百合を書け、さもなくば死ね、と……
後悔先に立たず、と言う。
後悔しても、終わったことは変わらない、という意味だ。
後悔は傷になり、癒えることなく、自分自身を蝕んでいく。
後悔を抱えれば抱えるほど、自分は後悔に縛られ、雁字搦めになって動けなくなっていく。
論理的に考えれば、後悔なんて非効率的な心情に過ぎ無いのだろう。
ああ、そんなことはよくわかっている。
しかし、わかっていたとしても、そこから抜け出すことなんて簡単にできやしないことも自明の理だ。
だって、今私を動かしているのは、紛れもない後悔の意識なのだから。
他人のせいにして逃げてしまいたい。
全て投げ出して遠くへ行ってしまいたい。
いっそこんな思い出、忘れてしまいたい。
でも、後悔がそれを許さない。
だから私は進むのだろう。
後悔に足を引かれながら。
使命感に導かれるように。
ただ、前に。
アサルトリリィPRESERVED
第一話 木苺
Raspberry
Repentance
後悔
「うーん、少し遅れちゃうかな?」
美しく澄んだ声が、木々の生い茂る中に響く。
それを発した少女は、自動車も
背にはギターケースのような大きめの入れ物、服装は黒と白を基調とした制服。
灰色とも銀色とも取れる長い髪をたなびかせたその姿と落ち着き払った声音は、猛スピードで駆ける彼女の姿とは大きくギャップがあったが 周囲にはそれを見咎める者もいない。
彼女はその状態から、さらにポケットから携帯を取り出し、時間を確認し始めた。
「あちゃあ、これは間に合わないね…」
せっかくの新入生の晴れ舞台なのに、と独り言を呟きながらも、息一つ乱すことなく、目的地に彼女は駆けていく。
「まあ、なるべく早く行くしかないよね」
そう呟き、さらに走るスピードを上げようとして
しかし、彼女の足はそこで止まった。
「 おや?あれは……」
崖の上から見えた、森の中での一瞬の光。
短くはあったが、しかし大きな光を見て、彼女は進路を変えることを決めた。
「フラッシュバン……
なら私も混ぜて貰おうじゃないか そうひとりごち、彼女は光の方へ走り始めた。
「はぁ…」
百合ヶ丘女学院の新入生・一柳梨璃は、入学初日早々に巻き込まれた と言っても梨璃から希望して巻き込まれに行ったのだが ヒュージとの戦闘において、明らかに自分が足を引っ張っているのを感じていた。
フラッシュバンを夢結が使用して一時戦線を離脱し、今は一息つけているものの、ここもいつ戦場になるかわからない そんな、初めて味わう緊張感に、梨璃は圧倒されていた。
「あのヒュージ…私たちの相打ちを狙ったわね」
「まさか!ヒュージがそんな知恵を?」
一方で、今回の同行者である同学年の楓・J・ヌーベルと一つ上の学年の白井夢結は、そんな戦場の空気に臆することなく、戦況を整理していた。
「一柳さんにお礼を言うべきね。一柳さんが私を止めなかったら、貴女、今頃真っ二つになっていたところよ」
「ぐぬぬ…」
ガスを使って目眩しを行い、自分が攻撃を引きつけて相打ちを狙う 夢結や楓たちの基準で言えば、今までのヒュージでは考えられない行動ばかり。自分たちの常識に囚われて、二人は対処できていなかった。
「貴女、目
「あはは…。田舎者なもので、視力には自信あります!」
その窮地を救ったのが、紛れもない梨璃だ。
田舎育ちゆえの目の良さを活かし、楓の突撃が夢結の方へ誘導されているのを察知し、夢結の攻撃をすんでのところで止めた。
夢結はそんな梨璃の行動を評価してくれているが……
(まだ私、チャームも起動できてない…)
梨璃が現在足を引っ張る形になっている主な原因 それが、チャームが未契約状態であったことだ。
CHARM Counter Huge ARMs。名前の通り、ヒュージに対抗するための武器だ。
リリィになって身体能力が向上しているとは言え、チャームが無ければリリィがヒュージに対抗する手段はかなり限られる。それこそ、ヒュージとの戦闘に慣れたトップレベルのリリィでなければ、戦うことなど不可能だろう。
そんなわけで、梨璃は夢結と楓に守られながら、チャームと契約をしている最中なのであった。
「…っ!何!?」
