こんな小説でも読んでいただき、待っていただいた方。大変申し訳ありません。
そして、お待たせいたしました。
普段よりも短いですが切が良かったのでこの辺にしときました。
では、どうぞ。
『……』
太平洋の何処か、船船すらもいない外洋の果ての果て。そこにその獣はいた。黒いゴツゴツとした硬い皮膚に背には特徴的な背びれを背負い、その牙と爪はどんなものでもかみ砕き引き裂いてしまうほど鋭く、そして、何者も並び立つことのできない意志の籠った、気高き瞳。
獣は水面から顔を覗かせ、自身を照り付ける陽の光を浴びながら息を整えていた。自身の大切な物を探すための旅から帰還し、僅かな時間ではあるが旅の疲れを癒していた。
やがて陽の光を存分に浴び終えた獣は再び海の中へとその姿を没し、進み始める。僅かに感じる、自分たちの怨敵の気配に目を鋭くしながら獣は進み続ける。怪なる獣たちの王。破ノ神の名を唯一名乗ることを許された獣。
目指すは、自身の配下が住まう場所。そして、自分自身の生まれ故郷。
世界は、ゆっくりとそして確実に戦に向かって進み始めていた。
動き出す者 ガチバトル 弐 心操オオリジン 壱
雄英体育祭1年の部、普通科から突如現れた謎の生徒により波乱の様相を呈していた。この体育祭を見ていた全ての人間がヒーロー科の生徒たちを見に来ており彼等の競い合いに注目し、それを期待していた。だが実際に蓋を開けてみれば、普通科の一生徒に圧倒され競い合うどころか一方的に実力の差をまざまざ見せつけられている状態。全くの予想外の展開に、盛り上がるどころか見ている人間たちは大いに戸惑いを感じていた。
「…やっぱ、注目されてるな龍鬼」
「ネットでも、殆ど蘇我君のことばっか話題になってるね。“雄英高校1年に怪物現る”、“ヒーロー科を圧倒、普通科から現れた謎の生徒”。O-tubeに上がってる動画の再生数凄いことになってるよ」
『あんだけ目立ったんじゃ仕方ないじゃろ。それに、マシラオも含めオドレ等も十分目立って話題になっとるからな。俺のことは兎も角、当初の予定は無事達成じゃね。ヒトシの言っちょったヒーロー科編入の話も現実味を帯びてきたのぉ』
「……そう簡単にいくか?」
『只でさえ強力な敵が出てきてプロのヒーローでさえ手に負えなくなってきちょるって新聞記事がこの前流れてきたばっかじゃろ。先生らはまだじゃ判断しても、それより上のもん等がほっとくわけないじゃろ』
「ってことは、この大会が終わった後に僕らに何かしらの話があるってこと?」
『少なくとも、あの騎馬戦に参加した普通科の生徒には遅かれ早かれ何かしらの沙汰が出るじゃろ』
「……そうか」
そして体育祭の話題の渦中にある当人たちはというと、第三戦のガチバトルに参加する生徒たちに用意された控室で待機していた。
『にしても、惜しかったのぉ天峯。もぉちょい体力がついちょったら、勝ててたんじゃが』
「仕方ないよ。芦戸さんも強かったし。僕の方も蘇我くんの個性を使って貰わずに、消耗した今の状態で僕がどこまでやれるか見極めることも出来たし、僕としてはかなりの収穫かな」
三回戦に進んだ蘇我と天峯は既に自分たちの戦いを終えており、それぞれの戦いについての反省をこれから戦う心操も含めて行っていた。
「天峯の個性、俺の洗脳と同じで声に関する個性だけど。中身は全く違うしな」
「うん。制圧力って観点で言えば心操くんの方が圧倒的だし。僕の場合は、今の所味方の人がいる前提のものだからね」
『個性 天恵 自分との繋がりを形成した相手に対して声をかけることによ身体・思考・個性などに対する強化、または弱体化。立ち回り次第によっちゃ阿保みたいに強い個性じゃのぉホンマに』
「うん。特にポジティブな言葉を歌にして乗せて唄ったらより効果発揮するんだ。…でも。逆に言えば個性は強いけど、蘇我くんや心操くん、尾白くんたちみたいに速攻性の高い格闘戦が強い人が相手だと僕が縁を結ぶ前に瞬殺されちゃうんだ」
『そうじゃのぉ。個性だけで戦うって考えたら相手との縁ができるまでの時間が少しでも短縮できればやりようはあるんじゃろうが。動きの速い相手には厳しいじゃろうのぉ』
「そうなんだ。だから、芦戸さんと戦った時も動きの速いトリッキーな動きに惑わされちゃって結局防戦一方になってって感じだね」
