FATE カルデアのマスター、彼の地に来たれり   作:ダンピール

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第三偵察隊・チームカルデア

 コダ村の住人達は、アスクレピオスの迅速な治療で多くの命が救われた。

一方で救えなかった者もいる。第三偵察隊の自衛隊員達とカルデアの面々は、協力して遺体を土に埋めた。リツカは残された子供達と一緒に、手向けの花を摘んできた。

 

「……どうか安らかに」

 

 涙を流し、声をあげて泣くコダ村の住人達の横で黙祷するリツカ。

その後姿を見つめる伊丹は、リツカが只の少年ではない事を悟る。

あれだけの恐ろしい戦いを経て、人の死を前にして、彼は動揺する素振りを見せなかった。

ますますリツカの素性が気になるが、今は目の前の問題を解決せねば…。

 

「村人の大半は、山を越えて遠くの街まで避難するみたいだけど――――」

 

 険しい道のりを、幼い子供達はついていけない。

老師カトー、魔導師レレイの2人にエルフの少女テュカ、神の使徒ロゥリィ。

彼らも避難民としてアルヌス駐屯地に連れていく事になっているのだが……

 

「そろそろ話して貰えるかな。 君達のことを…」

 

 伊丹の呼びかけに、振り返ったリツカは無言で頷く。

するといつの間にか姿を消していた千代女が彼の隣に現れる。

突然のことで驚く伊丹や他の隊員達を気にせず、千代女は告げた。

 

「じきに日没となります。移動を優先して、移動の最中にお互いの情報交換をするべきかと」

 

「そうだね。――――そしたら」

 

「それじゃあ君と、あと1人か2人は俺達の乗るアレに来てもらえるかな?」

 

 背後に停車した車両を指差す伊丹。

運転席では隊員の倉田が「リアルくノ一キター!」と興奮している。

自分のことを言われているのだと知った千代女は恥ずかしそうに顔を赤らめて、気配遮断によって倉田の前から姿を消してしまう。

 

「分かりました。―――ランサー!」

「ほいほいお呼びですかねマスター」

 

「――――かくかくしかじか」

 

「これこれうまうま―――。ほい承りましたよ、オジサンにお任せあれ」

 

(今ので通じたの!?)

 

 リツカとヘクトールのやり取りを目にした伊丹が半口を開けて困惑している。

サーヴァント全員を車両に乗せる訳にはいかず、伊丹達の車に乗っていたテュカ、ロゥリィは女性隊員である栗林、黒川と共に二番目の車両へ、藤乃とアビゲイル、謎のヒロインX[オルタ]もそれに乗った。運転を任された富田は居心地の悪さを感じずにはいられなかった。

 

 村正、アスクレピオス、マンドリカルドの3人は馬車の方で残された避難民の子供達とレレイ、カトーの相手をすることになった。

…とはいっても言葉が通じないので、ジェスチャーでの健康状態の確認をするだけ。

 

 炎龍やスプリガン達に家族を殺された子供達も埋葬の後は暫く泣きじゃくっていたが、村正がぶっきらぼうに頭を撫でてくれたことで少し元気が出たのか、今は殆ど眠っている。

 

 ガタゴト揺れる車両の中で、伊丹によるカルデアメンバーの事情聴取が行われた。

 

 

「―――それじゃあ、君の名前から教えて貰えるかな?」

「藤丸リツカです」

「パリス・トロイアでーっす」

 

 さり気なく嘘の名前を告げたランサー・ヘクトール。

しかしリツカもそれを気にする素振りもなく、淡々としている。

 

 これはヘクトールの提案で、特異点調査時にサーヴァントである自分達が真名を明かすのは先を見据えた戦闘に於いて不利になる可能性があるとして、原則サーヴァント達は必要であるとリツカが判断を下すまでは真名を出さない。

 

 嘘に厳しい清姫が知れば文字通りの炎上案件待ったなしの決め事であるが、今回に限って同行するサーヴァント達に異論はなく、それぞれが決められた偽名を名乗るようにしているのだ。

 

 それに気づくことなく手帳に名前を書き込んで、伊丹は次の質問に移った。

 

