ポケットモンスターHEXA BRAVE   作:オンドゥル大使

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エピローグⅣ+エピローグⅤ

 

 ――起きろ、ユウキ。

 

 見知った声にまどろみの知覚が揺り起こされた。閉ざしかけた目を開き、声の主を捜すが、その知覚に割り込んできた声は判然としないまま消え失せていく。

 

「……誰だ」

 

 呟くと、何かが蛍火のような光を灯した。その光がゆらり、ゆらりと揺れて、ふらふらと頼りなく自分の前を通り過ぎていく。ユウキはそれを感知野ではなく、現実の眼で認識した。

 

「……ヌケニン」

 

 ヌケニンが加速の先にある闇の断崖へと達してきている。不可能なはずだ、と考える反面、テッカニンの半身ならば不可能ではない、と思う自分がいる。ヌケニンがユウキの目の前まで来ると、身を翻した。まるで、付いて来いとでも言うように。その枯れ枝のような身体から声が発した。

 

 ――ユウキ、戻って来い!

 

 ――必ず、帰ってくる。

 

 テクワやマキシ、レナやキーリの声が重なる。しかし、加速の先に至ってしまった自分には最早帰り道など分からない。このまま闇に漂えたら、と考えていると、両肩に体温を感じた。視線を振り向けると、金髪の男とKがそれぞれユウキの肩を掴んでいた。金髪の男は優しげな微笑みを投げている。その男がFである事は直感的に分かった。Kは慈しみの眼をユウキへと向けていた。

 

 ――僕達の娘を頼む。

 

 ――あなたは私達の希望。

 

 二人がユウキの背中を押す。こちらに来てはならないと、彼らは二人して闇の中に不意に開いた光の向こう側へと消えて行った。その光の亀裂にはエドガーやミツヤ、ランポの姿が見え隠れする。ユウキもそちらへと赴こうとしたがランポが頭を振った。

 

 ――忘れたか、ユウキ。俺達の、黄金の夢を。その続きを、お前は綴るんだ。

 

 ランポが身を翻す。それが別れの合図だった。亀裂が閉じ、再び常闇の中へと放り込まれる。ユウキはヌケニンの鳴き声を聞いた。ヌケニンは滅多に鳴かない。その声は現実へと導く声だった。

 

 ユウキはヌケニンに従って闇を掻いて泳ぎ出した。ユウキはヌケニンの背中に続く。

 

「帰らなくちゃ。みんなのところへ」

 

 運命の使者に導かれ、ユウキは加速の闇から現実の光へと歩み出した。それは明日へと続く一歩だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『正午のニュースをお伝えします。半年前に解体が宣言された独立治安維持部隊ウィルが本日未明、カントー統括部隊として再編成される見通しとなりました。頭首であったコウガミ総帥の自殺騒動を経て、混乱の時勢にあったカイヘン地方に一つの区切りがつけられた結果になります。カントー統括部隊には元ウィルの幹部による多数決により新たな頭首が立てられる事となりました。最年少の頭首に期待が集まっています。新たなカイヘン地方をリードする組織の名前にも注目です。KNNが独自に入手したその組織の名前は――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風が下から吹きつけてくる。

 

 緩やかな風の中に混じった匂いに、彼は目を向けた。見知った匂いのような気がしたからだ。それは誰かの煙草の匂いであったり、誰かの飲んでいたカクテルの匂いであったりした。風が自分の背中を押してくれる。大丈夫、という明確な答えはない。しかし、自分を勇気付けてくれる。

 

 彼はエレベーターに乗って二人の腹心と共に最上階へと昇った。片方は赤毛でサングラスをかけた男だ。スーツを着込んでいるが、本来はそのような服装からは縁遠いという事が目に見えて分かる。もう一人は黒髪で背丈は小さかったが、その眼に宿す警戒の色は誰よりも色濃い。

 

「そう気負うなよ」

 

 赤毛の男が自分ともう一人の腹心に告げた。黒髪の男は、「気負ってない」と無愛想に返す。

 

「可愛げがねぇな」

 

「お前は、いつもそんな感じだな」

 

 お互いに言葉を交わし、口元を緩める。赤毛の男が自分へと肩越しに視線を向けた。

 

「どんな感じだ?」

 

 その質問に息を一つついて、「大した事じゃない」と言ってみせる。

 

「通過儀礼ですよ」

 

 赤毛の男は鼻を鳴らした。

 

「相変わらずだな。まぁ、だからこそついて来る気になったんだが」

 

「たとえるならば」

 

 シースルーのエレベーターの天井を眺めながら口にする。

 

「バベルの階段を上っている感じです」

 

 空想で不可能だと思っていた。しかし、それは今、手の中にある。この手の届く範囲にある。

 

「だったら、これから先に赴くのはバベルの頂上か」

 

 エレベーターが開いた。跪いて彼ら三人の到着を心待ちにしていた人々が列を成している。自分は中央を歩き、式典用に作られた階段の上にある椅子へと目を向けた。まさしく玉座である。チャンピオンとはまた違う、裏側から世界を変える役割が自分の役目だ。

 

 チャンピオンとは一度会っておいた。その時に、「キリハシティの前で戦いましたよね」と言われた時には驚いたものだが、おぼろげながら記憶にはあった。まさか、過去に一度戦っているとは。奇妙な因果に口元を緩める。いつの間にか染み付いた、所作である。いつも自分を引っ張ってくれた人と同じ笑みを、自分も宿すようになった。

 

 腹心が階段の前で足を止めてその場に跪く。彼だけが階段を上り、オレンジ色のジャケットを翻して人々を眼下に収めた。

 

 この光景を見せてやりたい人がいる。しかし、その人達はもう遠く、光の向こうへと旅立ってしまった。ならば、自分がやるべき事は、この光景を忘れない事だ。忘却の彼方に追いやらない事こそが何よりの手向けである。ジャケットと同じ色の帽子を被り直し、鋭い光を湛えた双眸を向ける。

 

 涙は見せまい。自分がすべき事は、過去を悔やむ事ではない。

 

 彼が玉座に納まった瞬間、号令が発せられた。

 

『カントー統括部隊、別名ブレイブヘキサ総帥。その名は――』

 

 

 

 

 

 

 

 

ポケットモンスターHEXA BRAVE 完

 




あとがきにて完結します。ここまでありがとうございました。
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