アサルトリリィPRESERVED   作:(確信)

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人類皆百合であれ






(アニメ3話は明るい話が多いと言ったな……あれは嘘だ)


ネジバナ その2

 

 

「さ、構えなさい、梨璃」

 

「は、はい!」

 

 

ラウンジでの騒ぎがどうにか収まった後、夢結は梨璃を鍛えると言う当初の目的のため、訓練場に来ていた。

梨璃は流瑠に習ったように、チャームを起動させる。夢結もまた、それを見てチャームを起動させた。

 

「グングニル……初心者用ね。起動自体は問題なさそうだけれど」

「夢結様のは……」

「ブリューナクですわ。ケルティックデール社の攻撃偏重の第二世代型。グングニルの後継機とも言える機体ですわね」

 

楓の解説に、夢結は頷く。しかし、梨璃は首を傾げた。

 

「でも、二年前に使ってたやつとは違いますよね?」

 

 

梨璃の疑問に、夢結は寂しそうな顔をして答えた。

 

「私があの時使っていたのは……ダインスレイフよ。アレは、二年前に……美鈴お姉様が持っていってしまったから……」

 

 

その夢結の様子にはっとして、「す、すみません……」と謝る梨璃。

夢結は「気にしないで」とかぶりを振った。

 

「大丈夫よ。私は乗り越える。美鈴お姉様の死も、私自身の思いも……流瑠お姉様と一緒に乗り越えてみせるわ。それがきっと、美鈴お姉様が一番に望むことでしょうから」

 

(そのためにも……まずは、私自身が立派なシュッツエンゲルになって、お姉様達に心配をかけないようにしなきゃ)

 

 

思いも新たに、夢結は梨璃と向かい合う。目の前の梨璃は、チャームを起動しただけでワタワタしているような素人だが、そのシルトを導いてこそのシュッツエンゲルだろう。

 

「では、チャームにマギを込めてみなさい」

「は、はい!集中…集中…!」

 

 

梨璃が小声で呟くたびに、少しずつマギが蓄積されていく。

やがて、半分くらい溜まったところで、夢結は動き出した。

 

 

「……ごめんなさい、梨璃」

「……へ?きゃっ!?」

 

突然、夢結は自身のチャームを梨璃のマギが溜まりつつあったチャームにぶつける。その衝撃で、梨璃は体勢を崩し、尻餅をついてしまった。当然、チャームに溜まりつつあったマギも霧散してしまう。

 

 

「あいたた……」

「大丈夫?立てるかしら」

 

夢結の差し出した手を、「ありがとうございます……」と言って掴む梨璃。

その光景を見ていた楓からは、苦言が呈される。

 

「ちょっと夢結様?初心者相手にそれはやりすぎなのでは?」

「私がやるからには手を抜かない、と言ったはずよ。……梨璃。今の攻撃は、ヒュージからの攻撃だと思いなさい」

「ヒュージからの……攻撃……」

 

 

うわ言のように呟く梨璃に、夢結は「そうよ」と続ける。

 

「チャームにマギを込める理由は習ったわね?リリィはチャームを触媒とするとこで、やっとマギの恩恵に預かることができる。それは攻撃・防御のどちらにも言えるわ……一部のリリィを除いては、ね」

「あ、はい!今日習いました!リリィのマギによってヒュージのマギを断ち切り、ヒュージのマギによる攻撃をリリィのマギが防ぐ……でしたよね?」

 

夢結は頷き、言葉を進めた。

 

「そうよ。つまり、チャーム、リリィ、そしてマギ。この3つが揃うことで初めて、私たちはヒュージに対抗できる。マギの篭っていないチャームはただの刃物でしかないわ。……だからといって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……あ」

 

ここに至って、梨璃は夢結の言わんとすることを理解する。

 

「さっきの私の攻撃は、そういうことよ。ちんたらマギを溜めているようでは、それだけでヒュージに隙を与えかねない。だから、私たちリリィの最も基礎的で大切な技術とは、『いかに早くマギを溜めるか』よ    

