何とか最後まで行きたいので少しずつ頑張ります。
ダイ達がロモスの城下町にのは、深夜であった……やむを得ず、宿屋で一泊して城へは翌日出直そうとなったのだがそこでは思わぬ出会いが待っていた。
「あーっ! あの時のニセ勇者!」
「か、怪物小僧!?」
それはかつてデルムリン島を襲撃してゴメちゃんを攫ったニセ勇者でろりん一行であった。悪事からは足を洗った、というのでその内容を聞いてみると
「自分より弱いモンスターを倒して褒美をもらったり……」
「魔王軍にやられたお城の宝箱を開けたり……」
「城の兵士に適当な魔法や武術を教えるのも結構いい金になるんじゃよ」
「そうそう」
「それじゃあ昔とほとんど変わらないじゃんか……」
「まあ、過去のいきさつは水に流そうじゃないか」
「そうそう、ポーカーでもどうかね?」
「やりましょうか」
「ファム?」
「少しだけよ。勝てばこの人達に宿代を出してもらえると考えれば、悪い話じゃないわ」
「お、いいねえ! ノリがいいお嬢ちゃんだ」
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「……勝てば宿代出してもらえるとか言っておいて、逆に10ゴールド負けてるじゃねーか!」
「……むう、なかなか思うようには行かないわね。ポップ、やってみる?」
「お、オレ?」
「ダイはそもそもルール知らないし、マァムは顔に出やすいからカモられるのがオチよ。この中なら私かポップじゃないと勝ちの目が無いのよ」
「まあ、そういう事なら……ちょっとだけ」
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「はあ!? あっという間に負け取り戻して20ゴールドの勝ち!?」
「な、何かすげえついてるぜ! よーしこのまま……」
「やめておきましょ。それ、足元すくわれる流れよ……もう夜も遅いし」
「で、でもよ……」
「最初の狙い通り、宿代分は勝てたし欲張りすぎるとイカサマとかされかねないわよ」
「うっ……」
ニセ勇者一行の紅一点、ずるぼんが唸る……どうやら読みどおりだったらしい。
「坊やの運もすごいが、お嬢ちゃんの引き際も見事じゃな……」
そして、その翌日……ダイ達とニセ勇者一行はすさまじい咆哮と地響きに叩き起こされることになった。
「この声は……」
「モンスターの大軍団…!!」
「きっと、クロコダインの百獣魔団だ!」
「総攻撃をかけてきやがった……」
クロコダインがロモス城へ向かうのを見て、駆け出したダイ……一方、敵へ向かうことができず、弱気の言葉、巻き添えを食いたくはないという言葉を漏らしたポップを、マァムは涙ながらに殴りつける。
「ポップ……あなた、アバン先生から何を習ってきたの? ダイもあなたも、先生の敵を討つために命をかけて戦っている……そう思っていたからこそ私、ついてきたのに…仲間になったのに……!!」
「マァム……」
「あんたなんか最低よ!!」
走り出す姉を見て、ポップに背を向けたままファムは口を開いた。
「言いたいことは、大体マァムが言ってくれたから私からは口出ししない……ただ、マァムは良い子だから口ではきつい事言ってもあなたを信じてるはずよ。マァムが信じるなら、私も信じる。だから、待ってるわ」
マァムとは対照的に、静かに部屋を後にするファム。
宿屋を出ると、まずは周囲を見渡す。
(……当然、と言えば当然だけど街の方は戦ってる人がほとんどいない。兵士はみんなお城ね。手当てが必要な人は多いけど、とても全員には手が貸せない。やっぱりクロコダインを何とかしないと駄目ね。できれば魔法力を温存したいけどこの中を突っ切るとなると……)
思案していると、ニセ勇者一行が続いて宿から出てきて、住民が逃げ出した時に落としたであろう金品を回収し始めた……そこで、ファムは一計を案じる。
「あなた達、火事場泥棒なんてせこい事してないで戦ったらどうなの?」
「う、うるせえっ! こんな大群、相手していられるか!!」
でろりんがファムの言葉に逆切れ気味に答えるが、そこではいそうですか、と引き下がるわけもない。
「別に全部相手しろなんて無茶、言わないわよ。ほんの少しでいいわ、道具屋の近くまで道を開けてくれればいい……でも、どうせなら商店周りくらい一掃すれば、お店の人たちに恩を売れるわよ? タダで、とはいかないまでもこの事態が収まればそれなりの値引きくらいはしてくれるんじゃないかしら? 感謝はされるし安値の買い物もできる、悪い話じゃないでしょ?」
「……あんた、見かけの割に大した悪党じゃない」
ずるぼんの言葉に、ファムは肩をすくめて答える。
「魔王軍と戦う勇者と言っても、みんながみんな聖人君子じゃないわ。むしろ、みんなが良い人だから悪い部分を引き受けるのが私の仕事なの。で、どう? 乗ってくれる?」
「乗ったわ! みんな、道具屋までの道を開くよ!!」
「「「おう!!」」」
うまいことニセ勇者を乗せ、道具屋までの道を切り開く……彼らはニセモノとはいえ勇者パーティーを名乗るだけあって、下手な兵士よりもよほど強いと言えるだけの能力を持っていた。
「スカラ!」
剛腕で斧を振るうへろへろの防御力を補う。
「お、助かるぜお嬢ちゃん」
「下がれっ!!」
「ピオラ!」
でろりんの言葉を受け、巻き添えを食わないよう逃げるまぞっほの素早さを補助する。
「イオラ!!」
爆裂系呪文で魔物の群れの一角が吹き飛ばされる。
(……これだけやれるならまじめにやれば本当に勇者になれるんじゃない?)
