はい、皆様お久しぶりです。作者です、本業が忙しすぎて。中々手を付けることができず投稿が遅くなってしまいました。
待っていた方、本当に申し訳ありません。今回から色々と怪獣たちに関わる情報や、世界観に関わる情報が幾つか出てきます。
そのうち、公開できる情報集みたいな形でまとめますので、それをお待ちいただければと思います。
では、本編をどうぞ。
『……でさぁルキ、さっきの続きなんだけど。結局、僕たちの将来ってどうなると思う?』
鐘龍館で先輩たちとバカみたいに騒ぎ倒した打ち上げも終わって、帰路に着いた僕たち。歩きなれた家路を二人で星を眺めながらゆっくりと歩いていた。
『そうさな。まず前提としてだ、今度の戦いが無事に終わったなら旅立ちの日までの数十年は自由だろうから。何処かの会社に入って普通に社会人をやるのもよし、大学や専門学校行って4年間普通に学生をするのもよし、有り余る報酬を武器に旅人として世界を旅するのもよし、あるいは界獣として宇宙に飛び出してみるもよし、何でもありだ』
『火星は行ってみたいね~。先輩たちやガキども引き連れてリアルマインクラフトでもしてみるかな?』
深夜の帰り道、生き物のさざめき響き蛍火灯り野草が仄かに香る田園道の中を満天の星空を眺めながら自分たちの将来について大切な親友と語り合う。うん、凄く青春していて良い感じだ。
『それもアリだな、ただまあ宇宙空間で俺たちがどれだけ活動できるかはまだ未知数な部分が多いし、最初は慣らしだろうな』
そう言いながら、僕たちは手をつなぎながらゆっくりと歩く。その行為だけで、凄く安心するし心が満たされるのが解る。
『そうだね、この前の豆の木時は意外と慣れてなくて不自由したしね……』
でも、こうやって気心の知れた親友の存在を肌で感じながら他愛のない会話していると決まって急に寂しさが襲ってくるものだ。夏の夜だからってのもあるかもだけど。これも、青春なんだろうなと思いつつ親友の存在をもっと感じるために身体を寄せる。
『……うん。とりあえずは、今度の戦いが終わった後に改めて道を決めるとしてね。その前に、さ。ルキ……、僕たちいい加減さ、やるべきことがあると思うんだよね?』
夏の暑さだけではない、明らかにほてりを感じつつもお構いなしに腕を絡ませて、親友へこれでもかと身体をくっつける。
『……言っただろ、ララバイ。情けないことにまだあの2人のことを引きずってるんだよ、俺は。この状態のまま、お前に告白したくない。お前に申し訳ないし、失礼すぎる』
『む~。そう言って何時もはぐらかす、そんなこと言ってると僕取られちゃうよ?』
相も変わらず、何時もと同じ調子ではぐらかされる回答。さっきまで鐘龍館で先輩たちからも散々ケツを叩かれているというのに何時もこうだ。抗議するように、頬を膨らませてジト目で親友を見る。
『心配するな、取られた思った翌日にはその取った人間がぼろ雑巾になって道端にころがってるだろうさ』
『誰が猫かぶった傍若無人暴れん坊天上天下唯我独尊系女子だって。泣かしてやるから表出ろ、クソ童貞』
『もう表出てる定期。というか自覚あるなら少しは俺や先輩たちに接するように他の奴にも接してやれ。一生誤解されたままだぞ』
そう言いながら彼は絡ませていた腕をほどき、誤魔化すように僕の頭の双角を優しく撫でてから徐に僕の前へと屈んだ。僕の足取りがさっきまでの馬鹿騒ぎで疲れて少し重くなっているのを察してくれたのだろう。僕はそのまま促されるままにルキの背に負ぶさった。
『……今更キャラ変えたくない、メンドいし……』
そう言いながら、今度は僕が誤魔化すようにルキの背中に顔をうずめる。相変わらず、雨の匂いが染みついた大きくて頼りになる背中、僕だけの特等席だ。
『……まあでもよ、こんなこと言っている癖に。そんなお前もアリだと思ってしまう辺り、俺もあの二人のことを。大分乗り越えてきたんだと、そう思うのさ』
