はい。なるべく早く投稿するとかいって半年経っていた屑です。
本当に、申し訳ありません。
あまりにも多忙なのもあって時間が予想以上にかかったのと。
今回の話で体育祭編は終えようと書き進めていたのですが、2万字超えてしまい、しかもまだ書ききれそうになかった為分割することになったこともあり、かなり遅くなりました。
今回は、ガチバトル最終戦の導入部分になります。
次回から、戦闘シーンになります。
長々と言い訳、失礼しました。
では、どうぞ。
ある程度、予想はついていた筈だった。
だが、蓋を開けてみればどうだ。
彼等の力は、私の予想を遥かに超えていた。
秘められている力の僅かな一旦を突き、放出させただけとはいえ。
よもや。
第一の枷を外されるとは想定外だ。
これほどまでの力とは。
一体、どれほどの力が持ち越されているのか。
一体、どれほどの積み重ねを彼らはしてきたのだろうか。
これほどの力が、備わっているというのなら。
王や先人たちの期待通り。
彼等の力を完全に取り戻せることができたのなら。
十分に戦える。
だが。
だからこそ、やはり解せない。
前回、この界に降り立った際に。
これほどの力を付けなければならない敵は存在しなかった。
前回の奴らとの戦いの際に、勇ましき者たちや彼女の力もあって奴らの討滅には成功した。
再び、奴らや他の敵対勢力が大界の境を超えてこの界に入り込む道は完全に絶ち切った。
最早、敵勢力がこの界に入り込む余地など無い。
あの護の一族の来訪が過去にあったのなら猶更だ。
これほど1つの界に留まって力を蓄えるリスクを犯さなければならない理由が分からない。
仮に。
王の推測通り。
あの護の一族の宿敵である肉喰共が此度の戦の相手というならば、護の一族だけでも事足りたはず。
私をこの界に呼び戻す必要も、あの子を態々先人たちが私と引き合わせる理由も。
あまつさえ、王が御降誕するなどあってはならない。
だが。
先人たちだけではなく。
我らの王が、そうだと判断したというのならば。
此度の戦。
厄介な事になりそうだ。
急がなくては。
急いで、彼等の力を覚醒させ。
雨昇ノ儀を行わねば。
動き出す者 ガチバトル 伍
「……ここ、は」
爆豪が目を開けると、白い天井が見えた。仄かにかおる消毒液の匂いが彼の鼻をくすぐる。状況を確認する為に、徐に身体を起こそうとするが全身に鈍い痛み巡った。自分の身体を見てみれば、全身を覆い尽くす程の包帯が巻かれていた。どうやら、治療されて保健室のベッドに寝かされていたようだった。
「……目が覚めたみてぇだな、爆豪」
未だ朧げな意識の中、不意に自分を呼ぶ声が聞こえそちらの方に目をやった。全身包帯だらけではあるが、比較的自分よりも軽症であり。既に治療を終えて自分と同じく寝かされていた轟がいた。
「何で、テメエがいんだよ半分野郎」
「緑谷に負けて、親父に運ばれたんだよ。それに、いるのは俺だけじゃねえ」
そう言いながら周囲を見渡せば、治療は施されているものの、自分以上に傷だらけの状態にある黒い鴉の頭をした生徒、常闇 踏陰が横になっていた。
「完敗だった。爆豪、俺はお前と違い奴に対して近づくことすらできなかった」
悔しそうに噛みしめる常闇のその言葉に、爆豪の中で先ほどまでの記憶が鮮明にフラッシュバックした。重たい雨の中、倒れ行く自分の眼前に雄前と佇み、歓喜の咆哮を上げる一匹の獣の姿を。
「ダークシャドウもあの雨の中、陽の光が届かない程の曇天の中で、十分以上に力を発揮できた。その、筈だったのに」
噛みしめながらそう呟く。常闇が振り返るそれは正に、あまりにも一方的な蹂躙であった。
「雨そのものが襲い掛かってきた、そう表現するしかない。何をされたのか、全く理解できないまま。気付いたときには、地に伏せていた。恐らく、今も降り続いているこの雨自体も。奴の個性によるものだろう。奴と対峙して分かったのは。雨の中にいる奴は、今まで見てきた奴とは全くの別物だということだ」
包帯が巻かれたその握られた拳からは血が滲んでいた。そんな常闇の姿を、爆豪は真剣な面持ちで見つめた。
