ロクでなし魔術講師と最後の精霊   作:空白部屋

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ちゃうねん、ちゃうねんて。約1万2000文字とかこんなクッソ長くするつもりはなかったんやて。
気付いたらこんな事になってたんや。ワイは悪ぅないで。
せやから許してくれt-------(殴

3/5(金) 伝えわすれてましたが、途中から三人称になっておりますゆえ。


襲撃

 

 

 -------翌日の魔術学会初日。ついにこの時がやって来たかと思うと緊張が俺の体を包む。

 天の智慧研究会の一味が、今朝のホームルームの時間帯を少し過ぎた頃に襲撃してくる。

 その事実は確定した未来であり、俺はそれに出来るだけ対応しなければならない。

 そっと、ズボンのポケットに手を当てる。そこには昨日やっと完成させた特性の手袋が入っており、自分が使うか、それともシスティーナに譲渡するかで悩んでいる。

 

 

「えっと、シラヌイ君。顔色悪いけど大丈夫…?」

 

 

 いつものようにシスティーナ、ルミア、俺の3人で登校してる道中、ルミアが心配そうに聞いてきた。

 どうやら自分が思っていたより表情に出ているらしい。

 

 

「ん、ああ、大丈夫だぞ。せっかくの連休だと思ったのに実は俺たちだけ学院に行かなきゃならなくて落ち込んでるとかそんな事はないぞ」

「あ、あはは……本音だだ漏れだね」

 

 

 憂鬱(ゆううつ)に告げる俺に、ルミアは苦笑した。

 

 

「そもそも貴方、授業を受けてるふりして違うことやってるでしょ……」

「以前まではたまにやってたけど、最近はほとんどやってないぞ。グレン先生の授業はちゃんと聞いておきたいし」

「あら、意外ね。貴方のことだから以前と変わらないと思ってたけど。これなら勉強教える必要ないかもね」

 

 

 いたずらっぽく笑うシスティーナの言葉に俺はたしかにと思った。今までは勉強が全然出来なくてシスティーナに教えてもらったりしてたけど、最近はそうでもない。

 一番下だった点数は今では平均より少し上くらいにまでになり、現在進行形で成績はよくなっている。

 その原因は他でもないグレン先生だ。気になった所や分からない所は基礎中の基礎からちゃんと教えてくれるので、俺の中では非常にありがたい存在となりつつある。

 それに、システィーナにはいつも俺のせいで余計な時間を取らせるわけにもいかないし、なによりそれで主人公であるグレン先生との交流が減ったら申し訳なさで体調なんか余裕で崩せる。

 

 

 

「そうだな……いつもシスティーナに悪いと思ってるし、そろそろやめるか?」

 

 

 俺はその方がシスティーナのためにもなると思う。

 それに、勉強を教えてくれる時も「面倒だけどフィーベル家に住んでいる以上、悪い成績を取らせるつもりはないわ」や「ちゃんと勉強くらいしなさいよ……じゃなきゃ私が教える事なんてないのに」など、結構面倒そうな顔をしながら言ってたし、彼女もきっと出来の悪い俺に勉強を教えるのは嫌だったんだろう。

 

 

「----------え?」

 

 

 そう思っての提案だったんだが、システィーナは何故か目を見開いて驚愕した。

 そして段々と絶望したような表情になっていく。

 

 

「…? えと、いつも感謝してるぞ? 特に去年なんてシスティーナのおかげで留学せずに済んだしさ。でもいつまでも甘えるのは悪いかなぁって思ったんだが……」

 

 

 おかしいな。感謝の気持ちを伝えてるはずなのに何故か弁解してるような気分になる。

 心なしか、システィーナの瞳の色がどんどん(くら)く沈んでいってるような……そしてシスティーナの隣を歩くルミアは瞳が揺れ、動揺している。

 これは本格的にヤバいと本能で察知した俺はなんとか元の雰囲気に戻そうと慌てて弁明(?)する。もはや気分は罪人だ。

 

 

「あ、いや、システィーナが嫌だったらって話なんだ! 成績も順調に上がってきてるし、俺のことなら心配せずとも--------」

「なんだ、そういうことだったの? 貴方がやめるなんて言うからてっきり立派な魔術師になる夢を諦めるのかと思ったわ……なんだか心配して損しちゃったじゃない」

「あ、あぁ……そう、か。それは……心配させて悪かったな」

「ええ、全くよ。貴方はもう少し言葉を考えてから喋った方がいいわ」

「できるだけ善処する」

 

