怪獣人類の英雄探求   作:ペンペン弐式

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難産でした。

自分の都合もあり、難産でした。

お待たせしてすみません。

今回の話は、今後の展開も踏まえ色々オリジナルの用語が出てきます。

では、どうぞ。


動き出す者 ガチバトル

らしくない。それが、騎馬戦を終えた率直な感想だった。

 

「……見られた、か」

 

失態だった。イズクを含め、ヒーロー科の連中やヒトシたち。あの騎馬戦に参加していた生徒全員が見たんだろうなということは連中の反応を見れば否が応でも分かった。

 

自分の本当の姿を。

 

「聞かれるだろうな。何て、答えたらいいものか」

 

いくらなんでも早すぎる。それだけ、彼等に見込みがあるというのは分かる。だからこそ、あの方達は敢えて見せたんだろう。

 

自身の本当の記憶が戻って既に二月、この平行世界の状況も大まかに把握できてはいた。だが今の時点で、自分の中では彼らに本当のことについて話すつもりは無かった。まだ隠し通すつもりでいた。未だ、彼等が知るには何かもが足りなさすぎる。いずれその時が来て、事を起こすことは百も承知だがそれでも彼等はまだ段階を踏む必要がある。

 

今のままでは、到底奴らには敵わない。それ以前に、本当の姿の自分にすら勝てはしない。何もできず、滅ぼされるのが結末だ。

 

「……本当に、らしくない」

 

ため息を付きながら、自分に言い聞かせるように口にする。そうでもしなければ、今自分の中にあるこの感情の抑揚を抑えることなどできはしない。

 

二度と逢うはずがないと思っていた。何度世界を巡り、生を受けようとも再び出逢うべきではない。逢う資格などない、そう考えていた。

 

何処か。自分とは別の、遥か遠い地で、戦いとは一切無縁な場所で、大切な人を見つけて、共に夢や絆、愛を育み、子供を産み、彼女が望んだ、普通の人間の望んだ幸せを享受して欲しかった。

 

だが……。

 

「……ララバイ」

 

姿かたち、魂までも。一目見て分かってしまった。

 

天峯、彼女は間違いなく自分の知ってるアイツだ。穢れの無い、とても明るく暖かく強い魂。

 

自分と同じような境遇なのは嫌でも分かってしまった。恐らく、本格的な目覚めにはまだ至っていない。だからこそ、記憶は戻ってなく自分のことを見ても何も反応することはなかった。それでも理解してしまった。

 

「……雄英から去るべきか。だが……」

 

自分と再び関わるようなことがあれば、彼女は絶対に自分たちと奴らとの戦いに巻き込まれる。また、大きな傷を負うことになる。

 

だが同時に、今までの自身の経験から彼女との再会が偶然であるとは到底思えなかった。

 

もしかすれば、彼女がこの世界に生を受けた時点で。自分と同じ役目を任せられたのかもしれない。彼女も自分と同じ存在、同じ人類。その宿命からは逃れることはできない。嘗ての幼かった自分のように。

 

「我ら怪獣人、戦いからは決して逃れられることなどできはしない。ならばこそ…、手を取り合い共にその運命に立ち向かうべし。それが、先人から続く怪獣たちの夜明けに繋がるというのなら」

 

あの日。本当の己を受け入れ、戦うという覚悟をした時点で。誰も逃れることはできはしない。ならば、共に手を取り合い立ち向かおう。そして、目指すのだ。怪獣と呼ばれた人の全てが望んだその場所に。

 

「アンタの言った通りだよ、7代目」

 

あの日。

 

桜が舞う夜明けの映えるあの丘で、あの約束と共に握ったアイツの手を。故郷での奴らとの最後の戦いの死に際に、涙ながらに置いて逝くなと願われたあの手を。

 

あの感触を、あの暖かさを、あの優しさを。思い出してしまった。

 

そんなことを思う資格なんて、修羅の道を往くと決めた遥か昔に消えたはずなのに。

 

 

 

 

 

 

 

ありきたりだと

 

言われてもかまわない

 

