FATE カルデアのマスター、彼の地に来たれり   作:ダンピール

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~伊丹達と邂逅する直前のリツカ達~

 草木生い茂る森を抜けて、リツカは千代女達が潜む岩陰までたどり着いた。
しかし到着すると同時に騒然となっている岩の向こう側に意識を向ける。

「―――お館様!」
「千代女さん。状況は!?」

「お館様の嫌な予感は的中でござる。山道を進んでいた現地住民達の上空より、先刻拙者達が交戦した赤い龍が強襲を仕掛けました。先頭の軍用車両が龍を攻撃しておりますが……何時まで持つか」

「――――ッ」

 千代女の報告を聞いてリツカは背筋が凍り付くような恐ろしさを感じる。
今聞こえる爆発音や微かな人の悲鳴が、オルレアンで見たような悲劇を生み出そうとしているのだろう……。
奥歯を強く噛み締めて、リツカはヘクトールを正面に見据える。

「……ランサー……。お願いしてもいいかな?」
「ほいほいマスター、皆まで言われずとも分かってますよぉ。オジさんがあの龍の相手、他で村人達を助けに回る…とかかね?」

 既に幾多の死線を潜り抜けてきたリツカとヘクトールの間に、余計な会話はない。ヘクトールはリツカの目線だけで何を命じられるか察して、殆どの無茶を嫌々ながらも引き受けてくれる。

「―――――そいじゃ、いっちょ派手にいきますかね!!」

 高らかに作戦開始の号令を発したヘクトールが、マスターを抱えて跳躍する。
高い岩場から更に高い岩場へ、次第に岩山の天辺まで上がっていく。
それを見届けて、サーヴァント達はそれぞれが行動を開始した。

――――そして今に至る。



英霊一騎で戦略兵器に匹敵する

 炎龍が怒りの咆哮をあげる。

ビリビリと空気が震え、伊丹達は咄嗟に耳を庇った。この時、車内で苦しそうに呻くエルフの少女 テュカ・ルナ・マルソー が意識を取り戻す。

 

「――――あらぁ……?()()は……何かしら……」

 

 ゴスロリ姿の亜神 ロゥリィ・マーキュリー は炎龍と真っ向から対峙するヘクトールの背中を見つめ、奇妙な感覚を覚える。

彼女は死と断罪の神エムロイに仕える使徒でもあり、その瞳には常人に映らない靄のようなものすら見えてしまう。

 

 だから、そこに立っている筈なのに()()()()()()()ではないヘクトールを目にして、彼女は尽きない興味が湧いた。

身を乗り出してヘクトールを見つめようとしたロゥリィを、伊丹が慌てて車内の奥へと追いやった。

 

「―――ッ危ないから身を出すなって!」

 

「えぇ~?だって気になるじゃない……あの男……」

 

「今は戦闘中だから、落ち着いてからな!?」

 

 そう言って、伊丹は64式小銃を構え直す。

……槍を構えて炎龍に向かっていくヘクトールに警戒心を抱き、彼を誤射しないように視界の端で捉えたまま。

 

 

「あらよっとぁ!」

 

 間延びした掛け声に合わせて、ヘクトールは炎龍へ飛び掛かる。

炎龍は大口を開けて、彼がいる場所一帯を覆い尽くす炎を吐き出した。

轟々と燃え盛る吐息の下を掻い潜り、槍を突き出すヘクトール。

 

 しかし槍の切っ先は炎龍の腹部へ突き刺さることなく、体を覆い尽くす鱗に軽く傷をつけた程度で弾かれてしまう。

横から襲ってきた炎龍の尻尾を紙一重で躱し、ヘクトールは一度距離を置いてから炎龍の身体をじっと見つめる。

 

(英霊の槍でも貫けない程の頑丈な体……幻想種としちゃ上物ってところかね。……いや、多分()()()()()()()()……か?)

 

 思考を巡らせるヘクトールに大して、炎龍は更に炎の吐息と翼を羽ばたかせて炎の範囲を広げた。

流石に被弾は免れないかと思ったヘクトールは咄嗟に炎龍の足元へ飛び込んだ。

小さな虫を踏み潰すように、炎龍の足がヘクトールの頭上へ迫ってきた。

 

「おぉっと、こりゃやべぇやべぇ!」

 

 笑みを零しながら額に冷や汗を浮かべるヘクトール。

足に潰されることなく躱せたが、飛び散った岩の破片が彼の頬を掠めた。

薄っすら滲む血を手の甲で拭いながら、ヘクトールは炎龍に言った。

 

「さぁて……とことんまでやろうじゃない」

 

 それに対して炎龍も叫んだ。

伊丹達はタイミングを合わせて64式小銃やMINIMIでの援護射撃を開始する。

 

「車両の数がひい、ふう、みい……こっちの戦力が4でそっちは1か。―――卑怯、なんて言わないでくれよ?―――なぁっ!!」

 

 

 

「う、うわああぁぁぁっ!」

 

 地面の石に躓いた村人の1人、背後から巨大なスプリガンが迫っていた。

縺れた足で必死になって逃げ惑う彼の頭上へ石の大剣が振り下ろされる。

もうダメだ!と目を瞑って死を覚悟した村人。

 