 

 いつもなら「お、心配してくれたのか?」と茶化すところだが、先ほどの昏い瞳を見たせいで、とてもそんな気分にはなれなかった。

 やはり、薄々は感じていたが原作のシスティーナと今のシスティーナでは何かが違う。ほとんど同じにしか見えないのに時折(ときおり)見せるあの表情は、俺をとても不安にさせる。

 

 

(いや、今はそんな事考えてる暇はないか……)

 

 

 襲撃に備えてこちらもいくつか罠を仕掛けておくか。通用するかどうかはわからないけどないよりはマシだろう。

 

 

「システィーナ、これを着けててくれるか?」

 

 

 俺はポケットから特性の手袋を取り出すとシスティーナに渡す。

 

 

「…? 手袋?」

「ああ、いつも勉強を教えてもらってるからな。感謝の気持ちを表したプレゼントだ」

「……っ!」

 

 

 話題を変えるのが急過ぎて変だったか…? 慌てていたのは確かだけど、冷静に判断すると今の流れ的にやっぱおかしいな。

 これじゃ、システィーナの機嫌を取ろうとしてるように見えないか…? いや、そういう意図もないことはないけど。でも俺的には感謝の方が大きいわけでして……

 

 

「…あ、ありがとう。貰っておくわ……」

「お、おう…」

 

 

 頬を少し赤らめながら手袋を受け取るシスティーナ。こう、なんというか、甘酸っぱい青春みたいな空気どうにかならないかな。ちょっと恥ずかしい。

 

 

「ふふっ」

 

 

 そしてその様子を見て微笑ましい表情をするルミア。そうですか、助けてくれませんかルミアさん。

 俺はちょっとだけ恨めしい目を彼女に向けた。

 

 

「今、着けてもいい?」

 

 

 恥ずかしさからか、ぎこちない笑みを浮かべるシスティーナ。

 

 

「ああ、ぜひ着けてみてくれ」

 

 

 むしろ着けてくれないと困る。これはただのプレゼントではなく、もしもの時の保険だ。

 

 

「どう? 似合うかしら?」

「そりゃ似合うように作ったからな。似合わない訳がない」

「そういう所は普通、素直に感想を言うでしょ……」

「俺は素直じゃないんでね」

 

 

 呆れたような視線を向けてくるシスティーナに、俺はやれやれと肩を(すく)める。

 俺が素直な性格ならもっと違った関係になっていたかもしれないと思ったが、その言葉は紡がれることはなかった。

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

「ルミア、システィーナ。俺ちょっとトイレ行ってくるから先に教室に向かっててくれ」

「やっぱり体調が悪いのかな?」

「ああ、少し腹痛だな」

「そ。なるべく早く戻りなさいよ? 遅刻は許さないから」

 

 

 顔を曇らせるシスティーナに俺は笑顔で答えた。

 

 

「おう、遅刻はしないようにするさ!」

 

 

 心配してくれる彼女達には悪いが、今日はこの学院が戦場になる。原作にはなかったが、もしかしたら生徒の誰かが死ぬかもしれない。

 校舎の廊下を歩く俺は彼女を教室へと向かわせた後、周囲に人影がないことを確認してから罠を仕掛ける準備に入る。

 

 

「さて、テロリスト達にどこまで通用するかね……」

 

 

 せっかく異能も使って罠を仕掛けるんだ。少しは効いてくれるといいんだけどな。

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 そろそろホームルームの時間が過ぎる頃だ。もうすぐここにテロリストの二人組がやってくる。

 緊張と静寂が空間を包む中、シラヌイは廊下の曲がり角に身を隠しながら静かにその時を待つ。

 

 

(来たっ…!)

 

 

 遠くに見えるチンピラ風の男とダークコートの男が学院に侵入してきた。

 

 

(なってほしくはなかったけど、やっば原作通りになったか!)