そう僕に言う親友の鼓動は、何時もより少し早く聞こえた。そうやって仕方ないなと素直になれないながらも、僕のことを大切に想ってくれる。その言葉だけで、僕の心はいとも簡単に満たされていた。
『むふ~、この偉大で可愛い幼馴染に大いに感謝するが良い』
この親友との時間がこれからもずっと続きますようにと、ある種の核心をしながら僕は龍鬼の背に身を預けて目を閉じるのであった……。
嘘つきめ
ずっと一緒だって
約束しただろうが
「……どうララちゃん?何か思い出せた……?」
天峯が次に目を開けると、前回眠りから目を覚ました時と同様に緑色の可愛らしい顔が心配そうにこちらを覗き込んでいた。
「……おはよう……ございます、リトルさん……」
自分が寝かされていた祭壇から、ゆっくりと体を起こす。
「……良かった。大分深く潜っていたから帰ってこられるか心配だったけど、無事に帰ってこられたようだね」
リトルは天峯の無事な様子を見てほっと胸をなでおろした。本当の自分のことを思い出すため、怪獣リトルの手助けも借りながら、彼女の深層意識である魂の底へと潜り自分を縛り付けていると言われる枷を取る作業を行っていた。
「……やっぱり、僕は龍鬼君のことを知っていたんだ。ずっと、ずっとずっと前から……。なんで忘れてたんだろ、こんな大事なこと……」
自分の魂の中に潜り見て、触れた古く懐かしい感触。その全てが虚像でも誰かに植えつけられた物でもない。紛れもない、自分にとっての真実であると理解し受け入れている中で、そのことを忘却してしまっていた己を責めて、天峯は思わず俯いてしまう。
「こら~、落ち込むのも自分を責めるのも無しだよ‼ララちゃんは、忘れていたんじゃなくて“忘れさせられていたんだよ‼”ララちゃんのせいじゃないんだから全然気に病む必要はないんだからね‼‼」
そんな落ち込む天峯の頬を小さなその両手でむにゅっと優しく摩りながら労うリトル。自分のことを励ましてくれている愛らしいその姿を見て、思わず力が抜けてしまう。静かに笑みを浮かべながら、お返しにその頭を撫でながら天峯がお礼を述べる。
「すみませんリトルさん、心配をかけてしまって……」
「謝るのも無し‼‼でもうん、そこまで思い出せたなら凄くいい調子だね(・ω・)bグッ!とりあえず、足がかりはできたからボクにできるのはここまでかな?」
安心した笑みを浮かべながらリトルが言い終えると、彼の頭上に何処からともなく翅色鮮やかなや1匹の蝶が表れる。
「リトルさん、色々ありがとうございました。龍鬼君とのこと、そして自分の事、少しずつだけど……思い出すことができました」
「大丈夫‼‼ミニラあんちゃんたちとの修行を切り上げて、ルキくんの雨界に本当に来たかいがあったよ‼‼」
会話を交わし終えると、リトルの頭上を舞っていた蝶から光の鱗粉が降り始め、彼の緑の身体が淡く光りだす。
「王国で待ってるからね‼‼これからもよろしくだよララちゃん、またね‼‼」
満面の笑みで別れの言葉を言い終えるとリトルの身体はそのまま光の粒子となって、蝶と共に上へと昇って行きながらその姿が消えていくのだった。
『……若君は、お役目を終えて国に戻られたようだな。それで友よ、魂の内側からの旅から戻った調子はどうだ?』
ふうと一息つくと、自分の寝かされていた祭壇のある部屋の入り口で人間の姿になっている龍鬼が腕を組みながら様子を伺っているのが視界の端に入った。
「龍鬼……くん」
正面からお互いを見つめる、雨の瞳と蒼の陽だまりの瞳が交差する。そして、龍鬼はそのままゆっくりと天峯の横へと歩み寄り腰を掛けた。
「……ねえ、龍鬼くん。なんで、雄英で逢った時に言ってくれなかったの?」
暫しの沈黙の後、天峯は龍鬼にそう静かにそして強めに語りかけた。
隣にきた龍鬼の腕に自分の腕を絡ませて身体をこれでもかと強く寄せる、記憶の中で見た嘗ての自分と同じように。
