アサルトリリィPRESERVED   作:(確信)

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立てば腕組み、座れば膝の上。歩く姿は百合ん百合ん。




(梨璃ちゃんの戦い?後編。
あるいは死した者たちへの挽歌)



ネジバナ その5

「……えへへ。夢結様に髪を解いてもらうの、久しぶりですね」

 

「そうかしら?三日前くらいにもやった気がするけれど……」

 

「十分久しぶりですよぉ!毎日でもやって貰いたいくらいなのに!」

 

「そう思うなら、もう少し早起きを頑張ることね?」

 

「あ、あはは……」

 

 

 

夢結と梨璃は、訓練で乱れてしまった格好を整えるため、一度寮に戻って整容していた。

夢結の方は流石と言うべきか、あれだけ動き回った後でもまるで服装に乱れはない。しかし、梨璃はそうはいかなかった。

 

髪はボサボサ、制服はヨレヨレ。「こんな格好で戦いの場に出ては、百合ヶ丘のリリィとして示しがつかない」とは夢結の言だ。

 

夢結が優しく髪を解くと、梨璃は気持ちよさそうに目を細める。

 

「夢結様、髪解くの上手ですよね。兄弟とかいるんですか?」

「いいえ、私は一人っ子よ。ただ……昔、美鈴お姉様がまだいた頃、流瑠お姉様の髪を解いていたことがあるわね」

 

懐かしむように言う夢結に、梨璃は意外そうな声を上げる。

 

「お姉ちゃんの、ですか?お姉ちゃんだったら、「私が夢結の髪を解いてあげる!」って、世話を焼きそうな感じですけど」

「ふふ……そうね。実際そうだったわ。けれど、美鈴お姉様が「これはシュッツエンゲルの特権だ」って、絶対流瑠お姉様にやらせてあげなかったの。だから、代わりに私に自分の髪を解いて欲しいって言い出してね」

 

あの頃はお姉様だった美鈴が自分の髪を解いて、今は自分がお姉様になってシルトの髪を解いている。だからこそ夢結には、髪を解いてもらっている梨璃の嬉しさも、髪を解きたい、というよりは、世話を焼きたいと思う流瑠や美鈴の気持ちも、今ならよくわかる気がした。

 

そんな夢結の心境を知ってか知らずか、梨璃は笑って頷いた。

 

「でもそれ、わかります。だってお姉様の髪、とってもサラサラで綺麗なんですもん!きっと触ったら気持ちいいだろうなぁって」

「……触ってみる?」

「え、いいんですか?」

 

どうぞ、と髪を差し出す夢結に、梨璃は恐る恐る手を伸ばした。触れると、シルクのような手触りが梨璃の指に伝わってくる。自分の髪にはないその感触に、梨璃は感嘆の声を上げた。

 

「わ、わ……!やっぱり凄くサラサラ……」

「そ、そうかしら?髪のケアは欠かしていないけれど……」

「そうですよ!はぁ……ほんとに綺麗……」

 

夢中になって夢結の髪を触る梨璃に、夢結は段々と恥ずかしくなってくる。

流瑠や美鈴にも褒められたことはあるが、こんなにまじまじと見られた経験は無い。恍惚とした吐息まで吐かれると、恥ずかしさは増すばかりだ。

 

「り、梨璃?そろそろ離してくれると」

「くんくん……お姉様の髪、とってもいい匂いです……」

 

匂いまで嗅ぎ出した梨璃に、夢結の恥ずかしさは加速していく。

顔はみるみるうちにリンゴのように真っ赤になってしまった。

 

「ちょ、ちょっと梨璃!?汗をかいているから、匂いを嗅ぐのは」

「どんな味がするんだろう……ペロってしてみていいですか?」

「梨璃!いい加減にしなさい       !!」

「ごめんなさいお姉様!ちょっとだけ!ちょっとだけですから      !」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢結と梨璃がイチャイチャとしている間、流瑠と楓、そして二水は、一足先に当番の集合場所である海岸沿いに集まっていた。

 

そこには、今日のメンバー……つまり未だレギオンに入っていないであろうリリィ達がちらほらと見えていた。

その中の一人に目をつけ、流瑠は声をかける。

 

「あ、梅ちゃん!今日は梅も当番なの?」

「あれ、流瑠様?今日当番だっけ?」

 

流瑠に声をかけられたリリィ   吉村・Thi・梅は、流瑠の姿を見て意外そうな声を出した。

 

「いやぁ、今日は我が孫弟子の初陣でね。私はそれの見学だよ」

「孫弟子?……あ、もしかして梨璃のことか?あー、だからチャームを持って来てないのかー。大方、夢結あたりに「手を出すな」とか言われたんだろ?」

 

「大正解」と流瑠が苦笑すると、梅は愉快そうに笑った。

しかし、その笑顔にはどこか寂しさも見え隠れする。

 

「あっはっは。夢結も変わったなー。やっぱり梨璃と、大好きな流瑠様のおかげだな!……私じゃ、夢結に何もしてやれなかった」

「梅ちゃん……そんなことないよ。梨璃と一緒に、夢結を説得してくれたんでしょ?多分梅ちゃんがいないと、話はできなかったと思うよ。夢結、梅にはいつでも心を開いてたから」

 

流瑠のフォローに、今度は梅が苦笑する番だった。

 

「ありがとな、流瑠様。でも、本当に心を開いていたら……今頃、もうちょっと変わった結果だったんだろうけどな……」

「……梅ちゃん」

「る、流瑠様……?」

 

俯く梅を、流瑠はギュッと抱きしめた。

流瑠は以前から、他人をよく見ているが故に色々なことを自分が解決しようとしてしまう梅を心配していた。それが、梅の親友である夢結にいい変化が訪れたことで、喪失感や無力感になってしまっていることを、梅との会話から察する。相変わらず繊細で可愛い子だ、と流瑠はハグを強めた。

 

