夢を見た。いや、幼い頃の記憶と言った方が正確か。
あれはたしか、俺がフィーベル家に引き取られてから半年以上経った頃だったかな。
屋敷の庭でひなたぼっこしてた時の会話だったはず。
『ねぇ、シーラって8歳の頃から孤児院で暮らしてたのよね? それより前はどこに住んでたの…?』
銀髪を揺らし、幼い頃のシスティーナが問い掛けてくる。
シーラとは彼女がつけてくれた俺の渾名で、あの頃はよく渾名で互いを呼び合っていた。
『遠い国だよ。ここよりもずっとずっと、遠い東の国』
幼い頃の俺は懐かしげに答えた。
『そうなの? そこには何があるの?』
どこまでも純粋で、濁りのないキラキラした瞳で再度聞いてくる。
『うーん……説明するのが難しいなあ……一言で表現すると、色んな物があるかな』
『色んな物…?』
『うん。科学技術が発達してるから便利なものがたくさんあるよ。自動車という馬車よりも速い乗り物とか、テレビっていう遠い所でも映像として見られる機械とかね』
『そうなの!? 聞いたこともない物がいっぱいね!』
両手をばんざいして表現するシスティーナを俺は微笑ましそうに見つめた。
『なんなら飛行機っていう空飛ぶ乗り物があったらメルガリウスの城に行けるんじゃないかな?』
『えっ!? ほんとに!? どうやったら空を飛べるのっ!?』
『それは揚力っていう翼が空気の流れを下向きに曲げたことによる反作用によって生まれる力を利用して----------って、こんなこといくら賢いシスティでもさすがに理解できないか』
『???』
こてり、と可愛らしく首を傾げるシスティーナ。実に愛くるしい姿だ。
『まあ、とにかく色々あって便利な所だよ。この世界の一般人にとってはまさに楽園かもしれないね』
『じゃあじゃあっ、魔術はあるの?』
興奮気味に聞いてくるシスティーナに苦笑しながら答える。
『残念ながら魔術はないかな……』
『ええー。なんでないの?』
『それは俺に聞かれても困るな……ないものはないの』
『むー、色々あるって言ってたのに……』
『魔術に関すること以外はね』
ぷくーっと頬を膨らませてご機嫌斜めを主張するシスティーナ。俺はそんな様子の彼女を
さらさらとした触感の銀髪が絡まることなく指の間をすり抜けていく。
システィーナはそれを気持ち良さそうに目を細めて体を寄せてくる。
『ねぇ、シーラ……』
『ん? どうしたの?』
『んと、えっと……ね』
俺の袖を掴み、もじもじして言い淀むシスティーナ。その瞳はうるうると不安そうに揺れている。
そんな様子の彼女に俺は少し膝を曲げて視線を合わせると、安心させるように【
『大丈夫。何を言っても俺は【
『う、うん…!』
恥ずかしそうに、顔を真っ赤にしてうつむくシスティーナ。
そして心を落ち着けられたのか、勇気を振り絞って彼女は言った。
『ね、シーラ……私を置いて、どこかに行ったりしないよね…?』
彼女の言葉に、心臓をつつかれたような心境になった。
『……ッ! どうしてそう思うのかな?』
『だって……シーラが故郷のお話をしてる時、いつも懐かしそうに話すから……もしかしたら、私を置いていつか帰っちゃうんじゃないかって…! そしたら、凄く嫌な気持ちになって…っ!』
不安で泣きそうになるシスティーナを抱き寄せて、よしよしと背中をさする。
『大丈夫だよ。ボクはどこにも行ったりなんかしないから』
『本当に…?』
『本当だよ』
『本当の本当に…?』
『本当の本当だ』
そう言うと、システィーナは安心したのか嬉しそうに頬を緩ませる。
俺はその様子を見てそっと体を離した。
『じゃあ、もしシーラが私から離れたら一生許さないからね!』
『あはは、一生なの?』
『うんっ! 一生なの!』
元気よく答えるシスティーナ。
