シャングリラ・フロンティア ワンドロ集   作:斯波涼佑

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お題「ヴァイスアッシュ」「祈り」

 古来、風雨災禍は「神の業」とされた。

 もとよりちっぽけな命ふぜいにできること無し。震え逃げまどい「どうか収まってくれ」と卑小なわが身を呪うことすらできずに祈るだけ。

 だからヒトはそれらの天候を「神」と呼んだ。

 少しでも理解できるように。気まぐれな神、災いをもたらす神、恵みをもたらす神。

 荒ぶる強大な神を祭り願い祈り、「どうか何もしてくれるな」とこい願う。

 それまではよかった。

 だが今は、祈るだけでは何もかなわない。

 

 惑星ユートピア。今はもうだれ一人として生き残っていない……分類を変えればまだ『生き残っている』かもしれないが、とりあえず人類としては絶滅した彼らが呼ぶ理想郷(アリモシナイモノ)。

 そこに生きるあらゆる生き物がある時、想起した。

 きっかけはささいなもの。

 山の向こうの空が暗かったとか。

 風がずいぶん強いなとか。

 世界が一瞬反転したかのような不安にとらわれたこととか。

 ずいぶん昔、あるものが地中に打ち込まれた際のとんでもない揺れとか。

 それらが奇妙な一致を果たし、「それ」はこの世に現出した。

 

『そうあれ』と望まれたならば、『そうある』べし。

 

「それ」の形は嵐だった。

 轟く雷鳴、吹きすさぶ風。およそ一般の嵐に当てはまる形容詞。そんなものではない。

 壁が体を吹き飛ばす。吹き飛んできた大岩で山が崩れる。生き物が悲鳴を上げても、その悲鳴を伝える空間さえ吹き飛ばして命を呑む。

 あらゆるものを喰っていた。

 あらゆるものが、喰われていた。

 そうでなければ生き残れないとこの嵐は知っているようだった。

 嵐に人格を求めるなど愚の骨頂。嵐は嵐でしかなく、「それ」は望まれるがままに「そうある」だけ。

 後に「旧大陸」と呼ばれる大陸の地表全てを消し飛ばし、ついには「地層」へとその牙を進めようとしたとき、

 

「そいつぁちょいと、いけねぇなぁ」

 

 カツン、と音を立てて杖剣を地に突き立てる。

 びょうびょうと吹く風に負けずぴんと伸びた兎耳。

 ふてぶてしくも咥えたニンジンかじりつつ、

 現れたるはいまだ純白ならざる大兎。大昔の名は『灰被りのヴァイスアッシュ』。

「そこまでだ、ってな」

 

 正直ヴァイスアッシュは旧大陸『自体』は嫌いだ。地表が滅ぼうがどれだけ傷つこうがかまわないとすら思っている。だが、

「地層(そこ)はダメだ。業腹だが寝ていてもらわなきゃ困る……まぁそっちは理由の半分以下だが」

 大陸を覆う大嵐。

 あまりにも強すぎる力。

 ヴァッシュは思う。これなら、いつか、どこか、遠い未来のその先で、

「使えるやもしれねぇなぁ」

 杖剣を抜く。

 剣を前に、兎は祈るように、目を閉じた。口が開く。歌うように、祈るように、

「かけまくもかしこきおおかみを

 としのなかにつきをえらび

 つきのなかにひをえらびさだめて

 つかえまつりてもうさく

 たかきてんよりくだり

 くらきちよりのぼりしめ

 あひあらそいてたおるるも」

 

 それは祝詞。

 

「てんかわじょうをなすといふ

 なれどおんみてんにほえ

 うえつちをばしたのほりかえし

 したつちをばうえにほりかえし

 てんちこっかにはするものなれば

 すでにそのみてんかにあらず」

 

 祝詞とは定義だ。

 神とは何か。どう生まれ、どう育ち、どうあるのか。

 己が何者なのかを言い聞かせ、「そうあれ」と命じる命令文。

 祈るような命令は、

 

「ゆえにおんみのなは、覇国兇嵐(アガトレオ)!」

 

 嵐を命に貶める。

 嵐に揺れが起きた時、ヴァッシュはその剣を振りぬいた。

 

「【概念斬り】(コトキリ)」

 

 その剣は何にも当たらない。

 だが確かに何かを『斬った』。

 いま、嵐の奥に、何かがいる。

 嵐は嵐だったが、今は『嵐の大本』が命の形をしてそこにいる。

 

「よぉうお誕生日おめでとうだぁな、アガトレオ。いい面ぁしてるじゃねぇかよう」

 今の嵐には感情がある。怒り、とまどい、そして殺意。

「悪く思うなよう。さすがの俺等ぁも、嵐の殴り方は知らねぇんでな」

 

 杖剣を構え、現状何も変わっていないにもかかわらず兎は笑う。これぞ致命魂。

 

「来いよ緑猫、今のお前ぇさんなら、死ぬまで斬りゃあさすがに死ぬだろう?」

 

 

「ってのがおとーちゃ、うぇっふん、オカシラのぶゆーでんその700『アガトレオ』ですわ!」

「あー、うん。絵本読み聞かせありがとうエムル。ってゆーかふっつーに絵本になってるのねその話」

「??? もちろんですわ、オカシラのぶゆーでんはヴォーパルバニーすべての聖典ですわ!」

 俺の膝の上で絵本を読み聞かせたエムル。なんというか体の大きさ的には俺のほうが読み聞かせているように見えるが読んでいるのはエムルのほうだ。

 絵にはヴァッシュらしき刀持った兎と、緑色した血をまき散らしながら戦う、ライオン? 虎? 鹿? な六本足の化け物が描かれていた。

 あんな形してたんだねアガトレオ氏……ごめんオルケストラと戦ってるときそんなに詳しく見えてなかった。俺自体加速してたし。

 

「もっかい貸してくれないかなーアガトレオ」

「そいつぁ無理だぁな。こいつにゃ役割がある」

 

 兄貴ィ!? と跳び退く。いや兎御殿の縁側でのんびりしていたこっちが悪いんだけど神出鬼没過ぎません兄貴!

 手に柄を持ち、黒くねじれた鞘を肩にかけたヴァッシュは、からからと笑って、

 

「なんならお前ぇさんがもっかいアガトレオ、討ってくれるってんなら作ってやるよ。ただし気ぃつけな、死ぬほど強ぇえからよう」

 

 えぇ、無理ゲーじゃん……。

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