はい、エピローグまで書くとまた文字数が15000字超えることが確定し分割せざるをえないことになった文才の乏しい作者です。
色々書き直したりとして、何とか10月中にとは思ったのですが遅くなってすみません。
では、どうぞ。
『……それにしても、オールマイト先生までとは。少し、やりすぎではありませんか。相澤先生』
『お前の体育祭での目的は。今まさに、この状況を作り出すことだったんだろう。規格外の力とその破壊力を敢えて世界に見せつける、まるで自分が敵であるかのように見ている者たちに錯覚させる。そして、それに対して予定調和の如く現れる次代を担っていく新しい英雄の卵たち。随分と安い筋書きを用意したものだ。脚本家はいったい誰なんだ?』
『良く言うなら、遥か昔から繰り返され蓄積された先人たちの知恵。悪く言うなら、手垢まみれの使い古された古典的な手。そんな所と言ったところでしょうか』
緑谷が状況説明を受けていた頃、瓦礫の下に埋もれていた龍鬼は彼らの成り行きを見守りつつ。この対戦の始まる前に交わした、相澤たち雄英高校の教師のやり取りを思い出していた。
『良し悪しは別として、策は無事実った。新たな英雄たちの誕生に対する渇望に今、この国は満ち満ちている。やっぱりみんな大好きなんですよ、英雄が怪獣を倒すという分かりやすい物語を』
『……上層部連中も、どうやらその頭の悪い物語をご所望らしい』
『彼らの立場を考えれば、至極妥当な判断です。オールマイトに変わる新たな柱を必要とするこの国にとっては、願っても無い状況ですからね。今後、強大になりつつある敵に対抗するためにも今は。分かりやすい新しい英雄と、分かりやすい巨悪という生贄が必要なんですよ』
会場から伝わってくる不安と絶望。そして。その何よりも今、敵と同様の脅威である自分を打ち倒す希望を、英雄を渇望していた。
『……お前さん、本当にそれで良いのか。お前さん一人が、泥を被ることになるんだぜ』
『蘇我君、考え直して。汚い大人の事情に、貴方が乗る必要なんて一つもないのよ。それに今なら、全然間に合うわ。どんなことを言われても、棄権なり何なりすれば良いんだから。私たちが、何があっても守るから。貴方の将来の事を、もっと大切に考えて』
雄英の教師陣たちは、今一度考え直すように龍鬼に対して必死に説得を試みた。幾ら上層部やこの国の利害が自分の考えと一致し、それが可能な力があるとは言え。個人に、それも自分たちよりも未来のある、生徒の立場である龍鬼が一人で背負うとしていることに対して、止めないわけが無かった。
『……山田先生、香山先生。ありがとうございます。その言葉だけで、十分です』
そんな教師たちの言葉の意味を理解した上で、龍鬼は言葉少なくそう感謝を述べる。その意志は固く、いくら自分たちが説得をしようとも変えるつもりはないということが、ひしひし教師陣たちに伝わり、苦虫を噛み潰す相澤たち。
そして、そのやり取りを今まで言葉を発さずに見持っていたオールマイトと、校長である根津が静かに龍鬼に語りかける。
『……蘇我少年、君の意志は十分に理解した。確かに、君の考えはこの国の状況と一致している。特にこの国のヒーロー社会全体を考えれば、凄く大きなメリットがあるね』
『おいオールマイト⁉本気でそんなこと言ってんのか⁉』
『だけどね、蘇我少年。私たちは、国に属するヒーローでもあるけど、雄英高校の、君の教師でもあるんだ
』
龍鬼の瞳を射抜くように強い眼差しで、オールマイトは真正面からそう強く語る。
『君の事は、入学してきてから色々調べさせてもらったよ。君のその力が、本当は個性では無いことも。そして、そのせいで。君はこの世全てを呪ってもいいような過酷な幼少期を過ごすはめになったことも。世界の残酷な部分を少なからず見てきたことも。それなのに、君は今。その力を使って世界に復讐するのではなく、真逆の世界への入り口に立っている。覚えているかい、君が僕やオールマイトに語ってくれた。雄英高校に来ようと思った理由』
