アサルトリリィPRESERVED   作:(確信)

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百合の匂い染み付いて  むせる



(梨璃ちゃん、覚醒)



モモ その2

「………あの、梨璃さん?大丈夫?」

 

 

百合ヶ丘女学院、一年生の寮舎。

その一室には、梨璃を心配そうに気遣う声が響く。

 

「…………え?あ、うん。大丈夫だよ、閑さん」

 

閑の気遣いに梨璃は答えるが、その表情はどこか上の空だ。

 

あの足湯での一件の後、梨璃達はそのまま解散して寮に帰ってきた。

どうやって帰ったのかは、正直覚えていない。流瑠にされたことがあまりにも衝撃的すぎて、帰ってくる最中もそればかり考えていて記憶が飛んでいた。

 

 

 

      「衝撃」。流瑠に足湯場でされたことは、それ以外に形容のしようがなかった。

 

梨璃にとって、「好き」「愛している」という感情は、そこまで身近なものとは言えなかった。

家族。友人。確かに、自分はみんなが好きだったし、愛していたと言えるだろう。しかし、それを面と向かって言うことなんて無かったし、伝えることを積極的にしていたかと言われると怪しい。梨璃の周囲も同じだった。

 

そんな中、流瑠という存在は梨璃にとって「異端」であった。

誰にでもすぐに抱きつき、好きだと言い、愛していると囁く。その言葉に嘘偽りなど全く無く、ただストレートに思いを伝える。

そんな流瑠の言葉や行動に     梨璃はどこか惹かれていたし、嬉しいと感じていた。

 

好意を向けられて嬉しいと感じるのは、全くおかしい情動では無い。

しかし、梨璃は自分が今感じている感情は、そういうありふれたものとはまた違う気がしていた。

 

 

『女の子が女の子を好きになっちゃダメなの?』

 

 

今日もう何度目かわからない、流瑠の言葉が脳裏を過ぎる。あの言葉を思い出す度、梨璃の心臓はドクドクと早鐘を打ち、顔が赤くなるのを自覚した。

この感情がわからない。ドキドキして、顔が熱くなって、お姉ちゃんのことが頭から離れなくなる。

流瑠が好きと言ってくれるように、自分も流瑠のことは好きだ。でも、わからない。その「好き」がどんな意味なのか。

 

 

「梨璃さん?本当に大丈夫?顔が真っ赤よ」

「……はぇ?」

 

自分の思考に浸っていると、いつの間にかルームメイトの伊藤閑が、梨璃の目の前にいた。

心配した顔の閑は、梨璃のおでこに自分のおでこをくっつける。

 

「あっ……」

「熱は……無いみたいだけれど。何かあったの?さっきからずっと悩んでいるんでしょう?」

 

梨璃は少し悩んだ後、ルームメイトの優しい言葉に甘えることにした。

 

 

「……えっとね、閑さん。女の子が女の子を好きになるのって、おかしいことなのかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なるほど、流瑠様にね。あの人にも困ったものね……」

 

閑は梨璃の一部始終を聞いて、流瑠の奔放さに頭を抱えた。

 

閑は中等部から百合ヶ丘に通っていたため、流瑠のことをよく知っている。

流瑠は、文字通り「全てのリリィを愛している」。というよりも、「リリィ」という存在そのものを愛していると言っても過言ではない。

だから、基本的にリリィであれば誰にでも流瑠は愛を捧げるし、抱きつく。その行動のせいで多くのリリィが勘違いの被害に遭って玉砕してきた。かく言う閑も、その被害に遭いかけた一人であるのだが。

 

……だが、そんな流瑠にも例外があった。それが流瑠の唯一のシルトである川添美鈴と、ノルンであった夢結だ。二人と一緒にいる時の流瑠は、他のリリィ達と接する時よりももっと濃く、深い繋がりを求めていたように見えた。

 

(もしかしたら、梨璃さんは流瑠様にとって「特別」な存在になりかけているのかも……)

 