少しだけ、いたずら心が芽生えた俺はシスティーナに言った。
『一生許してくれないのは嫌だなあ……だから、ボクが離れないようにちゃんとシスティが見ておかなきゃ。じゃないと、ボクは故郷に帰っちゃうかもしれないから』
『あーっ! ダメよっ! それはダメっ!』
慌てて俺の体に一生懸命ぎゅっと抱きついてくるシスティーナ。
『そうか、ダメなのか?』
『うんっ! ダメなのっ! だからね、シーラが私の側から離れないようにするわ!』
『もし離れそうになったら?』
『今みたいにぎゅってする…!』
『ぎゅって……たしかに、それならどこかに行けなさそうだね』
『うん。だからね、私が一生シーラの側にいてあげるね!』
屈託のない笑みを浮かべるシスティーナ。
俺はその言葉を表面的に理解するが、彼女の真意は理解していなかった。
なにせその言葉に込められた気持ちは、システィーナ本人にしかわからないのだから。
▼▼▼
急に意識が覚醒して俺は目が覚める。
「…………」
懐かしい記憶を見ていた気がして温かな気持ちになるが、何故かその内容までは思い出せなかった。
「お、目が覚めたか?」
「グレン先生……」
隣から声がしたので視線を向けるとそこには包帯でグルグル巻きにされたグレン先生がベッドで安静にしていた。
上半身を起こして周囲を確認する。
どうやらここは医務室のようだ。色んな薬品の臭いが混ざって独特の香りが室内を満たしている。
「お前、マナ欠乏症なんだってな。無茶しすぎだ。まあまあ危険な状態だったらしいぞ? あの状態でしばらくほっといたらかなり危なかったらしい」
「う、すいません……」
起きて早々、痛い所を突かれて顔を渋らせる。
基本的に体内にある魔力が少ないのはわかりきっていたし、使い切らないように出来るだけ魔力消費を抑えていたんだけど気付かぬうちに使いすぎていた。
戦闘になると勝つための方法は考えるけど、勝った後のことは完全に頭からなくなってるからなぁ。悪い癖だとは思うがなかなか直りそうにない。
一人自己嫌悪に陥っているとグレン先生が上半身を起こして俺に頭を下げた。
「シラヌイ。危険な事を仕出かしたのはアレだが、マジで助かった。ありがとう」
「……意外っすね。先生が感謝の言葉を述べるなんて」
「おま、俺をなんだと思ってたんだよ。偉大なるグレン=レーダス大先生様だぞ?」
「ふっ……それもそうっすね」
いつも通りのグレン先生に、俺はいくらか安堵した。
「グレン先生、そうやって俺に感謝してるって事はもしかして今回の事件の真相とか知ってたりします?」
「ああ、目を覚ましたヒューイが全て吐いたそうだ」
「では、彼女が【感応増幅】の異能力者だということも…?」
「もちろん。ついでにいや、ルミアがアルザーノ帝国第二王女のエルミアナ=イェル=ケル=アルザーノっつーことも軍の上層部から聞いた」
「……それって俺に言っちゃいかんやつでしょ」
知ってはいるけど本人の承諾もなしに言うのは教師としてどうなんだろうか。
そんな俺の心配もどこ吹く風で、グレン先生はニヤリと笑った。
「どうせお前も今後巻き込まれるんだ。知っといた方が後々楽だろ?」
「何かあったら巻き込まれること確定かよ……」
死なばもろともなんて言うけれど、確実に面倒なことになるので道連れは勘弁して欲しい。
……でもまあ、システィーナや友人に危機が迫ったら自ら首を突っ込みに行くので然程変わらないとは思うけど。
(今回の事で、原作通りに事件が起こるのは理解した。ならば次からはもっと原作知識を有効活用していくべきか……)
次の事件は魔術競技祭で起こるんだっけか。ついにゾンビ系不死身ヒロインのエレノアさんが出てくるのか……考えただけで頭が痛くなるなこれは。後で頭痛薬でも買っておこう。
