さよなら実力至上主義の教室よ   作:漁利の夫

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ちょっとした独自展開とキャラ崩壊があります。原作から大きく乖離することはないので許して下さい。
また、会長は出てきませんがサブタイトルに間違いはありません。






ひそかに堀北学は動き出す。

「なあ、綾小路。昼飯一緒に食べないか?」

 

 明くる日の昼休み、俺は高校生活始まって以来初のランチのお誘いを試みた。

 

「……何を企んでる」

 

 滅茶苦茶怪しまれた。なんか最近怪しまれてばっかだな……。そろそろ地域の不審者情報センターに連絡されるかもしれない。

 

「何も企んでねーよ。堀北と一緒にすんな」

 

 ついこの間堀北の罠に嵌ったせいか綾小路は疑心暗鬼になっているようだが、別に俺は騙すつもりはない。いや、ほんとに。なんなら綾小路も恩恵を受けられるから、たぶん。

 

「中間テストの対策を思いついたからちょっと付き合って欲しいだけだ」

 

「対策? そんなの勉強するしかないんじゃないのか」

 

「そのへんは後で話す。それより俺のポイントを一時的に預かってほしいんだが」

 

「なんでだ。あれか、預けるふりして俺からポイントを巻き上げられたと嘯くつもりか」

 

「んなわけねーだろ。それで俺になんの得があんだよ」

 

 同じクラスの人間陥れても意味ないだろ。いつからこんな面倒くさいやつになったんだ。

 

「あれ、2人ともこれから学食?」

 

 猜疑心にまみれた綾小路を半ば強引に連れ出そうとしていると、そんな光景を不思議に思ったのか櫛田が声をかけてきた。

 

「ああ、そうだが」

 

「ふうん、私も一緒していい?」

 

 ……なんで? 

 

 わざわざこんな冴えない男どもと一緒に飯を食いたい理由が分からなかったので、自然と拒絶体制に入る。

 

「いや、櫛田なら他にいくらでも相手いるだろ」

 

「そうだけど、2人とご飯食べる機会なんてなかなかないし。それに比企谷くん、ここのところ学食で食べてて珍しいなーって」

 

 どうやら1人寂しく山菜定食を貪っていたのがバレていたらしい。

 ちょっと恥ずかしいんですけど。やはりリア充のテリトリーである学食にはなるべく近寄らない方がいい。

 

「いいんじゃないか、櫛田も一緒で」

 

 と、ここで綾小路から一言。お前はどうせ女子と一緒に飯食いたいだけだろうが。この下心丸出しの助平め。

 

「テストの対策あるんだろ? 顔の広い櫛田にも聞いてもらった方がいいと思うが」

 

「……確かに」

 

 言われてみれば全くもってその通り。さっきは反射的に拒絶してしまったが、この作戦を遂行するにも成功した後のことを考えるにも櫛田に話しておいた方がいいのは確定的に明らか。

 綾小路さん、ただの助平とか思ってすいませんでした。

 

「テストの対策? 何かわかったの?」

 

「なあ櫛田、Dクラスを救いたくはないか」

 

「へ? もちろん出来るならそうしたいけど……」

 

「実はいい話があってだな。お前にしかできないことなんだ」

 

「う、うん」

 

「まずは一旦綾小路にポイントを預けてくれ。そうすれば必ずクラスの役に立つ」

 

「え、えーっと……やっぱりお昼やめとこうかな……」

 

「おい、悪徳業者の勧誘みたいになってるぞ。まずは説明しろ」

 

 しまった、コミュ障特有の言葉足らずによる情報伝達の齟齬が生じてしまった。櫛田は子犬のように怯えてしまっている。

 

「すまん、別に騙すつもりはない。テストの対策で過去問が有効になるんじゃないかと思ったんだ。それでこれから過去問を貰えないか上級生に交渉しに行こうと考えてる」

 

「過去問か。確かにテストの傾向ぐらいなら分かるかもだが、それでも参考程度にしかならないんじゃないか?」

 

 この学校は超がつくほどの進学校。毎年同じような問題のテストを出すはずがなく、綾小路の言うように参考程度にしかならないと考えるのが普通である。

 