「俺の個性もそうだな。初見殺しではあるんだが、結局種が分かってしまえば対処は簡単。ましてや一瞬で間合いを詰められてって奴にはどうしても個性だけじゃ無理がある」
声に関する個性を持つ二人は、それぞれに特性を比べて共通する弱点について意見を交わした。やはり二人とも弱点に関しては同じ見解であるらしく自分の持つ個性の現時点での力では、実際にヒーローに成った際の限界を感じていた。
『合っとる。二人の言っちょることは合っとる。特に、ヒーローとしていざ現場に出て実戦をするってことを考えるとこの点だけは何とかしないと。特に、今はネット何か使えばヒーローの個性なんて簡単に割れる。特にハッキングに強い敵がいてみろ。ヒーローネットワーク、国の情報網に潜り込まれて丸裸にされて終わりよ』
「だからこそだろ、放課後の奴は。格闘戦想定なのを多めにやってるのは結局そこの点に対処するため。個性を使えない状況を想定して強くなる必要があるから」
そのことを龍鬼は心操と共に鍛え始めた当初から理解しており、それに対処すべく心操の個性を強化するだけではなく、身体を強くしそれに付随して格闘術についても力を入れて鍛えていた。
『そうじゃ。結局のところ、最後に頼りになるのは精神力と自分の身と腕っぷしよ。気合でどうにかって言葉は嫌いじゃが、結局のところ最後にもの言うんはそこになる。最近の人間に全員言えることではあるが、個性に頼り過ぎているってことは紛れもない事実じゃ。放課後の訓練も個性を強化するのも目的じゃが、それ以前にその状況を想定してやっちょる。練習してもないことを実戦でやっれつっても、そりゃ無理じゃ。やろうとすれば、逆にその隙を突かれてしまうけぇ』
「……つまり、現場に出た際に最悪な事になりかねないってこと?」
『ほうじゃ。特に敵に関しては取るか取られるかしか考えとらん奴も多い。倫理もクソも無いもんが、ようさん出始めちょる。平気でヒーローの命取りに来るぞ。おまけにそのこと楽しんで、賭け事をしちょった敵集団がいたって例も過去に何件か実際に起こっとるしのぉ』
「最近頻発してるヒーロー殺しによるヒーローの襲撃事件もあるしな」
『まあ、ヒーローに成る以上想定外は許されない。これは常に頭に入れとかんとのぉ』
ヒーローたるもの想定外は決して許されない。多くのプロのヒーローたちが常日頃から語っている言葉を思い出す心操と天峯。常に命の危機と隣り合う日常に身を投じながら、社会の希望足りうる存在でなくてはならない。そこに対するプレッシャーや努力も相当なものがあるだろう。
この体育祭を通じて改めて直面する自分自身の課題。そして、目指すすべき場所への多くの壁。でも。だからこそ、自分たちの夢を叶えるべくその道を往くと決めたのだからそれに向けた準備を怠ってはならない。
「……強く、ならないとな」
「……そうだね。ねぇ二人とも、私も二人に訓練に参加しても良いかな?」
『構わない、競い合う奴は多い方がええけぇのぉ』
兎に角、強くならないといけない。誰にも負けないように、ヒーローになるための強さを手に入れる為に。
『C組の心操君。会場準備が整いましたので会場に集合してください』
ある程度の話が、纏まったところでタイミングよく次の試合の準備のためのアナウンスが控室に鳴った。
「……俺の番、か」
「おう、漸くか。案外時間がかかったのぉ」
放送の声を聴き、一息吐くと心操は待機していた部屋から会場の方へと向かおうとする。
「……ヒトシ」
「……何だ?」
「俺の見立てでは力は五分と五分。行ってこい、思いっきりな」
「……分かってる。行ってくる、龍鬼」
短い言葉の激励ではあったが、それを聞きぐっと表情を引き締めた心操は強いを目で応え控室を後にした。
「……それで、龍鬼くんはこれからどうするの?僕は、普通科の子たちに呼ばれてるからそっちに行くけど」
「……取り合えず、俺も会場に戻って二人の試合を直接見ないとな」
「……良かったら、さ。一緒に見ない?普通科の子たちも龍鬼くんと話たがってたよ?」
「悪いな。今後の為に少し一人でじっくり見たいんでね」
「…そっか。うん、分かった。それじゃあ、また後でね」
そう言い終えると、何処か残念そうにしながらも天峯も控室から会場の方へと戻っていった。