流瑠が、梨璃の何に惹かれたのかはわからない。しかし、梨璃の語ったように流瑠がそこまで過剰なスキンシップを取ったということは、かつての美鈴や夢結のように、流瑠にとって梨璃が「例外」になりつつあるのではないか、と閑は考えた。

 

それを踏まえて、閑はこの悩めるルームメイトの相談に乗ることにした。

 

 

「一つずつ、丁寧に(ほど)いていきましょうか……。梨璃さん。梨璃さんは、流瑠様のことが好きなの?」

「ふぇっ!?ああああのその、好きって言うか、お姉ちゃんのことを考えてるとドキドキするっていうか、なんていうか……」

「じゃあ、貴女の家族は?」

「……え?家族?」

 

突然出てきた「家族」というワードに、梨璃は首を傾げる。

 

「お母さんもお父さんも、弟も好きですけど……なんで?」

「流瑠様に対する気持ちと、家族に対する気持ち。貴女の中のその違いは何?」

「お姉ちゃんに対する気持ちと、家族に対する気持ちの違い……」

 

梨璃は暫く「うーんうーん」と唸った後、どうにか自分の心を言葉にする。

 

「私の家族は、いっつも私のこと心配してくれて……どこにでもあるような家庭だけど、いい家族だと思う。

お姉ちゃんは、優しくて、大事にしてくれて、あったかくて……ドキドキするのに、一緒にいると安心して……。

私、家族もお姉ちゃんも、どっちも大好きです」

「………はぁ」

「ため息!?し、閑さん!?」

 

「どっちも大好き」と来た。これは流瑠様レベルに厄介かもしれないぞ、と閑はまたしても頭を抱える。

どうやら、梨璃に恋愛の経験はないらしい。それどころか、自分の感情に名前をつけることができず、「家族愛」と「恋愛」を区別できていないのだ。

こうなれば、もうドストレートに感情の名前を教えるしか、梨璃がこの迷宮から出る方法は無さそうだと閑は判断した。

 

 

 

「梨璃さん、よく聞いて。貴女は流瑠様に     恋をしているのよ」

 

 

          

 

 

閑からのカミングアウトに梨璃は固まり、顔を真っ赤に染めて激しく動揺した。

 

「こ、こっこ、こ、恋!?や、やだなー閑さん。あは、あはははは………。

私もお姉ちゃんも、女の子ですよ?女の子同士で恋なんて……。そ、それに、もし恋だったとしても、そんなの叶うわけ      あ、あれ?」

 

 

「叶うわけがない」。そう言おうとした梨璃の頬を、涙が伝っていく。

女の子同士の恋なんて成立しない。自分の恋は叶わない。そう考える度に、梨璃の目からは涙が流れていく。

 

「あれ?あれ?とまんない……ぐすっ、止まんないよぉ……」

 

閑は、涙を拭い続ける梨璃の肩を抱いた。

 

「梨璃さん。リリィという存在はね、とても不安定なの。まだ精神も成熟していない、十代の普通の女の子。本当なら、遊んでいたっておかしくないわ。でも、私たちは戦場に立っている。……リリィの気持ちを本当に理解して寄り添うことができるのは、同じリリィだけなのよ」

「理解して、寄り添う……?」

 

止め処なく涙を流しながら聞き返す梨璃に、閑は頷く。

 

「リリィの心には、大きな負担がかかっているわ。リリィでない人には決して分からない、そんな負担が常に、ね。だから、リリィは同じリリィに依存する傾向があるわ。というよりも、依存する対象を見つけることによって、リリィの精神は安定するの。

その依存が恋愛に発展して、リリィ同士で恋愛することも、ここ(百合ヶ丘)ではよくあることよ。恋愛関係のような深い絆を(よすが)とすることで精神を保つ。相手を好きだと思い、相手に好きだと言われることで、安心感や聖域(アジール)を得る。それを、私は間違ったことだとは思わないわ」

 

「アジールって……ぐすっ。確か、何者にも侵されることのない常世、でしたっけ……?」

 

