらこう答えた。

 

 

「なるほど、随分(ずいぶん)とユニークな方なんですね」

「まぁユニークっちゃあ、ユニークですね。自業自得の所もわりとあるけど」

 

 

 金欠な事とか、システィーナに説教されてる事とか。あれ、よく考えたら色々と思い浮かんでくる……

 

 

「ですが、そのグレン先生という方は生徒達に好かれているのでしょう?」

「だいたいはその通りなんすけど、最初は空気が死んでましたからね……」

 

 

 どこか遠い目をしながら語る俺に、ヒューイ先生はなんとも言えない笑みを浮かべた。そしてふと何かを思い出したかのような仕草をする。

 

 

「あぁ、そういえばスズヤナ君。卒業研究の進捗(しんちょく)状況はどうですか? たしか、僕が退職する前からやっていたのでしょう?」

「ん、それなら----------」

 

 

 あと半分くらいで完成しそうです、と答えようとした瞬間、ドサッという音がカウンターから聞こえてきた。

 

 

「ほれ、倉庫から引っ張り出してきてやったよ」

 

 

 媒体が入れられた小さめの麻袋(あさぶくろ)をカウンターに乗せた店長が声を掛けてきた。

 

 

「ありがとうございます。料金とクーポンはそこに置いてありますので足りなかったら言ってください」

「はいよ……ん、今回も金額はぴったしさね。道具の方は見てくかい?」

「いえ、やっぱり今回はやめておきます。久しぶりに再会した先生がいますので」

 

 

 そう言って俺がヒューイ先生の方へ視線を向けると、それにつられたかのように店長もヒューイ先生を見た。

 

 

「かっかっか。久しいね、ヒューイ。今も変わらず元気そうでなによりじゃよ」

 

 

 店長の言葉にヒューイ先生はにこやかな笑みを浮かべて返事をした。

 

 

「ええ、お久し振りですね店長さん」

「え? ヒューイ先生って店長と知り合いだったんすか…?」

 

 

 意外なことにヒューイ先生と店長が知り合いだった。その事実に俺は思わず目を丸くした。

 親しい関係なのは見て取れるほどなので嘘ではないだろう。

 

 

「学生時代にお世話になった身です。この店の品揃えや品質は良いので卒業研究などに役立ちましたから」

「へぇ、そんな過去が……」

「あの頃はうちの常連客だったねぇ……よく値段をまけてくれとせがまれたもんさね」

 

 

 懐かしそうに語る店長。

 俺はヒューイ先生にジト目を向けていた。

 

 

「ヒューイ先生……」

「あ、あはは……お恥ずかしい限りです」

 

 

 それに対しそっと目を逸らすヒューイ先生。

 

 

「……それにしても、スズヤナ君は随分と買い込んだようですね。何を買ったのですか?」

 

 

 あからさまに話題を変えたヒューイ先生だが、今度は逆に、俺にとって都合が悪い話を振ってきた。

 

 

「ただの魔術媒体っすよ。休日は家に引きこもって研究漬けの予定だし」

 

 

 内心、動揺しながらもなんとか冷静を装って答えることができた。これでヒューイ先生が次の話題に移ってくれることを切に願うばかりだか、どうやら現実はそう甘くなかったらしい。

 なにやら意味深な笑みを浮かべたヒューイ先生が、質問を続行させた。

 

 

「なるほど……そうですか。ですが、買いすぎるのもよくないですよ。さきほどスズヤナ君が支払った金額は魔術講師の給料とほとんど変わらないものです。学生がそうほいほいと気軽に出せる額ではないはず。貴方が入学した頃からお金遣いが少々荒いのは知っていましたが、最近見ないうちに悪化していませんか? そうなっていた場合、スズヤナ君は将来、とても苦労することになりますよ。そういう悪い癖はすぐにでも直さなければ段々と定着していき、いづれ直るものも直らなくなってしまいますよ? そうならないためにも、スズヤナ君には頑張ってそのお金遣いの荒らさを直そうと私も色々と努力を-------(以下省略)」

 

 

 久し振りに聞いたよ、ヒューイ先生の説教。

 この先生、怒ってても怒鳴ったりせずにニコニコしてるから見極めが難しいんだよな……

 どうやらしばらく会ってなかったから境界線の見極めを誤ってしまったか。

 ヒューイ先生の説教を右から左へと聞き流しながらバレないように店長をチラ見して『助けてくれ』とアイコンタクトを送る。

 すると店長は俺のアイコンタクトを察し、メモ用紙にサラサラと何かを書くとそれを俺に見せてきた。

 

 

『自業自得さね。自分でなんとかしな』

 

 

(ちくしょうっ!!)

 

 

 無慈悲な対応に俺は心の中で叫んだ。

 

 

「スズヤナ君、ちゃんと僕の話を聞いていますか?」

「あー! はいはい! 聞いてます聞いてますとも! 取り敢えず店内での説教は他のお客の迷惑になるので別の場所へ行きましょうっ! そうしましょうっ!」

 

 

 これ以上長く説教されるのは勘弁して欲しいので、無理矢理にでも話を切ってヒューイ先生の背中を両手で押しながら進む。

 

 

「あっ、ちょ、ちょっと…!」

「それでは店長さん、さようなら! また来ますね!」

 

 

 まだ何か言おうとしたヒューイ先生の言葉を(さえぎ)り、店の外へと出る。

 

 

「商品、忘れとるの気付いてないねぇ……」

 

 

