「鱗滝さんいますか?」
「ん?炭治郎か。久しいな、元気にしていたか?」
炭治郎は久々に鱗滝の元に来ていた。特に特別な要などはなく、近くで任務があり予想以上に早く終わった為寄ることにしたのだ。
「カナエから色々と話は聞いているぞ。全くお前は本当に困った弟子だな」
「あ、あははは。その件については深く反省してます」
カナエの呼吸『花の呼吸』は水の呼吸からの派生だ。悲鳴嶼に助けられたその後は、鱗滝の元で修行を積んでいた為、鱗滝に文を送っていた。
「確かにお前の気持ちも分かる。禰豆子はただ一人残った肉親、その為に無茶をしてしまうのも炭治郎、お前が強く優しい子だからだろ。だからと言ってお前を心配しない者がいないなんて事はない。分かるな?」
「はい、カナエさん達にも言われました」
「ならば良い。その言葉、しかと肝に命じておくのだぞ」
今となっては鱗滝は、炭治郎の親代わりと言っても過言でもない。そしてそれは鱗滝も同じだ。多くの弟子を最終選別で失った鱗滝は、炭治郎の気持ちもよく分かる。禰豆子も含め、この二人は我が子のような存在なのだ。
「あ、炭治郎さん。来てたんですね」
「本当だぁ!炭治郎さんだ!」
「やぁ錆兎、真菰。二人とも久しぶりだね」
この二人は炭治郎の後に鱗滝の元に来た。男は錆兎、女が真菰。それぞれ確かな実力を持ち、最終選別は確実に合格できるだろう。
「炭治郎さん!今日も禰豆子ちゃんいますよね?」
「あぁ、ちゃんと一緒にいるよ」
「やった!早く会いたいなぁ!」
錆兎と真菰は、鬼に襲われてる所を炭治郎と禰豆子に助けられた。禰豆子が鬼であることも承知している上で、禰豆子と普通に接してくれる。
「真菰、お前は本当に禰豆子さんのことが好きだな」
「だって私たちを助けてくれた人だよ?それにすごく可愛いし!」
「可愛いってお前・・・」
鬼殺隊の中でも禰豆子を認めないという声は、未だに少ないわけではない。それゆえこの二人の存在は禰豆子にとっては、傍にいて心安らぐ人たちなのだ。
「なぁ炭治郎さん。久々に稽古つけてくれよ」
「あぁ!錆兎ずるい!私も私も!」
「禰豆子はワシが見ておくから行ってくると良い」
「すみません鱗滝さん、それではお言葉に甘えて」
「あの、私たちは真剣なのに、炭治郎さんは素手でも良いって本当に大丈夫なんですか?」
炭治郎はたまにだが二人に稽古をつけている。その成長は目覚しく、血鬼術を使わない鬼なら負ける事はないだろう。しかし全集中の呼吸『常中』を習得していない二人に遅れをとる炭治郎ではない。
「うん。それとも、まさか俺に擦り傷を付けれる自信でもあるのかな?」
炭治郎の近況は、カナエから送られてくる文を読んでいるので噂などはよく聞く。鬼の討伐数は既に60を超えており、下弦の鬼も2回討伐している。実力は柱と同等かそれ以上なのは、鬼殺隊でも知る者は多い。
確かに炭治郎と錆兎達の実力差は大きい。分かってはいるが、こうも分かりやすく挑発されて黙っていられる二人ではなく、容赦なしに炭治郎に襲いかかる。
「うん、真菰は前よりも早くなっている。錆兎の剣術も洗練されているね。けど真菰はもう少し駆け引きを覚えた方がいい。一直線な動きだけだとすぐに慣れてしまうし、予想もできてしまう。錆兎は型にハマりすぎている。真菰と同じでそれでは相手の裏をかく事はできないよ」
だが二人も連携はいとも容易くかわされる。それどころか的確なアドバイスをするくらいだ。鱗滝と炭治郎のどっちが強いかと言われれば、炭治郎の方が強いと鱗滝は答えるだろう。
「くそ、また当てられなかった」
「もう、炭治郎さん強すぎだよ」
半刻ほどの稽古が終わり、二人は地面に倒れ込む。汗だくの二人に対して、炭治郎は息一つ上っていない。
「お疲れ様。二人とも頑張っているみたいだね。前と比べてもとても強くなっている」
「炭治郎さんに言われても実感ないよ」
「全くだ。嫌味しか聞こえない」
「でも本当のことだ。俺が言った事をうまく昇華して身につけている」
炭治郎は素直に驚いていた。飲み込みが早いとは言え、たった1年でここまで成長するとは。これで『常中』を覚えればすぐに俺を出し抜くかも知れないとさえも思っていた。
「どうやら終わったようだな。真菰、そろそろ禰豆子が起きてくる時間だ。先に戻っているといい」
「本当!?ありがとう鱗滝さん!」
さっきまでぐったりしていたの嘘のように飛び出していう真菰。それを見て炭治郎は苦笑いしていたが、一つだけ気になる事があった。確かにもうすぐ禰豆子が起きてくる時間だろう。だが、鱗滝さんはわざと錆兎だけをここに残したように思えた。
「鱗滝さん?」
「うむ、炭治郎。実は話があってな」
「はぁ、それは一体?」
『お前に見合いの話が来ている』
は?