「ええ。オアシスと言い換えてもいいかもしれないわね。

……梨璃さん。貴女は自分の感情が、女の子同士の恋愛が「間違っている」と思っているかもしれないけれど、私はそうは思わないわ。だって………今貴女が流瑠様を思って流している涙は、とっても綺麗だもの」

 

そう言って、閑は梨璃の涙を指先で掬い取り     ペロッと舌先で舐めた。

 

「ふぇっ……?し、閑さん!?」

「ふふ。可愛いわね、梨璃さん。たしかに、流瑠様が惚れ込むのもわかる気がするわ」

「かわっ!?」

 

閑は梨璃をベッドに押し倒し、梨璃に覆い被さるような形になった。梨璃の眼前に、閑の整った顔が迫る。綺麗でイタズラっぽい閑の顔に、梨璃は一瞬ドキッとしてしまった。

 

「梨璃さん。もし私が、「貴女のことが好きです」って言ったら、梨璃さんは嫌かしら?」

「えぇ!?い、嫌ではないです、けど……ほ、本気ですか?」

「ふふっ、冗談よ。………今は、ね

 

クスクスと笑いながら、閑は梨璃の上から離れる。

 

「大丈夫よ。貴女の感情は間違いなんかじゃないわ。もう一度言うわね。『梨璃さんは流瑠様に、恋をしてるのよ』。……その涙が、何よりの証拠でしょう?」

「あっ……」

「女の子を好きになったっていいの。だって、私たちは普通の人間じゃない。……リリィなんだから」

 

 

「女の子同士の恋は成立しない」。「自分の恋は叶わない」。そう思った時の、何とも言い難い喪失感、虚無感、そして悲しみ。それが、梨璃に涙を流させた。

 

お姉ちゃんと一緒にいると安心して、ドキドキしてるのに、ポカポカとあったかくなる。お姉ちゃんのことを考えると、切なくて、苦しくて、胸がキュッとなる。お姉ちゃんが誰かに「愛してる」って言うと、モヤモヤしてしまう。

 

 

「ああ、そっか、私……」

 

閑の言葉を否定できない。否定する理由もない。

自分は、梨璃は、もうどうしようもないほど      

 

 

「お姉ちゃんに、恋しちゃってるんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、梨璃さん。今日は一緒に上で寝てみない?」

「え、一緒に?じゃあ……せっかくだから、お邪魔します」

 

自分の心と向き合ってスッキリした顔になった梨璃。

そんな梨璃を、閑は自分の領域    二段ベッドの上段に誘った。

 

「わ、わ……上のベッドってこんな感じなんだ」

 

初めて二段ベッドに登った梨璃は、キョロキョロと周りを見渡す。それを見て、閑は楽しそうな笑顔を見せた。

 

複雑な家庭環境に生まれた閑は、自分の領域に人を招いたことはほとんどない。それを、「梨璃ならばいいか」と思ったのは、自分が梨璃に少しずつ心を許している証左なのだろうか、それとも     

 

そうこう思っている間に、梨璃の目は枕元にある閑の本に向かう。梨璃が見たこともないような難しそうなタイトルがそこには並んでいた。

 

「これ、閑さんの本ですか?」

「ええ。寝る前に少しずつ読むようにしてるの。梨璃さんも読んでみる?」

「あ、あはは……。じゃあ、ちょっとだけ……」

 

 

同じベッドで、同じ布団に包まり、おしゃべりをしながら一緒に本を読む。閑にとっても梨璃にとっても初めての体験だったが、二人は不思議と心が安らぐ時間を過ごすことができた。

そのうち、梨璃はうつらうつらと船を漕ぎ始めた。

 

「梨璃さん、眠い?そろそろ寝ましょうか」

「んぅ……だ、大丈夫です。閑さんとお話するの、楽しくって……。もうちょっと、お話を……」

 

目を擦る梨璃に、閑は本を閉じ、優しく語りかけた。

 