そして、それに続くようにして根津が龍鬼が嘗て。雄英高校に入学したころにオールマイトの3人で語り合った話を持ち出す。
『世界に今、本当に必要な存在というのは一体何なのか。それを見極めるのが、この世界で生きてきた自分に対する恩を返すことだから、でしたね』
入学当時、相澤などの懸念などもあって。龍鬼と根津、オールマイトの三人で面談という形で探りを入れることがあった。何故雄英に来たのか、今の世界に対してどのような思いを抱いているのか。そして根津とオールマイトは、本来は見極める為の話であったにも関わらず、何時のまにか教師と生徒という立場を超えて、時間を忘れて語り合ったのだ。
『……君は世界は灰色だと言った。黒と白で分けられるような、簡単かつ楽で気持ちの良い選択に走っている今のこの国の社会。いや、この超人社会を迎えている世界に対して凄く憂慮していたね。君のような年齢で、その考え方をできる人間は。世界でも、ホンの一握りなんだろうと僕は思う。そして、そんな思いを持っている君が。今自分自身を犠牲にして、新たな英雄を生み出そうしている。誰に強制されたというものではなく、君自身もそれを望んでいる』
『……あの子たちには。特に緑谷には、自分の求めている者に対する可能性があった。だからというのもあります』
『……緑谷少年が、かい?』
『そうです。しかし、そういった話は。3人だけの秘密、とういう約束ではありませんでしたか?』
少し困った顔を浮かべながらそう口にする龍鬼。すまないね、状況が状況だからと。謝罪をしながら更に根津は話を続けた。
『君は強いよ。今までの長いヒーローの歴史の中でも、全く現れたことの無いような規格外な存在だ。それに、考え方もしっかりしているし。君は、確固たる軸を持って生きている。それこそ、今直ぐにプロのヒーローに成って現場に出てもらいたいぐらいに。だからこそ。僕たちは、君という存在を見極めなければならなかった。君が一体何者なのか、どんな物を抱えているのか。本当の目的は一体何なのか』
『でも。それはあくまでもこの国のヒーローとしての立場。改めて、君を教え、守るべき教師の立場から言わせてもらうよ。蘇我少年、君が抱え込んでいる秘密。それが明らかにできないのであるならば、これ以上の戦いを。私たちの大切な生徒が自ら進んで道化を演じて、君が一人だけ悪者になることは、犠牲になることだけは到底許可できない。何よりも、それを止める義務があるんだ』
二人のその言葉はとても重く、何よりも強かった。その言葉と共に、やり取りを見守っていた他の教師たちも力強く頷いた。その言葉が。二人だけではなく、雄英高校に属する教師の龍鬼に対しての総意でもあったからだ。
『最も、見極めるために時間をかけて。取り返しのつかない状況になるまで、事態を見守るしかできなかった手前。今更では、あるけどね』
根津がそう言葉をこぼした。今まで事態の行く末を見極めるために行動に移すことができなかった。龍鬼の立場がここまで悪化するまで、後戻りできない程になるまで止めることもできなかった。そのことに対する後悔はある。
しかし、それ以上先はまだ止められる。その可能性が残っているというのなら、それは止めなければならなかった。ヒーローとして、教え導く者として。
そう自分に言い切った二人に対して、龍鬼は穏やかな笑みを浮かべた。
『……こんな訳の分からない、それこそ人ではなく得体の知れない化け物である生徒一人の為に。今貴方たちは、必死になって守ろうとしてくれている。他者を救い、他者の光になるために生きてきた。だがそれと同じくらいに、後悔や黒い闇を見てきたことでそれらが自己の中で矛盾として渦巻き、鬩ぎ合っている。それが、貴方たちの言葉からも。その在り方からも伝わってくる。とても、良い魂の色をしている。貴方たちのような者が多ければ多いほど、後々の戦いにおいて大きな力になる』
本気で自身の事を思ってくれている人たちの言葉。それを肌で感じることができた。しかし、龍鬼のその言葉に対して。今度は相澤は鋭い目つきになって言葉を発した。