 

 

そう言うや否や、夢結は地を滑るように高速で移動し    ()()チャームを振り下ろした。

 

 

「っ!?あぁもうっ!!」

 

ギリギリで反応した楓は、即座にチャームにマギを込めて防御する。

ガキンッと音がして、夢結のチャームは楓に弾かれた。

 

 

    こんな風にね」

 

「え?え?」と状況が理解できず困惑している梨璃に、夢結は済ました顔で言う。

当然、急に刃を向けられた楓は憤懣やるかたない様子だ。

 

 

「『こんな風にね』、じゃありませんわよこのスットコドッコイ!わたくしじゃなかったら今頃真っ二つですわよ!?」

「大丈夫よ。寸止めするつもりだったから」

「そんな風には見えませんでしたけど!?思いっきり振り下ろしていらっしゃいましたけど!?」

 

「ソンナコトハナイワ」と楓から目を背ける夢結に、楓は「キィーッ!」と声を上げる。いつの間にか見学していたミリアムから「猿かあやつは……」とツッコミが入るも、その呟きは誰に聞き届けられるわけでもなく虚空に消えていった。

 

「……ともあれ、これでわかったでしょう?熟達してくれば、あの一瞬でもマギを込めきって防御に使うことができるのよ。今すぐそこを目指せとは言わないけれど……込めたマギを維持するくらいは、できるようになっておくべきでしょうね」

「は……はいっ!」

 

梨璃の返事に一つ頷くと、夢結は楓の方を向き直った。

 

「それにしても、流石は今年の主席合格者ね、楓さん。見直したわ」

「え?は、はあ。ありがとうございます……?」

 

急に褒められて楓は困惑するが、梨璃は新しい情報で頭がいっぱいだ。

 

 

「え、主席……?」

「ええ。楓さんは、今年総合で最高のスコアを叩き出して入学しているわ」

 

「か、楓さん凄い人だったんですね……」と梨璃は慄く。梨璃の反応に、楓は頬を赤らめて髪を弄びながら「梨璃さんは私を何だと思っていたのですか……」と不満を口にした。

 

「まあわたくし、それを鼻にかけるほど愚かでは無いつもりですわよ。それに、評価には単純な戦闘能力だけじゃなく、スキラー数値や学力も含まれますわ。それらはどれも、入学してから本人の努力でいくらでも変わっていくもの。入学したときに優秀だったからと言って、努力を怠るつもりはありませんので」

「……!楓さん、かっこいいです……!」

 

楓の気高い考えに、梨璃は目を輝かせた。

 

「あ、あら、そうですの?梨璃さんったら、やっとわたくしの魅力に気付くなんて……どうです?今夜一緒にお風呂でも。お背中、お流しいたしますわよ?」

「そこまでよ。梨璃、訓練を続けましょうか」

「あ、はい!」

「ちっ、夢結様め……」

 

くねくねし始めた楓に釘を刺し、夢結は梨璃と再度向き合う。

 

 

 

「梨璃。貴女は強くなりたいと言ったけれど……何故強くなりたいのかしら?」

「え?それは……私が補欠合格で、せっかく夢結様のシルトになったのに、みんなより遅れてるから……」

 

梨璃の答えが望んだものではなかったのか、夢結はため息を吐く。

 

「……そうじゃないわ。貴女は強くなって、何をしたいのか。それを聞きたいの」

「強くなって、何を……?」

 

梨璃は夢結の言葉に、頭を悩ませる。

 

「例えば、ヒュージを倒したいとか、自分の故郷を取り戻したいとか。そう言った目的が、貴女にはある?もっと言えば、()()()()()()()()()()()()()()()

「……私、夢結様に憧れて百合ヶ丘にきて……夢結様みたいになりたいって、そればっかりで……」

 

梨璃の独白に、「そうよね……」と夢結は頷く。

 

「そう言っていたものね……。私も、そうだった。ただ流瑠お姉様に憧れて、憧れに憧れを重ねてリリィになった。………そして、美鈴お姉様を目の前で喪った」

   っ!」

 

