ロクでなし魔術講師と最後の精霊   作:空白部屋

8 / 13
どうも、久しぶりに評価見たら赤バーになってて感動した空白部屋です。
今回はちと長めの一万超えの文章っす。
ちらちらと、主人公の異常性が見え隠れするかもしれませんね。どこが異常なのかはさておき。
では、ごゆっくりどうぞ。φ(゜゜)ノ゜



その引き金を引いたのは━━━

 

 

「ふわぁ……んんー、っと。ふぅ……久し振り、って言うには長いけど、12年ぶりに寝たな……」

 

 

 目を覚ました俺は、未だに残る眠気を体から追い出しながら上半身を起こして両腕を上に伸ばした。

 普通なら12年も寝ないなんてありえないが、始原の精霊の特徴が引き継がれていると思われるので寝ようと思えば寝れるし、寝ないでおこうと思うならずっと起きていられるのだ。

 ……我ながらとんでもない特徴が引き継がれてると思う。

 あれからどれくらい時間が経過したのかと、時計を確認すると短い時計の針が3つほど進んでいた。

 地面に寝そべって眠っていたせいで体に若干(じゃっかん)痛みがあるものの特に問題はない。

 マナ欠乏症はまだ治ってはいないが、寝る前と比較すれば少しだけ楽になっている。

 本当ならマナ欠乏症の対策として魔力を微量回復させる媒体(魔石みたいなもの)を全部使って回復するつもりだったのだが、店に置きっぱなしにしていたのを忘れて今は手持ちがない。原因となったヒューイ先生を恨みたい。

 

 

(二度寝はできなさそうだし、さっさと転送塔目指すか……)

 

 

 立ち上がり、そして足がフラつく。

 

 

「おっと……」

 

 

 咄嗟(とっさ)に足に力を込めて体勢を崩さないように踏ん張った。思っていたより消耗していることに気付き、こりゃ無事に終わったらシスティーナに怒られるな、と想像しては苦笑する。

 普段ならともかく、彼女は今回のような本当に危険な時に俺がやらかすと正座で説教3時間コースとか普通に実行するのだ。俺のためを思って言ってくれているのは理解できるし、ありがたいと思うが、さすがに正座で3時間説教コースは勘弁してほしい。俺の足が死ぬ。

 今度はちゃんと体が安定したのを確認し、俺はゆっくりとだが転送塔へと足を運んだ。

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 うんざりするようなほど長い螺旋(らせん)階段をのぼりきり、ようやくたどり着いた目的地の扉を勢いよく開け放つ。

 

 

「ッ! おや、スズヤナ君ではありませんか。こんな所でどうしたんですか?」

 

 

 薄暗い部屋の中にいたヒューイ先生が驚愕した表情を浮かべるも、すぐにいつものような笑みに戻る。

 俺は視線をヒューイ先生の隣に向けると、そこには白魔儀【サクリファイス】が展開準備されていた。

 そしてその中心にはルミアが横になっている。ピクリとも動かない様子から察するに気絶させられているのだろう。法陣上に魔術的に拘束され、さらに魔術も封印されている。

 すぐに視線を戻し、俺は苦笑しながら言う。

 

 

「それはこっちの台詞(せりふ)ですよ、ヒューイ先生。辞職した貴方が何故、学院の転送塔にいるんですか?」

「シラヌイ君は知らなくてもいいことです。すぐにここを去るなら見逃してあげますよ?」

「白魔儀【サクリファイス】-----------換魂の儀を発動させる気で何言ってるんですか……」

 

 

 呆れたように言うと、ヒューイ先生は俺が魔術を言い当てるとは思っていなかったのか、意外そうな顔をした。

 

 

「シラヌイ君は魔術の成績は下から数えた方が早かった気がするのですが……」

「やめてよね、人がせっかくカッコつけてるのに現実突きつけるの」

「あははっ、それはすみません。で、どうやってここに来れたのですか?」

 

 

