シャングリラ・フロンティア ワンドロ集   作:斯波涼佑

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お題「陽務 瑠美」「晴れ着」 顔隠し結婚式いざさらば

「あー、もうお母さん! そんな風に取り出さないの! 昆虫捕まえるときの作業着じゃないんだから……! お父さん入ってこない! 着方わからない!? あとでね!」

 私、陽務瑠美はいままさに人生最大級の修羅場を迎えています。

 一年前から計画されていた結婚式なのに、うちの両親ときたら「え、服って予約必要なの?」と来た。

 ウチのような一般家庭に新郎の親にふさわしい華美な留袖や燕尾服があるわけがない。式場で借りるのが一般的だから油断していたこちらも悪かったのは認める。でもだからって予約もしていないとか! どうやってこれまでの社会生活(冠婚葬祭盛り合わせ)を営んでいたんだこの両親は!

 ……いや、でもそうだ。

 初めてなんだから、仕方ない。

 かく言う私も、舞い上がってる。

 だって今日は、大切な日。

 

 あの脳みそにクソゲーカセット突き刺さって外れないと思っていた兄・楽郎が今日、結婚します。

 

 母と父の着付けを終え、私も自分の振袖の着付けを始める。手伝いを申し出た母だったが丁重に断った。自分一人でやったほうが早い。

 複雑、というより服をパズルのように組み合わせていく作業をこなす中で、ふとこれまでのことが頭をよぎる。

 一年と少し前、ゲームの世界大会に兄はいた、らしい。

 らしい、というのは兄は本名ではなく『顔隠し』というネームで登録していたからだ。私はアルバイトでライブ中継を見ていなかった。

 後からニュースを見て知ったが、世界大会でなんでも世界一強いというシルヴィアさんを倒し、その場で自分の素顔バラしながら意中の女性に対するプロポーズを行ったらしい。

 世界は大混乱に陥ったそうだが、もちろん我が家も大混乱。

 女っ気があるようなないようなよくわからない(興味もない)兄が、いきなりテレビで大公開プロポーズをして、その足で女性の実家に行き挨拶し、そのままこっちにやってきたのだから。

 ただ、一般的な家庭の大混乱と違うのが、さすが趣味人一族陽務家。

 兄の結婚自体は割とどうでもよくて、そのあとにひっきりなしにかかってくる報道陣の取材に「自分の趣味のどの部分をアピールすべきか」で大混乱していた姿に、兄はその場で崩れ落ちて寝た。

 その後ライオット・ブラッドなんとかを飲み込ませて、お付き合いするに至った経緯と結婚後の生活設計を聞き出したら両親の興味はまた取材陣への対応に戻った。

「え、このためだけに起こされたの俺……寝れないんだけど。……ゲームする?」

 連れてきた女性にも興味を示さないのはさすがに失礼だと思うが、そのまま結婚相手とゲームを始める兄もたいがいだと思う。

 そんなこんなで式場を決め、席順を決め、料理を決め、と二人の作業を見守りながら、私は今日を迎えた。

 今日、兄が別の女性のものになる。

 いや普通は逆に女性が兄のものになるというのが一般的な認識なのだろうが、こればかりは譲れない。

 

 式は、つつがなく進行している。世界有数のゲームプレイヤーとなった兄だが、結婚式には報道陣などを入れないことを望んだ。

 相手が相手、ということもある。

 ついでに言っておくと、呼んでいる客もだいぶヤバい。

 まず元・世界一の格闘ゲームプレイヤー、全米二位のモデルの様なこれまたゲームプレイヤーを筆頭に、ゲーム関連と思しき有名人がちらほらと。日本最強のプレイヤーまでいる。さらにはどこでどうつながっているのかわかりたくないという感情が強い、日本有数の家電メーカー、財閥、創業者のトップたち。人間の知り合いだけかと思いきや、どこをどうしたらそうなるのか、何台かのネットとつながった『タブレット』たちが、新郎と新婦を見つめている。画面にちらと映った姿は、ウサギやらアイドルの様な女の子やら……。

 式が進行し、親族のあいさつとなった。

 父、母と来て、私のあいさつ。

 本来なら父のあいさつだけだったが、あまりにも短すぎて母に、母もまた「おめでとう」の一言だけで、司会を任されていた高校時代の同級生だとかいう、耳にピアス穴をあけた男に頼まれたのだ。ミッションはひとつ、時間を稼げ。

「え、えーと、陽務瑠美です。新郎、楽郎の妹です」

 マイクを握って、視線を浴びる。割と慣れた光景だったが、それでも声が震えた。

「まずは、このような席にお集まりいただき、ありがとうございます。知っての通り、兄は馬鹿です」

 さざめく笑い声。おいこら、と声が聞こえたが無視。

「ほんっとーに、うちのお兄ちゃんは馬鹿です。ゲームばっかりだし。ライオット・何とかは毎日飲んでるし」

 三角頭巾の怪しい集団が頭を下げた。え、なにあれ。

「毎日ジャージで、生きているのか怪しい時もありました。けど、それでもあたしの、お兄ちゃんです」

 一緒に笑った。一緒に泣いた。一緒に怒った時もあった。互いの趣味に興味はないけれど、

「一番一緒にいる権利を、あたしは今日、手放します。大変ですよ? このおにいちゃん、馬鹿で、ずぼらで」

 感情があふれる。涙がこぼれた。

「──けど優しくて、馬鹿にしてくるけど、一生懸命で。そんなおにいちゃんが、大好きでした。それを、貴女に、譲ります。きっと苦労します。子供ができてもその子をクソゲーマーにしようと絶対画策します。そんな人を旦那さんにする、覚悟が貴女にありますか?」

 

 そのひとは、力強く、頷いた。

 とてもきれいで、かなわないなぁ、と思った。

 

「……安心しました。お兄ちゃん、こんなできた妹とお嫁さん手に入るとか、人生何回リセマラしたって手に入らないんだから、今生をせいぜいかみしめて生きるよーに! 以上、かわいい妹からでした!」

 拍手が起こる。笑いが起こる。

 拍手に紛れて声は聞こえなかったけれど、兄の唇がこう動くのが分かった。

 

「ありがとな、瑠美」

 ああ、いい結婚式だ。




この作品はツイッター上でのほかの方とのやり取りが非常に面白いことになっていますので是非ご一読ください。
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