『……蘇我、答えになっていなぞ。お前の目的は、一体なんだ。俺の生徒たちまで態々巻き込んで、何を企んでいる。お前の言う、戦いとは一体何のことだ』
龍鬼が入学した当時から警戒し、自分やオールマイトとの面談などを欠かさずに行いその在り方や正体を掴もうと今日まで調べてきた。しかしながら全くと言っていい程、進捗が無いまま、今日という日を迎えた。
『リスナー、何でお前さんは。そこまでして拘るんだ』
『蘇我君教えて、どうして貴方がそこまでしなくちゃならないの』
そして今日、この体育祭という世界が注目する場において。警戒対象が自ら意図を持って行動を起こしている。言い逃れは絶対に許さない、自分たちの生徒を守るためにも。教師たちはそう意思を籠めて龍鬼に問いかけた。
『……端的に言うならば、共に戦う仲間を探し。試練を与え、育てるために。敵と戦うために。というのが、答えになるでしょうか』
少し間が空いてから、龍鬼がそう言葉を紡ぐ。それは、今まで教師陣たちが彼の口から聞いたことも無い。彼が今まで言っていたことは別の、雄英高校に来た目的だった。
『……何と、戦う為にだい。敵とかな?』
言葉の中で気になる箇所があってそう問いかける根津。自分たちが知っている限り、敵とは敵であり。それ以上でそれ以下でも無い。それが根津達が知る常識であり、世界共通の常識でもあった。
だが、龍鬼の言う敵は自分たちのそれとはニュアンスが違うように感じた。寧ろその言葉からは、何か得体の知れない、底が分からないような冷たい印象さえ感じられた。
そして、その疑問に答えるべく、龍鬼は言葉を紡いだ。
『 』
返ってきた言葉に思わず目を見開き、息を飲む教師たち。
そして、見てしまった。見えてしまった。龍鬼のその言葉と共に。
巨大な空間。そして、それを覆いつくす程の。夥しい数の黒い翼と、途方もなく飢えた牙を。
『今は理解できなくて構いません。後日、それら含めて。まとめて、お話させていただきます。だから、今は』
どうか自分を信じて欲しい、そう龍鬼は教師陣たちに懇願した。
『……必ず、全て話してもらうよ。君の話が本当だという証拠も含めてね』
『……聞きたくないと、見たくないと拒まれても。嫌でも聞いていただきますよ。世界はこれから始まる大戦に、備える必要がありますから』
聞かなければならないこと、知らなければならないことは沢山ある。そのことを改めて理解することができた。だけど。だからこそ今は、龍鬼のこと信じよう。教師陣たちは、腹を括った。
『蘇我君、雄英高校の校長として君に課題を与えるね。新しい英雄たちの、良き踏み台になりなさい。そして。必ず僕たちの下に、帰ってくるんだ』
教師たちのその覚悟に、龍鬼は笑顔で応えた。
『……良い負け方をすることにかけては、一日の長がありますので。お任せを』
動き出す者 ガチバトル 漆
「調子乗ってんじゃねぇそ‼‼クソロン毛‼‼」
「龍鬼、悪いが出し惜しみ無しだ‼‼」
「ウチらも負けてらんないね‼‼」
龍鬼の巨体に、生徒たちの個性による攻撃が着弾するたびに爆炎が上がる。自分の頭上からは絶えず瓦礫が降り注ぎ、正面からは炎や音の衝撃波、爆炎などの多種多様な個性が飛んでくる。
「骨抜、彼奴の足場を崩して‼‼」
「任せろ‼‼拘束系の個性持ちは俺に続け‼‼」
更に、足下は泥濘によって陥没し、そこへ氷結などを初めとした拘束系の個性によって手足が完全に封じられる。
「怪獣退治はヒーローの仕事ってなぁ‼‼みんなやるぞ‼‼」
「おっしゃああ‼‼いっちょやるかぁ‼‼」
「遅れんじゃねぇぞ切島‼‼」
そして、動けなくなった龍鬼の顔面に向かって肉体を強化する個性である増強系の個性持ちの生徒たちが龍鬼の角をへし折ろうと、個性によって生み出された空気の足場を利用して己の拳を叩き込んでいく。
生徒たちの的確な連携と、自分の弱点と思える場所への寸分違わぬ攻撃に。龍鬼の表情は、その状況とは裏腹に狂気的な笑みを浮かべていた。
『君たちの意志。そして覚悟。確かに見させてもらった』