「……龍鬼について知りたいのなら、俺に聞いても無駄だ。あんな姿、一度たりとも見たことねぇ」
二人の内心を代弁するかのように先にそう言葉にする轟。彼が知らないのは無理もない、龍鬼と小学生の頃からの付き合いであるにも関わらず、龍鬼のその姿について見るどころか、話題にすらされることはただの一度もなかったのだから。
「……以前からの友人である尾白も同じことを言っていた。それ以前に、緑谷からの情報で奴の個性は超能力のはずだった。だが、奴のあの力は最早その個性だけでは説明がつかない」
「大体、彼奴は自分の個性を出すことを極力控えてた。まあ、あんな個性なら彼奴の性格的に目立つから人に見せたくねえのは分かるが」
今までの龍鬼の行動を振り返ってみれば、極力目立つことは避ける傾向にあった。それは、緑谷から齎された情報によっても理解することも出来たし、彼の雄英に入ってから今日という日まで学内で話題にすらならなかったことからも納得がいった。だからこそ、自分たちは今日という日まで、龍鬼の存在を知ることは一切無かったのだから。
「……だったらなんだ、今まで隠していた個性を隠す必要が無くなったってことかよ」
その言葉に、二人は押し黙った。その沈黙が答だった。
この体育祭という全世界が注目する場において自身の個性を惜しげも無く晒している。その行動は大いに矛盾していた。まるで、何か龍鬼の中に劇的な心変わりがあったのか。そもそもこの雄英体育祭という全世界が注目するその瞬間まで力を温存していたのか。将又、その全てか。疑問は深まるばかりであった。
そして、図らずも彼等の予想は的を射てた。しかし。そのことを彼らが知るのは、もう少し先の話になる。
「やはり、奴に直接聞き出すしかあるまい。最も、奴がそう簡単に話すとは到底思えないが……」
今日1日という短い時間ながらも、まざまざと見せつけられてきた龍鬼の力。隠されてきた力の一端を見せられ、現時点での自分たちでは到底埋めようの無い決定的な実力差を突き付けられて、完全に打ちひしがれていた。
「……本当に、お前は何者なんだよ。龍鬼……」
自分たちと同じ年齢の筈なのに、有する力は自分たちが目指すプロのヒーローたちと比べても、明らかに別格。その在り方すらも、最早ヒーローとして、個性を持つ人間としての枠組みに存在しているのかすら、まだ子供である自分たちにすら怪しいと思える段階だった。
「相澤先生たちも、表情に出ていたな。先生たちも、あの姿については知らなかったようだ」
「……先公どもにすら、知られてねぇってことかよ」
「見てえだな、当然会場に来てたヒーロー達も知るわけがねえ。お前が倒れた時、プロのヒーローたちが会場に乱入して、一触即発の状態になって大変だったぞ」
龍鬼のその姿に畏怖を覚えていたのは自分たち生徒だけはなかった。会場に警備に来ていたプロのヒーローたちはあの場にいの一番に躍り出てて身を挺して爆豪を守ろうとしたのだ。その中には、轟の父親であり、現役№2のヒーローでもあるエンデヴァーの姿もあった。相手が、同じ雄英の生徒であるにも関わらず現場は正に戦場に変わる寸前だった。
「それほどまでに。プロのヒーローが勘違いをするほどに、奴の力が凄まじかったのだろう。実際、俺が奴と対峙した時は完全に敵だと思って戦いに臨んだのだから」
最早、龍鬼に対する世界の視線は、一人の雄英高校に通う普通科の生徒ではない。今まで存在してきた敵などとは比べ物にならない程の脅威を持つ正体不明の存在。そう世界は認識していた。
「……本当に。何があったのか、彼奴に聞く必要があるな」
自身の友人の余りの変わりよう。そのことについて問いただそうと決意を固めながら、轟は自身の左手を見つめた。
「オイ半分野郎、テメェ。使ったのか、左腕」
その言葉に轟は静かに頷いた。自身の父親の個性が大嫌いだった、自身のクラスメイトもそのことを知っていた。それが原因で、その個性が発現する左腕を今の今まで封じてきた事も。
「何でだろうな。ずっと親父の個性であるこの左腕が憎くて憎くて仕方なかったのに。あの普通科の二人。龍鬼や緑谷のことを見ていると、そのことが馬鹿らしくなった」
