怪獣人類の英雄探求   作:ペンペン弐式

10 / 14



はい、今回で終わらせようと思ったのですがまた二万字超えそうになってしまい分割する羽目になった作者です。

今まで物語の流れに多少の変化はあれど、原作同様の流れではあったのですが。今回の戦いにて最初の大きな分岐を迎えます。

展開的に色々賛否両論あるとは思いますが、暖かい目で見ていただければ幸いです。

それでは、どうぞ。


動き出す者 ガチバトル 陸

 

 

 

 

 

『龍鬼術 雨塊球』

 

龍鬼の巨体を覆いつくす程の大きさに収束した水塊が緑谷に向かって放たれる。それに臆することなく、緑谷自身の超力の個性を発動させて真正面から迎撃する。

 

「SMAAAAAASH‼‼」

 

緑谷の個性を籠めた拳と水塊が激突した。緑谷の攻撃によって水塊は瞬く間に四散し周囲の建物へすさまじい衝撃波となって伝わった。その衝撃のあまり、幾つかのビルが耐え切れずに倒壊していった。

 

(この戦い。絶対に負けられない‼‼)

 

先ほどの言葉を聞き、絶対に聞き出さなければならないと更に決意を強めた緑谷。最初の攻撃を難なく迎撃し、その勢いのままに緑谷は自身の足に個性を集中させ龍鬼の顔面目掛けて跳躍する。

 

自分に飛び掛かってくる緑谷を捕まえようと龍鬼は巨大な手を伸ばすが、それ翻りながら躱される。攻撃を躱した緑谷はそのまま腕を伝って龍鬼の首元へと殺到する。

 

(この体育祭。龍鬼君は弱点らしい弱点は見せなかった。けど‼‼)

 

自身の個性を右の足に集中させる。狙いは龍鬼の3本生えている角の内、一番大きな中心の角。自身の個性で強化した渾身の一撃を、狙いの場所に目掛けて振り抜く。

 

「SMAAAAAASH‼‼」

 

緑谷の剛打の一撃は龍鬼の角を捉え、攻撃が当たった場所からは激しい火花が飛んだ。一瞬驚いたような表情をとった龍鬼、すぐさま自分に纏わりついている緑谷を振り払った。振り落とされた緑谷はその勢いのままに先ほどまで自分が立っていた場所まで吹き飛ばされるが、何とか体勢を整えて着地した。

 

(やっぱりそうなんだ‼‼あの角が、龍鬼君にとっての重要な物なんだ‼‼)

 

着地した緑谷に向かって今度は無数の細かな雨水の弾が彼を潰さんと龍鬼から放たれる。すぐさまビルの陰に隠れ、その攻撃をかわしながら再び龍鬼に向かって肉薄する。

 

(龍鬼君の個性、その殆どが発動する際にあの角が発光する。特に中心の角は、他の角よりも強く発光する。なら、あの角は個性に関わる重要機関の可能性がある。オールマイトの予想通りだ、龍鬼君のあの表情を見てもそれは確かな筈‼‼)

 

今度は龍鬼の傍にあったビルの屋上まで駆け上がり、その屋上伝いに龍鬼の角に向かって今度は右の拳を振り抜いた。再び捉えたその攻撃により激しい火花が散る。

 

(あの角さえ破壊できれば、個性の力を抑えることができるかもしれない‼‼)

 

緑谷の狙い。それは、龍鬼に生えている3本の角。特に個性の発現を行っていると思しき、中央の一番大きな角の破壊による個性の弱体化、若しくは個性の暴走が狙いだった。だがその狙いに直ぐに気付いた龍鬼は、今度は先ほどよりも力強く纏わりついていた緑谷を振り払った。

 

「フル、カウルッ‼‼」

 

吹き飛ばされた緑谷は複数のビルを突き抜けていくが、自分の個性を使い身体を強化し何とかその衝撃に耐えた。

 

『狙いは悪くない。お前の観察眼は、やはり目を見張るものがある』

 