夢結の言葉に、梨璃は息を呑む。

 

「悔しかったわ。ただ、悔しかった。私の目の前で、私の力不足のせいで大切な人が喪われる……そんな経験は、できれば貴女にはして欲しくない。

一口にリリィと言っても、色々な仕事があるわ。レアスキルによっては、二水さんのようになるべく前線には出ず、サポートに徹する道もある。……それでも、貴女は強くなりたいの?」

 

「…………」

 

その質問に、梨璃はすぐには答えられなかった。

夢結は、根気よく待つ。ここで結論を急いては、梨璃が道を踏み誤る可能性もあるからだ。

楓も、何も口を出さない。見ている全員が、無言で梨璃の結論を待っていた。

 

 

 

 

 

「私……私は……」

 

やがて、数分が経った頃、梨璃は口を開いた。

 

 

「私は、嫌です。目の前で大切な人が死ぬなんて、絶対に嫌です」

 

 

「……なら、別の道を」と言いかける夢結に、「でも!」と梨璃は待ったをかける。

 

「でも、大切な人を自分の力が無いから助けにも行けないのは、もっと嫌です!自分には戦う力が無いからって、最初から助けるのを諦めるのは、もっともっと嫌です!!」

「………」

 

夢結は、梨璃の言葉を黙って聞く。

 

「私、この学院に来て、夢結様と再会できて、とても嬉しかったです。強くて、カッコよくて、素敵な人だって。こんな人とシュッツエンゲルになれたらって、ずっと思ってました。そして、夢結様とシュッツエンゲルになって、夢が叶っちゃって、幸せで……私、そこで止まってました……。

でも今は、私、強くなりたいです!大切な人を守れるくらい!夢結様も、楓さんも、二水ちゃんも……流瑠様も!大好きな人をみんな守れるくらい強くなりたいです!!」

「梨璃さん……!」

「梨璃さんったら、わたくしのことそんな……!」

 

 

梨璃の言葉に感銘を受ける一年生達を横目に見て、夢結は息を吐くと、直後、「フッ」と笑った。

 

「ふっ、フフフ……私はまだしも、流瑠を守る、ね……。大きく出たわね、梨璃。

……いいでしょう。なら一つ、教えておきましょうか。梨璃、リリィが最も守るべきものは何か、わかる?」

「最も守るべきもの……大切な人とか、戦う力を持たない人、でしょうか?」

 

梨璃の答えに、「違うわ」と夢結は言う。

 

 

「『自分』よ。リリィは、何よりも自分を守らなければならない。何故なら、自分を守ることができるなら、自分は誰かに守られずとも生き残ることができるから。そして、『誰かを守る自分』を守ることで、より多くの人を守ることができるからよ。

別に、他の人を守るな、と言っているわけではないわ。極論だけれど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()0()()()()。これはそういう話よ」

「誰かを守る自分を、守る……」

「……それ、どなたからの受け売りですの?」

 

楓から入れられた茶々に、夢結は正直に答えた。

 

 

「……流瑠お姉様よ。この理論は理想論だという意見もあるし、事実私も理想論だとは思うけれど……でも事実として、二年前の私に足りなかった力は、間違いなく()()よ。美鈴お姉様は、私の背後からの攻撃を庇って亡くなったのだから」

「夢結様……」

 

夢結は悲しげに目を閉じるが、すぐに開いた。

 

「梨璃。流瑠お姉様までも守ろうとする心構えは結構よ。ただ、まずは自分を守れるようになりなさい。それが、貴女を守ろうとする人達を守ることにも繋がるわ。そして、もしも貴女が流瑠お姉様を守れるほどに強くなったとしても……『自分を守る』という大前提は忘れず、自分も、他人も守れるリリィになりなさい。……いいわね?」

 

「……はい!」

 

 

梨璃の決意に満ちた目を受け止めた夢結は、梨璃に頷いた。

 