自分という脅威を前にして、クラスという垣根を越えて力を合わせ向かってくる緑谷たちの姿を見る。怯えや恐怖は、やはり少なからずあるのだろう。だが、それ以上に。彼らの眼には、仲間と共に戦うという覚悟の方が勝っていた。
『故に。此度の喜劇はここまで。次の一撃を持ってして、終いにしよう』
結果は得られた。だからこそ、次に進めるためにもこれ以上時間を無駄にする理由も無い。今まで生徒たちの攻撃を受け続けていた龍鬼ではあったが、自身に纏わりついてたあらゆるものを吹き飛ばし、額の角を光らせた。
「な、なんだ⁉この揺れ⁉」
「こ、こんな時に地震かよ⁉」
そして龍鬼が光を発するの共に、凄まじい揺れと轟々と地面から不気味な音が鳴り響く。突然の巨大な地鳴りの発生に慌てる生徒たち。余りの揺れの強さに、何とか姿勢を保とうと龍鬼への攻撃を中断して、それぞれの個性を生かしお互いをカバーした。
「ちょっと待って⁉ち、違う、この揺れ⁉地震なんかじゃない⁉」
「ベイビーたちも全く反応しません⁉震源は、私たちの前です⁉」
しかし。直ぐに音に関しての個性を持つ、Aクラスの耳郎とサポート科に属する発目のアイテムによって振動の原因が自分たちの前方から発せられているという情報が入る。そして、地鳴りの為に視線を離してしまった、眼前の光景を見た者全員が思わず息を飲んだ。
「な、によ。アレ…」
誰かがそう呟く。そう声を出すのがやっとだった。龍鬼のその大きく開かれた口に先ほどとは比べ物にならない程のエネルギーの塊が、周囲の雨を取り込み混ざり合いながら収束し、そこから先ほどまで自分たちが感じていたものとは比べ物にならない程の圧力を感じた。
「まずい⁉生徒たち、あれを絶対に撃たせてはならない‼‼」
今まで、自分たちが経験したこともも見たこともないような強大な一撃が放たれる。直感でそう判断したオールマイト。すぐさま、オールマイトのその指示によって龍鬼の攻撃を阻止しようと各々の個性による全力の攻撃が放たれる。更に、オールマイト自身も龍鬼の眼前目掛けて跳躍し、剛打の一撃を叩き込もうとする。
「DETROIT SMAAAAAAAAAAAAAAASH‼‼」
しかし、生徒たちの全力を持って放った攻撃の全てが龍鬼に届く前に消え、更にオールマイトのその強力な一撃は龍鬼に到達する遥か手前で見えない何かに阻まれて大きく減衰したのだ。
「What⁉」
今まで止められることも数えるほどしかなかった、自分の渾身の一撃が防がれたことに驚愕を浮かべるオールマイト。だがそんな動揺する彼に対して間髪入れずに、大量の雨水が濁流となって彼に殺到した。
「Holy Shit‼‼」
一瞬ひるんだことにより防御することもできず真面に攻撃を受けたオールマイトは、濁流に激突しそのまま緑谷たちの下まで押し戻され背後にあった瓦礫の山に叩きつけられ粉塵が上がった。
「オ、オールマイト先生⁉」
「オールマイトの攻撃が、はじき返された⁉」
「何て奴だ‼‼№1ヒーローの一撃を、意図も簡単に‼‼」
生徒たちの間に動揺が走る、自分たちが信じていた最強のヒーローの一撃があっけなく防がれた。
だがそんな生徒たちが動揺している間にも龍鬼のエネルギーの収束は止まらず、生徒たちも必死になって応戦するが、その全てが燃えカスのように塵に帰った。
「アイツ、あんだけ個性の攻撃を受けて傷1つ付かねえぞ⁉」
「ダメだ⁉何度やっても、こっちの攻撃が一切アイツに届かねえ⁉」
何度攻撃しようとも、龍鬼に届くことなくその全てが空しく欠き消える。そして、受ければ敗北必須の一撃が間もなく放たれる。近づくことも、防ぐことも不可能な状況。
正に、絶体絶命、詰であった。
「待ってみんな、僕に考えがある‼‼」
そんな絶体絶命の中、大きな声を上げる者がいた。緑谷に対して一通りの治療を終えた、天峯だった。
「さっき先生たちが言ってた作戦‼‼あの作戦、今みんなの思いは龍鬼くんを倒すってことで一つになってる‼‼強い繫がりで結びついている今なら、僕の個性を使ってできる筈だよ‼‼」
その言葉に、余りの緊迫状態からはっと我に返る生徒たち。激しい戦闘の為に、頭の中から消えていた、相澤たちと共に練った作戦を思い出す。
