FATE カルデアのマスター、彼の地に来たれり 作:ダンピール
伊丹率いる第三偵察隊は炎龍に襲われて焼け焦げた村の井戸から、エルフの少女を助け出し、炎龍から逃げようとコダ村を出た住人達に付き添っていた。
草木の生えない山道へ差し掛かった時、彼らの頭上より炎龍が襲来する。
「総員、戦闘準備――――!」
趣味に生きるオタクの自衛官、第三偵察隊の隊長 伊丹耀司 が叫んだ。
と同時に空高くから強襲してきた炎龍が轟々と火を吐く。
暴走して倒れた馬ごと荷車が焼かれ、コダ村の住人が悲鳴をあげて逃げ回る。
「あ、ありゃあ炎龍!?ワシも直に見るのは、は初めてじゃあ~っ!」
コダ村の近くに住んでいた賢者カトーが守りの魔法を荷車にかけながら言った。
弟子のレレイ・ラ・レレーナが無言で、冷や汗をかけながら荷車を操作する魔法に集中する。
背後から迫る炎を躱し、障害物の少ない道を走らせた。
第三偵察隊の車両が急ブレーキをかけながら転進、大地に降り立った炎龍へと向かう。
車両の窓を開けて、伊丹も64式小銃を構えながら、照準器に巨大な竜の顔を定めた。
タタタン!タタタン!と三点射撃が火を吹いて、7.62㎜弾が炎龍の顔へと浴びせられる。
しかし炎龍の頑丈な鱗の前では、特地の兵士達が用いていた盾を貫く鉛玉も効果がなかった。
顔の周りを狙って、ようやく炎龍の意識をこちら側に引き付けるので精一杯だ。
「畜生、これじゃあジリ貧だ……!」
弾倉を抜いて、腰のポーチから予備弾倉を取り出しながら伊丹は呻く。
距離を取った別の第三偵察隊の車両上部から、銃座に座った隊員の構えた5.56㎜機関銃MINIMIがダダダダ!と連射音を響かせる。
彼ら第三偵察隊の武装は無限にある訳じゃない。
元々の目的が特地の土壌や動植物のサンプル回収、商工業を含めた情報の収集が目的で組織された深部偵察隊は、現地での突発的な戦闘に備えて一応の装備品が支給されている。
しかし、相手が未知の……それも映画の特撮に出て来るような馬鹿げたサイズのドラゴンとなると、小銃や数に限りがあるロケットランチャーでは致命的な傷を負わせるのも難しいだろう。
どうすればいいのか頭を悩ませる伊丹の下へ、更に最悪の報告が寄せられる。
「隊長!!後方から村人達が戻ってきます!」
「何だって!?」
先ほど全速力で山道をバラバラに走って逃げたコダ村の住人達が伊丹達の方へと向かっていた。
車両のサイドミラーでも小さな人の姿を捉えた伊丹は、何故彼らが危険な炎龍と戦う自分達の方へ戻ってきたのか分からなかった。
だが……答えはすぐに小さな人を追いかけるものを見て納得がいった。
「何だありゃあぁぁっ!?」
大地を揺らしながら前進して、逃げ惑う人々に石の剣を振り下ろして回るスプリガン。
「ご、ゴーレムって奴ですかね隊長ぉ!?」
「知らん! とりあえず仮称ゴーレムだ!」
彼らの驚愕はそれで終わらなかった。
スプリガンの巨大な体を擦り抜けるようにして、半透明な布を纏った半透明な骸骨が、長く鋭い爪を持ってコダ村の人に音もなく近づいては切り裂いているのだ。
実体を持たないエネミー ゴースト 。それが十数体、宙を漂いながら村人たちを追っていた。
更に追い打ちをかけるように、今度は人型の半獣が村人たちを襲う。
森の戦士 ウェアジャガー が漆黒の毛並みを逆立たせながら、手にした武器を用いて村人の1人を掴み、首を撥ねてはその肉を食らっていた。
「仮称ゴーストに仮称首狩りビースト、一体何がどうなってやがんだ!?」
