春眠暁を覚えず。
春はぐっすり眠れるものだから、夜が明けたのに気づかず寝坊してしまうという意味。
……つまりそういうことだ。
昨日は入学式ということで気を張っていたせいか、ベッドに横たわると疲れがどっと押し寄せてそのまま爆睡してしまった。アラームのセットも忘れていたので時間ギリギリに起床。急いで身支度を済ませ、朝食を省略することでなんとか遅刻を免れることができた。入学早々何やってんだか。
学校二日目、授業初日ということもあって、大半は勉強方針の説明だけだった。進学校の先生というのは、厳格で毅然とした人物が多いという印象だったが、この学校では明るくフレンドリーな人が多いようだった。そのせいか、ヤンキーである須藤はほとんどの授業で眠りこけている。その胆力を俺にも少し分けてほしい。
そんな須藤に対して教師は注意することなく、淡々と授業を続けていた。監視カメラまで付けているので厳しく罰するものだと思っていたのだが、拍子抜けだ。いや、逆にカメラで記録しているからこそ注意する必要がなく、こっそり点数を引かれているのかもしれない。
そんなこんなであっという間に昼休みを迎える。多くの生徒は連れたって学食に向かうようで、食堂は混雑することが予想される。俺は一人黙々ともぐもぐしたいタイプなので、静かで落ち着けるような場所を探すことにした。
近くのコンビニで適当にパンを買った後、すぐさま探索を始める。まず向かうのは誰しもが一度は行ってみたいと思うであろう屋上だ。俺みたいなぼっちにとっても憧れの場所である。ただ、事故や事件を防ぐために屋上への扉は施錠されていることが多いので、あまり期待はできない。
ところがいざ着いてみると、昨今の学校では珍しく屋上は解放されていた。扉を開け外に出ると、まだ四月ともあって少し肌寒い外気を全身に浴びる。屋上を見渡すと、しっかりとした柵が備え付けられているだけではなく、監視カメラも設置されていた。こうして安全が保障されているからこそ、利用できるようになっているのだろう。俺以外には誰も居ないようだし、ここをマイベストプレイスとするか。
適当な場所に腰を下ろすと、早速買ってきたパンを袋から取り出し口に運んでいく。風は少し冷たく、日差しは暖かい春特有の陽気が実に心地いい。近くに見える桜並木を観賞しながら、ただひたすら無心で食す。
あー、いいな。老後はこんなふうに縁側で自然を眺めながらお茶でも飲んで一日を過ごしたい。なんなら今からでもそうしたい。
そうやって一人呆けていると、スピーカーから校内放送が流れてきた。
「本日、午後5時より、第一体育館の方にて、部活動の説明会を開催いたします。部活動に興味のある生徒は、第一体育館の方に集合してください。繰り返します、本日──」
部活の案内か。高校でいきなり部活に参加するのは、中学で何もしてこなかった奴にとってかなりハードルが高い。説明会では初心者歓迎! 未経験でもOK! と言って勧誘するだろうが、いざ入ると周りは経験者だらけで置いてけぼりにされるし、先輩からは扱かれるに違いない。大人しく帰宅部で帰宅タイムアタックに勤しむことにしよう。
昼食を食べ終えて教室に戻ると、何人かの生徒は1人で昼休みを過ごしているようだった。これだけソロプレイヤーが居れば、俺のぼっち具合も目立たないかもしれない。木を隠すなら森の中、ぼっちを隠すならぼっちの中。間違っても人混みの中に隠してはいけない。なぜなら逆に浮いてしまうからだ。
「なあ比企谷」
「お、おう? どうした?」
席に着くと後ろの席から声をかけられた。なんだよ綾小路、話しかけてくるなら先に言えよ。ちょっとどもっちまったじゃねーか。
「比企谷は部活には入らないのか?」
「今のところ入るつもりはないな」
「そうか、確かに帰宅部っぽいもんな」
え、何? disってんの? 帰宅部っぽいって要は運動が得意なわけでもないし熱中できる何かもない、面白みのない奴って言ってるのと同じだからな? ……当たってるから何も言い返せねえわ。
そういう綾小路は部活に興味あるのだろうか。ちょっと気になるので聞いてみることにする。
「お前は午後の説明会には参加するのか?」
「ああ、堀北と見に行くつもりだ」
「へー、意外だな。堀北も部活には興味ないと思ってた」
俺と同じで部活みたいな集団行動を原則とするものに向いてなさそうだが。それに綾小路に付き添って行くのも驚きだ。
隣で本を読んでいた堀北は聞き捨てならないのか、不機嫌そうな様子で口を挟んできた。
「勘違いしないで、私は部活動に入るつもりはないわ。ただ友達を作れず、右往左往する綾小路君を見に行くだけよ」
「悪趣味すぎるだろ……」
人の不幸を食べて生きてんのかコイツは。妖怪か何かかよ。それともバッドエナジーでも集めて世界をバッドエンドに染めようとでもしてるのか。そうだったとしたら俺のプリキュア魂が許さないんだが? というか自分の印象を悪くしてまで訂正する必要あった?