緑谷の着眼点を称賛しながら、龍鬼の周囲の雨粒が彼の巨体を包み込むようにして渦巻く。大技が来ると直感で判断し、緑谷は直ぐに物陰に身を隠した。

 

『龍鬼術 雨刃弾』

 

瞬間、龍鬼の周囲を覆っていた雨粒は弾幕の如く周囲に向かって射出された。それは正に雨粒によって再現された鉄の嵐。凄まじい威力の細かな水弾が周囲のビルを貫き、悉くを倒壊させていく。だが、その激しいビル群の倒壊の合間をすり抜けて、緑谷は龍鬼目掛けて肉薄した。

 

「DETROIT SMAAAAAAAAAAAAAAASH‼‼」

 

繰り出された緑谷の渾身の一撃は、三度龍鬼の角を捉えた。先ほどまでよりも激しく火花が散り、打撃音もより重いものとなっていた。三度、自分に攻撃を与えることのできた緑谷に対して、満足気な笑みを浮かべる龍鬼。そのまま、緑谷を倒壊したビルの瓦礫の山に向かって突き飛ばす。

 

何とか着地しようと踏ん張るが、大技の連続使用に身体が上手くついてこれずに、緑谷はそのまま瓦礫の山へと突き刺さった。

 

暫しの静寂。今度は直ぐに追撃することをせず、緑谷を突き飛ばした瓦礫の山を見つめる龍鬼。瞬間、瓦礫の山が衝撃により吹き飛び、その破片が龍鬼に向かって放たれる。龍鬼は迎撃することなくそれを受ける。飛散してきた瓦礫に対して傷1つ受けることなく、そのまま攻撃してきた緑谷を見据えていた。

 

『今のを搔い潜り、あまつさえ一撃を入れてみせたか。成長したのぉ、イズク』

 

「絶対に、負けない‼‼」

 

多少なりとも身体にダメージを受けている緑谷ではあったが、その戦意はついえることなく真直ぐに龍鬼を捉え、再度、強大な相手に向かって吶喊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

動き出す者 ガチバトル 陸

 

 

 

 

 

「……緑谷少年、蘇我少年」

 

そんな二人の様子を。激しい雨が降りしきる中、遠くから見守っている人物がいた。強靭的な肉体と威厳に満ちた金色の髪。羽織ったマントを靡かせ、青を中心とした自身のヒーロー服に身を包んだ日本における現役№1ヒーロー。オールマイトその人であった。

 

会場が移動したことと、龍鬼という規格外の不確定要素に対して、対処できる存在としてガチバトルの審判をミッドナイトから引継ぎ、戦闘の行く末を注意深く監視していた。

 

(戦いが始まる前のプラン通り、緑谷少年は蘇我少年の個性を潰そうと必死に食らいついている。無茶なプランだったと言え、流石だな。緑谷少年)

 

遠くから、自分の教え子の一人でもあり、師弟関係にある緑谷の戦いをそう分析する。決勝前に、緑谷から密かに相談を受けていたオールマイト。体育祭が始まった当初は、体育祭のルール上、あまりアドバイスと言う物は控えるつもりではあったが。相手が、例外中の怪物的強さであったのもあって、二人で対龍鬼に対して策を練ったのだ。

 

(だが、蘇我少年のあの姿。例え、角を破壊できて個性が使用できない状態に持ち込んだとしても。あの巨体から繰り出される肉弾戦の破壊力は桁違いだ)

 

結論としては、先ずは角を破壊すること。これを主目標に置くことを意識して、作戦を練ったがそれであの巨大な龍鬼の姿が解除されるといった保証は何処にもなかった。だからこそ、その可能性も含めながらの対策を取った。

 

二人の戦いぶりをオールマイトはじっと見つめる。

 

模擬戦用とはいえ、一都市部を再現した中で繰り広げられる大規模な戦闘。既に戦いの場になっている仮想市街地は瓦礫の山となりつつあった。

 

(……それにしても。二人とも、何と凄まじい力だろうか。本当に15歳の少年たちが見せられる戦いの規模ではない)

