FATE カルデアのマスター、彼の地に来たれり 作:ダンピール
炎龍との戦いは伊丹達が優勢に持ち込む形となった。
ヘクトールは彼らの戦い方を横目に見てある程度の予測を立てて、彼らが移動・射撃するタイミングに合わせて射線に入らない位置から炎龍の注意だけを自分に逸らすよう戦った。
「ほいさ、これでも食っときなぁ!」
ヘクトールが拾い上げた石礫を全力投球すると、7.62㎜の弾よりも派手な音を鳴らして炎龍の鱗に破片が食い込んだ。激高して炎のブレスを吐いても、ヘクトールはひらりひらりと躱す。
その時だった―――伊丹が通信機を繋げた隊員たちと、ヘクトールに聞こえるように叫んだ。
「全員、目を狙え!!」
伊丹の座る車両の後ろで、エルフの少女テュカが目を覚ましていた。
彼女は自分がどういう状況に置かれているのか分からずに困惑していたが、目の前に親の仇である炎龍がいる事だけは理解出来た。そして、それと戦う伊丹達に炎龍の弱点となる部位……目玉を狙うようにジェスチャーを交えて伝えた。
ダダダダッと3台の車両から放たれる銃弾が炎龍の顔を執拗に叩いていく。
既に何者かの手によって片目を矢で潰された炎龍は、鬱陶しそうに弾丸から残った目を守るために手で覆い隠す。その隙を見逃さず、伊丹達は110㎜個人携帯対戦車弾の射撃準備を済ませて、一番狙いが付きやすい胴体へと照準を定めた。
隊員の1人が肩に担いで引き金を引こうとした時、チラと後ろを振り返って呟く。
「後方の安全確認」
「「「「「「遅ぇよ!!」」」」」」
伊丹含む他の隊員たちから突っ込みを受けた直後、彼の乗る車両は小さな岩の塊にタイヤが乗り上げてしまう。揺れた際に照準がズレた110㎜の弾頭は、炎龍の身体に当たらないコースを直進してしまう。
「しまった」と伊丹が半口を開けた瞬間、車両の後ろから飛び出る黒い影が視界の端に移り込んだ。
「ウフフフフッ!!!槍持つ勇士、コレに合わせてぇっ♪」
黒い影はロウリィだった。蠱惑的な笑みを浮かべ、巨大なハルバードを炎龍に向かってぶん投げるロウリィ。
ブォンブォンと風を切る戦斧の音に、ヘクトールも振り返って意図を察する。
「しゃあねえ!一丁やってやりますかぁ!!!」
地面を踏み砕く勢いで炎龍に突進したヘクトール。
足をあげて、彼を踏み潰そうとした炎龍に向かって、凛とした声が響く。
「凶れ……!」
バキャッ。歪な音を立てて、宙に浮いた炎龍の足が曲がってはいけない方向に折れた。
夥しい血の雨が降り注ぎ、炎龍が悲鳴をあげて仰け反ると、更に追撃の一手が加わる。
「掴まっときな、オルタの嬢ちゃん!」
「五月蠅いですね……―――――これでッ」
空中高く跳びあがった村正の一太刀と、謎のヒロインX[オルタ]の光剣の一突き。
それが炎龍の胴体に深い十字傷をつけて炎龍はそこら中に口から炎を吐き出した。
「――――ッ!危ないわ、マスターッ」
岩陰に潜んでいた少女、アビゲイルが一本の鍵を取り出した。
空中に突如現れた鍵穴にそれを差し込んで捻ると、何処からともなく異形の蛸足が半透明になって現れる。それが炎のブレスを掻き消して、1人も怪我をすることはなかった。
「今っス、ヘクトールの旦那!」
「おっしゃあ!これで―――――お終いだぁっ!」
丸盾を炎龍の腕に放り投げて叫ぶマンドリカルド。
丸盾は弧を描いて炎龍の腕に向かうが、ギリギリのところで躱されてしまう。
ガァン!と空中で盾とハルバードが衝突する。
しかし遠心力と回転数、重量で勝るハルバードの勢いは殺されることなく、軌道を変えて刃が炎龍の翼に深く突き刺さった。
同時に外れると思われた110㎜の弾頭が、炎龍の腕に直撃して大爆発を起こす。
苦しそうに咆哮をあげた炎龍が空中へと飛翔する。
魔眼を輝かせて追撃をしようとする藤乃を、村正が手で制した。
「………終わった……のか?」
先ほどまでの激闘が嘘のように、山道は静まり返っている。
炎龍が空の向こう側へと消えていなくなるのを見届けた伊丹は、他の敵がどうなっているのか振り返って驚いた。村人達を襲っていた石の巨人や幽霊、二足歩行の獣は全てが地面に倒れ、えげつない形で倒されていた。
通信を開いた隊員の1人が、震える声で問う。
「まさか……あの人達が他の敵を?」
「……そうとしか考えられないでしょ……あんな戦い見せられたら」
隊員の言いたいことが伊丹も理解出来た。
彼ら自衛隊は今まで、特地での戦いを銃火器や兵器によって一方的ではあるが、必要以上の損害を出さないように戦ってきた。
しかし目の前の彼ら彼女らは、槍や刀、魔法のような何かで巨大な炎龍を圧倒した。
まるで神話の英雄のように一騎当千の活躍をした彼らを、心の底で畏怖する。
「それで隊長……どうするんです、彼ら」
「どうするって……そりゃ、話を聞くしかないでしょ」
圧倒的な強さは兎も角、
自衛隊員以外では、帝国によって連れ去られた民間人を除き、地球側の言語を理解する者はいなかった。……伊丹は面倒事が増えたと頭を抱えてため息を吐いた。
炎龍が去り、他のエネミーも完全に制圧された暫く後。
村人達から通じない言葉で感謝されて、もみくちゃにされるリツカ。
アスクレピオスは感謝の言葉を述べる村人達を無視して、治療と研究に専念している。
最初はペストマスクをつけて怪しげな恰好の彼に怯えていた子供達も、僅かな時間で彼に懐いてしまったらしく、忙しなく彼の周りを駆け回っては「安静にしていろ」と怒られていた。
「――――あぁ~……えぇ~っと……そこの君!」
「……ん。……自分ですか?」
彼らの近くに走ってきた車が停車して、1人の男が銃を提げたまま降りて声をかけてきた。
リツカは立ち上がって振り返り、彼が自衛隊員の恰好をしている事に驚かされる。
……今更な気もするが、戦闘中リツカは彼らが自衛隊だと気づかなかったのだ。
「じ、自衛隊!?」
「あー…うんそう。俺は自衛隊第3偵察隊の伊丹耀司っていうんだ。―――それで驚いてるところ早速で悪いんだけど……ちょっと話を聞かせて貰えないかな……?」
伊丹に手招きされて、リツカは車両の方へと歩いていこうとする。
そこに音もなく近寄ったアスクレピオスが片手をあげてリツカを止めた。
彼は険しい顔つきで伊丹をじっと見つめていた。
説明が遅れたリツカは慌ててアスクレピオスの手を掴んで説明する。
「だ、大丈夫だよ先生!この人達は敵じゃないから、多分!」
「……そこは敵意がないって断言して欲しかったなぁ……あはは……」
黒い装束にペストマスクをつけた優男を前にした瞬間、伊丹は目の前に巨大な蛇がいて、一噛みで食い殺される蛙のような恐怖感を味わった。
リツカの説得を受けて、アスクレピオスは渋々後ろに一歩下がる。
しかし彼は警戒心を完全には解いておらず、伊丹は終始冷や汗が出っぱなしだった。
次回
「第三偵察隊・チームカルデア」