 軽く笑っていたヒューイ先生の目に敵意が宿る。

 うぅ、わかってはいたけど、やっぱ仲良かった先生に敵意を向けられるのはつらいな。

 一年前はヒューイ先生を天の智慧研究会から離反させようと本人に気付かれないように頑張ったんだけど結局は空回りして頓挫(とんざ)したし。

 俺は悲しみと諦めの混ざった気持ちを理性で押さえつけた。

 

 

「もちろん正面から堂々と歩いて来ましたよ。でも一言付け加えるなら、もうちょっとガーディアン・ゴーレムの数を減らして欲しかったですね」

「外が騒がしかったのはそれが原因ですか。念のために増量しておいたのですが……スズヤナ君はよほど運がいいのですね」

「運がいいどころか最悪ですよ。あの侵入者2人にボコボコにされるわ、ゴーレムのせいでマナ欠乏症になるわで最悪過ぎて涙出そうですよ……おまけにゴーレムを倒すのに時間がかかって白魔儀【サクリファイス】が発動準備に入ってるし……」

「……シラヌイ君。今、なんと言いましたか?」

 

 

 ちょっとした愚痴にヒューイ先生の表情が少しだけ険しくなった。

 

 

「……ガーディアン・ゴーレムを倒したと、そう言ったのですか?」

「いやー、全員相手するのはもう二度と御免です」

 

 

 後頭部を掻きながら笑顔で答える。

 その様子を見たヒューイ先生は考え込むような素振りをして沈黙する。その表情には、微かだが困惑の色が浮かんでいた。

 

 

「バカな……ありえません。ガーディアン・ゴーレムは学生が勝てるような相手ではないのです…! ましてや三節詠唱以上しかできない貴方に、一体ではなく数十体の守護者を倒すなんて-----------」

「---------普通なら不可能でしょうね」

「でしたら---------ッ!」

「【颶風騎士(ラファエル)】ッ!」

 

 

 ヒューイ先生に手を向けて天使の名を呼ぶ。手のひらから放たれた暴風が彼を襲う。

 

 

「ッ!!」

 

 

 ヒューイ先生は咄嗟(とっさ)に魔術で防御する。周囲に風が吹き荒れ、バサバサと風に揺られて髪がなびく。

 しばらくすると風が収まり、元の静けさが再び部屋を満たす。

 

 

「今のは……黒魔【ゲイル・ブロウ】の一節詠唱を改変----------いえ、違いますね。そもそも魔術式が構築されていないので魔術が発動するはずがありません……っ! まさか、いえ、ですがそんなはずは…!?」

 

 

 ヒューイ先生は何かに気づいたのか、目を見開く。

 

 

「ヒューイ先生の(おっしゃ)る通りです。確かに俺は魔術が切り詰められず、三節詠唱以上でしか魔術を行使できない上に体内魔力も平均値より少ない」

「だったら何故…っ!?」

 

 

 焦燥したヒューイ先生が声を荒げる。

 

 

「ここまで言えばもう気付いているでしょう? だったら俺はこれ以上言うつもりはありません」

「……どうやら僕は、シラヌイ君を完全に見誤っていたようですね。一年と少しの間、僕はずっと生徒達と同じように見てきましたし、貴方を少なからず警戒していました。ですが、何もわかっていなかった。何一つ、貴方の実力に気が付く事ができなかった……」

「本当に気付くべきなのは、こんなくだらない事を起こした先生を見た生徒の気持ちでしょうに…ッ!」

 

 

 呟きともとれる小さな声に、少しだけ怒気が(こも)った。

 そんな言葉は彼の心に届かないとわかっていても言わずにはいられなかった。俺の実力なんて重要視するものじゃない。それよりも、もっと大切なものがあると知って欲しい。

 だからこそ、俺が彼を止めなければならない。グレン先生ではなく、かつて彼の生徒であったこの俺が。

 

 

「ヒューイ先生、貴方は俺達生徒のことを嫌っていましたか? それとも憎んでいましたか?」

 

 

 唐突な質問に、ヒューイ先生は眉をひそめる。

 

 

「……これはまた、唐突な質問ですね。一年前から何も変わっていない」

「俺は変化ではなく停滞を望んでますから」

「魔術師と真逆のことを望むのですか……僕にはわからない望みです。それで、さっきの質問ですが答えましょう。シラヌイ君を生きて返す訳にはいかなくなったので冥土の土産にでもして下さい」

