怪獣人類の英雄探求   作:ペンペン弐式

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お久しぶりです。転職やらなんやらで半年くらい期間が空いてしまいました。

待たせてしまって大変申し訳ありませんでした。

今回で漸く、体育祭編は終わり。次回から、閑話を挟みつつ。職場体験編に入ろうと思っております。

あと、今回登場人物のヨロイムシャの名前に変更というか設定されていなかった(見つけられなかった)為。私がつけた名前があります。

もし名前が発覚したら戻そうと思いますのでよろしくお願いします。

では、本編をどうぞ。


動き出す者 ガチバトル 終

 

 

 

「…う、うん……」

 

傷だらけの頬に雫が零れ落ちる。仄かに照らし射る陽の淡い温もりにより、少女は目を覚ます。目元に付いた埃を払い落とし、朧げな視界を鮮明にする。

 

「……私。どう、なったんよ……」

 

麗日が自分の周囲を見渡してみると瓦礫の山で埋め尽くされており、そしてその中に。自分以外のクラスメイトや他クラスの生徒たちが点在し、未だに気を失っているのが見えた。

 

「デク…くんに…力を渡して……それから……っ‼‼」

 

まだ虚ろ気な意識が急に覚醒し、今まで自分が置かれていた状況が麗日の頭の中に流れ込んだ。

 

「みんな起きて、デクくんたちが‼‼」

 

その言葉と共に自分の近くに倒れていた爆豪を大きな声と共に慌てて起こす。それと同時に、その声に気付いたのか。倒れ込んでいた生徒たちが一人、また一人と眼を覚ました。

 

「……一体、どうなったんだ?」

 

「ケロ、私たち。緑谷ちゃんに力を渡してから、気を失っていたようね」

 

「どうやらそのようだ。皆、怪我はないか?」

 

頭を揺すり、自分たちの無事を確認し合いながら眼を覚ましていく生徒たち。朦朧としていた意識が徐々に覚醒していくと共に周囲の状況を把握していく。

 

「ひでぇな…これ…」

 

「まるで…隕石でも落ちて来たかのような有様だな…」

 

夕陽に照らされた嘗て仮想市街地と呼ばれた演習場は、見る影も無いほどに完膚なきまでに破壊されていた。先ほどまでの激しい戦闘の影響で、ビル群によって形成されていた街並みは全て倒壊して瓦礫の山と化していた。自分たちがさっきまで立っていたコンクリートで綺麗に舗装されていた道路も抉れて陥没し、先ほどまで降り続いていた雨水がそこに流れ落ちて、水たまりどころではなく池のようなものが幾つも出来上がっていた。

 

「…おい、全然緑谷の姿が見えねぇぞ…」

 

「…そうだ、そうだよ‼‼緑谷はどうなったんだ‼‼」

 

自分たちが倒れる直前、最後まで龍鬼との激しい戦いをしていた、自分たちの今出せる全ての力を託した緑谷の姿が周囲を見渡しても見当たらなかったのだ。意識が覚醒して我に返った生徒たちは、すぐさま先ほどまで共に龍鬼と戦っていた緑谷の姿を探し始める。

 

「お、おい…あそこって⁉」

 

「あの辺は確か、蘇我の奴が最後にいた辺りだ‼‼」

 

すぐさま、自分たちの少し前方の方に他の物よりも遥かに大きい穴と思しき物が空いている場所を見つけた。その方向が、先ほどまで自分たちが倒れる寸前に龍鬼の姿があった場所であったことを思い出し、生徒たちは急いで瓦礫の山をかき分けながら向かった。

 

「デクくん‼‼大丈夫なの‼‼」

 

「緑谷‼‼無事か‼‼」

 

最後の瞬間、自分たちが倒れ行く中で見た光景。今にも自分たちに向かってトドメの一撃を放とうとする龍鬼に対して、自分たちの出せる力の全てを託して龍鬼に対して向かって行った傷だらけの緑谷の姿。そんな緑谷の姿が見えず、不安を大きくしていった生徒たち。

 

しかし。

 