「あんまり抱え込みすぎちゃダメだよ、梅ちゃん。梅ちゃんはみんなのことをよく見てるけど、その分とっても繊細で寂しがり屋さんなんだから。悩みや愚痴でもなんでもいいから、何かあったら私に話して。ね?」

 

流瑠に抱きしめられている梅は、らしくない困った笑顔で流瑠を抱きしめ返した。

……そういうところだ、と梅は思う。流瑠はそうやって優しく抱きしめて、甘い言葉を掛けて、頼らせてくれる。自分を理解してくれる。以前もそうだったが、最近は輪をかけてその傾向が強い。「よく見ている」と流瑠は梅を評価するが、それは流瑠の方だろう、と梅は常々思っている。

そして、そんなことをされたら、感受性の高い女子が好感を持たないわけがない。困った人だ、と思うが、それが魅力でもあるのだ。

 

「あはは……。そうやってすぐに抱きつくの、流瑠様の悪いクセだゾ。そのせいで勘違いしちゃう子だっていっぱいいるんだからなー」

「勘違いなんかじゃないよ。私はリリィのみんなが大好き。本当に、ほんとに大好きだよ。愛してる。もちろん、梅だってね」

 

その言葉に、梅は嬉しそうにしながらも、不満そうなジト目を向ける。

 

「それ、誰にでも言ってるんだろー?そういうのよくないゾ」

「そりゃもう!だって私、リリィのみんなのこと大好きだからね!思いは言葉にしないと伝わらないもの!」

「開き直ってるし」

 

あっけらかんと言う流瑠に、さらにジト目を深める梅。流瑠は「調子出て来たねー」と笑った。その言葉通り、梅の顔にはもう寂しさはなさそうに見えた。

 

「でもほら、梅ちゃんだってみんなのこと大好きでしょ?」

「そりゃそうだけどさー……大好きの中の一番大好きだって、あっていいと思うんだけどなー

「……あの、お話、終わりましたでしょうか?」

 

互いに抱き締める手を離した流瑠と梅に声が掛けられる。

流瑠と梅が声に振り返ると、二人のリリィがいた。

 

 

一人は、片手を頬に添えて目を輝かせ、今にも「あらあら〜」とでも言い出しそうな雰囲気の、虹彩異色(オッドアイ)が特徴のリリィ。

もう一人は、顔を両手で覆って    と言っても指と指の隙間は開いており、しっかりと前が見えているが   顔を赤くしているリリィ。

 

 

流瑠は、その両者に見覚えがあった。

 

「あ、雨嘉ちゃん!と……神琳ちゃんも!」

「ご、ごきげんよう流瑠様……あ、梅様ははじめまして。王雨嘉です」

「ごきげんよう。貴女が噂に名高い吉村・Thi・梅様ですね。わたくし、郭神琳(くぉ・しぇんりん)と申します。流瑠様も、中等部以来お久しぶりです。今日は高等部に上がってきて初めてなので、ご挨拶をと思いまして」

 

 

郭神琳。中国は台北市からの留学生で、百合ヶ丘には幼稚舎の頃から通う生え抜きなので、流瑠とは知り合いだ。レアスキル『テスタメント』と防御型ユニークチャーム『媽祖聖札(マソレリック)』を巧みに扱う、テクニカルなリリィでもある。

 

丁寧な神琳の挨拶に、流瑠も梅も笑顔で応える。

 

「はい、ごきげんよう!久しぶりだね、神琳ちゃん」

「吉村・Thi・梅だゾ!梅でいいからなー。わからないことがあったら何でも聞いてくれ!」

「はい、ありがとうございます」

「じゃ、じゃあ一ついいですか?」

 

「何でも聞いてくれ」という梅の言葉に、雨嘉は顔の赤さをさらに増して言う。

 

「おう、何でもいいゾ!」

「その、お二人は……お、お、お付き合いされているんですか!?」

「……へ?」

 

的外れな質問に首を傾げる流瑠と梅。そんな二人に、雨嘉はさらに興奮気味に目をぐるぐるさせる。

 

「だ、だってさっき、あんなに熱い抱擁を……!ギュ〜って!ギュ〜ってしてたじゃないですか!?」

「ゆ、雨嘉さん……?」

 

顔がどんどん赤くなっていく雨嘉に、神琳は若干引き気味だ。

雨嘉の疑問に、当事者の流瑠は照れたように、梅は呆れたように笑った。

 

「別に付き合ってはないよー。これくらいいつもやってるよ?」

「あはは……。この人(流瑠様)と付き合うとなると、並大抵の苦労じゃきかないからなー……」

 

二人の言葉に、「え、ええ……?あれで付き合ってないの……?」と戦慄する雨嘉の肩に、神琳はそっと手を置いた。

 

 

「……ここじゃ、あれくらい普通なのよ。ようこそ雨嘉さん、百合ヶ丘女学院へ」

 

 

信頼する神琳に憐れみの目で見られながらそう言われ、雨嘉は視界がグルグルと回ってしまうようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、いましたわ!お姉様〜!」

「ま、待ってください楓さーん!」

 

流瑠と梅が神琳や雨嘉と談笑していると、珍しく流瑠と離れていた楓と二水が駆け寄ってきた。楓は流瑠を見つけると目を輝かせ、ひしっと抱きついた。

 

「楓〜!それに二水ちゃん!どこに行ってたの?」

「初めて会うリリィと少し挨拶を。梅様もごきげんよう」

「おう!相変わらず楓と流瑠様は仲良しだなー」

 

話をしながらも、楓は流瑠に抱きついたままだ。もうすっかり抱きついたり抱きつかれたりも慣れたようで、他人の目を気にする様子もない。

それを見て雨嘉がまた「え……?さっき梅様と抱き合って……え?」と混乱していたが、神琳は苦笑いして、「ここはそういう所で、あの人(流瑠様)はそういう人なのよ」としか言えなかった。

 

「それにしても、夢結様と梨璃さんは遅いですわね。そろそろ時間ですわよ?」

「そうですねー。髪と服を整えるだけならそんなに時間は……」

 