父親のことが憎かった。父親がしてきたことの結果、愛する家族が犠牲になったのを見てきた。自分自身も酷いことをされてきた。だからこそ、憎み自身の個性を呪った。だが、同じような境遇の心操の覚悟の叫び、自分たちヒーロー科相手に最後まで戦った天峯。決して自身の考えを否定せず自分がその考えに区切り着けるまで待ってくれた龍鬼の存在。そして。
『その個性は。君だけの、世界でたった一つの君だけの個性なんだ。誰にも否定できないし、誰にも否定させない。君は、君で良いんだしそうあるべきだよ。なろうよ、一緒に。ヒーローに』
差し伸べられた手。自分の友人である龍鬼と同じく、自分のことを聞き、真正面からその思いを受け止めて、それでも尚。共に夢に向かって進もうと、語りかけてくれた緑谷。その思いが。自分の中に、久しく感じなかった暖かな何かを。轟の中に齎したのだ。
「だが結局。両腕の個性を使っても、緑谷に勝てなかった。良い様だな」
言葉とは裏腹にその表情はとても和らいでいた。そして、そんな会話をしている三人がいる保健室の扉が開かれる。
「目が覚めたようだね。全く、イレイザーやオールマイトには後で説教が必要さね」
安心させるような落ち着いた声を放つ白衣を着た小柄な人物、雄英の看護教論でもありこの部屋の主でもあるリカバリーガールが寝ている三人に向かって歩み寄る。
「全く、3人とも若いからって無理し過ぎだよ。いくら、あの蘇我や緑谷が強いからって言っても再起不能になるようじゃ、アンタたちの夢も夢半ばで終わっちまうじゃないか。命あってのものなんだからね」
そう小言を言いながら、未だに傷の癒えていない常闇に自身の個性を使い治療を始める。そして、保健室に備え付けてあるモニターを付けて会場の様子を映した。
映し出されたのは先ほどまで爆豪たちが戦っていたアリーナではなく、無人の町のような場所であった。
「今回は特例でね、決勝は期末試験なんかで使う仮想市街地の演習場が使われることになったんだよ。アリーナじゃ狭すぎるっていうんでね」
映像が切り替わり、現在のアリーナの様子が映し出される。雨の為、開閉式の天井が閉じられており、さながらドームでのライブ中継のような状態になってはいたが。それは、見た目だけの話だった。
「皆、不安がってんな」
「あぁ、完全に怯えている」
そこに映し出された光景、先ほどまで将来のヒーローに成っていく優秀な卵たちの戦いに熱を持って声援を送っていた観客たちの姿は無かった。その場にいる全ての人間が等しく、不安な面持ちを浮かべていたのだ。
ある者は目に恐怖を浮かべ、ある者はしきりに身体が震えわせ、ある者は見ることすら憚られていた。
「無理もないさね。あの蘇我の個性とそれが放つ威圧感、傍から見たら完全に高ランクの凶悪敵と変わりないからね。一般人がそんな威圧に晒されたんだから」
見た目的に苦労するだろうね、リカバリーガールはそうため息交じりに口にした。画面越しからも分かるほど、会場は不安と恐怖によって支配されていた。そして、そんな会場を後にして、仮想市街地が映し出される。
「……何の冗談だ。クソロン毛の野郎、俺の時よりもでかくなってやがるじゃねぇか⁉」
入ってきた映像に思わず爆豪は叫び、目を見開く。そこに移し出されたのは、画面を支配し、ビルの中を闊歩するほどの巨体。それは、爆豪自身対峙した時よりも遥かに巨大になった龍鬼だった。
「雨だ。奴が雨を浴びれば浴びるほど、その肉体は巨大化していった。現在は、体高だけで50m近くあるそうだ」
その言葉に、爆豪の眼が更に見開いた。最早、人と呼んでいい領域なのだろうか。頭の中にそんな考えが浮かんでならなかった。
そして、そんな龍鬼の姿を見ながら轟は納得いった表情を浮かべた。
「龍鬼が頑なに個性を使いたがらなかった理由の一つが漸く分かったな。そこらの敵なんか目じゃねぇよ。これじゃまるで、怪獣だ」
