ロクでなし魔術講師と最後の精霊   作:空白部屋

7 / 13
ルミア=ティンジェルは、究極の善である。(混乱中)


精霊の力

 

 

 

 アルザーノ帝国魔術学院、西館一階の校舎裏。

 何もなかったその地面から、じわじわとインクが染み込んでいくように黒い影が広がっていく。そして人が一人通れそうな幅くらいに広がった後、俺はその影から姿を現す。

 

 

「ふぅ、なんとかバレずに抜け出せた……」

 

 

 【刻々帝(ザフキエル)】の能力を使って影の中に入り、隙をついて脱出してきたわけだが、下手したら誰かに目撃されてる可能性もあった。

 

 

(いやー、皆の視線がルミアに集中してくれてて助かった……ナイスだ、レイク!)

 

 

 先程まで心の中でレイクを罵倒してたなんて信じられないくらい清々しい笑みを浮かべる。

 顔面が腫れ、鼻血も出ていたが今は綺麗さっぱりなくなっている。【灼爛殲鬼(カマエル)】様々だね。

 人前では治癒能力が発動しないよう抑えておくのに苦労した。いつもは無意識で発動するから意識的に抑えるのに慣れていない。

 それに、滅多に人前で怪我なんてしないからそれも当然だけど、今度からはこういった場合に備えて霊力の繊細なコントロールの練習もしておいた方がいいだろうな……

 増え続ける課題にため息が出るばかりである。

 

 

(はぁ……それにしても、あの罠だけで倒せるとは思ってなかったけどアイツら来るの早すぎだろ……)

 

 

 東館一階廊下での戦闘を思いだし、憂鬱(ゆううつ)な気分になる。

 足止め(できれば捕縛)目的で【贋造魔女(ハニエル)】の能力を使って作った罠だったんだけどほんの少ししか通用しなかった。

 理想としては相手がここから逃げて欲しかったんだけど、完全に油断してた。

 相手は国を欺くほどのテロリスト。ただの学生が敵うわけないのは明白で、普通なら考えなくてもわかることだ。

 ただ、俺の場合はちょっと特殊なだけで、おまけに危機意識が少ないのは前世でも変わらなかった。

 まぁその他諸々(もろもろ)の要因もあったせいでボコボコにされたんだけどね。自業自得としか言い様がない。

 

 

(それに、危機意識が少ないのはもう生物としての()()みたいなもんだし……って、そんなどーでもいい事より今は現状の確認からか)

 

 

 ちょうど、この時間帯ならグレン先生が学院に入った頃だろう。一応、間に合うように時間稼ぎはしておいたけど念のために現在地を調べておくか。

 

 

「【囁告篇帙(ラジエル)】」

 

 

 天使の名を告げた途端、装飾の施された本が空中に出現した。

 全知の天使---------【囁告篇帙(ラジエル)】。デート・ア・ライブで本条(ほんじょう) 二亜(にあ)という精霊が使っていた力で、知りたいことを全て知る事ができるという、まさしく全知という言葉が相応しい天使だ。

 しかし、俺の場合はある程度の情報は知れるものの、全てを知る事はできない。それらの理由はちゃんとあるのだが……まぁ今は割愛させてもらう。

 

 

「さてさて、グレン先生はどこにいるかな?」

 

 

 【囁告篇帙(ラジエル)】を使い、すぐにグレン先生の居場所を調べる。

 空中に浮いたまま、ペラペラとものすごい勢いでページがめくれていき、やがてピタリと停まった。

 

 

 ----------グレン=レーダス。アルザーノ帝国魔術学院東館二階の魔術実験室にて、システィーナ=フィーベルとジンに遭遇。

 

 

 この文を見た俺はほっと胸を撫で下ろした。どうやら間に合ってくれたらしい。更に事の詳細を調べると、原作通りに片付いたようだ。もし、これでまだグレン先生がたどり着いていなかったら俺が【刻々帝(ザフキエル)】の影移動で助けに行っていた。

 

 

「さて、この後の展開からするに、グレン先生とシスティーナはレイクのやつと戦うはず……なら俺のすべきことは転送塔の周辺に設置されてるガーディアン・ゴーレムの破壊か……」

 

 