それに、今後の対策を考えておかなきゃいかんし……あー、マジでどうしよう。
必ず来る未来に内心で嘆いているとコツコツとこちらに向かって来る足音が聞こえてきた。
「グレン、具合はどうだ?」
医務室の扉を開けて入ってきたのはグレンの育ての親であるセリカ=アルフォネア教授。
「全身死ぬほどいてぇ……」
気だるげに呟くグレンの様子にセリカは苦笑する。
専門の白魔術師に治療を施されているとはいえ、痛みがなくなるわけでもないし、失った血も戻ってはこない。
グレンのこの状態を見る限り一週間は入院しておくべきだろう。
「ついでにスズヤナの方も具合はどうだ?」
「俺はついでですか……まぁ、体調はぼちぼちですね。体内魔力はまだ回復しきっていませんが、動くだけなら問題ないです」
「そうか、それはなりよりだ。ところでお前に聞きたい事があるんだがもちろん答えてくれるよな?」
ニコニコと笑顔で威圧してくるアルフォネア教授に俺は視線を逸らして苦笑い。
「さ、さあ…? 何か
「なに、そんなに畏まる必要はないさ。こちらとしてもそこまで時間を取るつもりはないしな」
「えーっと、なんていうか……できれば答えたくないなぁって思ってたり----------」
「スズヤナ。どの単位を落として欲しい? 実技か? それとも錬金術の科目か? ん? なんなら両方でもいいんだぞ?」
「俺が悪かったです。すみませんでした」
即座に頭を下げた。
教授に勝つなんて100万年早いんだろうねきっと。生徒と教授の立場の圧倒的違いを見せつけられた瞬間だった。
グレン先生もそれを理解しているのか、俺に憐れみの視線を送ってきた。どうせなら助けてくれよ。この人はグレン先生には甘いんだからさ。
助けを求めるのは諦め、俺は本題に入ることにした。
「それで、聞きたい事ってなんですか?」
「事情聴取の時に、ヒューイがお前の事を異能力者だと言っていたが……それは本当か?」
いつにも増して真剣さが帯びる。この質問はグレン先生も気になるらしく、彼は隣で静かに耳を傾けていた。
「……まあ、そうですね。俺は異能力者で合ってますよ」
「……そうか。できれば能力の内容も教えてくれると助かるのだが」
「どうせ教えなきゃ単位下げる気でしょう?」
「なんだ、よくわかっているじゃないか」
ニヤリと笑ってみせる彼女に、俺は戦慄する。
「ひでぇ、冗談で言ったつもりだったのに……」
思わず丁寧語じゃなくなったが気にしない。
「当然だ。私は教師だぞ? 生徒を守る義務があるし、初めてグレンが担当したクラスの生徒だ。そのためなら少々脅したって誰も文句は言わんさ」
「……グレン先生とアルフォネア教授は似てますね」
「どこがだよ……」
「親子だからな」
眉間にしわを寄せるグレンと、嬉しそうに胸を張るアルフォネア教授。ここだけ見れば正反対と思うかもしれないが、面倒見が良くて優しい所はよく似ている。
二人の姿を少し眩しく思いながらも、俺は話を続けた。
「本題に戻りますが、一つだけ約束してくれませんか?」
「それは約束の内容によるな」
「簡単なことですよ。俺が異能力者ということはあの二人に伝えても構いませんが、その異能のいくつかを伝えないで下さい」
「あの二人って、白猫とルミアのことか?」
グレンが怪訝そうな顔をする。
「ええ。これから話す内容には、いくつか先生達でも信じられないものがあるので……」
「いくつか、と言っている時点で信じられんがな……まあ、いいだろう。その約束は守る」
アルフォネア教授が呆れたように呟く。
たしかに、この世界で言う異能力者とは一人につき一つしか持っていない。複数の異能を持っているという事実だけで天の智慧研究会みたいな外道組織に狙われるのは必然だ。