二水が言いかけたその時、「遅くなってすみませんでしたー!」と元気な声が聞こえる。

 

「梨璃さんに夢結様?もうすぐ時間が来てしまいます…わ……よ?」

 

楓達が梨璃の声がした方を見ると     

 

 

 

服はヨレヨレ、髪はバサバサになってしまった夢結と梨璃がいた。

 

 

 

「………悪化してませんことーーーーー!?」

 

夢結は流瑠達の元まで来ると、力尽きたかのようにガックリと膝をついた。

 

「不覚だわ……梨璃の髪に対する執着があんなに強いなんて……」

「ご、ごめんなさいお姉様……」

 

肩を落とす夢結と梨璃に、流瑠は櫛を取り出して笑い掛けた。

 

「……二人とも、こっちおいで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「流瑠お姉様、ごめんなさい。こんなことになるとは……」

「うう、お姉ちゃんまでありがとうございます……」

 

申し訳なさそうに言う二人に、流瑠は「いいのいいのー」と事情も聞かずにテキパキと髪を整えていく。

その手つきは手早いが、決して力は入っておらず、慈しむような優しさがあった。

 

(ふぁ……お姉ちゃんの手、気持ちぃ……)

 

目を閉じて感触を楽しむ梨璃を見て、流瑠は微笑む。

 

「梨璃ちゃんの髪、とっても可愛いねー。ちょっとくせっ毛で、私好きだなぁ」

「えへへぇ、ありがとうございますぅ……」

 

顔を蕩けさせる梨璃に、夢結はジトッとした目を向ける。

 

(羨ましい……私も流瑠お姉様に……そもそも、遅れたのは梨璃が……)

 

「夢結もすぐやってあげるから、自分のシルトにそんな顔しないの」

 

いつの間にか梨璃の整容を終え、流瑠は夢結の方に向き直った。梨璃は既に、へにょへにょになって転がっている。

その手際の良さに、夢結は舌を巻いた。

 

「で、では、お願いするわ」

「はいはい、任せてー」

 

夢結の髪を解き始める流瑠。その手つきに、夢結は「ほう……」と息を吐いた。

 

(確かに、これは気持ちいいわね……。暖かくて柔らかいお姉様の手の感触がよくわかるわ)

 

「夢結の髪、やっぱり綺麗だよねぇ。梨璃が触りたくなるのもわかるよ」

「そうね、梨璃が……え?私、お姉様に言ったかしら?」

 

さらりと梨璃の話を出した流瑠に、夢結は首を捻った。

 

「それくらいわかるよー。梨璃、たまに夢結の髪をじっと見てたしね」

「……気付かなかったわ」

「はい、できたよ」

 

少し話している間に、流瑠は夢結の髪だけでなく、服装も整えてしまった。

 

「え……もう終わり?」

「うん。今からヒュージと戦闘でしょ?手早くしないとね」

 

物欲しげな夢結の顔に、流瑠は苦笑する。

 

「……またやってあげるから。今度はじっくり時間をかけて。ね?」

「……そうね。今は……ほら、梨璃。起きなさい。そろそろ時間よ」

 

名残惜しげに立ち上がる夢結は、「えへへぇ、お姉ちゃぁん……」とへにょっている梨璃を起こす。

 

「じゃあ、行ってきます。お姉様」

「が、頑張りますね!」

 

夢結と、夢結に叩き起こされた梨璃を、手を振って見送る流瑠。

 

その表情は、何かに耐えているかのようだった。

 

 

「……梨璃の初陣だから、私は出ないように……我慢しないと。我慢、我慢」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢結達当番のリリィは、海岸にほど近い岸壁の上に顔を揃えていた。そこからは、大きな   と言っても、これでもラージ級程度で、この上にさらに大きな規格のヒュージが存在するのだが   ヒュージが海を渡って近づいて来るのがよく見える。

 

その進行方向の先にあるのは、海岸沿いの市街地跡。苔むして遺跡のようになってしまったそこが、今日の戦いの舞台になるであろうことをリリィ達は予期した。

 

 

「……梨璃。初陣でも……いえ、初陣だからこそ、今日はしっかりと前に出てみましょう。私が必ず守るわ。貴女は、自分を守ることにまずは専念なさい」

「は、はい!夢結様について行きます!」

 

緊張した面持ちの梨璃に、夢結は頷く。楓も隣に来て、梨璃の肩を持った。

 

「大丈夫ですわ、梨璃さん。わたくしもサポートいたしますし、あれだけ夢結様相手に戦えるならあの程度のヒュージは敵じゃありませんわ」

「楓さん、適度な緊張を保つことも大切よ。油断と思い込みは戦場で最も忌むべきものなのだから」

 

梨璃を甘やかしすぎないように言う夢結に、楓は微笑む。

 

「姉馬鹿も結構ですが、梨璃さんはこれくらいで調子に乗るタイプじゃありませんわよ。寧ろ、緊張しすぎて動けない方が問題だと思いますけど?」

「……まあ、確かにそうね」

 

楓に諭された夢結は、どこか納得のいかない表情をしながらも、楓に首肯する。

そんな二人を見て、梨璃はクスリと笑った。

 

「お二人はいつも通りですね。なんだか、私も緊張が解けてきました」

「それくらい肩の力を抜く感じでよろしいのですわ、梨璃さん。……さ、ぼちぼち行きましょうか」

「そうね」

 

その言葉と共に、夢結も楓も顔を引き締める。

みんな切り替えが早くて凄いなぁ、と梨璃は感心しながらも、心を切り替えた。

 

「みなさーん、頑張ってくださーい」という後方見学の二水と、「がんばれー」という流瑠の声に背中を押され、リリィ達は走りはじめた。

 

 

 

「梨璃、まずは体勢を崩すわ。ヒュージの攻撃に注意しながら、シューティングモードで射撃してみなさい」

「は、はい!」

 