 

緑の閃光を迸らせながら、迅速剛打の攻撃を続け、格上の存在に必死に食い下がる緑谷。

 

その巨大で強靭な身体と、振り続ける雨という無限とも言える攻撃手段を巧みに利用し、戦場を支配する巨獣である龍鬼。

 

自分もプロとして長く活躍し、数多くの凶悪な敵と渡り合ってきたが。そのどれとも比較しても、劣ることの無いレベルの高い戦闘。それが今、自分よりも遥かに幼いヒーローの卵が繰り広げている。

 

(……蘇我少年の規格外は今に始まった事ではないが。その存在に立ち向かうことのできている、緑谷少年の成長速度も異常だ)

 

だからこそ、自分の弟子でもある緑谷が最早個性を持つ人類とは比べ物にならない規格外とも言える龍鬼という存在に対して、一歩も退かずに戦いについて行けていることに違和感を覚えざるを得なかった。

 

(彼と出会って1年ぐらいになるが、雄英に入るまでと入ってからでは成長速度があまりにも違い過ぎる)

 

当初、緑谷がオールマイトと出会った頃は個性を使用することもままならない状態。それを一緒になって試行錯誤しながら、雄英の入学までには自身を傷つけながら何とか使用できる状態に到達することはできた。当然、それでも個性が発現してからの期間を考えると凄まじい成長速度なのだが。ある日を境に、その成長速度がオールマイトの予想に反して、何十倍にも跳ね上がったのだ。

 

(正確には敵連合による雄英襲撃事件、あの日以降。彼の成長速度は、私の想像を遥かに超えている。原因はやはり……)

 

緑谷に角を攻撃されながらも、まるでそれを催促するかの如く彼に発破をかけながら戦闘を行う龍鬼に視線を向ける。

 

(蘇我少年。先ほどの話といい。本当に君は、何者なんだ……)

 

規格外の存在、全盛期の自分でも。実際に彼と戦ってみて、勝てるという確信に至れない程の存在。だが、そんな相手を前にしても。

 

不思議と恐れや不安という感情を。龍鬼に対してオールマイトは抱くことはなかった。

 

それはまるで、自分という存在そのものがそれを拒否しているのかような不思議な感覚が、長年に渡って染みついているようだった。

 

「兎に角、緑谷少年には何としても彼に勝ってもらはなければ。彼と、話をするためにも。そのためにも、まずは短期決戦。それに持ち込むしか、緑谷少年が蘇我少年に勝つ方法は……ん?」

 

そう分析しながら、緑谷と龍鬼の戦いを注意深く見守るオールマイト。しかし、そんな彼の視界の端に今戦場とも言えるような状況になっている会場に向かって走っている覚えのある複数の影が映った。

 

「アレは、A組の⁉」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

分かっていたし、理解している筈だった。頭の中で、幾ら計画を練ろうともそう簡単な話ではないということは。

 

既に10を超える数、龍鬼の角を目掛けて自身の攻撃を叩き込んでいた。その度に、確かな手応えを感じ自信を付けていた。だがそれでも。

 

(一向に、進んでる気がしない…)

 

先ほどから何度攻撃を続けても、何度手応えを持とうとも。自分の攻撃が本当に龍鬼に対して、手傷を負わせられているのかという最後の確信を掴むまでには至ってはいなかった。

 

(ダメだっ‼‼弱気になればなるほど、龍鬼君の思うつぼだ‼‼)

 

荒くなっている息を整えながら、それでも戦闘態勢を崩すことなく龍鬼と対峙する緑谷。だが。自分の身体の方に目を向けてみれば、ある程度の傷で済んではいたものの。今まで経験した事の無いほどの時間の中での個性の連続発動、加えて激しい近接機動戦によって既に限界点はとうの昔に超えていた。今自分が立てているのは、本当に気持ちが折れてはいないという点だけであった。

 

だがそんなぎりぎりの状態にある緑谷のことを、当然龍鬼は分かっていた。

 

