FATE カルデアのマスター、彼の地に来たれり   作:ダンピール

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※サブタイトルと前回の次回予告を修正しました



アルヌス駐屯地 In カルデア

「おぉ――――――――広いっ!」

 

 炎龍撃退から暫くの後、第三偵察隊の車両に乗ったリツカはアルヌス丘陵を眺めて感動する。

第二特異点セプテムに匹敵する広大な草原と遠方に見える山々。

緩やかな斜面の頂上には、そんな自然の風景から明らかに浮いている人工の建物があった。

 

「あれが自衛隊特地派遣部隊の拠点、アルヌス駐屯地さ」

 

 伊丹から全ての話(といっても一般に公表されている程度の情報だが)を聞かされていたリツカは、先ほどの炎龍や異世界に通じる門の話が現実味を帯びてきたことを実感する。

今まで特異点の先で現地の国や組織を味方につけたり、敵にしたりは多かったが、まさか自衛隊の基地でお世話になるとは考えたこともなかった。

 

 景色に見惚れるリツカの隣で、ヘクトールは同じように景色を眺める―――

フリをして、駐屯地に並ぶ戦車や車両の数々をじっくりと眺めていた。

後ろをついてくる老師カトーの荷馬車に乗るマンドリカルドがヘクトールに念話で話しかける。

 

(ほ~これが現代の戦車って奴か……。イスカンダルの旦那にもライブラリの資料で見せて貰ったことはあるが、改めて生で見るとまた違った感想が出て来るもんだねぇ~)

 

(あの筒が大砲の役割を果たしているって孔明さんが言ってたっスね。俺達サーヴァントが兵器というカテゴリーに分類されるなら、あの奥に見える戦闘機てやつ1機がそれに匹敵すると)

 

(ま、こっちは霊体化してりゃどんな攻撃でも効きやしないから力比べも糞もないと思うがね)

 

 本来は聖杯戦争の為の使い魔として召喚されるサーヴァント。

戦う相手は同じ聖杯戦争参加者のマスターかサーヴァント、その他マスターが使役する使い魔等に限られるのだが、聖杯探索(グランド・オーダー)においては別である。

 

 必要であれば現地に現れる敵性個体、任務遂行の障害となる多くを討たねばならない。

先ほどの戦いで伊丹達が使っていた銃が自分達に向けられないことを祈るマンドリカルド。

たとえ効き目があまりないと分かっていても、あんなもので撃たれればマスターに危険が及ぶ。

 

(どうっすかヘクトールさん。あのイタミって人は……)

 

(どう…ってのは?)

 

俺達(カルデア)の味方になってくれるか、敵になってくれるかって話っス)

 

 普段は口数も少なく、シミュレーションにおける戦闘時でも会話は少ないマンドリカルドが珍しく現状を把握するための質問をしてきたことに、ヘクトールは感心する。

 

 英霊になってからも人としての成長は重要な因子の一つであった。

聖杯戦争においてはマスターとサーヴァントの相互理解が不可欠であり、カルデアのような特殊な環境下ではサーヴァント同士による情報交換や信頼関係の構築も不可欠である。

 

 同じマスターと契約を結んでいても、古今東西ビッグネームからマイナーまで選り取り見取りのサーヴァントは一癖も二癖もある曲者揃いだ。

戦場では互いにマスターを守るために戦い、背中を預けることもある。

平時であれば任務遂行に必要な意見交換を躊躇わず行うことが推奨されていた。

 

(いやぁ後輩がこんな人間的に成長してるなんて……。おじさん、嬉しい)

 

(そ、そうですか……ありがとうございます…!)