たとえ 

 

何度世界から分かたれて

 

離れ離れになろうとも

 

僕は

 

君のことを

 

 

 

 

 

 

 

 

動き出す者 ガチバトル

 

 

大歓声を受けた一年生の騎馬戦も終わり、次の競技の準備などのために体育祭は昼休憩に入っていた。心操と天峯は普通科の生徒に、尾白はヒーロー科のA組の生徒たちに連れていかれ、龍鬼は一人会場からほど近くあるベンチに座って休んでいた。

 

雄英の生徒たちや教師も含めて、知っていてもあまり利用されていない穴場的な場所で、龍鬼が体育祭前に見つけて、何か一人で考え事をしたいと思った時にはここを使おうと決めていたのだ。

 

(……次の競技まで少し時間もある、少し眠るか)

 

一通り、自分の中で納得させ一息つく龍鬼。その日は天気も非常に恵まれ、ぽかぽかとした陽気に誘われ一通り考え終えた龍鬼は何時の間にか眠くなっていた。

 

「……ここにいたのか、蘇我少年」

 

朗らかな陽気に任せて、次の競技が始まるまで仮眠しようと目を閉じようとした瞬間自分のことを呼ぶ声が聞こえてきた。声のする方を見ていると、何処か骸骨にも似た風貌の痩せこけた男性が立っていた。

 

「……八木先生。お疲れ様です」

 

「お疲れ様。悪いね、疲れているのに」

 

「いえ、構いません。一人で暇していたところです」

 

龍鬼の下にやってきたの、八木 俊典 雄英の事務教師だった。

 

「それにしても、凄かったよ騎馬戦。ヒーロー科の生徒相手に圧倒的だったじゃないか」

 

「……いえ、まだまだ反省すべき点は多いです」

 

「そうやって謙遜することは無いよ、他の教師たちも君のことを随分と評価していたみたいだしね」

 

そう言いながら、八木は龍鬼の隣に腰を掛けた。

 

「……お身体の方は大丈夫ですか?」

 

「うん。君の個性の御蔭で、前よりも格段に良くなったよ。少ない量だけど、ちゃんと三食食事を取れるようになっているしね」

 

「まだ、少しですか。俺の力が先生の身体に馴染み始めてるんだと思います。本来なら、健常の状態とほとんど変わりない筈ですからもう少し様子見ですね」

 

龍鬼が八木とであったのは、緑谷の紹介があってからだ。彼が龍鬼との訓練の際に怪我をし、その際に力を使って龍鬼が治療することが度々あった。そんなある日、診て欲しい人がいると頼まれ、その際に紹介されたのが八木だったのだ。

 

「それにしても、君の規格外っぷりには今更驚かないつもりだったが。また驚かされてしまったよ。ヒーロー科の生徒相手にあれだけの大立ち回りを演じ、あれだけの個性による攻撃を受けたにも関わらず、当人はピンピンしているのだからね」

 

この体育祭において、龍鬼は完全に目立っていた。それもそうだ、普通科の所属にも関わらず格上であるはずのヒーロー科の生徒たちの殆どを相手取り、ほぼ完封に近い勝利を挙げているのだ。目立たない方がおかしい。

 

「……それで、本題はなんですか?八木先生が体育祭の最中に態々俺の為に話に来てくれたんですから、ただ話をしに来たわけではないですよね。まあ、今の話の流れ的に大体は予想がつきますが」

 

だからこそ、何か話があるのだろうと察してしまう。何気ない他愛の無い話を自分としに来たように思えたが、八木は雄英では裏方であり殆どそちらに時間が取られ普段はとても忙しく、自分の所に身体の傷の治療を受けに来る以外のことでは会うことがなかった為、尚更だった。

 

「……やはり君は鋭いね、蘇我少年」

 

「裏方の筈の先生が普通科の一生徒に話に来た時点で、ある程度のことは察しますよ。でもいいんですか?今、自分に話しても」

 

「校長から直接頼まれたのさ、いきなりだと色々整理が付かないだろうからって」

 