「そりゃどうもです」

 

 

 会話が途切れ、しばらく再び静寂が訪れる。

 そして何分経ったか、ヒューイ先生はポツリ、ポツリと話し始めた。

 

 

「僕は、どちらでもありません。嫌ってはいませんし、生徒達を憎んでもいないでしょう。ここ十数年、ずっと講師として勤めてきた僕は、いつの間にか講師にやりがいを感じ、気づかぬ内に楽しいと思っていました」

 

 

 ヒューイ先生は目を細め、どこか懐かしそうに語る。

 

 

「中にはシラヌイ君のように不思議な生徒もいれば、問題を起こす生徒もいて多種多様です。そんな生徒達を教え正しく導くのは苦労の連続で、僕は何度も困り果てました。ですが、生徒達の笑顔を見ると何故かこれからも頑張れると思えるんです……テロリストの僕が何を言っているのかと思われるかもしれませんが、あの子達には立派に成長してほしいと心から願ってますよ」

 

 

 優しい顔で生徒の成長を願うヒューイ先生。

 

 

「そう思うなら、なんでテロなんか起こしたんですか……言ってる事とやってる事が支離滅裂じゃないですか」

 

 

 思わず呟いた俺に、ヒューイ先生は目を伏せて悲しそうに言った。

 

 

「それが僕の存在意義だからですよ。それに、僕は元々こっち側の人間だっただけです。王族、もしくは政府要人の身内。もし、そのような方がこの学院に入学された時、その人物を自爆テロで殺害するために、十年以上も前からこの学院に関係者として在籍させられていた人間爆弾。それが僕です」

「……スケールの大きい話ですね。こんなあるかもどうかも分からない事のために備えるなんて……俺なら絶対に逃げ出しますよ」

「ええ、そうでしょうね。とても正気とは言えない事を実行しているのですから」

「自覚ありかよ……尚更質悪いぞ」

 

 

 思わず丁寧語で話すことも忘れて呆れた。

 ヒューイ先生は気絶しているルミアの方へと視線を向けながら言った。

 

 

「まったくです。ルミアさんがいなければ、僕は今でもこの学院でのんびりと講師を続けられていたんですが。残念ながら組織はルミアさんに目をつけてしまいました」

「……ルミアに異能さえなければ、天の智慧研究会も目をつけなかったんですかね」

 

 

 俺の言葉に、ヒューイ先生が感心したように言った。

 

 

「驚きですね。ルミアさんの異能だけでなく、組織のことも知っているなんて。本当に何者なんですか?」

「ただのしがない学生ですよ。関係性も何もない……ただ知っているというだけの」

「実に面白いですね。それに、異能を持っていることですし……もし生き残れたなら、シラヌイ君が組織に目をつけられるのも時間の問題でしょう」

「そればっかりは勘弁してほしいですね。さすがに俺も、第二団【地位】(アデプタス・オーダー)とか出てきたら全力で逃げますよ」

 

 

 とくにあのゾンビ系ヒロインとか一部の界隈で(ささや)かれているエレノアさんには会いたくない。想像しただけで全身鳥肌ものだ。殺されてゾンビにされる未来しか見えないぞ。

 

 

「やはり、と言うべきでしょうか。シラヌイ君は組織のことを知りすぎています。何故知っているのかはともかく、僕は貴方を始末しなければいけません」

「そうは言ってますけど、あまり気は進まなさそうですね」

「……ええ。長い時間講師を勤めていたせいか、僕の良心が少し痛みます」

「そこは先生としてもっと悲しんでくださいよ……大泣きするくらいでもいいですよ?」

「すみません、そういった感情は普通の人と比較して欠けているようなので期待に応えられそうにないですね。さて、無駄話もこの辺にしてそろそろ本題に入りましょうか」

 

 

 ヒューイ先生がそう言った次の瞬間、今まで沈黙していた法陣が青く輝き、ルーン語が浮かび上がると同時に5つの結界が展開された。

 

 