 店の扉が閉まる直前にそんな声が聞こえたような気がしたが、今はヒューイ先生の説教&詰問から逃れなければならないのに必死で気付くことはなかった。

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

《ヒューイ先生side》

 

 

 僕、ヒューイ=ルイセンがアルザーノ帝国魔術学院の講師になってから十年以上が経過した頃、ついに計画実行日が明日へと迫っていました。

 

 

(ついに、人間爆弾としての役目を果たす時が来てしまいましたか……)

 

 

 白魔儀【サクリファイス】---------換魂(かんこん)の儀式の生け贄となるのが天の知慧研究会の一員として課せられた僕の使命であり、存在理由。

 計画が実行されれば今まで勤めていたアルザーノ帝国魔術学院は跡形もなく消し飛ぶでしょう。

 そう思うと、長年講師として勤めていたせいか、学院がなくなってしまう事に哀愁(あいしゅう)を感じてしまいます。

 このフェジテの街の光景を見るのも最後だと分かってはいるのですが、なかなか割り切ることができそうにありません。

 そんな思いがあったからなのか、僕は無意識のうちに懐かしい思い出がある場所へと足を運んでいました。

 お気に入りの喫茶店、今でも利用している図書館、昔よくお世話になった魔術関連のお店。

 そのどれもが懐かしく、思い出深いものであり、見納めにはぴったりでした。

 しかし、ここで予想外の出来事が起こりました。

 昔お世話になった魔術関連のお店に、以前まで僕が担当していたクラスの生徒、シラヌイ=スズヤナ君に会いました。

 雪のように真っ白な長髪と灰色宝石(バイカラートルマリン)のような瞳。中性的な顔立ちとスラッとした体型はモデルに向いていそうです。この国では白い髪はとても目立つので後ろ姿であろうとすぐにわかります。

 彼は僕が今まで講師として担当してきた中でも一番手の掛かった生徒だと断言できるほどで、すぐに何かやらかしたりするのでとても目が放せませんでした。

 それに、彼の独自性や発想力はとても興味深く、その中には僕も本気で研究したいと思えるほどのものがありました。

 ほとんどは失敗に終わりましたが、改善していければやがて国にも注目されるかもしれません。彼の今後の成長が実に楽しみです。

 さて、いつまでも物思いに(ふけ)っている訳にはいきませんから取り敢えず声を掛けてみましょうか。

 できるだけ自然を装って声を掛けると、スズヤナ君は目を見開いて驚いてくれました。まぁそれもそうでしょう。突然退職した担任が目の前にいるのですから無理もありません。

 久しぶりに再会した彼は、やはり彼のままでした。たかが数ヶ月会っていないだけですが、何一つ変わらず接してくれる彼は、僕にとってとてもありがたいものでした。

 僕が退職した後の話を聞いてみると、新たにやってきた非常勤講師のグレン=レーダスに関する話題がほとんどです。

 組織から渡された資料では、グレン=レーダスは第三階梯(トレデ)の魔術師という事と容姿くらいしか記載されていなかったので、スズヤナ君の話は新鮮でした。

 彼は「グレン先生はダメ人間」などと言っていましたが、その言葉とは裏腹にとても楽しそうに笑っていました。

 どうやら僕がいなくなった後でもちゃんとやっていけているようで少し安心です。

 ですが、僕はスズヤナ君に疑念を抱く事があります。彼はもともと孤児で、餓死しかけていた所をフィーベル家に拾って貰ったそうですが、明らかに孤児だったとは思えない点が少なからずあるのです。

 それだけでなく、彼はなにかを隠しているようで、なかなか油断できなさそうです。たかが一生徒に何を警戒しているんだと思われるでしょうが、僕の勘が"油断するな"と警告してくるのです。

 その証拠に、スズヤナ君は大量の魔術媒体を購入していました。それも高品質のものばかりで、値段はとても学生が出せるような金額ではありません。

 思わず以前と同じように説教してしまいましたが、彼は度々こうして大金を惜しみ無く使っているようで、僕がまだ講師だった頃、その事をシスティーナさんに相談したら彼女は怪訝(けげん)そうな表情をしていました。

 なにかと謎の多いスズヤナ君ではありますが、さすがに計画を破綻(はたん)させるには至らないでしょう。何かを隠していると言っても所詮は魔術学院の生徒。明日は教室で大人しくしててもらいましょう。

 

 

 僕は……共に過ごしてきた生徒を失う事が、残念でなりません。彼、彼女達にはたくさんの未来があります。子供達のその可能性を自分の手で摘み取ってしまう事への恐怖心もあります。しかし、もう僕にはこの選択肢しか残されていないのです。

 組織に逆らっても、逆らわなくても死ぬ。天の知慧研究会に体内を調整され、人間爆弾として生き続けてきた僕の最期に相応しいかもしれませんね。

 実は、僕はただの講師で、生徒達と平和に過ごしていく生活だったらどれほど心の底から楽しめただろうかとありもしない想像をしては、ため息をつく。

 

 

 --------ああ、本当に、そんな夢みたいな現実だったらな。

 

 

 現実逃避しながらも、僕は計画を予定通り実行するでしょう。ですが、心のどこかでこうも思ってしまいます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんな計画、失敗してしまえばいいのに……と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




【鈴谷奈 不知火の秘密 その2】

・会話する人によって話し方を変えるのは、あまり自身の素の性格を知られないようにするための自分なりの工夫である。


《一言コメント》
「いろんな口調で話すけど、どれが素なのか分かるかな?」(ドヤァ
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