「よろしい。それなら、私は貴女を強くするために、全力を尽くすわ。……それと、私のことは『お姉様』と呼びなさい。シュッツエンゲルなのに、いつまでも『夢結様』ではおかしいでしょう」

「……っ!はい、お姉様!」

 

訓練場に来た時とは全く違う気合に満ち溢れた梨璃に、夢結は満足げな様子を見せる。

 

「では、それを踏まえて訓練を始めましょうか。まずは、レアスキルに応じたプランを組みたいのだけれど……梨璃、貴女のレアスキルは?」

 

それを聞かれた梨璃は、言いにくそうに頬を掻く。

 

「ええっと……それがわからなくて……」

「なら、入学した時のスキラー数値は?」

「えっと、確か50でした」

 

それを聞いた夢結は、首を傾げる。

 

「数値としては、チャーム行使のギリギリね……でも、この学院に補欠とはいえ合格したのだから、貴女にもなにかあるはず……」

「えっと、そうなんでしょうか……?案外、私には何も無かったり……」

 

梨璃のネガティブな発言に、夢結は首を横に振る。

 

「梨璃、この学院の合格平均スキラー数値は知ってるかしら?8()0()()()()よ。それでも、貴女はここに合格したの。おそらく、貴女には何かがあるんだわ」

「は、はちじゅう……!?で、でも、流瑠様がコアを触った時はわからないって……」

 

 

「……()()()()()?お姉様が、そう言ったの?」

 

ひどく驚いた様子の夢結に、梨璃は頷く。

 

「は、はい。波長が弱すぎてわからないって……」

「……お姉様は、マギの流れに人一倍敏感よ。そして、マギが馴染んだチャームのコアに直接触ったとなれば、大抵のレアスキル……どころか、サブスキルまで全て判別できるはず。少なくとも、レアスキルが「ある」か「ない」かはわかるはずなのだけれど……」

「いえ、梨璃さんは「わからない」とだけ言われて……そう言えば、その前に不自然に間がありましたわね」

 

補足する楓に、夢結はさらに首を傾げる。

 

「お姉様がレアスキルの判定に時間をかけるなんて、聞いたこと……これは、直接お姉様に聞いてみるしかなさそうね」

 

「後で聞いてみることにしましょう」と、夢結は一旦話を切り上げた。

 

 

「じゃあ、今日はどうするんですか?」

「そうね、なら……チャームにマギを集中させながら、鬼ごっこをするわよ」

「お、鬼ごっこ!?」

 

夢結の言葉に驚く梨璃。その後ろでは、夢結の口から「鬼ごっこ」という言葉が出てくるのが面白かったのか、楓が「ぷはっ!」と吹き出していた。

 

「百合ヶ丘の初等科で行われている授業の一環らしいわ。チャームにマギを込める感覚を掴みつつ、鬼の手から逃げるという実戦を想定した動きもできる良い授業ね。……さあ、やりましょうか、梨璃」

「え、ええ!?」

「さあさ梨璃さん、あちらのこわーい鬼さんから逃げましょう?」

「楓さん、貴女も参加していただいていいのよ?このこわーい鬼から      逃げられると思わないことね

「きゃー、怖いですわ梨璃さん、助けてくださいましー」

 

「お、面白そうだな!梅も参加していいか?ほら、二水もいくゾ!」

「え、ええ!?私もですか!?」

「なんじゃなんじゃ、わしも参加させてもらうか!」

「懐かしいわね、私も入れてもらいましょうか」

 

いつの間にか見学していたリリィ達も加わり、「私も」「私も」と話題をよんで、この日、百合ヶ丘女学院高等部の歴史上最大規模の鬼ごっこが行われたのだとか、どうとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

厳粛な雰囲気の理事長室に、「コンコン」とノックの音が響く。

 

 

「入りなさい」

 

男性    百合ヶ丘女学院の理事長代行である高松咬月がノックに答えると、「失礼しまーす」とのんびりした声が聞こえた。

 

「呼ばれて来ました、三巴流瑠です。ごきげんよう、理事長代行」

 