マギを放出して海面から飛び上がったヒュージの下に夢結は高速で移動する。

夢結が潰されてしまうのではないか、と一瞬梨璃はヒヤッとするが、夢結は動じることもなく足元に潜り込んでチャームを一閃。宣言通り体勢を崩すと、ヒュージの後方へそのまま離脱した。

梨璃はその光景に感嘆の息を吐きながら、チャームをシューティングモードに切り替えて射撃を始める。

 

「流石、百合ヶ丘のエースと呼ばれるだけありますわね、夢結様」

「そう、ですね!」

「あ、無理に返事をくださらなくてもいいですわよ?……しかし、歪な形のヒュージですわね」

 

ヒュージの形への違和感。実戦経験のほぼない梨璃にはわからなかったが、ヒュージの背を駆け上がっていた夢結も楓と同じ違和感を感じていた。

 

(このヒュージ……レストアだわ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、流瑠は見学に来ていた百由・ミリアムと合流していた。

 

「あ、百由!ごきげんよう!どう?最近は」

「ごきげんよう、流瑠様。相変わらずよー。珍しいわね、流瑠様が見学なんて」

 

その百由の言葉に、流瑠は嬉しそうに答える。

 

「うん。孫弟子の初陣でね。手を出すなって言われてるから、こうして見てるんだ。百由はデータの収集?」

「そうそう!最近は変なヒュージが増えてるって言うし、出不精になってたから、散歩ついでにねー」

「変なヒュージ、ね……」

 

その言葉に引っかかるも、考えても仕方ないと思い直し、流瑠はミリアムの方を向く。

 

「ぐろっぴもごきげんよう!相変わらず重そうな髪だねー」

「ごきげんようじゃ、流瑠様。重いぞー?流瑠様も一回やってみるといい」

 

「遠慮しとくよー」と流瑠は笑い、百由が弄っているパソコンの方に目を向けた。

 

「……それで、百由?今回のヒュージは?」

「うーん、そうね。マギによる擬似的な飛行、爆弾を使う面特化の殲滅攻撃、トゲトゲした見た目……見たことないタイプのヒュージね。とりあえず仮に、『デホイバボイティガン』と名付けましょう!」

「……そのネーミングセンスはどこから出て来るんだろうね?」

 

比較的穏やかに話していた流瑠と百由に、爆弾が投げ込まれたのはその時だった。

 

 

「しかし、ありゃレストアっぽい感じがするのう、百由様?」

     レストア?」

 

ミリアムが何気なく呟いた一言に、流瑠は強く反応した。

 

 

   レストア。

傷ついたヒュージがネストに逃げ帰って、修復されたものだ。そのような個体は、総じて歪な外見をしている。

つまり、その個体はリリィとの戦闘から生還している、ということになる。

 

そんなワードが出たことで、百由は思わず「あっやべ」と声に出してしまう。

 

「ん?なんかまずかったかの、百由様?」

「いやー、あはは、えーとねー……」

 

言葉を濁しながら、百由は流瑠の様子を窺う。ミリアムもそれに倣って流瑠の方を見ると       

 

 

流瑠の顔からはつい先程まで咲いていた笑顔が抜け落ちており、拳は強く握りすぎて血を流していた。

 

それを見た百由は、焦った様子で流瑠を宥めようとする。

 

「え、えっと、流瑠様?今日は孫弟子の初陣だから手は出さないんですよね?」

      そうだね。そうだった。うん、忘れてないよ?私は冷静だからね。忘れるわけないじゃない」

 

そう言いながらも、流瑠の手はさらに強く握り込まれており、血が滴っている。

「冷静」と言いつつ全く冷静では無さそうな様子に豹変した流瑠に、ミリアムはギョッとした。

 

「も、百由様?流瑠様はどうしたんじゃ急に……」

「……流瑠様はね、レストアのヒュージが大っ嫌いなの。その理由は   

 

百由が再度チラッと流瑠を横目に見ると、流瑠は必死に何かを自分に言い聞かせて、自分を抑えているようだった。

 

「……わかってるよ百由。そうだよね。レストアってだけで私の可愛い可愛い妹達を殺したとは限らないものね?痛手を負わされて逃げ帰っただけかもしれないものね?」

 

「……こういうことよ」

「うーむ?つまり、リリィとの戦いを生き残ったレストアという個体は、流瑠様にとっては妹達を殺した可能性のある怨敵、ということかの?」

 

説明するのを途中で放棄した百由に代わり、ミリアムが自分なりに解釈する。分かりやすい説明に、百由は頷いた。

 

「まあ、平たく言えばそうね」

「じゃが、何がやばいんじゃ?流瑠様が怒るのも理解できると思うが」

 

ミリアムの最もな疑問に、百由は頭を抱えた。

 

「違うのよ……。今回の私のデータ収集は、ヒュージだけが目的じゃないの。「レギオンに入っていない新人のリリィ達」のデータも取ってこいって言われてるのよ……史房様に。なんでも、ある程度の時間が経ってもレギオンに入らないリリィには、なるべく本人の力量にあったレギオンを紹介するんだとかなんとか……」

 

百由の言い分にも、やはりミリアムは納得しない。

 

「それこそ問題ないと思うんじゃが?流瑠様、今チャーム持ってきておらんし、別に怒っておるだけならデータ収集の邪魔にはならんじゃろ。取りに行くにしても、その前に夢結様辺りが倒しそうじゃし」

「……そう上手くはいかないのよねー」

 

百由は、未だに首を傾げているミリアムに、眼鏡をクイっと上げ直して言う。

 

「流瑠様の過去を教えたときに話したでしょ?流瑠様は       

 

 

 

 

 

 

 

ありと凡ゆるブーステッドスキルをその身に宿している、って」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「梨璃、この個体、レストアよ!手強い相手だから注意して!」

 

夢結はヒュージの修復された跡を見て、この個体がレストアだと結論付けた。梨璃の初陣にレストア個体が来るとは思っておらず、一度は梨璃を下げさせようかとも考えたが、「自分が守ればいい」と思いなおして警鐘に留める。

梨璃も、その意図が伝わったのか、「はい、お姉様!」と、少し下がり気味に構えている。

 

(まずは、外皮を剥ぐ!)