「……大丈夫よ。私たちはルームメイトなんだから、これからいくらでも、こうやって一緒にお話できるわ。……梨璃さんも疲れたでしょう?今日はこれくらいで寝ましょう。ね?」

 

閑の安心させるような穏やかな声に、梨璃は「ふぁい……」とだけ返事して、スヤスヤと寝息を立て始めた。

心地良さそうで無防備なその姿を見て、閑は微笑む。梨璃が自分を信頼してくれているという事実を、閑は嬉しいと感じていた。

 

 

「……本当に可愛いわね、梨璃さん。レギオンを作ろうとしていなければ、戦力を無視してでも私のレギオンに誘ったかもしれないのに……。流瑠様も罪作りな人ね。こんな可愛い子を泣かせるなんて」

 

 

 

「人の上に立つべく育てられた存在」。他人は、閑のことをそう評する。

事実、閑は複雑な家庭環境の中、「司令塔」となるべく厳しい訓練を積まされ、勉学も哲学から帝王学まであらゆるものを詰め込まされてきた。

友達と遊ぶ、どころか、閑には友達と呼べる人間は殆どいなかったと言っても良い。そんなものを作る暇があるなら勉強しろ、と散々言われて育ってきた。

 

そんな中で、閑にとって梨璃という存在はとても貴重だった。

自分を警戒もせず、言動になんの裏も打算も無く、会って数日なのに無防備な姿を晒すほど信頼してくれている。

笑った顔は花が咲いたような愛嬌があり、見ていると自分まで笑顔になってしまう。

最初は、チャームと一緒に寝る変な子、という印象だったが、今では梨璃がルームメイトで良かったと、閑は自分の幸運に心の底から感謝していた。

 

閑は自覚する。間違いなく、自分は梨璃に惹かれている、と。

さっきは冗談だと言ったが、梨璃を押し倒して言った言葉も、半分くらいは本気だ。

 

 

「梨璃さんは流瑠様と夢結様が大好きみたいだから、今は手を出さないけれど……あんまり二人が梨璃さんを待たせるようなら、私が先に()()()()()かもしれないわね?」

 

「おやすみなさい、梨璃さん」と、閑は愉快そうに……そして(いと)しそうに、梨璃の片腕を抱きしめて眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「昨日はごめんね、梨璃……」

 

「えっ?ど、どうしたんですかお姉ちゃん!?」

 

 

翌朝。梨璃はラウンジにて、珍しくどんよりした顔の流瑠から、開口一番に謝罪を受けていた。

 

事情を聞くと、どうやらあの後、正気を取り戻した楓から

 

 

お姉様は梨璃さんの気持ち(このままでは梨璃さんまでわたくしの)を考えていますの(ライバルになってしまいますわ)!?』

 

相手が何をされたらどう(わたくしはこんなに貴女の)思うかもっと考えて(ことが好きなのですから)

誠実に人と向き合うべきですわ(わたくしだけ見ていてください)!!』

 

 

と、しこたま怒られたらしい。

 

「い、いえ、私は別に……」

「梨璃さん。この謝罪、是非受け取ってくださいまし。お姉様と言えど、流石に昨日のはやりすぎですわ」

 

「気にしていない」と言おうとする梨璃を遮って、楓はケジメだと言わんばかりに厳しい口調で流瑠を非難する。

普段流瑠を「お姉様」と慕う楓の、滅多に見せることのない厳しい視線に、梨璃も「わ、わかりました……」と受け入れる他ない。

 

 

「あ!でも、私お姉ちゃんのおかげで、大事なことに気付けたんです!」

 

「大事なこと?」と首を傾げる流瑠に、梨璃はぎゅっと抱きついてはにかんだ。

 

 

「女の子が女の子を好きになってもいいってことです。

……大好きです、お姉ちゃん。お慕いしてます」

 

梨璃は、まるで熱に浮かされた恋する乙女のような顔で流瑠に告白する。

流瑠はその言葉に     珍しく、顔を紅潮させた。

 

「お慕い……え、えへへ。なんか、梨璃にそう言われると凄く嬉しいな……」

「ちょっ、ちょっと待ってください梨璃さん!?」

 

流瑠のそんな様子に危機感を覚えた楓は、抱きついたまま段々と顔を近づけていく二人の間に咄嗟に割り込んで引き離した。

 

(まずい……まずいまずいまずいですわ!お姉様のあんな顔、初めて見ましたわよ!?わたくしのプロポーズにもあんな顔はされませんでしたのに!)