『友よ、若君からも聞いたと思うが自らの力で枷を外して思い出すことが重要なんだ。事実、今の君は枷を幾つか打ち破ったことにより嘗ての状態に戻りつつある』
そう言いながら、龍鬼は天峯の頭にあるそれに振れた。
「え、なに。ってこれ…、角……?って、そういえば元々の僕にはあったものだもんね」
龍鬼に頭を触れられたことによって感じた違和感、すぐに天峯は自分の手で確認する。短いながらも列記とした龍角が2本、夢の中の嘗ての自分と同様に頭に生えていることに気が付いた。
『大分色が褪せているし、ボロボロだ。この界に至るまでに大分無茶をしたのだろう。しかし私の祓いの雨も浴びたことだ、時機に元の立派な虹の双角に戻るだろう』
懐かしむように龍鬼は口にして、そして天峯の腕を優しく取りながら共に立ち上がる。そうして改めて、正面からお互いを見据えあった。
『天峯、改めてになる。君の言う通り、私たちは雄英での出逢いが初対面ではない。遥か古、こことは別の界で。私たちの故郷で、俺たちは友だった』
「…うん」
自分の夢の中で見た時よりも傷だらけで雨でも拭えぬほど重みが増した龍鬼の両の手を天峯は自分の両の手でしっかりと強く握る。
『まだ君は当時の事や今までここに至るまでの旅路など思い出せてないことが多くあるが。その中の一つに、私は君に対してある誓いを立てたに関わらず、酷い嘘を君についてその誓いを反故にしたことがある』
「……うん」
でも、触れ合うだけでは、言葉を交わすだけでは。それだけでは積もりに積もった情念を、今自分の中に渦巻いている激情を満たすには全然足りない。
『言い訳はしない、全ては当時の私の力がなかったことにある。君が全て思い出した時、改めて謝らせてほしい』
「………うん、絶対にゆるさない」
自然と彼の胸に耳を当てる、確かに感じる鼓動を、暖かさを、あの時よりも濃くなってしまった雨の匂いを、これでもかと自分の全てに刻みつける。
『……赦して欲しいとは言わない、私はそれだけのことをした』
静かに鳴り響く祓い清める雨の音が2人だけの時間を満たす、それ以外は必要なかった。
そうして、互いがそこにいるという確かな事実を己の魂に刻み付けた。
「……全部思いだしたら、一発殴らせろ。マジのグーパンだからね。あと、あの時の約束はちゃんと守ってもらうよ。君の全部は僕が貰うから、“あの2人”には絶対渡さない。ルキは、僕だけのモノなんだから……」
『何発でも殴ってくれていい、思いのタケをぶつけてくれって……。おいちょっと待て、ララバイ。お前まさか、あの2人に逢ったのか?』
「隠し事ばかりのヘタレの童貞野郎には教えませんよ~だ」
改めて約束を結び直す2人。互いの顔を改めて見合う、涙を拭い嘗てと変わらない挑発的で小悪魔的で生意気で最強で無敵な笑みと、静かだが成長したことでこれまで以上に大きくて頼もしく見えるようになった最高の笑み。
そうやって2人はお互いの存在改めて噛みしめながら、短い再会の儀式を終わらせる。
『……まあいい、君の覚醒への道筋がある程度を見えたことだ。一旦、緑谷たちの界に戻るとしよう。彼らも、私たちに対して聞きたいことが山ほどあるだろうからな。“今はそれでいいかな、天峯さん“?』
「そうだね、“今はそういうことにしといてあげるよ龍鬼くん”。とりあえず、戻るまでずっと僕のことをぎゅっと抱きしめること。あと、僕への惜しみない賛辞を耳元で囁き続けること、あとはぁ~」
言葉でもっと伝えたいこともあった、やり残したことも山程あった、刻み付けたいことも海程あった、でもその全てを今は飲み込もう。
『色呆けてないでさっさと行くぞ生娘。それとも、一人で私の雨界から戻る気か?』
「あ、こんな可愛い幼馴染をおいていくな薄情者~⁉」
漸く、また逢えたのだ。まだ思い出せていないことも沢山、沢山あった。
だが、それでも。
もう二度と離れたりしない、握りあったこの手を放しはしない。
あの時。
役目を終えて旅立つ親友を見送ることしかできなかった弱かった自分に報いるためにも。