 

修復された跡を剥がすことで有効打を与えられる    そう予測した夢結は、ヒュージの外殻に無数に生える棘の一本に向けて、チャームを一閃した。

 

「……!?硬い……!」

 

しかし    その刃は、棘を折りきることができず、途中で止まる。

 

「……あれは」

 

その棘の傷口から、キラリと光るものが見えた。夢結は、それに見覚えがある。

 

宝石のように光るもの。

チャームの心臓部。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()     

 

(あれは、まさか)

 

 

「マギクリスタルコア……!?」

 

つまり、あの棘の中にあるのは       

 

 

 

 

「お姉様!危ない!」

 

棘の中身に気を取られて空白になっていた夢結の頭は、梨璃の声で急速に現実に戻ってくる。

 

夢結には直感的にわかった。()()()。後ろから爆弾が来ている。

しかし、今から振り向いたのでは間に合わない。一撃受けても仕方ないか     そう思った時、夢結の背後でドォン!と爆発音がする。

 

「や、やりましたぁ!」

「梨璃さん、よく当てました!流石ですわ!」

 

見ると、梨璃がこちらに向けて……いや、自分の後方に向けてシューティングモードのチャームを構えている。

 

夢結は、一度梨璃達の方へ降り立った。

 

「梨璃、今貴女が爆弾を狙撃したの?」

「はい!上手くいってよかったです!」

 

胸を張る梨璃に、夢結はフッと笑った。

 

「ありがとう梨璃……。助かったわ」

「……!はいっ!」

 

夢結から言われたお礼に目を輝かせる梨璃。

しかし、夢結は表情をすぐに引き締めた。

 

「……梨璃、楓さん。あのヒュージ……相当、覚悟しておいた方がいいわよ」

「た、たしかに強いですね」

「いえ、そうじゃないわ。……そうじゃないの」

 

煮え切らない夢結に、楓は首を傾げる。

 

「どういうことですの?」

「あのヒュージ……相当『喰ってる』わ」

 

苦虫を噛み潰したような夢結の言葉に、楓は目を見開く。一方、梨璃は「食って……?」とわかっていない様子だが。

 

 

「梨璃、いい機会よ。……あのヒュージの所業を曝け出してやるわ。よく見ておきなさい」

 

そう言うと、夢結はヒュージに向かって駆けていく。

 

「お姉様!?」

 

梨璃の驚く声もどこ吹く風、夢結は降り頻る爆弾の雨を華麗に回避しながら宙を舞う。

 

(あの外殻を破壊するには、普通のチャームでは火力が足りない……)

 

ならば、と夢結は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

轟音が響き、ヒュージのレストアされた外殻が破壊され、内部が白日の元に晒される。

そこには       

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夥しい数のチャームが突き刺さっていた。

 

グングニル、アステリオン、グラム、ブリューナク、布都御魂……その数、なんと八本。少なくとも八人のリリィが、このヒュージとの戦いで命を落としていることを物語っていた。

 

 

 

「あれって……」

「嘘でしょ?」

「こ、いつ……どれだけのリリィを……」

 

その場にいたリリィから、怒りと驚愕の声が漏れる。

 

「か、楓さん!どういうことですか!?」

「……チャームはリリィの命。それを手放す、ということは……どう言うことか、お分かりでしょう?梨璃さん」

「えっ……そ、そんな……」

 

多くのリリィがあのヒュージに殺された    その現実に、梨璃は震える。

 

 

 

 

「マジか……」

「あー、これは……ダメみたいね……」

 

一方、流瑠と一緒にいる百由、ミリアムも同じ光景を見ていた。

 

百由はチラリと、横にいる流瑠を……見なくても分かった。()()()()()()

流瑠は、ふらりふらりとチャームも持たずにヒュージに近づこうとしていた。

その表情からは、感情というものが抜け落ちている。

 

「る、流瑠様?チャームなしでは流石に危険では……」

「ぐろっぴ、いいのよ。……ああなった流瑠様は、もう止められない。他のリリィに撤退命令を出して。現場を片付けるわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐっ……うう……!?」

 

夢結は、ヒュージの上    夥しい数のチャームが並ぶ中で、頭を抱えていた。

 

覚悟はしていた、つもりだった。それでも、このチャームの群れが、あの時の光景と重なって自分を苛む。

 

『美鈴がヒュージに貫かれ、ルナティックトランサーを発動し    そして、自分のチャームが美鈴に突き刺さっている    

 

自分じゃないと、流瑠は言った。殺すはずはないと。それでも、どうしてもフラッシュバックしてしまう。

 

 

「うう……あああぁ!?」

 

頭が痛い。どうしようもなく。

いつの間にか、ルナティックトランサーを発動しかけていた。

 

こんな姿、梨璃には見せられない。私は、梨璃の理想のお姉様に     

 

 

「お姉様!!」

 

その声に、はっと顔を上げる。

 

「お姉様、大丈夫です!お姉様は殺してなんかいません!」

「梨、璃……」

 

梨璃は、いつの間にかヒュージの上まで上がってきていた。

 

「来ないで……見ないで……。私、梨璃の理想のシュッツエンゲルにならなくちゃいけないのに……」

「っ!そんなの、別にいいです!お姉様は、どんなことをしたって私の理想のお姉様です!」

 

梨璃の言葉に、夢結はイヤイヤと首を横に振る。

 

「梨璃、私、貴女を殺したくないの……。私のこんな訳の分からない力で、貴女を失いたくない……」

「お姉様は、大切な人を殺したりなんかしません!ルナティックトランサーを使ったって、それは変わりませんよ!美鈴様だって、殺したのはお姉様なんかじゃない!」

 

梨璃は蹲って髪の色を変えかけている夢結に近づき、いつかのようにふわりと抱きしめた。

 

