アサルトリリィPRESERVED   作:(確信)

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百合が無いならガールズラブを見ればいいじゃない。
     ユリー・アントワネット



(今回はかなり濃ゆい百合描写があります。苦手な方は苦手ではなくなってください)


モモ その1

「……へ?梨璃にレギオンを?」

 

 

激戦の翌日、流瑠の部屋。

休日なので講義もない流瑠は、同じく暇な夢結に「少し話ができないかしら」と言われたので、夢結を自分の部屋に招いていた。

 

急な来客にも関わらず、流瑠は用意していたかのように紅茶とお菓子を出し、夢結を歓迎した。

流瑠の部屋を訪れるのが久しぶりだった夢結は、同じく久しぶりだった流瑠の作ったお菓子と紅茶、そして雑談を一頻り楽しんだ後、やっと要件を思い出して話しだした。

 

 

曰く、「最近梨璃が弛んでいるから、リリィとしての自覚を持たせるためにリリィらしいことをさせようと思った」。

 

曰く、「まだやってないリリィらしいこと=レギオン活動をすること」。

 

曰く、「なら失敗の経験も兼ねて梨璃に作らせようと思ったら、いつの間にか自分のレギオンを作ることになっていた。今は反省している」

 

ということらしい。

 

 

それを聞いて、夢結らしい、と流瑠は笑う。リリィとしての自覚とか、失敗の経験を、とか。そういう生真面目なところがまさに夢結の思考回路だ。

そう言うと、「梅にもそう言われたわ」と夢結は頬を膨らませて拗ねてしまった。

 

笑われてむくれる夢結も可愛らしかったが、”あの”夢結がせっかく悩みを打ち明けてくれたとあって、流瑠は楽しげに笑うのもそこそこに、真面目に相談に乗る。

 

「最初から失敗させるために何かをさせるのは、私はあんまり好きじゃないんだけど……まあ、夢結の言うこともわかるよ。梨璃、朝会った時もすっごいふにゃふにゃで可愛い顔してたし」

「そうなのよ……。可愛かったけれど、私も心を鬼にしないと、と思って。朝私とお茶をしていた時も、「ゆり様」って言われて喜んでいたし……」

「ああ、あの新聞の」

 

「ええ」と呆れ、夢結は紅茶をまた一口飲む。紅茶の良い香りが鼻腔を擽り、夢結の心を落ち着かせた。

 

「カップルネームって……初めて聞いたわよ、そんなの」

「あ、そうなの?前からあったよ、カップルネーム」

 

ニコニコしながら言う流瑠に、夢結はせっかくの良い香りを口からブッと吹き出してしまった。

 

「え?そ、そうなの?」

「うん。夢結と美鈴も「ゆゆみす」って呼ばれてたし」

 

なんでもないかのように出てきた自分のカップルネームに「そんなの……知らなかった……」と夢結は項垂れる。

そんな夢結の顔を見て、流瑠は今朝見た新聞の夢結の写真を思い出した。

 

「あの新聞の夢結、写真写り悪かったよねぇ。むすーっとした顔してさ」

「……新聞に使われるとは思ってなかったのよ」

 

顔を背けて苦しい言い訳する夢結に、流瑠はカラカラと笑う。

 

「わかっててもいい顔なんてしなかったでしょ?夢結、写真自体がそんなに好きじゃないし」

「………まあ、そうかもしれない、わね……」

 

流石によくわかっている、と夢結は流瑠の観察眼に舌を巻く。

流瑠の言う通り、夢結はそもそも写真というものがそこまで好きではない。恥ずかしいと言うか、誰に見られているかわからない感じがするというか。それ故、ワールドリリィグラフィックなどの取材が来ても、夢結は基本的に断っている。「綺麗なのに勿体ない」とは流瑠の弁だ。

そんな数少ない夢結の写った写真の一つが、この流瑠の部屋にあるノルン三人で撮った写真なのだが。

 

「まあ、夢結の写真写りは置いといて……もう梨璃、メンバー集めに行っちゃったんでしょ?」

「ええ、二水さんを連れていったわ」

「なら、もうあとは見守るしかないんじゃない?それに、二水ちゃんがいればレギオンに所属してる人に片っ端から声をかける、なんてことにはならないだろうし」

「……そうね」

 

楽観的に言う流瑠に、昨日の泣き腫らした時の顔はもう無い。

流瑠の明るい顔を見て、夢結はほっと息をついた。

 