何処か気まずそうにため息を付きながら、八木は両手を組みその上に顎を乗せて話始める。

 

「……まず、謝らしてほしい。君の意志に関わらず、既に決定したことなんだ。本当にすまない、この体育祭が終わった後に、正式に相澤君と校長から直接詳しい説明がある」

 

「目立ったのは俺ですから、自業自得です。俺の方こそ、迷惑をかけて本当にすみません」

 

龍鬼はそう言いながら、八木に謝罪した。こうなることは分かっていた。元々、生い立ちが特殊だった為、高校に入るまでは自身の力を大っぴらに使用することは極力避けていたのだから。傍から見れば、いきなり強い力を使う存在がまったく想定外の所から現れたのと同義だ。

 

「君の所属は、緑谷君たちと同じA組になると思う。それに、君だけじゃない。君と共に活躍したあの二人も、何れはヒーロー科に編入されることになるだろう」

 

「随分手が早い話で。日本最強のオールマイトが健在だというのに。15の若造に鎖を付けて手なずけようとするだけじゃなく、心操や天峯までなんてちょっと節操がないのでは」

 

「それだけ、事態は世間が思っているよりも深刻だということなんだよ」

 

雄英高校のスポンサーやそれよりも上の立場の人間、あとは日本という国家そのもの。各方面の権力から雄英高校にせっつかれたことは容易に想像できた。敵の活動が活発になり、プロのヒーロにも手におえないような強力な個性を持つ敵も少なからず出てき始めている。だからこそ、今すぐにでも最前線に立てるような人間を普通科に遊ばせておく余裕はない、というのが彼等の考えだった。

 

「敵の脅威が日を増すごとに大きくなっているのは理解できます。特異点の話や、先日の敵連合を名乗る連中のこともありますし。現状はオールマイトという柱の存在がいる以上、敵も迂闊には行動できない抑圧された状況。逆を言えば、敵となりうる人間が思想を強固にし、力を蓄えているとも言えますし」

 

現在、この日本という国の個性社会では、オールマイトという絶対的な強さと実績を誇る名実ともに№1のヒーローが存在するため敵による犯罪発生率は他国に加えて群を抜いて低かった。だが逆を言えば、オールマイトという一つの存在に頼り過ぎてしまっている状態とも言えた。

 

「支える立派な柱も、何れは朽ちて消える。そうなれば、抑圧され力を付けた敵勢力によってこの国が再び超常社会黎明期のような無政府状態になりかねない。この抑止力のやり方に甘んじて慣れてしまった権力者や国家が、何よりもこの国に住まう無辜の民が。その損失を最も恐れている」

 

「だからこそ、時代を担う新たな象徴、抑止力が必要と判断したんだよ。それこそ、オールマイトのような存在になりえる子供の候補は多い方が良い。その可能性がある者たちを遊ばせておく余裕はこの国にはない。そういう決定だそうだ」

 

「……全てを背負い込む存在になれ、か。まだ15のガキには重すぎる話です、ね」

 

天を見上げながら、愚痴るように龍鬼は呟いた。雄英高校というヒーローを輩出する名門校である以上、力を示せばいずれそうなると予想していたとはいえこうも早いとは思っていなかったのだ。

 

「……オールマイト、私の親戚から聞いたよ。君が雄英に入った理由。君の生い立ちを考えると納得はできた。だからこそこの決定は、はっきり言って君のその考えを否定することになる。時代を担うヒーローを育てる立場である我々がそのようなことをしてはいけないことは百も承知なだが」

 

「……分かってます。この国のヒーローとしての立場と責任があるのも。それにしても誰にも話すなって約束したのにな。……困った人だ」

 

「親戚のことをどうか責めないで欲しい、私が無理を言って聞き出したことだから。勿論、他の人間には誰にも言ってないから心配しないで欲しい」

 

そう言いながら、八木はオールマイトから聞いた蘇我 龍鬼という生徒の色々な話を思い出しながら話す。

 

「皆、君のことを必要としているんだよ。私も含めて、君のその力は多くの人間を救うことができる。だからこそ、君には絶対にヒーローに成ってもらわなければならないという意志の表われなんだ」