「……それに、もしお姉様が私を殺そうとしたって……私、()()()()()()()()()()()()()()()()()。だって、自分を守れって、訓練をつけてくれたのはお姉様ですから」

 

梨璃のその言葉に、夢結は顔を上げる。

 

「梨璃……」

「大丈夫。大丈夫ですよ。私、絶対に生きてみせますから」

 

 

 

 

 

     そうだよ、夢結。夢結は殺してなんか無い。

悪いのは     全部ヒュージ(こいつら)だから」

 

 

突然聞こえた聞き慣れた声に、二人は振り向く。

そこには   チャームも持たずに、流瑠が立っていた。

 

「流瑠、お姉様……?」

「お姉ちゃん!?どうしてここに……」

 

二人の言葉に、流瑠からの返事はない。

変に思って流瑠の顔を覗いた梨璃は     ゾワリと総毛立った。

流瑠の顔には、まるで表情というものが存在していない。

 

(こんなお姉ちゃん、見たことない……)

 

「……梨璃、夢結を連れて下がって」

「え?で、でもお姉ちゃん、チャームも」

「いいから、下がって」

 

流瑠の冷たい言葉に、梨璃は困惑しながらも、夢結と共に離脱した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

流瑠は、ヒュージの背中に立つ一本のチャームを触った。

アステリオン。第二世代型のチャームだ。

 

「……これは、集華(しゅうか)ちゃんのチャーム……」

 

そのグリップ部分を手に持つと、一気に引き抜いた。突然の痛みに、ヒュージは悲鳴をあげる。

 

 

次に向かったのは、グングニルだ。

 

「これは束花(たばな)ちゃんのグングニル」

 

そして、次々とチャームを引き抜いていく。

 

 

纏李(てんり)ちゃんのブリューナク。厭安(あきあ)ちゃんの布都御魂。真千(まち)ちゃんの零式御笠。瀬恵奈(せえな)ちゃんのティルフィング。亞良多(あらた)ちゃんのグラム。鞠乃(まりの)ちゃんのネイリング      

 

 

全て引き抜き終わった流瑠は、それらを大切そうに抱きしめ、安全なところに避難させた。そして、その中から一つ、マギクリスタルコアを取り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ない」

 

 

 

流瑠は、ヒュージに向き直る。

その表情は、先ほどまでの無表情とは違う。

 

 

 

 

 

     さない」

 

 

 

 

 

ゆっくり、ゆっくりとヒュージに近づく。

既にミリアムによって他のリリィは退避を終えており、流瑠とヒュージの一対一の状況だ。

 

 

 

 

 

 

       るさない」

 

 

 

 

 

当然、他に狙うものの無くなったヒュージは、流瑠に向けて爆弾を放つ。

 

見ていた一年生からは「流瑠様!?」と悲鳴が上がるが     

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「絶対に、許さない」

 

 

流瑠は血のように真っ赤なチャームを携えて、激情に駆られた表情で、そこに立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……みんな、避難完了したわね?」

 

ミリアムと百由の呼びかけによってヒュージから退避した当番のリリィ達は、百由に集められていた。

 

「しましたけど……まだヒュージは健在ですよ。なぜ今退避を?」

 

尤もな疑問に、百由は頭を抱える。

 

「……流瑠様がヒュージにブチ切れちゃってね。あの人の巻き添えになるくらいなら、先に避難しといた方がいいかなって」

「お姉様が?チャームは持ってきていなかったはずですが……」

 

楓のその言葉に、百由は無言で流瑠の方を指さす。

皆が目を凝らして見ると、流瑠の手には、確かに血の色のような赤いチャームがあった。

 

「な……あれは?」

   『アルケミートレース』。血液を媒介にして、准チャームを作り出す()()()()()()()()()よ」

「あれが……ブーステッドスキル……」

 

戦慄するリリィ達に、百由は息を吐く。

目的とは違うが、流瑠の戦い方を見て彼女達も何か刺激を受けてくれるだろう     百由はそう計算した。

 

「よーく見といてね。貴重な流瑠様の戦闘シーンだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒュージは、流瑠に爆弾を放ち続ける。

しかし流瑠は……回避する様子すら一切なく、その全てを弾き、斬り伏せていく。

まだ、流瑠とヒュージとの距離は長い。ともすれば膠着とも言える状態に     流瑠は駆け出した。

 

ヒュージは近づく流瑠に焦って、より多くの爆弾を流瑠に向かわせる。

これは返しきれないだろう     そう思われたが、爆発は流瑠の目前で、壁に阻まれたかのように流瑠にダメージを与えることはなかった。

 

 

 

「あれは……」

「『マギリフレクター』。マギを使った防御ね。これもブーステッドスキルよ」

 

 

 

 

 

流瑠はさらに近づき、准チャームで攻撃を行う。

血液で作られたチャームは、たしかにヒュージにダメージを与えた。しかし……

 

(浅い……これじゃ埒があかない)

 

激情に駆られながらも、流瑠は冷静に思考する。

しかし、その思考は    突如打ち切られた。

 

 

「……もう、いいや。出し惜しみなんかしてやらない」

 

 

 

次の瞬間、ヒュージの頭上に、血液で八本のチャームが形成される。

その形はバラバラで、モデルが全く違うようだった。

 

「エンハンスメント、アルケミートレース」

 

形成された准チャーム達は、流瑠の手の動きと共に、ヒュージに向かって突き刺さっていった。

 

血で作られたアステリオン(集華)が、グングニル(束花)が、ブリューナク(纏李)が、布都御魂(厭安)が、零式御笠(真千)が、ティルフィング(瀬恵奈)が、グラム(亞良多)が、ネイリング(鞠乃)が。次々とヒュージの背に深く刺さる。

 

ヒュージはその攻撃に、ギャアアアアアアッと、悲鳴のような音を出した。

 

