後、リアルの方が忙しくて全く手が付けられない状態でした。
まあ言い訳は此処までにして、久しぶりの本編をどうぞ。
今までずっと一緒に育ってきた。
引っ込み思案で、臆病で、それなのに負けず嫌いで。自分と同じぐらいに。同じ存在に憧れて。その存在と同じ道を往くと決めた。
目障りに思った。目障りで気に食わなかった。その在り方そのものが。自分にとっては未知であり。理解できないモノだった。
10年以上。共に過ごしているにも関わらず。
できる筈がない。そう思った。何も力を持ってもいないソイツが。同じ夢を持つこと自体。だからこそ。理解することができなかった。
自分に罵られ。蔑まれ。拒絶されていた筈なのに。拒絶したはずなのに。そんな自分の。危機を前にして伸ばされたその手の意味を。
彼。爆豪 勝己は。まだ理解することができていなかった。本当は最初から知っていることを。
会場から離れ、選手用の控室へと続く廊下で自分自身を落ち着かせるために一人でいたその生徒は、一人でいたは良いものの逆に自分自身の不甲斐なさが頭の中を渦巻いて、思わず右の拳を壁に向かって殴りつけていた。
「クソがぁあっ‼‼」
気に食わない、本当に気に食わない。彼の胸中を埋めるている感情は正にその一言に尽きた。彼、爆豪 勝己は大いに荒れていた。自分が、この体育祭において一位を取る。そう覚悟を決めて臨み、今日という日までに鍛錬も欠かさずに行い備えてきた。しかし、蓋を開けてみれば、想定外に次ぐ想定外。あまりの大誤算に、彼の考えていたプランは全て無に帰した。自分の実力を発揮するどころか、自分が競技の中で生き残っていくことに精一杯な状態。
そして何より彼を苛立たせる一番の要因があった。
(何でクソナードがあんなに強くなってんだよ‼‼)
彼の幼馴染である緑谷の存在であった。
幼い頃からずっと一緒に育ってきた存在。自分よりもか弱い癖にやたらと自分に食って掛かってきた存在。無個性の癖に、決して諦めない夢を、同じ目標を持っていた存在。
突如1年前に個性が発現したことにより、爆豪と同じく雄英高校に入学することになった緑谷。当然、今まで騙されていたかのような突然の事で緑谷の個性のことが分かってからというものの、虫の居所がすこぶる悪かった爆豪。それだけではない、雄英で最初の個性を使った実践訓練においても自分を負かし、絶対に自分には負けないと宣言された日以降。爆豪の精神は非常に不安定であった。そこに来て、この体育祭での一連の出来事であった。
(どうやって…。どうやってあんな力つけやがった、この短期間で⁉)
発現してからまだ日も浅く、使いこなすなどという言葉とはほど遠く、個性を使用するにも自分の身体に大きな傷を負いながらでの使用しかままならない状態にあった。その筈であった。少なくとも、自分と対峙したあの時まで。
「クソがぁ…、畜生があああああああ‼‼」
再び壁に思い切り自分の拳をぶつけた。不甲斐なさ、やるせなさ、不安、焦り、怒り、あらゆる感情が自分の中でごった返しになり、外にぶつけるしか気持ちを抑える手立てがない状態にまでなっていた。
『……大分、荒れているようじゃのぉ』
ふと、頭の中にそう声が響き爆豪は声を感じた方へと視線を向けた。
「てめぇ、普通科のクソロン毛……‼」
そこには自分の次の競技の対戦相手でもあり、自分の苛立ちの元凶の1つでもある生徒。龍鬼が肩を少し竦めながら爆豪の様子をうかがっていた。
『ロン毛じゃなくて、せめて3本角にして欲しいもんじゃのぉ。この体育祭が終わったらバッサリ行こうと思うとるじゃけぇ、のぉ。にしても、5分前からここでお前のこと見ちょるのに。案外、気づかんもんじゃのぉ』
「るせぇえ‼‼一体何しに来やがった‼‼」
『オドレを呼びに来たんじゃ、もうすぐイズクたちがささらもさらにした会場がなおるけぇ。香山先生にお前が見当たらんけぇ探してきてくれぇ言われてのぉ』
屋外に設置してあるポールの時計を親指さしながら龍鬼はそう話す。先ほどの試合で滅茶苦茶に破壊された会場の補修があと少しで済みそうで次の試合の対戦カードである龍鬼と爆豪の二人に連絡を取ろうとした所、爆豪と連絡が付かず探してきて欲しいと頼まれ、探しに来たということだった。