「見事言い当てたシラヌイ君ならわかっているでしょうが、もうじき、ルミアさんは法陣の力で僕達の組織の元に送り届けられるでしょう。それを切欠(きっかけ)として、僕の魂と直結させたこの法陣も効力を発動し、僕の魂を食い潰して莫大な魔力を錬成し---------この学院の全てを爆破します。僕の霊魂は元よりそのように魔術的に調整されているので、間違いなくそれだけの威力が出るでしょう」

「分かってはいましたが、生徒を大切に想いながらも殺す気満々で笑えないんですけど……」

 

 

 もしこれが全部ドッキリだったら才能あるぞ。

 まぁドッキリだろうがそうでなかろうがどっちにしても一発お見舞いするけど。

 内心で取り敢えず一発殴ると誓っているのをよそに、ヒューイ先生は俺を試すように真っ直ぐ見つめた。

 

 

「ルミアさんが囚われている転送法陣を解呪すれば、僕の自爆法陣は発動しません。つまり、これは時間内にルミアさんの転送法陣を解呪できるか否かのゲームです。ちなみに僕を殺すというのはナシですよ? 僕が死ねばその場で全てが発動してしまいますから、そのつもりで」

「無茶苦茶ですね。なんですかその理不尽極まるゲームは。教育者ならもっと公平にすべきだと思いますが……」

 

 

 白魔儀【サクリファイス】の解呪なんて学生がやるレベルをとうに超えてるぞ。

 グレン先生くらいの優秀な魔術師じゃないとゲームオーバー待ったなしでしょ。

 この理不尽なゲームに対して色々と文句を言いたいが、現在進行形で刻々と時間が過ぎているので黙っておく。

 

 

「そうですね。普通なら学生が白魔儀【サクリファイス】を解呪するのは不可能でしょう。それに、貴方の風を操る異能では何もできない……どうですか? シラヌイ君一人なら、学院の地下にある大迷宮に逃げ込めば生き残れる可能性は高いですよ?」

 

 

 意地の悪い提案をするヒューイ先生に向かって、俺は口角を上げてニヤリと笑った。

 

 

 

「すみません先生。俺には家族や友人を見捨てるという選択肢は最初からありません」

 

 

 大恩人であるフィーベル家の関係者や俺の大切な友人がいる限り、俺は自分を犠牲にしてでも救うだろう。例え失明しようが、体の一部が欠損しようが関係ない。死ぬまで救う……いや、死んでも救い続ける。

 

 

「それとヒューイ先生、今さらですが自首する気はありませんか? 白魔儀【サクリファイス】の解呪方法を教えて下されば、フィーベル家の権力を使って少しでも罪が軽くなるように便宜を(はか)ります」

「ははは、こんな状況になってまで、そんなことを言うのですか……もちろんお断りします。もう後戻りはできない所まで来てしまったのです。僕は最後までやり遂げるつもりですよ」

「……そうですか。それは残念です。では、最後に一言だけ。ヒューイ先生-----------」

 

 

 言葉を区切り、俺は彼の目をしっかりと捉える。

 

 

「-----------今から、貴方に奇跡をお見せします」

 

 

 静かに天使の名を呼ぶ。

 

 

「【刻々帝(ザフキエル)】」

 

 

 俺の声に反応して背後に巨大な時計が顕現した。

 片手を(かか)げると、時計の短針--------古式の短銃が手の中に収まる。

 そして灰色であるはずの左目には、いつの間にか黄金に輝く時計が刻まれており、カチカチと秒針が動いていた。

 

 

「…ッ!?」

 

 

 この異様な光景を見たヒューイ先生に緊張がはしる。

 こんな現象、魔術でだってなかなか再現することはできない。

 

 

「---------《四の弾(ダレット)》」

 

 

 短銃を掲げたまま数字を告げる。

 すると時計にⅣと記された部分から影が飛び出し、銃口へと吸い込まれた。

 短銃に一発の弾丸が装填され、銃口を構築された層に向かって発砲する。

 発砲された銃弾は、展開された第1層に命中して消えた。

 

 

「……?」

 

 