『術による攻撃はあまりお気に召さないらしい。ならば、少し動くとしよう』

 

「……来るっ‼‼」

 

自分の術による攻撃が全て躱され当たらないと判断した龍鬼はその巨体を動かしながら一気に緑谷向かって肉薄する。その巨体に見合わない程の俊敏な動きと勢い、それによって生じる地鳴りに思わず身が竦みそうになる。

 

それらの恐れを振り払い、直ぐに自分の個性を発動させ敢えて龍鬼に向かって跳躍し、足下をすり抜けて何とかその攻撃を回避する。しかしその動きは読まれており彼を追撃する為に、長い龍鬼の尾が緑谷に向かって振り下ろされる。

 

「フルカウル、20%‼‼」

 

個性の出力を上げて何とかそれを回避する緑谷。振り抜かれた尾によって攻撃線上に残っていた建物が根こそぎなぎ倒された。何とか、最初の近接攻撃を回避することができたが、自分が先ほどまでいた場所の建物群は龍鬼の突進と尾による振り払いにより完全に破壊され、その威力に往なすことすら敗北につながると理解する。

 

龍鬼は勢いを留めることなくすぐさま反転し、緑谷を捕まえようと肉薄する。だが、自分を捕まえようと素早く伸ばされた手を何とか反応し翻しながらその手を避けていく。

 

(避けろ‼‼避け続けろ‼‼止まったら終わりだ‼‼今は避け続けて、何とか反撃を‼‼)

 

瓦礫となった市街地を、疾走する緑谷。それを建物を蹴散らしながら追いかける龍鬼。目まぐるしく状況が変化していく。街が破壊されるごとに地形が変わっていく。多くの瓦礫が飛散し、それが砲弾の雨の如く緑谷に襲い掛かる。それを必死になって避けながら、何とか反撃の機会をを探る。

 

しかし、龍鬼の巨体であるにも関わらずその俊敏な動きによる攻撃を避け続けることしかできずに、徐々に追い詰められていった。

 

(もう、身体が持たない‼‼何とか、何とか反撃を‼‼)

 

何とか寸前の所で攻撃を回避する緑谷。しかし、最早彼自身の身体がそれに応えることが難しくなっていると理解しており、焦りが彼の胸中を支配する。そうしていく中で、徐々にその動きに綻びが見え始める。

 

そして。その綻びが大きくなって、緑谷の動きに減速が見られた瞬間、龍鬼が一気に攻めかかった。右の拳を振り上げて、素早く緑谷に叩き込もうと放つ。

 

だがその攻撃が、今までの龍鬼に繰り出してきた攻撃の中では誤差程度ではあったものの、一番隙の多いものになったのだ。

 

そして、その瞬間を緑谷は見逃さなかった。逃げの姿勢を反転させ、その攻撃を掻い潜り、再度龍鬼の角に向かって吶喊した。

 

大降りになったことで、龍鬼は反撃することができる体勢ではなく防御も不可能であった。今までの中で一番の好機、そしてこれが、恐らく自分が出せる最後で最大の一撃になる。

 

体勢の完全に崩れた龍鬼に向かって、緑谷は出せる最大の力を込めて剛打の一撃を叩き込む。

 

「SMAAAAAAAAAAAAAAASH‼‼」

 

勢いよく振り抜いたその一撃は確かにこれまでに無いほどに、龍鬼の角を捉えていた。

 

(取った‼‼)

 

感触として緑谷はそう確信した。だがその捉えた筈の攻撃は。緑他の放った一撃は彼の思いとその勢いに反して、威力が低かったのか火花を散らせることは無く空しくも鈍い音がするのみであった。

 

「な、んで……」

 

緑谷の表情が一気に曇る。ここに来ての、個性の完全なるガス欠だった。力なく、そのまま地面へと緑谷は落下した。

 

緑谷に隙が生まれるその時を、龍鬼は待っていた。彼を捉えようと今までにない速さで手を伸ばす。何とかそれに反応し、伸ばされた手を再び避けようとするが、個性を発動させるために力を入れた瞬間、身体に上手く力が伝わらずにその場に片膝をついてしまった。