「っち‼‼んならさっさと言えやボケが‼‼それとも、俺がここでキレてんのがそんなに面白かったかよぉ‼‼」
自分たちと相対した時変わらぬ、飄々とした態度が爆豪の神経を更に逆なでしていた。敵意むき出しにして、自分の両手から今にもあふれ出そうな爆破の個性を覗かせながら龍鬼の方を睨みつけた。
そんな取りつく島もない爆豪をため息交じりで見つめながら、龍鬼は自身の角を光らした。
「⁉てめぇ‼‼」
突然のその行動に焦る爆豪のことなどお構いなしに龍鬼は自身の力を行使する。彼の周囲に風が発生したかと思うと、それが間髪入れずに爆豪に向けて放たれる。当然爆豪は迎撃しようと個性を発動させようとするが彼の身体はまるで金縛りにあったかのように梃子でも動かなかった。
「なに⁉し…、やが…」
自身が無防備の状態で攻撃を受けたことに焦る爆豪。しかし、攻撃と思い放たれたその風は攻撃というには余りにも温かく、何処か透き通った香りに安らぐ心地よさがあった。そしてその風は爆豪を中心として包み込むように吹きすさぶ。そうして、暫くそのまま動けない状態でいる中で、次第に自分の沸騰した頭が急速に冷めていくのを爆豪は感じた。
『……落ち着いたか?』
自分を包み込んでいた風が消える。そして、そう問いかけられる声が先ほどまでとは違って目の前の相手を見つめながら聞くことができた。先ほどまで自分の中ににあったありとあらゆる雑音が、嘘のように消えていた。
「……何しやがった」
『俺の術の1つじゃい、錯乱して真面に喋れん相手を落ち着かせるためのもんじゃ。香山先生の助もあってこの前完成させた新作じゃい』
そう言い終えると、龍鬼は徐に爆豪の方へと歩みより彼の両手を握った。
「おい、何してんだクソロン毛。そっちの趣味でもあんのか?」
『好かれることは過去に何回かあったが、少なくとも俺はノーマルじゃ。騎馬戦の時に少し気になってのぉ。やはり、外面はいい感じに見えるが内面は結構ガタじゃ。ちょい待っちょれ』
龍鬼の角と両の腕がエネルギーのようなモノを纏いながら発光し、そのエネルギーがつながった手を繋いで爆豪の中へと流れ込んでいく。突然の行動に、爆豪は手を放そうとするがそれ以上の力で掴まれているのか、梃子でも動かなかった。幸いなことに、二人以外の人間はその場にはおらずその姿が目撃されることは無かった。観念した爆豪は、龍鬼の謎の行動が終わるまでその場で静止しているのだった。
『ほい、これで終いじゃい。待たせてわるかったのぉ』
5分ほどたっただろうか、龍鬼の角と腕のエネルギーの発光が終わり掴まれていた手は離された。
(……身体が、馬鹿みたいに軽い。それだけじゃねぇ)
先ほどまでの自分とは明らかに違っていた。体育祭までの準備の為にろくに睡眠も取れておらず身体と精神を追い詰めていた爆豪ではあったが。重く、全身の至る所にあった痛みは全て消え、その肌は生気に満ち、頭と精神は両面とも非常に安定していた。また個性を出してみれば、あまりの万全具合に出力が予想以上に出ていた。
『イズクに聞いちょるかもしれんが、疲労なんか回復させる俺の術じゃ。因みに、これを受けた香山先生曰く、美容効果もあるらしくてかなりの頻度でたかられているのは秘密じゃ』
「……何のつもりだ、クソロン毛」
意味が分からなかった。次の対戦相手である、爆豪に対して冷静さを取り戻しあまつさえその傷ついた心身とも回復させる義理など龍鬼にはない筈だ。
「……なめてんのか、クソロン毛」
『なめてる?己惚れるな、平常心を失った相手を一瞬で倒しても、納得いかんじゃろうが。俺もお前も』
その言葉に、何も言い返せなかった。確かに、先ほどまでの自分は明らかに正気を失っていた。もし、その状態のまま試合に臨んでいたら、何もできずに終わっていただろう。そう、結論付けるしかない程、今の爆豪には周囲が見えていなかった。
「ッチ、余計なことしやがって」
認めたくなかった。只でさえ、自分のクラスメイトの中でも勝てないと思わず思ってしまった相手がいるというのに。ここに来て、絶対に認めたくない相手である自分の幼馴染。そして、その存在達とは比べることも出来ないくらいの存在。それらを纏めて相手にしていかなければならないというのに。