それに、異能力者狩りをしている非公式武装集団の聖キャロル修道院の連中に万が一知られた場合、どんな手段を使ってでも俺を殺しに来るだろう。
(改めて考えると、敵が多すぎるだろ……人生ハードモード通り越してヘルモードになってるぞ……)
心の中で愚痴りながらも俺はアルフォネア教授とグレン先生に異能の数と効果を、
さすがに原作知識の事や、この世界とは根本的に異なる精霊のことは教えていないし、俺が転生者であることを教える必要性もない。
俺の拙い説明で納得してくれるかは正直わからないが、二人の中で俺は『複数の異能を持つ人間』という認識に限りなく近づけるようにした。
説明し終えると、グレン先生は信じられないものを見たかのような表情をしており、一方でアルフォネア教授は重い表情のまま沈黙している。
説明しながら天使の力を使っていたので信じてはくれそうだけど……どうしたもんかな。
「十一の異能か……一部見せては貰ったが、どれも本物のようだし嘘を言っているようにも見えない。例えは悪いが、なかなかの爆弾だな……」
「あはは、おっしゃる通りで」
難しそうな表情をしているアルフォネア教授に軽く笑ってみせる。すると彼女にジトっとした目で見られた。目が『笑い事ではないんだぞ』と語っている。すみません……
「なあ、シラヌイ。【
「あ、ああ。それは別にいいけど……」
すごく真面目な表情で言うグレン先生。そこから放たれている謎の気迫に押され、俺は思わず頷いた。
グレン先生から渡されたのは何の変哲もないただのハンカチ。彼の行動の意図をいまいち掴めない俺は疑問を抱いたまま聞いた。
「……何に変化させるんすか?」
「金塊」
「おい」
つっこまずにはいられなかった。
真面目な顔して何を言い出すんだこの教師は……
というか、ハンカチを金塊にして絶対売り捌くつもりだろ。グレン先生の表情をよく注視してみたらほんの僅かだけど口角上がってるぞ。
死んで一日経った魚の目が心なしかキラキラと輝いているように見えるのは俺だけか? 俺だけなのか?
「いやいや、下級元素配列変換を利用した金モドキを生成するのにも触媒とか多少なりとも金がかかるんだぜ? それがそこら辺に転がってる石でも可能で更に触媒も必要ない……つまりは無料で金塊を作る事ができる! 億万長者間違いなしだっ!」
「言いたい事は分かったけど協力はしないからな?」
「一回、一回だけだから頼むッ!」
「いやそれ絶対何回も頼んでくる人が言う台詞なんだけど……」
しかもシスティーナの親父さんって魔導省の官僚で、フェジテ支部で魔術関連品の流通を取り仕切る魔導監察官をやってるから悪さをする訳にはいかない。
というか、グレン先生が学生時代に金モドキでアホな悪徳商人を騙して稼いでたのは知ってるんだからな。
もし、それが発覚したら徹底的に取り調べが行われるのは間違いない。そしてその場合、俺がグレン先生にハンカチを金塊に物質変化させて譲渡していたら、不自然な金の動きがある事も発覚し、俺まで巻き込まれる可能性が十分にある。
居候させてもらっている身なので悪さするつもりはないし、俺とてさすがに追い出されたくはないぞ。我ながら図々しいとは思うが。
脳内であっはっはと笑っているシスティーナの親父さんが思い浮かぶ。……なんかちょっとくらい悪さしても許してくれそうだな(ゲス)
まあ冗談はさておき、俺はグレン先生に断固として拒否する事情を伝えると悔し涙を流しながら渋々諦めてくれた。
ちなみにアルフォネア教授はそんなグレン先生を見てやれやれと言いたげな表情をしていた。
「あ、そうだ。ハンカチを金塊に変えたりはしないけど面白いものなら見せられるぞ?」
「面白いもの?」
グレン先生から期待に満ちた視線を向けられるが、多分これからやることは先生にとって黒歴史になりそうな事なんだけど……ま、いっか!
