ポケットモンスターHEXA BRAVE   作:オンドゥル大使

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エピローグⅢ

 

 男からその具体的な場所とやらを聞き出し、ランポは張る事にした。

 

 何が起こっているのかを見極める必要がある。

 

 夜の帳が落ち、常闇の中に一つ、二つと篝火が燃え盛った。青白い炎だ。その炎に囲まれながら、死者の列が浮かび上がった。ランポは驚愕に目を見開く。まさか、本当だとは。数多ある都市伝説の一つだと考えていたが、目の前で展開されれば疑いようがない。ランポはホルスターからモンスターボールを抜き放ち、ドクロッグを繰り出して駆け寄った。すると、先頭にいる何かがランポに気づいてくるりと身を返した。それは髑髏のような顔面を持ち、眼窩からは赤い光が覗いている。黒い外套を被ったような姿で、浮浪者を思わせた。ランポはそのポケモンこそがこの現象の根元である事を察知した。

 

「ドクロッグ! そのポケモンを無効化――」

 

「やめたほうがいい」

 

 遮って放たれた声に、ランポは顔を振り向けた。死者の列に混じって頭に茨の冠をつけた男が立っていた。男の目元は青白く、頬はこけている。ランポは「死者」という言葉を容易に想像した。

 

「それは意味のない行為だ」

 

「何だと?」

 

 ランポが向き直り、「トレーナーか」と問いかける。男はゆっくりと首を振った。

 

「それは真実の意味で正しくはない。わたしはただ、ヨマワルに従っているだけだ」

 

 ヨマワル、というのがこのポケモンの名前らしい。ランポは、「そのヨマワルが」と口を開く。

 

「起こす現象に腹を立てている人間がいる。俺個人としても、死者を冒涜する行為は許せない」

 

 ランポの言葉に男は口元に手を当ててふふっと笑った。眉根を寄せて、「何がおかしい」と訊く。

 

「死者を冒涜しているわけではない。わたしは、むしろその逆だ。死者を導いているのだ。黄泉の国へと」

 

「馬鹿な。四方を海に囲まれたこの街に黄泉の国など」

 

「だからこそ、海に全てを沈めてしまえばいい」

 

 ランポは怖気が走ったのを感じた。この男はもしかしたら死者を集めて自害しようとでも言うのかもしれない。そういった類の人間は周期的に現われるものだ。ただの自殺ならばランポには止めるような抗弁もない。しかし、ランポはその時、死者の列の中に見知った人影を見つけた。

 

「……ミツヤ。エドガー」

 

 死者の列の中に生きているはずのミツヤとエドガーも混じっていたのだ。彼らを見やるが、生気のない顔で虚ろな眼差しを向けている。

 

「二人に何を!」

 

「何もしていない。わたしは、この街から遠からぬ死を追い出そうとしているのだ。ハーメルンの笛吹き男を知っているか?」

 

 ランポは耳にした事があった。

 

「確か、笛吹き男がネズミを根こそぎ追い払い、溺死させたと言う」

 

「そうだ。わたしはそれと同じように、ヨマワルを使ってこの街に蔓延る遠からぬ死を追いやろうとしている。死がこの街を覆い尽す前にな」

 

 よくよく目を凝らせば、F地区の住民達や、まだ生きている者達も含まれている。死者の列は死者だけで構成されているわけではない。

 

「だが、それは殺人だ」

 

 それ以上に、仲間をここで見捨てるわけにはいかなかった。ランポは歩み出る。

 

「ここでお前を倒す」

 

「それは意味がある事なのか? いずれ、そうだな、一年も経たず、ここにいる人々は死ぬだろう。それが悲しみとして覆い被さる前に、わたしは運命の力を用いて、彼らを安息のうちに死なせてやろうというのだ。今ならば、彼らには苦痛がない。死の前後に伴う苦痛が。だからこそ、わたしの行動には価値がある」

 

「それは違う」

 

 ランポは確固とした声で言い返した。

 

「生きているからこそ価値があるわけでも、死んだから価値が消えるわけでもない。彼らにも遺すべき意志がある。それを無視して、死という結果だけを残そうとするお前に、俺は異を唱える」

 

「馬鹿な真似だ。君は、苦しみも、悲しみも、全て肯定すると言うのか」

 

 ランポはフッと笑みを浮かべた。その眼差しに悲壮感はない。

 

「少なくとも、それが人生においてただ単に苦痛として屹立するとは思っていない。その前後には必ず、喜びもあるんだ。お前に、それを奪う資格はない」

 

「愚かだ。わたしは運命に導かれているのだよ」

 

「傲慢な考えだ。俺には、お前を否定するだけの理由がある」

 

 ドクロッグが男へと肉迫し、拳を叩き込んだ。男が血反吐を吐き出す。ヨマワルがすぐさま前に出る。しかし、男は命令を下そうとはしなかった。男は、「ならば」と指を鳴らす。すると、死者の列が消え去り、操られていた者達はハッと目を覚ました。その中にいるミツヤとエドガーへとランポは駆け寄った。

 

「ミツヤ、エドガー、大丈夫か?」

 

「あ、ああ。ランポ、俺達はどうして……」

 

「催眠状態にあったんだ。お前らは操られていた」

 

 ランポは周囲を見渡したが、先ほどの男は既に姿を消していた。死者の列が消え去り、生きている者達が狼狽の声を漏らしている。

 

 彼らはこの一年と命がないのだろうか。男の言っていた事は本当に――。そこまで考えてから、ナンセンスだと切り捨てた。

 

「エドガー、ミツヤ。下っ端の調査は俺がやろう」

 

 ランポの言葉にエドガーが目を見開いた。

 

「どうしたんだ、急に?」

 

「催眠状態から脱し切れていない俺達を心配してくれているんですか?」

 

「それもあるが、エドガーのゴルーグを出すまでもない。俺のドクロッグで事足りるだろう。お前のゴルーグは、そうでなくとも目立つからな」

 

「違いないですね」

 

 ミツヤが笑うとエドガーが睨みを利かせた。ミツヤが首を引っ込める。ランポは不意に不安に駆られて尋ねていた。

 

「なぁ、お前ら。どこかに行ったりはしないよな?」

 

 その質問にエドガーが小首を傾げる。

 

「どこかってどこだ?」

 

「旅行の予定はないですけど」

 

「だな。すまない。変な事を訊いてしまって」

 

 ランポは調子を取り戻そうと咳払いして死者の列に組み込まれていた人々へと指示の声を出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やはり、逃れられないのだ」

 

 ヨマワルが中空を漂い、彼へと告げる。彼にはヨマワルが発する「みらいよち」に基づき、死者を選別して冥土へと送っている。予知の結果には自分へと立ち向かってきた青年と仲間であるらしい二人の死が克明に刻まれていた。

 

「だが、彼の眼には光がある。未来へと続く光だ。その灯火がたとえ小さなものでも、消す権利などないと彼は言い放った。ならば、その未来、見せてもらおう。もしかしたら彼らの旅路はただの死出の旅ではなく、意味のあるものかもしれない。ならば、わたしは見守っていよう。運命の死者である彼らが、何かを成す事が出来る運命の使者でもある事を」

 

 彼は身を翻した。その姿は闇の中に消えていった。

 

 

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