 

 

実のところ、夢結が流瑠を話に誘ったのは、梨璃のことを相談するためだけではなかった。

 

昨日、ヒュージとの戦闘を終えた流瑠は、英霊墓地で泣きまくり、なんやかんやあって楓の部屋に泊まることになった。それまでの過程には夢結と楓、そして何故か入ってきた梨璃の熾烈な争いがあったのだが……それは置いておいて。

 

夢結達は、流瑠があそこまで怒りを露わにするのを初めて見た。

元々流瑠はヒュージを倒すことに依存する傾向があった、とは百由から聞いていたが、あそこまでヒュージに対して激怒したのは、相手がヒュージだったからというよりも、その犠牲者の数のせいだったのだろう、と夢結は推測している。

 

そもそも昨日の戦闘で、流瑠は「手を抜いていた」と言ってもいい。

ヒュージを倒すだけなら、自慢のスキル「フリーレン」で凍らせてしまえばいいのだ。それをしなかったのは、(ひとえ)に流瑠が復讐の念に囚われてしまっていたからだろう。あのエーテルボディ達の連続攻撃とノインヴェルトによる過剰火力(オーバーキル)は、ヒュージを(なぶ)っていた、と言っても過言では無い。

 

そんな昨日の流瑠の怒りと涙を見て、心が弱ってしまっているのでは無いか……そう心配した夢結は、世間話から始めて、流瑠がどんな精神状態なのかを確認しようと思っていたのだ。

 

 

とはいえ、今の流瑠は昨日の涙など無かったかのように明るく振る舞っている。きっと、楓がうまくやってくれたのだろう。不本意だが。

心配しすぎたか、と夢結は胸を撫で下ろした。

 

 

「……夢結、私を心配して話しかけてくれたんでしょ?」

 

流瑠がそんなことを言い出したのは、夢結がそう考えていた時だった。狙ったようなタイミングにギョッとした夢結は、「な、なんで……」と声に出してしまう。

そんな夢結を見て、流瑠は穏やかに笑った。

 

「わかるよ。だって私、夢結のこと大好きだからね」

「……なによ、それ」

 

理由になっていない理由に、夢結も笑ってしまう。

穏やかに笑った流瑠は、一転して申し訳なさそうな顔になって夢結に頭を下げた。

 

 

「……昨日はごめんね。私、まだまだ未熟だった。あんなに怒りが抑えられなくなるなんて。梨璃も怖がらせちゃって、その上慰められちゃった……。お姉ちゃん失格だよね……」

「お姉様……」

 

顔を上げた流瑠の目はしかし、確かに希望の光を湛えていた。

 

「たしかに、亡くなったみんなのことは悲しいよ。でも、そればっかり見てて今生きてるみんなを救えないのは……もっと嫌だ。そんなことになったら、それこそみんなに顔向けできなくなっちゃう。

 

……あの後、楓に言われたことを思い出したんだ。

みんな、いつ死ぬかわからない中で決死の覚悟で戦ってる。だから、私が背負うべきなのはその人の命じゃなくて、『遺志』なんだ、って。そして、死を悼みはしても、それで前に進めなくなってしまえば、それこそみんなへの侮辱になるんだって」

 

「……そうね。私も、昨日はまだきっと、心に迷いがあった。その迷いを断ち切ってくれたのは、梨璃よ。梨璃が、「絶対に死なない」って言ってくれたから、私、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。あんなこと初めてだったわ」

 

互いの独白に、互いが頷く。

間違いなく、流瑠と夢結の心は今、一つになっていた。

 

 

「もっと強くなろうね、夢結」

「もっと強くなりましょう、お姉様」

 

「「大切なものを、守れるように」」

 

 

決意を固めた二人は笑い合う。

今よりももっと強く。心も、身体も。

重なり合った思いが、二人の止まっていた二年間という時間を、また一つ埋めたような気がした。

 

 

 

 

「……ところでお姉様。昨晩は楓さんの部屋で何を?」

「それは……ちょっと恥ずかしくて言えない、かなぁ」

「本当に何をしたの、お姉様!?ことと次第によっては私が楓さんをアレして、私がお姉様を      !」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アサルトリリィPRESERVED

第四話 モモ

Peach

I am your captive

   あなたの虜になる心

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……二水ちゃん、レギオンのメンバー集めって大変なんだね」