 

「⁉しまっ⁉」

 

そう緑谷が言葉を発しようとした瞬間、巨大な手によって捕らえられた身体はそのまま残っていたビル群に向かって叩き投げられた。

 

「ぐぅううううううううううううう‼‼」

 

咄嗟の判断で苦し紛れに何とかフルカウルを発動させて己の身体を強化し、ダメージを抑えようとする緑谷。だがそれも上手くいかず、ビルに叩きつけられる度に身体中から嫌な音が響いた。

 

「がはっ⁉」

 

漸く、衝撃を抑え地面に着地することができたが身体はボロボロの状態だった。至る所から出血も確認することができ、遂に耐え切れなくなった緑谷の肉体は血の混じった吐息を吐きながら、その場に前のめりの状態で倒れ込んでしまう。

 

(ダ、メだ。も、もう。身体、が…)

 

今までに自分が経験したことの無いような時間戦い続けた。戦い続けることができた。何より、精神は未だ戦いを諦めていなかった。

 

だが彼の意思に応える身体は。ダメージによる限界からなのか、生存本能からなのか、あるいはそれら全てか。彼の意志に反して戦うことを拒否するかの如く梃子でも動こうとはしなかった。

 

(……そ、そうか。わざと、態と攻撃の際に隙を与えて。僕を、誘ったんだ‼‼)

 

痛みの中で、先ほどの一連の流れが。確実に自分を捉えるために巻いた餌なのだと気付く。それにまんまと嵌ってしまった。

 

自分の戦闘経験の浅さによる焦りを、龍鬼は正確に把握し、それによる策を一手打ったのだと。それに気付くことはできたものの、その代償は大きかった。

 

悔しさを嚙みしめる緑谷。

 

降り着ける重く激しい雨が緑谷の弱った身体を容赦なく打ち付け、それと共に自身の近づいてくる地鳴りがした。

 

『ふむ。ここまで、か。何、お前は頑張った方じゃ。この姿の状態の俺にここまで戦えたんは、本気出したルミの姐さん以来じゃ』

 

既に激しく鋭い痛みだけしか感覚は無かった。それでも何とか、目線だけ前を向けていれば。自分と戦う前と変わらず、健在である龍鬼の姿が見えた。自分が攻撃し続けてきた角も、依然として破壊できる所か、傷も与えられていない状態であった。

 

『……ふむ。じゃが、お前の眼は。未だに戦いを諦めてはいない。そうじゃろ?』

 

もっと戦えるはず、もっと戦いのだろ。そう意図した言葉と共に緑谷の身体が浮遊する。龍鬼の力によって持ち上げられた緑谷の身体は抵抗することもできず、やがて龍鬼の眼前で静止した。

 

痛々しい程までに、痛めつけられた身体。最早、目を開ける続けることすら難しい程に。緑谷の身体は弱っていた。

 

『君はこれからもっと強くなる、この界にいる誰よりも。そうでなくては困る。態々、私自ら踏み台を演じるのだから。それくらいはやってもらわないと』

 

龍鬼の角が再び発光し、その巨大な口が開く。中から雨水と何かエネルギー体のようなものが混ざり合った塊が収束しているのが分かった。

 

この攻撃を喰らえば、最早立ち上がることはできないだろう。ここで決めるつもりだ、薄れゆく意識の中緑谷はそう思った。

 

また勝てなかった、また届かなかった。そのことが深く緑谷の中を鋭く突きさした。

 

(僕は、また……勝てなかった、のか……)

 

悔しい。自分の非力から生じたその感情が緑谷の中に渦巻く。確かに自分は良く戦った。自分の尊敬する師であるオールマイトのような存在しか相手に出来ないような怪物に、真正面から、正々堂々戦った。自他ともに、それ間違いないだろう。

 

だけど。

 

だからこそ。

 

だからこそ、思うのだ。自分の心が、魂が、それ以上に叫ぶのだ。

 

まだあきらめるなんてことはしたくは無いと。

 