そうこう話している間に、「ボフッ」という音と共にまたしても煙幕が張られる。あのヒュージのものだ。
「…ふっ!」
即座に対応した夢結は、煙に紛れて奇襲をかけるヒュージを叩き伏せる。
しかし
「くっ…!?」
ヒュージの出す触手に打ち上げられ、大量の触手に絡め取られてしまった。
幸いにも直撃は受けていないが、このままならば触手に圧殺されてしまうだろうことは、戦闘経験のない梨璃にも容易に理解できた。
「夢結様!」
梨璃が叫んだその時
「…あっ」
ブォン!という音と共に、チャームにバインドルーンが灯る。梨璃の今まで契約中の状態だった梨璃のチャーム、グングニルが目覚めた証だ。
使用者のマギを認識し、姿を変えるグングニル。ようやっと戦うことができるようになった梨璃は、まさに今、名実ともに「リリィ」となったのである。
「…一撃、でしてよ。そのくらいできまして?」
「う、うん!」
リリィとなった梨璃を見た楓は、背中合わせに声をかける。
まだ戸惑いながらも、梨璃は力強く返事を返した。
煙などに惑わされることはない。二人が狙うはただ一つ。
夢結が捕らえられている、あの触手の根本 !
「「やああああああああっ!!」」
声と、そしてCHARMの切先を合わせ、二人は駆ける。
二人のチャームは 寸分違わず、ヒュージの触手を貫いた。
「 っ!」
触手から解放された夢結。着地と同時にヒュージへと走り出し、その胴体を狙う。
夢結の一撃がヒュージの胴体を切り裂く と思われた矢先。
「……っ!?」
ヒュージが、
煙だけでなく、巻き上げられた砂にも視界が塞がれる。
夢結は、この状態でも攻撃を防ぐことができるという自信があった。故に、どこから攻撃が来てもいいように自分の周りを警戒する。
しかし
(攻撃が 来ない?)
そして……ヒュージの狙いに気づいた。
梨璃の視力は確かに良い。煙の中からでもヒュージの行動を読み取ることができる程に。
しかし、
そして、
「っ!?一柳さん!」
夢結の読み通り、ヒュージの触手は梨璃の方へ向かっていた。
しかし
(間に……合わないっ!)
距離が遠いわけではない。十数メートルほどだろう。それでも、夢結が梨璃の元に向かうよりも触手の方が早い。
(また…あの光景を、繰り返すと言うの!?)
夢結の脳裏に、後悔の思い出がフラッシュバックする。
「ヌーベルさん!一柳さんを!」
今の夢結にできることは、声を張り上げて自らの力の不足を嘆くことだけだった。
「っ…!そういうことですか!」
一方の楓も夢結の意図に気付くが、ヒュージに背を向けた状態からでは梨璃とヒュージの間に入るにも時間がかかる。
(間に合わない…いや、できることを全てやらなければ!梨璃さんの前に飛び込んででも !)
「…へっ?」
当の梨璃は、自分が狙われていることに気付いていない。
風を切る音とともに、梨璃の目と鼻の先に触手が迫る。
「ひっ 」
突然目の前に現れた触手を見てやっと事態を把握した梨璃は、その凶器に身を凍らせ
「間に合え !」
楓が梨璃の前に飛び出すと同時に。
目の前に迫った触手も、『カチン』と音を立ててその身を凍らせた。
「「………?」」
梨璃と楓が恐る恐る目を開けると、迫っていた触手は梨璃の眼前で、完全に静止している。
よく見ると、触手のまわりに霜が付着している。まるで、
「ふぅ…。こっちには、ギリギリ間に合ったかな」
不意に、梨璃の耳に澄んだ声が響いた。
不思議と安心感のある、戦場にそぐわない ある種、
梨璃が声のした方に顔を向けると、いつの間にか立っていた美しい少女の真っ赤な瞳と目があった。
長い灰色の髪と赤い目の整った顔立ちからは、自信と安堵が感じられる。
梨璃はその背中に、見えるはずのない
(私が前見た、天使様みたい )
「よく頑張ったね、私の可愛い
あとは お姉ちゃんに任せなさい」
戦場にそぐわない落ち着いた声と穏やかな笑顔は、梨璃を緊張から解き放ち、「もう大丈夫」と無条件に思わせてしまう。
梨璃は安心感から、ぺたんと腰を抜かした。
と、同時。
彼女の持つ身の丈を超える大剣が、凍りついたヒュージを真っ二つに切り裂いた。
「いやぁ、間に合ってよかった」
「 「妹たち」なんて、遅れて来ておいて調子の良いものね?