「ふぅ……はぁ……いや、さっきのはそうじゃないんですけど……」

 

 

一方、夢結と別れた梨璃と二水は、夢結に言い渡されたレギオンのメンバー集めに四苦八苦していた。

 

最初に声をかけた安藤鶴紗(あんどうさづさ)には怖い顔で凄まれ、六角汐里(ろっかくしおり)は既に別レギオンのメンバーで、再度会った鶴紗は猫と猫語で話しているのを見かけてしまい、気まずくなって逃げてきたという次第である。

 

走ったせいで肩で息をしている二人に、「あら?一柳さん」と声が掛けられた。

 

「貴女達、レギオンのメンバーを集めてるそうね」

「は、はい!あ、壱さん、樟美さん!ごきげんよう!

そういえば、レギオンの昇格、おめでとうございます!この前のパーティの時はちゃんと挨拶できなかったので……」

 

梨璃達に声をかけてきたのは、梨璃と二水のクラスメイト、田中壱と江川樟美だ。

梨璃からの祝いの言葉に「ありがとう」と満更でも無さそうに笑顔になる壱の後ろから、「ごきげんよう」と、樟美からも返事がある。

そして、さらにその樟美の後ろから、もう一つ顔が出てきた。

 

「ごきげんよう、梨璃。今日はお姉様はいないのかしら?」

「あ、亜羅椰さん!ごきげんよう!今はお姉ちゃんは一緒じゃ無いですけど……」

 

遠藤亜羅椰。初日に梨璃を襲いかけた問題児だが、今は梨璃ともそれなりに打ち解けている。

 

「お姉ちゃん……?お姉様と梨璃は姉妹だったの!?」

「い、いえ。流瑠様から「お姉ちゃん」って呼んで欲しいって言われて……」

 

その言葉に、亜羅椰は愕然とする。

 

「そ、それはもう実質、シュッツエンゲルなんじゃ……!?」

「そう言えば一柳さん、夢結様とシュッツエンゲルになれたんだよね?おめでとう」

「あ、ありがとうございます、樟美さん!」

「はっ!そうだったわ。よかった……」

 

一度は崩れ落ちそうになった亜羅椰だったが、樟美の言葉で何とか耐えた。

元気……というかハイテンションが取り柄の亜羅椰だが、今日はテンションが低い様子だった。いつもの自信家な顔は、今はなりを潜めている。

 

「だ、大丈夫ですか?亜羅椰さん。なんか今日は元気がないような……」

 

梨璃の心配に、亜羅椰は俯いていた顔をあげる。

 

「……なんだか最近、お姉様とイチャイチャできていないような気がして……」

「イチャイチャて。あんだけ毎日訓練してもらっておいてよく言うわねほんと」

「本当ですわ。毎日毎日、よくもまあ飽きずにお姉様に挑めますわね?」

 

亜羅椰らしくないネガティブな発言に、いつの間にか来ていた天葉と楓も話に加わる。「いや、楓も毎日お姉様と訓練してるでしょ」と亜羅椰は楓に反論するも、楓は都合の悪い言葉を耳に入れようとしない。二人は、流瑠との訓練を通してすっかり悪友のようになっていた。

 

「それで?レギオンメンバー、見つかったの?」

 

壱の言葉に、梨璃は首を横に振った。朝から探し始めて数時間。全く成果の出ない現状に、梨璃は項垂れる。

 

「いえ、それがまだ……」

「レギオン?何の話ですの?」

 

噂を聞いていなかったのか、楓は首をかしげた。

 

「梨璃さんがレギオンを作るって話よ、楓さん。貴女はどこのレギオンに入るの?ウチなら歓迎するけど」

 

天葉が事情を教えるついでにさりげなく勧誘するが、楓は髪をファサッと靡かせて笑った。

 

「ご冗談を。アールヴヘイムはわたくしとウマが合いそうにありませんわ。しかし、梨璃さんがレギオンを……。わたくしもいくつかのレギオンから誘いは頂いていますが、中々面白そうですわね」

 

楓は、梨璃をじっと見つめる。その視線に、梨璃は少し身をすくめたが、思い切って切り出した。

 

「か、楓さん!私たちのレギオンに入りませんか!?」

 

梨璃の必死の言葉に、「そうくるだろうな」と思っていた楓は、自分が入るレギオンについて思考する。

 