天峯は、そう親友の手を強く握り思うのだった。
英雄としての在り方 参
「では、順を追ってご説明させていただきます。がその前に、皆様に前提知識として伺いたいことがあります。皆様は、多元宇宙論(マルチバース)という言葉をご存じでしょうか?」
「……知ってるぜ、アニメとか日朝の特撮なんかでよく出てくる設定だろ?」
「世界は1つではない、私たちの住んでいる宇宙とは他にも。異なる歴史、異なる文明、異なる進化、異なる技術を発達させた異世界が幾つも存在するって話でしょ?」
「はい、その認識で間違っていません。そして、そのお話は決して机上の空論でも創作上のお伽噺ではありません」
吐き出された煙露が幾つもの小さな丸となって、それぞれが赤や青、緑といった形で色付けされて宙へと浮かび上がる。
「私たちの生まれ住むこの世界、それは数多存在する並行世界の1つにしかすぎず。他にも数多くの異世界が存在します、それら個別の世界のことを我々は、界(かい)若しくは現世と呼称しております」
「つまり、並行世界という物は創作の中の設定ではなく。実際に存在していて、俺たちの世界以外にも沢山の世界が存在するということか?」
「科学の発達している世界、異能が発達している、魔法が発達している世界、とその種は多種多様。まさに無限に思える可能性、それら無数に存在する界を包み込む巨大な宇宙のような空間のことを、我々は大界(たいかい)と呼んでおります」
沢山の丸を空へと打ち上げる、それは夜空に浮かぶ星の海のようにそれらを無数に輝く。つまり、自分たちが宇宙の全てを想像できないように、それこそ果ての存在しないような途轍もなく広大な空間が存在しているということだった。
「そして、それぞれの界はそんな広大な大界で形を保つために幾層にも重なる防壁、天蓋(てんがい)を持っております。所謂、世界の壁という物ですね。勿論、我々の世界にもそれは存在しております。皆様、ここまでのお話は如何でしょうか?」
しかしながら。あまりにも壮大でスケールが大きすぎる話、加えて自分たちの常識では考えられないような突飛な話。
それ故に生徒たちはついていけておらず、相も変わらず半信半疑といったようで困惑を隠せなかった。
「どうって言われてもなぁ……、突拍子がなさすぎて。正直、頭大丈夫かとしか思えねぇよ……」
「お前の姿や目の前の光景が騎馬戦の時に蘇我が見せたような幻じゃないし夢なんかでもない。それは理解できるんだけどなぁ……」
「いきなり私たちの世界がもうすぐ滅びますって言われた後に。急に並行世界だとか、それを飲み込む程の馬鹿でかい空間があるって言われても……」
「スケールが大きすぎて実感がワキマセン……」
「アナタの言葉、嘘を言っていないのは解るけど。全てが本当だと、信じる材料が恨めしいことに私たちにないのよね」
お前は何を言っているんだ、所謂宇宙猫状態で全く信じられないし受け入れられないといった表情で反応する生徒たち。それを当然というように、苦笑いを凪は浮かべた。
「ですよね……、急にこんな訳の分からないところに連れてこられた挙句、皆さんの常識からすればこんな創作じみた話をしているわけですし。幾らこの姿を晒したとはいえ、簡単には信じられませんよね。ですので、証拠と言っては何ですが。皆様、下をご覧くださいませ」
そう言いながら凪は片手で今自分たちのいる砂原の砂を払い、眼下に広がる光景を見せる。
「今、私たちが居るのは間界(あいだ)と呼ばれる場所で。界と天蓋のある層との間の空間の当たる場所となっております」
自分たちの眼下に広がっている光景、広大な宇宙空間と共に数えきれないほどの銀河でひしめき合っている宇宙そのもの。正しく宇宙儀ともいえるような光景が広がっていた。
「おいなんだこれっ⁉」
「って、落ちる落ちる⁉」
「どういうことだこれ、俺たち宇宙の上に居るのか⁉」
余りの光景に思わずその場に尻餅をついてのけぞってしまう生徒たち。
