『ありがとうございます、お母さま。僕の我侭を聞いてもらって』
しばらく時間がたってから返事が返ってくる。
『いいのですよ。でも貴方が食べたいものを言ってくるなんて、何年ぶりかしら。母はとてもうれしいと思っています』
しかし、何故? という言葉に、僕は母親には見せられない「志士」としての顔で返事を書く。
「ちょっと勉強」
おせち、とてもおいしかったです。
──本年も明けましておめでとうございます。弊社は次の作品、スパルタン・メタル発表となりましたが、辻斬り・協奏曲:オンラインはまだまだ突っ走ります!
さて今回の天誅は、『おせち選挙』
京の都に『おせちウィルス』がまき散らされた。ウィルスに感染したNPCたちは都の中心、将軍の城大門を目指し進軍する。
大門に設置された超巨大重箱に十六の具を揃え、『おせち大明神』を顕現させるために。
志士たちよ。『おせち大明神』の目論見を破り、力を手に入れるのだ!
1月1日0時より、フィールドに『おせちウィルス感染者』計二十七種がランダムポップします。
感染者を倒すことで、特殊なステータスアップをすることができます(最初に該当NPCを倒した方限定の効果もあり)。
『感染者』は討伐後一定時間経つことであらためてランダムポップします。
多くの感染者を天誅し、最後に現れる『おせち大明神』を倒しましょう。
なお今回のランキングは、最終的なステータスアップの数および、そのステータス獲得をアシストした数も計測いたします。
「……みつけた」
いま、ユラの眼下には抜身の刀を手に将軍の城を目指す、異形の侍がいた。
甲殻類特有のぬらぬらとした顔、触覚が伸びる、赤いそれ。すなわちエビの頭をした侍である。
鐘突き堂の屋根の上から敵意もなく眺めている。普段であれば真っ先にバフを取りに行くユラだが、トッププレイヤーとしての勘が、その軽挙を止めていた。
根拠はウィルスという表現。十六しか入らない箱に、二十七種の『感染者』。
そして何より、感染者と『感染者』の打ち間違いとしか思えないような細かい表現の違い。
これらが意味するものは……。
「ヒハハハハハハ天誅ゥゥゥゥァァァァァ!!!」
「あ、やられた」
エビ侍は大挙して押し寄せた知らないプレイヤーに倒された。
「やったぜ金星! グロいだけで大したことねぇなぁ、正月イベントだから初心者に合わせたかロワイヤル社ぁ!」
吠える吼える。結託していたのか確認させたかったのか動かない他プレイヤーを睥睨しつつ、そのプレイヤーはウィンドウを確認し、
「おー、ついたついた。エビだとバフの内容は、HP上限上昇効果とリジェネ……エビって長寿祈願だっけ。それに合わせてるんだな……ガッ」
プレイヤーが揺れる。
他プレイヤーのうち、何人かは動揺するが、大多数は予期していたのか刀を構える。
ユラも、刀を構えて跳躍の姿勢をとった。
「ガガガガガガガガガ……エビィィィィィィィィィィィ!!!」
知らないプレイヤーが、咆哮した。
その顔は、先ほど倒されたエビの頭になっていた。
ユラの口が、裂けるように笑みを浮かべた。
「ワクチン?」
「そうだ。いつもの呪いじゃなくてウィルスって表現の時点で怪しいと思ってたんだ。この『おせちウィルス』は、ランダムポップした『感染者』を天誅することで感染する。『最初に該当NPCを倒した方限定の効果』って、バフじゃなくて『モンスター化』のことだったんだよ。モンスター化は一回きりで、以降は天誅すればウィルスは弱毒化してバフ効果のみが倒したプレイヤーに与えられる」
新年早々クソ運営だ。国語教師でもなきゃ読み取れねぇよ馬鹿(誉め言葉)じゃねぇのかロワイヤル社!
「もう京極で検証したが、エビは『HP上昇とリジェネ』、タイヤらウナギは『レアドロップ率上昇』、ハスは『視覚矯正(動体視力向上・千里眼)』だった」
「何べん天誅したんだお前……」
「まだたったの十回だ。さてここにレイドボスさん以外のランカーを集めたのはほかでもない。このイベントの協力者になってほしい」
勇者、唯一剣、針千本、紅蓮寧土、あいつ←(くいっ)、吹雪狩、狂犬、被下克上。そうそうたるメンバーだ。ところで、
「デュラハンは?」
「あいつはダメだ。NPCが天誅できるから今回はレイドボスさんの手下みたいになってる」
なんでもモンスター化しては天誅され、猟犬のように『感染者』を見つけ出しては天誅して感染し、そして天誅されているらしい。家畜みたいで怖っ。
「しかしなんでよ祭囃子。情報提供のお礼にまだ天誅してないけど、バフ付きまくりのアンタを天誅すれば、一気に躍り上がれるってわけよね?」
「内ゲバは予定調和だけど最後にしてくれ。今聞いたとおり、レイドボスさんはバフを集めてる。なぜか? このイベントは最終的に『おせち大明神』とやらを倒さなきゃいけないからだ」
大門まで見に行ってきたが、あのクソ巨大な重箱に『感染者』が揃えば『おせち大明神』が現れる。
だが今の狩猟状況を見れば『感染者』が重箱までたどり着くことはない。
だが最後には『おせち大明神』は現れる。シャンフロみたいなストーリー重視ではないのだからそこはなんやかんやするのだろう。最悪感染者となったプレイヤーが揃ったから現れた、でもいいわけだし。
単純に考えれば感染者の数だけ『おせち大明神』は強化されている。それを倒すには。こちらも相当量のバフが必要だ。
狩れば狩るほど感染者(バフ)は増えるのに、『感染者』を狩るものがばらけては『おせち大明神』に勝てない。
選択と集中。戦うものを選ばなければならず、他の者はそれに奉仕しなければ都が滅ぶ。
だがここに居るは無辜の民ならざる餓狼の幕末志士。従わせる手段はいつだってひとつ。
ほんとクソ運営。大好き。スパルタン・メタル期待してます!
「某国の選挙人選出方式の大統領選みたいですね。我々ランカーが争わずそれぞれバフ(票田)をつけ、レイドボスさんがバフ(得票)を得る機会を減らす。それでサンラク。お前のマニフェストは?」
「決まってるだろ吹雪狩」
レイドボス、倒すぜ! だ。
俺たちは戦った。熾烈な戦いだった。
レイドボスさんが天誅するよりも早く『感染者』を見つけ、カナリア(第一感染者候補)をけしかけ天誅させ、頭がタイになったり黒豆になった感染者を天誅しバフを得る。
途中なぜか怒り心頭の京極が襲来したが天誅した。なぜ襲ってきたのか全く見当がつかない。俺は悪くない。悪いとしたら天が悪い。なんにしてもバフごっつぁんです。
そして、『感染者』の供給がストップしたころ……俺たちは対峙した。
バフが重なりすぎた俺たちは、初日の出のごとく黄金に輝いている。
「強くなったね」
「みんなのおかげだ」
大門に集まったところで事前に仕掛けていた花火で全員爆殺したからな。
八人のランカーの思い(バフ)を受け取って、俺はここに立っている。
だから、レイドボスさん、あんたにも、そして今召喚された『おせち大明神』にも負ける気はしない。
俺はお前を凌駕した。
ふっつーに負けたわ畜生め。
なお三位報酬貰いましたわーい。
三が日は毎日ランカー全員に追っかけられた。