 しかもレイクと戦う前は召喚魔術【コール・ファミリア】で召喚された超硬いボーン・ゴーレムを黒魔改【イクスティンクション・レイ】で消し飛ばすからその影響でマナ欠乏症になるはずだ。

 俺はその間にガーディアン・ゴーレムを全て破壊しておき、グレン先生がスムーズにルミアを助けられるよう手助けする必要がある。

 

 

「ま、なるようにはなるか!」

 

 

 ちょうど方針を定めた所で校舎から轟音(ごうおん)が聞こえてきた。

 これだけの破壊音から推測するとほぼ間違いなく黒魔改【イクスティンクション・レイ】が原因だろう。

 さすが神殺しの魔術と言うべきか。俺もあれだけはくらいたくないなと心の底からそう思った。いくら再生の力を持っていようが、根源素(オリジン)まで分解されたらひとたまりもない。

 それらを使うグレン先生とアルフォネア教授にビビりながら、俺はさっさと転送塔近くまで足を運んだ。

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 そびえ立つ白亜の塔が眼前にその威容を現した時、塔へと続く最後の並木道に無数のガーディアン・ゴーレムが不自然に徘徊(はいかい)していた。

 彼らは石を積み上げて作られたゴーレムで、学院内を守護するために存在している。

 普段はバラバラの石片(せきへん)として、学院内の風景を構成する一部になっているが、学院内に発生した異常事態に応じて、そのバラバラの石片達は巨人の姿へと自動的に組み上がり、侵入者を迎撃する---------そんなシステムとなっている。

 

 

「でっかいなぁ……」

 

 

 圧倒的な存在感を放つゴーレム達に、俺は思わず感嘆した。……一体、何メートルあるんだよ。

 

 

「でも、これはちょっと多すぎじゃね?」

 

 

 確実に20は超えてる。原作ではあまり描写されてなかったが、数体くらいだったような気がするんだが……。

 俺もそのつもりだったんだけど……どうやら原作と微妙に異なっているようだ。

 たかが学院の生徒1人でこれを相手にするとかただの自殺行為でしかない。俺はまだ死にたくないです。

 

 

(あー、これ……本気でやらないとマズイかも……)

 

 

 こちらに迫ってくるゴーレム達を見上げながら、俺は後頭部を掻いた。数体だけなら余裕だと調子に乗ってた頃とは一転、今は表情が見事にひきつっている。

 

 

「あんま使いたくないけど、使うしかないか…! ええい、どうにでもなりやがれ! -----------【灼爛殲鬼(カマエル)】ッ!! 《神威霊装・五番(エロヒム・ギボール)》ッ!!」

 

 

 覚悟を決めて右腕を天へと伸ばし、その名を叫ぶ。

 その手に炎が集結し、巨大な戦斧(せんぷ)を形作った。更には焔が俺の身体にまとわりつき、服を焼いていく。

 そして次の瞬間には、焔が俺の服と入れ替わるように、幻想的な和装の形を取っていった。揺らめく羽衣(はごろも)。燃える袖。そして--------純白の角。霊装。精霊の身を守る城であり、絶対の鎧。

 これらを身に(まと)い、巨大な戦斧を握った俺は、そのまま地面に両手両膝をつき崩れ落ちた。まさに orz…の体勢である。

 

 

「やってしまった……これだから俺は使いたくなかったんだ……」

 

 

 自分で決断しておいてなんだが、毎度この姿になる度に羞恥心で身悶えることになる。

 よく考えてみてくれ。デート・ア・ライブに登場する精霊は全員可愛いオニャノコなのだ。その霊装を男の身である俺が着たらどんな惨事になるか分かるだろ? つまりはそういうことだ。

 しかもご丁寧なことに、霊装を纏う度に俺の髪は腰まで伸び、霊装の種類によっては髪型まで変わったりするのだ。

 正直、初めて霊装を顕現させた時は驚愕しすぎて、しばらくフリーズしてたくらいだしな。

 幸いと言うべきか、中性的な顔立ちをしているお陰でキモくはないものの、なんというか……この姿を鏡で見たりすると男としての大事な何かを失っていってる気がする。

 お父さん、お母さん。中性的な顔立ちに産んでくれてありがとう。でも泣きたいです。

 

 

「って、おっと。いつまでもこうしてる訳にはいかないな」

 

 