(わたくしが声をかけられたレギオン……いくつかありますが、アールヴヘイムやヴィーンゴールヴとはウマが合いそうにありませんし、ブリュンヒルデラインやシュヴァルツグレイルはお堅すぎますし、ゲイラヴォルやヘルフィヨトルはなんだかパッとしませんし。

残るはエイルかローエングリンくらいですが……梨璃さんの作るレギオン。これは面白そうではありますわね。それに、わたくしに声を掛けたレギオンのスカウトの中で、梨璃さんが一番可愛いですし)

 

エイル、ローエングリン。どちらも一流のレギオンだが、自分はそのどちらでも活躍できると言う自信がある。だが……楓は最終的に、自分の好奇心と性癖に従うことにしたのであった。

 

「……いいですわ。貴女のレギオンに入りましょう、梨璃さん。これからよろしくお願いしますわね」

 

楓の色良い返事に、梨璃も二水も感激する。レギオンのメンバーを集め始めて数時間、初の勧誘成功に、梨璃と二水はハイタッチをかました。

 

「は、はい!改めて、よろしくお願いします!」

 

パァッと咲く梨璃の笑顔。それは楓が理想として求める、「可愛らしい女の子」の要素全てを凝縮したような逸品だった。

それを自分の言葉が生み出した   そんな倒錯的とも言える自己陶酔に浸った楓は、気分良く梨璃と腕を組んだ。良くも悪くも、自分の欲望に正直なのだ。

 

「ではいきましょうか。アールヴヘイムの皆様、ごきげんよう」

「ご、ごきげんよう!」

「ごきげんよう〜」

 

 

 

 

 

 

「……振られちゃいましたね、天葉姉様」

「ま、確かにウマは合いそうにないものね。仕方ないわ」

 

三人が去っていった後、樟美の口をついて出た言葉に、天葉は肩を竦める。

その横で、壱は、不思議そうに首を傾げていた。

 

「……でも、なんで楓ヌーベルみたいな凄腕が、あんなド素人と?あれだけの使い手なら引く手数多でしょうに」

「私は少しわかる気がするわ。梨璃は面白い子よ」

 

短い間ではあったが、亜羅椰は梨璃と関わって、梨璃の不思議な魅力を高く買っていた。珍しく性癖を考慮しない亜羅椰の高評価に、天葉は目を細めた。

 

「へぇ……亜羅椰がそう言うなら、ちょっと注目しといてもいいかもね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それで、何で足湯なんですか?」

 

アールヴヘイムと別れた三人は、楓の提案で、足湯に来ていた。

両足をちゃぷんとつけると、じんわりと暖かさが伝わってきて心地良い。

 

三人が一通り足湯を堪能した頃に、梨璃は楓に足湯に来た理由を尋ねた。

 

「そうですわね。これからどういうプランで勧誘するかという相談をしたいというのと……あと、流瑠お姉様がここに来る気がしたからですわ!」

「まあ楓さんはさておいて……取り敢えず楓さんゲットですね」

 

「ちょっと!もう少しわたくしの言葉に反応するとかないんですの!?というか反応薄すぎません!?」と不満が爆発する楓に、「だって何か変なこと言ってるから……」と二水は取り合わない。

 

「ま、まあまあ。私は楓さんが入ってくれてとっても嬉しいよ!これで四人だね!」

「え、三人じゃないですか?」

 

梨璃の「四人」と言う言葉に疑問を持った二水に、梨璃と楓は顔を見合わせる。

 

「夢結様、梨璃さん、楓さん……」

「二水ちゃんは?」

 

自分を勘定に入れていない二水の頬を、梨璃はぷにっと押した。

 

「わ、私もですか!?」

 

二水の言葉に「うんうん」と頷く梨璃を、楓が援護射撃する。

 

「貴女だって卑しくも、百合ヶ丘のリリィでしょうに」

 

名高いリリィである楓からの言葉に、二水は目尻に涙を溜めるほど感激した。

常人から見れば「そこまで嬉しがることか?」とも思えるが、それがリリィオタクたる二水のなせる技なのだろう。

 

「〜〜〜〜っ!光栄です!幸せです!私が、綺羅星の如きリリィの皆さんと同じレギオンに入れるなんて!」

 

「あと五人だよ、頑張ろうね!」と喜び合う二人を尻目に、楓は悪戯っぽく笑った。

 

「ちびっ子げ〜っと、っと」

 