目の前の真っ二つになったヒュージを見ながら安堵の息を漏らす彼女に、冷たく声を掛ける夢結。その名前に、楓は聞き覚えがあった。
(確か、百合ヶ丘で最強と言われるリリィの名前が「ルル」、だったような……)
未だ何がが起こったのか理解しきれていない頭で、楓は現実逃避気味に考える。
「夢結ちゃん…」
「少し遅すぎたんじゃないの?そんな有様じゃ、最強の名前に傷がつくんじゃないかしら?」
「………。」
夢結の冷やかな言葉に、流瑠と呼ばれた少女は悲しげな表情を見せた後、直ぐに元の穏やかな笑顔に戻った。
「……遅くなってごめんね、夢結ちゃん」
流瑠が謝ると、フンッとそっぽを向く夢結。二人の事情をよく知らない楓から見ても、二人の仲が良好でないことは明白だった。
「あの、夢結様。そちらの方は?」
と、今まで腰が抜けていた梨璃が楓の隣で立ち上がり、若干空気を読めていない発言をする。
しかし、声をかけられた夢結はそっぽを向いたまま、
「私は
と、凍った真っ二つのヒュージに対してチャームを振りかざし始めた。
「え、えーっと…」
そんな夢結の様子に、梨璃は困った顔を流瑠に向ける。
「あはは、ごめんね。私、夢結ちゃんに嫌われちゃってて」
「そのようですわね」
頬を掻き、こちらも困った顔をする流瑠。
楓も立ち上がって埃を払い、話に加わる。
楓は、改めて流瑠と呼ばれた少女を見る。
歳の頃は夢結と同じくらいだろうか。
背は梨璃や楓、夢結よりも少し高い。
一片の乱れもない百合ヶ丘の制服は、彼女が梨璃たちと同じ学校の所属であることを表している。
灰色の髪は胸の部分に届こうかというところまで伸びており、整えられている。
グラマラスというよりはスレンダーな体型だが、まるで人形のような造形美さえ感じさせるスタイルだ。
何より目を引くのは、全てを包み込むような穏やかな笑顔と真っ赤な瞳。
整った顔立ちは、間違いなく美人だと言える要素を備えており、ふんわりとした笑顔には可愛らしさも孕んでいる。
(綺麗な方ですわね…)
「…? どうかした?」
「あ、いえ…」
楓の隣で同じように彼女を見ていたのか、梨璃は綺麗な笑顔を向けられ、恥ずかしくなったのか顔を俯けてしまった。
「…コホン。助けていただいてありがとうございました。私、楓・J・ヌーベルと申します。自己紹介をしていただけるということでよろしいでしょうか?」
「あ、そうだね。ごめんごめん」
楓が話を進めようと声を掛けると、彼女はマイペースに自己紹介を始めた。
「私は
よろしくね、と付け加える流瑠は、目で「次は君の番だよ」と梨璃に訴えた。
「あ、はい!私、今年入学する一柳梨璃です!あの、助けていただいてありがとうございました!よろしくお願いします、流瑠様!」
「やはり、貴女が百合ヶ丘最強と名高いリリィ、流瑠様でしたか。お会いできて光栄ですわ」
「え、最強のリリィ…?」
楓の言葉に反応した梨璃に、楓は解説を加える。
「あら、ご存知無くて?容姿端麗にして文武両道。ヒュージ撃破スコアは数万とも言われ、更には同行者生存率99.99%を誇る百合ヶ丘 ひいては全てのリリィの頂点とも言える戦闘力を持つリリィ。それが『三巴流瑠』様。学園内外でも専らの噂ですのよ」
「同行者生存率99.99%……最強の、リリィ。わ、私達、凄い方に助けていただいたんですね!」
「やっとわかりましたか?私達、相当幸運だったんですわよ」
「私はそんな大層な人間じゃないけど……でも、最強であろうと努力はしているつもりだよ」
楓からのべた褒めに、流瑠は恥ずかしがるでもなく、顔を掻きながらも堂々と応えた。
(驕りも謙遜もなく、戦場にあっても言葉や態度で場を支配する力がある…この方はやはり、最強と呼ばれるに足る器をお持ちのようですわね)