 俺の目前まで迫ってきたゴーレムは、その雄々しい巨腕を振り上げると拳を勢いよく俺に向かって振り下ろした。

 俺は地面に落とした【灼爛殲鬼(カマエル)】を軽々と持ち上げ、ゴーレムの拳を受け止める。

 

 

「おいおい、殺す気満々かよ……人間、とは言い難いけど俺もこの学院の生徒なんだぜ? 学院の守護者が仕事放棄してんじゃねぇ、よッ!!」

 

 

 そう言いながら【灼爛殲鬼(カマエル)】を力づくで振って、ゴーレムの拳を押し返した。

 

 

「んじゃ、あまり時間もないしとっとと終わらせるか。悪いが徹底的に破壊させてもらうからな」

 

 

 それだけ告げると俺は疾走し、ゴーレムの前までたどり着くと跳躍して【灼爛殲鬼(カマエル)】を振り下ろした。

 

 

「せりゃあッ!」

 

 

 頭部に【灼爛殲鬼(カマエル)】の刃が直撃し、体中に亀裂が走ると一瞬にして全体がバラバラに崩れ落ちた。

 

 

「ふっ--------」

 

 

 空中にいる俺にもう一体のゴーレムが殴りかかってくるが、俺は体を捻らせて【灼爛殲鬼(カマエル)】を一回転させて迫り来る拳をそのまま木っ端微塵に破壊した。

 地面に無事、着地する。数はまだまだいるが、これならなんとかなりそうだ。

 

 

「《駆けよ風・駆けて抜けよ・打ち据えよ》」

 

 

 拳を砕かれたゴーレムに向かって黒魔【ゲイル・ブロウ】を三節で唱えて発動させる。

 しかし、ただの【ゲイル・ブロウ】では決定的な威力にはならないので、そこに霊力で生み出した炎を追加する。

 それにより、【ゲイル・ブロウ】は炎を纏いながら威力を増幅させてゴーレムの胴体に直撃した。盛大な爆発と爆風が周囲に吹き荒れ、数体のゴーレムをまとめて粉砕した。

 少し勢いが良すぎて石片が頬を掠めたが、蒼炎によって再生したので問題はない。

 俺は爆風に髪をなびかせながら残りのゴーレムを見たが、まだまだ元気そうなのが沢山いる。

 

 

「はぁ……」

 

 

 息を吐き、再び吸う。

 ちゃんと敵を見据えて、地を蹴った。

 

 

「はぁッ!」

 

 

 【灼爛殲鬼(カマエル)】を横に振るってゴーレムの片足を破壊した。バランスが取れなくなり、体勢を崩したゴーレムは隣にいたゴーレムを巻き込んで転倒する。

 その間に襲い掛かってくる他のゴーレム達を相手にする。一斉に攻撃してくるゴーレムの猛攻を(さば)きながら、ゴーレム達の腕や肩を足場にし、攻撃を誘導して互いに破壊させる。

 ボロボロになったゴーレムの頭に着地し、足から炎を出してゴーレムを包んで丸焼きにした。

 瓦礫(がれき)の山と化したゴーレムに【灼爛殲鬼(カマエル)】の刃を叩きつけて、石片を散弾のように打ち出す。

 鋭い石片が恐ろしい速度で前方にいたゴーレム達に突き刺さり体を削るが、それでも攻撃してこようと這ってきたりしていたので炎で焼き払った。

 

 

「だいぶ数が減ったな……」

 

 

 【ゲイル・ブロウ】と天使の能力を組み合わせた攻撃で、ゴーレム達をほとんど殲滅できたが、その変わり魔力が底を尽きそうだ。

 

 

「ぐ…ッ!」

 

 

 立っているのもしんどくなって、思わず片膝をついた。例え精霊だろうと魔力が減り過ぎればマナ欠乏症になる。

 未だにゴーレムが数体残っているのでここで倒れる訳にはいかない。ふらつきながらも【灼爛殲鬼(カマエル)】の(つか)を杖変わりにしてなんとか立ち上がる。

 転倒していたゴーレムが起き上がり、こちらへと接近してくる。

 

 

(ちょうどいいな……)

 

 