「あ~、皆様。くれぐれも、下に落ちないように、と言いたいところですが大丈夫です。ここは一時的に間の空間に私の界を貼り付けた間界となっておりまして、皆様の力ではこの間界から離脱できないようになっておりますのでご安心ください」
そういうと改めて、地面の光景を砂で隠して話を戻す。
「では、お話の続きを。大界に遍く並行世界、その一つである私たちの界ですが。今私たちの界の天蓋がとある存在達によって破られようとしています」
再び、煙露がマトリョーシカのように複数の丸が重なっているように形作る。そして、その外から黒く巨大な塊が、出来た層を食い破ろうとするように変化していく。
「通常、膨大な情報の海である大界を移動し、天蓋を越えてそれぞれの界の中へと侵入することは尋常の存在には絶対に不可能とされています。もし、一存在がいきなり大界に生身で放りだされれば、存在事即座に崩壊し抜け出した魂は各界へと繋がっている巨大な界脈(かいりゅう)へと戻されるようになっております」
大界をイメージした空間に放り出された煙露の人形が跡形も無く砕け散り、淡い一つの魂が残されたと思うと。界と界をつなぐ大きな網目のようなものへと即座に吸い込まれて消えていく。
「しかし、何事にも例外というものは存在します」
再び大界に投入される人形、しかし今度は先ほどの人形とは違いそのままの形を伴い巨大な大界を自由自在に飛び回っていた。
「遍く並行世界、そしてそれらを包み込む大界の中を自由自在に移動できる絶対者と呼べる存在が、少ないですが実在します。それらの存在の1勢力が現在、我々の界の天蓋の外側から侵入しようと試みております」
やがて、人形は形を変形させていく。腕だったものは翼となり、両足には鋭いカギ爪、首は長くなり、頭は角ばっていく。
「目的はただ1つ、この界を自分たちの種族の苗床とすること。簡単に言えば、私たちという存在を喰らい尽くして、自分たちの卵を産むために襲ってくるのです」
それはやがて鳥の形になっていく、しかし鳥とは全く違う。銀色の羽毛のないやせ細った身体、蝙蝠を思わせる双翼、何処までも飢えた牙に、赤く充血した瞳。
「此度の大戦の相手、高次元存在にして絶対者である大怪獣の名を持つ者たちの1つ、大怪獣ギャオスが一族。我々は肉喰らいと呼んでいるこの種は大界の海を渡り歩く存在の中でも非常に獰猛で、狡猾で、残忍で、慈悲のないことで有名です」
それはまさしく怪鳥、化け物と呼ぶにふさわしい見た目であった。だがその瞬間、ギャオスの醜く恐ろしい姿を見た瞬間。初めてその姿を見たにも関わらず、生徒たちの中で激しい感情の揺さぶりが起きた。
「知ってるぞ……、俺知ってるぞ‼‼この化け物のことを⁉」
「なんで…?初めて見たはずなのに私、この化け物のこと知ってる⁉」
「……デジャブか。しかし何故だ、俺もダークシャドウもこの異形のことを見た瞬間から……」
「ウチも初めて見るはずなのに何だろう。見れば見るほど、凄く怒りが湧いてくる……」
それは、自分の身を激しく焦がすまでの圧倒的敵対心と絶対的嫌悪感だった。
自分の心の内側から、否、魂の内側からあふれ出したその感情。しかし、それが何なのか、何故湧きがってくるのか、それが解らず戸惑う生徒たちに向けて。凪は静かに、話の続きを始める。
「肉喰らいはイナゴの如く各界を蹂躙し、その数を今この瞬間にも増やしております。そんな中で、我々の界も奴らの狩場に選ばれた。既に、我々の住むこの界は無数にある奴らの群れの1つによって取り囲まれており、もう1年も経たずに天蓋が破られこの地球を門として肉喰らいの群れがなだれ込んでくるでしょう」
自分たちの界を覆い尽くす黒の大群、怪鳥の群れがその飢えに飢えた口を大きく開けて自分たちの界を防壁ごと飲み飲み込もうとする。やがて界を守っていた天蓋の層が食い破られて、怪鳥たちが大挙して界を黒く埋め尽くしていく。