巨大な影が、曇天で暗く重い雨の降りしきる無人の市街地を歩いていく。歩く度に地は揺れ起き、道路がその身の重さで陥没する。路上に止めてあった車が横転し、ビルの窓ガラスは音を立てて割れた。その姿は、正しく自分たちが幼い頃、映画やアニメ、小説などの創作物の中でしか見ることの無かった空想上の存在、怪獣そのものであった。
(……デク)
こんなオールマイトに匹敵するような、下手をすればそれ以上の存在と自分の幼馴染が今から対峙しなければならない。
言葉にはしなかった、だが心の中で湧き上がり自分の幼馴染に向けている不安の感情を爆豪は理解していた。そして、その考えは爆豪だけではなく、緑谷を応援している全ての人が同じ考えだった。
そんな不安が支配する中、その元凶でもある強大な龍鬼の姿を映していた画面が切り替わる。
しかし、その画面を見た瞬間。今まで絶望に支配されていたアリーナの観客たちから僅かながらではあったが歓声が上がった。
そして、その声はやがて会場全体に波及していった。
そこに映っていたのは。
誰もが逃げ出したくなるような状況を目の前にしているにも関わらず、険しくも一切臆することなく。決意に満ち満ちた表情を浮かべ、龍鬼という強大な存在に対峙する、一人のヒーローの卵の姿であった。
激しく、そして重い雨の降りしきる中。緑谷のその意志の籠った強い眼差しは、確かに龍鬼の姿を一歩も退くことなく真正面から捉えていた。
(……これが、龍鬼君の力。そして、本当の姿)
大きさだけでは無い。その放つ威圧感、圧倒的強者としての貫禄。思わず目を背けたくなるような相手を前にして、緑谷は真っ向から対峙していた。
(この前襲撃してきた敵も強いし、怖かった。けど、龍鬼君はそんなレベルじゃない‼)
最早、昨日まで共に切磋琢磨していた同じ年の友人という感覚は一切ない。一人の、超えるべき壁として、打ち倒すべき相手として龍鬼のことを見ていた。
『……良い雨じゃ、そうは思わんか。のぉ、イズク』
頭の中に自分に語りかける声が聞こえた。自分の目の前、100m先に佇んでいる龍鬼が降りしきる雨にその巨大な身を預け、両の腕と顔を降りしきる天に向け、満遍なく浴びるようなしぐさを取りながらそう問いかける。
「この雨も、やっぱり龍鬼君の個性なの?」
眼は決してそらさずにそう言葉を返す緑谷。今逸らしてしまえば、二度と立ち向かえなくなるという確固たる確信が彼の中にはあった。
『さて、如何じゃろうのぉ。と、言いたいところじゃが、今回の雨に関しては確かに俺が呼んだもんじゃ』
「流石に驚いたよ、今の龍鬼君の姿もそうだけど。こんな力を隠してなんて」
『まあ、あんまりネタバレもしとうなかったしのぉ。こんな格好じゃけぇ、みんな怖がるじゃろ』
何時もと変わることの無い飄々とした口調。だが、逆にそれが強靭な巨体と放たれる威圧感と共に不気味さをより際立たせていた。一瞬でも、気を緩めてしまえば完全に飲み込まれてしまう。強者に対する生存本能が、緑谷にそう告げていた。
依然と雨は止む気配は無い、それどころかその勢いは強まり緑谷に容赦なく打ち付ける。誰もが顔を上げることもままならない、誰もが言葉を詰まらせて沈黙に陥って然るべき状況。
だがそんな中で、緑谷は龍鬼に対して臆することなく語りかける。
「龍鬼君。始める前に。僕ね、龍鬼君に言わなくちゃいけないことがあるんだ」
逃げ出し絶望に崩れ落ちてしまうような状況にある中においても、緑谷の発する声はとても真っすぐで恐怖の色は不思議なことに全くと言っていい程無かった。寧ろ、冷静でもあり力に満ち満ちていた。
そんな緑谷の姿を見て、龍鬼は雨を浴びることを止めて正面から緑谷を見つめた。
「この体育祭、色んなことがあった。普通科の子たち。ヒーロー科の皆、天峯さんや心操君、麗日さんや飯田君、尾白君、轟君やかっちゃん。みんな。みんな、凄かったんだ」
語られるのは、今日1日の出来事。自分が対峙してきた思い。
「恰好が良い、龍鬼君の言葉を借りると正にそんな表現があてはまってると思うんだ」