 

自身の知っている何人かの生徒たちもそれなりに暗い部分を抱えてこの雄英高校に入学してきたことを知っている。それでもヒーローを目指すと志した以上、その苦しみや迷いに少しでも救いの手を差し伸べるのが自分たち教師の指名だと、八木を含めた雄英の教師たちは考えていた。

 

「……先生たちの意見も、理解できます。自分が我儘を言っているのも。だけどその上で、自分は見極めたいんです。本当に世界に必要な物は一体何なのかを」

 

だが、蘇我 龍鬼という生徒は現役のプロヒーローでさえ経験しえない程の壮絶な過去を持っているにも関わらず。世界を憎み、敵側に墜ちて行っても決しておかしくない筈なのに。それに反して、余りにも理性的であり大人であり、芯の通った生徒だった。まるで、そういった日々を、自分たちよりも長く経験してきたかのような風格さえ感じていた。

 

そのことが、八木には怖くも思えたし同時にとても懐かしく思えた。まるで以前、共に日々を過ごし、同じような会話をしたことがあるかのように。

 

『1年の部、第三種目に参加する生徒は会場に集まって下さい』

 

二人でそうこう話していると、校内放送が鳴った。近場にあった時計を見ると、既に第三種目が始まる時間の15分前になっていた。

 

「……すみません先生。時間ですので、俺は行きますね」

 

「あぁすまない。時間を取らせてしまったね」

 

次の競技に進んでいるため、八木に挨拶をして頭を下げ龍鬼は会場であるアリーナへと戻っていった。八木は手を振って、彼の健闘を願いながら見送った。そして、龍鬼は去り際に八木の聞こえないほどの声で、一人呟いた。

 

「……流石に動いてきた、か。本家の連中が察知して今日にでもコンタクトに来るか。ならば、それなり以上に力を見せておく必要がある、か。それにしても菜奈の奴、俺のことやあの戦いのことを、結局弟子には話せなかったんだな」

 

八木のその気持ちとは裏腹に、龍鬼のその眼は何処か遠くを見つめていた。

 

 

 

 

 

 

昼休憩後の今までの競技で敗退した1年の生徒たちによるレクリエーションも終わり、次の競技に移っていた。

 

『さぁあああああ‼‼次は会場にいるリスナーたち好みの種目、その名も‼‼ガチバトルDAAAAAAAAAAA‼‼』

 

『トーナメント制による1対1の直接対決になる。個性の使用は無制限。但し、熱くなって馬鹿になり個性を抑えきれなくなった場合は、問答無用で止めるからな』

 

3種目目の競技に進んだのは16人。この生徒たちによる一対一での実戦形式の勝負。トーナメント制により、最後まで勝ち上がった者が優勝となる。非常にシンプルであり、ヒーローにとっても花形になりやすい種目であった。

 

「それでは‼‼第一試合、切島君対蘇我君‼‼両者共に前へ」

 

大きな歓声と共に一試合目の選手が入場してくる。

 

「切島、気張れよぉお‼」

 

「負けんじゃねぇぞ切島‼」

 

「頑張れぇえ切島‼」

 

「……頑張って下さい、切島さん‼」

 

アリーナの観客席に用意された生徒たち専用の応援席から自分たちのクラースメイトである選手に声援を送っていた。

 

「……覚悟はしてたけどよ、いきなりお前とかよ」

 

そして、自分が目の前で対峙している龍鬼に対して、彼の対戦相手である一年A組の生徒 切島 鋭児郎は顔を険しくしていた。

 

昼の休憩時間に入る前。事前に次の競技の内容が発表され、トーナメントの組み合わせも生徒たちに提示されていた。その時に自分の対戦相手が龍鬼であることを知り、クラスメイトであり龍鬼の友人である緑谷や尾白に頼み込み対策を練ろうとした。切島だけではない、A組の生徒の殆どが参加して、何とか龍鬼を倒そうと知恵を出し合った。

 