「確かに。俺達だけでなく、オールマイトの力も加えた一点突破ならあるいは…」
「けど唄手ちゃん‼‼あの作戦はここにいる全員の力を集中させることのできる人が、器になる人が必要になるノコ‼‼」
「その通りです。それだけの強大なエネルギーを纏って、無事な身体でいられるような方は。残念ながら、私たちの中では…」
計画した作戦を思い出したは良いものの、教師陣たちも時間がない中で作った即席の物であった為。実現する為には幾つもの不確定要素が存在した。だが、そんな中で再び声を上げる者がいた。
「……僕が、やる」
この試合における対戦者である緑谷だった。ある程度の応急治療は完了していたモノの、身体の至る所に痛々しい傷をつけたボロボロの状態で立ち上がるのもやっとの状態であった。
「デクくん⁉そんな身体じゃ無茶だよ‼‼」
「緑谷さん。あなたは今、立ち上がることすらやっとですのよ‼‼賛成できません‼‼」
緑谷の事を治療していた麗日と八百万は緑谷の身体の状態を良く把握しており、これ以上の戦闘は不可能と判断し反対の声を上げる。
「……いや、今一番可能性があるのは。緑谷だけだ」
「心操さん、正気ですの⁉」
「確かに。あの作戦と緑谷の個性は相性が良い。ここは緑谷にかけるべきだ」
「轟くん、デクくんはもう。立ち上がることがやっとなんよ‼‼もしあれをやったら、本当に死んじゃうかもしれないんよ‼‼」
だがそこに待ったをかけたのは、心操と轟であった。作戦の性質上、緑谷の個性と相性が良いことは作戦を説明された段階で重々承知はしていたからだ。
「麗日さんたちの言うことも分かる。けどこの戦いは、体育祭のこの競技は。俺達生徒と、龍鬼との戦いでもある。緑谷には申し訳ないが、オールマイト先生に頼るということは、なるべくだが避けなくちゃいけない」
「確かに、尾白ちゃんの言う通り。この雄英体育祭最後の種目で。生徒である緑谷ちゃんや私たちではなく、オールマイト先生が決めるというのは筋違いな話にはなるわね」
皆が改めて、緑谷を見つめる。確かに、尾白たちの言うことには一理あった。現状自分たちの中で、最も実力があるのは緑谷であった。それはこの体育祭という競技の中で、最後まで勝ち残ってきたのだから間違いは無い。
だがそれでも。今のボロボロな状態の緑谷に本当に任して良いのか、押し付けていいのか。託しても良いのか、迷いが生じていた。そんな中、緑谷へ歩み寄る生徒がいた。
「……かっちゃん」
彼の幼馴染でもある爆豪であった。彼は何も言わずに、ただ緑谷の事を見つめる。緑谷はその瞳に対して、何時も自分に向けられているような敵対心や反抗心などの色は全く見られないことが直ぐに分かった。
「……やれんのか、デク」
彼は只静かにそう告げる。爆豪も分かっている。一人では、あの怪物には到底敵わない。それは、自分が直接対峙したからこそ分かっていた。そして、その存在は今。自分が戦った時よりも遥かに強大な力を振るっている。
そうであるならば。英雄になっていく者の一人としてやることは分かっていた。
「やってみせる。僕は、みんなと一緒に勝ちたいんだ」
爆豪の言葉に、緑谷は力強くそう応える。そこには何時ものような蟠りもいがみ合いも無く、共に戦うという答えのみがあった。互いの意思を確認する二人。そして。
「緑谷少年。本当に、良いんだね」
オールマイトが緑谷に対して最後の確認を行う。生徒たちの言う通り、これは生徒同士による戦いでもあり自分が本来戦うことは筋違いであるということは頭では理解できる。しかし、それでも。傷だらけの、最早立つこともやっとな緑谷に。自分の大切な弟子に、背負わせるべきどうか迷いがあった。
しかし、そんなオールマイトに対して。緑谷は応えた。
「勝ちます、絶対に。ここにいる全員で」
作戦を聞かされた時から、緑谷の覚悟はとうに出来ていたのだ。その揺るぎない彼の決意を示した。その決意に、オールマイトや他の生徒たちも腹を括った。
「……おい、歌野郎。さっさと始めろ」