この体育祭を通じて多くの思いと対峙してきた。自身の個性を呪ったが希望を見出した者、自身の個性と共に歩んでいくと決意を固めた者、自分を信じ目指す場所の為に只管に努力してきた者、一度は自身の個性を拒絶したが今日この日を通じてそれと向き合おうと考え出した者、最高のヒーローを超えるために今日という日に備えて来た者。
全てが、今日という日の為に。世界に自分という存在を認識させるための戦いに。迷い、悩み、苦しみながらも前に進んできた者たち。
「本当に。本当に、みんなかっこ良かったんだ。みんなそれぞれ、迷いながら、それでも。前に進むという覚悟。ただただ、それに圧倒されて。凄かったんだ」
たった1日だ。それでも。ぶつけ合った思いの強さに、受け止めてきたその思いに。何も感じないなんて有り得なかった。
『イズク。本当に。良い顔をしちょるよ、今のお前は。昨日までとはまるで別人じゃ』
緑谷の言葉を龍鬼はそう返す。この大会を通して龍鬼が見てきた緑谷の変化、彼がこの体育祭を通して急激な成長を齎していたこと。そのことが、今。強大なはずの自分に臆することなく対峙している緑谷の様子からも感じることができ、嘘偽りないことを示していた。
『先人たちの教えにこう言う物がある。戦いは。本気の意志のぶつけ合いの中での戦いというのは、強烈に人の成長を突き動かす。どうやらその言葉に。お前はきちんと当てはまっていたようじゃ、のぉ』
龍鬼の三本の角が光を放つ。その光を合図にして、更に雨の勢いが増した。
『今日1日、少なからず。迷いある中でも強く、そして確な思いを交わしてきた。そして、その思いの上に。お前は今立っている。その上で、出久。お前は俺に何を問う』
声が明らかに変わる。何時もの飄々とした口調とは程遠い。緑谷が今まで一度たりとも聞いたことも無いような力の籠った重い声色。だがそれでも、緑谷は言葉を紡ぐ。
「龍鬼君。僕ね、この体育祭。本当にかけがえのない経験をした。けどね、龍鬼君がいなければ。もしも、一人でこの体育祭に臨んでいたら。恐らくここには立てていなかったと思う」
この体育祭。確かに自分は強くなった。そのことが自分でも感じ取れるくらいに理解していた。だがそれは、体育祭に至るまでに龍鬼の助力があったからこそのモノ。緑谷はそう考えていた。
「僕だけじゃない、心操君や天峯さん。他にも、尾白君や轟君。みんな、龍鬼君がいてくれたからここまで頑張れたと思うんだ」
この体育祭で対峙してきた、自分と同じように龍鬼に力を付けられた者、勇気づけられた者、諭してくれた者。思えば、龍鬼に関わった者たちが須らく成長の色が強く現れていた。
「だからこそ。一人の友人として。これから、ヒーローに成っていく者として。僕は君に聞かなくちゃいけないんだ」
力の籠った真直ぐな意志が龍鬼に向けられる。それは、今から自分を打ち倒すという強い決意の表れそのもの。
「龍鬼君。君が一体何者なのか。どうして、僕たちを強くしてくれようとしてくれるのか。君の目的が、一体何なのか。龍鬼君が抱え込んでいるモノ全部。聞きたいことが、沢山あるんだ」
龍鬼が自身の個性を目立つからということと、非常に強力で危険だからという理由で、人前で使うことを極力避けてきたことを緑谷は龍鬼自身から聞いていた。実際に、彼が自分たちとの放課後の特訓以外で個性を見せることは全くと無かった。
だからこそ、この体育祭という全世界が注目するほどの大舞台でまざまざと自身の力を見せつけた龍鬼の行動が疑問だった。それだけではない。その立ち振る舞い、今日という日も含めて。まるで、自分たちヒーロー科や普通科問わず、その全ての生徒を強くしようとする行動。
その全ての行動に対して、気まぐれなどとは程遠い。何らかの意図を、自分たちでは想像もできないような何かを感じない訳にいかなかったし、もしそうなら。その理由を聞きださなければならなかった。
『……だからといって、俺がそう簡単に話すとは思ってない。じゃろ?それで、イズク。オドレはどうするつもりなんじゃ』
「だからこそ。僕は、ここで君を倒す。君を超える。その上で、意地でも聞いてみせる」
緑谷の決意の込めた強い言葉と共に緑の身体から淡い緑の閃光が迸る。緑谷の個性が、その思いに応えるかの如く溢れ出す。