「この地球を足がかりに界内のあらゆる空間へと飛び出し、形ある者、生きとし生ける者が住まう場所への侵略を開始がされる。正に多勢に無勢、大界を動き回れるほどの尋常の者ではない、高次元の存在、界の理の外にいる圧倒的な絶対強者、力の差は歴然、この界に生きとし生ける全ての存在の最後の一人までもが蹂躙され喰らい尽くされことになるでしょう」
やがて界を覆い尽くしていた黒は消える、しかしその後には何も残されておらず正しく無の場所となってしまっていたのだ。
『………』
あまりに無慈悲で残酷、あまりに救いのない結末。自分たちではとても敵わないような強大な敵が、大挙を成して今すぐにでも自分たちの世界にやってくる。その事実に、生徒たちは理解が追い付かず、否、理解することを拒むかの如くフリーズしてしまう。
「残念ですが、今まで私の言ってきたことは全て事実に基づいております。否定したくなる気持ちも解ります、見たくないと忌避する気持ちも解ります、信じたくないという気持ちも解ります。しかし既に、私たちの界内ではその兆しが表れつつあるのです」
そういうと、凪は生徒たちの前に複数の紙束を差し出した。生徒の一人がそれを一つ手に取って見ると、それは今朝の新聞の朝刊であった。そして、その見開きには。世界中で、近年発見が続いている巨大な翼竜と思しき化石について書かれていた。
「それは、奴らが嘗て我々の界が誕生したころに魂脈を通して送り込んできた自分たちの器です。それを器にこの界に受肉し顕現して、もし万が一天蓋の破壊に失敗した際には鍵として天蓋を内側から食い破る手はずになっております。お解りですか?既に、侵略の為の種まきは終わっているのですよ」
日本の新聞だけではない、アメリカ、ロシア、中国、オセアニア、ヨーロッパ、中東、アフリカ、様々な国の言語で書かれた新聞。だが、そのどれもがギャオスの器の発見について書かれていたのだ。
「そして、奴らは今この瞬間にも。我々の界の壁を食い破ろうと、天蓋の外側から気が狂ったように攻撃を続けております」
そう言いながら、凪は遥か上の方へと憎悪を持って見据えた。そして、その視線に合わせて生徒たちも視線を霞が払われた上の方へ向けられた。
「……嘘……だろ……」
そして、生徒たちは見てしまった。遥か頭上に広がる幾重もの巨大な天蓋の層、そしてその向こうから覗く、自らの視界を埋め尽くさんばかりの飢えに飢えて突き立てられた無数の牙と獲物を欲する捕食者の瞳が星々の如く煌めく光景を。
「これが、間もなく起きる災厄。雨の怪獣が皆様にお伝えしていた、大戦。文字通りの、この世の終わりです」
その光景を見せた後、凪は再び煙露を吐き出して頭上を覆い隠した後に生徒たちに視線を移す。
『……』
誰もが言葉を発することができなかった。
自分たちでは、如何することもできない。今自分の見聞きした全てが真実であるということを自分の魂から理解してしまったのだ。
あまりの事態に生徒たちは絶望で両ひざをつき、肩を震わせ、視線を下へと落とし、その事実から思わず目を背けそうになってしまう。
しかし、生徒たちが事実を受け入れて絶望によって諦めてしまっていたその瞬間。
轟という音と共にほとばしる熱が自分たちを優しく、そして励ますように包み込んでいくのを感じた。
「……これが、龍鬼君が僕たちに助けを求めてきた本当の理由ってことなんだね」
「……っち、あのクソロン毛が。こういうことは早く言えってんだ」
熱の発生源を生徒たちは見た。
熱く輝く首下の勾玉を握りしめて今まで語られた絶望的な状況を逆に噛みしめて臆することなく寧ろ強い決意を持った眼差しで応える緑谷と周囲を鼓舞して奮い立たせようと自身の個性を滾らせて熱を放つ爆豪の2人の姿があった。