 

 

 シラヌイは背中に冷たい汗を流しながらも、息を極限まで潜めて二人組の様子を観察する。

 彼らがここにいるということは、もうすでに結界は破られた挙げ句に書き換えられた後だろう。

 

 

「いやー、これで噂の要塞魔術もカタナシだな。へへっ」

 

 

 チンピラ風の男---------ジンが下品に笑う。

 

 

「行くぞ。我々の標的は東館二階の2-2教室だ」

「へーいへいっと」

 

 

 ダークコートの男---------レイクはジンを連れてシラヌイ達の教室に向かって歩き出した。

 レイクは計画通りに物事を進めるためにもさっさとルミア=ティンジェルを確保し、目的地である塔へ連れていかなければならない。

 ちょくちょく余計な事をするジンを(うと)ましく思いながら、廊下を進む。

 するとレイクは急に足を止めて顔を険しくさせた。

 ジンはその事を不思議に思うが、特に理由が思い浮かばなかったのでそのまま先へ進もうとするとレイクに肩を掴まれて止められた。

 

 

「止まれ、ジン」

「んあ? なんすか、レイクの兄貴?」

「……これを見てみろ」

 

 

 そう言って前方に指をさすレイク。彼の行動の意図が読めないジンは怪訝な表情をして指がさされた方向を見る。

 ……視界に映るのはなんの変哲もないただの廊下だ。魔術的なものは感じないし、ましてや誰かがいる訳でもない。

 それは何度見ても同じでレイクが何を言いたいのか理解できずに、文句を言おうとした所でキラリと何かが光った。

 

 

「あ?」

 

 

 もう一度、注意深く観察してみると景色に同化した線があった。全く気づけないレベルで完成されたそれにジンは目を見張った。

 

 

「こいつは-------っ!?」

「ああ、間違いなくピアノ線だ。それも精密に細工されたもののな」

 

 

 レイクは更に表情を険しくさせた。ほぼ完璧に周囲に溶け込んでいるだけでなく、見た限り切れ味もなかなかのようだ。真っ二つにはできなくとも歩く速度でぶつかれば切り傷は間違いなくできる。

 しかも、最悪なことにこのピアノ線が張られてある高さはレイクとジンの首があるのだ。

 気付かずに歩き続ければ、首の動脈を切り出血死していた可能性が高い。

 

 

「いや、ここってひよっこ魔術師が通う学院だろ? なんでこんな物騒なもんがあんだよ、ぜってーありえねーだろ……」

「ああ、普通なら絶対にありえない。しかし、現にこうして存在している。……つまり、我々の襲撃を察知していた者がいることになる」

 

 

 レイクの言葉に口をあんぐりと開けてアホ(づら)を晒すジン。しかし何かに気付いたのか、ハッとした様子を見せた。

 

 

「まさか------!? あいつが裏切ったのか-------ッ!?」

「いや、あの男は我々を裏切ることはない。他の者の仕業だろう……ともかく、考えていても仕方ない。より警戒しながら計画通りに進めるぞ」

 

 

 そう言うとレイクは腰にさげてあった剣を抜くと、鋭い斬撃を繰り出してピアノ線を切った-----------その瞬間。

 

 

「------ッ!?」

「なっ!?」

 

 

 双方にある壁の一部がレイクとジンを押し潰さんと迫ってきた。

 咄嗟(とっさ)に後方へ跳んで回避したが、ぶつかり合った壁は粉砕して周囲に破片を撒き散らす。

 レイクは迫り来る破片を全て(はじ)くのは不可能と判断し、大きめの破片だけを剣で弾いていく。

 

 

「ぎゃあっ!?」

 

 

 一方で、ジンはいくつか破片が肌に突き刺さったらしく、悲鳴をあげて床にのたうち回っていた。体の数ヶ所から血が流れ、その姿は実に痛々しい。

 レイクにも数ヶ所に(あざ)ができたが、作戦行動に支障はない。そう判断してはいるものの、遂行するための難易度が上がったことに苦虫を噛み潰したような顔をする。

 しかし、それだけでは終わらない。レイクがふと、視線を下に向けると床に散乱した瓦礫(がれき)に混ざって、白い小さな玉がコロコロと転がっていた。

 

 

「ッ!!」

 

 

 それが何かを察した瞬間、まるで狙ったかのようなタイミングでその小さな白玉はパンッ、パンッと音を立てて破裂し、中身から大量の(けむり)を吹き出した。

 

 

(煙玉か……小癪(こしゃく)なっ…!)