声の主……流瑠は、特に緊張する様子もなく理事長室に入ってくる。

 

「流瑠君か、急に呼び立ててすまなかったな」

「いえいえー。……あ!」

 

理事長代行への挨拶もそこそこに、流瑠は四人のリリィを見つけて駆け寄った。

 

 

 

明伽(めいか)ちゃん!もう傷はいいの?」

「うん!心配かけちゃったね、ルル姉様。今日から復帰なんだ。今年はもう一度三年生としてやり直すよ」

「よかった〜。もう、心配させないでよね。私にも、シルトにもね。ギュ〜っ!」

「もう、ルル姉様ったらくすぐったいよぉ」

 

山崎明伽。生徒総代(オルトリンデ)を務める、生徒会三役の一人で三年生。

 

 

史房(しのぶ)ちゃん!最近相談室に来てないけど大丈夫?」

「……ここのところ忙しくて……。また時間が空き次第顔を出させてもらいます……。お姉様も復帰したことですし、去年よりは楽になる……と思いたいですが……」

「お疲れだねぇ。ギュ〜っ!」

「あぁ……流瑠様のこの感じももう久しぶりな気がします……」

 

出江史房。レギオン管理者(ブリュンヒルデ)を務める、生徒会三役の一人で、こちらも三年生。

山崎明伽とは元シュッツエンゲルの関係だ。

 

 

眞悠理(まゆり)ちゃんはレギオンに入るとか?」

「ほんと耳が早いですね……。ええ、乃子(のりこ)*1に誘われまして」

「シュヴァルツグレイルだっけ?いいレギオンになるといいね〜。ギュ〜っ!」

「あ、ちょっ、流瑠様……わたしはそういうのは……あ、ダメだ離れないこの人……」

 

内田眞悠理。規則の調停者(ジーグルーネ)を務める、生徒会三役の一人で二年生。

 

そして……

 

 

 

「祀ちゃーん!」

「流瑠様ー!」

「「ギュ〜っ!」」

 

流瑠と一際熱い抱擁を交わしたのは、秦祀(はたまつり)。山崎明伽の助手兼、次のオルトリンデ候補として経験を積んでいる二年生だ。

 

「祀ちゃん!嬉詩(うた)ちゃんの入学おめでとう!」

「ありがとうございます!それもこれも、流瑠様のおかげです!」

「いやいや、あの時凄かったのは私じゃなくて嬉詩ちゃんだったんだから!みんなを守るために武器も持たずに……かっこよかったよ、嬉詩ちゃん」

「でも、流瑠様が来てくれなかったら、多分今頃……」

「そう言う話はしないの。もうシュッツエンゲルも結んだんでしょ?これから忙しくなるねぇ、祀ちゃん」

 

 

わいわいと生徒会のメンツと流瑠は騒いでいたが、「んんっ」という理事長代行の咳払いで静かになる。

 

 

「おっと、理事長代行、すみませんでした」

「ああいや、仲がいいのは大変結構なんだがね……本題を伝えたいのだが」

「ええ。なんでしょうか?中等部の教官とか?はたまた外部ガーデンへの遠征とかでしょうか?」

 

いや、と咬月は首を横に振る。

 

 

 

 

「今回は    LG(レギオン)ランドグリーズへの依頼だ」

 

 

 

 

その言葉を聞いた瞬間、流瑠の顔からは笑顔が消える。

 

 

 

     ウチのレギオンに、ですか。穏やかじゃありませんね。

特Gでしょうか?それともNLA?」

 

 

突然笑顔を失って冷たい声を発した流瑠に、咬月はやれやれとため息を吐く。

 

 

「……流瑠君。忘れてないかね?毎年この時期からは     

 

 

咬月のその言葉に少し思案した後、「ああ!」と流瑠は笑顔を取り戻す。

 

 

「なんだーそっちでしたか!ええ、ええ。もちろん今年も、一年間やりますよ!」

「本来、正式には教官ではない君にこんなことを頼むのは心苦しいのだが……」

 