「う、歌野郎って。何か、安直過ぎない?」
「ネタが浮かばなかったんだろうな」
「アイツに負けて、語彙力も爆散したんだろ」
「流石、クソを下水で煮込んだような性格の持ち主ノコ」
「勝手にディスってんじゃねよクソボケがぁああ‼‼いいからとっとやれ‼‼」
「爆豪少年の言う通りだ。諸君、どうやら彼方は準備万端のようだぜ‼‼」
生徒たちがやり取りに夢中になったことで見失っていたが、相手は既に攻撃の準備に入っていたのだ。再度、龍鬼の眼を向ける。
膨大なエネルギーと雨水がその口元に収束し。今にもそれを自分たちに向けて放とうとする龍鬼の姿があった。
(……その手しか、無いだろうな。今、私を倒せる術は)
眼前の生徒たちが緑谷を中心とした輪を作る姿が見えた。遥か昔、今と状況は違えど。自分が打ち倒された時と同じ光景。
(よく、覚えているよ。その技で、君が私を打ち倒してみせたことを)
自分の全てを知って、理解をしたその上で。溢れ出る涙と思いと共に、自分と共に往くと懇願した嘗ての親友の姿を。そして、それを拒絶した自分の事を。
(……許せとは、言わないさ)
戦いに敗れ、結んだその誓い。忘れてはいない。だが、その誓いを破ってでも。今は、戦わなければならなかった。例え、恨まれ、傷つける結果になったとしても。
「行くよ皆‼‼‼この壁を、一緒に乗り越えよう‼‼」
緑谷を中心とした輪の中で、天峯がそう叫ぶ。その叫びと共に、彼女の身体が淡い光に包まれた。
『我は謳い、結ぶ。夢見し者よ、戦いし者よ、継ぎし者よ。今我らの道は交わりて、共に目指せや。それは、夜が明ける道なりて‼‼』
それは、賛歌であった。誰かに対する誓いの賛歌であった。
天峯の言葉と共に、生徒たちに縁が結ばれていく。そして、その縁を伝って。緑谷に対して、凄まじい量の光が流れ込んでいく。
(とても、とても暖かい。感じる、みんなの意志が。みんなの願いが。繋がっていく。これが、天峯さんのとっておき…)
教師陣たちが立てた作戦。それは、彼等が作戦を立てる際に申告して明らかになった天峯の奥の手を利用したものであった。
『……本当は、敵に利用されるかもしれないからって。おじさんたちに絶対に言うなって言われてたけど、状況が状況だから。僕のとっておき、皆に話すよ』
話し合いの中で明らかになった、天峯の個性に関する秘密。龍鬼という強大な存在を前にして、話すに至った彼女の秘密。
それは。自分の力によって複数の対象の生命のエネルギーを、自らが選んだ対象に集中させることができるという、正に規格外の力であった。
力を分け与える存在がいればいるほど、一人に対して際限の無いとも言える力を与えることができる。文字通りの最終手段。
その能力を使用して、生徒たちが今持っている生命のエネルギーを出せる分だけ、器である緑谷の身体に集中させ、それによって強化した緑谷の超力の個性を龍鬼にぶつける。これが、教師陣たちが考え出した現状で可能な中でも最後にして最良の作戦であった。
しかし、同時に弱点もあった。その与えた力は後に回復するが、与えられた側はその膨大な力に対して、耐え得るほどの強靭な器が必要な事である。
(何でだろう、実戦で使うのはこれが初めてなのに。僕自身が使い慣れているような感じがする)
天峯によって結ばれた縁を伝って、生徒たちの生命エネルギーが光となって緑谷に流れ込んでいく。初めは、そのエネルギーの大きさに自分の身体が耐えきれるかどうか不安ではあったが、痛みは生じることなく。寧ろ、今まで負った傷による痛みなどが引いていったのだ。自分に何故、痛みが生じないのか今は分からなかった。しかし、今はそれが功を奏していた。
(僕に力を、思いを。皆が託してくれている)
自分の生命エネルギーを緑谷に供給しきった生徒たち。一人、また一人と縁が切れ、意識を失ったことによって地面に倒れ伏していく。
(みんなの思い、確かに。受け取ったよ‼‼)
やがて、縁を結んでいた天峯が倒れ、オールマイトが膝をついた。そして。一人残った緑谷は、彼らを守るようにして前に立った。