 

 

 吹き出した煙で周囲は真っ白に染まり、レイクとジンの視界を奪う。

 

 

「ちっ、《大いなる風よ》--------ッ!」

「---------【鏖殺公(サンダルフォン)】」

 

 

 黒魔【ゲイル・ブロウ】で周囲を覆い尽くした煙を払い、レイクは直感に従って目の前へ剣を振るった。

 すると金属同士が激しくぶつかり合った音が廊下に響く。

 

 

「げぇっ、これ止めんのかよ」

 

 

 開けた視界に映ったのは大剣-------【鏖殺公(サンダルフォン)】を持ったシラヌイだ。完璧な奇襲だったはずだが、まさか受け止められるとは思わなかったので嫌そうな顔をしている。

 

 

「--------ッ! 意外だな、まさか学生だったとは……」

 

 

 この罠を仕掛けた本人の正体に、レイクは少しだけ目を見開いた。

 

 

 

「うっせ、ここは学院だぞ。不審者がなんの用だ?」

 

 

 吐き捨てるように質問するシラヌイに、レイクは小さく冷笑を浮かべる。

 

 

「罠を仕掛け、そして奇襲までしておいてそれを聞くのか?」

「ただの確認さ。もし違ったら大人しく帰ってくれ。合ってたなら大人しく俺に斬られてくれ」

「両方断るッ!」

「あぁ、そう。ならこっちも全力で-------《ズドン》--------ってうおぁっ!?」

 

 

 反射的に【鏖殺公(サンダルフォン)】を盾にして攻撃を防ぐ。一閃の電光は真っ直ぐ【鏖殺公(サンダルフォン)】に突き刺さるが、貫通することはできずに剣の腹に少し跡を残していた。

 シラヌイは後ろに跳んでレイクとの距離を取ると、閃光を放った人物へと静かに視線を向けた。

 

 

「てめぇか、クソガキ…ッ! よくも俺に傷をつけやがったなッ!?」

 

 

 軍用魔術、黒魔【ライトニング・ピアス】を一節詠唱で発動させたジンは、目を血走らせながらシラヌイを(にら)む。

 てっきり痛みで気絶してるのかと思っていたが、そうではなかったらしい。

 事態の悪化にシラヌイはひきつった笑みを浮かべた。

 

 

「いやぁ、遠距離攻撃は出来ればご遠慮し------」

「《ズドン》ッ! 《ズドン》ッ! 《ズドン》--------ッ!!」

 

 

 殺意MAXで、しかも連続起動(ラピット・ファイア)で【ライトニング・ピアス】を放つジン。完全に頭に血が上っている。もはや今の彼の状態では何を言っても(あお)りにしか聞こえないだろう。

 

 

「いやっ、マジでっ、あぶねっ--------!?」

 

 

 悲鳴をあげながら【ライトニング・ピアス】を【鏖殺公(サンダルフォン)】で防いでいく。

 冷静でないから狙いが分かりやすく対処も可能だが、それと同時に横からレイクも襲ってくるので分が悪い。

 ここは一旦、仕切り直しかと即座に判断を下し、ポケットから煙玉を取り出すと地面に叩きつけた。

 またもや白い煙が周囲を(おお)う。

 すぐさま右手に握った【鏖殺公(サンダルフォン)】で天井を斬って破壊し、落ちてきた瓦礫によってシラヌイは自分と彼らの間の廊下を塞ぐ。これで少しは時間稼ぎができるだろうと思いながら逃走するが-----------

 

 

「--------《ズドン》」

「ぐぅ…ッ!?」

 

 

 右の脇腹に激痛がはしり、足をつまずかせて冷たい床に倒れこむ。

 ちゃんと廊下は塞がれているが、【ライトニング・ピアス】はその壁を貫通してシラヌイの身を穿(うが)ったのだ。

 

 

(そういや、壁を貫通させてた場面が描写されてたな…ッ!)

 

 

 失念していた事をすっかり忘れていた自分の迂闊(うかつ)さを呪いながら、シラヌイは苦しげに穿たれた脇腹を押さえて再び走り出す。

 押さえていた傷口から突然、青色の炎が出現して傷を癒していく。これは【灼爛殲鬼(カマエル)】の能力の一つである再生の力だ。再生する時かなり熱いのは玉に(きず)だが、我慢するしかない。

 

 

(いくら廊下を塞げたとしても、【ブレイズ・バースト】を使われたら一発で瓦礫の山なんて爆散する…!)