生徒たちのその不安で慌てる素振りをよそに、緑谷のその姿は直ぐに見つかった。

 

「………あ…」

 

その場所に着いた瞬間。誰かが、そう言葉を発した。いや、正確にはその言葉を出す事しかできなかったというのが正しいだろう。その場にいた誰もが、その光景が目に入った瞬間に奪われたのだ。

 

その場にいた者全てが息を飲んだ。その光景を目にした者全てが須らく、その光景に対して同じような感情を抱いた。

 

夕焼けの茜陽に照らされ。雨粒の煌めきにその傷だらけの身体を彩られながら。右の拳を突き上げ、しっかりと両の足でそこに立つ緑谷の姿。

 

自分たちが望んでやまなかった憧憬。それは自分たちが将来必ずそうなるんだと各々の魂に誓った。

 

それは紛れもない、英雄の姿のだった。

 

「……や、やったんだ…私たち」

 

誰かがこぼれ落とすかのようにそう呟いた、湧き上がる感情を確認するかのように。泥まみれになった身体を震わせながら。何度も何度も確かめるように、そう言葉を紡ぐ。

 

「…あの怪物相手に…俺達。全員で…勝ったんだ」

 

つづられた言葉と共に、その感覚が徐々に実感へと変わっていく。自分たちの身体にそれが大きな熱となってどんどんと広がっていく。そして、それは。同時に生徒たちの中で最高潮に達し、感情を爆発させた。

 

『勝ったぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼‼‼‼』

 

生徒たちのその声が重なり、瓦礫で埋め尽くされた仮想市街地から茜色の世界に向かって木霊した。

 

「俺たちの勝ちだぁああああああああああああ‼‼‼‼」

 

「やったよ…私たち。本当に、やったんだ‼‼」

 

「やりました‼‼私たち、やってのけたんですわ‼‼」

 

最後に立っていた緑谷のその姿に、一体どちらが勝者なのか。それを理解した瞬間、自分たちがやり遂げたことの大きさに、成し遂げた偉業を実感する。友と抱き合い、讃え合い、噛みしめながら。生徒たちは思い思いにそれに向かって勝利の咆哮を上げた。

 

「…ぼ、僕たち…か、かった…んだ」

 

そんな生徒たちの姿が。無意識の状態で立っていた緑谷の瞳に色を灯し、僅かな気力を振り絞って歓喜に湧く学友たちに視線を向ける。

 

自分が、皆に託された力によって最後まで立ち続けることができた、龍鬼に勝つことができたんだと。学友たちのその歓喜に酔いしれる姿によって理解した。

 

「…や、や…った…」

 

学友たちの歓喜するその姿を目にして、龍鬼に勝つことができたということに対して深く安堵したことにより。今まで僅かに保っていた緊張感は、糸が切れたかのように断ち切れていった。意識を手放して、その崩れ行く身体に身を委ねて緑谷はその場に倒れ込もうとする。

 

しかし、その倒れ行く緑谷の身体を。優しく、そして力強く受け止める者がいた。

 

「……オール、マイト」

 

穏やかな笑みと、その眼にあふれんばかりの涙を浮かべながら自分のことを見つめる。憧れでもあり、目標でもあり、大切な師であるオールマイトであった。

 

「見事だった、本当に。見事だったよ、緑谷少年‼‼」

 

自分を受け止めてくれているオールマイトの手が、喜びで震えているのを感じた。普段なら決して見せることはないその嬉し涙に溢れた、尊敬し憧れている師の姿に緑谷も自然と笑みがこぼれた。

 

「……お、オールマイト。僕…やりました。や、約束通り。皆と一緒に…龍鬼君に、勝ちました…」

 

「あぁ‼‼全て見ていたよ‼‼感じたよ‼‼君の思いを‼‼君たち英雄の卵たちの意地を‼‼」

 

自分の弟子やその学友たちが成し遂げたことの大きさに、オールマイトの涙は止まることは無かった。そして、そんな師の姿に。緑谷は、今できる最大限の笑みを浮かべ応えるのであった。

 