 何も起きない事に、警戒していたヒューイ先生は訳がわからず首をかしげた。

 次の瞬間。展開されていたルーン文字が一つずつ、徐々に光を失っていく。そのありえない光景に、ヒューイ先生は目を見開いて固まった。

 

 

「…ッ!? 第一層が解呪された…? いえ、違いますね、これは……展開された魔術が、巻き戻っている…ッ!?」

「【刻々帝(ザフキエル)】---------《四の弾(ダレット)》。撃った対象の時間を巻き戻す能力です。この弾丸で撃たれたものは例え発動直前の魔術であろうと発動前に巻き戻す事が可能です」

「時間を操ったということですか…!? 馬鹿な、ありえません…っ! これはもう《第四階梯(クアットルデ)》どころか《第七階梯(セプテンデ)》並みの領域ではないですかッ!?」

 

 

 ヒューイ先生の悲痛な叫びが室内に響く。

 やってる規模は小さいけど、まぁ似たようなものだな。奥の手の【十二の弾(ユッド・ベート)】(撃った対象を過去に送る能力)なんてまさにそれだし。

 俺は一歩ずつ、ゆっくりと歩いてヒューイ先生の目の前まで迫る。

 すでにその頃には展開されていた白魔儀【サクリファイス】の法陣などどこにもなく、ただ何もない冷たい床があるだけだった。

 

 

詰み(チェックメイト)ですよ、先生」

 

 

 銃口をヒューイ先生の額にくっつけながら宣言する。

 彼は少しの間沈黙すると、やがて何かを吐き出すように言った。

 

 

「…………どうやら、そのようですね」

 

 

 どこか諦めたような、それとも安心したような目をしながらヒューイ先生は呟いた。

 

 

「……僕は、一体どうすれば良かったんでしょうか。組織の言いなりになって死ぬべきだったのでしょうか……それとも組織に逆らって死ぬべきだったのか……こうなった今でも分からないのです……」

 

 

 ヒューイ先生が悲しげに呟く。

 

 

「ヒューイ先生の境遇には同情します。でも、人生の限られた選択肢を選び続けてきたのは他の誰でもない先生です。今先生がこうしてここに立っているのも先生自身が選んだ結果……俺は、先生の自業自得だと思います……」

「正論ですね……ですが、シラヌイ君らしくない解答です」

「ええ、らしくなくなるくらい、ヒューイ先生に裏切られた事を悲しいと思っています」

 

 

 例え知識として知っていても、今までヒューイ先生と過ごしてきた日々がなくなる訳じゃない。楽しかった思い出の数々は、決して偽物なんかじゃかい。

 だからこそ、裏切られると知っていても悲しくなるのは当然だ。

 

 

「……っ! 今の僕が、こんなことを言う資格などありませんが、もっと君達の担任をしていたかったです」

「……本当に、今さらですね。一発、本気で殴るので覚悟して下さいよ…!」

「……ええ、死なない程度にお願いします」

 

 

 最後のは冗談のつもりなのか、ヒューイ先生は苦笑した。そんな彼に向かって、俺は霊力で強化した拳で(あご)を打ち抜いた。

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 時は少し遡り。

 医務室でセリカとの通信を強引に打ち切ったグレンは宝石をポケットに突っ込んだ。そしてベッドの横の机に置いてあった愚者のアルカナを発見し、それを引っつかむと、ベッドから飛び降りた。

 体の調子を確認する。レイクと戦った影響であちこちが引きつれて痛いが、かろうじて動ける、といった程度。無理に動けば次々と傷口が開いていくだろうが、この状態にもってこられただけでも重畳だ。

 

 

「ありがとな、()()()()()()。お前がいてくれて本当によかった」

 

 

 今日の事を思い返しながら、グレンは眠るシスティーナこ頭をごしゃごしゃと乱暴に撫でると、医務室の外へと飛び出した。

 

 

 

 

 グレンが校内敷地を今為し得る全力で疾走しながら考える。

 敵がどういう風に動き、これから何をするのか。ルミアを誘拐した真意。そして、学院内の裏切り者は一体誰なのか。

 角を曲がり、中庭を走破。

 一歩一歩、進むたびに傷口が開くが足を止めることはしない。

 木々が立ち並ぶ並木道を直進し、段々と目的地が近付いてきた。

 