 

 

 ついでに言うならシラヌイも爆風に巻き込まれてただでは済まないだろう。

 もし奴等が迂回すればわずかではあるが時間稼ぎになる……が、現実はそう甘くはない。とっとと廊下を駆け抜け、階段を二段飛ばしでのぼり始めた頃、後方から爆発音が聞こえてきた。多分、というか間違いなく黒魔【ブレイズ・バースト】で吹き飛ばされたのだろう。

 

 

(まずいな……! 天井を崩した時は仕方ないとはいえ連続でバカでかい音立ててたらさすがに誰か来る…!)

 

 

 シラヌイは顔を苦渋に歪ませながら階段をのぼりきり、角を曲がっていち早く2-2教室が見える位置に到達した。

 そして視界に映ったのは教室から出てきていた生徒であるシスティーナ、ルミア、カッシュの3人だった。

 すぐさま右手に持つ【鏖殺公(サンダルフォン)】を消して急いで3人のもとに駆け寄った。

 

 

「あっ、シラヌイ君! なんだか向こう側の廊下が崩れてて-----------って、どうしたの!? 凄くボロボロだよ!?」

 

 

 制服には所々に傷や汚れがあり、更に脇腹は何かに貫かれたかのような穴が空いている。それを見て血相を変えて駆け寄ってくるルミアにシラヌイは必死に伝える。

 

 

「ボロボロなのは気にしなくていい! 早く教室内に避難してくれ!」

「お、おいおい……いきなりどうしたんだよ?」

 

 

 異常事態だと察したカッシュが困惑気味に質問してくる。

 

 

「すまん、説明してる時間がないんだ。とにかく教室内に---------」

「----------ルミア=ティンジェルはいるか?」

 

 

 冷ややかな声が廊下に響く。

 声のした方に視線を向ければ、そこには先ほど戦ったレイクとジンが立っていた。

 

 

「……最悪だ」

 

 

 最悪の状況にシラヌイは思わず愚痴を漏らした。

 これなら一番最初に【氷結傀儡(ザドキエル)】で2-2教室の外側を凍結でもして中から出られないようにしておけばよかったと本気で後悔するが、過ぎてしまった事を気にしても仕方ないし、そんな暇もないのは分かっているのでただ歯噛みするだけでとどまる。

 

 

「ちょっと……貴方達、一体、何者なんですか?」

 

 

 正義感の強いシスティーナが二人の前まで歩み寄ると臆せず言い放つ。

 彼女が歩み寄ろうとした時は全力で止めようとしたが、レイクが俺を睨み付けて剣をちらつかせた。

 

 

(動けばシスティーナを殺すってか……!)

 

 

 そんな俺達のやり取りに周囲の者は気付かず、彼女は続ける。

 

 

「ここはアルザーノ帝国魔術学院です。部外者は立ち入り禁止ですよ? そもそもどうやって学院に入ったんですか? それに、ルミアをどうするつもりなんですか?」

「おいおい質問は一つずつにしてくれよ? オレ、君達みたいに学がねーんだからさ!」

「……っ!」

 

 

 ジンが獲物を見つけたかと言わんばかりにニヤニヤと笑みを浮かべている。それに対しシスティーナはどうにも調子が狂うようで、苦い顔で沈黙した。

 

 

「システィーナ……彼らはこの学院に侵入してきたテロリストだ。どうやって侵入したかまでは知らないが、とにかくそこから離れてくれ」

「はぁ…? テロリスト…?」

 

 

 システィーナが(いぶか)しげにシラヌイを見る。

 実戦経験もなく、普段から平和な日常を送っていたから無理もない。それが突然崩壊しようとも、なかなか信じられないのが人間だ。

 それに、廊下が騒がしい事に気付いた生徒達が扉から顔を出してこちらの様子を(うかが)っている。

 

 

「この学院で守衛を務めている方は戦闘訓練を受けた魔術師なのよ? 彼らみたいな人にそう簡単にやられるわけないし、この学院の結界は超一流と呼ばれる魔術師にだって破ることはできないのよ!?」

「あー、そーなの? 天下に名高い魔術学院もたいしたことねーのな。ガッカリだわー」

 

 