「やったな‼‼緑谷君‼‼」

 

「デクくん‼‼私たち、やったんよ‼‼皆で、蘇我君を倒したんよ‼‼」

 

そうした中で、緑谷の周囲に彼のクラスメイト達が集まってくる。皆がその顔に万感の笑顔を携えて。そんなクラスメイト達の姿を見て、緑谷の胸に熱いものがこみ上げてくる。

 

「……デク、聞こえてんだろ。この歓声が」

 

ふと、そんな祝福する生徒たちの声の中で。自分の傍に歩み寄ってきた爆豪がそんな言葉を紡いだ。そして、その言葉に対して緑谷はおぼろげながらも周囲に改めて意識を向けた。

 

落ち着いて耳を澄ましてみると確かに、聞こえてくる。夕焼けに映える世界に大挙して響く、地鳴りの如き割れんばかりの、自分たちの示したモノに対する世界の声が。

 

『おめでとう‼‼本当に素晴らしかった‼‼』

 

『最高だあああああ‼‼本当におめでとう‼‼』

 

『ニューヒーローの誕生だ‼‼凄かったぞ‼‼』

 

『緑谷‼‼緑谷‼‼緑谷‼‼‼緑谷‼‼‼‼』

 

それは、ここから少し離れたアリーナから聞こえてきた。緑谷たちの戦いを、画面越しにではあるが見届けた大勢の観客たちから。今日一番の祝福の歓声が木霊していたのだ。

 

「君は…君たちは。この世界に示すことができたんだ。自分たちという、新しい英雄が。この世界にやってきたんだとうことを」

 

割れんばかりの歓声が響く中で、オールマイトは立ち上がり。緑谷だけではなく、生徒たち全員。一人一人と顔を合わせ。この国だけではなく、世界において。最高の英雄が、少年少女たちに告げた。

 

「おめでとう‼‼生徒諸君‼‼そして、英雄の世界へようこそ‼‼」

 

オールマイトのその言葉に再び生徒たちから雄叫びが上がった。今日という日の為に、世界に自分たちが来たということを示すために。強大な困難に立ち向かっていくために。絶えず努力を重ね、備えてきた。

 

そして、それが成し遂げられたことに。自分たちが夢見た世界への入り口に一歩踏み入ることができたことに。生徒たちは、万感の笑みを浮かべて。世界に自分の声を轟かせるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが。

 

 

 

 

 

そんな生徒たちが思い思いに勝利に酔いしれて、お互いの健闘を祝っているのを他所に。一人、その場から離れて龍鬼の姿を探す生徒の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「龍鬼くん‼‼何処にいるの‼‼お願いだから、お願いだから返事をして‼‼」

 

未だに姿の見えない龍鬼君に対して、僕は声を荒げてそう叫んだ。自分の中に埋め尽くしているその焦燥感を隠すことなく、いや、とても抑えることなんてできなかった。

 

「お願いだから…お願いだから‼‼僕はもう、置いてけぼりは嫌なんだよ‼‼」

 

あの瞬間。龍鬼くんと眼が合った瞬間、自分の中を駆け巡ったあの感覚。焦燥、後悔、懇願、悲願、何かを強く、どうしようもない程強く求める感情が僕の中を埋め尽くした。何でそう思ったのかは、分からなかった。けれど、そんなことどうでもよかった。僕の奥底から、魂から叫んでいるんだ。

 

もう二度と…二度と離してはいけないんだって‼‼

 

「龍鬼くん…ルキくん‼‼お願いだから…お願いだから‼‼」

 

必死に懇願しながら僕は走った。だが、その必死さのあまり戦いの中で出来た大穴に足を滑らせてしまいそのまま陥没していた場所へと転がり落ちてしまう。

 

「…る…き…くん…。ルキ…」

 

既にかなりの時間走り回っているのに全く龍鬼くんの姿が見当たらない、加えて身体は先ほどまでの戦闘の為にボロボロ、感情とは裏腹に僕の身体は梃子でも動きそうになかった。悔しい、その感情だけが僕の中を埋め尽くし両目から零れ落ちていく。