 

 

 

 

 

     あれ?梨璃に楓に二水ちゃん!珍しいね」

 

暫く勧誘プランを話し合っていた三人に、入り口から聞き覚えのある声が響いた。

 

「お、お姉ちゃん!?」

「本当に来た   !?」

「ほら、ほら!わたくしの言った通りだったでしょう!?」

 

そこにいたのは、先程楓が「来る気がする」と言っていた流瑠だった。

流瑠は、思っていた反応と違ったのか、三人の様子に首を傾げる。

 

「……?どうしたの?」

「いえ、楓さんが「流瑠様がここに来る気がする」って言ってて……」

 

「そうなの?」と流瑠は微笑みながら、自分も梨璃達の向かいの足湯に浸かった。

そして、夢結の時と同じように、三人に頭を下げる。

 

「昨日はごめんね、三人とも。私、怒りで我を失っちゃって……。特に梨璃は怖かったよね?」

 

流瑠の謝罪に、三人とも「いえいえ!」と首をブンブン横に振る。

 

「お姉ちゃんの気持ち、わかりますから……」

「そうですわ、お姉様。それに、わたくしは昨日散々聞きましたもの」

「流瑠様!昨日の戦い、凄かったです!勉強になりました!」

「みんな……」

 

後輩達の優しい言葉に、流瑠はジーンとして目を閉じる。どうやら足湯以上に、梨璃達の言葉が流瑠の身体に染み渡っているようだった。

 

「ありがとね。梨璃達、レギオンを作るんでしょ?私も応援するよ」

「ありがとうございます!あ、じゃあ、お姉ちゃんが入ってくれたりとか……」

「そうですわ!お姉様が入ってくだされば百人力    

 

梨璃と楓の期待の眼差しに、流瑠は申し訳なさそうに首を横に振った。

 

「それは、ごめんね。私は自分のレギオンがあるから……」

 

その言葉に、二水はメモ帳をパラパラとめくって疑問を呈した。

 

「え?流瑠様、レギオンには入っていないはずじゃ……」

「あー……私のレギオン、ランドグリーズっていうんだけど、一般には非公開なんだ。百合ヶ丘以外で知ってるのは、国連や一部の企業の上、あとは外部のガーデンくらいかな」

「一般に非公開のレギオン……そんなものが存在しますの?」

 

楓は流瑠の言に、胡乱げな顔をする。

楓にとって、というか世間一般にとって、リリィやレギオンの情報は公開されているものだし、公開されて然るべきものだ。こんなリリィがこういう活動をしている、と理解することで、一般の人たちは納得し、応援してくれる。そういうものだ、と楓は理解していた。

しかし、流瑠の頭はまたしても横に振られる。

 

「あるんだよねぇ、これが。世間一般にバレると批判殺到する特務を行うレギオンだったり、他のガーデンや企業を出し抜くための秘密のレギオンだったり。色々めんどくさいんだよ」

 

「それで、入学前にどれだけ調べても流瑠様のレギオンの情報が無かったんですね〜」と二水は納得したように頷いた。

しかし、楓は未だ納得していない様子で眉根を下げている。

 

「お姉様が、そういう仕事をしているということですの?お姉様のことですから、悪いことではないと思いはしますが……」

「うーん、そうだねー……。世間から見ればイヤだけど、私たちからすれば必要なこと、ってところかなぁ」

 

「というと?」と続きを促す楓に、「まあ言ってもいいかー」と流瑠は足をチャプチャプと遊ばせながら答えた。

 

「ヒュージの捕獲だよ。しかも特型ギガント級以上の」

「ヒュージの……捕獲?」

 

あまり聞かない言葉に、梨璃は首を捻る。

「そうだよ」と流瑠は楓の隣に移動してきて、「隣、座るね?」と再び足をお湯に浸けた。

 

「マギは、ヒュージが発生してから人類に齎されたものだっていうのは知ってるよね?つまり、人類がマギを扱えるようになったのは、ヒュージを研究したからなんだよ。ヒュージの研究には、ヒュージ本体が必要だよね?だから、ヒュージの研究はイコールとして、マギの研究にもなるわけだよ」

「それはわかりますが……捕獲ということは、生きているヒュージが必要なのでしょう?それは何故ですの?」

 

うーん、と流瑠は少し考えるそぶりを見せる。

 

「私はヒュージ研究者じゃないから細かいことは知らないけど……多分、生きてる時と死んだ後で違う反応が出たりするんじゃない?