「いや、かなり有効になると俺は踏んでる。理由は省くが」

 

 あまり長話をしていると昼休みが終わってしまうので説明は後だ。

 

「じゃあ、ポイントを俺に預けるのはなんでだ?」

 

「それは交渉するにあたっての予防線だ。大した意味はない」

 

 終わったらちゃんと返してもらうから心配すんな。

 

「うーん? とにかくクラスのために色々考えてくれてたんだね! 私も協力するよ!」

 

 さっきまでとは打って変わって明るさを取り戻した櫛田。よく分かってないみたいだが本当にそれでいいのか。将来騙されないかお父さん心配です。

 

「……まあ、変なことするつもりじゃなさそうだな」

 

「当たり前だ。時間もないしそろそろ行くぞ」

 

 綾小路も一応納得してくれたところで昼休みが始まってから既に10分が経過。ターゲットと交渉する時間を確保するため、俺たちは急いで学食へと向かった。

 

 

 

 

 

 学食に着くと既に多くの生徒が食券売り場の前に列をなしていた。その列には並ばずテーブルの方に目をやると、早くも食事を始めているターゲットを発見した。今日も今日とて行儀よく山菜定食を咀嚼している。

 

「櫛田、今どれくらいポイント持ってる?」

 

「実は結構使い込んじゃって、あと2万ちょっとしか残ってないかな」

 

「それだけあれば十分だ。1万程度残してあとは綾小路に預けてくれ」

 

「予防線なんだっけ。うん、分かった」

 

 櫛田にそう指示し、自分も同じように綾小路にポイントを預ける。ポイントの譲渡は非常に簡単で端末をポンポンと操作するだけで完了した。ちなみに預ける前の俺の保有ポイントは約6万である。

 

「よし、じゃあ櫛田ついてきてくれ」

 

「俺はどうすればいい?」

 

「お前は待機だ。適当に時間潰してろ」

 

「……俺の扱いぞんざい過ぎないか」

 

 なんだか拗ねている綾小路を無視してターゲットのもとへ櫛田と2人で向かう。ターゲットの男子生徒は改めて見ても真面目そうな風貌で、利発的な目つきから生徒会にでも属していそうな印象を受ける。これなら過去問を残していてる可能性は高いのではないだろうか。

 

 男子生徒の隣の席に座り、少し緊張しつつ声をかける。

 

「すいません。ちょっとお話いいっすか、先輩」

 

「……いきなりなんだ? お前ら」

 

 食事を妨げられたからか少し不機嫌そうな調子で返される。

 

「1ーDの比企谷って言います。で、こっちが櫛田」

 

「こんにちわっ」

 

 櫛田が可愛らしくペコっと会釈を交えて挨拶する。櫛田を連れてきた理由の1つが、こうして愛想よく振り撒いてもらい、相手の警戒心を少しでも和らげるためだ。

 

「1年がなんの用だ」

 

「先輩もDクラスですか? 無料の定食選んでますけど」

 

「……だったらなんだ」

 

「ポイントに困ってるんじゃないかと思って。もしそうなら俺たちと取引しませんか?」

 

「取引?」

 

「1年の初めの中間テスト、それとその前にあった小テストの問題、持ってたら売ってもらえませんか」

 

 俺は端的且つ率直に用件を伝える。過去問を売ってくれなんて我が千葉の球団が誇る若きエースばりのストレートな要望であったが、彼は全く驚いていなかった。

 

「……3万ポイントだ」

 

 先輩は少し考える素振りを見せた後、特に疑問を投げかけることもなく希望額を提示した。話が早くて助かるがそこまで払うつもりはない。

 

「さすがに高くないっすか。俺たち2人合わせても2万ちょっとしかないんで、1万5千ポイントが出せる限界です」

 

 そう言って俺と櫛田はポイント残高が表示された端末画面を見せる。綾小路にポイントを預けていたのは、今みたいに高値を吹っ掛けられた時のことを考えてのことだ。ここで取引を成立させるためには向こうも折れるしかないはずだ。

 

「いや、3万だ」

 

 がっ……駄目っ……! 