 ありえないと彼女はシラヌイに言うが、それを聞いたジンが煽るように言うとプライドの高いシスティーナは彼を睨み付けた。

 

 

「……あまりそのようなふざけた態度を取るようならこちらにも考えがありますよ?」

「え? 何? 何? どんな考え? 教えて教えて?」

「……っ! 貴方達を気絶させて、警備官に引き渡します! それが嫌なら早くこの学院から出て行って……」

「きゃー、ボク達、捕まっちゃうの!? いやーん!」

 

 

 一向に出ていく気配を見せない二人に、システィーナは覚悟を決めた。

 

 

「警告はしましたからね?」

「まっ--------ッ!」

 

 

 魔力を練り始めたシスティーナを止めようとすると、レイクの方からすぐに殺気が飛んでくる。

 

 

(ああもうッ! レイクッ! マジで! 邪魔ッ!!)

 

 

 せめてもの思いで心の中でレイクを罵倒する。

 シラヌイは助けようにも彼らの方がシスティーナに近い位置にいるので自分より早く彼女に手を出せると理解している。

 天使の力を使えばなんとかなるが、この世界では異能として見られるのでそれもできない。

 あーだこーだと悩んでいる内に、システィーナは指先をジンに向け、黒魔【ショック・ボルト】の呪文を唱えた。

 

 

「《雷精の---------」

「《ズドン》」

 

 

 だが、ジンが唱えた呪文の方が圧倒的に早く完成していた。

 システィーナの目には男の指が一瞬、光ったようにしか見えなかった。

 だが、同時に耳先を空気が切り裂かれる音が駆け抜け、背後の壁を黒魔【ライトニング・ピアス】が穿った音が響いた。

 

 

「……え?」

「《ズドン》《ズドン》《ズドン》」

 

 

 さらに三閃。システィーナの首、腰、肩を光の線が(かす)めて走る。

 

 

「う---------」

 

 

 一歩も動けなかったシスティーナの全身から一気に汗が噴出した。

 恐る恐る振り返ると壁には小さな穴が空いていた。その破壊痕を見た彼女と他の生徒は、それだけでどんな魔術が使われたのかを察した。

 

 

「そんな……まさか……い、今の術は……【ライトニング・ピアス】!?」

 

 

 使用された魔術の正体に、システィーナは顔を青ざめさせる。

 

 

「ど、どうして……そんな危険な魔術を……?」

 

 

 システィーナの足が自然と震える。膝から力が抜け、彼女はその場にぺたんお座り込んでしまった。

 

 

「し、しかも……そんなに短く切り詰めた一節詠唱で、連続起動(ラピット・ファイア)なんて……」

 

 

 一見、ふざけてはいるがジンの術行使がどれだけ超絶技巧の上に成り立つ物なのか、魔術の薫陶(くんとう)を受けた者ならば誰だって理解できる。

 そんな相手に罠と奇襲を仕掛け、吹っ飛ばしたシラヌイは人間ではないので生徒達の参考にならない。もし参考にする者がいたならば、その者は人間をやめているか、もともと人間ではない別の生物だ。

 

 

「まさか……貴方達、本当に……?」

「さっきそこの白髪頭が言ってたでしょ? テロリストだって。この学院はオレ達が占拠しましたー、君達は人質(ひとじち)です、大人しくしててねー? あ、そうそう、逆らう奴は今のうちに逆らっておいてね? ブッ殺すから」

 

 

 システィーナ達は逆らわない……いや、逆らえない。

 相手は簡単に人を殺せる軍用魔術を使うのだ。対して生徒は【ショック・ボルト】や【ゲイル・ブロウ】など、殺傷能力の低い魔術しか教わっていない。

 勝てないことは子供でも分かるほど一目瞭然だ。

 そしてそれらを十分(じゅうぶん)に認識した今、遅れてパニックはやってきた。

 

 

「う、うわぁあああああああッ!?」

「きゃぁあああああああああッ!?」

 

 

 教室と廊下が狂乱の渦に巻き込まれそうになった瞬間。

 

 

「うるせぇ、ガキ共。殺すぞ?」

 

 

 指先を向けるジンの恫喝(どうかつ)と共に発せられる殺意に生徒達は一瞬で沈黙する。

 

 

「おー、いい子いい子。やっぱ、教室では静かにしないとなー」

 

 