 

そして。

 

そんな絶望している僕の目の前に突如としてそれは現れた。

 

「…な…に…」

 

それは、方角でいうならば東。正確には、陽が昇り始める方向にあった。どうしてそれが直ぐにその方角にあったということが理解できたのかは分からなかったがそう直感した。瓦礫で埋め尽くされている、ましてや破壊されて完全に陥没したこの場所に、似つかわしくないものがそこにはあった。

 

それは扉のように、見えて、門のようにも見えた。だが、一番当てはめるものがあるとするならば、それは…。

 

「……鳥…居」

 

そう。そこには、確かに鳥居があったのだ。清美な白に彩られ、荘厳な趣を持った巨大で、それはそれは立派な鳥居だった。

 

そして。

 

その鳥居を見た瞬間、本来その先には決して映らない光景を目にして。僕は完全に飲み込まれる。

 

本来ならば、瓦礫の山が積み上がっている光景が広がっている筈の鳥居の向こうに僕は別の光景を目にしていた。

 

始まりを讃える雨が降りしきる、宝陽に満ちたどこまでも美しく、暖かく。僕自身が待ち望んでいた、求めてやまなかった、絶対に辿り着くと親友とお互いの魂に誓った大切な世界を。

 

『……親友よ。君には、まだ少し早い』

 

そして、気づけばその鳥居を潜ろうと手を伸ばしていた。完全に飲み込まれていた僕を優しく語りかける声と共に掴まれた手が引き戻した。僕はそのことで我に返り、直ぐに自分の手を取った人物を見た。

 

『……見事。実に見事だった。君たちは、宣言通りに。私を見事打ち倒してみせたな』

 

先ほどまでの姿とは違い。何時もの見慣れた雄英の体育着を着込み、穏やかな笑みを浮かべいる龍鬼くんの姿があった。

 

「……ルキ、くん」

 

前髪が雨水に溶けて消えていったことにより露になったその素顔。消すことのできない傷と戦いによりたたき上げられてきた顔。幾重もの呪を背負ってきた親友の顔。何よりも、僕に向けられるその眼。強く、その奥底にある隠しきれない優しさと、暖かく、何時も自分も見守ってくれていた。自分を、信じて全てを打ち明けてくれた。共に戦うと決めた。共に歩んでいくと、生きていくと決めた人の眼。

 

その眼を、僕は知っている。彼の顔を両手で包み込むように触れた、何度も何度もそこに存在していることを確認するかのように彼の顔をさすった。

 

「何…で…。どう…して…。僕は…、君の事を…。全部…、全部知ってる筈なのに‼‼」

 

止めどなく思いが溢れた。知っている筈なのに。全部分かっている筈なのに。何かが、僕の邪魔をするかのように立ちふさがって。大切なことを、ルキくんと紡いだあの日々を…。思い出すことを阻んでくる‼‼

 

必死にそのことを伝えようとする手を伸ばす僕に対して、龍鬼くんは暖かく抱き寄せた。

 

『……遥か昔、お前が俺にこうしてくれた。だからこそ、あの時お前がしてくれたように。今度は俺が受け止めよう。大丈夫だ、ララバイ。…何れ…分かる時が来る』

 

溢れ出る思いに押しつぶされそうになる僕に対してそう言いながら、龍鬼くんは僕の顔を自分の胸に優しく抱きしめた。抱き留められると共に、先ほどまで痛みで動かなかったからだから痛みは急速に退いていった。

 

そして、そんな龍鬼くんの腕に抱かれて、他の生徒たちが歓声を挙げている中で、僕は龍鬼くんの胸の中で只管に泣いた。

 

後悔、懺悔、懇願。抑えきれない程の激情が僕の中からあふれ出した。

 

そんな僕の事を。龍鬼くんは、安心させるように、受け止めるように、僕が落ち着くまで抱きしめてくれていた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暫くして後、龍鬼は自分の来ていた体操ジャージの上着を天峯に羽織らせるように彼女の肩にかけた。ある程度、感情を吐き出すことで落ち着いた彼女の手を引きながら。龍鬼は緑谷たちのいる方へと向かった。