言いたいことはもう無いようで、堀北は再び本を開いて話しかけるなオーラを出している。これ以上絡むと罵倒されそうなので綾小路との話に戻る。
「で、綾小路はどの部活に入るつもりなんだ?」
「まだ考えてないが多分入らない」
「いや、入らないのかよ。冷やかしにでも行く気か」
そこで昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響き、会話は強制終了する。
話が噛み合っているかは置いておいて、昨日に引き続き同年代の人間と難なく話せている気がする。もしかして俺ってコミュ障ではないのでは?
なんだかちょっと嬉しくなるそんな昼下がりだった。
***
入学式から早くも二週間、俺の学園生活は何事もなく平和に過ぎていった。
そう、何事もなくだ。友達ができるわけでもなく、ましてや恋人などできるはずもなく。淡々と授業を受け、学校が終われば真っ直ぐ家に帰りダラダラ過ごすだけ。おかげで家から持ってきていた本は粗方読み終えてしまった。社会人になってもこんな感じで惰性に生きていくと思うと軽く戦慄する。惰性で生きるなら、せめて専業主夫になって働かずに日々を貪りたい。
ときに、この学校は進路をほぼ100%叶えてくれるそうだが、俺が専業主夫を希望したらどんな対応をしてくれるのだろう。理想の結婚相手でも見繕ってくれるのだろうか。……とんでもなく倫理的に問題がありそうだが。
「おはよう」
「うっす」
休日明けの朝、そんな馬鹿げたことを考えていると綾小路から定型文的挨拶が飛んできた。綾小路とは遊びに行くことはないが、こうして挨拶を交わしたり、時折他愛のない話をする。これはもう友達と言っていいかもしれない。俺たち友達だよな? なんて聞いてしまうと、微妙な反応を返されて死にたくなること必至なので自粛しておく。
そもそも友達の定義って何なんだろうな。いつから朝でどこから友達なの?
そんな俺とは対照的に、綾小路はクラスのお調子者である池や山内、それに須藤と親しくしているようだ。部活の説明会の時に仲良くなったらしい。マラソンでスタート時は一緒にゴールしようと言って並んで走ってたのに、終盤置いてかれた時のような裏切られた気分だ。
このままじゃ俺メンヘラになっちゃうよ、他の男の人と仲良くしないでって言ったよね!?