ファムはそう思ったものの、彼らにもそれなりの事情があるのだろうと口に出すことはしなかった。
「ふう、おかげで助かったわい。ありがとうよ」
「どういたしまして。あそこが道具屋ね」
道具屋に駆け出し、負傷している様子の店主に回復呪文をかけながら声をかける。
「大丈夫ですか? 勇者様を連れてきました」
嘘は言っていない。(ニセモノだけど)
「あ、ありがとうございます……」
「お願いがあるのですが、良いですか?」
「お願い……?」
「聖水を1つ、売っていただけませんか? 安全にお城まで行きたいんです」
「売るなんてそんな、それくらいならば差し上げます」
「ありがとうございます」
商品棚の聖水を1つ手に取り、ふたを開けて振りかける。聖水は効果時間こそ長くはないものの、弱いモンスターであれば近寄る事すらできなくなる聖なる力の加護を与えるアイテム……これで城までは最低限の戦闘で行くことができる。
(思ったより魔法力を使ったけど、これくらいなら……!!)
ファムは、マァムやダイと違って直接戦闘能力が低い事を自覚している。だからこそ、安全に力を温存するためにそれなりの工夫をしてから城へ向かった……その後、持ち前の運の良さと逃げ足の早さでほとんど消耗なくポップが追いついた事で若干落ち込んだのは、また別の話である。
ファムがダイ達のところに到着すると、ダイが鬼面道士をかばっていた。
「島に流れ着いた俺を拾って育ててくれたんだ! 悪いモンスターじゃないんだ!!」
その言葉に兵士達が困惑していると、その1人に呪文が放たれる。
「メダパニ」
「お、おい、大丈夫か?」
「うわあああ!!」
精神が混乱し、兵士がめちゃくちゃに剣を振るう。
「いかん、取り押さえるんだ!」
「それには及びません、ラリホー!」
「う……」
「こ、これは……!?」
「呪文で眠らせただけです。起こすとまた暴れるかもしれません、運ぶならそっとお願いします」
「わ、わかった」
素早い対応で被害は最低限に抑えたものの、状況が好転したわけではない。
ダイは育ての親である鬼面道士ブラスを攻撃することはできない……ダイに代わって倒す、これは実のところ難しい話ではない。魔弾銃で攻撃呪文を撃てばいい。だが、ダイの事を考えるならそれは最終手段だ……どうすれば、と必死に考える。一人で非情な決断を下して悪ぶるのではなく、優しい答えを探す……アバンの教えに従って、必死に知恵を巡らせる……しかし、その間にさらに事態は悪化していく。
「だ、ダイ……」
「じいちゃん!?」
「メラミーーッ」
「うわああああああああ!!」
「ダイ!」
ブラスのメラミに焼かれたダイに振るわれたクロコダインの斧の一撃を、マァムが飛び込み一緒に転がるようにかわす。
「こっちもメラミをお見舞いしてやるわ!」
「ダメだ、じいちゃんに当たっちゃう!!」
「でも! このままじゃやられちゃうわ!」
そこで、ファムの頭に1つの手が浮かぶ。
「マァム! あの鬼面道士を撃って!!」
「ファム! でもそれじゃじいちゃんが!!」
「安心しなさい、メラミを撃てって言ってるんじゃないわ。これを使って!!」
ファムが投げ渡した弾丸を見て、頷くとそのまま魔弾銃に詰めて銃口を向ける。
「マァム!」
「大丈夫よ、ファムは考えなしに撃てなんて言わないわ!」
撃ち出された呪文が命中すると、ばったりと倒れるブラス。
「じいちゃん!!」
「これは……!」
「ラリホーよ。眠らせてしまえば、傷つけることなく戦闘力を奪うことができる……さっきの兵士と、魔弾銃を見て思いついたの。でも……」
『おのれ小娘、小癪な真似を! ……じゃが、そんなものは時間稼ぎにすぎん。所詮は付け焼き刃よ、キィーヒッヒッヒ』
「……目を覚ませば、同じことになる。これはあくまで時間が稼げただけ、根本的な解決にはなっていないわ」
「どうすれば……」