 

別に、楓は梨璃を嫌っているわけでも、憎く思っているわけでもない。どころか、楓は頑張り屋な梨璃を好ましく思っている。

しかし、流瑠を取り合う相手になるのであれば話は別だ。友人であろうが手加減はできない。

 

(昨日の様子からしても、お姉様は梨璃さんにかなり入れ込んでいますわ。お姉様が梨璃さんに向ける感情は、他のリリィへのそれとは違う……。どちらかと言えば、仲直りした夢結様に向けているものに近いですわね)

 

 

楓は、ここ数日流瑠と一緒にいて、気づいたことがあった。

 

流瑠は基本的に、愛を「与える」側でしかない。全てのリリィを愛し、その愛を振り撒くのが普段の流瑠の行いだ。そこに相手からどう思われているかはあまり関係無く、流瑠にどんな態度を向けるリリィであっても、流瑠にとっては同じく愛の対象である。

 

 

しかし、夢結と梨璃。この二人だけは違った。

 

流瑠と夢結が仲直りした翌日、約束をすっぽかした夢結に、流瑠はこう言った。

 

『私、不安だったんだから……また夢結に嫌われちゃったんじゃないかって……』

 

そして、昨日は梨璃にこうも言った。

 

『ね、梨璃は私のこと好き?』

『もしかして、梨璃……妬いてくれてるの!?』

 

何気ない言葉だったが、流瑠は夢結と梨璃に対しては、「相手に自分がどう思われているか」を気にしていた。

 

(夢結様と梨璃さん。お二人はお姉様にとって、何かしら特別な存在なのかも知れません。……しかし、お姉様自身はまだ自覚していない様子。ならばまだわたくしにも希望はありますわ!)

 

 

「梨璃さん、貴女は     

 

梨璃の肩を掴んで梨璃の真意を確認しようとした楓に、

 

 

 

梨璃はいつの間にか懐に入ってキスをした。

 

 

 

 

            へ?」

 

 

全く予想していなかった梨璃の行動に、楓の頭は真っ白になる。

 

 

       な、な」

「私、楓さんのことも好きです!なんでもできて、カッコよくて……なのに私なんかのことを好きでいてくれる楓さんが、大好きです!」

「何を言って何をやってますの、貴女は!?」

 

動揺して真っ赤になる楓に、梨璃は堂々と告白する。

そんな梨璃に対し、楓は怒号を飛ばした。

 

「あ、貴女は自分が何をやっているのかお分かりになってますか!?梨璃さん!貴女はお姉様のことが好きなのでしょう!?」

 

楓の怒りの声に、梨璃は不思議そうに首を傾げる。

 

 

「……?女の子が女の子を好きになってもいいんだから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

      はい?貴女は何をおっしゃっていますの?」

 

 

楓は梨璃の意味不明な理論に、気絶しそうになるのを必死に耐えながら口を動かした。

 

「貴女はお姉様が好きなのではなかったのですか?あと貴女は夢結様というお姉様もいましたわよね?」

 

楓の確認するような声に、梨璃は「はい!」と元気に答えた。

 

「私、お姉ちゃんもお姉様も楓さんも、みんな大好きです!みんな愛してます!みんなに恋してます!みんなのことを考えたら胸が苦しくなって、きゅんってして、みんなと一緒にいたいって思うんです!さっき楓さんとキスした時も、私とっても嬉しかったです!」

 

梨璃の言葉に、楓は自分の常識が揺らぐような気がしてクラクラした。

しかし、そんな頭でも自分の中に残った理性と倫理観が、楓に正気を保たせる。

 