 

「お前たちが過去問を手に入れればクラス全員に共有するつもりだろう。だったらクラスメイトから徴収すればいい。退学を回避できる可能性が上がるんだから誰も反対しないはずだ」

 

 まるであらかじめ想定していたかのような切り返しに心の中で感嘆する。ちょっと厄介なことになりそうだ。

 

「それでも3万は払えないっすね。妥協してくれないなら別の人に頼むだけです。先輩以外にもポイントに困ってそうな上級生に目星はついてますし」

 

「その上級生が過去問を持っている保証もないし、俺以上にポイントを要求してくる可能性もある。それでもいいなら好きにするんだな」

 

「……」

 

 反論が浮かばず言葉に詰まる。隣では邪魔にならないよう口を噤んでいた櫛田があわあわし始めた。

 

 さて、どうしたものか。もうなんか面倒だし本当に別の上級生にあたった方がいいんじゃないかと思えてきた。

 だがしかし、これまでの先輩の言動にはどこか不自然さが垣間見える。何かを隠しているような、そんな感覚。

 

「交渉決裂か。なら他の1年に売り払うからもういいぞ」

 

 先輩はそう言って話は終わったとばかりに食事を再開しようとする。

 

 そこでふと、これまで感じた違和感から一つの仮説が脳裏をよぎった。

 

「本当に出来るんですか、そんなこと」

 

「……どういう意味だ?」

 

「今回の試験、上級生から取引を持ち掛けるのは禁止されてるんじゃないですか」

 

「ほう? なぜそう思った?」

 

 その反応は図星を突かれたという感じではなく、どんなことを言うつもりか期待するような気色をはらんだものだった。

 

「まず過去問が有用なことに先輩が気付いてるんじゃないかと思いました。こっちが取引を持ちかけたとき全然驚いてませんでしたから」

 

 交渉時の切り返しも完璧で、事前に準備していたように感じられたのもポイントだ。

 

「それで?」

 

「気づいているならさっさと1年に売りつけるのが普通です。他の上級生に先を越されるかもしれませんし、ポイントに困ってるならなおさら。でもDクラスで過去問の話題なんて全く出てないんで先輩はまだ誰とも取引していない」

 

「なぜそう言える? Dクラス以外の1年と取引している可能性もあるだろ」

 

「それはないですね。まず1番過去問を必要としてそうな落ちこぼれのDクラスが第一候補になるはずです。それにAからDの全クラスに売りつける方が得ですし、わざわざDクラスだけを放っておくなんてことはしない」

 

 問題用紙なんてコピーするなり写真で撮るなり簡単に複製できる。1つのクラスに絞って取引する必要はない。

 先輩は特に反駁するでもなく黙ったままだった。さっさと続けろということだろう。

 

「じゃあなぜ先輩は過去問が有用であることに気付いていながら1年に取引を持ちかけなかったのか。答えは単純、学校が禁止しているからです」

 

「さっきの取引はお前から持ちかけたものだから俺が応じた、と」

 

「そうです。先輩は少なくとも1週間以上前から1人で山菜定食を食べてましたよね。あれは1年から話し掛けられるのをずっと待ってたんじゃないですか?」

 

 部活動以外で他学年の生徒と最もコンタクトを取れるのが昼休みの食堂だろう。毎日無料の定食を食べることでポイントに困っていることをアピールし、食べ終わった後も長々と居座って1年から接触できる機会を作っていたのではないか。

 

 そもそもこの学校は実力で生徒を評価すると宣っておきながら、毎年類似したテストを出している。つまりこれは単純な学力または抜け道を探す考察力を測るためのもので、上級生からの一方向的な情報提供を禁じていなければ意味がないのだ。

 

 ただし、これまでの推論は全て、過去問が『試験を確実に乗り切る方法』であることが前提である。

 

「なかなか面白い考察だ。だが、学校が禁止令を出しているという事実はない」

 

 しかし、俺の推理はあっけなく一蹴される。めっちゃドヤ顔で披露してたのに。ちょっと櫛田さんこっち見ないで恥ずかしいから。

 

「お前が考えている通り、1年の初めのテストは過去問が有効な対策になる。というか毎年全く同じ問題が出される」

 