申し訳なさそうにしている咬月に、「何言ってるんですかー」と流瑠は明るく答える。

 

「それくらいどうってことないですよ。レギオンの格付け引率と昇格試験でしょう?任せてください!」

「よろしく頼む……ああ、それから。そろそろ『勧誘』をしてくれてもいいのだよ?」

 

その咬月の言葉に、流瑠は少し寂しそうな顔をした。

 

「……いえ、いいんです。今のままで……。私、今で十分幸せなので」

 

それだけ言うと、流瑠はすぐに表情を戻した。

 

 

「……それで?どこかから格付け申請でもあったんですか?」

「ああ。『アールヴヘイム』がな」

「……アールヴヘイム?今SSでしたよね?ってことは……」

 

流瑠の言葉に、咬月は頷く。

 

「そうだ。新潟は柳都から、S級ネスト討滅のために、アールヴヘイムへの遠征申請があった。そこに同行し、格付け調整を行って欲しい。主将の天葉くんには既に伝えてある」

「柳都……まさか『竜の巣』ですか!?それ、七大アルトラの一角じゃないですか!アールヴヘイムだけでどうにかしろと?他のガーデンからも何組か出張るんでしょう?」

 

流瑠の声に、驚きと焦りが滲む。

 

 

    世界七大アルトラ。ヒュージの中でも最大級と呼ばれるアルトラ級ヒュージの中でも、さらに大きい七体のアルトラのことだ。その大きさに伴って(ネスト)も大きく、存在するだけで多くのヒュージを生み出す脅威の存在であり、真のラスボスとも言える。

 

 

心配する流瑠に、咬月は頷く。

 

「もちろんだ。御台場*2からLGロネスネス、ヘオロットセインツ。エレンスゲからヘルヴォル。神庭からグラン・エプレが出てくると聞いている。無論、柳都女学館*3からも出てくるが……ネスト討滅戦の前哨戦のために、殆どのレギオンが疲弊している。戦力になるのはLGヒミングレーヴァ……というよりも、天津(あまつ)麻嶺(まれい)くんくらいなんだそうだ」

「麻嶺ちゃんが……でもそれじゃ、格上げの基準は満たさないのでは?」

 

 

レギオンが格付けSSからSSSに上がるには、ある厳しい条件がある。

それが    アルトラ級、もしくは特型ギガント級の()()()()だ。

「単隊での討伐」というのが肝であり、今回のような他のレギオンが関わる戦闘では、基本的にレギオンがSSSに格上げされることはない。流瑠の疑問も当然だろう。

しかし、咬月は首を横に振る。

 

「いや。この討滅戦に参加したレギオンは、例外的に働きに応じて格上げをしても良いとのことだ。国連から通達されている。……おそらく、連中の狙いは流瑠君、君だ。まだ格付けSSの二代目アールヴヘイムの格上げを餌に、引率として君を引っ張り出して、討滅戦の安定化を図ろうと言う狙いだろう。万が一他が壊滅しても、君がいればどうにかなる、と」

「……わたしは連中の精神安定剤か何かですか。なら私だけ呼べばいいでしょう?」

 

静かな怒りを見せる流瑠を、咬月は嗜めた。

 

「過保護なのは結構だが……。流瑠君、今回は私も、連中と意見を同じくするわけではないが、君とアールヴヘイムに行ってもらいたいと思っている。今回の討滅戦は御台場迎撃戦や幕張奪還戦の時とは規模が違う。通常の規模のネストくらいならギガント級以下も含めて君一人でも討滅できるだろうが、今回は世界最大規模の一角とも言われるネストだ。数で押されれば、君一人だけでは柳都の被害は防ぎ切れないだろう。加えて、七大アルトラとの戦闘を経験したレギオンが学院内にいるのといないのとでは、リリィ達の心構えも違うだろう。そういう意味で、この学院最強であるアールヴヘイムが七大アルトラとの戦闘を経験し、いざと言う時には君がサポートする。この形が理想だと思うんだがね?」

「っ………!」

 