絶対に、負けたくないと。

 

「負ける、もんか‼‼」

 

確かに身体はもう戦えないだろう。この勝負は負けるだろう。だからこそ。せめて気持ちだけでも、思いだけでも。自分は未だ、負けてはいない。負けるつもりはない。両の眼をしっかりと見開き、強い意志の籠った眼差しで、緑谷は龍鬼を真正面から射抜いた。そんな緑谷を、讃えるような笑みを浮かべながら最後の一撃を放とうとする龍鬼。

 

しかし、その時だ。今にもその一撃が放たれようとした正にその時。突然龍鬼はエネルギーの収束を止めたのだ。

 

『……意外と早かったな』

 

龍鬼がその言葉を紡いだ瞬間。何処からともなく、大量の瓦礫が龍鬼に向かって砲弾の雨の如く降り注いだ。

 

自分の攻撃では無いその突然の事に動揺する緑谷ではあったが、そんな彼の横を凄まじい勢いで黄金の輝きを放つ弾丸が通り過ぎた。

 

「DETROIT SMAAAAAAAAAAAAAAASH‼‼」

 

黄金の弾丸は、そのまま龍鬼へと吶喊し一撃となって龍鬼に命中した。緑谷とは比べ物にならない威力の籠った一撃が、龍鬼の顔面を真面に捉えたのだ。

 

凄まじい衝撃に雨粒が周囲へと飛散し、勢いそのままに50mもある筈の龍鬼の巨体を遥か後方へと吹き飛ばした。

 

それに間髪入れずに、龍鬼に向かって大量の爆破、雷や音の衝撃波、氷と炎や緑色のエネルギー体などといった、ありとあらゆる種類の個性による攻撃が畳みかけるように放たれた。攻撃の激しさに、瞬く間に龍鬼の巨体は瓦礫の山へと埋もれる。

 

「もう大丈夫だ、緑谷少年。私たちが来た」

 

幼い頃から、何度も目にし焼き付けてきたその言葉。緑谷の眼前に現れた、黄金の弾丸の正体。それは、彼の師匠でもあったオールマイトその人であった。

 

何が起きたのか全く理解できず、力が解除されたことにより落下する緑谷。だが。それを受け止める、可愛くも力強い存在が彼の下へと駆け付ける。

 

「デクくん、しっかり‼‼」

 

「う、麗日さん?」

 

宇宙服にも似たヒーローコスチュームに身を包んだ緑谷のクラスメイトでもある麗日だった。自分の個性である重力制御を使って傷ついて動けない緑谷を抱え、そのまま静かに地面へと着地する。

 

「緑谷さん、今応急措置をしますわ‼‼」

 

「緑谷気張れよ‼‼オイラたちが付いてる‼‼」

 

自分の創造の個性によって生み出した救急キットでボロボロになった緑谷に応急措置を施す八百万、そして緑谷の気を持たそうと必死に声をかける峰田の姿があった。

 

「み、みんな。ど、どうして」

 

何とか首を動かし周囲を見渡してみれば、未だに身体に傷を負ってはいるものの自分を庇うようにして龍鬼との間に立つ、爆豪、轟、常闇。それだけではない、尾白や飯田。A組のクラスメイト全員が、その場に集結していた。更に、その姿は体育祭用の体育着ではなく、全員が自分専用のヒーローコスチュームに身を包んだ臨戦態勢であった。そして、その光景にあったのはA組の生徒だけでは無かった。

 

「A組ばっかりに、良い恰好はさせられないんだよねこれが‼‼」

 

「あの怪物に。今度こそ、私たちヒーロー科の力を見せるよ‼‼」

 

「ベイビーたちの良い踏み台です‼‼こんな機会、逃す手は無いです‼‼」

 

A組の生徒と同じく、それぞれのヒーローコスチュームに身を包んだB組の生徒たち。サポート科の生徒もサポートをアイテムを持ち込んで駆け付けていたのだ。そして。

 

「緑谷、無事か?」

 