『……さっきの質問、お前の事を馬鹿にするためにずっと眺めてたのか、そう聞いたじゃろう』
そんな爆豪にふと龍鬼は先ほど自分に対して問いただしたことを口にする。
「……違うのかよ」
正直、爆豪には龍鬼の行動の意図がはかりかねていた。確かに、自分ときちんと戦って欲しいという意図は感じたが態々そんなことをする必要はない筈だった。ましてや、会話をするのだって今日が初めての相手に対してだ。そんな爆豪に、龍鬼は言葉をかける。
『……苛立ちが募るのは、それだけそのことに対して一生懸命になっている証拠。お前は相当のもんを持ってこの祭りに臨んだんじゃろ。そがぁな奴の事、笑えるわけないじゃろ』
返ってきたのは、自分を馬鹿にしたり嘲笑ったりするようなことではなく、真直ぐな称賛だった。
一瞬何を言われてるのか、爆豪には理解できなかった。だが、そう言い終わると先に会場で待っていることを告げて、龍鬼は爆豪の下を後にした。
そして龍鬼が去って暫くした後、真正面から自分のことを称賛されていることに気付き、直ぐに自分の顔が仄かに火照るのを感じた。
「……ポエマーの変人じゃねぇか、クソロン毛」
自身の中に湧き上がってきた感情を誤魔化すようにそう愚痴を零す爆豪。だが気が付けば、龍鬼とのやり取りで、一周回って先ほどまでかき乱していた自分中の全てが完全に平常を取り戻していた。
1度大きく深呼吸をする。冷静になったことで彼の中で再び思考を回し始める。
(……何やってんだ、いちいちこんな小さいことでうだうだ言ってる場合じゃねぇ)
思い出したのは、この体育祭に臨む際に自分に課した事。この雄英に入ると決めた、自分の夢。この世界で、自分の目標でもある最高のヒーローを超えるために。誰にも負けない、完全無欠のヒーローになるために。その為の第一歩を刻むために、この日に備えてきた。
「……まずは、あのクソロン毛をどう潰すか。クソナードのことは、その後だ」
気合を入れ直す爆豪。自分を取り戻すことに成功した彼は、自分の舞台へと向かうべく会場へと急ぐのであった。
だが。
この時爆豪は気づかなかった。自身が個性を発動した際に、同時に黒く細かい粒子が彼の周囲を漂ってい事を。そして、知らなかった。龍鬼が自身にエネルギー注ぎ込んだ時に、回復だけが目的では無かったということを。
『悪いな、爆豪。例え、お前やイズクたちにいくら拒絶されようとも。お前たちには、絶対に強くなってもらわなくてはならないんだ』
快晴だった空に重い雲が立ちこみ始めていた。
動き出す者 ガチバトル 肆
一回戦最終戦にて破壊された会場の修復が済み、二回戦が始まっていた。一回戦の最終戦からの反省で、現場管理を任されている教師のセメントスは自分の個性であるセメントを使用して観客席の周囲に新たに即席の防護壁を作成した。例年の1年の種目ではない程に安全面に考慮しなければならない異例の事態になっていた。
そして、二回戦の初戦である龍鬼と爆豪の戦い。開始の笛は既にならされているにも関わらず、会場は不気味な程の静寂に包まれてたい。観戦に来ていた観客は一戦目の龍鬼の試合以上にその雰囲気に飲まれていた。そして、視察や警備に来ていたプロのヒーローたちは何時でも動けるように気を張っていた。そんな中、試合をしている両者は身構えたまま静寂を保っていた。いや。正確には、爆豪の方が一方的に動けないでいた。
(クソが……。やっぱり、ここまでの競技。全部手を抜いてやがったな)
今日の体育祭を通して見てきた目の前にいる人物の評価を更に上げざるを得なかった。放つ威圧感もさることながら、一戦目の切島との時と違い隙が全くと言っていい程見当たらない。そして、一回戦で切島の渾身の拳を受けておきながら無傷かつ、消耗している素振りすらない。
加えて、闇雲に動こうものなら自分ですら全く反応することができなかった反撃が待っているだろう。計画性無しに攻撃した所で反撃を喰らいそのままアウトだ。
(っても、遠距離したところで。あの鬱陶しい火が来やがる)
思い出すのは、障害物競走と騎馬戦での龍鬼の攻撃。炎のようなエネルギーによる遠、中距離を攻撃できる多種多様な技。
全ての距離を対応される。そう覚悟して臨んだはずなのに余りの攻撃する余地の無さに、苦戦していた。