あ、あと……ブーステッドスキルの研究にも、多分使われてると思うなー」

 

 

     ブーステッドスキル。その言葉で、昨日の流瑠の戦闘が脳裏に蘇ってくる。

敵の攻撃を弾くマギリフレクター。准チャームを血液から形成するアルケミートレース。分身を作り出すエーテルボディ。どれも強力無比な力だ。

 

そもそも、基本的に一人のリリィが獲得できるスキルには限りがあり、天性の才能によってその殆どが決まる。特に「レアスキル」は一人一つで、「サブスキル」と呼ばれるレアスキルの七割程度の出力のスキルも、一部のリリィを除いて三個も四個も持っているわけではない。ブーステッドスキルには、そういったリリィ間の格差を埋めるという側面がないとも言えず、自分からその力を求めてG.E.H.E.N.Aに行く者がいるのも事実だ。

 

強力な力を、()()()()獲得できる。確かに、力を求める者からすれば魅力的なのだろう。しかし     

 

「……ブーステッドスキルは、その力と引き換えに、施術後の後遺症や施術自体にかなりの苦痛が伴う、と聞いたことがあります」

 

二水から出された情報に、流瑠は神妙に頷いた。

 

「そうだね……。オススメできるものではないかな。というか、自分からブーステッドリリィになりに行くなんて、私はして欲しくない。そんな物なくても、みんな立派なリリィなんだから……」

 

 

流瑠はそう言い、目を伏せる。が、少しの後、空気を入れ替えるかのようにパンと手を打ち合わせ、明るい表情を作った。

 

「ごめんね!暗い話になっちゃった。ともあれ、私は梨璃のレギオンには入れないから……うん。こうやって応援するくらいしかできないかな」

 

流瑠は足湯に浸かったままの梨璃を後ろからギュッと抱きしめた。

 

「わ、わっ!?」

「昨日は慰めてくれてありがとね、梨璃。私はいつでも梨璃の味方だから、困ったらなんでも相談して。梨璃のためならなんでもやってあげるよ」

「お姉ちゃん……ありがとうございます!」

 

流瑠からの応援にはにかむ梨璃の横で、楓は「なんでも!?」と鼻息を荒くした。

 

「お、お姉様?わたくしも昨日はお泊まりとかでほら、慰めたりしましたし。なんでもやっていただけるということなら、色々やっていただきたいことが     

「うん、いいよ」

 

流瑠からの即答に、楓の口からは「へ?」と変な声が漏れる。

 

「え、いいんですの?」

「もちろん!楓にはいつもお世話になってるし……私、楓のこと好きだしね。私にできることなら何だってやるよ」

 

楓としてはいつもの冗談というか、また断られるつもりで言った要望に、予想だにしていなかった色良い返事をされてしまい困惑した

困惑はパニックになり、楓の中の「お姉様にやってほしいことリスト」が頭の中をグルグルと駆け巡る。

 

「あああのえっと、アレとかソレとかナニとか色々……あーもう決めきれませんわ!」

「ゆっくりでいいよー。私は逃げないからね。……あ、シュッツエンゲルは自分で勝ち取ってね」

 

そう言いながらも梨璃を後ろから抱きしめるのを止めない流瑠は、その体勢のまま、梨璃の顔の横に自分の顔を持ってきた。

 

 

「それからね……梨璃。これは、昨日のお礼」

 

 

 

そう言って流瑠は     梨璃の唇にキスを落とした。

 

 

 

「…………………………はぇ?」

 

 

 

「夢結より先にやっちゃったー」と頬を赤らめて笑う流瑠は、恥ずかしさを誤魔化すようにさらにギュッと梨璃を抱きしめる。その側では、楓が放心状態で口を開けたまま固まっており、二水は鼻血を流しながら「あわわわわ……」とパニクっていた。

 

何をされたのか理解できていなかった梨璃は、段々と流瑠にキスされたことを理解しはじめて顔が赤くなっていく。

 

「お、お、お姉ちゃん……?なんで、き、キスを……?」

「んー?昨日慰めて貰った時に……こう、キュンキュンしちゃってねー。梨璃のこと、もっと好きになっちゃったんだ。

……愛してるよ、梨璃」

 

耳元で囁かれる優しい声が梨璃の脳内で反響し、ぐわんぐわんと梨璃の認識を揺らす。

 