 朗らかに笑うジンをよそに、シラヌイは思考を巡らせて脳内で策を練ってはいるが、なかなか妙案が思い付かない。

 

 

(……いや、一つだけならある。だが上手くいく確証はないし、異能がバレる危険性もある……あぁ、早く来てくんないかな、グレン先生……)

 

 

 基本的になんでも自分でやるタイプだけど、今だけは状況を改善するために他力本願になりそうだ。

 静寂が包む中、ジンが生徒全員に向かって告げる。

 

 

「んじゃ、そんないい子達に聞きたいことがあるんだけど、ルミアちゃんって子知らない?」

 

 

 しん、とクラス中が静まり返る。

 

 

「……ルミア?」

「……な、なんでルミアが……?」

 

 

 ひそひそと、押し殺したような(ささや)きが、あちこちから漏れる。

 何故、ルミアが? とクラス中が困惑する。その中で、何人かが無意識にルミアの方へと視線を向けた。

 

 

「んー? そのどっちかがルミアちゃんかなー? もしかして君だったりして?」

「……っ!?」

 

 

 廊下に出ていたのはシラヌイを除けばルミア、システィーナ、カッシュの3人だけ。教室内からとはいえ、視線を向けられたらすぐに分かるだろう。

 しかし、ジンはシスティーナに声を掛けた。

 声を掛けられた彼女はピクッと肩を揺らした後、足を震わせながらも立ち上がる。

 

 

「あ、貴方達、ルミアって子をとうする気なの?」

「んー、やっぱり君がルミアちゃんかな? ちょっとオレ達とついてきてくれない?」

 

 

 へらへらと笑いながら友人を連れていこうとするジンに、システィーナがキレた。

 

 

「私の質問に答えなさい! 貴方達の目的は一体、何!?」

「ウゼェよ、お前」

 

 

 へらへらと笑っていた顔が一転、凍てつくような表情になるジン。

 

 

「…ッ!」

 

 

 シラヌイは咄嗟(とっさ)に霊力で脚力を強化し、ジンの方へ向かって地面を蹴った。あまりやりたくない策ともよべない策だが、仕方がない。

 

 

「ッ!? ダメッ!!」

 

 

 ルミアが悲鳴をあげるがもう止まることはできない。

 シラヌイはポケットから素早く閃光玉と煙玉をジンに向かって投げつける。

 2つの玉は空中で破裂し、周囲を閃光と煙で包み込んだ。

 

 

「《ズドン》《ズドン》《ズドン》」

「-----------!」

 

 

 右腕と両足に三閃、その直後に激痛が走る。

 煙はすぐに晴らされ、ジンは無様に床に倒れたシラヌイの頭を力いっぱい踏みつけた。

 

 

「ぐぅぁ……!」

 

 

 痛みで顔を歪ませるシラヌイ。そんな彼を楽しげに見下ろすジンは、殺意を込めながら顔面を蹴る。

 

 

 

「がぁッ!?」

「-----------ッ!」

 

 

 生徒達からすれば絶対者とも言える存在が容赦なく、そしていたぶるように生徒を蹴っている。

 その光景に、クラス中が恐怖に支配された。逆らったらこうなるのだと、その見せしめとして彼はこうなったのだと誰もが理解した。

 

 

「何度も同じ手が通じると思ってんの? 馬鹿じゃねーの、ぎゃはははははっ!! ほら、ほら、どうした? なんとか言ってたみろ、よッ!」

 

 

 何度も何度も容赦なく顔や腹に蹴りを入れる。

 シラヌイは一切の抵抗もせず、されるがままに蹴られ続けている。あまりにも反応がないためもう意識を手放しているのかもしれない。

 そしてその光景を見たシスティーナはあまりの出来事に言葉を失った。無意識なのか、瞳の色が(くら)く沈んでいく。

 

 

「遊びはその辺にしておけ、ジン」

 

 

 これまで黙っていたレイクが突然口を開いた。

 

 

「私はその娘をあの男の元へ送り届ける。お前は第二段階へ移れ。この教室の連中のことは任せたぞ」

「あーもう、面倒臭いなぁ。なぁ、レイクの兄貴ぃ、やっぱこいつら全員に【スペル・シール】かけていくの? 別にいいでしょ、こんな雑魚共。束になって暴れだした所でオレの敵じゃねぇし? そもそも、もうすっかり牙抜かれちまってるじゃん?」