「……思い出した?クソヒュージ。そのチャームを突き立てた子達のことを。その時の痛みを。お前が殺した    私の可愛い妹達のことを!!」

 

 

 

 

 

 

 

「アルケミートレースって、あんなに何本も形成できるものなんですか?」

 

二水の疑問に、百由は首を振る。

 

「いいえ。アルケミートレースは、血液を媒介にして、准チャームを作るスキルなんだけど……本来は、一本作るのにクリスタルコアが1つ必要よ。多分……流瑠様は、エンハンスメントで無理やり強化して、それぞれのマギの制御に「フリーレン」を代用してるんだと思う」

「エンハンスメントはエンハンスメントで、サブスキルを強化するスキルだったと思うんですが」

 

その言葉に、百由は頷いた。

 

「よく知ってるわねー。その通りよ。だけど……流瑠様は現に、ブーステッドスキルを強化できてる。それが現実よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちゃんと思い出させてあげるよ……。エーテルボディ」

 

流瑠は、さらにスキルを発動させる。

すると、流瑠の隣に、一人の少女が現れた。

 

「この子、覚えてるでしょ?クソヒュージ」

 

 

 

 

 

 

 

「あれは    集華!?」

「集華って……転法輪(てぼり)集華(しゅうか)のこと!?でも、あの子は亡くなったはずじゃ……」

 

突然現れた少女に、梅や夢結は混乱する。

 

「流瑠様のスキルよ。『エーテルボディ』。瞬間的に実体を持った分身を作るスキルなんだけど……」

 

目を向けると、形成された転法輪集華は流瑠の隣に佇んでいる。

 

「……瞬間的?ずっといるけど……。っていうか分身じゃなくて別人だし」

 

これにも、百由はため息を吐くしかない。

 

「そうなのよねー……。なんであんなことができるのか、不思議で仕方ないんだけど    まあ流瑠様だし、しょうがないかなーって」

「そんな適当でいいの……?」

 

 

そうこう言っている間に、流瑠はエーテルボディで次々と分身……リリィ達を作り上げていく。

 

新稲(にいな)束花(たばな)

桃園(ももぞの)纏李(てんり)

三十木(みそぎ)厭安(あきあ)

津々良(つづら)真千(まち)

切封(きりふ)瀬恵奈(せえな)

小堆(こあくつ)亞良多(あらた)

硎屋(とぎや)鞠乃(まりの)

そして、転法輪(てぼり)集華(しゅうか)

 

夢結や梅たちが知らないリリィもいたが、その全員が既に亡くなった生徒である、と、顔認証でリリィを調べた二水は言った。

 

「お姉様、まさか……」

「あの子達全員、あのヒュージに殺されたリリィってこと!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……もう戦いから解放されたのに、呼び出してごめんね、みんな……」

 

流瑠は、作り上げた分身達に謝罪する。

分身達は何も言わなかったが、皆一様に、頷いたり笑ったり、流瑠の肩を叩いたり抱きついたりと、嬉しそうな様子だった。

 

「……ありがとう。もう一度だけ……力を貸して」

 

流瑠はアルケミートレースで、それぞれの生前のチャームを形成して渡していく。

分身達はそれを受け取り     意気揚々と、ヒュージに向き直った。構え方も、顔つきもそれぞれ全く違う。

そのどれもが、流瑠の分身とは思えない。まるで生前の行動を再現しているかのような立ち振る舞いだ。

 

     いくよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこからは、圧倒的だった。

流瑠を入れて九人……つまり、一つのレギオンと同じ人数となった流瑠達にそのヒュージが敵うはずもなく、どんどん破壊されていく。

ばら撒かれた爆弾は亞良多のゼノンパラドキサで全て破壊され、纏李のユーバーザインで気配を隠して全員がヒットアンドアウェイを繰り返す。

 

苦し紛れに身を捩ってリリィ達を振り払おうとするも、鞠乃のヘリオスフィアで守られ、そして目玉を集華のフェイズトランセンデンスで撃ち抜かれた。

 

 

そして、極め付けは       

 

 

 

「集華ちゃん!!()()()を!」

 

流瑠の声に頷いた集華の分身は、一発の弾を准チャームに装填する。

そしてそれを     ()()()()()()()()()

 

 

「あれ、まさか……」

「ノインヴェルト戦術!?」

 

驚くリリィ達の声をを肯定するかのように、集華の准チャームから放たれたマギスフィアは次々と繋がっていく。その速度は、今代アールヴヘイムに勝るとも劣らない。

 

集華から束花へ。

束花から纏李へ。

纏李から厭安へ。

厭安から真千へ。

真千から瀬恵奈へ。

瀬恵奈から亞良多へ。

亞良多から鞠乃へ。

 

そして、鞠乃から流瑠へ。

 

 

マギスフィアを受け取った流瑠は飛び上がり、ヒュージの眼前に躍り出る。

 

「みんなの想い……受け取ったよ」

 

そして、流瑠はそれをヒュージへと叩きつけ、別れを告げた。

 

 

 

 

    さよなら、みんな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……夢結達は知ってると思うけど。集華ちゃんはね、とっても頭がいい子で、難しい言葉ばっかり使って喋ってるような子だったの。将来は多くのリリィを導ける教官になるんだって言ってた」

 

 

ソメイヨシノの咲く、山の中腹。

そこに、百合ヶ丘女学院の英霊墓地がある。

 

流瑠達は、今回のヒュージから見つかったチャーム達を、ここに埋葬しに来ていた。

 

 

「束花ちゃんはね、人を笑わせるのが大好きだったんだ。束花ちゃんの近くは、自分も周りもいつも笑顔だった。凄く優しい子だったの」

 

 

流瑠は、チャーム一つ一つの埋葬を行いながら、誰に言うでもなく話す。

梨璃達は、それを黙って聞いていた。いや、何も言えなかったのだ。自分の大切な妹達を殺された流瑠の気持ちは、誰にも推し量ることはできない。

 

 