 ゴーレム達の位置を確認しながら、心の中で呟いた。

 残り数体だが、そのゴーレム達はちょうど一塊(ひとかたまり)のように密集している。

 疲労困憊(ひろうこんぱい)とはいえ、この好機を逃す俺ではない。

 俺は静かに【灼爛殲鬼(カマエル)】天高く掲げると、その手を離した。

 すると【灼爛殲鬼(カマエル)】の刃が空気に掻き消え、(こん)部分のみがその場に静止する。

 

 

「【灼爛殲鬼(カマエル)】-------------《(メギド)》」

 

 

 声に応えるかのように、刃を失い棍のみになった【灼爛殲鬼(カマエル)】が蠢動(しゅんどう)した。

 柄の部分が本体に収納され、俺が掲げた右手を包み込むように着装される。(ひじ)から先を長大な棍に覆われた俺は、その先端をゴーレム達に定めた。

 他の者が見れば、大多数は戦艦に備えられた大砲を連想させるだろう。……この世界に戦艦があるのかは知らないけど。

 【灼爛殲鬼(カマエル)】が体表を展開させ、赤く発光する。

 そして周囲にまとわりついていた焔が、その先端に吸い込まれていった。

 

 

灰塵(かいじん)と化せ、【灼爛殲鬼(カマエル)】ッ!!」

 

 

 収束された焔を解き放つ。

 ゴーレム達を赤い閃光が穿(うが)ち、莫大なエネルギーを一気に爆発させた。

 とてつもない轟音と衝撃の余波、そして熱風がこちらにも襲い掛かる。

 密集していたゴーレムはもちろん、その周辺の草木も全て灰塵へと化した。そしてあまりにも高熱過ぎて剥き出しになった土や石など、地面の一部がガラス状態となっており、それらの光景はさながら現世から出現した灼熱(しゃくねつ)地獄のようだ。

 

 

「はぁ…はぁ……ッ! がほッ…!?」

 

 

 肩で息をしていると、俺は吐血して地面に倒れた。

 少しだけ緑が残る地面が真っ赤に染まる。俺は最後の力を振り絞って血溜まりにダイブすることを全力で避けた。

 精神的、肉体的疲労とマナ欠乏症も合わさってコンディションは最悪だ。

 

 

(あぁ……ははっ、本来の半分の性能でこの威力かよ……)

 

 

 転生する前にアイツ-----------通称【ファントム】から与えられた《霊結晶(セフィラ)》の凄さに、改めて感嘆させられる。というかもう凄すぎて苦笑するしかない。

 《最後の精霊(ラスト・スピリット)》と呼ばれただけあって、使える天使は全員分だ。

 まさに精霊達の集大成と言える《霊結晶(セフィラ)》を与えられた俺だが、そのデメリットとして本来の精霊の力の半分しか発揮できない上に、霊装の燃費が悪すぎてすぐにバテる。

 しかも天使の力に制限があり、それらを破ることができない。

 

 

(それさえなければ、完全なチートだったのに……いや、今でも十分チートだけどさ)

 

 

 普通の人間ならその《霊結晶(セフィラ)》を取り入れた時点で間違いなく死ぬだろう。

 

 

(ファントムが俺を選んだのは偶然か、それとも必然か……)

 

 

 疲労のせいでロクに動けないせいで余計な事ばかり考えてしまう。なまじタフだから気絶することもできない。

 

 

(あー、考えても仕方ないし少しだけ寝るか……転送塔にグレン先生が行くまでにまだ結構時間あるし)

 

 

 休憩してマナ欠乏症を少しでもマシにしようと、身体中から力を抜いて霊装を解除した。

 すると今まで体にまとわりついていた焔は消え、和装と入れ替わるようにして学院の制服へと戻る。それと同時に腰まで伸びていた白い髪は元の長さに戻っており、ちゃんと霊装を纏う前の姿になった。

 【灼爛殲鬼(カマエル)】を手放すと戦斧の形が崩れていき、やがて光の粒子となって虚空に消えた。

 

 

(ま、今日はかなり頑張ったし、少しくらい寝てもバチは当たらんだろ……)

 

 

 呑気なことを考えながら欠伸(あくび)をすると、俺は目を閉じて眠りについた。

 

 

 




【小ネタ劇場】


シラヌイ「ヤンデレシスティーナって絶対需要あると思うんだよな……」
ルミア「うん、死ねばいいんじゃないかな?」(満面の笑み)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。