「魔法の筒だ……あれをクロコダインから奪って、もう1度じいちゃんを封じ込める。マァムは巻き添えにならないようにじいちゃんからクロコダインを遠ざけてくれ。筒は俺が奪う」
「わかった。ファム、私が注意をそらしたらブラスさんを」
ファムが頷き、作戦が始まる。マァムはブラスに向けて撃とうとしていたメラミの弾丸をクロコダインの動きをけん制するために放つ。その隙にファムがブラスを抱えて距離を取る……これで筒を奪い返せば、というところでダイがクロコダインの重い膝蹴りを受ける。
「がっ……」
「残念だったな。うまい作戦だったが、さっきのメラミのダメージでお前のスピードは半減していた」
「ち、ちくしょお……」
「終わりだ、ダイ!!」
クロコダインは続けてその剛腕でダイを殴り飛ばすと、右腕に闘気を集中する。
「それ以上苦しまぬよう、一思いに葬ってやる……この獣王クロコダインの最強の秘技でな!!」
「な、何だ…?」
「獣王痛恨撃!!」
「ダイ! マァム!!」
クロコダインが放った闘気の渦はダイ達を吹き飛ばし、轟音とともに城壁に風穴を開ける。
「…………勝った!!」
大きなダメージを受けたものの、まだ意識がしっかりとしていたマァムが魔弾銃で回復呪文を使おうとするが、それは不意に伸びてきた触手に動きを封じられ叶わなかった。
「マァム! なら、私が……あうっ!?」
後頭部に衝撃があり、目を向けるとブラスが目を覚ましていた……今のは杖で殴られたらしい。
「メラミーッ!」
「くっ!?」
慌てて間合いを取るが、今度はそのためにダイ、マァムにうかつに近づけなくなってしまった。
ダイ達に投げつけ、そのままになっていた真空の斧を手に取り、振りかぶるクロコダイン。
「今度こそ終わる……この一撃で!!」
「待てぇーーーー!!」
そこで駆け付けたのは、ポップだった。
「ポップ!」
「遅いわよ……」
「あの時の魔法使いか……今更おのれ程度が出てきたところで何ができる、失せろ!!」
「……許さねえ。俺の仲間を傷つける奴は絶対に許さねえぞーー!!」
「小僧、自分の言っていることが分かっているのか?」
「お…おう……! 俺がお前をぶっ倒してやるって言ってるんだよ、このワニ野郎が!!」
「ポップ! その鬼面道士を攻撃しちゃダメよ、その人は……」
「わかってらあ……顔見知りだよ。島から爺さんをさらってきて手下にしやがったな。ド汚ねえ奴らだぜ」
「さっさと消えてしまえ、所詮貴様はダイとは比べ物にならん小物だ……今なら見逃してやらんでもないぞ」
「ふ、ふざけんなっ!! 誰が仲間を見捨てて逃げるもんか! アバンの使徒にはそんな腑抜けはいねえぜ!」
「ポップ……!」
「クロコダイン! 俺と1対1で勝負しろ!」
「貴様ごときが……」
「それとも俺みたいな小物が相手でも、汚ねえ人質作戦を使うのかよ?」
「何だとぉ!!」
「お前も小物だな、ワニ野郎!」
「よかろう、そんなに死に急ぎたいのなら仲間と一緒にあの世へ行くが良いわ! ブラス、お前は手出しするでないぞ」
その言葉を受けて、ファムもいったん下がり、ポップの肩に手を置く……こっそりと補助呪文を乗せて。
「あとは任せたわ」
「あ、ああ……」
それから必死に間合いを取って放たれたポップのメラゾーマはクロコダインが真空の斧から放たれる真空呪文で作られた空気流の盾で直撃を防がれ、反撃から逃れようとしたところに太い尻尾の一撃が叩きこまれる。
「ぐあああ……っ! い、痛え…痛え……!?」
確かに、強烈に痛い。だが……こんなものだろうかとも思う。そこで、ポップは自分の体にほのかな緑色の光を見た。
(これは……あの時ファムがやったのか? でも、こんな状況じゃアイツだって魔法力は惜しいはず……逃げないって、信じてくれたんだ。それに、ダイ…! お前はこれよりきついのを何発も食らいながら、戦い続けてきたんだもんな……!)