その流瑠の振る舞いに、楓は流瑠の評価を上げる。
「改めまして、同じく高等部一年の楓・J・ヌーベルです。よろしくお願いしますわ、流瑠様」
「はい、よろしくお願いします。梨璃ちゃん、楓ちゃん」
よくできました、とでも言うように胸の前で手を合わせる流瑠は、とても嬉しそうにしている。
「…?なんか嬉しそうですね、流瑠様?」
「あ、わかる?私のかわいい
「あの、先ほども気になったのですけれど…」
流瑠の発言に、楓が疑問を呈する。
「貴女の言う妹というのは、
「ああいや、そうじゃないんだけどね」
流瑠は二人に向かって、まるで最愛の人でも見るかのような笑顔で言った。
「百合ヶ丘のリリィはみんな、私にとっては妹みたいなものというか……私はみんなの
はぁ…?と、楓は梨璃と顔を見合わせた。
「ヒュージの処理、終わったわ」
しばらくして、凍ったヒュージの処理をしていた夢結が戻ってきた。
「あ、夢結様……そういえばヒュージと戦ったんだった!?あ、あの夢結様!お一人で大丈夫だったんですか!?どこかお怪我とか…」
「無いわ。
「凍った?それはどう言う……」
「ああ、私のレアスキルだよ」
首を傾げた楓に、流瑠が応える。
「レアスキル、『フリーレン』。ヒュージやマギを凍らせることのできるスキルさ」
「フリーレン……聞いたことのないレアスキルですわね」
楓がそうひとりごちると、流瑠は頭を掻きながら困った笑顔を作った。
「あはは、まあ外部には秘密ってことで……。それよりも、おかえり、夢結ちゃん。無事で何よりだよ」
優しげな流瑠の声にも、やはり夢結は顔を背けたまま、無愛想に応える。
「……自己紹介が終わったのなら、早く学院に帰るわよ」
「あはは…夢結ちゃんは手厳しいね」
「は、はい夢結様」
「……」
流瑠に対する夢結の態度に、梨璃は困惑を、楓は不信感を抱きつつ、4人は百合ヶ丘女学院に帰還した。
「…その傷、跡が残るわね」
「これで今日のこと、忘れずに済みそうです」
学院の検疫室。
今回出撃した4人は、ヒュージの体液は浴びていないとはいえ、ヒュージから出された煙を身体に浴びたり吸い込んだりしているため、「一応」との名目上、検疫を行なっていた。
ちなみにこの部屋にいるのは夢結と梨璃の二人だけであり、楓と流瑠とは別室である。
検疫が終わるまでの間に出てくる話題は、やはり今日の戦闘のこと。
梨璃はヒュージとの戦闘で、右腕を負傷した。
動かす分には問題ないが、傷の深さから跡が残るだろう、とのことで、夢結は責任を感じていた。
いや、正確に言えば、責任どころではない。
今回、夢結は梨璃を新人と分かってついてくる許可を出した。その上、楓を切りそうになったところをすんでのところで梨璃に助けられ、さらに梨璃に傷もつけてしまい、流瑠が来なければ死人すら出た可能性のある戦いだった。
夢結はその点を大いに反省していたし、次はもっと上手くやろうと思っていたが 同時に、「一人で戦っていたらもう少し楽だったかもしれない」とも思っていた。
とは言え梨璃本人は、そんなことは知りもしないし、自分のリリィとしての自覚の薄さを知ることができた有意義な戦いであったと思っており、夢結のせいだとは微塵も思っていないのだが。
「……」
「……」
暫しの沈黙。居づらい雰囲気に、梨璃は話題を変えることにした。
「夢結様、チャームを変えたんですね」
その言葉に、夢結は少し顔を顰める。
「私、2年前の甲州撤退戦の時、夢結様に助けていただいたんです。
百合ヶ丘のリリィだってことはわかっても、それ以上のことはわからなくて…」
「…まさか、それだけでここへ?」
「はい!あ、いえ。実はそれだけじゃなくて…」
「…?」
「夢結様に助けられた暫く後に見たんです、私。