「……そ、そんなの、許されませんわ!そもそも、わたくしはそんな尻軽ではなくってよ、梨璃さん!?」

「そ、それじゃあ、私のことは嫌い……ですか?」

 

ウルウルと目を潤ませる梨璃に、楓は一歩足を引いてしまう。

 

「き、嫌いじゃありませんけれど……」

「楓さんよく私の顔を見てますけど、たまに私のお尻とか胸とか、その、えっちな目で見てるから、てっきり私のこと好きなのかと……」

 

 

顔を赤らめる梨璃に、「うぐっ」と楓は言葉を詰まらせる。

バレていた。梨璃はどこか自分に鈍感なところがあるから、気付かれないと思っていたのに。

 

正直に言って、梨璃は楓の「可愛い女の子が好き」という性癖にドンピシャな容姿をしている。確かに、楓は流瑠のことが大好きだが、性癖に合致しているという意味では梨璃の方が上だ。

性格も、少しドジで頑張り屋で、楓の理想とする「可愛い女の子像」にピッタリと言えるだろう。そんな梨璃を楓が目で追っていたことは事実だし、浴場で梨璃の肢体を見てムラッと来たのも一度や二度ではない。

そんな子に「大好きだ」と言われてキスまでされて、嬉しくないわけがない。

 

しかし、それでも楓は流瑠のことが好きだし、梨璃と流瑠で比べれば流瑠に天秤が傾く。

ここで梨璃の誘いに乗ることは、流瑠に対して失礼だし、楓自身は自分は誠実な人間であると自覚しているが、梨璃にも流瑠にも節操なしだと思われたくない。

故に楓は、この場でキッチリと梨璃の誘いを断ろうとした。

 

 

「で、ですがわたくしには、流瑠お姉様という心に決めた人がいるのです。先ほども言いましたが、わたくしはそこまで尻軽な女では……」

「楓、梨璃のこと好きなんでしょ?それは悪いことじゃないと思うよ?」

 

しかし、ここで口を出したのが、静観していた流瑠であった。

 

「お、お姉様?何を……」

「もし私のことを気にしてるなら、気にしなくていいよ。楓が私のこと好きでいてくれてるのはよくわかってるから。楓は、私のことも、梨璃のことも好き。それじゃダメなの?」

「お姉様までそんな……」

 

 

「それにね」と流瑠は、楓を梨璃もろとも抱きしめて続けた。

 

「私、楓のことも梨璃のことも、夢結や美鈴と同じくらい大好きだよ。そうじゃなきゃ、昨日みたいに「何でもしてあげる」なんて言わないよ。

覚えてるでしょ?楓が、誰よりも先に、私を孤独から救ってくれたの。『どんな手を使っても一緒にいる』って言ってくれた。私の居場所を作ってくれた。

梨璃は……なんて言うんだろうなぁ。私、梨璃には初めて、「運命」を感じたって言うか。梨璃と一緒にいると、美鈴といた時みたいに安心するんだ。

 

だから、私は二人のこと大好き。二人とも愛してる。梨璃も楓のこと好きだし、楓も梨璃のこと好きなんでしょ?なら、ずっと一緒にいようよ。夢結も梨璃も楓も、ずっと一緒にいてくれなきゃやだよ。ね?ダメかな?」

 

「お姉様……」

 

 

再度正直に言うが。楓にとって、この状況はかなり都合がいい。

愛しのお姉様との関係を続けながら、梨璃とも良い関係になれる。夢結というオマケもついてはくるが……楓はよく夢結と言い合いをするものの、別に嫌っているわけではない。むしろ気が合って趣味も合う相手であり、二人でいると話が弾んだりもする。仲が悪いわけではないのだ。

 

しかし、楓は躊躇する。こんな都合のいいことがあるだろうか?

そもそも、こう言う関係はやはり一対一で成り立つものなのではないだろうか?