『打つ手なし、と言ったところか。のぉ』
不意に頭の中にまた声が響く。勿論それを発しているの目の前の人物で、自分にしか聞こえないように話しているのは分かっていたが、油断なく龍鬼のを睨みつける爆豪。一瞬でも隙を見せようものなら、そのまま突かれて自分の負けに繋がる。
「うっせえわ、ポエマーのクソロン毛」
『ふっ。否定したところで、武士のやせ我慢にしか見えんのぉ』
先ほどから、こちらの考えを見透かしてるかのような態度。気に食わないことこの上なかったのだが、全て事実なので言い返すことすら爆豪は難しくなっていた。
『だが、これではつまらん。皆がつまらんよ』
観客席を見渡しながら、龍鬼はそう口にする。確かに、このままでは何時まで経ってもにらみ合いの状況は変わらない。爆豪も困るが、それでは龍鬼も同じであった。
『だから。縛りを入れて、お前を動かすとするか。のぉ』
そう言い終えると、龍鬼は両足で思い切り地面を踏みぬいて会場のステージに両足を完全に固定した。一連の龍鬼の行動は爆豪は勿論の事、会場にいる全員が疑問符を頭に浮かべていた。だが、その行動を見て、龍鬼のことを知っている彼の友人たちは困惑の表情を浮かべた。
「る、龍鬼君⁉かっちゃん相手にそれはまずいって⁉」
「あの馬鹿。ここでそれをするのかよ。あんなプライドの塊みてぇなやつに」
「おいおい。いくら力量の差があるからってそこまでするのか、龍鬼……」
先ほどまで激戦を繰り広げて多少のダメージは残っているものの、治療を既に終えて生徒用の観客席に戻っ来ていた緑谷と心操、そして既に自分の試合を終えて同じく傷の治療を終え彼らの傍に座っている尾白は戸惑い気味にそう口にした。
「三人とも、彼が何をしているのか。知っているのか?」
「デクくん。蘇我くんは一体何してるん?」
「う、うん。簡単に言うと、アレは僕たちが龍鬼君と何時もする組手の時の縛りなんだ」
「組手?」
「アイツから攻撃は一切しない。その代わり、俺たちはアイツをあの場所から動かす事」
「つまり、龍鬼に攻撃させるか足を抜かせたら勝ちってこと。全く、何を考えてるんだ。龍鬼」
それは、彼等が龍鬼との訓練でやるある種の縛りだった。いくら自分の力に自信があるからと言っても、この体育祭という本番の場で、ましてやヒーロー科の中でも実力者の一人である爆豪相手にそんなことをしでかそうとしている龍鬼に対して、それを聞いた全てのヒーロー科の生徒たち、A組、B組問わず、正気とは思えないと考えた。
「それだけのモンが、今の爆豪にはアンだろ。じゃねぇと、彼奴はこんな無駄なことはしねぇよ」
「……轟君」
そんな両者のやり取り対してに厳しい視線を送りながら、轟は友人である龍鬼の行動をそう分析する。確かに、今までの龍鬼の行動は全て何か意図をして行っていることを知っていた緑谷は、少し心配に思いながらも自分の幼馴染である爆豪とのやり取りの成り行きを見守った。
『……五分じゃ。俺は今から五分間、お前の攻撃を全て受け続け、それを全て対処する。お前は、俺をここから動かすか、俺に攻撃させれば勝ち。五分を超えたら、俺はお前をのす。分かりやすいじゃろう?』
「……とことん、気に障る野郎だなテメェは」
『はっ。弱い犬程よく吠える。怖いから攻撃しないでくれと、な。お前は違う筈だと、精々証明してみせることだ』
この状況で自分のことを試すようなことをする龍鬼に対して、更に虫唾が走る爆豪。だが、目の前の相手がその言葉通りの強敵であるということはこの体育祭で嫌というほど分かっていた。
「……テメェの言う通りだよ、クソロン毛。今の俺には、お前をぶちのめす為の明確なもんが見えてこねえ。だからよぉ」
爆豪に闘志が沸き立つ。それに比例して、彼の高揚する精神を体現するかの如く両手に纏う彼の個性である爆破のエネルギーが満ち満ちていく。そして、その鋭い目は真っすぐ龍鬼のことを捉えていた。
「乗せられてやるよ。吐いた、唾。飲むんじゃねぇぞ‼‼」
その言葉が、両者の戦闘開始のゴングとなった。
爆豪は真正面から、龍鬼に向かって吶喊。そのまま自身の個性で威力を増した得意の右の拳を龍鬼に向けて振りぬいた。そんな速攻を龍鬼は冷静に防御の態勢を取り迎え撃った。二人が交差した瞬間、衝撃が発生、会場を取り囲んでいる分厚いコンクリートの防護壁に亀裂が走る。