『彼の個性である超能力、種類は主に3つ。他にもあるんだけど、主に戦闘に使用してくるのはこの3つ。攻撃用の攻術、防御用の守術、自分や味方を回復させたり強化する癒術。ネタバレはするなって言われてるけど、状況が状況だし。龍鬼君と対峙するときは、複合型の個性というより、複数の個性を持っている相手って考えた方が良いと思う』

 

『加えて龍鬼は個性抜きの格闘技術においても俺たちと同じ年齢だけど名だたる武を極めた先人たちと比べても遜色ない。状況判断もさることながら、攻め時も引き際も決して間違わない。悔しいけど、今の俺達じゃ何をやっても歯が立たない』

 

『……改めて聞いてはみるが、滅茶苦茶じゃねぇかよ』

 

『何か、ゲームの裏ボスみてぇなこれでもかってぐらいの出鱈目具合じゃねぇか』

 

『うむ、聞けば聞くほど厄介な個性だ。加えて、あの足技。俺の個性で強化した足技よりも、数段上だ』

 

『アイツ、この前来た敵より強いんじゃね?何でそんな奴が普通科にいんだよ』

 

『普通科の子に聞いてみたけど。アイツ、普通科しか受けなかったみたい』

 

『ケロ。雄英を受けてるのに、どうしてヒーロー科を受けなかったのかしら』

 

『この大会が終わったら本人に問い詰めるとして、どう攻略するか』

 

『正面から攻めても、側面や背後から奇襲しても悉く躱される。加えて、奴は我々ヒーロー科の生徒の個性を全て把握している』

 

『それって、何やっても無駄ってことじゃねぇかよ⁉』

 

『そう、何をやっても無駄になるかもしれない。けれど』

 

『完全に無敵ってわけじゃないと思う。突破方法は、ちゃんとある』

 

思い出されるのは先ほどの緑谷と尾白の言葉。情報として聞くだけでも、耳を疑う内容。だがそれが、決して嘘などではないというのは先ほどの騎馬戦で分かっていた。

 

だが正規のヒーローを目指す立場である以上、負けたくないという感情でそのことに何処か反発していた自分がいた。しかし目の前で直接対峙したことにより、そんなものは無意味だと直ぐに消え失せた。

 

(緑谷たちの話で分かった気になっちまってたが、サシで対峙して嫌でも分かっちまう。こいつ、半端じゃねえ‼‼)

 

大きく見えるその姿、目の前でいざ一人で対峙してみてその力量の差を全身で感じていた。下手をすれば、自分たちを襲撃してきた敵の集団では比べようもないくらいの差があるのではないか。いや確実にそうであると断言できる程の格上の相手。

 

(それに、さっきと全然迫力がちげぇ‼‼これじゃまるで、オールマイト相手にしてるもんじゃねぇか‼)

 

さっきまでの競技でのどこか余裕のある気さくな立ち振る舞いと全く違う。何言わず何ものにも動じず、自分と対峙してくる。その姿がとても不気味であり、重い圧となって切島に圧し掛かっていた。自然と自分の呼吸が早くなり嫌な汗が流れるのも感じた。

 

「……認めたかねぇが、今の俺じゃお前には到底勝てねぇ。だけどよ……」

 

だが、ヒーローを目指す者である以上。自分よりも格上の相手、想定外の事態と対峙することなど日常茶飯事。それを乗り越えてこそ、ヒーローと呼べる存在になり得る。自分の目標である、守れるヒーローになると決めたあの日に。その覚悟は既にできていた。

 

「壁があったら、ぶっ潰して前に進む‼‼それがぁ‼‼漢ってもんだろうがぁ‼‼」

 

自ら奮い立たせるために咆哮を上げ、それと共に開始のブザーが鳴り響く。瞬時に自分の個性を使い、全身を硬化させ龍鬼目掛けて地面を蹴り上げまるで弾丸の如く切島は突っ込んでいく。

 

「タダで負けるつもりはねぇ‼‼今出せる俺の全力‼‼」

 