 

先ほどまで勝利の余韻に浸っていた生徒たちは、その後龍鬼と天峯の姿が確認できないことに気付き、直ぐに探し回ろうとしたが。そんな彼らに龍鬼は天峯を連れて合流した。

 

今日何度目か数えるのも馬鹿馬鹿しくなるくらいに龍鬼の常識外れ具合に驚愕してきたが。再び、自分たちの前に現れた龍鬼の姿に驚愕した。

 

あれだけの攻撃を受けて、自分たちの全力の一撃を受けたのにも関わらず。その姿に、傷らしい傷も、疲労の色も一切なかったということもあったが。今まで自分たちの見ていた姿とは全くの別人と言っても差し支えない程に変わっていたのだから。

 

前髪が雨に溶けた事と、何時も付けていた口当てが取れたことによって露になったその素顔。もう数えるのも馬鹿馬鹿しいくらいに古傷によって、彩られたその身体。だが、それに反比例するかのような穏やかな空気を纏い、落ち着き払っていた。そう、それは表現するならばまるで。幾年も長い時間の中を、ずっと何かの為に、自分の全てを賭して戦ってきた、漢の姿だった。

 

その表現が、生徒たちの龍鬼に対する評価として最も当てはまっていた。余りの変わりように、生徒たちは思わず息を飲んでいた。

 

『緑谷出久君。君は見事に、君の学友たちと共に私を打ち倒してみせたね。本当に、よくやってくれた』

 

驚愕する生徒たちを他所に、戦いで傷ついてオールマイトに抱きかかえられていた緑谷に手をかけて、龍鬼は角を光らせて力を発動する。淡い光を出しながらそれは、戦いで傷ついた生徒たち全員へと波及していった。

 

「おい、何だこれ?」

 

「き、傷が、塞がっていく?」

 

生徒たちに広がり、流れ込んだそれは。見る見るうちに、生徒たちの全身に流れ込むようにして行き渡り。その傷を塞ぎ、疲労感を癒していった。

 

「龍鬼…君、何時ものやつだね。ありがとう…」

 

放課後の訓練で何時も受けていた龍鬼のその術によって、立てるぐらいまでに回復した緑谷はオールマイトから降りて龍鬼の前に立った。

 

『受け取って欲しい、天叢雲龍の第一の枷を越した者の証だ』

 

そんな傷が癒えたことにより、立ち上がることの出来るようになった緑谷に。龍鬼は、何時の間にか彼の左脇に抱えられていた細長い布の包を、緑谷に対して渡した。

 

「……る、龍鬼君、一体これは?」

 

緑谷が手渡されたそれには、それなりの重みがあった。そしてなにより、紐で結ばれたそれは、持っているだけで両の手から伝わってる凄みのような感覚を覚えた。まるで、何か強大なモノを封じているかのようにというのが適切だった。

 

『時期が来れば分かるが、それは君たちの強さに合わせて最も助けとなる形に変わるモノだ。これからの君たちには、必要になる。封は明日切りなさい』

 

そう言いながら、龍鬼は今度は緑谷だけではなく。この場にいる生徒たち全員の顔を一人一人見渡した。

 

『君たちの望み通りだ。形はどうあれ、君たちは見事現時点での全力の私を打ち倒してみせた。きちんと話をしよう。勿論、ある程度言える所までではあるが、ね』

 

見事自分を打ち倒した、勇ましき者たちを讃えるように龍鬼は言葉を紡ぐ。その言葉に、今まで抱いていた畏怖や威圧感とは違い、何処か安堵感を覚える生徒たち。

 

そして、そんな生徒たちの姿を確認して。それを言い終えると龍鬼は自身の両手を前に差し出した。

 

『しかしながら、それはまた後日にしよう。とりあえず、今日は自宅に帰れそうにないのでね…』

 

唐突な龍鬼の行動ではあったが、龍鬼が両の腕を前に差し出した瞬間。どこからともなく、巨大な手錠が龍鬼の腕に飛び込んできた。そしてそれと同時に、龍鬼の四肢にワイヤーが絡みつき拘束してきたのだ。