「緑谷くん、今僕の言霊で痛みを和らげるから少し我慢してね」

 

「心操君、天峯さんまで…」

 

そこには、普通科の生徒である心操や天峯の二人の姿もあった。天峯が自分の力を使い、傷ついた緑谷の身体の痛みを和らげていく。

 

学友たちのその行動に、今起こっているこの状況に全く頭が追い付かない緑谷。そんな状況が分かっていない様子の彼に対して、学友たちは力強い笑みを浮かべてこう答えた。

 

「相澤先生たちや校長先生から、話があったんだ。緑谷君に全員で加勢しろって」

 

「ど、どういこと?」

 

あまりの急展開に変わらず理解が全く追いつかない緑谷。そんな状態の緑谷に、クラスメイト達が事の経緯を話し始める。

 

「校長や、お偉いさん達が動いてくれてんだ。そんで、決勝戦だけの特別ルールへの変更があったんだよ。この決勝が始まる直前に」

 

「ルールの、変更?」

 

「もし、緑谷が追い詰められて。審判のオールマイトが許可した場合、騎馬戦までに残った生徒全員とオールマイトで、緑谷に対しての助っ人を認めるってね‼‼」

 

それは、この決勝が始まる前。緑谷や龍鬼が会場に移動した後のことであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、ガチバトルの最終戦が始まる直前。緑谷たちがアリーナから仮想市街地へと移動している時。とある控室にA組の生徒たちが集まっていた。

 

『本当に、デクくんをここで見守るだけしかできんの?』

 

『確かに、今のあの蘇我に対して。いくらウチらの中で強い緑谷とは言え、勝てる保証なんて殆どないね』

 

『……あんな怪獣に、緑谷君一人じゃ無理だよ」

 

『なあ、飯田。俺達全員で、教師陣に直談判はできねえのか?俺達も、緑谷と一緒に戦えねぇのか』

 

『どうだろう。俺たちは既に。トーナメント形式の戦いに敗北している』

 

『飯田ちゃんの言う通りよ、上鳴ちゃん。ルールは守らないといけないわ。今更、戦うことは。ましてや、緑谷ちゃんに加勢することなんて。悔しいけど、許されないわ』

 

『オイラも緑谷を助けたい。だけど、仮にオイラ達が助けに行けたとしても……』

 

『……(‘・ω・`; )』

 

『峰田や口田と同じだ。緑谷を助けに行てぇのはここにいる全員同じだ。だけど、今のあの姿の蘇我相手に本当に戦えるのかってのがある』

 

『足手まといになるだけかもだしね☆』

 

『だけど。さっきの相澤先生たちの顔を見れば、俺たち同様。龍鬼のあの姿を知らなかったと思う。もしかしたら今、教師陣たちも龍鬼に対しての対応を話し合ってるかもしれない』

 

『同感ですわね。蛙吹さん、それに峰田さんや砂藤さん、青山さんの意見も尤もな話なのですが。はっきり言えば。今の蘇我さんは、間違いなく巨大な力を持った敵と同様に見られている状況。プロのヒーローでも対応の難しい相手に。幾ら、体育祭だからと言って緑谷さん一人で戦わせるのは公平ではありません』

 

『飯田、決を採ろうぜ。今ここにいるA組全員が緑谷を助けたい、一緒に戦いたいって思ってる。それなら、最後は意志の確認だけだぜ』

 

『……そうだな。みんなの意志を改めて確認して、判断しよう』

 

龍鬼のその圧倒的な力と規格外の姿。それを今から、自分たちの学友である緑谷がたった一人で相手をしなければならない。彼のその力を、この体育祭を通してまざまざと見せつけられてきたA組の面々。

 

何とか緑谷の手助けをすることはできないのか、共に戦うことはできないのかと考えた。そして、A組全員で相澤などの雄英教師たちに直談判に行こうという話があがり、全員がそれに対して意見を出し合っていた。

 