ちなみに堀北ともたまに話をするが大抵罵倒されるだけで終わる。世の中には罵られて快感を得る特殊な性癖を持った者もいるようだが、あいにく俺はいたって正常なのでただただ傷ついている。痛罵されると分かっていながら堀北に話しかけている綾小路は、もしかしたらそんな変態さんなのかもしれない。
そういえば、この二週間で一つ変わった出来事があった。それは、季節外れの水泳の授業があったことだ。空調が完備された屋内プールがあるからこそ出来ることだとは思うが、わざわざ時季をずらす必要があったのだろうか。それに、体育教師が泳げるようになれば必ず役に立つと念入りに言っていたのも少し気になる。
他の生徒は特に気にしていない、というかそれどころではなかったようだ。特に、野郎どもは授業が男女混合だったおかげで、それはもうテンションの上がり具合が半端じゃなく、女子の水着姿をガン見しまくってドン引きされていた。見学者が異様に多かったのは、そうなることを察した生徒が多かったからかもしれない。
俺はというと気恥ずかしかったのでガン見はせず、さりげなくバレないようにチラ見していた。しかし、呆気なく堀北に見破られ、余計に気持ち悪いし不愉快だわと罵詈雑言を浴びせられ、危うく通報されるところだった。別にお前の貧相な身体なんてみてねーよと反論したが、見事に地雷を踏んだようでプールに蹴飛ばされた。その日はそんな踏んだり蹴られたりの一日だった。
そして、今日という一日も呆気なく終わり迎えた放課後。いつもは帰宅部らしく一直線に寮へと帰るが、今日は本を借りるため図書館に寄って行くことにする。この学校の図書館は馬鹿みたいに大きく、小説や専門書、論文雑誌など様々な蔵書が豊富に揃えられている。読書好きなら何日でも入り浸っていられる場所だ。
図書館に着いた俺は広い館内を一通り見て回った後、小説コーナーを物色する。最近は純文学ばっかり読んでたし、そろそろミステリーにでも手を出すか。まずは国内の有名作家から読もうと思い、絢辻行人の『十角館の殺人』と東野圭吾の『放課後』を手に取る。それと新しめの作品も気になるので、今村昌弘の『屍人荘の殺人』も借りることにする。どれもそれぞれの作家のデビュー作であり、『屍人荘の殺人』なんかは最近映画にもなっていた。
この三冊を手に受付へと向かう。本を借りるにも学生証が必要で、誰がいつ貸出したかが管理されているらしい。貸出期間も決まっており、期間を過ぎると延滞料金が発生し、ポイントが引かれる仕組みとなっている。
受付で簡単な処理を済ませると、他に用事もないのでさっさと帰ることにする。
帰りにスーパーに寄って買い物でもするか。この二週間で分かったことだが、コンビニだけでなくスーパーにも無料で提供されている食品があり、学食には無料の山菜定食がメニューにあった。専業主夫を目指すなら節約スキルと料理スキルは必須なので、これらを活用して修行することにしよう。
「比企谷くん……だよね?」
図書館を出ると突然声をかけられた。顔を向けるとそこにはクラスメイトである櫛田が立っていた。人気者である彼女が一体俺に何の用だろうか。
「櫛田か、どうかしたか?」
「あのね、比企谷くんと前々からお話してみたかったんだ。でも、比企谷くんすぐに帰っちゃうからなかなか機会がなくて……」
なるほど、それでたまたま図書館に寄る俺を見つけて声をかけたという訳か。確かに、櫛田は初日の自己紹介でも言っていた通り、クラスメイト全員と仲良くなろうとしているようだ。実際、ほとんどのクラスメイトは櫛田と友達になっている。だが、俺が櫛田と友達になれるとは到底思えないので適当に相槌を打っておく。
「そうか、なんか悪いな」
「ううん、全然大丈夫だよ。それより、比企谷くんって自己紹介でも言ってたけど読書が好きなんだね。今度、おすすめの本とか教えてもらってもいいかな?」
「あ、ああ。別に大丈夫だが」