かなりの威力を籠めて龍鬼に拳を叩き込むが、この体育祭を通じてこの程度の攻撃で効かないことは分かっていた。そのまま両の拳に爆破のエネルギーを溜め込んだ拳のラッシュを只管に叩き込む。
『馬鹿の一つ覚えか、一試合目の切島の試合を見ていたにも関わらず』
「はっ‼‼余裕ぶっこいてんじゃねぇぞ‼‼」
確かに試合展開的には、切島と龍鬼との試合と同様ではあった。しかし、叩き込まれる拳の威力と速さは切島の拳よりも遥かに高威力であり鋭さがあった。何より。切島の時とは違い、爆豪は冷静だった。
龍鬼と自分との真下にある地面に向かって爆破の個性を叩き込む。そうすることで地面は轟音と共に砕け散り土煙が上がる。
『……目晦ましで時間稼ぎ、か。性格の割には、随分と堅実的な戦い方をする』
欲しかったのはほんの一瞬。自分の出せる最大限の技を確実に叩き込むための僅かな時間。土煙を払った龍鬼の眼前には、自分の顔の前に爆破のエネルギーを自身の臨界までに溜めこんだ両手を構えた爆豪の姿があった。
「くたばれやっ‼‼」
顔面だろうとお構いなく自身の個性を最大出力で叩き込む爆豪、会場を覆うほどの爆炎が起き、その衝撃波が再び会場を取り囲んでいた防護壁を襲い音を立てて砕け散った。派手な大技が決まったことにより観客からは歓声が上がる。
しかし、歓声に流されてその攻撃だけで終わり、と言ったこと爆豪はすることはなかった。今の技で決め切れるなどという甘い考えは爆豪の中には無かったからだ。そのまま未だ爆炎に包まれている龍鬼のいる場所に向かって爆破の個性を連続で叩き込んでいく。心身と体力の両方が回復したこともあって個性の調子も良くなり、継戦の能力が騎馬戦の時と比べて遥かに向上していた。
「いいぞぉお‼‼ナイスだぜ爆豪‼‼」
「そのまま一気に畳みかけちまえ‼‼」
「俺らヒーロー科の力を見せてやれ‼‼」
「頑張れ、爆豪‼‼」
「ファイトですわ、爆豪さん‼‼」
今まで、自分たちに見せてきたことのない怒涛の攻めを展開する爆豪に対してヒーロー科の生徒たちからは歓声と応援が惜しみなく注がれる。だが、この時。彼の事を一番間近で見てきていた緑谷は違和感を覚えていた。
(……おかしい。かっちゃんの個性の威力も、限界点も。さっきまでよりも、明らかに上がり過ぎてる。いくら回復する時間があったとはいえ、異常すぎる)
爆豪の幼馴染として、彼の事を一番よく見てきた緑谷はその違和感に直ぐに気付いた。確かに、自分と雄英の授業での模擬戦で全力で戦ってから少しは時間が経過し、その時間分の努力が実を結んだと言えばそうだろう。この体育祭の今までの競技や、ガチバトルの1回戦目の彼の試合でもその個性の威力は垣間見えた。
だからこそ、今の爆豪の個性と今日の体育祭で見せてきた爆豪の個性は明らかに違っていると感じたのだ。
そして。爆豪本人も、その違和感に直ぐに気付く。龍鬼に対する攻撃を一旦止めて、自身の個性の発現場所でもある、己の両手を見つめる。
(……個性の威力が、変に上がってやがる)
そう、自身の個性の威力が不自然な程に上がっていたのだ。確かに、先ほど龍鬼の力を使用されたことにより自分の心身に蓄積していた疲労が取り除かれたことによるのもあるかもしれない。だが、手から伝わってくる感触はそれでは説明できない、今まで自分が経験したこともないようなものだった。そして、それでいて完全に制御ができていたのだ。
『……やはり、ヒーロー科の中でも5本指に入る実力者。実に、良い攻撃じゃった』
そんなことを思っていると再び声が頭の中に響き、考えるのを中断して視線を前に向ける。爆炎が晴れ、龍鬼の姿が露になる。至近距離からの大爆破と幾重もの連続爆破を叩き込まれたにも関わらず、身に付けている雄英の体育着の激しい損傷と少しの擦り傷以外は、五体満足で立っている龍鬼の姿があった。
『でも、これで終わるわけないって。分かってたことじゃろ?ほれい、もっと叩き込んで来いや』
そう言いながら身構える龍鬼。服がボロボロになったことにより、その鍛え抜かれた肉体が露になり、2mを超える巨体とその身体に見合う鍛え抜かれた肉体も相まって更に威圧感が増す。龍鬼の言う通りだった。今までの攻撃程度で終わるほど簡単ではないことは分かっていた。再び攻撃を仕掛けるために爆豪も自身の両手に爆破の個性を溜め込む。