 

 

 ジンは最後にシラヌイを蹴り飛ばすと、生徒達を睥睨(へいげい)した。壁にぶつかり沈黙する彼はもういないもの扱いだ。

 

 

「それが当初の計画だ。手筈通りにやれ」

「へいへーい」

 

 

 ジンに命令した後、レイクは迷うことなく言った。

 

 

「ご足労、願えるかな? ルミア嬢」

 

 

 システィーナにではなく、ルミアに。

 

 

「…っ!」

 

 

 何故、と疑問が浮かんだが、名を呼ばれた彼女はすぐに察した。

 計画的な犯行をするテロリスト。そんな彼らが目標(ターゲット)である人物の顔を知らないわけがない。

 そう、つまりは遊ばれていたのだ。ただの遊びで、一人のクラスメイトを傷付けた。

 その事実に気付いたルミアは、普段は見せない怒りの(とも)った視線を彼らに向ける。

 しかし、どれだけ怒っていようともルミアは無理やり理性で感情を抑え、これ以上今の状況が悪化しないように努めた。

 

 

「拒否権は……ないんですよね?」

「理解が早くて助かる」

「少しだけ、彼女と話させてくれませんか?」

 

 

 ルミアが床で震えながらへたりこむシスティーナに眼を向ける。

 

 

「いいだろう。だが、妙な真似はするなよ」

 

 

 レイクから許可を得たルミアは、システィーナの前でしゃがんで彼女と同じ目線に合わせる。

 

 

「行ってくるね、システィ」

 

 

 笑顔で告げるルミアを止めるために、システィーナは言葉を発しようとするが、口元が微かに動くだけだった。

 

 

「大丈夫、きっとグレン先生が皆を助けに来てくれるから」

 

 

 ここで何故グレン先生の名前が出てくるのかシスティーナには理解できない。

 しかし、彼女の瞳はどこまでもまっすぐで、グレン先生が助けてくれる事を疑いもなく信じている。

 その様子を見たシスティーナはルミアの強さがとても頼もしく思えて、自分もグレン先生を信じてみようと思った。

 -----------しかし。

 

 

「ふむ、お前達はグレン=レーダスとやらに何か期待しているようだが……やめておけ。それは無駄な期待だ」

 

 

 レイクが事実を告げるように淡々と言った。

 

 

「なぁ、レイクの兄貴。グレン先生って誰?」

「このクラスを担当することになった非常勤講師の名前だ。それくらい覚えておけ」

「あー、グレンね? あの雑魚キャラのグレンね、オーケイ、オーケイ思い出した。ケケケ、具体的先生もツイてないねぇ」

「貴方達……グレン先生に一体、何をしたんですか?」

「あー、そのグレン先生なら、オレ達の仲間がブッ殺したよ」

「な---------」

「錬金改【酸毒刺雨】なんつーえげつない魔術の使い手でね。酸と毒なぞどっちも決まりゃ必殺なのに、あえて合わせて使う悪趣味な変態野郎だ。アイツの仕留めた獲物はホントひでぇことになるから、オレもマジでドン引きでさー。今頃、この町のどっかで身元不明のグロ死体が見つかって大騒ぎになってるんじゃね?」

「嘘……せ、先生……」

「そんな……」

 

 

 グレンが死んだ。その事実にもうとっくに心が折れていたシスティーナや今まで気丈(きじょう)に振る舞ってきたルミアの表情が青ざめる。

 

 

「さぁ、来い」

 

 

 レイクに腕を引っ張られルミアは連れていかれる。

 

 

「あー、マジで面倒臭ぇけどやるしかないかー」

 

 

 愚痴を溢しながらも作業を開始するジン。

 多少の違いはあれど、ほとんど原作通りに進んでいく状況を誰も変えることができない。

 しかし、彼らは忘れている。そして、生徒達も気付いていない。

 人間のテロリストよりずっと恐ろしい存在のことを-----------

 

 

 

 ----------壁際に打ち捨てられたように横たわる、シラヌイ=スズヤナの姿が消えている事に、誰一人として気付くことはなかった。

 

 

 




【小ネタ劇場】

「ご足労、願えるかな? ルミア嬢」
「あの、私はシスティーナですけど……」
「…………………そうか、それはすまなかった」
「えぇ……」
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