『力の差は歴然。加えて、イズク。オドレは、俺に一度たりとも勝てたことは無い。はっきり言って。成長したオドレとはいえ、枷を外した今の俺に勝つという可能性は限りなく低い。それこそ、零に近い数字かもしれん。それでも、やるんじゃな』
龍鬼と自身にある埋めることのできない力の差。確かにそれはある。だが、それでも。緑谷の意志には、揺らぎは無かった。
「勝てる可能性が零ではない。勝負事に絶対なんてことはありはしない。それなら。望みをかけて、努力を惜しまず最善を尽くし。最後の瞬間まで決して一歩も退かずに、諦めないこと。そう言って、自信の無かった僕を勇気づけてくれたのは、君じゃないか」
自分が雄英に入った当初。自身と周りの人間との力の違いに自信を無くしかけたことが何度もあった。そういった時に、何時も相談に乗ってくれた友人。力が欲しいと望んだ時に、その力の使い方を学ばせてくれた友人。戦いに臨む際に悩み、苦しんでいた自分に言葉をかけてくれた友人。
そして、その友人が。自分で到底及ばない程の何かを抱え込んで、今何かしらの意図をも持って自分と対峙している。ならば、ヒーローを志す者としてやることは決まっていた。決意と共に握り締めた右の拳を龍鬼に向かって突き出す。
「
その言葉を、自身の今の考えと思いを真正面から龍鬼に対してぶつけた。その表情には、一点の曇りも無かった。
そんな緑谷の姿を。真正面から受け止めた龍鬼。その顔は依然として、変化は無い。だが、暫しの沈黙の後、龍鬼は言葉を紡いだ。
『……これも、繰り返している影響か』
その瞬間、緑谷の目に映る全てのモノが静止した。先ほどまで降り続いていた雨も。それによって生じた音も、地に落ちることなく。まるで切り取られた一枚の絵のように世界が静止していた。緑谷自身も、身体を動かすどころか瞬きすることすらできなかった。
(……る、龍鬼、君)
『緑谷出久君。確かに君の言う通り、私は。君に話さなけばならないことが多くある』
先ほどまでの畏怖を感じさせるような声色ではない。寧ろ、今まで勉学を共にしてきた友人の声などとは到底思えない。何か、とても大きな存在に語りかけられるような。そのような落ち着きと威厳の込められた優しい声で、龍鬼は緑谷に対して言葉を紡ぐ。
『結論を言おう。君や君の師が考えている通り。私が雄英に来て、君に接触し、君の学友や友人たちに力の術を教えるにはきちんとした理由がある。本来であるならば、もう少し段階を経てからこの話を君にする予定だった。だが、我らが王が齎したモノと先人たちの意志。何より、君たちの練り上げてきた力が。私の想定を遥かに上回っていることから、此度の戦の中心になるであろう君に。与えるべきと判断し、君に伝えよう』
(……な、何を。言っているの)
『今は理解できなくて良い。この話を聞けば君は、とても重い決断を迫られることになる。だが、君は迷いなくその決断に応えることになるだろう。嘗て、君が継承した力の7番目の持ち主であった彼女がそう選んだように』
(る、龍鬼君。君は、一体……)
『だがその前に、君に眠っている力を。君が長きに渡り、君の友たちと共に積み重ねてきた君自身の力と、君が師から受け継いできた力。その一端を、私に見せてもらおう』
世界が生気を取り戻し、再び動き出す。龍鬼の角が光を放ちその頭上で、雨水が巨大な球状の形に収束する。その龍鬼の行動に我に返った緑谷は、龍鬼に向かって自身の個性を発動させて吶喊した。
そうして、戦いが始まった。
如何だったでしょうか。
現在後半部分も6割ほど完成しており、何とか早くできるように努めますので次回もよろしくお願いします。
あと、感想を書いてくださった方。評価をしてくださった方。本当に、ありがとうございます。
自分のような文章や話の構成、キャラ作りなど。小説を書く者としてまだまだ全く至っていない若輩者でも。
読んでくれてる方がいてくださって、大変嬉しく思っております。
更に精進を重ね、今後も頑張っていきますので。何卒、よろしくお願いします。
ではまた次回に。