 

(――――んで、あの隊長さんを見た俺の感想だけど―――)

 

 トロイア戦争の大英雄、トロイア軍を率いる将軍でありながら政治家でもあったヘクトール。

そんな男から見た伊丹耀司という男の第一印象は()()()()()の匂いがしたという。

 

 普段はそんなにやる気など見せず、平々凡々とした日々が好ましい。

隊員達と接するときのフランクな態度は、受け取り方次第で好まれもするし、嫌われもする。

だが炎龍との戦闘時に見せた判断力や、突然現れた自分達に対する観察力は一部隊の隊長を務めるのに相応しいものを持ち合わせている。

……が、彼は()()()()ではない何かを持っているようにヘクトールは見た。

 

 リツカ達の話を聞いて、僅かな疑問を抱きながらも、こうして駐屯地に連れて来た。

何故そうしたのか伊丹に質問して帰ってきたのが――――

 

「とりあえず今後も特地をウロチョロされて、他の部隊と接触する度に同じような話をするってのは面倒でしょ。こっちで情報を共有化しておいた方がいいと思ったからだよ」

 

 質問に対する答えとしては嘘を言っていない。

だが、()()()()()()()()()()()()()()()()とヘクトールは考えている。

道中リツカに自衛隊という組織の在り方を聞いて、特地の現状と伊丹達の話を統合して考え、出た結論として伊丹はリツカ達を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その理由というのが特地に派遣された自衛隊としての義務だからなのか。

或いはカルデアという組織、リツカ達に対する不信感を抱いたからなのか。

或いは―――――――――――――彼らが()()()に関係するものだからか。

 

(とりあえず向こうさんから情報を集められるだけ集めて、それからマスターの考え次第で特異点の調査に移るか、カルデアとの通信が回復するまで待機するかを決めようじゃない?)

 

(現状イタミさん達は敵じゃないけど味方でもない。この特異点における貴重な情報源として利用する代わりに、こっちの手札(情報)は出来るだけ明かさずに――――――って感じっスか)

 

(完璧だ。とりあえずこの話は俺からセイバーの爺様達にも伝えておく。お前さんはこれまで通りにマスターのお供を頼むぜ?)

 

(ウッス)

 

 

「わ、わ。凄いわ()()さん!出入口に立っている兵隊さん、私が見様見真似で敬礼をしたら返してくれたのよ!」

 

()()()()()さん、はしゃぎ過ぎですよ」

 

一列に並ぶ車両の真ん中、女性陣が全員乗り込んだ車内ではアビゲイル(偽名 ラヴクラフト・エイトリ―)が初めて見る光景にリツカと同じような反応をしていた。

隣に座る藤乃(偽名 黒桐藤乃)がくすっと上品に笑っている。

 

 ロゥリィやテュカもアビゲイル程ではないが、見たことない建物や乗り物に終始目が点になっていた。自衛隊員の栗林志乃が、自分達が褒めらているようで照れ臭くなってポリポリと頬を掻く。

 

「とても大きな駐屯地なんですね」

 

「この特地を調べる為に派遣された自衛隊、私達の全員が普段は此処で寝食を共にしています。―――――黒桐さんは何処かの駐屯地をご覧になったことが?」

 

「えぇ。仕事の関係で日本に来た時、朝霞の航空基地に何度か」

 

 余談だが、藤乃が演じている黒桐という偽名のカルデア職員は日本生まれである。

最初は異様な雰囲気の藤乃に話しかけ辛かった栗林と黒川も道中で何気ない世間話をして打ち解けて、お互いに時間の余裕があればガールズトーク等を開きたいと話していた。

 

 アビゲイル演じるエイトリ―の生まれはアメリカ合衆国マサチューセッツ州の小さな村。

特殊な環境で育っている為、現代の文化にあまり詳しくないという設定である。

だから戦車や戦闘機、車両を初めて見たと興奮しても怪しまれない。

……まぁ子供が無邪気にはしゃいでいるのを疑いの目で見る様な人間が、第三偵察隊にはいないというのもあるのだが……。

 

 

(――――こっちの通信機に聞こえてくるような歓談中のところ悪いが、お二人さん。今後についてオジさんから連絡をしてもいいかね?)