「ああ、それなりにな----------【
天使の名を呼び、変身能力で教師姿のグレン先生に変身する。
「おおっ!? 俺が二人に!? じゃなくて、それも【
「まあな。黒魔【セルフ・イリュージョン】と似たようなもんだから言ってなかったが……」
せっかくグレン先生の姿になったことだし口調は彼のものに合わせる。
「似たようなもの、ねぇ……」
何か言いたげな顔をするグレン先生。
「原理は俺も知らんしそういう
「つってもなぁ……」
「ま、異能力なんて原理を考えるだけでアホらしいし無駄でしょ」
「そうなんだろうけど、さすがに十一の異能力を一つの体に宿してるやつなんて聞いたこともねーからな……」
そう言いながら机に置いてあった水を飲むグレン先生。
そりゃあ全ての力を受け継いだ精霊ですから……なんて言えるわけもなく俺は別の事を考えていた。
(……グレン先生と俺(偽グレン)が会話しているのを客観的に見るとすごい光景になりそうだな)
「口調まで真似されると見分けがつかなくなりそうなんだが……」
アルフォネア教授が難しそうな表情で言う。
外見や声、仕草など完璧に変身しているので違いを探そうとしても俺が致命的ミスをしない限りなかなか見つけられないと思う。
まあそんなこんなで色々とツッコミどころ満載だが、アルフォネア教授は指摘するつもりはないようだ。いや、一々指摘してたらきりがないと悟ったのかな。
「セリカ」
ベッドから降りてアルフォネア教授の目の前に立つ。
「お前にその名で呼ばれると本当にグレンと見分けがつかなくなるからやめろ」
困ったように呟くアルフォネア教授を無視して俺は両手で彼女の肩をガシッと力強く掴んでもう一度彼女の名を呼ぶ。
「セリカ=アルフォネア」
「な、なんだ……?」
真剣さが伝わったのか、少したじろぐアルフォネア教授。
その隙をついて彼女に少し顔を近づける。
「俺は、お前の事を一人の女性として愛している」
「ぶふぉッ!?」
「な--------っ!?」
グレン先生は飲んでた水を吹き出し、アルフォネア教授は顔を真っ赤にして絶句している。
いやー、グレン先生に変身した時ずっとこれやってみたいって思ってたんだよねー。
偽物だとわかっていても顔を真っ赤にする辺りやっぱり彼女は-----------いや、よそう。これ以上やると後で俺が殺される。冗談抜きで。
「ちょちょちょおまっ!? マジでなに言っちゃってくれてんのーッ!?」
「結婚しようっ! セリカッ!」
「シャアラアアアアップ!!」
怪我なんてまるで初めからなかったかのように、ベッドから飛び降りて機敏に動き、俺の口を片手で塞ぎに飛び掛かるグレン先生。
「ドッキリ大成功。てへっ」
女の子がやるとかわいい仕草をしてみる。
「わかってたけど、その仕草やった俺ってこの上なくキモウザいなっ!? って、そうじゃねぇ! マジでなにしてんの!? 寿命縮むからやめろ! いや、やめてくださいお願いします!?」
焦燥と軽いパニックを起こしているグレン先生が必死に懇願してくる。
俺もこれ以上するつもりはないのでアルフォネア教授からさっと距離を取る。ほどほどにしないとグレン先生から単位を下げられかねない。
だがしかし! 俺は地雷を踏み抜いて盛大に爆破させるタイプなのでこれ以上ないほどウザい顔で悩ましげに言う。
「えー? どうしよっかなー?」
「くっ…! 目的はなんだ!? 金か!?」
なんか刑事ドラマみたいなやり取りだなーと思いながらできるだけ通せそうな要望にする。
「年中金欠のグレン先生にそれは可哀想なんで代わりに実技の成s-----------「ふ、ふふ……」おっとこれはまずい……ッ!」
隣から聞こえる不穏な笑い声に背筋が凍る。
見ればアルフォネア教授は、顔を
