それは断罪の剣。
銀色に輝く四本の直線は直列となり、柔らかい地層を抉り取る。暴虐なる口は、その荒々しさに似合わず可憐で、ぺろりと白い大地を平らげた。
それは背徳の宴。それは叛逆の嚆矢。
すなわち、
「楽郎君も、楽郎君ですっ!」
斎賀玲は、ケーキバイキングで所謂『やけ食い』の悪虐に勤しんでいた。
きっかけは、楽郎を家に招いたことだ。
「来てしまったか、風雲斎賀城二・・・・・・」
入ってきた時に何かブツブツ言っていたが、すぐ気を取り直したのか、
「それで、玲さん。頼み事ってなにかな?」
と聞いてきた。
ーーなおこの時点で玲のHPは風前の灯である。
だが準備に一週間かけた、珍しく自分一人で考えた計画を完遂するために、玲は勇気を振り絞る。
「あ、あにょ、こここのゲームッ」
取り出し顔の位置まで持ち上げたのは一本のゲーム。一生懸命に調べ、「親友は非売品」という売る気があるのか疑問しか湧かないキャッチフレーズで売り出し初期ロット一万二千とんで四本で終わった「特殊なゲーム」である。
「い、いい一緒にやりまひぇっ」
「ーー動かないで」
語尾が悲鳴になったのは、いつもの緊張が原因ではなく、楽郎が玲の手元に顔を寄せ、真剣な目でゲームチップの入ったケースを見つめたからだ。必然、玲の顔に楽郎の顔が近づく。
「ひぇっ、ら、らららら」
斎賀玲、無念の憤死まであと二秒。
「うん、だいたいわかった。一緒に遊ぶんなら、ごめん、少し日数かかるけどまってて」
それで楽郎は挨拶もそこそこに帰ってしまったのだ。あとには真っ赤になった玲だけが残されたので、危うく座敷童に誤解されるところだった。
理由が分からない。だから苛立つ。
シャンフロにもログインしていないらしく、ラビッツでエムルに聞いても「起きてこないですわーでもいつものことですわ」と言われてしまった。
死ぬほど勇気を出して電話をかけても繋がらない。だから不安になる。
これは精神衛生上よろしくないと感じた玲は、友人から聞いた手法を試すことにした。すなわち、甘いものをはちきれんばかりに食べることを。
高級ケーキ店のバイキング。
いちごのケーキ。甘い、程よい酸味とクリームの甘味が食欲を刺激する。
ティラミス。エスプレッソの苦味が効いて先程の甘味が駆逐される。
チーズケーキ、ベリータルト、モンブラン、ザッハトルテ、果実のロールケーキ、シュークリーム、緑茶。
「美味しい、けど」
物足りない。いや量がではなく、何か心のどこかが満たされない。
一緒に遊びたかった。
何がいけなかったのだろう。
考えても分からず、もう帰ろうと入り口を見た時、
王子様のように、とはいかないけれど。旅行に使えそうなボストンバッグを肩にかけ、店員に呼び止められしかしチケットを見せて玲めざし一直線に入店してくる陽務楽郎の姿は確かに玲には格好良く見えたのだ。
「ごめん玲さん! ちょっと山梨の山腹にある個人経営のゲームショップ行ってたから携帯の電波届かなかったみたい!」
ちなみに一日バス一本である。
「え、あえ、どうしてここに?」
「いやなんか『斎賀家の者です』って玲さんちの家政婦さんにヘリに乗せられてここに行けって」
すげーな斎賀家、と楽郎はひとりごちる。
「とにかくこれ探すのに夢中で、何も食べてなかったんだ。良ければ一緒に食べていい?」
「あ、はい!」
もう十分食べたと思っていたが、少しだけ入った。もう食べた味だったのに、玲はきっと、この味を忘れないと思うくらいに、素晴らしい甘さだった。
結論から言えば、玲の調査不足が原因だった。
「このゲーム、『親友は非売品』なんてキャッチフレーズを忠実に再現しすぎて、『同時に買った物』、つまり『ロット番号下二桁違い以内』のパッケージで協力プレイしないとクリアできないんだよ。ダウンロード版でも『購入時間の差一時間以内』求めてくるとかいうどうしようも無さでさ。玲さんがパッケージ見せてくれたからなんとか探せたよ」
ところでこの後、暇?