 

『……まあ、あれだけ目立ったんじゃ。当然の措置じゃのぉ』

 

突然の展開に、動揺する生徒たち。龍鬼の手に飛びついてきたのは、自分たちもよく知っている対敵用の特殊な手錠、しかも自分たちが見たことも無いような巨大で頑丈そうなモノであった。そして、動揺する生徒たちのことをお構いなしに、龍鬼は自分を取り囲んでいる面々に目を向けた。

 

「……聞き分けが良くて何よりだな。やはりべストジーニストやヨロイムシャの情報通り、その性格に関しては寧ろ理性がしっかりしてこちらの話がきちんと通じるようだ」

 

「あれだけの異能を持ちながら、それに飲まれる所か完全に制御している。若いのに大したものね、と言いたいところだけど…」

 

「…あのデータ通りの、見た目通りの年齢ならばな…」

 

「みんな気を抜くな…あのオールマイトの攻撃をはじき返す程の実力者だ…」

 

雄英の生徒たちを取り囲むようにして、複数のプロのヒーロ達。鯱の顔を持つスーツ姿の大男、ファンタジーの中に出てくる竜と同じ姿の麗美な女性、忍び装束に纏った鋭い目つきの男に、腕に盾を構えた戦士風の男。他にも、それなりの数のヒーロー達が、各々のコスチュームを身に付け剣呑な雰囲気を作りだしていた。それは文字通り臨戦態勢の状態で、龍鬼を睨みつけているようだった。

 

「ギ、ギャングオルカに…り、リュウキュウ‼‼」

 

「それだけじゃない‼‼エッジショットに、クラストまで‼‼」

 

「凄い…ヒーロービルボードチャートのトップ10のプロヒーロー達がこんなにも‼‼」

 

自分たちの目標としているプロのヒーロー、その中でも数あるプロのヒーローの中でもトップ10に入る実力者たちの登場に色めき立つ生徒たち。しかし、突然の彼らの出現と龍鬼を拘束するというその行動に違和感を覚えた天峯は、直ぐに拘束されている龍鬼を庇うように立ちはだかり彼らに向かって声を上げた。

 

「ちょっと待って下さい、一体どういうことですか⁉何で、龍鬼くんを拘束するようなことをしてるんですか⁉これじゃまるで…龍鬼くんが敵みたいじゃないですか‼‼」

 

傷ついた自分たちを救助しに来たというのなら一応説明は付くが、これだけの実力者がそれだけの為に集まるとは考え難い。それに、助けに来たはずなのに龍鬼を拘束するという行動も意味が分からなかった。

 

そんな混乱している天峯の前に、轟の父でもありプロヒーロー№2の実力者でもあるエンデヴァーが歩み寄った。

 

「日本政府からの命だ。日本国に対して、極めて重大な脅威の可能性がある雄英高校生徒、蘇我龍鬼を直ちに拘束せよとな」

 

酷く低い声で、エンデヴァーが天峯にそう告げた。

 

「なん…ですか…それって」

 

余りにも急展開過ぎる状況に天峯の頭が追い付かなくなっているが、そう言い終えるとエンデヴァーは警戒の色を隠すことなく龍鬼を睨みつけながら彼の前に立つ。

 

「国に申請された書類では、個性持ちと記載されていたが。もう既に、貴様が無個性だということは調べがついている。それに関わらず、我々も見ていた通りお前は個性と遜色ない異能を持っている。それも、我々プロのヒーローが全員で挑んたとしても勝てるかどうか怪しいレベルのモノをな」

 

鋭い眼光と共にその言葉には相手を威嚇する覇気も込められていた。そしてエンデヴァーだけでは無く、他のプロヒーロー達も同様に何か不測の事態が起きた時に備えて、何時でも戦闘を開始できるように身構えていた。それは正に、凶悪ヴィランと対峙した時の姿そのものだった。

 

「何の権利でそんなことを‼‼龍鬼君は僕達と同じ雄英の生徒なんですよ‼‼」

 