……しかし何時まで経っても痛みはやってこなかった。

恐る恐る村人が目を開けると、目の前でスプリガンの身体に奇妙な事が起こっていた。

 

「―――――(まが)れ」

 

 スプリガンが石の大剣を持つ腕が、ありえない方向に捻れて折られていた。

困惑する村人の背後から、凛とした少女の声が響き渡る。

そして、今度はスプリガンの足がバキッ!と折れて砕け散った。

 

「……な、一体何が……?」

 

「――――お逃げ下され」

 

 シュタッ。静かな着地音と共に村人の目の前へ、突如として現れた千代女が村人に話しかける。

 

「うわっ!?な、何だアンタ……何処から」

 

「今はそれを伝える余裕のない時にござる。―――お館様の命により、我ら是より皆さまの救助を行いたく……」

 

 千代女が説明すると、村人は何を言ってるのか分からず首を傾げる。

言葉が通じていないのかもしれないと察した千代女は手に持っていた苦無を見せつけてスプリガンに投げるような動作と、村人に自分達の後ろの方へ行けと視線で促した。

 

「……えっとつまり、助けてくれるって事か」

 

「左様」

 

「―――何だかよく分からんが、助かった!」

 

 村人は立ち上がり、千代女と背後にいた少女……藤乃へ頭を下げて走り去る。スプリガンはしぶとく生き残り、動かない顔で2人を見つめた。

 

「―――――凶れ」

 

 バキン!最後にスプリガンの首が捥げて、完全に動かなくなった。

藤乃は赤く光った自らの目の周りをそっと手でなぞる。

彼女が持つ 歪曲の魔眼 が、スプリガンを死に至らしめた。

 

「千代女さん。次に参りましょう」

「承知ッ」

 

 

「―――消えろ」

 

 謎のヒロインX[オルタ]は一言呟いて、右手を前に翳した。

赤い電撃のようなものが迸り、ゴーストを一瞬で消し飛ばす。

後ろで守りの魔法をかけていたレレイが半口開けて驚いていると、同じく放心状態だったカトーの所へ村正が声をかけにいった。

 

「おう爺さん、化生共は(オレ)達に任せてくれや。……アンタは逃げてる奴らを、一箇所に集まるよう誘導してくれ。 頼んだぜ」

 

「……ぇっ?えっ?いま、お主何を喋って―――」

 

 カトーが困惑するのも無理はない。

今の村正が話しかけた言葉は日本語であり、特地の人間であるカトーには彼が何を言っているのかさっぱり分からなかった。

 

 しかし会話を打ち切って、村正は近寄ってくるゴーストに対して威勢の良いかけ声と共に、懐から一本の刀を取り出して切り伏せる。

その間にも謎のヒロインX[オルタ]はゴーストの群れを切り捨てて、彼らから離れていってしまう。

 

「っとボヤボヤしちゃいられねえか…。待てって、狂戦士の嬢ちゃん!」

「置いていきますよ、セイバーのお爺さん」

 

「……な、何が何だか……さっぱりじゃ」

「師匠、それには同意。けれど―――他の村人を助ける事を優先」

「お、おうそうじゃったな! 任せておけい!」

 

 言葉は分からないが、村正の仕草から大体のニュアンスを掴んだレレイがそれらしいことをカトーへ促した。荷車に軽量化の魔法をかけ直して、カトー・レレイの2人はその場を離脱する。

 

 

「――――ッ先生!!」

 

 ブリリアドーロの背から降りて、怪我をした村人達の治療にあたっているアスクレピオスの下へ、リツカとマンドリカルドが到着した。

既に周りのウェアジャガーは、アスクレピオスの操る蛇によって倒されており、周辺の空気が他と比べて落ち着いている。

 

「マスター、今は一刻を争う。傷の具合と治療薬の選定は俺が行う。お前は俺が治療法を決めた患者1人1人のサポートに当たれ」

 

「――――了解!」

 

「ライダー、俺とマスターは見ての通り治療で手一杯だ。辺りの敵がこっちに来ないよう、警戒を頼んだ」

 

「ウッス」

 

 盾と剣を構えて周囲を虱潰しに見て回るマンドリカルド。

リツカは血まみれの手で傷口を抑えて意識が朦朧としている村人に呼びかける。横でアスクレピオスが、ペストマスクで表情は隠れているが……素早い手つきで治療薬の調合を始めていた。

 

「大丈夫!もう大丈夫ですよ!」

 

「ぅ……ぁ……」

 

「―――マスター。傷口の手を退かせ。可能であれば、邪魔な衣服は切って、綺麗な部分は包帯代わりにするんだ」

 

「うんっ!」

 

 懸命な治療行為が進められる中、マンドリカルドの目が近づいて来るスプリガンの生き残りを捉えた。

猛ダッシュで突っ込んでくるスプリガンに、マンドリカルドは意を決して背後にマスターに許可を求める。

 

「マスター!宝具の開帳許可を!」

 

「―――令呪を以って命ずる!ライダー、宝具を発動せよ!」

 

 間髪入れずにリツカは手に宿った令呪の一画を消費する。

マンドリカルドは木剣に膨大な魔力を宿し、彼が持つ伝承・逸話から生まれた宝具の名を叫びながらスプリガンへ突撃していった。

 

不帯剣の誓い(セルマン・デ・デュランダル)!!」

 

 




次回「決着と合流」
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