(愛してる……お姉ちゃんが、私のこと……?私も、お姉ちゃんのこと大好きで……で、でも、お姉ちゃんも私も女の子だし)

 

そんな葛藤を見抜いてか、流瑠はもう一度梨璃の耳元で「愛してる」と囁き、耳を甘噛みする。

芯までじんわりと響く声と耳元のこそばゆい暖かさに、梨璃の思考は()()()しまった。初めて感じる耳からの感覚に、「あっ、んっ……」と、梨璃の口からは今まで誰も聞いたことのない艶っぽい声が出る。

 

 

「ね、梨璃は私のこと好き?」

「す、すき、ですけど……私もお姉ちゃんも女の子で……」

「女の子が女の子を好きになっちゃダメなの?」

 

梨璃の言葉を遮り、流瑠はシラウオのようなしなやかな指を、ツツーっと梨璃の首筋に這わせる。首筋にゾクゾクッとした感覚が走り、梨璃は「ひゃんっ!」と嬌声を上げた。

その反応に気を良くして、「梨璃かわいい」「すき」「だいすき」「愛してる」と耳元で囁きながら、流瑠はピチャピチャと梨璃の耳を舌で愛撫する。梨璃の耳の中は、流瑠から与えられる甘い毒のような言葉と、流瑠の愛撫の音や吐息の音だけで満たされていった。

 

「やっ、あっ、あんっ……ダメ、です、お姉ちゃっ」

「かわいいよ、梨璃。梨璃のかわいい顔、もっと見たいな」

 

断続的に与えられる感覚に耐えながら、梨璃は流瑠の顔を見る。そこにあったのは、楓がたまに見せるような欲望に染まった顔……()()()()

流瑠の表情は、どこまでも優しさと慈しみに満ち溢れた、清らかな顔だ。

 

(あ……あれ……?私、何をダメって思ったんだろ……)

 

悪いこともダメなことも、何一つ無い。そう安心させるかのような穏やかな顔に、梨璃の身体からは力が抜け、流瑠に身を預けてしまう。

ボーッとする頭の中、甘い言葉の毒は梨璃の心をドロドロに溶かし、耳や首筋に与えられる刺激は梨璃の身体をビクビクと反応させて止まない。

耳への愛撫を一通り終えた流瑠の舌はさらに、梨璃の耳の内側に入り込もうとする。流瑠の舌が耳珠(じじゅ)をなぜると、一際強い感覚が梨璃の身体を襲う。

 

「あっあっ、お姉ちゃ、そこ、気持ちぃ     

 

 

 

 

「ちょっちょちょ、ちょ、ちょちょっと!?ななな何をしてますのお姉様!?」

 

と、そこで石のように固まってしまっていた楓が復活した。

流瑠は楓の慌てように、心底不思議そうに首を傾げた。耳から口を離された梨璃は、「あっ……」と残念そうな声を出す。

 

「何って……私の愛を伝えてたんだよ?」

「それはわかりますけどやり方の問題ですわ!なんか……なんか破廉恥!破廉恥ですわよ!!」

 

「えー、私えっちなことなんてしてないよー」と不満そうに口を尖らせる流瑠に、「だまらっしゃいお姉様!」と楓は説教を食らわせた。

顔を真っ赤にした楓に、流瑠は何かを察したように両手をポンと打つ。

 

 

「あ!もしかして楓もやって欲しいの?いいよー!さっきなんでもやってあげるって言ったしねー」

「「え?」」

 

流瑠の言葉に、楓と梨璃の声が重なった。

 

「え?やってあげる?って、さっき梨璃さんにやってたことをですの?」

「そうだよー」

 

楓の混乱気味でありながらどこか嬉しそうな聞き方に、流瑠は快活に答える。

しかし梨璃の中には、困惑と、なぜかモヤモヤとした感情が湧き上がっていた。

 

「え?あ、あの、さっきのって、その、私だけになんじゃ……」

 

何故モヤモヤするのか、梨璃にはわからない。そもそも、楓は自分よりも流瑠と仲が良かったのだ。自分が流瑠にされて、楓がされないことなんて無いだろう、と理解している。

しかし、さっき自分が流瑠にされたこと……「愛してる」と囁かれ、耳を舐められて、心も身体も溶かされる。それを楓もやって貰う、と想像した時、梨璃の心の中は、謎のモヤモヤでいっぱいになった。