そんなプロヒーロー達の放つ威圧に完全に生徒たちが飲まれている中で、龍鬼の御蔭である程度傷の癒えて動けるようになった緑谷は、天峯と龍鬼を庇うようにしてエンデヴァーの前に立ちはだかった。

 

「…緑谷出久。お前も分かっている筈だ、そして体験した筈だ。その男が見せた得体の知れない、個性とは全く異なる異能の力を。何よりも、お前たちの反応を見る限り。あの姿の事も、親しい筈のお前たちに黙っていたのだろう。そんな男を、ヒーローとして見過ごすわけにはいかない。後は、我々に任せておけばいい」

 

ドスの効いた声と共に、緑谷を睨みつけるエンデヴァー。最もなことを言ってはいるが、要するに邪魔だから自分たちにどけと言っているのは直ぐに理解できた。だからこそ、緑谷は一歩も退くことなく。友人である龍鬼を庇っていた。そして、その緑谷の行動に。動揺していた一部の生徒も我に返り、心操や尾白、轟も緑谷と同様にエンデヴァーの前に立ちはだかった。

 

「…これエンデヴァー、そんなおっかない顔をしていれば。幾らお主とて、警戒されてしまうだろうに」

 

「ヨロイムシャの言う通りだエンデヴァー。ここは私たちに任せてもらえないだろうか?」

 

そんなエンデヴァーと生徒たちのやり取りを見かねて、二人のプロヒーロー達が仲裁に入った。一人は、全身に武者鎧を身に付けた老齢の吾人、もう一人はデニムによって統一されたコスチュームを身に纏った紳士であった。

 

「ヨロイムシャ…ベストジーニスト…」

 

「蘇我君は私たちの動きも把握したうえで、態と身柄を差し出すように行動した。つまり、彼も我々との対話を望んでいる。これ以上、戦う意志はないだろう」

 

「同感だ、彼奴の性格を考えれば。もし何かしら良からぬ企てがあったのだとすれば、態々自らの手を晒す愚行は起こさぬ。それこそ、やろうと思えば。あの力があるなば、もっと効果的な場所で使用する。彼奴は、そこらの者より頭の出来が違うのだから」

 

二人の言葉に、今の自分ではらちが明かないと悟り深くため息を付いたエンデヴァーは後ろへと下がる。それを見届けた二人のプロヒーロー、ベストジーニストとヨロイムシャたちが緑谷たちに語りかける。

 

「緑谷君、それに天峯さん。君たちの意見も最もだ。この国自体が、個人の意思や主張に関係なく。存在そのものが脅威だということで、拘束して無力するというのは。余りにも、強引であるし、早計に感じるのも無理はない」

 

「だったら、尚更何故です‼‼」

 

「しかし、我々も国に属しているヒーローである以上。この国の意向には従わねばならない。この国の平和と秩序の維持の為に…というのが理由になるな」

 

ベストジーニストの優しく、そして残酷で重い言葉が緑谷たちに圧し掛かる。日本の公務員であるプロヒーローとして活動している以上、国が危険であると判断した決定には従わなければならない、自分たちが目指すそれから言われたその言葉に思わず後ずさってします。

 

「そんな…そんなのって‼‼」

 

「…だが、君たちの感じている通り、流石に罪も犯していない子供を拘束というのはやりすぎだと思っている。故に蘇我龍鬼には、お願いという形で我々に同行してもらうということになったのだよ。本人には、お主たちが最後の競技に参加する前に、事前に了承済みだ…」

 

そんなプロヒーロー達の言葉に、緑谷たちは驚いたように龍鬼の方に顔を向けた。そんな不安がる緑谷たちに向かって、何処か安心させるように頷きながら。龍鬼は自分を庇ってくれている緑谷たちの前へと出て、ベストジーニストたちの方へと歩み寄った。

 

「そんな…。こんなのって、こんなのいくらなんでも酷すぎるよ‼‼」

 