透明な翼の天使様が、空から私たちを守ってくださったのを!」
梨璃のその言葉に思い当たる節が無いのか、夢結は困惑の表情になる。
「透明な翼の、天使…?」
「はい!2枚の大きな透明の翼が光を反射してキラキラしてて、青い眼から涙を流してる天使様です!空を飛んでるのが見えたんですけど、百合ヶ丘の制服っぽいのを着てたので、ここの人なのかなーって思って!顔までは、遠すぎてわかんなかったんですけど……夢結様は何か知りませんか?」
少し思案した後、夢結は首を横に振った。
「いいえ、知らないわね。そもそも、マギは物質化できるから、使い方次第では翼にすることも可能よ。でも、その場合は『透明』と言えるほどの透過性は無いはずだし、飛行を続けられるほどの強度までマギを練り上げるなんて並大抵の使い手では 恐らく私でもできないわ。それに、青い眼から涙、というのも心当たりが無いわね」
「そうですか……。でも、こうして直ぐに夢結様に会えたので、夢、一つ叶っちゃいました」
「そう……なんにせよ、筋金入りの無鉄砲ね」
「……」
「……」
またも沈黙。せっかく会いたいと思っていた夢結との時間を無駄にしたくない梨璃は、再度話題を探した。
「えーとえーと…あ!夢結様、あの、流瑠様ってどんな人なんでしょうか?とっても綺麗な方ですよね!」
梨璃の言葉に、やはりというか、夢結はいい顔をしない。
「……まあ、綺麗なのは否定しないけれど……本人から自己紹介はされたでしょう?」
「でも、夢結様は長いお付き合いなんですよね?流瑠様のこと、呼び捨てにされていましたし……」
その言葉に、夢結ははぁ……とため息を吐く。
「たしかに付き合いは長いけれど……良い仲とは言えないわ。呼び捨てにしているのも、あの人との親しさが原因じゃない」
「あ、そうなんですか…で、でも!流瑠様は悪い方には見えませんでしたし、夢結様を心配していらっしゃる感じでした」
「それは貴女の見間違いよ、一柳さん」
夢結は外を向きながら、声を絞り出すようにして続けた。
「私があの人に力不足だと嘲笑われるならまだしも、心配されるなんてあり得ない。それに、あの人は私のことなんて 」
その時、ドアの開く音と共に、底抜けに明るい声が部屋に響いた。
「やあやあやあ、二人ともごめんねー!……あれ、お話中だった?」
そう聞きはするものの、声の主は返答すら求めず、「よいしょっと」と梨璃の隣に無遠慮に座る。
呆気に取られる梨璃と呆れる夢結に向かって、彼女は自己紹介と状況説明を一気に始めた。
「私は真島百由!標本にするはずだったヒュージをうっかり逃しちゃってー。まさか厚さ50cmのコンクリートを破るとは思わなかったわー」
その発言に対し、夢結は冷ややかな目を向ける。
「…迂闊なことね」
「予測は常に裏切られるものよー。私達は楽な相手と戦ってるわけじゃない。その為のリリィでしょ?もちろん、夢結とこの子には感謝しているわよ」
一見すれば、開き直っているとも取れる発言。いや、事実彼女 百由は開き直っているのだが、言葉自体は正論だ。
梨璃は突然の来訪者に圧倒されるばかりで、「この子」呼ばわりされたことも気にならなければ、普段なら考えるはずの「自己紹介をしなきゃ」という思いも湧いてこない。
そんな梨璃に代わって答えたのは夢結だった。
「この子では無いわ…梨璃よ」
「夢結様…」
初めて夢結に名前で呼ばれた。それは、一人のリリィとして認められたと思えばいいのか、それとも
「わかっているわ、だからこうして来たんでしょ?」
そんな夢結の発言にも、百由は全く怯むことはない。そして、少しだけ思案すると、「思い至った」とでも言うように百由は手を打った。
「ああ!この言い方がいけないのよね!