「流石は護の一族に選ばれた者たち、呑み込みが早くて非常に助かります。既に各国の首脳やヒーロー・敵問わず、実力が抜きんでている者たちには同様の説明がなされております。そして、その全員が来るべき肉喰らいの襲来に備えての準備期間に入りました。猶予は持って半年、それが過ぎればいつ天蓋が崩壊しても、ギャオスの受肉が始まってもおかしくはありません」
「……遅くても来年の春には、始まるってことだよね」
「上等だ、何匹来ようが関係ねぇ。全員まとめて、ぶっ殺してやる」
余りにも無謀に聞こえるその言葉、しかしその言葉には確かに周囲の魂に勇気という名の熱を届かせるには十分だった。
その言葉を聞いてから、生徒たちの瞳に少しずつ色が戻り前を向き始めたのだ。
そんな生徒たちの様子を確認した凪は、再び自身の力を発生させて濁流を起こす。そして、生徒たちを飲み込みながら先ほどまでいた雄英高校の一室へと帰還させた。
「では、皆様。これからのお話をしましょう」
再び人間の姿へと戻った凪は、今度は教室のホワイトボードを使いながら生徒たちへ説明を始める。
「我々形ある者、生きとし生ける者はどんな最期を迎えようともその最後の瞬間まで生きるという権利がある。座して滅びを待つ必要はないのです」
そうして、凪は生徒たちに強く語りかける。
「戦いましょう、そのための準備を我々陽野家はしてきたのです」
緑谷たちと同様に凪は熱を持った言葉を届ける。だがその言葉を聞いても尚、生徒たちの表情に戸惑いの色が出る。生徒たちのその感情を代弁するように凪が語る。
「“あんな化け物の群れ相手に自分たちに何ができる”、その気持ちは十分理解できます。しかし、絶望する必要は全くありません。今回の対肉喰らいの大戦には、我々の側には奴らと同次元の力を持つ存在、雨の怪獣がついています」
そうだ、そもそもこの話を自分たちに持ってきたのは龍鬼であり。彼自身も、ギャオスと同様に怪獣という存在なのである。
しかし、その言葉を聞いたからと言っても。先ほどの天を埋め尽くすギャオスの群れの光景を見ている手前どうしても不安がよぎってしまうのだ。
「ご心配には及びません、まず前提としてですが。雨の怪獣は既に過去に何度も肉喰らいと対峙しておりその全てで勝利を収めてきております」
『その話、本当か⁉』
凪の言葉に生徒たちは揃って声を上げた。それは、今までの絶望的な話の中でも最も希望に満ちた内容だった。
「はい。しかし、雨の怪獣も単独で打ち勝ってきたわけではありません。志を同じくする多くの友たちが居たからこそ、負けることがなかった。だからこそ、我々陽野家は他の誰でもない。雨の怪獣が選んだ貴方たちに、このお話をするのです」
「……つまり龍鬼君は、最初から僕たちにこのことを話して協力を仰ぐために雄英高校に入学してきたってことだよね」
「……あのクソ害鳥どもぶっ潰す為の連れに、最初から俺たちに当たりを付けていたってことか」
合点がいったように緑谷と爆轟が言葉を零す。
「その通りです。雨の怪獣は、貴方たちを選んだ。怪獣を打ち倒すに相応しい存在、『勇ましき者』、その雛として」
そう言いながら、凪はペンを持ちホワイトボードに今まで話していた内容をまとめるように書き込んでいく。だが、そのまとめられた情報を一つ一つ見ていくうちに生徒たちの中では同時に新たなる疑問が生じていた。
「しかし、だからこそ。皆様の中には、当然新しい疑問が生じると思います。どうして、蘇我龍鬼という人物がそんなことを知っているのか。どうして、他の誰でもない自分たちを大戦の友に選んだのか。そもそも雨の怪獣とは、一体何者でどういう存在であるのか」
凪は生徒たちが思っている疑問を言葉にして、それに同意するように生徒たちは皆うなずいた。
「確かに、ギャオスっていう馬鹿みたいに強い敵が俺たちの世界の外から来るってことは理解できたし飲み込んだが……」
「そもそもどうして、そんなことを蘇我君が知っているのかが解らないままだよね☆」
「それに、蘇我がアンタと同じ怪獣人類ってやつ?で、同じ怪獣のギャオス族と敵対してるってのは理解したけど、そもそも彼奴って一体何者なの?」