自分の友人が、自分と支えてくれた友人が。謂れのない罪で何処か遠くへ連れていかれてしまう。そんな思いで埋め尽くされた緑谷たちは、龍鬼を引き留めようと必死に手を伸ばす。しかし、そんな彼らの手を自分たちが一番信頼する存在が受け止めた。

 

「…何…で…。お、オール…マイト?」

 

自分たちの行動を止めた、最高のヒーローのその姿は先ほどまでの喜びに満ちたものではなく、苦悶の表情に満ちていた。

 

「すまない。生徒たちよ…今は。どうか今は…耐えてくれ」

 

何時も聞きなれた声色とは違う。重く、そして確かな威厳と後悔によって紡がれた言葉に。生徒たちは有無を言わずに納得せざるを得なかった…。

 

『お久ぶりです、袴田先生、鎧矛先生。直接お会いするのは、去年の道極での講演会依頼ですね』

 

「…謝るくらいなら、事前に相談して欲しかったが…まあ彼の者たちの文から判断にするに。貴殿があの姿になったのも納得だ。状況は急を要してることには間違いないからな…」

 

「すまない、蘇我君。事情を知らない他のヒーロー達を含め、納得させるために形だけだが受け入れてもらえないだろうか」

 

『目立ったのは自分です、汚れ役をさせてしまったこと。申し訳ないです』

 

「詳しくは道中で話そう。現在進行形で、各地の聖域を潰して回ってくれているミルコの件もある。君には、この先の事も含めて。オールマイトやエンデヴァーたち他のプロヒーロー達と、一度状況を共有しておきたい」

 

幾つかのやり取りを躱し、龍鬼はベストジーニストたちに促されるままに演習場を後にしようとする。生徒たちは、以前状況を飲み込めないまま一連の流れを見ていることしかできなかった。

 

『……龍鬼、ルキ。僕、僕は。また君に……君にまた呪を…』

 

他の生徒たち同様に、何もできないまま龍鬼を見送ろうとしていた天峯。だが、そんな彼女に龍鬼が不意に言葉をかける。

 

『泣くのはまだ早いな、親友よ。お前も一緒に来てもらうのだから』

 

気付けば、天峯の前に龍鬼が立っていた。龍鬼は、ベストジーニストたちに目で合図を送り、龍鬼の言いたいことを察し、彼等の隣に歩み寄ったヨロイムシャが優しく天峯に語りかける。

 

「…天峯さん、だったな。良かったらお主も一緒に来ると良い。一応、お主の個性についても聞きたいことがあると、さる人物から言伝をもらっているのでな」

 

「…で、でも…」

 

ヨロイムシャからの提案に。龍鬼の傍から片時も離れたくない、今すぐにでも飛びつきたかった天峯であったが、他の生徒たちを残して自分だけ行って良いものなのかと後ずさってしまう。

 

「唄手ちゃん、ここは行かないとダメノコ」

 

「そうだよ唄手、彼奴と話したい事あんでしょ?」

 

「希ノ子、響香…良い…のかな?」

 

この体育祭を通じて自分と仲良くなった二人の女子生徒たちが天峯の背を押すようにしてそう話しかける。そして、その言葉と共に。今度は緑谷やオールマイトたちが更にその背を押すように語りかける。

 

「天峯さん、僕たちからもお願い。龍鬼君には、まだまだ聞かないといけないことが沢山あるんだ」

 

「行ってくれ天峯少女、私も後で合流する。それまで、蘇我少年の事をよろしく頼む」

 

周囲の他の生徒たちを見てみれば、皆が同じような思いを目に宿らせて天峯を見つめていた。天峯は決心が付き、龍鬼の隣に立つとベストジーニストたちに促されるままに、演習場を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

動き出す者 ガチバトル 終

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





はい、漸く体育祭編というか。映画でいうのなら、冒頭のプロローグが終りタイトルが出た所くらいまで書けました。

漸くというか、私が遅筆のため展開が遅いというのが大半の理由ですが…。

次章から、いよいよ主人公を含めた怪獣たちが本格的に関わってきますので。

色々再度物書きについて勉強しながら書けていければと思います。

では、また次回にお会いしましょう。
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