「炎龍に襲われるまで、あんな奴ら影も形も見えませんでしたよ!」
《隊長!私達が住民達の救助に向かいます!》
通信を開いてそう呼びかけてきたのは、別の車両から身を乗り出して炎龍へと射撃を続けていた隊員の1人 栗林志乃 だった。彼女は憤怒の形相で、村人を襲うエネミー達を睨みつけている。
しかし伊丹は冷静な判断力を損なう訳にはいかず、きっぱりと命令を伝えた。
「ダメだ栗林。俺らの車両1台でも炎龍から離れれば、あいつはそれを追うかもしれない。そうなったら余計に村人達の逃げ場がなくなる。俺達は炎龍への攻撃を継続する!」
《――ッ!でもこのままじゃ!!》
「分かってる!!!!」
悲鳴のような抗議の声をあげる栗林に対して、伊丹もやりきれない怒りの声で叫びながら通信を切る。そこへ無慈悲な炎龍の吐いた炎が降り注ぎ、運転をしていた隊員がハンドルを切った。
辛うじて直撃を免れた伊丹の車両だが、窓を開けていた顔をじんわり炎の熱気が覆う。
(神頼みなんてガラじゃないけど……何か、最善の手はないのか……!?)
二重橋の英雄 などと称えられた伊丹だが、中身はただの自衛官に過ぎなかった。
奥歯を強く噛み締めて、ほんの一瞬だけ目を瞑った伊丹。
その時だった――――――凛とした声を張り上げて、号令を下す者が現れたのは。
「ランサー。大物任せた!」
「ほい来た。―――宝具解放、標的確認。方位角固定―――いくぜぇ……!」
炎龍の頭上が煌き、巨大な熱量を伴う何かが炎龍の胴体を貫いた。
悲鳴のような鳴き声をあげて、炎龍が後ろへ1歩よろめく。
伊丹が目を凝らすと、空中から黒い外套を翻した男が落下してくるのを捉えた。
「おっとこいつぁ失敗。頭ブチ抜くつもりだったんだが、いかんせん空中からの
「命中したから問題無し!ライダー、着地任せた!」
黒い外套の男が高さ数十メートルのフリーダイビングをしながら、原理も分からず戻ってきた槍を手でキャッチする横で、顔の前で腕を交差しながら最初に声をあげた青年が再び声をあげる。
すると、全速力で走る第三偵察隊の車両を、一頭の馬が追い抜いていく。
馬の背には剣と盾を手にした浅く焼けた肌の青年が
跨るでも、しがみつくでもなく、揺れる馬の背に、足をつけて立っていた。
「了解っス、マスター!駆けろ、ブリリアドーロ!」
馬の背に立つ青年が眼下の馬に呼びかけると、馬は威勢よく嘶いた。
やがて空中から自由落下する2人の内、槍を手にした方の男は盛大に土煙を巻き上げながら着地。
もう1人の青年は、馬の背に立つ青年の両腕にすっぽりと収まっていた。
「サンキューマイフレンド!ランサー、後はそっち任せたよ!!」
「ほいほい任されましたよ~。マスターを任せたぜ、後輩」
「う、ウッス!! この鎧と盾、俺の真名に誓ってマスターをお守りするっス!!」
駆ける馬が転進して、今度は第三偵察隊の車両と交差するように走り去っていく。
呆気に取られた伊丹が隣で声をかける隊員の声で我に返り、走り去る青年達と男に叫ぶ。
「き、君達は――――!!?」
何者なんだと聞く前に、砂煙をあげて馬は行ってしまった。
1人残って槍を構え、睨みつけて来る炎龍と対峙した男が飄々としながら答える。
「なぁにオジサン達はただこの場に偶然行き当たった異邦人、怪しい者じゃございませんよ~。――――――――――そうさね。まぁ、とりあえず……通りすがりのカルデアの者さ……!」
次回「英霊一騎で戦略兵器に匹敵する」