ふむ、コミュ力の高い奴ってのは相手の趣味や好きな話題を振って会話を広げるんだな。非常に勉強になります。学んだことを生かせるかは分かりません。
「ありがとう! じゃあ、連絡先交換しよ?」
「……いくらだ?」
「……え?」
ん? こんなに近くで話してるのに聞こえなかっただろうか。
「いくらポイント払えばいいんだ?」
「え!? ポイントなんていらないよ!?」
そんな馬鹿な。女子高生の連絡先なんてタダで手に入るわけねーよ。こうして話してるだけで金を請求されてもおかしくない。なんならこっちからチップを渡すまである。
「何かを得るためには対価が必要だろ。等価交換の原則だ」
「お互いの連絡先交換するんだから等価交換じゃない?」
「櫛田と俺の連絡先が等価なわけないだろ。それともポイントじゃダメか? 右腕だけは勘弁してくれ」
人体錬成もしていないのに体の一部を失いたくはない。
「そんなこと言ってないし、卑屈すぎだよ!? ……ふふっ、比企谷くんってなんだか面白いね」
「俺の顔ってそんなに面白いか?」
「だからそんなこと言ってないし、卑屈すぎだよ!?」
櫛田はテンポよく的確なツッコミをしてくる。お前、漫才師の才能あるよ。
「もしかして私と連絡先交換するの嫌……かな?」
櫛田はそう言ってグイっと近づき、上目遣いで俺の顔を覗き込んできた。強制的に目を合わせられると改めて櫛田の可愛さに気付かされる。
……って近い近い近い近いっ! それ以上俺に近づくな! さもなくば告白するぞ!
「分かった分かった! 交換するから離れてくれ」
「うん、ありがと!」
櫛田は俺から携帯を受け取ると、慣れた手つきで連絡先を入力する。いや速くね? 指の残像が見えるんだが。ものの数秒で操作が終わり、携帯が俺の手に戻ってくる。
「いつでも連絡してね!」
「お、おう」
「じゃあまたね、比企谷くん!」
「お、おう」
botのように同じ言葉しか返せなかった。アレクサ以下かよ俺は。
バイバイ! と満面の笑みで手を振ってきたので、こっちもさよならbyebye元気でいてねと軽く手を振り返す。
いやーあざとい。あざといけど嫌みがないところが櫛田の強みだな。これがただのぶりっ子的あざとさなら女子からの人気は出ないだろう。
そんな櫛田でもぼっちの女王である堀北は落とせないようで、頻繁に遊びやご飯に誘っているがけんもほろろに突き放されている。ただ、その様子には少し違和感を覚える。櫛田ほどの気遣いができる人間ならば、相手の考えを尊重し距離を置くのが妥当だと思われるが、堀北に対しては執拗に誘いをかけており我を通しているように感じる。
……まあ考えすぎか。
櫛田と別れた後、再度携帯を確認する。そこにはちゃんと櫛田桔梗の番号とアドレスが登録されていた。高校生になって初めて手に入れた連絡先はクラスメイトの女子だった。
──しかし、俺は決して浮かれない。櫛田は優しい女の子だ。俺に優しい人間は他の人にも優しいことを忘れてはならない。それを勘違いして舞い上がってしまえば、中学時代の俺のように苦い思いをすることになる。訓練されたぼっちは同じ轍を踏まない。
そう自分に言い聞かせ、寮へと続く帰り道を一人歩いていった。
***
さらに一週間が過ぎ、今は3時間目の社会が始まったところ。担任の茶柱先生が教壇に立っても教室は喧騒に包まれたままだ。特に、池と山内は大声で談笑し、須藤は遅刻して2時間目の途中に登校してきた挙句、いびきをかいて爆睡している。陰では3人合わせて3バカトリオなんて呼ばれている。教師が全く注意しないおかげでこうなってしまったが、さすがに騒ぎすぎだ。こいつら内申点とか知らんのか。
「静かにしろ―。今日はちょっとだけ真面目に授業を受けて貰うぞ。小テストを行うことになったから後ろに回してくれ」
「えぇ~聞いてないよ~。ずる~い」
いわゆる抜き打ちテストというやつで、そんな不満が各所から漏れ出る。