だが、その時だった。爆豪がそれに気付いたのは。
(……なんだ、前が。霞んで見えやがる)
目の前にいる龍鬼の姿が一瞬ではあったが、霧がかったように見えたことを爆豪は見逃さなかった。直ぐに自分の首を振り再度確認しようとするが、自分の額を手で拭った際に、今までに感じたことのないような、妙なざらつきなようなものを感じた。
直ぐに拭った手のひらを確認する。するとどうだろう、爆破の個性を発現する手のひらから、黒い色をした細かな粉のようなものが湧き出ているのが確認できた。
「……一体なんだ」
気味が悪いと思い、手に埃が付いたかのように付着していたそれを払い落す。瞬間、その粉は音を立てて爆発し、地面が砕け散った。その光景に爆豪は目を見張る。そして、再度自分の両の手を見つめ、再び発生した粉を振り払う。その粉は、先ほどと同じように爆発し、地面を砕いた。そして、爆後の顔は怒りの形相になる。
「てめぇ、俺の身体に何しやがった‼‼」
不自然な程の個性の威力、それに耐えきるだけの肉体。そして何より、自分の個性に現れた目に見れば分かるほどの変化。その原因は直ぐに思い当たった。そう、先ほど龍鬼が自分に対して流し込んだエネルギー。あれ意外に現在の自分に起きている変化が説明付かなかった。
『……聞きたいんじゃったら、力づくで聞いてみぃや』
再び爆炎が上がる。龍鬼のその言葉を聞くや否や、爆豪は再び爆破の個性で満ちた右の拳を振りぬいた。しかし、その威力は先ほどまでとは比べ物にならず、その余波で分厚く頑丈に強化されていたはずの防壁がいとも簡単に砕け散った。
爆発の個性により強化された怒涛の拳のラッシュが再び、龍鬼に向かって放たれる。両の手から発生する粉が爆豪の個性の威力をさらに底上げし、先ほどまでとは比べ物にならない程の爆発が龍鬼を襲う。その光景に、観客たちのボルテージは更にヒートアップする。
「……なあ、爆豪の奴。何か、変じゃねぇか」
そして、観客席にいたヒーロー科の生徒たちも漸く爆豪に起きている変化に気づき始める。
「さきほどまでとは、明らかに個性の威力が桁違いだ」
「うん。ウチと試合した時も、きちんと本気でやってくれたのに。今の爆豪くんは、それ以上やね」
「それに、一瞬だったけど。爆豪ちゃんの周囲に、黒い粒子みたいなものが舞っていたわ」
「なあ、オイらだけかな。爆豪の身体、さっきよりガタイ良くなってねぇか?」
「いや、俺にも爆豪の身体が少し大きくなったように見えるぞ」
「それだけじゃない、明らかに先ほどまでより動きが早くなってる」
各々が、爆豪に対しての違和感を感じ始めている頃。そのことに対して、心当たりがあった三人は試合に集中して見入っている周囲に聞こえないように話し始める。
「……龍鬼の奴、彼奴にあれをやったのか」
「多分。でなきゃ、爆豪のあの変化に説明が付かない」
「でもあれは、龍鬼君と交わす必要があるはず。あのかっちゃんが受け入れるとは到底思えない」
「多分、俺と一緒で仮の状態なんだと思う。でも、仮の状態でもあの威力。末恐ろしいよ」
「で、でも。何で龍鬼君はかっちゃんに同意も無しにそんなことを」
「本人に確かめるしかねぇだろ。この体育祭の彼奴の目的も含め、さっきから少し不自然な所が多すぎる」
緑谷たちがそんな会話をしていると、周囲から再び大きな歓声が上がる。その歓声に、試合をしている二人の方を見れば。そこには、自身の自慢の技である渾身の右のストレート爆破パンチを龍鬼の顔面に諸に叩き込んだ爆豪の姿があった。
(手応えあり。…けどよお‼‼)
「良い拳を撃つのぉ。今のは、来たのぉ」
確かに手応えはあった。だがそれでも、未だに龍鬼を倒すことはできていなかった。爆豪の頭の中で、再び目まぐるしく思考が回る。
(このまま攻め続けても、消耗するだけ。だが、確実にダメージは入っている)
そう、爆豪はよく見ていた。確かに、外面からみれば大して手傷を負っていないように見える龍鬼ではあったが先ほどの拳の入れた時の感覚からすれば、確かにダメージを負わせることができているのを感じ取れていたのだ。