反省してます。ごめんなさい♪えへっ」
百由は梨璃に向けて頭を下げるが、全く悪びれている様子はない。そのメンタルの強さに梨璃が脱帽していると、夢結はため息を吐き、部屋を出ようとしていた。
「はぁ…もういいわ。行きましょう、梨璃」
「あ、はい」
「あ、そうだ夢結」
横を通り抜ける夢結に、百由は声をかける。
「流瑠様、
「あの人の考えることなんてどうでもいいわ」
百由から出された流瑠の話題に、夢結は顔を歪ませる。
「まあまあそう言わず。……夢結、ちゃんと流瑠様と話し合った方がいいんじゃない?言いたいこと、あるんでしょ?」
「無いわ」
百由からの提案を、夢結はすげなく却下する。
梨璃は夢結の顔から、悲しみと怒りを感じ取った。
「余計なお世話よ、百由。
……行くわよ、梨璃」
「あ……いいんですか?」
「いいのよ」
「で、ではまたー!」と検疫室を出て行く梨璃と、梨璃を連れて行く夢結。二人を見送り、百由は一人検疫室に残る。
「はぁ……。夢結も、流瑠様も、ほんっとに意地っ張りなんだから」
春なのに雪解けはまだ先かー、と、百由は寂しそうに独りごちた。
・三巴流瑠
みつどもえ るる。3年生。
「ゆゆ」「りり」と来たら「るる」しかないと思った。
苗字は「一柳」「二川」から続くように。
バインドルーンは「jear(年)」と「stan(石)」の組み合わせ。
今作中最強の存在。別に転生者とかではない。
例によってG.E.H.E.N.Aが絡んでおり……
・白石夢結
しらい ゆゆ。みんな大好き夢結様。
クソザコメンタルお姉様。まあ最愛の人を亡くしたんだからしょうがないと言えばしょうがない。でもやっぱりメンタルは豆腐。
流瑠にはツンケンした態度を取っている。その裏には、例の事件が関わっているというが……
もっと梨璃ちゃんと軽率にイチャイチャしろ。
・一柳梨璃
ひとつやなぎ りり。お太いピンクの子。かわいい。
ふととも。入学初日にヒュージ討伐実戦を経験した挙句死にかけるという壮絶な体験をした。
おみ足。メンタルお化け。若干空気が読めないが、それが人間関係を円滑にしているあたりコミュ強。
百合ヶ丘には夢結様だけでなく、「天使様」も目的で来たらしいが……
あ、レアスキルはカリスマらしいっすよ。
・楓・J・ヌーベル
かえで・じょあん・ぬーべる。長いし入力がめんどくさい。
社長令嬢。やたら自社製のチャームを勧めてくる。百由様とぐろっぴが有能過ぎてね……
今作では、ヒュージ戦で梨璃に押し倒されたりしてないので、今のところ完全に惚れてはいない。
流瑠とのシュッツエンゲルを狙っている程度には流瑠への好感度は高い。
夢結の流瑠への態度に不信感を抱いているようだが……
・真島百由
ましま もゆ。マッドになりかけのサイエンティスト。
作中でも屈指の(技術が)やべーやつだが、根が善性なので基本的に頼りになる。敵じゃなくてほんとによかった。G.E.H.E.N.A所属とかだったら詰んでた。
若干サイコの気があるが、仲間のリリィを想う気持ちは本物。
流瑠と夢結の事情を正確に把握している人の一人。百由は百由で、「歴戦の功労者」として流瑠を慕っている。
・川添美鈴
かわぞえ みすず。夢結の「お姉様」。
犠牲になったのだ……古くから続く百合、その犠牲にな。
美鈴様が生存して夢結様が明るいままな光景が全く想像できませんでした。ごめんな夢結様……あと美鈴様……。
続くかは未定!