作戦はいたって単純だった。龍鬼が個性を発動するためには多少の溜めの時間が存在する、だからこそ個性を発動させる前に今の出せる全力を持ってぶつかる。当たって砕けろ戦法だった。何が待ち受けようとも、今自分の出せる全力でぶつかるしかない。それが、先ほどの緑谷たちとの話し合いで出た結論だった。

 

龍鬼の行動にいちいち気に取ることはできなかった。そのまま速度を落とすことなく、一気に龍鬼との距離を詰め力強く左足で踏み込み、右の拳をおもいきり振りぬいた。

 

「受けてみやがれぇええええええええ‼‼」

 

切島の全力を込めた右の拳はそのまままるで吸い込まれるように龍鬼の腹部へと叩き込まれた。龍鬼は動くことなく、真面に切島のその全力を籠めた拳を受けた。鈍い音と共に衝撃による風圧が会場にいる人間に襲った。明らかに手応え十分の重い一撃が入ったことにより、観客から歓声が上がる。

 

だが、その拳を放った本人である切島は直ぐに顔を歪めた。

 

(手応えが、まるでねぇ‼‼それに、んだぁこの硬さは‼‼)

 

岩盤を殴ったが如き感触、自分の拳は届くどころか完全に弾かれていたことに直ぐに気付いた。直ぐに切り替えて、もう片方の拳で追撃する。しかし、返ってきた拳の反応は同じであった。そして、そんな切島を見て、龍鬼がポツリと呟いた。

 

「……その程度か、まだやれるだろ」

 

その圧が、切島の判断力を鈍らせた。

 

「く、クソがああああああ‼‼‼」

 

そのまま、何度も何度も拳を叩きこむ。それは正に拳のラッシュ。怒涛の切島のラッシュが龍鬼に襲い掛かる。真面に喰らっていれば、1年のヒーロー科の生徒たちも只ではすまないくらいの凄まじく重い攻撃。

 

だがそれでも、全く龍鬼は動じない。硬化で自分の拳も岩の如く硬くなり、振るう拳の威力も上がっている筈だ。それなのに。それなのにだ。

 

(何で立ってやがる‼‼何で倒れねぇ‼‼こんだけの拳を真面に喰らって‼‼)

 

焦る切島。そして、その異様な光景に会場にいるに観客もざわつき始める。

 

「いけない⁉完全に飲まれてる‼」

 

「落ち着け切島‼そいつの挑発にのんじゃねぇえ‼」

 

「切島、しっかり‼」

 

クラスメイトたちの声が辛うじて切島の耳に届き、彼は一旦打ち込んでいた拳を止めた。そして、余りにも効果がないことに対して、このまま攻め続けても埒が明かないと考え冷静になろうと一旦距離を取ろうとする切島。

 

だがその瞬間、目の前にいたはずの龍鬼の姿が消えた。

 

「……悪いな。事情が変わってな、先々の為に負けてやるわけにいかんのよ」

 

自分の上から声がしたと思った時には、衝撃と共に頭部と背中に感じる激しい痛みを感じ、切島は地面に倒れ伏していた。

 

「……な、なに。しや、がった」

 

まるで身体の中から大きく揺さぶれたかの如く、全身が揺れて真面に呂律が回らない。訳が分からなかった、何をされたのか全く理解できなかった。揺れる視界を何とか前に向けるとそこには、相も変わらず五体満足の龍鬼が立っているのが見えた。

 

「悪くない拳だった。鍛えれば、もっと強くなる。まあ、種明かしは祭が終わった後に。これからどうせ、沢山会話するようになる」

 

その言葉と共に、再び自分の身体に衝撃が走りそこで完全に切島の意識は途絶えた。

 

「そ、そこまで‼‼二回戦進出は、蘇我君‼‼」

 

余りにもあっけなく、決着は一瞬だった。困惑していた。観客たちの眼には、龍鬼が切島に対してどうやって倒したのかが全く見えていなかった。観客だけではない、その場にいた雄英の教師たちやプロのヒーローたちですら。

 