「一佳の言う通りで、そもそも彼奴がどんな奴で。何で態々プロのヒーローですらない私たちを選んだのかが解らないままだし」
「それに、唄手ちゃんとの関係もノコ。あの二人、とても体育祭が初対面だと思えないノコ」
「龍鬼の天峯さんに対する様子を察するに、恐らく彼女も怪獣たちに何かしら関わりがある人物なのは間違いないと思うけど……」
「……確かに、ウタの方も。明らかに初対面って感じはしなかったしね」
「寧ろ、長い間離れ離れになっていた大切な人と思いがけず再会したようなそんな印象さえありましたわ……」
一通りの説明を聞いて、ある程度世界の危機が間近に迫っておりそれが嘘偽りのない真実であるということは飲み込んだ。
しかしながら、だからこそ。そもそも自分たちにこんな話をする龍鬼という存在はいったい何者なのか疑問が増すばかりだった。
「そうですね。まずは皆様に世界が今途轍もない危機であるということをお伝えし理解してもらいました。では次に、そもそも雨の怪獣がどういった存在で、何故皆様を選んだのか。そのお話をさせていただきましょう……と、言いたいところなのですが。誠に残念ながら、私に話せるのはここまでなっております」
そう申し訳ないと言いながら凪は生徒たちに頭を下げるのだった。
『ちょっ、ええええええええええええええええええええええええええええええ‼‼‼』
「滅茶苦茶これからって時に‼‼‼」
「おいおい、ここまで話しておいてお預けなのかよ‼‼‼」
当然納得のいかない生徒たちは抗議の声を上げる。
「申し訳ありません。今の私には、この先を話す権限がなくてですね……。雨の怪獣や本家から仰せつかっているのは、この度の大戦のこと、そしてそれまでの準備までとなっておりまして。正直な話、雨の怪獣ご本人の事や天峯様との関係については当主しか存じないのです……」
再び申し訳ないと言いながら凪は頭を下げる、これ以上のことは話したくても話せない。余りの勿体ぶりに、生徒は苦虫を噛み潰す。
「もうすぐ、雨の怪獣も天峯様を連れてお戻りになられます。続きのお話は、雨の怪獣からお話があると思いますので。もうしばらく、お待ちいただければと思います」
その言葉に、生徒たちはこれ以上聞いても進まないだろうことを悟り一応は納得するのであった。
そして、生徒たちが自分の話を最後まで飲み込んだことを確認したのち。寄れた服をただし、生徒たちを正面から見据えて凪は言葉を発する。
「今日という日に、皆様は世界の危機を知りました。英雄を志す皆様に対して、ずるい言い方になるのは百も承知です。ですが、だからこそその上で。皆様にお願いします」
そこから先の言葉を生徒たちは自然と理解する。
凪がさっき言ったように。知った以上は、滅びを待つ道理はない。文字通り、自分たち生きとし生ける者の全てを懸けた生存戦争、おまけに退路もない。
英雄を志した自分たちに対して、こういう言い方は卑怯ではないかと思うのは百も承知。酷いことを言っている、残酷な懇願をしている。だが、それでも。
「どうか、その存在を賭して雨の怪獣や我々と共に肉喰らいと戦ってほしい」
そう言いながら、今度は床に頭付けて凪は生徒たちに告げるのだった。
皆様読了の程ありがとうございました。
皆様の感想や評価、閲覧などが励みになっております。
また誤字脱字の報告もありがとうございます、少しずつですが対処できたらと思いますので、引き続きお願いできたらと思います。
というわけで、散々匂わせていましたが。安定の敵怪獣であるギャオスの登場と相成りました。
因みにギャオスの色としては、昭和に一瞬だけ登場した宇宙ギャオスが元ネタとなっております。
そして、ここからどういった形で緑谷たちはギャオスの大群の襲来に備えるのかが次回から展開していくことになります。
次回も、投稿の程ゆるりとお待ちいただければと思います。
ではまた、お会いしましょう。