『時間的に次が最後になる。どうする、まだやれるじゃろ。大技、叩き込んで来いや』
龍鬼の言う通り、もうすぐ彼が指定した5分に差し掛かろうとしている。にも拘わらず、龍鬼は未だ健在。しかし、確実に手傷を負わせることはできている。ならば、爆豪はやることは一つだった。
「なら‼‼お望み通り、最高の一撃を。テメェにブチかましてやるよ‼‼クソロン毛‼‼」
そう言うと爆豪は龍鬼と同様に、地面を足で踏みぬき自身が動かないように固定する。そして、自身の両手にこれまでとは比べ物にならない程の爆破のエネルギーを溜めていく。
「こんな所で、止まる訳にはいかねぇんだ‼テメエを倒して、俺は超えていくんだよ‼‼」
目指すのは、原初の憧憬。その先を超えた光景。オールマイトという最高のヒーローを超える。その思いと願いに、爆豪の個性はうなりを上げて応える。
そのあまりのエネルギー量に地鳴りが起こり会場全体が揺れた。次の一撃で、全てが決まる。そう思うほどの一撃が放たれる。観客たちは固唾を飲んで見守った。
その様子に流石に雄英の教師たちも止めた方が良いと考えた。威力だけではない、その攻撃の余波に加え砕け散った破片などが観客たちに降り注いで被害がでるのは確実だった。審判をしていたミッドナイト、イレイザーヘッドは自身の個性を発動させようとする。
『香山先生、相澤先生。既に石山先生の強化防護壁の再展開に加え、俺の術を使用して結界を敷いて、観客や先生たちには危害が及ばないように整えています。続行でお願いします』
すると教師側の行動を汲んでだろう。龍鬼が念話を通して、主審である二人に話しかける。
「それでも、蘇我君はどうなるの?」
『ご配慮、感謝します。けど、俺は大丈夫です』
今日の1日で龍鬼の規格外には散々驚愕させられてきたのだから、その存在がそう言うのなら確かにそうなのだろう。だが、それでも不安を感じざるを得なかった。
『香山先生、試しにその辺の石ころを観客に向けて投げてみてください。途中で見えない壁に阻まれると思います。その後、香山先生の周囲にも結界をつくりますので』
「何度も言ってるでしょうが、ミッドナイト先生と呼びなさい。けど、分かったわ」
言われたとおりに、ミッドナイトは近場に落ちてあった石ころを広い観客席に向かって投げてみる。確かに、龍鬼の言った通り防護壁を超えて観客席に飛び込もうとした石ころは途中で見えない壁に阻まれたかのように観客に届くことは無かった。
「……イレイザー」
「……ミッドナイト先生、そのまま続行でお願いします」
「おいイレイザー⁉正気かよ‼‼」
「その代わり、だ」
『……何でしょう?』
会話を切り上げ爆豪に意識を向けようとした龍鬼に、イレイザーヘッドが鋭い目をしながら、試合続行の為の条件を提示する。
「後日、お前には正式にオールマイトも含めた尋問会に来てもらう。お前に拒否権は一切ない。お前の目的も含めて、全て話してもらうぞ」
『……善処します』
龍鬼の力だけではない、雄英高校に入学した時から現在に至るまでその在り方に対して不安視していたイレイザーヘッド。その問いに答えた龍鬼は会話を終えて再び目の前にいる爆豪に意識を向ける。
目の前にある壁を乗り越えて、先へ進むという確固たる意志を宿した眼で龍鬼を真正面から見据えた爆豪がいた。その両手は満ち満ちていた爆破の膨大なエネルギーにより紅蓮に輝いていた。既に準備は万端のようだった。
『良い面になったのぉ、本当に。良い面になった。来いや、目の前の大きな壁。ぶち抜いてみせろ‼‼』
その爆豪の気持ちに応えるように、龍鬼も両足込める力を更に強め完全防御の状態を作り受けて立とうとする。
「行くぞ。クソロン毛。受けて、見やがれぇえええ‼‼」
その瞬間。爆豪の姿が消え、眩い閃光が会場を覆った。
「榴弾砲着弾」
会場に展開されていた全ての防護壁は砕け散り、爆炎が舞い凄まじい轟音と衝撃波が観客を襲う。だが、その衝撃波が観客たちに届く寸前で目に見えない壁のようなものに遮られコンクリートの破片も壁に当たると共に止められていた。しかし、衝撃音は消えることなく観客たちをそのまま襲った。
その音により大技が決まったことが分かり、我に返った観客たちから割れんばかりの歓声が鳴り響く。