 

 

 

 

     あら?お姉様に梨璃に楓さん。ごきげんよう。何を話しているのかしら?」

 

 

悩む楓の前に、救世主が現れたのはその時だった。

 

「あ、お姉様!」

「夢結様!?」

 

楓達の前に現れたのは、夢結だ。

梨璃は夢結を見つけると一目散に駆けていって、夢結に抱きついた。

 

「お姉様〜!お待ちしてました!」

「り、梨璃?今日は一段と元気ね。どうかしたの?」

 

驚く夢結に、梨璃は楓にやったように懐に入ってキスをする。

 

「んっ……り、梨璃?本当にどうしたの?」

「私、わかったんです!お姉様のことも、お姉ちゃんのことも、楓さんのことも、大好きなんだって!愛してます、お姉様!」

 

抱きつきながら宣言する梨璃に、夢結は「え?」と声を上げた。

その夢結の様子に、楓は希望を見出す。

 

「ゆ、夢結様!やはりそういう、恋愛的な関係は、一対一でやるべきですわよね!?ね!!?」

 

しかし夢結は、あろうことか、楓からすれば堂々と浮気発言をするに等しいことをしている梨璃をギュッと抱きしめ、「ありがとう、私も梨璃が好きよ」と返した。

そして、その体勢のまま、楓の方へ顔を向けた。

 

「楓さん。どうしてそう思うのかしら?」

「え?ど、どうしてって……」

 

夢結にそんな言葉を返されると思っていなかった楓は、戸惑って言葉を切ってしまう。

言葉が続かない楓に、夢結は嗜めるように言う。

 

「確かに、一般的な恋愛関係はそうでしょうね。一対一で、(みさお)を立てることが尊ばれる。でも、ここ(百合ヶ丘)ではそうでない場合もあるわ」

「そうは言っても、ここの方たちもみんな一対一で    

 

そう言いかけて、楓は「ん?そうでもないぞ?」と思い始めた。

 

 

 

シュッツエンゲルは、確かに特別な関係だ。一度その関係になれば、二人が二人の間で何をしようと基本的に突っ込まれることはない。

しかし、百合ヶ丘女学院はそれだけでなく、「ノルン」を作ることを推奨している。つまり、三姉妹の形成だ。

 

それだけではない。

寮におけるルームメイト。楓は学院側に無理を言って一人寮に住んでいるため気付きにくかったが、百合ヶ丘は基本的に、寮に一人暮らし、という形を許さない。つまり、ルームメイトが必要なのだ。しかも、通常の寮は同学年でしかルームメイトにならない。

これがどういうことかというと、「シュッツエンゲル同士で同室になることは、よっぽどの例外でないとありえない」ということだ。

 

百合ヶ丘が本当にシュッツエンゲルやノルンを作ることだけを推奨するならば、別学年でルームメイトにした方がきっかけを作りやすいだろう。ならばなぜ、同学年でのみルームメイトになれるようにしているのか。

 

 

「……わかったかしら?つまり、百合ヶ丘は『一人のリリィが複数のリリィと関係を持つことを推奨している』のよ」

「んなっ……!」

 

衝撃の答えに、楓は愕然とした。

よりにもよって学院側が、言い方は悪いがハーレムを推奨している?冗談にしても(たち)が悪い。

 

「で、ですがそれは、マギ交感*1の意図でしかないのでは?」

「本当にマギ交感の意味合いだけで、こんなことをすると思う?それならシュッツエンゲルを一人作って同室にすれば、それで事足りるでしょう」

 

たしかに、と楓は夢結の反論に頷くしかない。

 

「リリィの精神の安定が戦力に直結することは貴女も知っているでしょう?つまり百合ヶ丘は、主に戦力の安定化のために、リリィ個人個人に複数の依存先を作ろうとしているのよ。……もちろん、義務ではないから、したくない人はしないでしょうけれどね」

 

夢結はそう言って締める。

圧倒的に、反論の余地もない答えだ。百合ヶ丘女学院は、リリィ達にハーレムを作ることを推奨している。戦力の安定化という理由はあるが、それは事実だ。

 

「……夢結様は、それでいいのですか?貴女の愛する梨璃さんもお姉様も、貴女だけでなく、わたくしとも一緒にいたい、と言っているのですわよ?」

 

楓の確かめるような疑問に、夢結は目を閉じた。

 

「……そうね。お姉様にしても梨璃にしても、私だけ居ればいい、と言ってくれないのは、少し悔しくはあるわね。

でも、梨璃だって学年が上がればシルトを持つようになるかもしれない。それは貴女も同じでしょう、楓さん?