「藤丸君。君達はどうやって此処に?」

「此処…というのは」

 

「……此処は日本でも海外でもない。信じられないかもしれないけど異世界って奴なんだ」

「異世界…ですか」

「そりゃおったまげ」

 

(ついに特異点で異世界来ちゃったか~……)

(まぁ、特異点も一般人から見れば十分異世界だと思うけどね~)

 

 リツカの疑問に答えた伊丹。

リツカは少しだけ目を見開いて口元を手で覆い隠した。

ヘクトールは驚いたように大袈裟なリアクションをする。

 

 この時、伊丹はある疑問を抱いた。

普通の人なら異世界と聞いて「そんなものあり得ない」と困惑するないし性質の悪い冗談だと一笑して信じたりはしないだろう。

それを2人はあっさり受け入れて、わざとらしく驚いた。

 

「―――それでさっきの質問に対する答えなんだけど」

 

「ああ~えっと……。お願いランサー」

「ほいほい、こっからはおじさんが長々と説明させて頂きますかね」

 

 後部座席で向かいあう形になった伊丹とヘクトール。

リツカは隅っこに移動して、暗くなった窓の外をじっと見つめていた。

言葉を交わす前に、伊丹は目の前の男が話し相手としては癖のある人間かもしれないという疑いをかけて、言葉での駆け引きとか苦手なんだけどなぁと心内で嘆く。

 

 

「改めて自己紹介する必要もないと思うが念のため……。おじさん達は魔術結社カルデアに雇われた特殊工作員って奴さ。 其方さんの言い方でエージェントって言った方が分かり易いかね」

 

 息を吐くように嘘の話を始めたヘクトール。

これも特異点先で、カルデアと敵対する勢力にこちら側の動向を探られないようにする為のカバーストーリーだ。ちなみに製作は作家系サーヴァント達と悪巧みが趣味の数学教授+名探偵。

 

 要点を纏めて、ヘクトールは以下の内容を伊丹達に伝えた。

・魔術結社カルデアのエージェントであり、現地での最高責任者はリツカ

・カルデアの目的は魔術に関わる危険な品々の回収或いは破壊

・この異世界へは移動中のアクシデントに見舞われて迷い込んだ

・暗号名としてリツカは「マスター」その他のエージェント達は、各々の特性に応じた名前が振られている。ヘクトールは参謀という肩書を持っている

・実戦経験のないリツカを補助する為に、交渉等はヘクトールが行っている

 

 この嘘を相手に信じ込ませるコツとして、真実を織り交ぜる事が挙げられる。

カルデアという名前、(名前は出さなかったが)聖杯の回収、レイシフト中の事故。

メモを取る伊丹の目が段々と死んでいき、最終的には半笑いを浮かべていた。

 

「ハハッ、これ陸将に見せたら信じてもらえるかな……」

「問答無用で病院に突っ込まれると思いますよ。頭の方の」

 

「お互い様…って感じの話ですね」

「事実として受け入れるか、嘘と切って捨てるか。それは其方さんにお任せしますよ~」

 

 乾いた笑い声で問いかける伊丹に、運転中の倉田が苦笑いで答える。

飄々とした口調で背もたれに寄り掛かってヘクトールは肩をすくめた。

リツカは伊丹から聞かされた特地の話と、自分の故郷に起こったとんでもない出来事が、自分達の調査しようとしていた特異点と関係があるのか、疑問符を浮かべていた。

 

「それで君達はこれからどうするつもりなのかな?」

「ご迷惑でなければ、伊丹さん達のところで厄介になろうかと思います」

 

「俺達は構わないけど……。其方さん的には不味いんじゃないの?」

 

「なぁに、神秘の秘匿さえ守っていりゃ奴さん達の目の届かないところで俺達が何をしていようとバレなきゃ問題ない問題ない」

 

 しれっと今後の方針を決めるリツカ。

その言葉は令呪を通じての魔力による連絡として、他のサーヴァント達にも伝わった。

こうして軽い自己紹介とお互いの事情を(カルデアは誤魔化しだが)話して、リツカ達は暫くの間を第三偵察隊の下で過ごす事に決めた。

 




次回「アルヌス駐屯地 In カルデア」
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