「ふふふ……シラヌイ、生徒のお前が教授である私をからかうとはいい度胸だ。私の魔術で立場の差というものを教えてやる…ッ!」
「セリカ、分かっているとは思うがこっちがシラヌイだからな?」
身の危険を感じたので即座にグレン先生の方に指をさして嘘をついた。悪いなグレン先生。あんたはいいやつだったよ。
「ちょ、おい待てふざけんな!? セリカっ! 俺が本物のグレンでそっちがシラヌイだからな!? マジで頼むぞ!?」
「いいや、違うな! 俺が本物でそっちがシラヌイだ!」
「はっはっは。ふざけんなシラヌイ。俺はまだ死にたくないぞ?」
「いやいや、シラヌイ。お前は正当な罰は受けるべきだと思うぞ?」
グレン先生と俺(偽グレン)による醜い言い争いが勃発している中、アルフォネア教授は笑顔のまま口角をピクピクと
「《我は神を斬獲せし者・我は始原の祖と終を知る者----------」
怒りのゲージが振り切ったのか、何も告げずに詠唱を始めるアルフォネア教授。
そしてそれがどんな魔術の詠唱なのか理解した俺とグレン先生は顔を真っ青にした。
「ちょ、待てセリカっ! 黒魔改【イクスティンクション・レイ】をこんな場所で放ったら俺まで巻き込まれるんだが!?」
「そうだそうだー! 医務室が滅茶苦茶になるぞー! セリカ大好きだー!」
どさくさに紛れて火に油を注ぐ。
「だああああっ! 頼むからシラヌイは黙っててくれー!?」
グレン先生の涙ながらの説得も効果はなく、アルフォネア教授の詠唱は無慈悲にも紡がれていく。
「----------
「止まってくれないんだけどどうすんのこれ!?」
「俺に聞くなっ! くっ…! こうなったら俺の超必殺
打つ手なしの危機的状況に陥る俺たち。
「---------象と理を紡ぐ縁は
「よし、逃げるか。グレン先生、あとのことは頼みますよ。心配しなくとも骨は拾いますんで」
「おいこら待て勝手に逃げようとすんな」
口調を元に戻してからさっさと退散しようとグレン先生に惜別の言葉をかけたが、ガシッと力強く肩を掴まれた。
「ちょ、頼むから離してくれっ! じゃなきゃマジで死ぬ!?」
「旅は道連れっていうだろ?」
かっこつけて言うグレン先生だが、もちろんそれは誤用である。
「それ意味違うから! 旅は同行者がいると心強くて頼もしいって意味だからっ! 決して巻き添えとかそんな意味はないぞっ!?」
「ええいっ! だまらっしゃい! そもそもシラヌイがセリカをおちょくるから悪いっ! 俺なんて何もしてねーのに巻き込まれてんだぞ!」
「何かあったら俺を巻き込みに来るくせによく言うよっ!」
こんな時でも言い争いをする二人に、アルフォネア教授は手を向けてニコッと笑うと最後の詠唱を告げた。
「----------遥かな虚無の果てに》」
「「あっ----------」」
-----------その日、医務室は学院から消失した。
▼▼▼
さんさんと降り注ぐ太陽の光と澄みきった青空を学院の屋上で眺めて景色を堪能している少女が一人。
フェンスに両腕を乗せて体重をかけ、長い銀髪を風に
彼女は先程から純白の手袋を見つめては愛しそうに微笑んでいる。
この手袋は自爆テロの事件があった日の朝にシラヌイから貰ったもので、手の甲の部分には魔術法陣が刻まれている。
あの日、彼女はグレンと共にテロリストに立ち向かい見事勝利したのだが、その一部の要因はシラヌイがくれたこの手袋にあると思っている。
魔術の威力やマナの制御が以前よりも明らかに良くなっていたからだ。
通常の法陣に見たこともない模様が刻まれているのでこれが何かの効果を発揮しているんだろうと憶測する。
「あ、システィ。こんな所にいたんだ……」
背後から声をかけられ振り向いたシスティーナはいつも通りの表情を浮かべる。