それに……私、貴女のことは割と好きよ。楓さんは私のこと、嫌いかしら?」

 

少し頬を赤らめる夢結に、楓は言葉を詰まらせる。

 

「そ、そりゃ……嫌いではない、ですけれど……」

「なら、別にいいんじゃないかしら?誰でも直ぐに好きになってしまうような軽い人間ではないと、さっき自分で言っていたと思うけれど?」

 

楓の味方をしてくれると思った夢結は、楓の思惑とは全く逆の立場を取った。

梨璃も流瑠も、楓のことが好きだと言って憚らない。

 

 

「………ふ、ふふふ……」

 

もはや、楓からは笑いしか出てこない。

あまりにも自分に都合がいい事実ばかりだ。学園ぐるみでハーレム推奨?自分が好きだと思う人が、みんな自分のことが好き?

 

 

 

     どんとこいだ。

 

 

「いいでしょう……。ええ、いいでしょう!お姉様も梨璃さんもついでに夢結様も!わたくしが纏めて面倒みてあげますわ!グランギニョルの力を全て使っても!

言っておきますけれど、わたくしの愛は重いですわよ?簡単には離してなんてあげませんから     覚悟してくださいましね?」

 

 

      幸福。

楓は今、リリィになってから一番の幸福感を感じていた。

 

 

流瑠と梨璃。自分はいつか、どちらかを諦めなければならない日が来るだろうと思っていた。いつか、どちらかと決別する時が来るだろうと思っていた。

 

でも     そんなことをしなくてもいい。自分は、好きな人を好きなままでいていいのだと、肯定してもらったのだ。こんなに幸せなことがあるだろうか。こんなに幸せなことがあっていいのだろうか。

楓は、涙が出るほど、この喜びを噛み締めた。

 

 

「こっちこそ、約束は守ってもらうよ、楓?どんな手を使っても、一緒にいてもらうんだから。……愛してるよ、楓」

 

そう言って優しくキスをする流瑠に、楓の目からはさらに涙が出てくる。

楓は涙を拭い去って、大好きな人を抱きしめた。

 

     はい、もちろんですわ!」

 

 

 

*1
リリィが別のリリィとマギのやりとりをすることによって、負のマギと呼ばれる有害なマギを除去すること




・流瑠様、楓さん、梨璃ちゃん、夢結様
もはや何も語るまい。

・閑さん
なんか不穏なことを言い始めた。しずりりもいいぞ。






ごめん神琳さん、レギオンに誘えなかった……。あ、鶴紗さんお誕生日おめでとうございます。
というかレギオンの話がびっくりするほど進んでないっすね。

今回も人を選ぶ話になってしまいましたね……。
今回でとりあえず、この話の方向性というかそういうのをはっきりさせておこうかと。
言ってしまえばポリアモリー的恋愛観(複数人による全員の同意を得た上での恋愛関係)なわけですが、だからといって非排他的であるわけではない、という複雑な関係ですね。言ってしまえば複数人による共依存関係なわけです。

ノルンを作ることを推奨してる(公式設定)百合ヶ丘女学院と、あとG.E.H.E.N.Aがすべて悪いんです!この設定のせいで百合ヶ丘が若干退廃的になってしまったとしても私は悪くねぇ!……はい、私が悪いです。ごめんなさい。

たくさんのUA、お気に入り、感想、評価など、ありがとうございます!
これからも頑張ります!
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