咬月の冷静な意見に、流瑠は歯噛みする。

 

「でも、まだあの子達は格付けSSで、アルトラとの戦闘経験も    

「だが、彼女達は外征旗艦レギオン*4・アールヴヘイムだ。この学院内では、彼女達以上に適任はいない。流瑠君も、引率という立場ではあるが、彼女達が危なくなったら手を出して構わない」

 

咬月は「それに」と付け加えた。

 

「流瑠君、君は格付けがSSだからと言って、二代目アールヴヘイムでは力不足だと思うかね?私は、彼女達ならやってくれると信じているが」

 

その言葉に、流瑠はしばらく考えた後、「はぁ……」とため息を吐く。

 

「その言い方はずるいですよ、理事長代行。私だって、あの子達はやってくれると……『アールヴヘイム』の名を継ぐ資格を持っていると思ってますよ。

……わかりました。格付け調整員兼、引率として、アールヴヘイムに同行します。期間は?」

 

咬月は流瑠の良い返事に頷き、予定を伝えた。

 

「明日調整を行い、明後日から出発になる。一晩外泊後、次の日に討滅戦を実施し、終了次第帰還だ。かなり強行軍の遠征になるだろう。流瑠君も、準備をしっかりしていくように。それと……」

 

「わかってますよ。………もう、私の前で、誰も死なせはしません」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあこれで〜!みんなも相談室にきてね〜」と宣伝しながら帰っていった流瑠を見送った後、生徒会のメンバーと咬月は流瑠について話し合っていた。

 

 

「……はぁ。くれぐれも無理はせんように、と言いたかったのだがな……」

「……特務レギオン、三巴隊(ランドグリーズ)ですか。表の業務はレギオンの格付けに関わる、ある意味では(ブリュンヒルデ)直轄とも言えそうなレギオンですが……」

「その本来の存在意義は……ですか」

「ほんと、ルル姉様はなんでもやってくれるけどさ……もっと人を頼ってくれてもいいと思うんだけどなー」

 

 

三役たちの言葉を聞いて、咬月も目を閉じる。

 

 

「……そうだな。流瑠君には本当に負担をかけてしまうが……彼女がいなければできない仕事でもある。

 

 

特型ギガント級以上への単隊威力偵察、誘導、撃破は勿論……特に、()()などという仕事の場合はな」

 

 

その言葉に、史房は神妙に頷く。

 

「そうですね。間違いなく、流瑠様がいないとできないでしょう。各ガーデンや企業の要望に応じて、レギオンの格上げ用のヒュージを確保・誘導したり、要求に応じた情報やヒュージの一部のみをサンプルとして持ち帰ったり、短期間の内に撃破、挙句には捕獲……。その特務は『特型ギガント級以上』という制約がついているとはいえ、多岐に渡ります。彼女が持ち帰ったヒュージやその情報が、今までどれだけ役に立って来たか」

「レストア化しない程度の攻撃、行動傾向分析、人がいない地域までの誘導、それまでの被害の軽減……そして、スキル「フリーレン」を使用した捕獲作業。その全てを、これまでリリィ・民間人問わず一切の犠牲を出さずにやってきたんですから、頭が上がりませんよ」

 

咬月は「うむ」と同意する。

 

「だからこそ、レギオンメンバーを集めるなり、他のレギオンと合併するなりして流瑠君自身の負担を減らして欲しいのだがな……。今の彼女は仕事が多すぎる。せめて、流瑠君自身が隊長ではないレギオンになれば少しは負担も減るのだが……」

 

明伽はその言葉に首を横に振った。

 

「それは難しいでしょうねー。ルル姉様の人気凄いし。あの人がレギオンに入っちゃったら、レギオン内にもある程度ルル姉様に隊長になってほしいって人は出てきちゃうでしょうね。で、それが内部分裂のきっかけになりかねない、と。……それを打開することができる可能性といえば……」

 

 

     レアスキル『カリスマ』、ですか」

 

 