 

「また、早まったかな……」

 

 

 色々と考えているうちに今さらだが判断が間違っているような気がしてきた。だが、どの道一番怪しいのは転送塔なので確認する価値は充分にある。

 そして、不意に自分の考えが確信に変わった。

 

 

「なっ!? どうなってんだこりゃ……!?」

 

 

 グレンが目にした光景は、まさに地獄とも呼べるような惨状になっていたからだ。

 塔へと続く最後の並木道にある木々は倒壊し、周辺の草花やレンガなどが燃えカスとなって黒く変色している。一部の地面では高熱のあまりガラス化しており、太陽の光を浴びてキラキラと輝いていた。

 未だにちらほらと周囲で燃え続ける(ほのお)は、まるでここが火山の入り口なのではないかとグレンを錯覚させる。

 

 

「ほぼ更地になってるじゃねーか……! どんだけ高威力の魔術吹っ放せばこうなるんだ……」

 

 

 以前の面影がほとんどなくなった並木道を見て、グレンは呆れたように呟いた。

 黒魔【ブレイズ・バースト】を乱発してもここまでの惨状にはならないだろう。セリカや特務分室隊長のイヴならやりそうだが。

 というか、修理費がものすごいことになりそうだとグレンは素朴な感想を抱いた。

 

 

(って、んなこと思ってる場合じゃねー!)

 

 

 正直なところ、ここを通るのは避けたい。どうみても熱そう……というか間違いなく火傷は負うだろう。ここら辺で倒れでもしたらすぐにグレンの丸焼きが完成してしまう。

 

 

「おいおい、どうすんだよ!? なぁ、どうすんだよ、グレン!? そ、そうだ、このクソ熱いところを迂回して転送塔を目指せば----------って、そんな時間はねぇよ、俺のアホォ!? やっぱここは一つ、黒魔【アイス・ブリザード】で地面を冷却----------って、ねぇよ!? 魔力がもうありませぇーんッ! ちなみに時間もありませぇーんッ! あぁもう、どうせいっちゅーんじゃあああ---------ッ!?」

 

 

 焦燥による軽いパニックと共にぎゃんぎゃん喚きたてるが、時間は無慈悲に過ぎていく。

 

 

「あーもう! 後で絶対、学院から労災ふんだくってやるチクショウー!」

 

 

 解決策が思い付かず、覚悟を決めて走り出す。

 肌を焦がすような熱気を全身に浴びながら、グレンは転送塔に向かって一気に並木道(だった場所)を駆け抜けた。

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 無事、とは言いがたいが転送塔の内部に入ることができたグレンは重い足を動かして螺旋階段をのぼる。なんとか丸焼きにならずにすんだが、開きかけた傷口を熱されたため死ぬほど痛かった。

 

 

「くそう……なんで俺がこんな目に……だから働くのは嫌だったんだ……俺、この戦いが終わったら引きこもりに戻るんだ……セリカのスネかじって生きるんだ……」

 

 

 愚痴を絶えずこぼしていなければ意識が飛びそうだった。

 傷口から血が(したた)り、石床や寄りかかる石壁にべったりと朱色が尾を引いていく。

 とうとうグレンは薄暗い螺旋階段を最後までのぼりきった。

 正面には最上階の大広間---------転送法陣のある部屋がある。

 

 

「だらっしゃーッ!」

 

 

 ばぁんっ、と開き戸を蹴り開ける。やはりというべきか中は薄暗い。

 

 

「俺、参上! おい、いるんだろ? いい加減、馬鹿騒ぎも終いに-----------って、あれ?」

 

 

 かっこよく台詞を決めようとしていたグレンだが、予想外の人物が視界に映ったことにより中断した。

 

 

「あ、グレン先生。ちょっと手伝ってくれません?」

 

 