 

何を根拠に「自分だけがしてもらえる」などと言っているのか、自分でもわからない。わからないが、それを他の人もしてもらう、ということを考えただけで、梨璃は居ても立っても居られない気持ちになったのだ。

 

そんな梨璃の反応を見て……流瑠は、目を輝かせた。

 

 

「もしかして、梨璃……()()()()()()()()!?」

「焼い……?な、何をですか?」

「そりゃあお餅だよ!ヤキモチ!」

 

「や、ヤキモチ!?」と梨璃は驚いた。何せ、これまで梨璃は憧れることや怒ることはあっても、嫉妬をしたことは一度も無かったのだ。自分の中に初めて生まれた感情に、梨璃は困惑を深める。

流瑠はそんな絶賛困惑中の梨璃に、「じゃあじゃあ、これからする質問に正直に答えてね」とウキウキした様子で声をかけた。

 

「梨璃は、さっき私が梨璃にやったことを楓にもやったら、嫌だと思う?」

「えっと、その……はい……」

「梨璃は、私がさっきやったことを、梨璃以外にはしないって約束したら、嬉しい?」

「………………はい」

 

梨璃の答えを聞いて、流瑠はさらに嬉しそうに頷いた。

 

「そっか……そっかそっかー!しょうがないな〜!じゃあ約束するよ。さっきのは、()()も含めて、梨璃以外には誰にもしない。アレは梨璃のためだけの『大好き』ってことにするね!」

「つ、続き……私のためだけ……!」

 

そのワードに、梨璃の喉がゴクリと鳴る。その顔は、滲み出る嬉しさを隠しきれていない。

流瑠はそれを見届けると、楓に向き直った。

 

「そういうわけだから、ごめんね楓。さっきのはできなくなっちゃった。他の楓専用の『大好き』をやってあげるから、それで許してね」

 

謝ると同時に埋め合わせも語る流瑠に、楓も「そういうことなら……」と頷くしか無い。

 

 

 

 

 

散々場を引っ掻き回した流瑠は、「じゃあそろそろ行こうかなー」とマイペースに足湯から出る。

三人に別れを告げて出て行こうとする途中、「あ、これを言おうと思ってたんだった」と振り返った。

 

「明後日、夢結の誕生日だよ。どこかで場所を借りてパーティするから、何かプレゼント買っといてあげてねー」

「え?お姉様の……誕生日!?」

「……なん、ですの……?」

 

ここにきての初耳情報。情報の洪水に、梨璃と楓は倒れ込んだ。

新しく芽生えた感情。お姉ちゃんへの思慕。心地よい声と身体。そして敬愛するお姉様の誕生日。この数分間で体験したものや得た情報があまりにも濃すぎて、梨璃は目眩を起こしてしまいそうだった。

 

その横には、鼻血を出しすぎてぶっ倒れた二水がいる。血の海に沈んだその顔は、なんとも幸せそうだ。まるで、尊いものでも見たかのように。

 

 

台風のように通り過ぎていった流瑠の犠牲になったリリィ達が床に転がり、足湯場は死屍累々の様相を呈していた。

 

 

 




・流瑠様
全部素でやってる。罪悪感どころか、いけないことをしていると言う感覚すら無い。ただただ、「梨璃の可愛い顔を見るため」だけにやっているあたりが完全にやべーやつ。はっちゃけ始めた。

・梨璃ちゃん
被害者1号。流瑠様に弄ばれた可哀想な子。でも流瑠様の愛には嘘偽りは一切無いので反論すらできない。

・楓さん
被害者2号。描写はされていないが、昨晩は流瑠様を慰めながら同じベッドで寝た。割といい思いをしている。

・二水ちゃん
被害者3号。興奮のしすぎで血の海に沈んだ。アニメ五話で梨璃と楓のやりとりに鼻血を出していたので、割と紅巴ちゃんと同じ感性の持ち主かもしれない。

・夢結様
被害者0号。梨璃を寝取られそうになっている、ように見える。まあ梨璃にとって夢結様と流瑠様は全くの別枠扱いなので、寝取る寝取られるみたいなのは特に無いのだが。流瑠も流瑠で、夢結も梨璃も両方とも愛しているので、割と問題ないな!本人以外は。



はい。正直ちょっとやりすぎたかなとは思ってます。

次回、やっと神琳さん達を勧誘。

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