「そう言うな。今回のテストはあくまでも今後の参考用だ。成績表には反映されることはない」
成績表に反映されないとはいえ真面目に受けるに越したことはないだろう。
小テストは1教科4問、全5教科20問で、各5点配当の100点満点。殆どの問題が中学で勉強したような極めて簡単な問題だったが、最後の3問くらいは途轍もなく難しかった。文系特化の俺にとって、数学の問題なんかは古文書が書かれてるのかと思ったほどだ。もはや数学なのか国語なのかはたまた歴史なのか分からないレベル。一体このテストが何の参考になるのか、皆目見当もつかない。
俺は問題を解くのを諦め、テストが終わるまで窓外から覗く巻雲連なる春の空をボーっと眺めていた。
放課後、俺は読み終わった本を返すために図書館へ向かう。ミステリーに馴染みはなかったが、どれも読みやすく面白い作品だった。作品それぞれに特色があり、『十角館の殺人』なんかは特にフーダニット(誰が犯人か)に重きが置かれていたし、『放課後』と『屍人荘の殺人』はフーダニットに加えてハウダニット(どのように犯行を成し遂げたか)とホワイダニット(なぜ犯行に至ったか)がバランスよく組み込まれていた。同じジャンルでも幅広い魅せ方があってミステリーは奥深い。
図書館に着いた俺はまず、新しく借りる本を探すことにした。今日は海外ミステリーでも借りてみるか。『十角館の殺人』を読むと海外作家に興味が湧くんだよな。
先週借りた本の返却は貸出と同時に済ませればいい。それなら受付でのやり取りが1度で終わり、人との会話を最小限に抑えることができる。ぼっちはいつだって効率優先至上主義。人間関係においても効率を重視する。そして自分のコスパの悪さを理解しているからこそぼっちとなるのだ。
この図書館では有名な海外作品は網羅されているようで、お目当ての本をすぐに見つけることができた。ヴァン・ダインの『僧正殺人事件』、エラリイ・クイーンの『Xの悲劇』、アガサ・クリスティーの『オリエント急行殺人事件』を本棚から抜き取って受付へと持っていき、手続きを済ませる。
放課後の図書館はそれなりに席が埋まっており、生徒たちは読書や勉強に励んでいる。友人と勉強している生徒たちのコソコソ話が少し聞こえるが、森閑とした落ち着きのある空間だ。いつもはすぐに寮に帰るが、たまには図書館で読むのもいいか。受付近くに孤立した丁度良い席を見つけたのでそこに腰かけた。
ぼっちって意外とカフェとか人の居る場所で読書するの好きなんだよな。孤独感が際立つ中、読書に耽ってる俺カッコよくね? みたいな。だがスタバでMacを開いてる奴、てめーはダメだ。ああいう意識高い系を見ると俺の意識が天まで高い高いして他界する。
「すみません、アガサ・クリスティーの『オリエント急行殺人事件』は貸出中でしょうか?」
「少々お待ちください。……あー、ついさっき貸出されたみたいですね」
『僧正殺人事件』を読み始めてしばらく経った頃、受付の方からそんな会話が微かに聞こえてきた。どうやら俺が借りた本を読みたがっている生徒がいるらしい。本棚が遮蔽になって姿は見えないが、声からしておそらく女子生徒のようだ。海外ミステリーを嗜む女子とはなかなかに珍しい。
「そうですか……。ありがとうございます」
貸出されているならどうしようもない、女子生徒はすぐに諦めて去っていったようだ。
別に悪いことをしたわけじゃないが、俺が借りなければ彼女は好きな本を読むことができたと考えるとなんだか申し訳なくなる。3冊も借りたことだし1冊くらい返しても時間は潰せるか。そう思い、俺は『オリエント急行殺人事件』を読まないまま即日返却することにした。彼女に直接渡した方が効率は良いが、姿を見てないので探すのも困難だし、何より気持ち悪がられる可能性があるのでやめておく。
その後、1時間ほど読書を続けてから、予定通り返却手続きを済ませて図書館を後にした。