『……準備は万事整ったようだな』
先ほどまでのボロボロの状態の緑谷の姿はそこには無かった。勇ましく、そして力強いその光を身に帯びて、彼の瞳にはこれまでに無いほどに力と自信に。龍鬼を打ち倒すという、確かな覚悟に満ち満ちていた。
「僕たちは、絶対に負けない‼‼必ず、君に勝つよ‼‼そして、君の抱えてるもの全部‼‼喋ってもらうよ‼‼龍鬼君‼‼」
自分に託された思い。その思いと、その溢れん出んばかりの力と思いによって彼の周囲にこれまでに無いほどの力場が形成される。その強さは、龍鬼の放つそれに全く引けを取ってはいなかった。
『……その覚悟。しかと、受け取った』
聞きたかった言葉が聞けた。そして、今日という1日だけで。自分の期待する以上のモノを見せてくれた。彼等なら、大丈夫だという考えが確信に変えることができた。龍鬼も、腹を括った。
『では、行くとしよう。今の状態で、私が出せる最大奥義。見事打ち砕いてみせよ、勇ましき者の雛たちよ‼‼』
そして、緑谷を打ち倒さんと。収束したそのエネルギーが、龍鬼の渾身の一撃が放たれた。
『龍鬼術 雨刃輪線波』
放たれたそれは線となって大地を砕き、音と空間を切り裂き、触れるもの全てを灰燼に帰した。正しくそれは、巨大な水の刃であった。
水の刃が、緑谷と激突する。今までにない衝撃波に、周囲の全てが消し飛んでいく。
だがしかし、大地をも貫くその一撃を。緑谷は真正面から受けていた。龍鬼の一撃は緑谷を貫くことは無く、その様はまるで大きな盾に弾かれるようであった。
だが、それも想定内であったかのように。龍鬼の攻撃は勢いを増して緑谷にぶつかっていく。両者が激しく激突するその中で、緑谷は右の拳に力を込めた。
「SMASH OF 」
言葉を紡ぐ。その言葉に応えるように、緑谷を包む光は更に激しく輝いた。両の足に力を籠める、これが正真正銘自分たちが今出せる最大で最後の技。ここで終わらない為に、前に進んでいくために。強大な敵を打ち倒すために。自分をここまで導いてくれた友の事を知るために。
自分たちの今出せる全てを懸けて、緑谷は龍鬼に向かって大きく跳躍した。
「PLUS ULTRAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼」
聖なる光をその身に帯びて、大地を砕くほどの強力な刃を真正面から打ち砕きながら、緑谷は一直線に龍鬼に向かって行く。それを止めようと更に水線の威力を上げるも、結果は同じであった。
『……よもや。この術が破られるとは、な』
自分の今出せる最大の術を物ともせずに向かってくる緑谷の姿を見るその状況とは裏腹に、龍鬼は何処か安堵していたのだった。
『本当に。君は素晴らしいよ』
自分だけで奴らと戦うともなれば、苦戦は避けられない。下手をすれば敗北も有り得る。だがそんな中での緑谷、そして彼の仲間たちの力は。龍鬼にとっては、希望でもあったのだ。
(……ルキ)
そんなことを龍鬼が思っていると、問いかける声が聞こえた。向かってくる緑谷の姿を見つめる視界の端に。自分の事を凝視する天峯と眼が合った。そして、その天峯の顔を見て。今も降り続いている雨ではないと分かるぐらいに両の眼に雫を浮かべる彼女に、龍鬼は語りかけた。
(心配するな、親友よ。お前は何も悪くない)
龍鬼の眼前には既に右の拳を構える緑谷の姿があった。自分の一撃を全て打ち砕き、そして再度。自分の前に立って見せたのだ。
『この勝負、見事‼‼』
緑谷の拳と龍鬼の角がぶつかり、両者を覆いつくす程の閃光が放たれた。それが瞬く間に世界に広がっていき、曇天だった空を柱となって貫いた。世界を覆い尽くしていた重く強大な雲はそれを中心にして同時に消し飛んでいった。
やはりもっとかっこよく戦闘描写とか書きたいですね。まだまだ力不足です。
次は体育祭のエピローグ。そして、職場体験編などに入る前に。少し閑話として、日常話とか別枠で書いて行けたらなと思います。
誤字脱字がありましたら、お手数ですがご報告の程。よろしくお願いします。
では、また次回に。