 そう言ってきたのは、セリカに問題児と言われていた生徒であるシラヌイだった。

 彼は今気絶しているルミアのそばでしゃがんでおり、手を伸ばしていた所だった。

 真実だけを語るなら、彼はルミアに施された魔術的拘束を解呪しようとしているだけなのだが、何も知らないグレンの視点から見れば、シラヌイが気絶してるいたいけな少女を襲おうとしているようにしか見えなかった。

 グレンは少し目を逸らしながら気まずそうに頬を掻く。

 

 

「あー、その……なんだ。お前が黒幕だったんだな、シラヌイ」

「いや違うからッ!?」

 

 

 グレンのとんでもない勘違いにシラヌイはすぐに否定した。だがしかしグレンの目は『素直になってもいいんだぜ?』と語っており、それを見たシラヌイは額に青筋が浮かべた。

 

 

「まぁな。気持ちは痛いほど分かるぜ。お前もそういう年頃だもんな。でも、それって犯罪だからな…? いくらモテないからってなぁ……そういうのは良くないぞ?」

「はっ倒すぞマザコン教師」

「おい待て。そりゃ誰のこと言ってんだ? いくらこのウルトラスーパー優しい偉大なるグレン大先生様でも堪忍袋の緒がぶっち切れるぞ?」

 

 

 両者ともニコニコと笑顔浮かべているが、目が笑ってない。戦闘中でもないのに何故か空気がピリピリとしている。

 

 

「はっ、事実を言って何が悪い? 親のスネかじってるやつにぴったりの呼び方じゃねぇか」

「うるせぇ白髪頭。お前そんなだから白猫に怒られてんの自覚してる?」

「マザコン教師にだけは言われなくないな」

 

 

 瞬間、ぶちっと何かが同時に切れるような音がした。

 

 

「ああッ!? だからそのマザコンっつーのやめろ白髪頭ッ!」

「やかましいッ! あんたなんか【イクスティンクション・レイ】で根源素(オリジン)まで分解されちまえこのミーデラゴミ虫ッ!」

「自分で出来ないから他人に任せるのか? ふっ、これだからお子ちゃまは……」

「くっそ腹立つその顔を今すぐ歪ませてやるッ!」

「やってみろよ白髪頭っ! 後で泣いて謝っても許してやんねーからな!?」

 

 

 エスカレートしていく罵倒についに限界を超えたのか、両者とも片手を突き出して魔術を構築した。

 

 

「「---------《雷精よ・紫電の衝撃以て・撃ち倒せ》ッ!!」」

 

 

 黒魔【ショック・ボルト】を放つが、二人は一節詠唱が出来ないのでどうしても同じタイミングで魔術を発動させることになる。それはつまり、どういうことかというと-----------

 

 

「「ぎゃああああああぁぁぁッ!?」」

 

 

 当然の結果、相討ちになる。二人とも電撃が体中を駆け巡り、床に倒れてゴロゴロとのたうち回る。

 もうアホとしか言いようがない。

 

 

「や、やるじゃねーか……今のは俺じゃなかったら気絶してたね」

「ぐ……それはシスティーナに散々【ショック・ボルト】浴びせられてるからだろ……!」

 

 

 ぷるぷると腕と足を震わせながらなんとか立ち上がる。

 

 

「ま、オメーは俺にゃ勝てねーよ。これくらいにしてやるからとっととお縄につきな」

「ざっけんなこら。さっきは俺が勝ってだろ…ッ! 【ショック・ボルト】はグレン先生のが後だったぞ…! あとルミアの件は冤罪だっ」

 

 

 

 -----------第二ラウンド、ファイッ!!-----------

 

 

 

「し、死ぬ……! 傷口に電撃が染み込んで激痛がぁぁぁ……」

「ま、マナが枯渇して欠乏症があぁぁ……」

 

 

 もう何がなんだか。ぐだぐだである。

 

 

「こ、これで俺の……2戦2勝0敗だ、な……」

「い、いやいや、冗談、きついぞ。それは、俺の……台詞、だろう…?」

「「…………………」」

「「《雷精よ・紫電の衝撃---------(以下略」」

 

 

 

 -----------数分後-----------

 

 

 

「もうやめよう……この争いは不毛すぎる……」

「そうだな……これ以上やったら冗談抜きで傷口が完全に開く……」

 