祀の口から出た、未だ百合ヶ丘では確認されていないレアスキルの名前に、理事長室は静まり返った。

 

 

 

 

 

*1
剣持乃子様。伊藤閑さんのシュッツエンゲル。

*2
御台場女学校。生徒同士のデュエルが絶えない戦闘民族ガーデン。

*3
新潟の守護者とも言われるガーデン。いくつもの分校に分かれて新潟を一手に守っている。

*4
外部への遠征を主な任務とする特務レギオン。






・流瑠様
仕事が増えた。レギオンの格上げとかは普通教導官がやるものなんだけど、流瑠様殆ど教官みたいな扱いだし、本人も現地に同行するのでいざと言う時は助けられるしで重宝されてる。あとギガント級以上の捕獲とかもやってるらしいっすよ。今後その設定が活かされるかは知らないけど。多分本人は倒したくてしょうがないと思う。

・山崎明伽様
オルトリンデ。アニメでは重傷を負っていて本人は一切出てこなかったが、生徒会の実質のトップ。流瑠様のおかげで怪我の具合が小さくて済み、4月から復帰している。史房様の元シュッツエンゲル。
それまでオルトリンデを代行していた祀様を次期オルトリンデ候補として推しており、経験を積ませるためにそばに置いている。

・出江史房様
ブリュンヒルデ。アニメでちょくちょく出てきた茶髪の人。クソ真面目で融通が効かない……と思われがちだが、リリィ達を思う気持ちは人一倍。明伽様の元シルト。
明伽様が療養中は、祀様が代行するまでオルトリンデの仕事もほぼ一人でこなしており、多忙を極めていた。そのせいで流瑠様のお悩み相談室の常連となっており、たまに生徒会三役の権限を濫用して予約を捻じ込んでいたとか、そうでないとか。

・内田眞悠理様
ジーグルーネ。二年生ながら生徒会三役の一人として頑張っている才媛。金髪の子。え?一年生でジーグルーネになった人もいる?あれは千華様がバケモンだっただけだから……。
新進気鋭のレギオン・シュヴァルツグレイルからお声がかかっている。わからない人向けに言うと、梨璃ちゃんのルームメイトの伊藤閑さんのレギオン。

・秦祀様
自分のシルト(候補)を救ってもらっているため、流瑠様には頭が上がらない。
流瑠様大好きーズの一人。密かにシュッツエンゲルを狙っているとか。
性格がアレなので、流瑠様関連の話題になると夢結様に情報戦と心理戦を仕掛けてくる。夢結様の胃に穴が開く。今まで散々夢結様の面倒を見てきたからね。甘んじて受け入れよう、夢結様。

・山田嬉詩ちゃん
生存確認!一年生季組。中等部時代にチャームも持たないまま民間人をヒュージから避難させてお亡くなりになると言うガッツの持ち主。アニメの英霊墓地にも名前があった。今作では流瑠様が助けてくれたよ。
祀様のシルト。嬉詩ちゃんが生きてるので祀様の性格もちょっとだけ柔らかいが、やっぱり拗らせてるので、嬉詩ちゃんがストッパーになってくれている。

・鬼ごっこ
緊張感のかけらもねえな?鬼になった人はわかりやすいようにマギでサインを付けられる。案の定梨璃ちゃんはさっさと捕まったが、マギの集中は少しだけ上手くなった模様。



というわけで、この時期に柳都S級ネストの戦闘があるのを完全に忘れていた筆者です。

アニメのみ見てた方に言うと、アニメ三話で夢結梨璃がなんやかんやしている間にアールヴヘイムのメンツはめっちゃ激戦を繰り広げていたよ、という話です。まあ殆ど情報が出てない部分なので、この小説でも本編の裏で、と言う感じになると思いますが。

そう言う感じなので、少しの間流瑠様はアールヴヘイムと一緒に外征なので出てきません。夢結様と楓さんは暫く流瑠ロスを味わうがいい……。


たくさんのUA、お気に入り、評価、感想などありがとうございます!
もっと百合百合な百合を書けるように頑張ります!
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