「1発や2発食らったくらいで、オネンネしてられねえよな!!」
「何!? 立ち上がった!?」
そこまでは、ファムも想定していた。ポップの肩に手を置いた時、こっそりとかけたのはスカラ……魔法力の防御膜で守備力を高める呪文だ。1回だけなので効果は知れているが、地味ながらも確実にダメージを減らすことができる呪文でもある。多少のダメージは仕方がないと判断し、ポップに時間を稼いでもらってその間に打開策を考えるつもりだったのだ。
だが、そこからのポップは知略には自信があったファムの思惑を完全に越え、完全に手詰まりであった状況を打開する手を打って見せた。自ら杖を砕き、魔法力を温存し……アバンが得意としていた大呪文を成功させて見せたのだ。
「邪なる威力よ、退け……! マホカトール!!」
『バカな!?』
ここまでは手を出さずにいた、というよりブラスの存在から出せずにいたが状況が打開されたのなら唯一満足に動けるファムに動かない選択は無い。すかさず駆け出し、マァムが落とした魔弾銃を拾って弾丸を交換するとマァムを拘束している悪魔の目玉に向けて引き金を引く。
「マァムを離しなさい!」
『こ、この光はぁーー!!』
詰められていたのはニフラム……聖なる光を放ち、邪悪な魂をその中へと消し去る昇華呪文だ。もっとも、その威力は使い手に大きく左右される……強力なモンスターに対しては目くらまし程度にしかならないためあまり使い勝手が良くない呪文であり、名前負けしていると評される事も多い。
ファムもその大きな目玉に目くらましは効くだろう、くらいのつもりで使ったのだが今回は名前負けということはなく悪魔の目玉は光に飲まれて消え去りマァムが解放される。
「うぅっ。げほっ、ゲホ……!」
「マァム! 辛いところ悪いんだけどポップを! ダイは私が!」
「ケホッ……わかった!」
クロコダインは、ポップが己の力量を越えた大呪文を成功させ、ダイのために命を懸けた事……そして、目の前の勝利のために誇りを捨てた自分の事を考え、これで良いのかと葛藤していた。その迷いが生んだ隙を、ファムは最大限生かしてダイに触れる。
「……これで打ち止めよ。ポップ、ありがとう……ダイはこのチャンス、絶対に無駄にしない!!」
「小娘!? いつの間に!?」
「ベホイミ!!」
魔法力を使い果たし、膝を折るファム……しかし、その代わりに、力尽き倒れていたダイが立ち上がり、強烈な光を放つ。
「何だ、この光は!?」
光を放っていたのは――紋章。
ダイの額に竜に似た紋章が輝き、そこからはただ圧倒的だった……クロコダインの斧の一撃を素手で受け止めたばかりか『斧ごと』クロコダインを投げ飛ばし、最初の戦いでは籠手を砕き、瞼に傷をつけるのが精いっぱいだったにもかかわらずアバンストラッシュの一撃はその鎧ごと、鋼の肉体を大きく切り裂いた。
「……情けないわね、私。知恵も魔法力も搾りつくしたのに、最後は結局奇跡頼み。大したことはできなかったわ」
勝利の陰で漏らしたファムの呟きは、誰の耳にも届くことはなかった。
ポップ、うんのよさカンストは伊達じゃない。そしてアバンの使徒の悪い子担当の自覚ありのオリキャラ主人公ファム、今回の敢闘賞はこの2人かなと。
基本的に補助・回復特化なので仕方ないのですがファムは最後まで自身の戦闘力の低さに悩むことになりそうです。
8/17 『勇者アバンと獄炎の魔王』にてピオリムがかかると赤く光ると描写されたのでスカラの光の色を緑に修正しました。