 

 体をビクビクと痙攣(けいれん)させながら床に倒れているアホ二人。さすがに学習したのか不毛な魔術戦は停戦することになった。

 

 

「それで、マジな話、なんでシラヌイがここにいる? ルミアがここにいるって事は黒幕もいるだろ。そいつはどうした?」

 

 

 おふざけはやめ、疲労困憊になりながらもグレンは真面目に問う。

 グレン自身、ほんの一瞬だけ『もしかしたらシラヌイは黒幕の一味なのではないか』と疑念を抱いていたが、先程のやり取りをしてそれはあり得ないなと結論を出している。

 グレンはちらりとシラヌイの方へと視線を向けると、それに気付いた彼はゆっくりととある方向へ指をさす。

 

 

「ん?」

 

 

 この部屋は薄暗くてかなり見えにくいが、シラヌイがさす方向の先を、目を凝らしてよーく観察すると、うっすらと人影が見えた。

 ……大きさからして大人が倒れているようだ。

 

 

「あっこに倒れてるのはヒューイ先生っすよ」

「……ちょっと待て。ヒューイ=ルイセンっていえば俺が非常勤になる前に退職……もとい失踪したやつだろ? なんでそんな奴がここに---------」

 

 

 疑問を口にしかけて、グレンはすぐに沈黙した。ここまで言えばさすがに彼も気付いたようだ。

 

 

「まさか……」

「まあ、グレン先生の予想通りっすね……」

「あー、くそっ。そういうことかよ。セリカの言ってることも正しかったっつーことか」

 

 

 教師陣に裏切り者はいないと言っていたが、さすがに一ヶ月も前に失踪した教師はカウントされていなかったか。当たり前と言えば当たり前だが。

 

 

「で、なんでそんな黒幕が倒れてるわけ?」

「一発ぶん殴った」

「あー、なるほど。それなら納得---------しねぇよッ!! 学生が勝てる相手じゃねーだろ!? どうやって一発殴って気絶させたんだよ!?」

「それはこう、ほら。スズヤナ家秘伝の奥義---------【SI☆RA☆NU☆Iパンチ】でぽこっと一発」

「あれか!? あのアッパーか!? 擬音からでは考えられないくらい威力があるあの!? -----------ってぇ、納得できるかあああぁぁぁいッ!! それだけの説明で納得出来るわけねーだろ!? こちとらちゃんと事情聴取しねぇと労災ふんだくれねぇんだぞ!?」

「理由が……最悪だろ……この、教師……」

 

 

 どこまで行ってもグレンはやはりグレンであった。

 

 

「おぉーいっ! ちょっと待てー!? なに勝手に意識手放そうとしてんの!? もうちょっと頑張れ! 労災の金額次第で俺の生活が決まってくるんだけど!? ……あのー、シラヌイさん? 聞いております? 先程から何一つ反応がないのですが……気持ち良さそうな寝息しか聞こえてこないのですが!? た、頼むから起きてくれーッ! ゲットアップ!?」

 

 

 何度必死に呼び掛けようとも、その後シラヌイが起きることはなかった。

 みなみに、グレンはヒューイを縄でふん縛ってルミアを拘束する【マジック・ロープ】と【スペル・シール】を解呪した後、ついに限界がきてその場にぶっ倒れたとかぶっ倒れなかったとか。

 

 

 




【落書き(?)コーナー】

~不毛な争いにて~


シラヌイ「マザコン貧乏神ッ!」
グレン「夜中家出してる不良野郎ッ!」
シラヌイ「この歳で子供の病気抱えてる痛々しい患者ッ!」
グレン「一日一回、白猫に話しかけて貰わないと気落ちするめんどくせぇ奴ッ!」
シラヌイ「ちゃうわボケッ!! 確かにちょっとは気落ちするかもしれへんけどそこまで言うことやないやろ!?」
グレン「いきなり訛りのある喋り方するんじゃねぇ!?」


ルミア「(私、いつまで気絶したふりしたらいいのかな……)」

↑起きるタイミングを見逃して起きるに起きれない状況に悩むルミアさん。
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