いやいやいやいや、何を言っているんだ?何時にもなく深刻な雰囲気を出しておいて、切り出してきたのがお見合いがある?全く訳が分からないぞ。
「あの、鱗滝さん。一体なんの冗談なのでしょうか、、、」
「冗談なのでは無い、ふざけてるつもりも馬鹿にしてるつもりも無いぞ」
それは分かる。鱗滝さんが嘘をついてる匂いはしない。しかし理解出来ないのだ。なぜいきなりそんなこと言うか。それこそ冗談と言われた方が納得しやすいというものだ。
「炭治郎、鬼に全てを奪われたお前にとって、家族と呼べるのは禰豆子しかおらん」
ここで鱗滝や錆兎や真菰も家族だ。そう言いかけたが鱗滝が言いたいことはそういうことではないのだろう。
「お主は禰豆子を人間に戻すために戦っている。それは間違いではないが、それとは別に禰豆子の帰る場所を作るのもお前の役目だ」
「それで縁談ですか。それにしてもいきなり過ぎますよ」
「お前が落ち着いたらと思って前々から探してはいたのだが、つい先日いい返事を貰った所があってな。そこは藤の家紋の一族の出だ」
藤の家紋。鬼に襲われ、鬼殺隊に助けられた事に恩義を感じたもの達が無償で奉仕してくれる家系の事だ。
「お前のことも噂を聞いて好感を抱いてくれていたそうだ。それで是非縁談を受けたいと返事を貰った。どうだ?顔を合わせるだけでもいいと思うが」
「まぁ、顔を合わせるでだけなら」
「そうか。では返事は儂から出しておこう」
鱗滝から押される形で返事をしてしまった炭治郎。恋人など考えた事もなく、いきなりの提案に実感のないまま困惑していた。
「鱗滝さん、だから真菰を先に帰したのか・・・」
「錆兎?」
「いや、なんでもないよ。それよりも大変な事になったな」
「本当だよ。俺にはそんな事をしている時間はないんだけどな」
「・・・あんたまだ懲りてないのか?」
カナエ達にあれほど言われたにも関わらず、隙あらば無茶をしようとする炭治郎。というかしてしまう炭治郎。それが炭治郎らしいと言えばそうなのだが、先が思いやれる事には変わりない。
「これが真菰も苦労しそうだな」
これからも一波乱も二波乱もあるな。そうと察してしまった錆兎であった。
一方その頃
「ねえ聞いてよ禰豆子ちゃん!今日も炭治郎さんすっごくカッコよくてね!?稽古してもらってるのにも惚れちゃったよ!」
「ンー・・・」
「炭治郎さんの横に立てるくら強くならなきゃ!そうすれば炭治郎さんと・・・はっ!そうなったら禰豆子ちゃんはお姉さんに!?それとも妹さん!?」
「ン-・・・」
炭治郎の話を永遠に続ける真菰に圧倒されてる禰豆子であった。