 かなり有用だとは思ってたが全く同じなのか。そりゃ茶柱先生も『試験を確実に乗り切る方法』とまで言うわけだ。

 

「だが、そもそもそのことを知っている生徒はほとんど居ないし、わざわざ売りつけようとするやつも居ない、それだけだ」

 

「禁止されてなくてもトラブルに発展するリスクがあるからですかね」

 

「そうだ。それにそんな曖昧な条件の禁止令じゃ意味がないだろう。どっちから話を持ち掛けたかなんて本人たち以外知りようがないんだからな」

 

 ……それもそうか。たとえ上級生から取引を持ち掛けたとしても普通は証拠なんて残らないし、1年に売ってくれと言われたから取引しただけと如何様にも言い逃れられる。

 

「だが、話しかけられるのを待っていたという推測は正しい」

 

 どうでもいいけどさっきから‘だが’を乱用しすぎじゃない? ダガ―使いの中二病か? †漆黒の堕天使†みたいなハンドルネーム使ってそう。

 なんて茶々を入れたくなったが我慢する。

 

「過去問を売るためじゃないなら、それはどういった理由で?」

 

「お前みたいなやつを見つけるためだ」

 

 そう言って先輩は熱い眼差しを向けてくる。えーっとすいません、そっちの趣味はないんで……。

 

「どういう意味っすか」

 

「そのままの意味だ」

 

 いや分からんが。ちゃんと説明せんかい。

 

「とにかく()()()の目的は果たせたというわけさ」

 

 説明も不十分なまま、先輩はポケットから1枚の紙を取り出し俺へと手渡す。奇麗に折りたたまれた紙を開くと、それはテストの答案用紙だった。

 

「俺が1年の初めに受けた小テストだ、今年のものと比べてみろ。それと中間テストの方も欲しけりゃ連絡してこい。そこに携帯番号も書いてある」

 

 答案用紙の裏を見ると確かに11桁の数字が並んでいた。やけに用意周到だな。

 

「交渉は決裂したんじゃなかったんですか」

 

「これは礼みたいなもんだ。そもそもポイント欲しさに交渉したわけじゃないからな」

 

「タダってことっすか」

 

「そうだ」

 

「それじゃあ受け取れないっすね。タダより高いものはないんで」

 

 基本無料を謳っているソシャゲだっていざ始めると課金欲を掻き立てられ、いつの間にかとんでもない額を負担することになっているものだ。タダで貰うと後々痛い目を見るに違いない。

 

「はあ、面倒くさいやつだな。じゃあ5千ポイントでどうだ」

 

「乗った」

 

 先輩の目的というのが気にはなるが、5千ポイントなんて当初支払う予定だった額の1/3だ。俺は嬉々として端末を操作し、さっさとポイントを振り込む。

 

「俺が言うのもなんだが先に振り込んでよかったのか? 約束を反故にするかもしれないぞ」

 

「大丈夫っすよ。過去問を寄越さなきゃ詐欺にあったと喚き散らすんで」

 

「いい性格してやがる」

 

「それほどでも」

 

 ポイントの受け渡しはしっかり端末に記録されてるからな。裏切られたら徹底的にやり返すまでだ。

 

「とにかく会長に報告だな……。こいつなら南雲を……」

 

 先輩はなにやらぶつくさ言いながら、いつの間にか食べ終わっていた昼食のトレイを片付け立ち上がる。これにて取引は終了ということだ。

 

「またな、1年」

 

 またなと言われても過去問を貰えれば二度と会うこともないだろうと思ったので、特に返事もせず去っていく後姿を見送った。アデュー。

 

「あ、ありがとうございました!」

 

 そんな俺の代わりにこれまで大人しくしていた櫛田が感謝の言葉を述べる。

 

 結局、櫛田には無駄に長々と付き合わせてしまったな。こんなに手こずるとは思わなかったんだ、許してくれ。

 というか俺も疲れた。さっさと飯食って休みたい。

 

 一息ついた後改めて手に入れた戦利品を見直す。答案用紙の氏名欄には1-A 桐山生叶と書かれていた。

 





ちょっとペラペラ喋らせすぎたし分かりにくいかも
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