そんな静寂に包まれた会場の異様な雰囲気を特段気にすることなく、気絶した切島を保健室に連れていくために、彼を担いで龍鬼はその場を後にする。

 

そして、アリーナに設けられた一室からそんな龍鬼の姿を険しく見つめる人物たちがいた。

 

「……今の、見えたかい?オールマイト」

 

「……彼が切島少年の上に瞬時に移動して彼の頭部に踵落としを喰らわせた所までは辛うじて」

 

「……№1ヒーローでさえも追うのがやっと、か。それにしても彼、雄英に来てから今まで自分の力を極力見せないようにしていたのに。どういった心境の変化何だろうね?」

 

「第二種目までは、彼の学友の為にというのは彼自身からもある程度聞いてはいましたし理解できます。第三種目を聞いた時点で、彼の事だから直ぐに負けるなりするかもとは思っていたのですが。さっきの彼との話でも、そんな心境の変化は感じられなかった」

 

「だけど実際にはやる気満々といった具合。それに今の彼の雰囲気、あれは明らかに現場を。修羅場を潜り抜けている者の醸し出すそれだった。入学時から見てきた彼とは、とても思えないね。イレイザーの言っていたことも、あながち間違いではなかったみたいだね」

 

「どういうつもりなのでしょう。あれでは、益々彼がこの雄英に来た目的から遠ざかってしまうのでは」

 

「……彼にどういう心境の変化があったかは分からない。でも。もう世界に自分の存在を示した以上、彼を取り巻く環境は彼の意志に関わらず動き出す。色々な立場の人間が、彼の力を必要とするだろうね」

 

「……善も悪も関係なく、ですか」

 

「勿論、彼を悪の方へと導かないようにするのが我々教師の役目だからね。これから、色々忙しくなるね」

 

自分たち生徒である龍鬼のことを語りながら、雄英の校長である根津と№1ヒーローであるオールマイトはこれから訪れるであろう新たな混乱に対して、気を引き締める。

 

雄英体育祭にて明らかになった、蘇我 龍鬼という規格外の存在。それは、この体育祭が終わったと同時に全世界が注目していくことになるだろう。

 

 

 

そして、多くの者たちが。善悪に関わらず、動き出すことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうか。そうなんだね‼‼

 

やはり、君なんだね‼‼

 

どうあっても、君は僕の前に現れるんだね‼‼

 

忘れもしないよ、君に僕の全てを打ち砕かれたあの日を‼‼

 

君さえいなければ‼‼

 

僕はもうとっくの昔にこの世界で魔王に成れたというのに‼‼

 

オールマイトなんかに、負けることもなかったのに‼‼

 

漸くここまで来たんだ‼‼

 

絶対に君に邪魔させてなるものか‼‼

 

魔王になるために、新しい力も手に入れた‼‼

 

入念に準備もしてきた‼‼

 

君にだって、絶対負けはしない‼‼

 

今度こそ、今度こそ‼‼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

君を殺してみせるよ、怪獣人類

 

天叢雲龍

 

 

 

 

 

1つは。嘗て、その男に自身の夢を破壊され再起と復讐を誓った者。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……そうですか。

 

再び、お役目を与えられ我らの界にお戻りになられたのですね。

 

天よ。

 

彼の夜明けに魅入られし獣が我らにしてくださった大恩に。

 

報いる機会を与えてくださり感謝いたします。

 

我ら、一族郎党。彼の獣と共に、今度こそ怨敵を打ち滅ぼし界の礎となりましょう。

 

全ては、在りしモノの。

 

界の夜明けのために。

 

 

 

 

 

2つは。嘗て、その全てを賭して救ってくれた存在に報いる者。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界が動き出す。再び、夜明けを求める戦いの為に。

 

 

 

 

 

 

 

 




色々、段階を踏む必要がるので。

怪獣が出てくるのは、もう少し先になりそうです。

怪獣目当てに見てる方、もう少しお待ちください。

あと、私事なのですが。エヴァ見てきました。物凄く、エヴァでした。

庵野監督。今まで、お疲れさまでした。

ではまた次回に。感想など、お待ちしています。
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