「纏李ちゃんはね、甘いものがだーいすきで、お菓子作りが趣味だったんだ。今度出る新作のチョコがーって、いっつも私を誘ってくれたの」

 

 

話している流瑠の目からは     大粒の涙がボロボロと溢れている。

それでも涙を拭いながら、流瑠は話を続ける。

 

 

「厭安ちゃんはね、工廠科の子で、いっつも変な道具ばっかり作って先輩に怒られてたの。

それでね、それで     

 

「もう十分ですわ!流瑠お姉様!もう……もういいんですの」

 

 

流瑠の痛々しい様子を見ていられなくなった楓は、流瑠を抱きしめて話を止める。

流瑠は楓を抱きしめ返すが、その口も、涙も止まらない。

 

 

「十分じゃないよぉ!まだ、まだいっぱいあるの!みんなとの思い出が、いっぱい!みんないい子だったの!まだ死んでいいような子達じゃなかったんだよぉ!」

 

「お姉様……」

 

 

流瑠は涙を溢れさせてイヤイヤと首を振る。

 

 

「守りたかった。なのに守れなかったの……。大好きなのに。愛してるのに。この子達も……美鈴も、私は守れなかった……」

 

 

 

泣きじゃくる流瑠を、背中から抱きしめたのは、梨璃だった。

 

「……お姉ちゃん。でもね、きっとみんな、ありがとうってお姉ちゃんに言ってると思うよ」

 

「え……?」

 

 

梨璃の予想外の言葉に、流瑠は困惑する。

 

 

「でも、私はみんなを守れなくて……」

 

「みんなは、()()()()()()()()()()()()()()()()()?私、多分違うと思うんだ。お姉ちゃんに認められたい。お姉ちゃんの隣にいたい。()()()()()()()()()()()()()()。多分、そう思ってたと思うよ。そうじゃなきゃ、さっきお姉ちゃんと一緒に戦う時に、あんなに嬉しそうにしてないよ」

 

「梨璃……」

 

 

梨璃の言葉に、流瑠は目を閉じる。

 

 

「それにね、あのヒュージがレストアになってたってことは、みんながあのヒュージを追い返したってことでしょ?それって、みんなはちゃんと誰かを守ったってことなんじゃないかな?」

 

 

そう言う梨璃に、流瑠は顔を上げた。涙は流れたままだが、その目には光が灯る。

 

 

「だからね、きっとみんな思ってるよ。

仇を取ってくれてありがとう。今まで一緒にいてくれてありがとう。最後に一緒に戦わせてくれてありがとう。

 

そして    忘れないでいてくれて、ありがとうって」

 

 

「そう、かな」

 

「そうだよ。……だからね、ちゃんとみんなのことを認めてあげなきゃ。みんなはお姉ちゃんに守られるだけじゃない     誰かを守ることができる、立派なリリィだったんだって」

 

 

その言葉で、流瑠は膝から崩れ落ちた。

 

 

「頑張ったね、みんな……ほんとに、ほんとにがんばったねぇ……」

 

 

流瑠の涙は土に吸い込まれていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ありがとう、私たちのために泣いてくれて。

私たちも大好きだよ、流瑠様』

 

そう、どこからか聞こえてきた気がした。

 

 

 




・転法輪 集華
てぼり しゅうか
頭がよく、難しい言葉ばかり使った喋り方が特徴。故人。アステリオンの子。
レアスキル・サブスキルはフェイズトランセンデンス、魔眼。

・新稲 束花
にいな たばな
人を笑わせるのが大好きなリリィ。故人。グングニルの子。
レアスキルはブレイブ。

・桃園 纏李
ももぞの てんり
甘いものが好きで、お菓子作りが趣味のリリィ。故人。ブリューナクの子。
レアスキルはユーバーザイン。

・三十木 厭安
みそぎ あきあ
戦うアーセナル。チャームの素材でチャーム以外の謎道具を作っては怒られていた。故人。布都御魂の子。
レアスキル・サブスキルはZ、Awakening。

・津々良 真千
つづら まち
剣術道場の娘で、第一世代型の近接チャームを好んで使った。礼儀作法に厳しいが他人よりも自分に厳しくするタイプで、責任感が強かった。故人。零式御笠の子。
レアスキルはこの世の理。

・切封 瀬恵奈
きりふ せえな
「美しく生き、美しく死ぬ」という独自の哲学を持っていた。最期は殿となり、ヒュージ数十体に囲まれた状態から仲間を全員逃した上で、その殆どのヒュージを道連れに、「最高に美しく」亡くなった。故人。ティルフィングの子。
レアスキルはレジスタ。

・小堆 亞良多
こあくつ あらた
ブーステッドリリィ。「〜っす!」という後輩口調が特徴。流瑠に憧れていた。故人。グラムの子。
レアスキル・ブーステッドスキルはゼノンパラドキサ、リジェネレーター等。

・硎屋 鞠乃
とぎや まりの
入学時に「とぎやま りの」と間違えられ、以降あだ名が「リノ」になっていた。恥ずかしがり屋だが一生懸命で、愛される性格だった。故人。ネイリングの子。
レアスキルはヘリオスフィア。





……はい。第三話は明るい話が多くなる、とかなんとか言ってたアホがいましたね。私ですけど。

言い訳させてもらうと、アニメでのこのヒュージ戦、数えられるだけで二十本以上のチャームが見つかってるんですよ。それが八本に減ったと思ってもらえれば……無理ですね。
これでも英霊墓地の石碑の数は減ってるんですよ?半分以上。いやほんとに。

集華ちゃん達は完全にオリキャラです。だってアニメの石碑の名前全然見えないんだもん……。そんな理由で死者を八人も作り上げるな?おっしゃる通りで。

あ、遅くなったけど神琳さんお誕生日おめでとうございます。

次回はアニメ四話ですね、やっと。
ついに一柳隊が作り始められます。どうなることやら……。

沢山のUA、感想、評価、お気に入り等、ありがとうございます!
まだまだ頑張ります!
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