そして一人、控室に残った龍鬼。すると、龍鬼は直ぐに部屋のカギを閉めた。更に自分の力を使って鍵の周りに幾重もの拘束を作り出し、仕上げに部屋全体を覆うような力場であり結界のようなものを作り出す。まるでだれもこの部屋に入ってこられないようにするかの如く。
そして、部屋にあった机や椅子などを部屋の隅に片付け空いた部屋の中心に正座をして座った。目を閉じ、まるで瞑想するかの如く一切動きを見せない。
すると、暫く後何処から入ったのだろうか。色鮮やかな羽を持った一匹の手のひらサイズほどの蝶が彼の下へと現れた。その蝶の羽からはとても優しくそして暖かい光の粉が降り注ぎ、それを撒きながら龍鬼の周囲は3回ほど周り、そして龍鬼の頭の上へと止まった。
そして、それを確認した龍鬼は徐に何かに語りかけ始めるのだった。
「…お待たせして申し訳ありません。して、玉は見つかりましたか。我らが王よ」
可笑しな奴、それがアイツに対して最初に思ったこと。今でもそれは変らない。
大きな三本の角に、長い髪の毛のせいで隠された顔。2mを超える常人とは比べ物にならない程の巨体。それでいて細いということは無く、まるで歴戦の戦士かのように鍛え抜かれた肉体。息をすれば口に付けている拘束具から重たげで不気味な吐息の音を漏らし、真っ黒なその髪は暗闇に凄く溶け込んで、完全に出来の悪いホラー映画の敵みたいな見た目の奴。完全に地雷確定の見た目の奴。
だが、話しかけにくいと思えばそんなこともなく普通に話が通じて、意外にも博識で色んなことを知っている。個性が誕生してからの世界の歴史や経済。明るい部分や暗い部分。ヒーローとして必要な戦闘技術や座学。果ては、アニメや厨二病トーク、アフリカの秘境に住む部族の風邪を引いた際に行う秘術のことなど何でもありだ。とても同じ年齢の学生なんかじゃ知る由のないことも知っている。
何よりも、阿保みたいに強い。本当にそれ以外の言葉が想像つかないくらい強い。心技体全て。今まで俺が見てきたヒーローや敵なんかじゃ比べられないくらい。本当に、強い。
本当に意味不明な。それこそ、ゲームのバグキャラかなんかを地で行く可笑しな奴。かと思えば、意外に常識人で。時々、朝日を見ながら何処か遠くを見つめたり土砂降りの豪雨の中をまるでシャワーでも浴びるかの如く佇んだりするセンチメンタル被れ疑惑のある変な奴。
初めて、俺の個性のことを両親以外で馬鹿にすることのなかった奴。初めて、個性ではなく一人の人間として、自分のことを肯定的に見てくれた奴。
正直、今では悔しいと思ってしまう。どうして、どうしてアイツに言われるまでそんな簡単なことに気づけなかったのか。どうしてそんな単純なことを思うことが無かったのか。如何に過去の自分の視野が浅く狭く幼かったのかが、分かってしまう。
今までに一度たりとも言われたことのないような肯定的な意見を当然の言ってのけた奴。
だからこそ。俺は、つい言ってしまった。許してしまった。ぶつけてしまった。
自分の弱さを。悔しさを。貯めこんでいた物を。全部。
やってしまった。もう戻れない。完全にやらかしてしまった。自分自身の弱さを恥じた。
まだ出会って2カ月しか経っていないのに。許してしまった。
だが。そんな俺を。アイツは諭し。そして、言葉をかけた。
アイツの言葉は、俺の中の今までの常識なんかはいとも簡単にそして還付なきまでにぶっ壊して突き抜けていった。
革命だった。こんなにも、こんなにも簡単に。大袈裟でも構わない。そんだけ、世界は広くて良いんだとそう思えた。
まだアイツと出会って2カ月とちょっと。それなのに、俺の見ている景色は、世界は、完全に一変した。
過去の自分に、簡単な奴と言われても仕方がないだろう。
でも。
だからこそ、俺は今日。
新しい一歩を踏み出す。
この世界に示すんだ。
自分という存在を。
敵のような個性と馬鹿にされ、世界から疎まれようとも。
俺は、前に進む。今までの俺と一緒に。
そうだろ、龍鬼。
怪なる獣の王は一人だけです。今はまだ名前を出していないのでタグはおいおいに。
早めにつけた方が良い場合は指摘の程よろしくお願いします。
さて次の話もなるべく早く投稿できるように頑張っていきます。
ではまた次回に。