「……なんつう、威力だよ⁉」
「爆豪の奴、正気かよ⁉」
「爆豪さん、凄まじい成長速度ですの⁉」
「それより、かっちゃんと龍鬼くんは⁉」
凄まじい爆発と衝撃波に、攻撃を放った爆豪となによりそれを真正面から受けた龍鬼の安否を叫ぶ緑谷。そして徐々に爆炎が晴れ、試合会場が露になる。
技の衝撃でこれまでにはないくらいに試合会場は完全に破壊されており、至るとこに瓦礫が散乱していた。そんな中で、先に姿を見せたのは爆豪だった。
身に付けていた衣服だけではない。技の衝撃によって、先ほどまで無傷でいた爆豪の身体はズタボロの状態、加えて肩を大きく揺らしながら呼吸をしている所を見るに完全に満身創痍であった。だがそれでも、両足できちんと立っており、その目には未だに意志が宿っている。
「良かった、爆豪は無事だ‼‼」
「凄いぜ爆豪‼‼」
「流石だな、爆豪‼‼」
爆豪の安全が確認できた瞬間、ヒーロー科のクラスメイト達から割れんばかりの称賛が贈られる。
「やっぱり、かっちゃんは凄いなぁ」
そんな爆豪の姿に安堵すると共に、自分の憧れている存在であるということを緑谷は再度自覚するのだった。しかし、会場の皆が爆豪を称賛しているのも束の間、直ぐに全員に違和感に気付くことになった。
(……何だ、何でクソロン毛の周囲の煙は晴れねえ)
未だ爆豪は目の前にいるであろう龍鬼に意識を向けていた。自分に残るその手応えは確かなものだった。だが、直ぐにその違和感に表情を曇らせた。自身の放った攻撃によって生じた土煙はすでに晴れ始めているにも関わらず、未だに龍鬼の周囲にある土煙は晴れず立ち上っていた。いや、正確には渦巻いていた。
そして。
「……な、なんだ」
不意に自分の鼻先に冷たい何かが落ちるの感じ、爆豪は手で拭った。手で拭った湿り気のあるそれは、大きな雨粒だった。
「……雨?」
そう爆豪が言葉を発するや否や、1試合目の時とは違い曇天に染まった空からは大きな音と共に大量の雨が降り始める。
「おい⁉今日は晴れの予報だったろうが⁉」
「何でこんな急に⁉」
全員が試合に夢中になっており、空模様のことなど全くに気にもかけていなかった。突然の大雨に、会場は大混乱に陥る。そして、その土砂降りの雨が降りしきる喧騒の中で。何かが取り外されたその金属音は、爆豪の耳によく聞こえた。
『そうだったか。やはり、そうだったか』
再び爆豪の中に声が響く。流石の爆豪も驚愕の顔色を浮かべざるを得なかった。自分の渾身の一撃を、あれほどの大技を喰らっておいて。いくら規格外と言えども、無事ではすまないはず、そのはずだと。
『先人たちよ。そして、我らが王よ。やはり、私の眼に。狂いは無かった』
煙が晴れる。そして、龍鬼の姿が露になる。だがそこにいた存在は、先ほどまで爆豪が見ていた龍鬼の姿では無かった。
その身体は優に10mを超えていた。下半身には立派な尾を携え、極限までに鍛え抜かれた雨色の肉体。人間など容易くに引き裂いてしまうような鋭い爪。装着されていた口当ては地に落ち、露になった口は獰猛な牙を覗かせる。深く覆っていた前髪が雨に溶けていくように消え、その歓喜と狂気に満ち満ちた素顔が露になる。
そこには正に、龍の姿をした鬼がいた。
祝福と歓喜の咆哮が世界に鳴り響く。雨はそれを称えるように、その身に降り注いだ。
その姿に。
爆豪は、見た。
数多の屍が眠る。重い雨の降り止まない黒に塗りつぶされた大地に佇む、怪なる獣の姿を。
「それまで‼‼この勝負、蘇我君の勝利‼‼」
降り注ぐ重たい雨の中、その声を聴くや否や。爆豪の意識は暗転するのだった。
「……ルキ?」
そして、思っていた考えとは別に湧き上がる感情と共に口にしたその言葉の意味を、瑠璃色の髪の少女は未だ知らない。いや、思い出せないでいた。最も、忘れてはならなかったその記憶を。
如何でしたでしょうか?やっと怪獣っぽい描写を入れることができました(戦うとは言ってない)
次も何とか早めに仕上げられるように頑張りますので気長にお待ちしていただければ幸いです。
尾白くんは、騎馬戦の反動もあって上鳴くんと激戦を繰り広げるも惜しくも敗退しております。尾白くんの活躍はそのうちに。
では、また次回。
因みにこの主人公、変身を後2回ほど残しております。