 

(ヘクトールさん?…えぇ、構いませんわ!)

 

(今のところこの念話が盗聴されている等の問題ありません。どうぞ)

 

(ほいほい、そんじゃマンドリカルドにも話したが――――)

 

 ちなみに会話をあまりしないで車内にいる千代女と謎のヒロインX[オルタ]だが――――

 

「……納得できませぬ。何故、拙者の下の名前は千代女のままなのでござるか」

「私なんて愛称が えっちゃん からの エリザベス ですよ……」

 

 車内の隅っこで片膝抱えて車内の床に平仮名の「の」の字を指でなぞり続けていた。

バックミラーで時折確認する富田は、対照的な空気を漂わせる女性陣を見て嘆息する。

口数の少ない彼であっても、運転中に気分転換で話くらいはしたかった。

しかし運転と周囲の警戒に集中しなければならなかった富田は、終始無言を貫いていたのだ。

車を降りたら真っ先に伊丹達男性陣の方に加わろうと決心した富田であった。

 

 

「な、なんじゃあの建物はぁ―――ッ!」

「不思議な形状。材質が何なのか……見当もつかない」

 

 車両が通った後を、ぱっかぱっかと馬が蹄を鳴らしながら通過していく。

そのうえで駐屯地の建物を見た老師カトーは目玉が飛び出さんばかりに驚いた。

隣に座るレレイも目を丸くして、建物や行き来する人の恰好に注目している。

後ろの荷台ではしゃぐ子供達の相手に疲れ果てた村正が建物を見て一言。

 

「まるで絡繰り屋敷だ。――――そう思わねぇかい、()()()()のあんちゃん」

 

 先に断っておくが、カルデアからセイバー・イアソンは連れてきていない。

イアソンと呼ばれたのは、不機嫌そうにフードとマスクの間から覗く目元に皺を寄せたアスクレピオスである。

 

 彼の偽名はドクター・イアソン。アルゴノーツ繋がりで船長からその名をこっそり借りた。

他の選択肢が「アポロン」「ヘラクレス」しか無かったから嫌々だがイアソンを名乗ることにしたアスクレピオスがじろりと村正を睨んで言い返す。

 

「その名で僕を呼ぶな()()()()。ドクターと呼べ」

 

「なんでぃ、まぁだゴネてンのかい……難儀だねぇお前さんは」

 

 村正の偽名はオダ・マサムネ。カルデアのアサシン・刑部姫がド嵌りしたPCゲームに登場する村正の敵となる正宗から下の名前のアイデアを得て、最初は苗字を徳川にしようと言い出した村正にアーチャー・織田信長が「狸爺の家名より儂のがありふれているからバレんじゃろ」と横から口出しして、織田正宗となった。

 

 

 第三偵察隊の車両が到着して間もなく、建物から険しい顔つきの自衛官が駆け寄ってくる。

名を桧垣統。伊丹の直属の上官である彼は、既に伊丹から意味不明な報告を受けて頭を抱えていた。その内容が炎龍と戦っただの、コダ村からの避難民の一部を駐屯地に連れ帰るだの、カルデアを名乗る秘密的組織と接触しただの、聞いただけで上から質問攻めにされて胃が穴だらけにされる事待った無しの内容であったからだ。

 

「伊丹二等陸尉。特地での調査報告書は後で提出して貰う。まずは陸将の所へ行ってくれ――――――そちらの方達を連れてな」

 

 桧垣に視線を向けられて、リツカはアハハと愛想笑いを返す。

彼は背筋をピンと伸ばして敬礼をするが、目は笑っていなかった。

 

 実は伊丹との情報交換は、ヘクトールにとって前哨戦に過ぎない。

伊丹から事前に忠告されていたが、カルデアはこれからこの特地における陸上自衛隊の最高責任者狭間という陸将との対談が控えているのだ。

 

 




次回「化かし合い」
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