「あら、ルミアじゃない。こんなところまで来てどうしたのよ」
「もう、それはこっちの台詞だよ。どこを探してもいなかったんだから」
「ええ、本当にごめん。ちょっと気分転換したかったのよ」
軽く謝るシスティーナにルミアは仕方ないなぁ、と微笑みながら肩をすくめた。
「それと、アルフォネア教授にシスティを呼んできてって頼まれたから」
「アルフォネア教授が……?」
システィーナは思わず首をかしげる。
一体何故教授ともあろうお方が何のために自分を呼び出したのだろうか。
「シラヌイ君を縛っておいてだってさ……」
「なるほど、そういうことね……」
ものすごく納得した。
どうせまた彼が何かやらかしたのだろうとシスティーナは予想する。もう十年くらいの長い付き合いだ。彼がどんな事をしでかしそうなのか大体わかる。
「まったく……あいつももっとルミアを見習えばいいのに……」
「あはは、それは無理そうなんじゃないかな……」
親友であるルミアの謙虚さと大人しさを兼ね揃えたシラヌイをシスティーナは想像してみる。
~~~
『おはよう、システィ』
男子用の学院の制服に身を包み、微笑みながら挨拶をするシラヌイ。
『ねぇシスティ、ここの魔術理論の応用がちょっとわからないんだ……教えてくれる、かな…?』
不安そうに揺れる瞳&上目遣いで見てくるシラヌイ。ちょっとメイクすれば美少女に見えること間違いなし。
『ほら、システィ。あーん♪』
そう言ってフォークに刺したスコーン(レッドベリージャム付き)の一部を差し出してくるシラヌイ。
その表情は
もう誰得なの? っていうツッコミはない。所詮、これは彼女の妄想でしかないのだから。
『大好きだよ、システィ』
そう言いながらシスティーナを優しく抱き締めるシラヌイ。
最初はルミアっぽい性格のシラヌイを想像していたのだが、後半はもう別のものになっていた。仕方ない。だってこれはシスティーナの妄想に過ぎないのだから(大事な事なので二回言いました)
~~~
ボフンっと音が聞こえてきそうなくらい、システィーナの顔は一気に真っ赤になった。
嬉しさやら羞恥心やらで心はぐちゃぐちゃだ。
妄想だけでこれなのだから実際にやられると身が持たないのは明白である。
「ど、どうしたの…? システィ」
心配そうに様子を
「だ、だだだ大丈夫よルミア…っ! これくらいで倒れるほど、名門フィーベル家の次期当主は
「あ、あはは……そ、そうなんだ」
全然気丈に振る舞えてなかった。それどころか、予想とは全く違う返答にルミアはどう反応すればよいのかわからず、曖昧な笑みを浮かべていた。
しかし、ルミアはふと、システィーナが何を想像したのかを察してからかうように言った。
「ねぇシスティ。もしかして、さっき変なこと想像してた?」
「へ、変な事ってなによっ!? 何も想像してないわ!」
耳まで真っ赤になったシスティーナの慌てっぷりに、ルミアはにこにこと微笑む。
「そうなんだー。私、てっきりシスティがシラヌイ君とそういう事する想像をしてたと思ってたよ」
「そ、そんなことするわけないでしょッ! ほら、アルフォネア教授を待たせるのは悪いし早く行くわよっ!」
「はーい♪」
急いで話題を変え、屋上の出入口へと早歩きで向かうシスティーナ。そんな彼女の後ろ姿を見てルミアは微笑ましそうにクスッと小さく笑うと彼女の後を追った。
アルフォネア教授が三節詠唱で【イクスティンクション・レイ】を発動させなかっただけ手加減されてるんだよなぁ……(白目)
【鈴谷奈 不知火の秘密 その3】
・お酒にちょー弱い。前世で間違って飲んだ時、自分にとってとんでもないことをやらかしている。ちなみに酔ってる間の記憶はきれいさっぱり無くなる。