ポケットモンスターHEXA BRAVE   作:オンドゥル大使

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第六章 十四節「BEYONDⅢ」

「全部隊、配置完了しました」

 

 駆け寄ってきたこの部隊の副長の声にエドガーは、「よし」と頷いた。片手を振るい上げ、「配置に戻れ」と告げる。

 

「ウィルがいつ仕掛けてくるか分からない」

 

 とは言っても随分と早い警戒態勢である事には変わりはない。団員達の空気が緩むのも分からなくはない。だが、ここが本隊だと見せるためには半端な警戒では駄目だ。もっとも団員達は本隊だと信じ込んでいる。長である自分とミツヤがぼろを出さなければ大丈夫だろう、とエドガーは感じていた。

 

「は」と挙手敬礼をして、副長は配置へと戻っていった。エドガーは歩き出す。エドガーの配置はミツヤと同じ場所だった。現場指揮官として、というよりも慣れた黄金コンビを発揮出来ると考えて、エドガーはその配置を提言した。上はそれを了承した。所詮、ダミー部隊だ。現場指揮官まで辿り着かれれば、そこまでだと判じていたのだろう。事実、現場指揮官が戦いの場に出るという事は、本丸を叩かれるのと同義だ。エドガーは指揮官室でミツヤと落ち合った。指揮官室は出窓で、外の様子が見やすくなっている。陸路から来るとしても、エドガー達の守るビルは一方通行だ。後ろと左右は背の低いビルで挟まれている。物々しい空気を出したビルは既に戦闘の様相を呈している。エドガーが深く息を吸い込むと、「そう緊張するもんじゃないでしょ」とミツヤが呑気な声を上げた。

 

「なるようにしかならないって。俺達はダミー部隊なんだからさ」

 

「ミツヤ。今は部下がいないからとはいえ、慎め。聞かれて戦意喪失などお話にならない」

 

「分かっているっての。俺だって、ちゃんと考えているからさ」

 

「どうだかな」

 

 エドガーは腕を組んで窓の外を眺めた。ミツヤは椅子に座っている。その様子を横目で見ながら、「随分と落ち着いていられるんだな」と皮肉を口にした。

 

「まぁね。だって優秀な部下達じゃん。この三日間、全員のポケモンを見たけどさ。俺達よりも強いんじゃないかって言うのばかりだってし」

 

「リヴァイヴ団お膝元のハリマシティなんだ。精鋭は揃えてあるだろう」

 

「ウィルのお膝元でもあるけどね」

 

「何が言いたい、ミツヤ」

 

 エドガーが視線を振り向けると、ミツヤは、「それだけ敵も本気出してくるって事だよ」と返した。立ち上がり、窓から望める景色を視界に捉える。

 

「俺は、ウィルにいたから分かる。奴らのやり方って言うのがさ」

 

 ミツヤの口からウィルに在籍していた事が出るのは初めてだった。シバタのネイティオによって過去は見せられたものの、それを肯定した言葉を発したのは、今までなかった事だ。

 

「ウィルは本気でリヴァイヴ団を潰す気だよ。それこそ総力戦の構えだ。ウィルはリヴァイヴ団の存在をこっちが思っているよりも重く見ている。第二のヘキサにならないか心配なのだろう」

 

「ヘキサ、か……」

 

 エドガーは口にして、苦々しい響きだと痛感する。ヘキサによってカイヘンはあらゆるものが奪われた。家族を亡くした人間も少なくはない。エドガーは網膜の裏で映像がちらついたのを覚えた。赤い景色の中に、首を吊った二つの影が揺れる。ゆらり、ゆらりと影がちらつき、エドガーは目を強く瞑った。記憶を掻き消そうとするように。

 

「旦那?」

 

 ミツヤが怪訝そうに声を発する。エドガーの変化に気づいたのだろう。エドガーは目を開き、顔を拭って首を振った。

 

「何でもない」

 

「本当かい? 死にそうな顔だぜ」

 

「大丈夫だ」

 

 こんな時に過去を持ち出している場合ではない。エドガーは窓の外を一瞥し、ポケッチに視線を落とした。

 

「あと、四十分」

 

「だな。もうすぐランポがボスとして世間に顔を出すのか。ちょっと前には考えられなかった事だな」

 

 その通りだった。F地区でならず者を纏め上げ、チンピラの喧嘩の後始末が主な仕事だった自分達からすれば大出世だ。しかし、それが正しい方向に回るとは限らない。

 

「コウエツの奴ら、喜ぶかな」

 

「さぁな」

 

 F地区の人々は吉報として受け取るだろうか。通い慣れたマスターは、どう思うだろう。いつもマスターの前で賭けをして、ミツヤのイカサマに自分が怒るという図式は、もう訪れないのだろうか。全て、遠い過去の幻想なのだろうか。

 

「俺は、今日を迎えたくなかった」

 

 我侭かもしれないが、そのような言葉が漏れた。ミツヤは出窓に両腕をついて、「俺もだよ」と言った。

 

「俺も、コウエツのバーでいつまでも他愛無い話をして、賭けをして、旦那に怒られる事がずっと続くんだと思っていた」

 

 同じ事を考えていた事にエドガーは苦笑した。ミツヤは、「それを変えたのは、あいつだよな」と呟く。きっと思い描いている人物も同じだった。

 

「ああ。あいつが来て、変わったな」

 

「旦那もかい?」

 

「一番変わったのは、きっとランポだろう」

 

 自分達では変えられなかったランポを一時の邂逅で変えた。その人物の名前をここではあえて口にしなかった。

 

「そうだな。ランポはどこか現状に満足していなかったから。あいつがいい刺激になったんだろうね」

 

「俺達のリーダーを変えたあいつは、結局、何だったんだろうな」

 

「神様が遣わせてくれたのかね」

 

 冗談交じりの声にエドガーは口元を緩めた。ミツヤも笑いながら、「それはないか」と口にする。

 

「少なくとも、今を変えるのは人の意志だ。神じゃない」

 

「だね。旦那は最初、気に入らない様子だったけれど」

 

「それはお互い様だ」

 

 ミツヤと顔を見合わせ、ぷっと吹き出す。エドガーは窓の外に視線をやった。戦闘状況が開始されるまで、もう幾ばくもない。緊張の糸が張り詰めるのを、二人は感じて唾を飲み下した。

 

 

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