だが。彼らのその行動をまるで図ったように、責任審判でもある相澤や香山、その教師二人だけではなく雄英の校長でもある根津までもがその場に現れたのだ。突然の事に戸惑う生徒たちだったがそんな彼らに校長である根津が優しく語りかける。

 

『君たちの気持ちは痛い程分かる。それは僕自身や、雄英の教師たち全員が同じ気持ちだよ。それでね、さっき雄英のスポンサーや組織のお偉いさんたちとの話し合いがあってね』

 

雄英の教師たちも、全く情報の無かった龍鬼のあの姿に対応策を検討していた。その際に、雄英高校を運営する組織員会の上層部やプロヒーロー、スポンサーなど各方面の実力者たちからも連絡があり、龍鬼に対しての一時的な措置が話し合われたのだ。そして、その結果。

 

『最終的にはオールマイトの判断に委ねるってことにはなったけど、騎馬戦までに残った優秀なヒーローの卵である生徒たち全員とオールマイトのメンバーで緑谷君の加勢を許可するってことになったの』

 

『今回のこの決定は、例外中の例外だ。蘇我龍鬼という全くの規格外を相手に。推定にはなるが、今までに存在したどの凶悪敵以上の脅威に対して。お前たちヒーロー科がどう立ち向かうか。それを見極めるとういうのが理由だが。何より、お前たち全員の力を結集して戦えば。勝算は、十分にある』

 

香山や相澤のその言葉と共に、A組の生徒たちの下に傷ついて治療された爆豪たちや、B組の生徒も含めたあの騎馬戦で戦ったメンバーが全員集められた。

 

そして、そこで。教師陣やプロヒーロー達が知恵を出し合って考えた対龍鬼に対する攻撃プランが説明された。

 

『普通科は兎も角。ヒーロー科やサポート科の生徒は、ヒーローコスチューム並びにサポートアイテムの使用も許可する。今出せる全員の全力を持って、あの怪物に勝ってこい‼‼』

 

 

 

 

 

「そういう、ことだったんですね」

 

「私も先ほど聞かされたばかりでね。すまない、緑谷少年」

 

「あ、謝るなんてとんでもないです⁉凄く。凄く、救われました」

 

事の経緯を聞き、感謝の言葉を述べる緑谷。こんな絶望的な状況においても、自分を助けに来てくれた学友や師匠たちに、それ以上の言葉は無かった。今にも喜びの余り泣き出しそうになる緑谷を暖かく見つめる面々。

 

「やろう、デクくん。みんなで、蘇我くんに勝とう‼‼」

 

「やってやろう緑谷。龍鬼に、本当の事を聞き出すためにも」

 

「勝とうぜ緑谷‼‼今度は、俺達も一緒だ‼‼」

 

麗日の言葉と共に、全員が声を上げた。危険な戦いになる。それは百も承知だ。だがそれでも。自分たちも、緑谷と共に戦える。そのことに対する歓喜と。全員で、龍鬼を倒すという覚悟によって彼らの意志は一つとなっていた。

 

「みんな、ありがとう。本当に、ありがとう‼‼」

 

そして、緑谷たちのそのやり取りが終わった瞬間。吹き飛ばされた龍鬼がいる場所の瓦礫の山が消し飛んだ。

 

『……素晴らしい。これほどまでに、これほどまに早いとは』

 

日本における最強のヒーローであるオールマイトのその一撃を、真面に受けた筈にも関わらず依然として健在な龍鬼の姿に。思わず、息を飲む緑谷たち。龍鬼は静かに彼らを讃える笑みを浮かべる。だがその笑みには、今まで緑谷たちが見たこともないような狂気を孕んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






次回で雄英体育祭編は終わりになります。

次の話も大体、六割程度書けておりますので今しばらくお待ちください。

あと、物語が少し駆け足気味になっているので。

体育祭の話が終わりましたら、轟君や尾白君との出会いについてなど小話を少し掘り下げていきたいなと思いつつ。それと同時に、次のお話である職場体験などの話に行きたいと考えています。

それではまた次回。誤字脱字などありました、お手数になりますがご報告のほど。
よろしくお願いします。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。