鬼殺隊。その頂点に立つ者の存在は、幹部である柱を初め知る者は限られている。鬼殺隊の長、鬼殺隊を率いる者、産屋敷の一族。柱や隠の者から絶対的な尊敬を寄せられる存在であり、現当主は97代目に当たる産屋敷 耀哉が勤めている。
「全く、そんな貴方が私情で隊士である俺を屋敷に呼び出していいんですか?」
「ふふふ、構わないよ。偶には息抜きさせてくれないと、いくら私でも参ってしまうからね」
炭治郎は今、その耀哉直々に呼び出されていた。二人が最初に出会ったのは5年も前、炭治郎が15歳、耀哉18歳の時だった。炭治郎の育手である鱗滝が耀哉に報告したところ、人を襲わない禰豆子に興味を持ち呼び出した。その時はちょうど半年に一度の柱合会議もあり、柱全員が集合。鬼である禰豆子を鬼殺隊員として認めて貰おうとしたが、その場にいるカナエ、冨岡 義勇以外の7人の柱は猛反対だった。
だが今では耀哉の説得、そして今までの禰豆子の行動によって他の柱達の認識も変わっている。特に煉獄 杏寿郎と宇髄 天元は禰豆子と共に十二鬼月を討伐している為、今では立派な鬼殺隊員の一員として認めている。
「まぁ、それは分かりますけど。それより今日はあまねさんいないですね。何か用事でも?」
「特に特別な用事は無いよ。君と二人で話がしたくてね、席を外してもらっているだけさ」
「そっか。そういえばこれ、お土産に買ってきた。この前の任務で美味い茶を見つけたから、良かったらみんなで飲んでくれ」
「ありがとう、炭治郎。ありがたく頂くよ。それよりもだ、カナエとはどうなんだい?」
4歳から鬼殺隊の長を勤めてきた耀哉、それは絶対的なカリスマ性を持っているからこそ努める事ができている。そんな耀哉は人の感情に敏感であり、カナエが炭治郎に好意を持っている事は最初から分かっていた。
「どうとは?」
「君は今カナエの所にいるんだろう?2人は歳も近いし、カナエは君を好いている。5年も一緒に居るんだ、君もそれには気付いているだろう?」
「確かにカナエさんは綺麗で気配りの出来る人ですけど、僕とじゃ釣り合わないですよ。あの人は鬼殺隊ではなく、鬼とは無関係の人と一緒になるべきだと思いますよ。もちろん、カナエさんだけじゃなくて他の女性隊員もです」
「君はどうなんだい?誰かと一緒になる事は考えていないのかい?」
「今はそんな余裕ありませんよ。禰豆子の為にも、鬼の血を採取しないといけませんし」
「そうか」
炭治郎は自分の事より、他人の事を考える節がある。と言うより、自分のことを考えていない。それは炭治郎の異常なまでの優しさからくるものであり、それを指摘するのも躊躇われるものがあるのも確かだ。
それが炭治郎の強さの根源であり、原動力でもあり、炭治郎そのものとも言えた。
「炭治郎、君には死んでほしくない。勿論、他の子達も死んで欲しくなどはない。だが君には他の誰もが持ち合わせていない、特別な何かを感じる。それはきっと、この千年の歴史の中で鬼殺隊が最も欲してきたモノだ。それに君は今や柱と同等か、それ以上の実力を身に付けている。だからどうか、今までのような無茶はもうしないで欲しい。そんな事は、きっと誰も望んでは無いないよ」
「俺は大丈夫ですよ。あの時言ったように、必ず鬼舞辻を倒して禰豆子も元に戻します。それまで絶対に死ねませんから」
炭治郎は、耀哉からの願いには答えなかった。ただ死なないと、何度も聞いた言葉を今回も口にする。禰豆子が人間に戻るまで、鬼舞辻無惨をこの手で切るまでは絶対に死ねないと。だがそれは、ある可能性を孕む言葉でもあった。その役目が終わったら、その条件にもし炭治郎の死が組み込まれていたら。その考えが頭から離れない。
自分を認めてくれた初めての友。君は私の子であるのと同時に、友でもある唯一の存在。その背中はどこまでも逞しくもあり、どこか崩れてしまいそうな悲しい。
「カナエ。君の気持ち、今の私なら分かる気がするよ」